◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 取引先に断られたら押し切る前に、理由をIDの登録・操作の手間、費用、既存システムとの不整合、情報管理の不安、変更への抵抗に分けて聞き取り、取引先を何回かに分けて進める。
- ID登録や費用が理由なら、取引先の登録が不要でFAX・メールで発注書が届く送り方で解消できる場合があるが、仕様は製品・プランごとに異なる。
- アプリを使わない取引先とは、受付窓口・転記の担当と期限・発注履歴の置き場所を決めて併用する。
- 取適法の対象取引では電子での発注に承諾は不要だが、書面を求められたら遅滞なく交付し、取引先への費用負担の依頼は慎重に扱う。
- 併用の注文件数・転記時間・誤り件数を記録し、アプリ側で負担を下げる・併用を恒久化する・対象取引先を絞るのどれにするかを取引先ごとに決める。
目次

発注アプリを取引先に断られたら、まず拒否の理由をどう切り分けるか
発注アプリへの移行を取引先に案内したのに、「今のFAXのままでいい」と断られた。
あるいは返事が来ないまま、社内ではアプリとFAXの二重運用が始まりかけている。
こうした場面では、全社一括の移行をいったんやめ、断る理由ごとに対応を分けると負担を抑えられます。
ID登録や費用が理由なら、取引先の登録が不要で、FAX・メールで受け取れる送り方で解消できる場合があります。
それでも解消しない取引先とは、受付窓口・転記の担当・期限を決めて併用します。
取引先に利用や費用負担を求める前には、取適法の対象となる取引かどうかを確かめます。
断りの理由を5つに分けて聞き取る
「今のFAXのままで困っていない」という返事は、一つの理由に見えて、実際にはいくつかの事情が重なっていることがあります。
新しい画面の操作を覚えるのが面倒なのか、IDとパスワードを一つ増やすのが負担なのか、利用料がかかると思い込んでいるのか。
あるいは取引先の社内では、届いた注文を販売管理システムへ入力して出荷指示を出しており、アプリの画面からそこへ打ち直す手間が増えることを心配しているのかもしれません。
どの事情かによって、発注側が変えられることは違います。
理由を確かめないまま案内を繰り返すと、選べるのは「期限を切って押し切る」か「その取引先だけ諦める」かの二つになりがちです。
押し切れば関係がこじれるおそれがあり、諦めれば社内に例外の運用が増えていきます。
その間にある、送り方を変える、説明を足す、併用のルールを決めるといった手は、理由が分かって初めて選べます。
聞き取る相手も大切です。
案内を受け取った取引先の営業担当者が断っていても、実際に負担を感じているのは、毎日FAXを受けて受注を入力している事務の担当者ということがあります。
「どの作業が増えると感じたか」を、その作業をしている人に聞くと、理由がはっきりしやすくなります。
断りの理由は、次の5つに分けて聞き取ると整理しやすくなります。
<ul><li>IDの登録・操作の手間:新しい画面を覚える、ID・パスワードを管理するのが負担</li><li>費用:利用料や設定費用がかかる、またはかかると思っている</li><li>既存システムとの不整合:自社の販売管理システムへ打ち直す作業が増える</li><li>情報管理の不安:発注内容が外部のサービスを通ることや、閲覧できる人の範囲が気になる</li><li>変更への抵抗:今のやり方で困っておらず、変える理由が見えない</li></ul>
表の右の列は、理由と対応を一対一で結び付けるものではなく、最初に検討する方向の目安です。
同じ取引先でも、費用の誤解が解けた後に「でも販売管理への入力が二度手間になる」という別の理由が出てくることがあります。
また、どの理由が多いかは業種や取引先の規模で変わり、一般的な割合を当てはめて判断できるものではありません。
自社の取引先について理由を一社ずつ記録していくこと自体が、後で切替の範囲を決める材料になります。
一斉移行が難しい理由:1取引先に1か月ほどかかる例
理由の聞き取りを終える前に、全取引先に同じ切替期限を示してしまうと、別の問題が出ます。
2016年のISDN終了に伴うEDI(企業間で注文などのデータを電子的にやり取りする仕組み)の移行を取材した記事では、ある発注側の企業グループで、取引先約500社のうちIP網に対応したEDIへ移行済みなのは10%強で、1取引先あたり事前調整から利用開始まで1か月ほどかかるとされていました4。
同じ記事では、移行が期限直前に集中すると間に合わない取引先が出るため、移行する取引先の数を時期ごとにならすことが課題とされています4。
これは発注アプリではなくEDIの話で、特定の1社グループの取引先構成での目安です。
発注アプリの切替にも同じ期間がかかるとは言えません。
それでも、取引先ごとに説明や送受信の確認、取引先の社内での周知といった調整が要る点は、発注アプリでも変わりません。
その調整を同じ月に何十社分も抱えれば、発注側の担当者の手が回らなくなり、断りの理由を聞く余裕もなくなります。
このため聞き取りは、全社に一斉に案内して返事を待つより、取引先を何回かに分け、理由を聞きながら進めるほうが無理がありません。
どの取引先から声をかけるかは、最後の節で見直しの基準と合わせて考えます。
| 断りの理由 | 聞き取る相手と問い | 最初に検討する対応 |
|---|---|---|
| IDの登録・操作の手間 | 受注を処理する担当者に、増えると感じた操作を聞く | 取引先の登録が要らない送り方を検討する |
| 費用 | 窓口の担当者に、どの費用を想定しているかを聞く | 自社のアプリで取引先に費用がかかるかを確かめて伝える |
| 既存システムとの不整合 | 受注を入力する担当者に、届いた注文をどこへ入力しているかを聞く | 注文データの受け渡しを検討し、難しければ併用する |
| 情報管理の不安 | 窓口の担当者に、気になる点が経路か閲覧範囲かを聞く | 発注書が届く経路と見られる人を説明する |
| 変更への抵抗 | 窓口の担当者に、今のやり方で困っていることがあるかを聞く | 取引先の手間が増えない送り方を示し、なければ併用する |
▼ 図の内容を文字で読む
- 理由を確かめないまま案内を繰り返す
- 期限を切って押し切る
- その取引先だけ諦める
- 理由が分かってから選べる手
- 送り方を変える
- 説明を足す
- 併用のルールを決める
- 理由を聞く相手
- 受注を入力している事務の担当者
- どの作業が増えると感じたかを聞く
理由別に、発注アプリの設定・説明・負担軽減で解消できるのはどこまでか
取引先のID登録・費用が理由のとき
聞き取りの結果、断りの理由が「IDを増やしたくない」「お金がかかるなら使わない」だった取引先については、取引先に何かをしてもらう前提そのものを外せる場合があります。
発注側だけがアプリを使い、取引先には今までどおりFAXやメールで発注書が届く送り方です。
取引先から見ると受け取り方は変わらず、発注側では注文の作成と履歴がアプリにまとまります。
この型が実在する例として、COREC(コレック)の発注側向け料金ページでは、無料プランについて、発注先は会員登録が不要で費用もかからず、発注書はFAXやメールで届くと表示されています3。
ただし同じプランでは、発注書に商品を登録できる取引先が1社に限られます3。
取引先の多い発注側がそのまま全社分に使える条件ではなく、有料プランや他の製品が同じ仕様かどうかも、この表示からは分かりません。
ここで言えるのは、取引先にID登録や費用を求めずに発注書を届ける作りの製品がある、ということまでです。
費用の心配が、取引先自身が新しいシステムを入れることを想像しての誤解である場合もあります。
中小企業庁のミラサポplusは、中小企業共通EDIという標準規格について、受注側の企業が導入する場合は、その標準に対応したプロバイダーと業務アプリを利用するだけで済み、大きな費用はかからないと説明しています1。
これは共通EDIに対応した受注側の話で、自社が使う発注アプリの料金を示すものではありません。
取引先に伝えるのは一般論ではなく、自社のアプリで取引先に費用が発生するのかどうかを契約条件で確かめた結果です。
一方、情報管理の不安や変更への抵抗が理由の場合は、送り方の設定より説明のほうが効きます。
情報管理の不安には、発注書がどの経路で届き、取引先の側で誰が見られるのかを、使うアプリの仕様に沿って具体的に示します。
変更への抵抗は、無理に解こうとすると関係を損ねやすい理由です。
取引先の手間が増えない送り方があればそれを示し、なければ次の節の併用に回すほうが現実的です。
FAX・メールで届く型と、取引先がログインする型の違い
発注アプリと一口に言っても、取引先がどう受け取るかで、取引先に求める作業はかなり違います。
判断が分かれるのは、取引先がアプリにログインする必要があるかどうかと、取引先の社内システムへ注文データを渡す必要があるかどうかです。
取引先がログインする型はWeb-EDIと呼ばれることがあり、取引先が画面で注文を確認し、受注や納期の回答まで入力します。
発注側にとっては回答もデータで返ってくる利点がありますが、取引先にはID登録と操作の習得を求めることになります。
ID登録が理由で断った取引先に、同じ型のまま説明を重ねても、断りの理由そのものは残ります。
既存システムとの不整合が理由の取引先には、もう一段の検討が要ります。
取引先が届いた注文を自社の販売管理システムへ手で入力しているなら、FAXで届いてもアプリの画面で届いても、その入力作業は残ります。
この打ち直しを減らすには、注文データを取引先のシステムが読み込める形で渡す必要があります。
中小企業共通EDIでは、業務アプリに対応を求める最低限の項目として、注文書番号や注文書発行日など13項目を定めています1。
やり取りする項目の共通の目安にはなりますが、個々のアプリがこの項目に対応しているかどうかを示すものではありません。
製品の仕様を確かめる項目
自社がすでに使っている、または検討している製品で断りの理由に応えられるかどうかは、次の項目を同じ表に並べると見比べやすくなります。
製品に順位を付けるための表ではなく、取引先ごとの理由に対して、どの設定や機能が答えになるかを探すための表です。
迷いやすいのは、FAX・メールでの送信と代行入力の関係です。
ここでいう代行入力は、取引先から電話やFAXで届いた回答を、発注側の担当者がアプリ上の該当する注文に代わって入力することを指します。
FAX・メールで送れても、納期の回答や欠品の連絡が電話やFAXで返ってくれば、発注側ではその内容をどこかに残す必要があります。
代行入力ができれば回答を注文にひも付けて残せますが、できなければ別の表や紙に残すことになり、履歴が二か所に分かれます。
送る側の設定だけでなく、返ってくる情報をどこに置けるかまで確かめておくと、次に考える併用の手間が見積もりやすくなります。
これらの仕様は製品やプランによって異なり、同じ製品でも変わることがあります。
表の項目は確かめる観点の整理で、特定の製品が対応しているという意味ではないため、手元の契約内容と提供元の最新の表示で確かめます。
| 受け取り方の型 | 取引先がすること | 登録・費用が理由の断りに対して |
|---|---|---|
| FAX・メールで届く型 | 今までどおりFAX・メールで発注書を受け取る | 取引先の作業が変わらないため解消できる可能性がある |
| 取引先がログインする型 | 画面にログインして注文を確認し、受注や納期を回答する | ID登録と操作が前提のため、この型のままでは解消しにくい |
| 既存システムと連携する型 | 自社の販売管理システムで注文データを受け取れるよう対応する | 取引先側の対応範囲と費用を個別に確かめる必要がある |
| 確かめる項目 | 関わる断りの理由 | 確かめるときの観点 |
|---|---|---|
| 取引先のID登録の要否 | IDの登録・操作の手間 | 登録なしで受け取れるのは発注書だけか、回答まで含むか |
| 取引先の費用 | 費用 | 取引先に利用料・設定費用がかかるか、かかる場合の条件 |
| FAX・メールでの送信 | IDの登録・操作の手間、変更への抵抗 | アプリから直接送れるか、送れる取引先数に上限があるか |
| 代行入力 | 変更への抵抗 | 電話・FAXで届いた回答を、発注側の担当者がアプリへ代わって入力できるか |
| 既存システムとの連携 | 既存システムとの不整合 | 取引先が読み込める形式で注文データを出せるか |
▼ 図の内容を文字で読む
- ID登録・費用が理由
- 発注側だけがアプリを使う
- 取引先にはFAX・メールで届く
- 自社のアプリで費用が発生するかを契約条件で確かめる
- 情報管理の不安が理由
- 発注書が届く経路を示す
- 取引先で誰が見られるかを示す
- 変更への抵抗が理由
- 取引先の手間が増えない送り方を示す
- なければ併用に回す
どうしても発注アプリを使わない取引先とは、FAX・メール等を併用する運用をどう設計するか
併用で手間が増えるのはどこか
理由を聞き、送り方も見直しても、アプリを使わないと決めている取引先は残ります。
その取引先を無理に切り替えるより、併用を前提にルールを決めるほうが、関係も業務も安定します。
考えるべきなのは、ルールのない併用が社内でどう膨らむかです。
たとえば、資材の発注を担当する人が、アプリを使う取引先にはアプリから、使わない取引先には自分の席からFAXを送っているとします。
FAXで送った注文に取引先から納期の回答が電話で返ってくると、その内容は電話を受けた人のメモにしか残りません。
月末に「あの資材はいつ届くのか」と聞かれたとき、アプリを見ても一部の注文しか載っておらず、残りはFAXの控えとメモを探すことになります。
二重運用の負担は、送る作業そのものより、こうした記録の散らばりから生まれます。
取引先の数が多いほど、この散らばりは大きくなります。
立場が逆の受注側の例ですが、工業用粘着テープやテープ貼り機器などを販売する日東電工CSシステム株式会社では、全国約3,000社の販売店が同社の製品を取り扱っており、営業担当者の訪問やFAX・電話での対応が中心だったところから、法人顧客専用の業務用通販サイトへ移行しています5。
この事例は移行の経緯の紹介で、併用の手間や効果を示すものではありません。
ただ、取引先が多い場面ほど、移行の途中で残る経路をどう扱うかを先に決めておく意味は大きくなります。
併用のルールは、受付窓口、転記の担当と期限、発注履歴の置き場所の3点で決めます。
受付窓口の一本化
受付窓口の一本化とは、取引先からの回答や連絡が届く場所を、FAX番号一つ、メールアドレス一つに決めることです。
担当者個人のメールアドレスや直通電話に回答が届くと、その人が休んだ日や異動した後に、注文の状況が分からなくなります。
窓口を共有のFAX番号と部署のメールアドレスにそろえ、取引先にもそこへ返すよう依頼しておけば、少なくとも「どこに届いたか」を探す手間は減ります。
電話は窓口を一本にしにくい手段です。
電話で受けた回答は、受けた人が決めた窓口のメールアドレスへ送るか、アプリへ直接入力する、といった扱いをあらかじめ決めておきます。
電話そのものをやめてもらうと取引先に負担がかかるため、受けた後の記録の行き先を決めるという考え方です。
転記の担当と期限
転記とは、FAXや電話で届いた内容を、アプリの該当する注文に入力し直すことです。
併用で増えるのは主にこの作業で、担当と期限が決まっていないと、誰かが入れるだろうと後回しにされます。
担当を受付窓口を見ている人と同じにしておけば、受け取りから入力までの受け渡しがなくなります。
期限は発注のサイクルに合わせて決めます。
たとえば毎日発注している資材なら受け取った当日中、週に一度まとめて発注する品目なら次の発注日の前まで、といった決め方です。
入力が次の発注の判断より遅れると、アプリ上の納期の情報が古いまま次の注文を出すことになり、二重の発注や欠品の見落としにつながります。
転記の量そのものを減らせる手があれば、ルールより先に使います。
アプリからFAX・メールを直接送れるなら、発注書を別に作って送り、後でアプリへ入れ直す作業はなくなり、転記は取引先からの回答だけになります。
代行入力ができれば、その回答も注文にひも付けて入力できます。
どちらも取引先に新しい作業を求めないため、併用の相手との関係に影響しにくい手段です。
発注履歴の統一
最後に、注文の記録をどこに置くかを決めます。
アプリを正本とし、FAXや電話でしか送れなかった注文も含めて、すべての注文と回答をアプリに残す、と決めておくのが基本の形です。
アプリを使わない取引先の分だけ別の表で管理すると、取引先ごとに見る場所が変わり、発注状況の確認や支払の照合のたびに二か所を探すことになります。
履歴を一か所にそろえておくと、次の判断の材料もそこから取り出せます。
併用している取引先ごとに、月の注文件数と転記にかかった時間を数週間記録すれば、どの取引先の併用が負担になっているのかが見えてきます。
この記録を使って切替の範囲を見直す方法は、最後の節で扱います。
▼ 図の内容を文字で読む
- 受付窓口の一本化
- 共有のFAX番号と部署のメールアドレスにそろえる
- 電話は受けた後の記録の行き先を決める
- 転記の担当と期限
- 担当は受付窓口を見ている人にそろえる
- 期限は発注のサイクルに合わせる
- 発注履歴の統一
- アプリを正本にして注文と回答を残す
- 別の表で管理しない
取引先に発注アプリの利用や費用負担を求めてよい範囲はどこまでか(取適法)
電磁的方法による発注と、書面を求められた場合
取引先にアプリの利用を求めるときには、関係への配慮とは別に、法律で決まっていることがあります。
下請法は改正され、2026年の施行に合わせて名称も中小受託取引適正化法(取適法)に変わりました2。
公正取引委員会と中小企業庁が改正内容をまとめたテキストには、発注の方法と費用負担について、この判断に直接関わる記載があります。
まず、発注の内容は、受注側の承諾がなくても電磁的方法(電子メールやWeb上の仕組みなど、電子的に情報を提供する方法)で提供できると整理されています2。
一方で、受注側が書面の交付を求めた場合、発注者は遅滞なく書面を交付する義務があります2。
取適法の対象となる取引であれば、アプリでの発注を始めること自体に取引先の承諾は要りません。
ただ、取引先が書面を求めれば、その取引先にはアプリだけで済ませることはできず、書面の交付に応じることになります。
つまり対象取引では、書面を求める取引先との併用は運用上の選択ではなく、守るべき条件として残ります。
前の節で決めた受付窓口や転記のルールは、この場合にもそのまま使えます。
解説記事の中には、電子的な発注に受注側の事前の承諾が必要と書かれているものもあります。
どの時点の制度を前提にした説明かで内容が変わるため、判断の拠り所は改正後の公正取引委員会・中小企業庁の資料に置くのが確実です。
費用負担を求めるときの注意
アプリの利用料や設定にかかる費用を、取引先にも負担してもらえないかと考える場面もあるでしょう。
テキストには、受注側に費用を負担させたり、協賛金その他の経済上の利益を提供させたりしてはならない旨の記載があります2。
どのような場合に禁止に当たるかは、原文や運用の基準に照らして個別に判断されるもので、アプリの利用料を取引先に転嫁すれば直ちに違反になる、とまでは言い切れません。
それでも、対象取引で取引先に費用の負担を求める依頼は、慎重に扱うべきものです。
実務では、費用の問題が起きない送り方を先に検討するほうが、判断に迷う場面を減らせます。
取引先に費用がかからない型を選べば、費用負担を求めるかどうか自体を考えずに済みます。
取引先に費用がかかる型を使う場合は、利用を求める前に、その費用を誰が負担する前提なのかを契約条件で確かめ、取引先に負担が生じる依頼になっていないかを見直します。
案内の文面に、従来の方法でも受け付けることを添えておくと、取引先は断りやすくなり、断る理由も聞き出しやすくなります。
自社が対象取引かどうかの確かめ方
ここまでの整理は、取適法の対象となる取引に限ったものです。
対象かどうかは、取引の内容と、発注者・受注者それぞれの資本金または従業員数の基準で決まります2。
基準の数値は取引の類型によって異なるため、自社と取引先の規模だけを見て判断することはできません。
同じ取引先でも、どのような内容の発注かで扱いが変わることがあります。
確かめるときは、公正取引委員会・中小企業庁のテキストで取引の類型と基準を見たうえで、判断に迷う取引は所管機関の相談窓口や弁護士などの専門家に確認します。
対象外の取引であれば、ここで挙げた書面交付の義務や費用負担に関する記載がそのまま当てはまるわけではなく、取引先との契約や合意の内容によって判断することになります。
対象かどうかにかかわらず、理由を聞いて取引先の手間が増えない送り方を探すという進め方は、そのまま役に立ちます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 電磁的方法による発注
- 受注側の承諾がなくても提供できる
- 書面を求められた場合
- 発注者は遅滞なく書面を交付する
- 書面を求める取引先とは併用が残る
- 費用負担を求めるとき
- 費用を負担させてはならない旨の記載がある
- 費用がかからない送り方を先に検討する
取引先への依頼の進め方と、発注アプリの切替範囲を見直す判断基準
取引先に伝える得になる点
理由を聞き、送り方を見直し、法律上の条件も確かめたら、あらためて取引先に依頼します。
このとき取引先が知りたいのは、発注側が楽になる理由ではなく、取引先の仕事がどう変わるかです。
受け取り方が変わるのか、回答の方法が変わるのか、費用がかかるのか。
この三つに具体的に答えるだけでも、よく分からないから断る、という返事は減らせる可能性があります。
電子化が取引先の得にもなりうることを示す材料として、ミラサポplusは、中小企業共通EDIの実証事業で、中小企業の受発注業務の時間が平均51.4%削減されたと紹介しています1。
ただしこれは共通EDIの規格に対応した実証での平均で、発注アプリ一般の効果ではなく、自社の取引先に同じ効果が出るとも言えません。
取引先に伝えるなら、数値を約束のように示すより、届いたFAXを読み取って入力し直す作業が減るのか、それとも何も変わらないのかを、自社が使う送り方に即して説明するほうが誠実です。
また同じ記事は、日本公庫総研の調査として、中小の商業・サービス業で「電子文書での商取引や受発注情報管理」を導入していたのは2018年時点で18.5%と、2割を下回っていたことを紹介しています1。
時点も対象も限られた数値で、自社の取引先の状況を示すものではありません。
それでも、取引先に断られることを特別な失敗と捉えず、理由を聞く機会として次の依頼につなげる背景にはなります。
声をかける順番は、断りの理由と件数から決めると進めやすくなります。
最初は、注文の件数が多く、すでにメールで発注書を受け取っていて、断りの理由が登録や費用だった取引先です。
件数が多いほど切り替えたときに減る転記が大きく、受け取り方が変わらない送り方なら取引先の負担も増えにくいためです。
最初の節で触れた移行の例のように、取引先ごとに調整の期間がかかる前提で、同じ時期に動かす取引先の数を絞り、何回かに分けて進めます。
見直しの3つの選択肢と記録項目
依頼を進めても、併用の取引先は一定数残ります。
そこで一定期間ごとに、併用が社内の負担になっていないかを見直します。
記録するのは、併用している取引先ごとの注文件数、転記にかかった時間、転記の誤りの件数の3つです。
発注履歴をアプリにそろえていれば件数はそこから数えられ、転記の時間と誤りは担当者が簡単に書き留めておけば足ります。
記録の期間は、自社の発注サイクルが何回か回る長さにします。
毎日発注するなら数週間、月に一度まとめて発注するなら数か月見ないと、たまたま注文の少ない時期の数字で判断してしまいます。
記録がそろったら、次の3つのどれにするかを取引先ごとに決めます。
どれを選んでも、手間がすべてなくなるわけではありません。
アプリ側で負担を下げれば発注書の作り直しは減りますが、取引先からの回答の確認は残ります。
併用を恒久化すれば依頼の手間はなくなりますが、転記は続きます。
大切なのは、残る手間が何で、それを誰がいつ引き受けるのかを、記録に基づいて決め直せる状態にしておくことです。
全社一括の移行を前提にしていたときより、取引先ごとに切替の範囲を決めるほうが、取引先との関係も社内の業務も無理なく保てます。
| 選択肢 | 向いている記録の傾向 | 主に行うこと |
|---|---|---|
| アプリ側で負担を下げる | 件数が多く、転記の時間や誤りが目立つ | FAX・メールの直接送信や代行入力など、取引先に作業を求めない機能や設定を見直す |
| 併用を恒久化する | 件数が少なく、転記の時間や誤りが小さい | 受付窓口・転記担当・期限のルールを固定し、切替の依頼を止める |
| 対象取引先を絞る | アプリでの発注を続けるとかえって社内の手間が増える取引先が多い | アプリで発注する取引先の範囲を決め直し、全社一括の移行目標を外す |
▼ 図の内容を文字で読む
- 受け取り方が変わるのか
- 届いたFAXを入力し直す作業が減るのか
- 何も変わらないのか
- 回答の方法が変わるのか
- 自社が使う送り方に即して説明する
- 費用がかかるのか
- 自社のアプリで取引先に費用が発生するかを確かめて伝える
- 従来の方法でも受け付けることを添える
▼ 図の内容を文字で読む
- 3つの項目を記録する
- 発注サイクルが何回か回る期間見る
- 取引先ごとに3つから選ぶ
- 残る手間を誰がいつ引き受けるか決める
取引先ごとの理由と件数がそろっても、どの取引先をWebでの受発注に移し、どこをFAX・電話で残すかは、自社の業務の流れを踏まえないと決めにくいものです。
FAX・電話中心のやり取りからWebでの受発注へ移した事例をもとに、取引先ごとの切替範囲と、残す経路の扱いを一緒に整理できます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 断りの理由 | IDの登録・操作の手間、費用、既存システムとの不整合、情報管理の不安、変更への抵抗に分けて聞き取る |
| 進め方 | 全社一斉ではなく、取引先を何回かに分けて理由を聞きながら進める |
| 登録・費用が理由 | 取引先の登録が不要でFAX・メールで届く送り方があるかを、自社の製品・プランで確かめる |
| 併用の運用 | 受付窓口、転記の担当と期限、発注履歴の置き場所を決める |
| 取適法の対象取引 | 電子での発注に承諾は不要。書面を求められたら遅滞なく交付し、費用負担の依頼は慎重に扱う |
| 見直し | 注文件数・転記時間・誤り件数を記録し、負担を下げる・併用を恒久化する・対象を絞るから選ぶ |
見直しの記録を取り始めると、併用を続けるか、仕組みの側で負担を下げるかを判断する材料が手元にたまります。 その記録をもとに、Webでの受発注に移したときに減る作業と残る作業を、具体的な注文の流れに沿って確かめられます。
よくある質問
断った取引先に、書面での発注を続けなければならないのか。
取適法の対象となる取引では、アプリなど電磁的方法での発注に受注側の承諾は要りませんが、取引先が書面の交付を求めた場合は、遅滞なく書面を交付する義務があります2。
求められた取引先には、書面での発注を続けることになります。
対象外の取引では、取引先との契約や合意の内容に沿って決めます。
アプリの利用料を取引先に負担してもらってよいのか。
対象取引について、公正取引委員会・中小企業庁のテキストには、費用を負担させたり、協賛金その他の経済上の利益を提供させたりしてはならない旨の記載があります2。
利用料の転嫁が直ちに違反になるとは言い切れませんが、個別の要件に照らして判断される事柄なので慎重に扱い、迷う場合は所管機関や専門家に確認します。
取引先に費用がかからない送り方を選べば、この判断自体が要らなくなります。
取引先がID登録を嫌がるとき、登録なしで発注書を届けられる方法はあるか。
発注側だけがアプリを使い、取引先にはFAXやメールで発注書が届く型の製品があります。
例として、COREC発注側の無料プランでは、発注先は会員登録不要・費用なしで、発注書はFAXやメールで届くと表示されていますが、発注書に商品を登録できる取引先は1社に限られます3。
製品やプランごとに仕様が違うため、自社が使う製品で、登録なしで受け取れる範囲を確かめます。
併用する取引先の転記は、誰がいつまでに行うと運用しやすいか。
取引先からの回答が届く受付窓口を見ている人を転記の担当にすると、受け取りから入力までの受け渡しがなくなります。
期限は発注サイクルに合わせ、毎日発注する品目なら当日中、週に一度の発注なら次の発注日の前まで、というように、次の発注の判断より前に入力が終わるように決めます。
取引先を段階的に切り替えるとき、最初に声をかける取引先をどう選ぶか。
注文の件数が多く、すでにメールで発注書を受け取っていて、断りの理由が登録や費用だった取引先から始めると進めやすくなります。
切り替えたときに減る転記が大きく、受け取り方が変わらない送り方なら取引先の負担も増えにくいためです。
取引先ごとに調整の期間がかかる前提で、同じ時期に動かす数は絞ります。
自社が取適法の対象かどうかは、どこで確かめればよいか。
対象かどうかは、取引の内容と、発注者・受注者の資本金または従業員数の基準で決まり、基準は取引の類型で異なります2。
公正取引委員会・中小企業庁の取適法のテキストで類型と基準を確かめ、個別の取引で判断に迷う場合は、所管機関の相談窓口や弁護士などの専門家に確認します。
- 1 出典:中小企業庁(ミラサポplus)「企業間のデータ連携で、受発注の業務コストを削減する!」(2020年)
- 2 出典:公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(令和7年11月)」(2025年)
- 3 出典:株式会社ラクーンコマース「COREC(コレック) 発注側(バイヤー)向け料金ページ」(2026年)
- 4 出典:日経BP(日経クロステック)「ISDN移行のハードルは業界によって様々、EDIなどは早期対応が必要」(2016年)
- 5 出典:株式会社フライトソリューションズ「EC-Rider B2B 導入事例(日東電工CSシステム株式会社様)」(事例掲載時点)
画像の出典元
- Office worker typing on laptop with coffee and notebooks on desk, capturing a focused work setting./Photo by Sora Shimazaki on Pexels