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発注アプリの効果は時間短縮どこまで?公的実証と取引先条件から見積もる方法

◆監修・編集責任者 小園 将隆 

B2B EC-COLUMN

この記事のポイント

  • 公的実証では、取引先と受発注データをつないだ中小企業の受発注業務時間が平均51.4%減ったが、特定アプリの効果でも工程別の内訳でもない。
  • EDIは1社だけの導入では効果が出ないため、短縮はアプリで注文を受けられる取引先の範囲で見積もる。
  • 発注を6工程に分け、作業時間と待ち時間を別に測ると、アプリで減りうる転記と確認の往復を見分けられる。
  • 導入・定着の負担と短縮は組み合わせて相殺率を出せないため、自社の数字で別々に置く。
  • 少数の取引先と定番品で試し、工程別の時間・問い合わせの往復回数・入力の訂正回数を導入前と比べる。

Businessman working in a retro office with vintage computer and decor.
▽ 写真の出典元

発注に時間を取られる原因は、工程ごとに分けて見ると絞れる

電話で品番を読み上げ、FAXが届いたかを確かめ、納期の返事を待ってから台帳へ書き写す。
この発注の手間は毎日続きますが、アプリに替えてどの作業がどれだけ減るのかが分からなければ、導入は決めにくいものです。
公的な実証では、取引先と受発注データをつないだ中小企業で、受発注業務時間が平均51.4%減りました1。
ただしこれは取引先とつながった場合の結果で、特定のアプリの効果ではありません。
自社の発注を工程に分けて時間を測り、アプリで注文を受けられる取引先に絞って小さく試すと、自社でどこまで短縮できるかを確かめられます。

品目確認から記録までの6工程

発注にかかる時間と一口に言っても、その中身はいくつもの作業の積み重ねです。
ここでは発注する側の担当者の動きに沿って、品目確認、数量入力、送信、受注側の確認、納期回答、記録の6工程に分けて考えます。
この分け方は公的な資料の分類ではなく、自社の時間を測りやすくするための整理です。

品目確認は、在庫や現場からの依頼を見て、何を発注するかを決める段階です。
数量入力は、決めた品目と数量を注文書の様式やExcelの表、電話で伝えるためのメモに落とし込む作業を指します。
送信は、FAXを送る、メールに添付する、電話で読み上げるといった、注文を相手に届ける行為です。

残りの3工程は、注文を出したあとの時間です。
受注側の確認は、取引先が注文内容を読み取り、不明点があれば問い合わせてくる段階で、発注者側から見れば返事を待つ時間や、問い合わせに答える時間になります。
納期回答は、いつ届くかの返事を受け取り、社内の依頼者へ伝える工程です。
記録は、発注台帳や在庫の表、会計へ回す資料に、出した注文と回答を書き写す作業です。

工程に分けると、時間の性質が二種類あることにも気づきます。
一つは担当者が手を動かしている作業時間で、数量入力や記録への転記がこれに当たります。
もう一つは、FAXの返事や納期の連絡を待っている時間です。
締め時間に間に合わないという悩みは、作業時間そのものより、待ち時間や問い合わせの往復から生まれていることがあり、両者を分けて見ないと、アプリに何を期待すべきかがぼやけます。

電話・FAX・Excelで時間が出やすい場面

電話での発注は、送信と受注側の確認が同時に起きます。
品番や数量を読み上げ、相手が聞き取って復唱し、食い違いがあれば言い直すため、品目数が多い注文ほど通話は長くなります。
相手の担当者が不在なら折り返しを待つことになり、そのあいだ発注者側の手が止まります。
通話の内容はその場で書き留めないと残らないので、記録の工程で台帳へ書き起こす手間も加わります。

FAXは書面が残る点で電話より確かですが、手書きや印刷した注文書を送ったあと、届いたかを電話で確かめる往復が生まれやすい手段です。
受注側が文字を読み違えたり、書式の欄が足りなかったりすると、問い合わせが返ってきます。
受注側が届いたFAXを自社の受注システムへ打ち直している場合、その転記で起きた誤りが、納期回答や納品の段階で発注者側へ戻ってくることもあります。

Excelで注文書を作ってメールで送る場合、入力そのものは速くても、同じ品目を毎回探して打つこと、送信前に前回の注文と見比べること、送ったファイルの内容を台帳へもう一度転記することに時間が取られがちです。
手段を問わず共通するのは、同じ注文の内容を、発注者と受注者がそれぞれ何度も書き写し、そのたびに確認している点です。

納期回答の工程も見落とされやすい部分です。
取引先からの回答が電話やFAXで戻ってくると、発注担当者はそれを読み取り、社内の依頼者へ伝え、台帳の該当行に書き足します。
回答が来ない注文を追いかけるために、発注した一覧を見直して取引先へ催促する時間も、この工程に含めて考えておくと実態に近くなります。

発注アプリに置き換えたときに変わる可能性があるのは、主にこの書き写しと確認の部分です。
注文がデータのまま相手へ届き、回答も同じ画面で受け取れるなら、送信後の着信確認や台帳への転記は減る余地があります。
一方、何をいくつ発注するかを決める品目確認は担当者の判断が中心なので、アプリに替えただけでは大きく変わらないと見ておくのが無理のない前提です。
どの工程がどれだけ減るかは、一般的な数値で置き換えにくく、自社で測って確かめる部分になります。

工程 電話・FAX・Excelで時間が出やすい場面 アプリで変わりうる点
品目確認 在庫や依頼を見て発注品を決める 判断が中心で大きくは変わらない前提
数量入力 毎回品目を探して打つ・メモに書く 注文の作り方しだいで転記が減る余地
送信 読み上げ・FAX送信・着信確認の電話 データで届けば着信確認が減る余地
受注側の確認 聞き取りや読み違いによる問い合わせ 受注側で打ち直さなければ問い合わせが減る余地
納期回答 電話やFAXで返事を待つ・催促する 同じ画面で回答を受け取れれば往復が減る余地
記録 台帳や在庫表への書き写し 注文データが残れば転記が減る余地

発注アプリの効果の目安:公的実証では受発注業務時間が平均51.4%短縮、その条件を読む

12プロジェクト・6業界の実証

では、受発注をデジタルでつないで、実際に時間が減った例はあるのでしょうか。
中小企業庁の中小企業向け情報サイト「ミラサポplus」は、企業間で受発注の情報を電子データでやり取りする実証の結果を紹介しています。
12の実証プロジェクト、6つの業界で行われたもので、大企業より中小企業のほうが業務時間の削減率が高く、中小企業では平均51.4%の削減効果が得られたとされています1。

ここでいう電子データ連携は、EDI(企業間で受発注などの取引データを決まった形式でやり取りする仕組み)を指します。
実証の対象は中小企業向けの共通EDIで、注文を出す側と受ける側をデータでつなぐ取り組みです1。
電話やFAXで届いた注文を受注側が打ち直す、という流れをなくす前提の数値だと読むと、この後の判断がしやすくなります。

中小企業のほうが削減率が高かったことから、電話・FAX・手作業で受発注を回している企業ほど、つないだときに減る作業が多いのではないか、という見方もできます。
ただし資料はその理由までは説明しておらず、どの作業が減って削減率が高くなったのかも書かれていません。
なお、この結果は2020年の紹介記事で取り上げられた実証のもので、現在の製品や環境で同じ値になることを示すものではありません。

この数値で言えること・言えないこと

51.4%という数値から言えるのは、受発注の情報を取引先とデータでつなぐと、中小企業の受発注業務時間が大きく減る場合がある、ということです。
電話・FAXのやり取りを改めれば効果が見込めるという期待には、一定の裏付けがあると言えます。

一方で、そのまま自社の削減率として使えない理由が三つあります。
一つ目は、特定の発注アプリの効果ではないことです。
実証は共通EDIという仕組みで行われており、いま検討しているアプリが同じように取引先とデータでつながるかは、製品ごとに確かめる必要があります。
二つ目は、平均値であることです。
参加した企業ごとの差は資料からは分からず、どの企業も半分近く減ったとは読めません。
三つ目は、作業別の内訳がないことです。
自社でどの工程が重いかによって、同じ仕組みを入れても減る時間は変わります。

割合を時間に置き換えるときにも注意が要ります。
51.4%は受発注業務時間の割合なので、自社で時間に直すには、元になる自社の時間を知らなければなりません。
また、実証の受発注業務時間には注文を出す作業も受ける作業も含まれうるため、発注担当者一人の作業時間がそのまま半分近くになるとは限りません。
最初の節で工程ごとに時間を分けておく意味は、ここにもあります。

そこで見積もりでは、この数値を「取引先とつながった範囲で、うまくいけばこのくらいまで減る可能性がある」という高めの目安として扱うのが現実的です。
自社の計算でこれを上回る削減を置くと根拠のない期待になりやすく、これより控えめな仮定から始めて試行で確かめるほうが、導入後の落差が小さくなります。
これは資料の結論ではなく、資料の条件を踏まえた見積もりの考え方です。

観点 この数値から言えること この数値だけでは言えないこと
対象 受発注データを連携した中小企業の結果 特定の発注アプリの効果
値 中小企業の平均で51.4%の削減 個々の企業の削減率
内訳 受発注業務時間全体の削減 工程ごとの削減量
前提 発注側と受注側がデータでつながる 取引先が電話・FAXのままの場合の効果
発注する側から見た6工程(模式図)
品目確認から記録まで、発注の6工程を順に並べた図1品目確認2数量入力3送信4受注側の確認5納期回答6記録

▼ 図の内容を文字で読む
  1. 品目確認
  2. 数量入力
  3. 送信
  4. 受注側の確認
  5. 納期回答
  6. 記録

効果は取引先がつながるかで決まり、1社だけの導入では出ない

受注側と発注側それぞれの条件

前の節で見た数値が、発注側と受注側をつないだ結果だったことは、そのまま導入の判断にも響きます。
ミラサポplusは、EDIは1社だけが導入しても効果を得られず、取引先企業の状況や環境を考えて導入の要否を判断する必要があると説明しています1。
自社だけがアプリで注文を作っても、取引先がそれを受け取れなければ、相手は結局FAXや電話で受け直すことになるからです。

では、取引先にはどれほどの負担がかかるのでしょうか。
同じ記事によれば、共通EDIの標準に対応したプロバイダー(データのやり取りを仲介する事業者)や業務アプリを受注側が使うだけで、大きな費用はかからないとされています1。
発注側も、対応するプロバイダーと契約すれば、いま使っている自社のシステムを使い続けられると説明されています1。

ただし、これは共通EDIの標準に対応した仕組みを使う場合の説明です。
検討中の発注アプリで、取引先がどのように注文を受け取るのか、受注側に専用の操作や登録が要るのか、取引先の受注システムへデータとして入るのかは、製品ごとに異なります。
取引先へ「このアプリで受けてほしい」と依頼するとき、相手が何を準備し、どの画面で注文を見ることになるのかを説明できるかどうかが、実際につながるかを左右します。

受注側が画面で注文を見たうえで、自社のシステムへ打ち直しているなら、発注者側の送信や着信確認は減っても、受注側の転記と、それに伴う問い合わせは残ります。
発注者から見れば、納期回答の遅れや確認の電話という形で、その残った手間が戻ってくる可能性があります。
実証の数値に近い効果を期待できるのは、受注側の打ち直しまでなくなる場合だと考えておくと、見積もりを甘くせずに済みます。

取引先へ依頼する際は、発注者側の都合だけを伝えるより、相手の作業がどう変わるかを具体的に示すほうが話が進みやすくなります。
たとえば、FAXを読み取って打ち直す作業が減るのか、それとも画面を確認する作業が新たに加わるだけなのかで、受注側の受け止め方は変わります。
相手にとって手間が増えるだけの依頼は、了承を得られても定着しにくいため、依頼の前に受注側の作業の変化を整理しておくことが、そのまま効果の見込みを確かめる作業になります。

取引先を受けられる先と電話・FAXが残る先に分ける

こうした条件を踏まえると、取引先を一律に扱わず、アプリでの注文を受けられそうな先と、当面は電話・FAXが残る先に分けて考えるのが実際的です。
前者には、すでにWebやデータでの受注に慣れている取引先や、こちらからの依頼に応じてもらえる見込みがある取引先が入ります。
後者には、電話での受注を前提にしている取引先や、FAXでの受注が業務の流れに組み込まれている取引先が入ります。
どちらとも判断できない先は無理に振り分けず、依頼して返事を聞くまで保留にしておきます。

分けたうえで、まず受けられる先への発注から対象にします。
発注件数の多い取引先がこちらに入っていれば短縮の見込みは大きくなり、件数の少ない取引先しか入らないなら、アプリにしても全体で減る時間は限られます。
取引先の数ではなく、取引先ごとの発注件数や品目数で重みを付けて見ると、導入の意味を判断しやすくなります。
保留にした取引先も、発注件数が多い先から順に依頼していけば、効果に影響する相手から先に答えが分かります。

電話・FAXが残る取引先についても、発注アプリを入れる意味がまったくないとは限りません。
発注内容を社内でアプリにまとめて記録できれば、台帳への転記は減る余地があります。
ただ、送信後の確認や納期回答の往復は従来どおり残り、アプリと電話・FAXの二つの手段を並行して使うことで、どの注文をどちらで出したかを確かめる手間がかえって増えることもあります。
こうした取引先の分まで公的実証の削減率を当てはめるのは避け、記録の転記が減るかどうかだけを見込むほうが安全です。

アプリで変わりうる部分と変わりにくい部分(模式図)
減る余地のある書き写しと確認、変わりにくい品目確認、自社で測る部分の三つに分けた図減る余地のある書き写しと確認、変わりにくい品目確認、自社で測る部分の三つに分けた図減る余地がある部分送信後の着信確認台帳への転記同じ画面での納期回答の受け取り大きく変わらない前提の部分品目確認(担当者の判断が中心)自社で測って確かめる部分どの工程がどれだけ減るか(一般的な数値では置き換えにくい)

▼ 図の内容を文字で読む
  • 減る余地がある部分
    • 送信後の着信確認
    • 台帳への転記
    • 同じ画面での納期回答の受け取り
  • 大きく変わらない前提の部分
    • 品目確認(担当者の判断が中心)
  • 自社で測って確かめる部分
    • どの工程がどれだけ減るか(一般的な数値では置き換えにくい)

導入準備・取引先への依頼・習得の負担で、効果はどこまで相殺されるか

中小企業の取組課題から見る負担

取引先とつながる見込みが立っても、導入して使いこなすまでの負担が重ければ、減った時間はその分だけ目減りします。
この負担を考える手掛かりとして、東京商工会議所が2024年に実施した中小企業のデジタルシフト・DX実態調査があります。
主に東京23区内の中小企業1万社に送付し、1,218社が回答した調査で(回答率12.2%)、発注アプリに限らず、デジタル化の取り組み全般について尋ねています2。

取り組みの効果としては、コスト削減、時間短縮、ミス防止などを含む業務効率化が81.0%で、最も多い回答でした2。
デジタル化の効果として、時間短縮を含む業務効率化がまず挙がっていることが分かります。
一方で、取り組みの課題の上位には、コスト負担、旗振り役の人材不足、従業員がITを使いこなせないこと、業務に合うツールが見つからないこと、導入効果が分からず評価できないことが挙がっています2。

これらの課題を発注アプリに当てはめると、負担の中身が具体的になります。
旗振り役の不足は、取引先へ依頼して回る人や、社内の発注ルールを決め直す人がいない状態に当たります。
ITを使いこなせないという課題は、発注担当者が新しい画面に慣れるまでのあいだ、電話のほうが早いと感じて元のやり方へ戻ってしまう形で表れやすいでしょう。
業務に合うツールが見つからないという課題は、自社の発注単位や品目の扱い方にアプリが合わず、アプリの外でExcelの管理が続いてしまうことにつながります。
コスト負担は利用料や準備の費用の問題で、時間の見積もりとは別に扱います。

最後の、導入効果が分からず評価できないという課題は、見積もりの問題そのものです。
導入前の発注時間を測っていなければ、導入後に減ったかどうかを比べられず、負担に見合ったかの判断もできません。
前の節で見た取引先の条件と、ここで挙げた導入側の課題は、別々の資料が別々の対象について示したもので、二つを組み合わせて「何割が相殺される」と計算することはできません。
見積もりでは、取引先がつながる範囲の短縮と、導入・定着にかかる時間の両方を、自社の数字で別々に置く必要があります。

補助制度の対象外条件に注意

導入費の負担を補助金で軽くできるかどうかも、判断に関わる点です。

ミラサポplusの2020年の記事には、軽減税率対策補助金は新規に受発注システムを導入する場合には利用できないとの記載があります1。
これは記事掲載時点の制度についての説明で、現在どの補助制度が発注アプリの導入に使えるかは、所管する機関の最新の公募要領で確かめる必要があります。
補助制度は年度ごとに対象や条件が変わることがあるため、記事や過去の事例だけを頼りに、使える前提で予算を組むのは避けたほうがよいでしょう。

補助を見込める場合でも、軽くなるのは導入の費用であって、取引先への依頼や担当者の習得にかかる時間ではありません。
費用の見積もりと時間の見積もりを別に立てておけば、補助の有無で導入の判断が変わるのかどうかを切り分けられ、制度の結果待ちで判断が止まることも避けられます。

調査で上位の課題 発注アプリで表れやすい形 見積もりで置くこと
コスト負担 利用料や準備の費用 費用は時間とは別に見積もる
旗振り役の人材不足 取引先へ依頼し発注ルールを決め直す人がいない 依頼と説明にかかる時間
従業員がITを使いこなせない 慣れるまで電話へ戻ってしまう 習得までの時間
業務に合うツールが見つからない アプリの外でExcel管理が続く 残る転記の時間
導入効果が分からず評価できない 導入前の時間がなく比べられない 導入前の工程別の記録
平均51.4%の読み方:言えること・言えないこと・見積もりでの扱い
公的実証の平均51.4%について、言えること、言えない三つの理由、見積もりでの扱いを分けた図公的実証の平均51.4%について、言えること、言えない三つの理由、見積もりでの扱いを分けた図言えること取引先とデータでつなぐと受発注業務時間が大きく減る場合がある言えないこと特定の発注アプリの効果ではない平均値で、企業ごとの差は分からない作業別の内訳がない見積もりでの扱い取引先とつながった範囲での高めの目安より控えめな仮定から始めて試行で確かめる

▼ 図の内容を文字で読む
  • 言えること
    • 取引先とデータでつなぐと受発注業務時間が大きく減る場合がある
  • 言えないこと
    • 特定の発注アプリの効果ではない
    • 平均値で、企業ごとの差は分からない
    • 作業別の内訳がない
  • 見積もりでの扱い
    • 取引先とつながった範囲での高めの目安
    • より控えめな仮定から始めて試行で確かめる

自社の発注件数と取引先から、発注アプリの短縮時間を見積もって小さく試す

工程別に時間を測る

ここまでの条件を、自社の数字に置き換えていきます。
最初に行うのは、最初の節で分けた6工程ごとに、いまどれだけ時間がかかっているかを一定期間記録することです。
ここで示す測り方は編集上の一案で、自社の発注の流れに合わせて変えて構いません。

記録は、発注1件ごとに、取引先、品目数、手段(電話・FAX・メール)、各工程で手を動かした時間を残す形が扱いやすいでしょう。
待ち時間は作業時間と混ぜず、送信してから納期回答が来るまでの経過として別に書きます。
問い合わせや言い直しが起きたら、その回数も添えておきます。
月末や繁忙期だけ発注の仕方が変わる場合は、その時期を含めて測らないと、普段の時間だけを見て過小に見積もることになります。

待ち時間を別に記録しておくのは、締め時間の悩みに答えるためです。
待ち時間は担当者の作業時間ではないため、短くなっても工数の削減としては表れません。
それでも、納期回答が早く戻れば社内の依頼者への連絡が早まり、締め時間に間に合わない注文が減るかもしれません。
作業時間と経過時間の両方を残しておけば、アプリの効果を工数と締め時間の二つの面から確かめられます。

記録がそろったら、まず、アプリで受けられる取引先への発注だけを抜き出し、その工程別の時間を合計します。
次に、その合計に削減の仮定を掛けます。
仮定は公的実証の約5割を高めの目安とし、それより控えめな値から置きます1。
品目確認のように判断が中心の工程は削減の対象から外し、転記や確認の往復が中心の工程に仮定を当てるほうが、実態に近づきます。
電話・FAXが残る取引先への発注は、記録の転記が減るかどうかだけを見て、残りは変わらないものとして扱います。

最後に、導入と定着にかかる時間を差し引きます。
取引先への依頼と説明、品目や取引先の情報の準備、担当者が操作に慣れるまでの時間などは、最初にまとまって発生する負担です。
一度きりの負担と毎月続く短縮を同じ期間で並べると、短縮がいつ負担を上回るかの見通しが立ちます。
この見積もりは仮定を重ねたものなので、そのまま導入の結論にはせず、次の試行で確かめる前提として使います。

少数の取引先で試し、何を測るか

見積もりで見込みが立ったら、いきなり全取引先へ広げず、アプリで受けられる取引先の中から少数を選び、品目も絞って試します。
取引先の状況を見て導入の要否を判断するという考え方1を試行にも当てはめると、試す範囲も取引先の受け方で決めるのが自然です。
発注件数がある程度あり、こちらの依頼に応じてもらえそうな取引先を選ぶと、短い期間でも比べられるだけの記録がたまります。

品目を絞るときは、繰り返し発注している定番品から始めると、導入前と同じ条件で比べやすくなります。
欠品時の代替品の相談や、仕様を一つずつ詰める特注品は、アプリに替えても電話でのやり取りが残りやすく、試行の結果に工程以外の要因が混ざります。
定番品で仕組みが効くかを確かめてから、例外の多い品目をどう扱うかを考えるほうが、判断を誤りにくくなります。

試行中に測るのは、次の三つです。
一つ目は工程別の時間で、導入前と同じ記録の仕方を続け、どの工程で差が出たかを見ます。
二つ目は問い合わせの往復回数で、送信後の着信確認や、内容の確認で取引先とやり取りした回数を数えます。
三つ目は入力の訂正回数で、注文を送った後や納期回答の段階で数量や品目を直した回数を残します。

時間だけを見ていると、慣れないうちは操作に時間がかかり、短縮が見えにくいことがあります。
往復や訂正の回数は時間ほど慣れに左右されにくく、書き写しと確認がどれだけ減ったかを直接示すため、時間の差がまだ小さい段階でも、仕組みが効いているかを判断する材料になります。

試行中は、取引先側の受け取り方も聞いておきます。
注文を受注側で打ち直していないか、確認の電話が減ったかは、発注者側の記録だけでは分かりません。
往復や訂正が減っていれば、同じ受け方ができる取引先へ順に広げていきます。
減っていなければ、取引先の受け取り方、アプリの使い方、対象にした品目のどこに原因があるのかを工程別の記録から探し、範囲を変えて試すか、導入を見送るかを判断します。

取引先の受け方で分け、見積もりと試行の対象を決める(模式図)
アプリで受けられる先、判断できない先、電話・FAXが残る先の三つに分け、それぞれの扱いを示した図アプリで受けられる先、判断できない先、電話・FAXが残る先の三つに分け、それぞれの扱いを示した図アプリで受けられる取引先削減の仮定を置く対象発注件数の多い先から対象にする判断できない取引先依頼して返事を聞くまで保留発注件数が多い先から依頼電話・FAXが残る取引先送信後の確認と納期回答の往復は残る前提記録の転記が減るかだけを見込む

▼ 図の内容を文字で読む
  • アプリで受けられる取引先
    • 削減の仮定を置く対象
    • 発注件数の多い先から対象にする
  • 判断できない取引先
    • 依頼して返事を聞くまで保留
    • 発注件数が多い先から依頼
  • 電話・FAXが残る取引先
    • 送信後の確認と納期回答の往復は残る前提
    • 記録の転記が減るかだけを見込む

取引先ごとの受け方や、自社の発注のどの工程に時間がかかっているかは、社内だけで整理すると見落としが出やすい部分です。

相談では、自社の発注の流れと取引先の受け方を一緒に整理し、どの取引先と品目から試すと短縮を確かめやすいかを確認できます。無料相談で要件を整理する

要点の整理

軸 基準
公的実証の51.4% 取引先とデータでつないだ中小企業の平均。特定アプリの効果ではなく、見積もりの高めの目安にする
取引先の受け方 アプリで受けられる先から対象にし、電話・FAXが残る先には同じ削減率を当てない
減りうる工程 転記と確認の往復が中心の工程。品目を決める判断は大きく変わらない前提
導入の負担 取引先への依頼、準備、習得の時間を短縮とは別に置く
補助制度 現行の公募要領で対象を確認し、費用と時間の見積もりを分ける
試行の指標 工程別の時間、問い合わせの往復回数、入力の訂正回数
費用・導入と定着の時間・短縮を別々に置く見積もり(模式図)
導入の費用、導入と定着にかかる時間、取引先がつながる範囲の短縮を分けて見積もる図導入の費用、導入と定着にかかる時間、取引先がつながる範囲の短縮を分けて見積もる図導入の費用利用料や準備の費用時間の見積もりとは別に扱う導入・定着にかかる時間取引先への依頼と説明担当者が操作に慣れるまでの時間残る転記の時間取引先がつながる範囲の短縮導入前の工程別の記録と比べて確かめる

▼ 図の内容を文字で読む
  • 導入の費用
    • 利用料や準備の費用
    • 時間の見積もりとは別に扱う
  • 導入・定着にかかる時間
    • 取引先への依頼と説明
    • 担当者が操作に慣れるまでの時間
    • 残る転記の時間
  • 取引先がつながる範囲の短縮
    • 導入前の工程別の記録と比べて確かめる
自社の短縮時間を見積もる手順
工程別の記録から、取引先の抜き出し、削減の仮定、導入・定着の時間の差し引き、試行での確認までの手順16工程ごとに作業時間と待ち時間を記録2アプリで受けられる取引先の分を抜き出す3転記・確認の往復が中心の工程に削減の仮定を置く4導入・定着にかかる時間を差し引く5少数の取引先で試して確かめる

▼ 図の内容を文字で読む
  1. 6工程ごとに作業時間と待ち時間を記録
  2. アプリで受けられる取引先の分を抜き出す
  3. 転記・確認の往復が中心の工程に削減の仮定を置く
  4. 導入・定着にかかる時間を差し引く
  5. 少数の取引先で試して確かめる

試行の範囲や測る指標は、取引先との関係や発注件数によって適した形が変わります。 相談では、見積もりに置く前提と試行で記録する項目を、自社の発注件数や取引先の状況に合わせて確認できます。

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よくある質問

発注アプリを入れれば、発注時間は必ず半分になりますか

必ず半分になるとは言えません。
公的実証の平均51.4%は、共通EDIで取引先と受発注データをつないだ中小企業の受発注業務時間の平均で、特定のアプリの効果ではありません1。
取引先がつながる範囲や、自社でどの工程に時間がかかっているかで結果は変わるため、見積もりでは高めの目安として扱い、試行で自社の値を確かめます。

取引先が電話・FAXのままの場合でも効果はありますか

社内での記録の転記が減る余地はありますが、送信後の確認や納期回答の往復は残るため、公的実証と同じ水準の短縮は見込みにくいと考えておくのが安全です。
アプリと電話・FAXを並行して使うと、どちらで出した注文かを確かめる手間が増えることもあります。
EDIは1社だけが導入しても効果を得られないとされており1、アプリで受けられる取引先から対象にするのが現実的です。

発注時間を測るとき、どの工程から記録すればよいですか

品目確認、数量入力、送信、受注側の確認、納期回答、記録の6工程に分け、作業時間と待ち時間を別にして記録すると、アプリで変わる部分を見分けやすくなります。
すべてを細かく測るのが難しければ、数量入力、送信後の着信確認、記録への転記のように、書き写しと確認の往復が多い工程から始めると変化を捉えやすくなります。

補助金は発注アプリの導入に使えますか

ミラサポplusの2020年の記事には、軽減税率対策補助金は新規に受発注システムを導入する場合には利用できないとの記載があります1。
現在使える制度があるかは、所管する機関の最新の公募要領で確かめる必要があります。
補助で軽くなるのは費用であり、取引先への依頼や担当者の習得にかかる時間は別に見積もります。

導入効果が出たかどうかは、何を指標にいつ判断すればよいですか

工程別の時間、問い合わせの往復回数、入力の訂正回数を、導入前と同じ記録の仕方で比べます。
操作に慣れるまでは時間の差が出にくいことがあるため、往復と訂正の回数を先に見て、担当者が操作に迷わなくなってから時間を比べると判断しやすくなります。
月末や繁忙期など発注の多い時期を含めて比べると、普段の時期だけで判断するより実態に近づきます。

◆監修・編集責任者

小園 将隆

株式会社フライトソリューションズ ECサービス部 マネージャー

BtoB通販のパッケージシステム「EC-Rider B2B Ⅱ」の導入支援をはじめ、製造業、卸売業をはじめとした法人向け通販サイト構築を多数手掛ける。卸売領域の専門知識をもとに、日本の商習慣に固有の課題をパッケージシステムの機能追加によって解決。BtoB流通の販路拡大を支援する。

> プロフィールの詳細を見る

  1. 1 出典:中小企業庁(ミラサポplus)「企業間のデータ連携で、受発注の業務コストを削減する!」(2020年)
  2. 2 出典:東京商工会議所「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査」(2024年)

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独自調査以外の一次情報は、省庁・公的機関を中心とした信頼性の高い情報源から引用し、出典を明記しています。
年次更新される統計については、引用元の最新版を確認したうえで掲載しています。

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