◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 移す範囲は年数ではなく、切替後に誰かが更新するデータかどうかで分ける
- 参照用データは、法人なら事業年度ごとに申告期限の翌日から原則7年(例外10年)見られる状態を保ち、検収書が対象かは税理士・税務署に確認する
- 電子で受け取った書類は、取引データとは別に、データのまま残す方法を決める
- 試行移行では件数・金額合計・状態別件数を取引先別・月別に照合し、差異ゼロか説明がつくことを切替の条件にする
- データの正誤判断は自社が持ち、取り込みはベンダーに任せ、移行結果の検収方法を契約前に共有する
目次

検収データ移行で最初に決めるのは、移す範囲ではなく「止めてはいけない業務」
新しい検収システムの稼働日が決まり、旧システムから過去の発注・納品・検収データを移す段階に来ると、「全部移すべきか」「移した結果を信じてよいか」で手が止まりがちです。
迷いをほどく鍵は、データを二つに分けることです。
切替の翌日から検収を続けるのに要る未検収案件とマスタは新システムへ移します。
検収済み履歴は証憑・参照用として、法人の帳簿・取引関係書類の原則7年という保存義務に沿って残し方を決めます1。
そのうえで、試行移行の件数・金額・状態を突き合わせ、差異がないか、説明がつくかで切替を判断します。
切替日の翌日に検収担当が見るもの
移行の準備に入ると、まず「過去何年分を移すか」を決めようとしがちです。
ところが、年数で区切ろうとしても決め手がありません。
直近の数年分で足りるのか、念のため全部移すべきか、考えるほど迷いが深くなります。
そこで問いを置き換えます。
切替日の翌朝、検収担当が新しいシステムを開いたとき、何を見て、何を確定するのかです。
たとえば、切替の前週に発注し、切替後に品物が届く案件を考えます。
検収担当は納品書と現物を突き合わせ、新しいシステムでその発注を呼び出して、数量と金額が合っていれば検収を確定します。
この操作には、発注番号・取引先・品目・数量・金額を持った発注データが要ります。
「まだ検収していない」という状態と、取引先や品目のマスタ(取引先一覧や品目一覧のように、各取引が参照する基本情報)も欠かせません。
どれかが新しいシステムに無ければ、担当者は旧システムを開いて内容を書き写すことになり、切替の意味が薄れます。
分納の案件も同じです。
発注の一部だけが届いて検収済みになり、残りがまだ届いていない場合、その発注は業務としては終わっていません。
旧システムで「一部検収」のような状態だった案件は、残りの納品を新システムで受けられるよう、検収済みの数量と残りの数量が分かる形で移す必要があります。
一方、前の期に検収を確定し、支払いも終わった案件は、翌朝の作業には出てきません。
それを見るのは、取引先から過去の納品について問い合わせを受けたとき、社内監査や税務調査で取引を確かめるとき、同じ品目の過去の単価を調べるときなどです。
必要になる場面はありますが、毎日の検収を止める原因にはなりません。
必須データと参照用データの分け方
この違いから、移行対象を次の二つに分けて考えると判断しやすくなります。
- 必須データ:未検収の案件、一部検収の案件、差し戻しや保留中の案件、取引先・品目などのマスタ、各案件の検収状態
- 参照用データの候補:検収を確定し、以後は更新しない検収済み履歴と、それに付随する納品書・請求書などの関連書類
境目で迷う案件は、「切替後に誰かがこのデータを更新するか」で振り分けます。
検収は済んだが請求書との照合が残っている案件や、返品の手続き中の案件は、切替後に状態が変わるため必須側に入れます。
見るだけで済むものは参照用の候補です。
この分け方は業界で定まった基準ではなく、進め方の提案です。
使う製品の機能や社内の運用によって、必須側に入る項目は変わります。
参照用に回したデータも、消してよいわけではありません。
どこに、どれだけの期間、どの形で残すかは、法令の保存義務が条件になります。
▼ 図の内容を文字で読む
- 移行元の発注・納品・検収データ
- 必須:未検収・一部検収・保留中の案件、取引先・品目マスタ、検収状態
- 参照・保存用の候補:検収済み履歴、関連する納品書・請求書
旧データを残す期間と形は法令の保存義務で決まる
法人の保存期間は原則7年、例外は10年
国税庁によると、法人は帳簿と、取引に関して作成・受領した書類を、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存しなければなりません1。
平成30年4月1日以後に開始した事業年度のうち、青色繰越欠損金や災害損失金額が生じた事業年度は10年間です1。
ここで押さえておきたいのは、期間が事業年度ごとに数えられることです。
旧データ全体に一つの期限があるのではなく、各事業年度の書類について、その年度の申告期限の翌日から数えます。
つまり、旧システムに入っている最後の事業年度の書類が期限を迎えるまで、参照用データはどこかで見られる状態にしておく必要があります。
切替が事業年度の途中なら、その年度の取引は旧環境と新環境に分かれて記録されることにも注意が要ります。
同じページで書類の例として挙げられているのは注文書・契約書・領収書などで、検収書は例示にありません1。
自社の検収書や検収データがどの書類に当たり、保存の対象になるかは、顧問税理士か税務署に確認したうえで決めます。
なお、ここでの期間は法人の場合で、個人事業者は期間が異なります。
電子データで受け取った書類の保存
移行で見落としやすいのが、取引先からデータで受け取った書類です。
国税庁は、請求書等をPDFなどのデータで受け取った場合、そのデータもルールに基づいて保存する必要があると説明しています2。
取引先とデータでやり取りした請求書や領収書も対象です2。
紙に印刷して綴じておくだけでは足りません。
旧システムに、取引先から届いたPDFの納品書や請求書を案件ごとに添付している場合を考えます。
新システムへ取引データだけを移し、添付ファイルを移さなければ、そのファイルは旧環境にしか残りません。
その状態で旧システムを解約すれば、データとして保存すべき書類がまとめて見られなくなるおそれがあります。
添付ファイルを移すのか、旧環境や別の保存先にデータのまま残すのかは、取引データの範囲とは別に決めておきます。
電子帳簿保存法では、帳簿書類を電磁的記録で保存する方法、紙の書類をスキャナで読み取って保存する方法、電子取引のデータを保存する方法の3つの区分が認められています1。
電子取引データの保存要件の細部は国税庁の別資料で示されているため、保存先を決める前に原典か顧問税理士で確かめます。
2024年1月1日以後の電子取引については、要件どおりに保存できなかったことに相当の理由があると税務署長が認め、ダウンロードの求めや書面の提示に応じられる場合には、データを単に保存しておけば差し支えないとされています2。
事前の申請は不要ですが、これは両方の条件を満たす場合の扱いです2。
移行の段取りで添付ファイルの扱いを決めずに済ませてよい理由にはなりません。
旧環境を参照用に残すときの確認点
参照用データを旧環境に残すと決めた場合、その旧環境が保存期間の終わりまで使えるかが問題になります。
旧システムの契約を続けるのか、解約前にデータを出力して自社で保管するのかで、確かめる点が変わります。
- 旧システムの契約や保守がいつまで続くか、閲覧だけの利用に切り替えられるか
- 出力する場合の形式(CSVなど)と、添付ファイルが案件と結び付いたまま出せるか
- 出力したデータを、誰が、どの端末や保存先から見られるようにするか
- 保存期間を過ぎた事業年度のデータを、いつ、誰の判断で消去するか
契約を続ける前提で計画するなら、その前提が保存期間の最後まで成り立つかを、提供元との契約書や利用規約で確認しておきます。
保守が終われば、旧システムを使い続けられる保証はなくなるからです。
出力して保管する場合は、検収済みの案件を一件選び、出力したデータだけで発注から検収までの経緯を追えるかを試すと、足りない項目に気づけます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 起点:その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日
- 原則:7年間
- 青色繰越欠損金・災害損失金額が生じた事業年度:10年間
出典:国税庁「No.5930 帳簿書類等の保存期間」法人の帳簿・取引関係書類、平成30年4月1日以後開始の事業年度
全件・未完了分のみ・段階の移行を、手間とリスクで比べる
比較表:4つの軸
必須データと参照用データの区別、参照用データを残す期間の考え方が整ったら、次は移行の方式です。
代表的なのは、旧データをすべて移す全件移行、未完了の案件とマスタだけを移す未完了分のみ移行、取引先や拠点、期間などで区切って何回かに分けて移す段階移行の3つです。
手間、移行ミスの影響範囲、切替後の履歴参照、保存義務への対応の4つの軸で並べると、次のようになります。
表には順位を付けていません。
方式ごとの工数やリスクはデータの量や品質で大きく変わるため、ここでは一般的な特徴の整理にとどめています。
どの方式が優れているかではなく、自社の条件でどの軸が重いかで選びます。
判断が分かれやすいのは、移行ミスの影響範囲と履歴参照の組み合わせです。
全件移行は、切替後に過去の検収も新しい画面で引ける代わりに、旧データに眠っていた重複や欠損まで新環境へ持ち込みます。
古い取引先コードの重複が新しいマスタの中で同じ取引先を二つ作ってしまう、といった問題は、移す件数が多いほど見つけにくくなります。
未完了分のみ移行は、移す件数が少ないぶん突合も絞れますが、過去分を見るたびに旧環境か出力データを開くことになり、その手段を保存期間の終わりまで保つ仕事が残ります。
段階移行は、一回あたりの範囲を小さくできる一方で、新旧が併存する期間が生まれます。
同じ取引先の案件が、移行済みの分は新システムに、未移行の分は旧システムにある状態では、検収担当がどちらで確定するかを取り違えるおそれがあります。
区切りの単位と、どの案件がどちらにあるかを担当者が見分ける手段を、先に決めておく必要があります。
状況別の選び方
自社の状況に当てはめるときは、次の三つの問いから考えると選びやすくなります。
- 旧データの品質はどうか:重複や空欄が多く、整えるのに時間がかかるなら、未完了分のみ移行で範囲を絞る理由になります
- 過去の検収を日常的に見るか:返品や保証の対応、同じ品目の過去単価の確認で検収済み履歴を頻繁に開くなら、全件移行か、未完了分に直近の期間分を加える形が候補になります
- 一度に切り替えられるか:拠点や取引先が多く、全員に同じ日から新しい手順で動いてもらうのが難しいなら、段階移行が現実的です
方式は一つに絞る必要はありません。
未完了分とマスタは必ず移し、検収済み履歴は直近の事業年度分だけを移して、それより古い分は出力データで残す、といった組み合わせも考えられます。
この場合、どの事業年度から先を新環境で見られるのかを検収担当と経理に伝えておかないと、問い合わせのたびに探す場所で迷います。
古い分を出力データで残す期間は、前の節で見た事業年度ごとの保存期間に合わせます。
| 観点 | 全件移行 | 未完了分のみ移行 | 段階移行 |
|---|---|---|---|
| 手間 | 移行・突合する件数が最も多い | 対象が少なく突合も絞れる | 一回の作業は小さいが回数が増える |
| 移行ミスの影響範囲 | 古いデータの欠損・重複も新環境へ入る | 誤りの影響は進行中の案件に集中する | 回ごとに範囲は限られるが新旧の境目で誤りが生じうる |
| 切替後の履歴参照 | 新環境で一元的に引ける | 過去分は旧環境や出力データで見る | 移行済みと未移行で見る場所が分かれる |
| 保存義務への対応 | 新環境での保存に乗せられる | 旧環境側で保存期間中の閲覧手段を保つ | 併存期間中は両方の保存状態を管理する |
移行前に整えるデータと、新旧の項目の対応づけ
最小の項目対応表
試行移行で数字が合わないとき、原因をたどると、旧と新で同じ名前の項目が違う意味を持っていた、ということがあります。
旧システムの「金額」が税抜で、新システムの「金額」が税込なら、件数は合っても合計は合いません。
こうした食い違いを試行移行の前に潰すために、旧の項目と新の項目を一行ずつ対応づけた表を作ります。
検収業務で最低限そろえたいのは、次の7項目です。
項目名は製品ごとに異なるため、自社の旧システムと新システムの名前に置き換えて使います。
- 発注番号:案件を一意に特定する鍵、枝番や再発行時の番号の扱い
- 取引先コード:旧と新でコード体系が変わる場合の読み替え
- 品目コード:同じ品目に複数のコードが付いていないか
- 検収日:日付の形式と、未検収の案件で空欄をどう扱うか
- 検収状態:旧の状態名が新のどの状態に当たるか
- 金額:税込か税抜か、明細の金額か発注全体の金額か、端数の扱い
- 数量:単位(個・箱など)がそろっているか、分納の残数をどう持つか
この7項目は検収業務の一般的な構成から選んだ仮の例で、特定の製品の項目名と一致するものではありません。
自社で検収時に必ず見ている項目、たとえば納品場所やロット番号があれば、対応表に加えます。
重複・欠損・状態名の読み替え
対応表ができたら、移行元データの中身を見ます。
長く使ってきたシステムには、入力の訂正で同じ発注が二度登録されたもの、取引先コードが空欄のもの、状態は「検収済み」なのに検収日が入っていないものなどが残っていることがあります。
これらを新システムへそのまま流し込むと、取り込みの段階でエラーになるか、取り込めても新しい画面で正しく表示されません。
大切なのは、一件ずつ直すことより、扱いのルールを先に決めることです。
重複は、どちらを正とし、もう一方を移さないのか、両方を移して印を付けるのか。
欠損は、旧の別の項目から補えるのか、空欄のまま移して後で補うのか、移行対象から外すのか。
どれを選んでも、試行移行の前に決めて対応表に書いておけば、突合で差異が出たときに、それが決めたルールによる差なのか、想定外の誤りなのかを区別できます。
文字コードや日付の形式も、試行移行の前にそろえます。
旧システムの出力が和暦で新システムが西暦を求める場合や、旧の文字コードで取引先名の一部の漢字が化ける場合は、変換の方法を決めておかないと、取り込んだ後で一件ずつ直すことになります。
状態名の読み替えは、検収業務に直接響くため特に慎重に扱います。
旧システムに「受入済」「検収待ち」「保留」があり、新システムには「未検収」「検収済」しかない場合、「受入済」と「保留」をどちらに読み替えるかで、切替翌日に検収担当の一覧へ出てくる案件が変わります。
読み替えは移行担当者だけで決めず、実際に検収している担当者に、それぞれの状態の案件で次に何をしているかを聞いて決めます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 移行元データを抽出する
- 重複・欠損の扱いを決める
- 文字コード・日付形式をそろえる
- 旧の状態名を新の状態名へ読み替える
- 項目対応表を確定し、試行移行へ
試行移行後の突合と、切替可否の判断
件数・金額・検収状態の照合
試行移行は、本番と同じ手順で一度データを新環境へ入れ、結果を旧環境と比べる作業です。
突合(二つのデータを突き合わせて一致を確かめること)は、粗いものから細かいものへ進めます。
最初は件数です。
旧環境から抽出した案件数と、新環境に入った案件数を比べます。
次に金額合計、続いて検収状態別の件数を比べます。
このとき全体の合計だけでなく、取引先別・月別に分けて比べることが大切です。
全体の合計では、ある取引先で増えた分と別の取引先で減った分が打ち消し合い、差異が見えなくなることがあるからです。
集計が合ったら、最後に画面で確かめます。
旧環境で検収を確定済みの案件を数件選び、新しいシステムで発注から検収までを実際に追えるか、数量や金額、検収日が旧と同じに表示されるかを見ます。
未検収の案件も数件選び、検収担当が切替翌日に行う操作をそのまま試します。
集計表では合っていても、画面で開くと明細が欠けているといった問題は、この段階で見つかります。
差異の原因分類
差異が出たら、案件ごとに原因を分類して記録します。
分類は、たとえば次のように分けられます。
- 抽出条件の違い:期間の区切りや、旧で削除扱いの案件を含めたかどうか
- 変換の誤り:状態名の読み替え、桁や日付形式、税込・税抜の取り違え
- 元データの不備:前の段階で決めた重複・欠損のルールで説明できるもの、できないもの
- 新システムの仕様による違い:端数の処理や、明細の持ち方の違い
件数は合うのに金額が合わない場合は、案件の数ではなく案件の中身に差があることを示しています。
差異の出方は手掛かりになります。
差異が特定の取引先や月に偏っていれば、その取引先のコードの読み替えや、その月に変えた設定を疑う理由になります。
ただし手掛かりから原因を決めつけず、差異の出た案件の明細を旧と新で一行ずつ並べ、どの項目がずれているかを確かめてから原因を記録します。
切替判断の条件と判定者
許容できる差異の大きさは、データの量や業務の性質で変わるため、一律に当てはめられる数値基準はここでは示しません。
代わりに、差異がゼロであるか、差異があってもすべて原因の説明がついていることを切替の条件とする考え方を提案します。
説明がつくとは、決めておいた重複・欠損のルールによる差や、新システムの仕様による端数の差のように、なぜその差が出たかを案件ごとに言え、業務上問題がないと判断できる状態です。
許容差と判定者は、試行移行の前に決めておきます。
結果を見てから基準を決めると、切替日が迫っているほど「この程度なら」と基準が緩みやすくなるからです。
判定者には、検収業務の責任者と、金額や保存に関わる経理の担当者を含めると、業務と会計の両方から見た判断になります。
差異の説明がつかない案件が残ったら、原因を調べて対応表やルールを直し、もう一度試行移行を行います。
本番の切替は、この繰り返しで差異の説明がすべてついた後に行います。
判定の記録は、切替後に問い合わせや監査で移行の経緯を問われたときの説明にもなります。
▼ 図の内容を文字で読む
- 件数
- 取引先別・月別の案件数
- 金額合計
- 取引先別・月別の合計
- 検収状態別の件数
- 未検収・一部検収・検収済みなど
- 抜き取り確認
- 確定済みと未検収の案件を新画面で追う
▼ 図の内容を文字で読む
- 突合で差異が出たか
- 差異なし:切替可の判定へ
- 差異あり・原因の説明がつく:記録し判定者が承認
- 差異あり・説明がつかない:原因を調べて再移行
自社で持つ範囲と、ベンダー・外部に任せる範囲
自社が持つ作業
移行の作業を外部に任せる場合でも、自社でなければできない部分があります。
それは、データが業務上正しいかどうかの判断です。
ベンダーは、旧システムのある状態が現場で何を意味しているか、重複した取引先コードのどちらを正とすべきかを知りません。
- 移行元データの抽出条件を決める(旧システムの提供元に抽出を依頼する場合も、条件は自社が決める)
- 重複・欠損の扱いと状態名の読み替えを決める
- 試行移行の結果を突合し、差異の原因を業務の目で判断する
- 切替の可否を判定する
移行プログラムの作成や、新システムへの取り込みの実行は、ベンダーに任せる候補です。
新システムの取り込みの仕様を最もよく知っているのは提供元だからです。
ただし任せる範囲が広いほど、自社で決めたルールや項目対応表を、ベンダーが誤解なく使える形で渡すことが重要になります。
ベンダーに確認する契約事項
IPAと経済産業省の「情報システム・モデル取引・契約書」は、ユーザとITベンダが、システムの仕様、プロジェクト管理の方法、検収の方法などについて共通理解を持つことを期待しています3。
第二版では、プロジェクトマネジメント義務と協力義務も見直し点に挙がっています3。
このモデル契約は受託開発と保守運用を対象としており、パッケージやSaaSなどは追補版の対象です3。
データ移行そのものの取り決めを示した資料ではありません。
それでも、共通理解を先に作るという考え方は、移行の取り決めにも当てはめられます。
契約前に、次の点を双方で確認しておくことを提案します。
- 移行の対象とするデータの範囲(必須データと、参照用データのどこまでか)
- 移行の時期と、試行移行を何回行えるか
- 抽出、変換、取り込み、突合のそれぞれを誰が担うか
- 移行結果をどう検収するか(突合の項目と切替判定の条件)
- 添付ファイルや電子で受け取った書類を移せるか
特に、移行結果の検収方法を決めておくことには、検収システムの導入ならではの意味があります。
移したデータを受け入れてよいかの基準が、試行移行で使う突合の条件そのものになるからです。
この条件が契約前に共有されていれば、試行移行で差異が出たときに、誰が何を直すのかを最初から話し合わずに済みます。
税務面は税理士・税務署に確認
保存期間や保存方法は、ベンダーが判断する事柄ではありません。
自社の書類が保存の対象に当たるか、電子で受け取った書類をどの方法で保存するかは、顧問税理士か税務署に確認します。
相談の際は、次のものを用意しておくと話が具体的になります。
- 旧システムに入っている書類とデータの一覧(検収書、納品書、発注データ、添付のPDFなど)
- 参照用データを残す方法の案(旧システムの契約継続、出力して保管など)
- 旧システムに入っている事業年度の範囲と、切替予定の時期
問うべきなのは「検収書は保存対象か」だけではありません。
出力したデータの形式で保存として足りるか、旧システムの解約をいつ以降にすべきかまで確かめておくと、参照用データの残し方を最後まで決めきれます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 自社:抽出条件、重複・欠損と状態名のルール、突合の判断、切替の判定
- ベンダー:移行プログラムの作成、取り込みの実行
- 顧問税理士・税務署:保存対象書類の該当、電子取引データの保存方法
必須データと参照用データの境目や状態名の読み替えは、自社のデータと業務を並べて見ないと決めきれないためです。
移行元データの項目を見ながら、どこまでを新システムへ移し、何を突合の条件にするかを整理できます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 移す範囲 | 切替後に誰かが更新するデータは新システムへ、見るだけのデータは参照用の候補 |
| 旧データを残す期間 | 法人は事業年度ごとに申告期限の翌日から原則7年、例外10年。検収書の該当は税理士・税務署に確認 |
| 電子で受け取った書類 | 取引データとは別に、データのまま残す方法を決める |
| 移行方式 | 旧データの品質、過去履歴を見る頻度、一斉に切り替えられるかで選ぶ |
| 突合 | 件数・金額合計・状態別件数を取引先別・月別に照合し、画面で抜き取り確認 |
| 切替判断 | 差異ゼロか、すべて原因の説明がつくこと。許容差と判定者は事前に決める |
| 分担 | データの意味の判断は自社、取り込みはベンダー、移行結果の検収方法は契約前に共有 |
試行移行の差異の原因分類や切替判定の条件は、社内だけで決めると基準が揺れやすいためです。 突合の項目、許容差と判定者の決め方、ベンダーとの分担の案を、自社の状況に合わせて確かめられます。
よくある質問
検収済みの古いデータは、新システムに移さず旧システムだけに残してもよいですか。
新システムへ移すかどうかと、保存の義務を果たすかどうかは別の問題です。
旧システムに残す場合は、法人なら事業年度ごとに確定申告書の提出期限の翌日から原則7年(青色繰越欠損金や災害損失金額が生じた事業年度は10年)、見られる状態を保てることが前提になります1。
旧システムの契約や保守がその期間続くか、続かないなら解約前に出力して保管できるかを先に確かめてください。
検収書や検収データが保存対象に当たるかは、顧問税理士か税務署に確認します。
移行テストで件数は合うのに金額が合わないとき、先にどこを調べますか。
件数が合って金額だけが違うなら、案件の中身に差があります。
まず取引先別・月別に金額を比べ、差異がどこに偏っているかを見ます。
そのうえで差異の出た案件の明細を旧と新で一行ずつ並べ、税込・税抜の取り違え、端数の処理、明細の持ち方、分納の金額のどこがずれているかを確かめます。
差異の出方だけで原因を決めつけず、明細で確かめてから記録してください。
旧システムを解約した後に、保存期間内の書類を求められたらどうしますか。
解約後に提供元へデータが残っているかは契約次第で、取り出せる保証はありません。
そのため、解約前に参照用データと添付ファイルを出力し、検収済みの案件を一件選んで、出力データだけで発注から検収までを追えるか試しておくことが前提になります。
すでに解約してしまい、データが手元に無い場合は、どう対応すべきかを顧問税理士か税務署に相談してください。
取引先から電子で受け取った検収関連の書類は、移行時にどう扱いますか。
PDFなどのデータで受け取った請求書等は、データのままルールに基づいて保存する必要があり、紙への出力だけでは足りません2。
旧システムに添付している場合は、取引データとは別に、新システムへ移すのか、旧環境や別の保存先にデータのまま残すのかを決めます。
保存要件の細部は国税庁の資料か顧問税理士で確認してください。
移行作業を自社でやる場合、最低限どんな担当者と役割が必要ですか。
人数ではなく役割で考えます。
全体の段取りと記録を持つ移行担当、状態名の読み替えやデータの正誤を判断できる検収業務の担当、金額と保存の観点で見る経理の担当、旧システムからデータを抽出できる人(社内か旧システムの提供元)が必要です。
小さな会社では兼任になりますが、切替の判定には検収業務と経理の両方の目が入るようにすることを勧めます。
並行稼働は必要ですか。必要ならどのくらいの期間ですか。
並行稼働(新旧のシステムを同時に動かすこと)は、試行移行の突合で十分に確かめられたかどうかで必要性が変わります。
期間を一律に決める基準はないため、日数ではなく終わらせる条件を先に決めることを提案します。
たとえば、一回の締めで新旧の検収結果が一致したら終える、といった条件です。
並行稼働中は検収担当が二重に入力することになるため、その負担と期間の長さを比べて判断します。
- 1 出典:国税庁「No.5930 帳簿書類等の保存期間」
- 2 出典:国税庁「国税庁の取組紹介:電子帳簿保存法」
- 3 出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)・経済産業省「情報システム・モデル取引・契約書(第二版)」(2020年)