◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 欠品・遅延は民法415条、品質・種類の不適合は契約不適合責任が請求の土台で、追完と賠償は併せて求められ、賠償は通常生ずべき損害が原則です。
- 特別な事情による損害は仕入先が予見すべきだった場合に限られるため、大口の行事向けや特別仕様の注文は用途を発注書やメールで伝えておくことが意味を持ちます。
- 事業者同士の取引では商法526条により受領後遅滞なく検査し、不適合を見つけたら直ちに通知しないと請求できなくなるため、民法の1年を当てにせず受領後すぐを基準にします。
- 発注側も締切後のキャンセルや理由のない受け取り拒否で賠償を求められ得ます。取適法の対象取引では、発注側が委託事業者として受領拒否や返品を禁じられる側になります。
- 通知期限・返品代替・賠償範囲・キャンセル条件を契約や発注書で決め、受入検品の記録と電話後のメール通知を運用に組み込むと、請求できなくなる事態や言い合いを減らせます。
目次

食材の発注で損害が出る場面と、責任の所在
朝の仕込みの時間に仕入先から欠品の連絡が入る。
届いた魚の鮮度が明らかに悪い。
注文と違う規格の野菜が箱に入っている。
こうしたとき、食材の発注側が仕入先に求められるのは、代わりの品の納品、代金の減額、損害の賠償、契約の解除です1。
ただし賠償は通常生ずべき損害が原則で、宴会の売上のような特別な損失は、仕入先がその事情を予見すべきだった場合に限られます1。
さらに事業者同士の取引では、受領後すぐに検品し、問題を見つけたら直ちに通知しないと、請求そのものができなくなります2。
通知期限・返品・賠償範囲・キャンセル条件を発注の取り決めに置き、検品と記録を日々の運用に組み込むことが、損害を抑える現実的な備えです。
欠品・遅延
発注した食材が約束の日時に届かない、または一部しか用意できないと、前日や当日になって連絡が来る場面です。
仕入先は注文どおりの品を約束の時期に引き渡す約束をしているので、届かないこと自体が仕入先側の履行の問題になります。
民法415条は、債務の本旨に従った履行がされないとき、相手方が損害賠償を請求できると定めています1。
ただし同じ条文は、債務者の責めに帰することができない事由による場合を除いています1。
不漁や産地の天候不順で欠品したときに仕入先の責任を問えるかは、この除外にあたるか、契約で供給できない場合の扱いをどう決めていたかで判断が分かれます。
欠品の連絡を受けた時点で理由を仕入先に聞き、記録しておくと、後で請求するかを判断するときの材料になります。
数量・品目の誤り
注文より少ない数が届いた、指定した産地や規格と違う品が入っていた、別の店舗あての品が混じっていた、といった誤納品です。
品目や規格の違いは「種類・品質」が契約に合わない場面、数の不足は「数量」が契約に合わない場面として扱われ、どの規定が働くかが少し変わります。
特に通知の期限で差が出るため、検品で見つけた誤りが種類・品質の問題か、数量の問題かを分けて記録しておく意味があります。
品質・衛生・表示の事故
鮮度の不良、異物の混入、届いた時点での温度の逸脱、アレルゲンを含む原材料の表示誤りなどです。
仕入先に対しては、契約に適合しない品を引き渡したことの責任を問う形になります。
ところが事故が自社の客にまで及ぶと、客が自社に責任を問う関係が別に生まれます。
発注側は仕入先に請求する立場と、客から請求される立場を同時に持つことになり、この二重の関係が他の場面との大きな違いです。
自社の変更・キャンセル
直前の数量変更、注文の取り消し、届いた品の受け取り拒否、検品の遅れなど、原因が発注側にある場面です。
ここでは立場が逆になり、発注側が仕入先から約束違反の責任を問われ得ます。
また検品や通知が遅れると、仕入先に原因がある不良であっても、自社が請求できなくなることがあります。
自社の運用が自社の請求権を左右するという点は、この記事で検品と通知を詳しく扱う理由でもあります。
▼ 図の内容を文字で読む
- 欠品・遅延
- 民法415条の損害賠償
- 仕入先の責めに帰することができない事由は除かれる
- 数量・品目の誤り
- 種類・品質の違いは契約不適合の問題
- 商人間は商法526条の検査・通知が前提
- 品質・衛生・表示の事故
- 仕入先へは契約不適合責任
- 客から製造業者等へは製造物責任法
- 自社の変更・キャンセル
- 発注側が民法415条の賠償を求められ得る
- 取適法の対象取引では受領拒否・返品が禁止される場合がある
欠品・遅延・誤納品・品質不良で、仕入先に請求できる範囲
請求できる手段(追完・減額・賠償・解除)
欠品や遅延のように、約束した品が約束の時期に届かない場合、請求の中心は民法415条による損害賠償です1。
届かない状態が続いて取引を続ける意味がなくなれば、民法541条・542条の解除によって契約を終わらせ、別の仕入先に切り替えることも選択肢になります。
届いた品の種類や品質が契約に合わない場合は、契約不適合責任の問題になります。
契約不適合責任とは、引き渡した品が種類・品質・数量の点で契約の内容に合わないときに、売主が負う責任のことです。
発注側が求められるのは、代わりの品や不足分を届けてもらう追完、代金の減額、損害賠償、契約の解除です。
これらは一つを選ぶと他が使えなくなる関係ではありません。
民法564条は、追完や代金減額の規定が、415条による損害賠償や541条・542条による解除を妨げないと定めています1。
たとえば傷んだ葉物を交換してもらっても、交換品が届くまでのあいだに近くの業者から急ぎで買い足した費用は、交換とは別に賠償の問題として残ります。
通常損害と特別損害
請求できる損害の範囲を決めるのが民法416条です。
賠償の対象はその不履行から通常生ずべき損害が原則で、特別な事情から生じた損害は、当事者がその事情を予見すべきだったときに限って請求できます1。
仮に、週末の宴会のために特定の魚を発注していて、当日に欠品したとします。
代わりの魚を別の業者から手配した費用は、欠品があれば一般に起こり得る損害として考えやすい部類です。
一方、代わりが見つからずコースの内容を変えて料金を下げた損失や、予約そのものが取り消された損失は、その宴会のための発注だと仕入先が知り得たかどうかで扱いが変わります。
分かれ目になるのは、発注のときに用途や事情を伝えていたかです。
いつもの定番品と同じ書式で注文し、備考も空欄なら、仕入先にとってはふだんの納品の一つにしか見えません。
大口の行事や特別な仕様の品を頼むときに、何のための注文で、遅れたら何が起きるかを発注書やメールに書いておけば、予見すべきだったかが争われる場面で事情を示す材料になります。
伝えたから必ず賠償されるわけではなく、予見すべきだったかどうかは個別の事情で判断されます。
民法の1年の通知期限
種類や品質の不適合には通知の期限があります。
民法566条は、買主が不適合を知った時から1年以内に売主へ通知しないと、追完・減額・賠償・解除ができなくなると定めています1。
ただし売主が引渡しのときに不適合を知っていた場合や、重大な過失で知らなかった場合は、この期限による制限を受けません1。
この規定が対象にするのは種類・品質の不適合で、欠品そのものや数量の不足は含まれていません。
欠品は415条の問題として扱い、数量不足は次に見る商法の規定で扱いが変わります。
また、1年という期間を見て「品質の問題なら後からでも間に合う」と考えるのは早計です。
飲食店と卸のような事業者同士の取引には、これよりずっと短い時間で動かなければならない規定が別にあるからです。
▼ 図の内容を文字で読む
- 通常生ずべき損害
- 原則として賠償の対象
- 例:代わりの魚を別の業者から手配した費用
- 特別な事情による損害
- 仕入先が事情を予見すべきだったときに限り請求できる
- 例:コース内容の変更による料金の引き下げ、予約の取り消し
- 分かれ目になること
- 発注のときに用途や遅れたら何が起きるかを伝えていたか
- 発注書やメールに書いておくと事情を示す材料になる
商人間の取引では、受領後の検査と通知期限が請求権を左右する
遅滞なく検査する
商法526条は、商人間の売買について、買主が目的物を受領したときは遅滞なく検査しなければならないと定めています2。
食材を仕入れる飲食店や給食・ホテル・小売の運営会社と、それを売る卸や生産法人との継続的な取引は、この規定が働く前提で運用を組んでおくのが安全です。
相手が個人の生産者である場合など、当事者の一方が商人にあたるかの判断が要る取引では前提が変わり得るため、取引先ごとに確認しておく必要があります。
条文は検査までの日数を示しておらず、「遅滞なく」の中身は品物と取引の事情で決まります。
常温で日持ちする乾物と、届いた時点から状態が変わり始める鮮魚や葉物とでは、同じ「遅滞なく」でも求められる早さが違うと考えるのが自然です。
生鮮を扱う現場では、受領したその場で数量・品目・外観・温度を確かめることを基準にしておくと、後で検査が遅かったと言われる余地を小さくできます。
直ちに通知する
検査で種類・品質・数量の不適合を見つけたら、買主は直ちに売主へ通知しなければならず、通知しなければ追完・減額・賠償・解除ができなくなります2。
民法566条との大きな違いは二つあります。
一つは期限の起点と長さで、知った時から1年ではなく、見つけたら直ちにです。
もう一つは対象で、商法の規定には数量の不適合も含まれます。
民法だけを読むと、品質不良には1年の猶予があるように見えます。
しかし事業者同士の取引では商法の検査・通知義務が先に効いてくるため、現場の検品と通知は「受領後すぐ」を基準にすべきだと考えられます。
二つの規定の細かな関係や、契約で期間を変えた場合の扱いは個別の判断になりますが、少なくとも「1年あるから急がなくてよい」という運用は避けたほうが安全です。
なお、売主が不適合を知っていた場合には、この規定は適用されません2。
とはいえ仕入先が知っていたことを発注側が示すのは簡単ではなく、この例外を当てにして通知を後回しにする理由にはなりません。
直ちに発見できない不適合は6か月
箱を開けて表面を見ただけでは分からない不良もあります。
冷凍の魚を解凍して初めて身の傷みが分かる、束の内側だけが傷んでいる、加工品を開封して異臭に気づく、といった場面です。
商法526条は、直ちに発見できない不適合について、受領後6か月以内に発見した場合も、同じく直ちに通知しなければならないとしています2。
つまり受領時の検査で見つけられなかった不良でも、見つけた時点ですぐ知らせれば請求の道は残ります。
反対に、受領時に確かめれば見つかったはずの不良を後から申し出ると、それが「直ちに発見できない」不適合にあたるのかが争点になります。
受領時の検品記録は、受領時点では分からなかったことを示す材料にもなります。
6か月を過ぎてから見つかった不良は請求が難しくなる方向で考え、在庫期間の長い冷凍品や乾物ほど、開封時に状態を確かめる習慣をつけておくと安心です。
| 観点 | 民法566条 | 商法526条 |
|---|---|---|
| 対象の取引 | 売買一般 | 当事者双方が商人の売買 |
| 対象の不適合 | 種類・品質 | 種類・品質・数量 |
| 求められる行動 | 知った時から1年以内に通知 | 受領後遅滞なく検査し、発見したら直ちに通知 |
| すぐ見つからない不適合 | 知った時から1年以内に通知 | 受領後6か月以内に発見したときも直ちに通知 |
| 適用されない場合 | 売主が引渡し時に悪意または重過失 | 売主が悪意 |
| 通知しないと失う請求 | 追完・減額・賠償・解除 | 追完・減額・賠償・解除 |
▼ 図の内容を文字で読む
- 受領する
- 食材を受け取る
- 遅滞なく検査する
- 数量・品目・外観・温度を受領時に確かめる
- 直ちに発見できない不適合は受領後6か月以内に見つけた場合も対象
- 直ちに通知する
- 種類・品質・数量の不適合を見つけたら直ちに売主へ
- 通知しないと請求ができなくなる
- 請求の道が残る
- 追完・減額・賠償・解除
契約書がない取引(発注書・メール・電話)での扱い
法の原則が適用される部分
取引基本契約を結ばず、発注書やFAX、メール、電話での注文だけで続いている取引もあります。
この場合でも、注文を出して仕入先がそれを受けた時点で売買の約束はできており、ここまで見てきた民法・商法の規定はその取引に働きます。
商法526条の検査・通知義務も、商人間の売買であることが条件で、契約書を作ったかどうかは条件になっていません2。
契約書がないと変わるのは、法律の原則を上書きする取り決めがないことです。
通知期限は商法・民法の定めどおり、賠償の範囲は416条の原則どおりで、キャンセルの締切や返品の方法は決まっていない状態になります1。
発注側にとっては有利な面と不利な面の両方があり、たとえば賠償の上限による制限がない一方で、返品の受け方や代替納品の期限を相手に求める根拠もはっきりしません。
記録が必要になる部分
契約書がない取引で困るのは、何を約束していたかと、いつ何を知らせたかを後から示す場面です。
電話で「明日の朝、いつもの規格で」と頼み、届いた品の規格が違ったとき、どちらの理解が正しかったかを示す手がかりが会話の記憶しかなければ、話は平行線になりがちです。
通知も同じで、商法526条の「直ちに」通知したかどうかは、通知した日時と内容が残っていなければ示しにくくなります2。
電話で注文する取引でも、注文後に品目・規格・数量・納品日時を同じ内容でメールやFAXで送り、仕入先から受けた旨の返信をもらうだけで、約束の中身が文字で残ります。
欠品や遅延の連絡が電話で来たときも、受けた時刻と相手の担当者、理由をメモに残し、必要なら確認のメールを返しておくと、後で請求するかを判断する材料になります。
こうした記録が争いになったときにどこまで役立つかは事案によりますが、何も残っていない状態に比べれば、説明の手がかりは確実に増えます。
自社が負う責任:キャンセル・変更・受取拒否・検品遅れ
債務不履行になる行為
発注側も、取引の当事者として約束を守る責任を負います。
代金を期日に支払うことのほか、合意した日時に品を受け取れるようにしておくこと、合意した締切を過ぎてから一方的に数量を変えたり注文を取り消したりしないことが、仕入先から見た発注側の約束の中身になり得ます。
約束を守らなければ、民法415条によって発注側が損害賠償を求められる側になり得ます1。
食材の取引で特に影響が大きいのは、生鮮品の直前キャンセルや受け取り拒否です。
仕入先がすでに市場で仕入れたり、カットや下処理を済ませたりしている品は、別の取引先へ回すことが難しく、廃棄になれば損失がそのまま残ります。
仕入先が請求できる範囲も416条の原則で考えることになり、発注側が負担を求められる額は、品の性質や仕入先がどこまで準備していたかで変わります1。
受け取りを拒んだ理由が品質不良や誤納品であれば、話は別です。
その場合は発注側が責任を問う側であり、拒んだ理由を示せるかが重要になります。
受け取り拒否の場面で写真や温度の記録を残しておくのは、自社の請求のためだけでなく、自社が約束違反をしていないことを示すためでもあります。
検品の遅れも見落とせません。
商人間の取引では通知が遅れると、仕入先に原因がある不良でも請求できなくなるため、検品の遅れは損害を自社で抱えることに直結します2。
取適法の対象かどうかの確認
取適法(旧下請法)は、発注する側の事業者を「委託事業者」として規制し、受注する側の中小受託事業者を守るための法律です。
発注側が仕入先に何かを請求する根拠になる法律ではなく、むしろ発注側が守るべきルールを定めています。
対象になるのは製造委託や役務提供委託などの決まった取引の類型で、さらに当事者の資本金や従業員の規模の基準を満たす場合に限られます。
市場に出回る規格品の食材を単に仕入れる取引が当然に対象になるとは言えず、該当し得るのは、自社ブランドの加工品の製造を外部に委託する場合など、類型と規模の基準を満たす取引です。
自社の取引が対象かどうかは、取引の中身と双方の規模を照らして確認する必要があります。
対象になる取引では、中小受託事業者に責任がないのに給付の受領を拒むこと(受領拒否)と、受領後に返品すること(返品)が、委託事業者の禁止行為になります4。
返品については、物品に不備があるなど受託側に明らかな責任がある場合が除かれ、不良品を受領後速やかに返品することは問題にならないとされています4。
公正取引委員会の説明には返品できる具体的な日数は示されていないため、ここでも受領後すぐの検品と、不備の内容を示せる記録が実務の前提になります。

食品事故では、仕入先・自社・製造業者の責任がどう分かれるか
PL法の対象と責任主体
食中毒やアレルゲンの表示誤りのように、事故が人の健康に及ぶ場面では、製造物責任法(PL法)も関わってきます。
PL法は、製造又は加工された動産を「製造物」とし、引き渡した製造物の欠陥によって他人の生命・身体・財産を侵害したとき、製造業者等が賠償責任を負うと定めています3。
押さえておきたいのは、PL法で請求するのは被害を受けた人で、責任を負うのは製造業者等だという点です。
店の客が被害を受けたなら、請求する立場にあるのは客であり、発注側の店がPL法を使って仕入先に請求する構図とは異なります。
カット野菜や下味をつけた肉、調味料のように加工された食材は製造物にあたり得ますが、収穫したままの野菜や水揚げしたままの魚の扱い、飲食店が調理して出した料理の扱いは、条文の文言だけでは判断できず、個別の確認が必要です。
製造業者等には、引き渡した当時の科学や技術の知見では欠陥を認識できなかったことを証明すれば責任を免れる道があります3。
また請求には期間の制限があり、被害者が損害と賠償義務者を知った時から3年(生命・身体の侵害は5年)、製造物を引き渡した時から10年で時効により消滅します3。
発注側が契約で備えること
発注側が仕入先に対して使うのは、PL法ではなく、これまで見てきた契約不適合責任と債務不履行の規定です。
不良の食材を引き渡されたことについて追完・減額・賠償・解除を求めることになり、商人間の取引なら商法526条の通知が前提になります2。
一方で、客に対しては自社の責任が別に生じ得ます。
客への対応を先に済ませ、その負担を後から仕入先に求める流れになり得るため、仕入先との間で何を取り決めておくかが重要になります。
契約で備えておきたいのは、事故が疑われたときの連絡窓口と連絡の期限、原因調査への協力、ロットや産地・加工日などの情報の提供、そして自社が客に支払った費用を仕入先に求める場合の扱い(求償)です。
仕入先が製造業者から仕入れた品であれば、仕入先も製造業者に原因を問い合わせる立場になるため、情報の受け渡しの手順を決めておくと、原因の特定に時間がかかって対応が遅れる事態を減らせます。
食品衛生や表示に関する行政上の対応は別の法令が関わるため、事故の際には所管の窓口や専門家に早めに相談することになります。
▼ 図の内容を文字で読む
- 客(被害者)
- 自社に対して責任を問い得る
- 製造業者等にはPL法で賠償を求める
- 自社(発注側)
- 仕入先へは契約不適合として追完・減額・賠償・解除
- 商人間は商法526条の通知が前提
- 客に支払った費用の求償は契約で取り決める
- 仕入先
- 製造業者から仕入れた品は製造業者に原因を問い合わせる立場
- 製造業者等
- 引渡し当時の知見で欠陥を認識できなければ責任を免れる道がある
- 時効は知った時から3年(生命・身体は5年)、引渡しから10年
取引基本契約・発注書・検収ルールで決めておく項目
通知期限・返品代替
ここまでの論点の多くは、契約で調整できる項目に置き換えられます。
最初に決めておきたいのは通知の期限と方法です。
商法526条の「遅滞なく」「直ちに」は幅のある言葉なので、受領時に分かる数量・品目・外観の不適合は納品当日中に、開封や調理で初めて分かる不適合は発見後すぐに、といった形で、自社の現場が守れる基準を書いておくと双方の認識がそろいます2。
通知の方法も、電話に加えてメールや所定の書式で送る、写真を添える、と決めておけば記録が残ります。
返品と代替納品については、不良品を引き取ってもらうのか廃棄でよいのか、廃棄なら写真で足りるのか、代替品をいつまでに届けるのか、運賃や処分費をどちらが負担するのかを決めます。
生鮮品は返送している間に価値がなくなるので、現物を返すより写真と記録で確認し、廃棄と代替納品で処理する取り決めのほうが現場に合う場合があります。
法定の期間を契約でどこまで変えられるかは個別の確認が必要で、条項の文言は専門家に見てもらう前提で考えるのが安全です。
賠償範囲・上限・特別事情の申告
仕入先から示される契約書には、賠償額の上限を「その取引の代金額まで」のように定める条項が入っていることがあります。
発注側として確かめたいのは、上限の対象に代替品の手配費用が含まれるのか、事故で客に支払った費用の求償まで上限で縛られるのか、という範囲の問題です。
上限の有無だけでなく、どの損害がどこまで対象になるかを読み、受け入れられない部分を交渉の論点にします。
特別な事情の申告も、ここで仕組みにしておけます。
民法416条では、特別な事情による損害は予見すべきだったときに請求できるため、大口の行事向けや特別仕様の注文では発注書に用途を書く欄を設ける、行事予定を事前に共有する、といった手順を発注ルールに入れておくと、事情を伝えたかどうかが記録に残ります1。
キャンセル条件
発注側が負う責任の範囲をはっきりさせる条項です。
変更・キャンセルの締切を品目の性質ごとに決め、締切後の取り消しで負担する費用の範囲(仕入済みの品の代金、加工済みの品の加工費、廃棄費用など)を書いておきます。
定番の常温品と、市場で当日仕入れる生鮮品、取り寄せの特注品とでは、仕入先が準備を始める時点が違うため、締切を一律にするとどちらかに無理が出やすくなります。
締切と費用が先に決まっていれば、直前の変更のたびに負担を話し合う手間が減り、仕入先との関係も保ちやすくなります。
取引規模別の選び方
すべての取引先と取引基本契約を結ぶのが現実的でないこともあります。
取引額が小さく、常温の定番品が中心の取引先であれば、発注書の裏面や発注メールの定型文に、通知の期限と方法、返品・代替の扱い、キャンセルの締切を最低限置いておく方法があります。
裏面や定型文の条件が相手との約束として扱われるかは相手がそれを受け入れたかにも関わるため、取引を始めるときに条件を示し、了承を得ておくことが前提になります。
反対に、取引額が大きい取引先、生鮮品や加工品を多く扱う取引先、アレルゲンに関わる品を扱う取引先ほど、賠償の範囲や事故時の協力まで含めて取引基本契約で決めておく意味が大きくなります。
口頭だけの取引は、決めた内容も通知の事実も残りにくいため、少なくとも注文内容をメールなどで送り返す運用を組み合わせるのが現実的です。
| 観点 | 取引基本契約 | 発注書の裏面・発注メールの定型文 | 口頭(電話)のみ |
|---|---|---|---|
| 決めておける項目 | 通知期限・返品代替・賠償範囲と上限・キャンセル条件・事故時の協力 | 通知期限と方法・返品代替・キャンセル締切などの最低限 | 個別に話した内容のみ |
| 条件が文字で残るか | 残る | 残る(相手の了承を得ておくことが前提) | 残らない |
| 注文内容の記録 | 個別の発注書・メールで残す | 発注書・メールで残る | 送り返すメールなどで補う |
| 向いている取引(編集部の考え) | 大口・生鮮・加工品・アレルゲンに関わる取引 | 小口で常温の定番品が中心の取引 | 書面の運用と組み合わせて使う |
契約で防ぎきれない損害を減らす現場の運用
受入検品と記録
契約で通知期限を決めても、受け取る現場が検品できなければ意味がありません。
納品の時間帯が仕込みや開店準備と重なる店では、誰が受け取り、何を確かめ、どこに記録するかを決めておかないと、品物が冷蔵庫に入ったまま検品が後回しになりがちです。
確かめる項目は、納品書と発注内容の照合(品目・規格・数量)、外観、表示、冷蔵・冷凍品の温度です。
不良や誤りが見つかったときは写真を撮り、受領の時刻と気づいた時刻、確かめた人を残します。
こうした記録があれば、受領時点で分かったことと後から分かったことを区別して説明でき、直ちに発見できない不適合として扱えるかを考えるときの手がかりにもなります2。
記録を残しても不良そのものがなくなるわけではありませんが、通知の遅れで請求できなくなる事態や、事実関係をめぐる言い合いは減らせます。
通知の残し方
急ぎの対応が要る欠品や不良は、まず電話で伝えるのが現実的です。
ただ電話だけで済ませると、いつ何を伝えたかが残りません。
電話の後に、納品日、品目、不適合の内容、写真、求める対応(交換・不足分の納品・減額など)を書いたメールを送る、という二段階を決まりにしておくと、商法526条の「直ちに」通知したことを後から示しやすくなります2。
定型の文面を用意しておけば、忙しい時間帯でも項目の書き漏れが減ります。
代替仕入先
欠品の連絡が当日に来たとき、代わりの食材をどこから調達するかをその場で探し始めると、時間も費用もかかります。
主要な品目ごとに代替の仕入先と連絡先、発注の締切時刻を一覧にしておき、誰が代替手配を判断するかを決めておくと、欠品の影響を営業に出さずに済む場面が増えます。

代替手配をしたときは、通常の仕入値との差額や追加の運賃、手配にかかった手間を記録しておきます。
仕入先に請求するかどうかは、欠品の理由が仕入先の責めに帰するものか、損害が通常生ずべきものか、契約で何を決めていたかによって変わるため、記録は請求を決める前の材料という位置づけです1。
請求しないと判断した場合でも、どの品目で欠品が起きたかの記録は、仕入先との条件の見直しや代替先の選び直しに使えます。
通知期限や賠償範囲を自社の取引に合わせて決めるには、いまの発注の流れのどこで注文内容や通知が記録に残り、どこで残っていないかを先に整理する必要があるため。
現在の発注書・発注メール・電話注文と受入検品の手順を並べ、注文内容と通知の記録が抜けている箇所を確かめられます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 欠品・遅延 | 民法415条の損害賠償が中心。仕入先の責めに帰さない事由なら除かれる |
|---|---|
| 品質・種類の違い | 契約不適合として追完・減額・賠償・解除を併せて検討できる |
| 賠償の範囲 | 通常生ずべき損害が原則。特別な事情による損害は予見すべきだった場合のみ |
| 検品と通知 | 商人間は受領後遅滞なく検査し、発見したら直ちに通知。後から分かる不良も受領後6か月以内の発見なら直ちに通知 |
| 自社の責任 | 締切後のキャンセルや理由のない受け取り拒否は賠償を求められ得る |
| 食品事故 | PL法は被害者が製造業者等に請求する法律。仕入先とは契約で原因調査や求償を決める |
| 取り決め | 通知期限・返品代替・賠償範囲・キャンセル条件を契約か発注書に置き、相手の了承を得る |
取引先ごとに発注方法や取り決めがばらばらだと、どの取引に通知期限やキャンセル条件が欠けているかが見えにくいため。 取引先別に発注方法と取り決めの有無を棚卸しし、発注書の定型文や記録の運用から手を付けるべき取引先を確かめられます。
よくある質問
仕入先から欠品の連絡が当日にあった場合、代替品の調達費用は請求できるのか
請求できる可能性はありますが、二つの点で判断が分かれます。
一つは、欠品の理由が仕入先の責めに帰することができない事由にあたるかどうかで、あたる場合は民法415条の損害賠償を求められません1。
もう一つは賠償の範囲で、民法416条により通常生ずべき損害が原則となり、特別な事情による損害は仕入先が予見すべきだった場合に限られます1。
代替手配で生じた差額や追加の費用を記録し、欠品の理由を仕入先に確かめたうえで、契約に欠品時の取り決めがあればそれと合わせて判断します。
検品で見つからず数日後に品質不良が分かった場合の通知期限はどうなるのか
事業者同士の取引で、受領時の検査では見つけられない不良だった場合、受領後6か月以内に見つけたのであれば、見つけた時点で直ちに通知すれば請求の道が残ります2。
受領時の検査で見つかったはずの不良だと、検査や通知が遅れたとして請求できなくなるおそれがあります2。
民法566条には知った時から1年以内の通知という定めもありますが1、事業者同士の取引では商法の短い期限を基準に動くのが安全です。
見つけたらすぐ、写真と状況を添えて通知するのが基本です。
電話だけで注文した食材の誤納品を、後から証明するには何を残せばよいか
注文の内容と、届いた品の状態の両方を残すことです。
注文については、電話の後に品目・規格・数量・納品日時をメールやFAXで送り、仕入先から受けた旨の返信をもらっておくと、約束の中身が文字で残ります。
届いた品については、納品書と現物の写真、受領と確認の時刻を残し、誤りを伝えた日時と内容もメールで残します。
すでに起きた誤納品で記録が少ない場合は、通話の履歴や納品書、仕入先とのやり取りなど手元にあるものを時系列で整理しておくと、説明しやすくなります。
仕入先が賠償額の上限を契約で決めている場合、発注側は交渉できるのか
交渉はできます。
契約の条件は双方の合意で決まるため、提示された上限を受け入れるかどうかも発注側の判断です。
交渉では上限額そのものより、どの損害が上限の対象になるか(代替手配の費用、客に支払った費用の求償など)を具体的に詰めると、論点がはっきりします。
特別な注文では事情を事前に伝える手順を契約に入れておくことも、民法416条の予見すべき事情との関係で意味があります1。
上限条項がどこまで効力を持つかは事案によるため、重要な取引では契約書を専門家に見てもらうと安心です。
発注側が前日にキャンセルした場合、仕入先から費用を請求されることはあるのか
あります。
注文が成立した後に発注側の都合で取り消すと、約束違反として民法415条による損害賠償を求められる可能性があります1。
賠償の範囲は通常生ずべき損害が原則で1、すでに市場で仕入れた生鮮品やカット済みの品のように他へ回しにくいものほど、損失は大きくなりがちです。
締切と費用負担を事前に決めておけば、その取り決めに沿って処理でき、都度の話し合いが減ります。
取適法は食材を仕入れる飲食店にも適用されるのか
食材を単に仕入れるだけの飲食店が当然に対象になるとは言えません。
取適法は製造委託や役務提供委託などの取引の類型と、資本金や従業員の規模の基準を満たす取引に適用される法律で、規格品の食材を購入する取引がこれにあたるかは取引の中身で分かれます。
自社ブランドの商品の製造を外部に委託している場合などは該当し得ます。
対象になる場合、飲食店は守られる側ではなく規制される委託事業者の側になり、中小受託事業者に責任がない受領拒否や、明らかな不備がない場合の返品が禁止されます4。
- 1 出典:法令データ(hourei.net掲載)「民法(明治29年法律第89号)415条・416条・564条・566条」(2026年閲覧)
- 2 出典:法令データ(hourei.net掲載)「商法(明治32年法律第48号)526条」(2026年閲覧)
- 3 出典:法令データ(hourei.net掲載)「製造物責任法(平成6年法律第85号)2〜5条」(2026年閲覧)
- 4 出典:公正取引委員会「委託事業者の禁止行為」(2026年閲覧)