◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- インターネットEDIへの移行は回線契約の見直しにとどまらず、取引先と話す通信手順の変更になるため、取引先を1行とする棚卸しから始める
- 取引先は「自社の接続変更で足りる」「受注側の対応や合意が要る」「当面残す」に分け、合意が要る取引先へ先に依頼して時期を平準化する
- NTT東日本はINSネットの補完策の提供終了を2028年12月31日予定と案内しており、自社の回線契約を確かめて逆算の起点にする
- 流通BMSのebMS・AS2・JX手順は、取引先が対応している手順と、自社がサーバー側かクライアント側かで決まる
- 旧回線はその回線を使う取引先すべての切替と受信確認が済んでから解約し、棚卸し表は移行後の引き継ぎ表として使う
目次

インターネットEDIへ移行する発注側は、何から手を付け、どこまでを範囲にするか
取引先ごとに、どの回線・手順・データで発注しているのかが見えないまま、回線の終了時期だけが近づいている。
そんなときに最初に手を付けるのは、新しい方式選びではなく取引先ごとの棚卸しです。
手順・回線・データ種類・担当を一覧にし、「自社の接続変更で足りる」「受注側の対応や合意が要る」「当面残す」に分ければ、誰に何を頼み、どの順で移すかが決まります。
NTT東日本は、INSネットの補完策を2028年末に提供終了する予定と案内しています1。
自社の回線契約を確かめ、そこから逆算して取引先ごとの調整期間を割り振ります。
ISDN回線に依存する従来手順とは
回線型EDIで発注データが取引先へ届くのは、通信手順と回線の組み合わせが双方で一致しているからです。
GS1 Japanの整理では、JCA手順(J手順)は電話回線・DDX回線に、H手順はISDN回線・専用回線に対応する手順とされています3。
手順が乗っている回線が使えなくなれば、その手順で続けてきた発注も、そのままでは送れなくなります。
発注側の事例として、医薬品や健康食品の製造・販売、卸事業を手がけるピップグループは、2016年の記事で、旧来の通信手順(JCA手順、全銀手順、全銀TCP/IP手順)の多くがISDN回線を使っており、ISDNの終了に向けて通信手順を変えることが負担になると述べています4。
回線契約の見直しに見えて、実際には「取引先と何の手順で話しているか」を変える仕事になる、ということです。
自社がインターネット経由で送れるようになっても、取引先が同じ手順で受けられなければ、注文は届きません。
そのため、最初の一手は新しい方式を選ぶことではなく、いまの発注が何に依存しているかを取引先ごとに確かめることです。
ISDN回線のH手順で送っている取引先もあれば、専用回線の取引先、すでにインターネットで接続している取引先もあるかもしれません。
どこまでを移行範囲にするかは、この違いが見えてから決めるほうが手戻りが少なくなります。
終了する回線に依存している取引先は避けられない範囲、それ以外はこの機会に一緒に移すかどうかを選べる範囲、という分け方になります。
事業者が案内する終了時期の確かめ方
期限の目安として、NTT東日本はINSネットのディジタル通信モードを2024年から段階的に終了しており、切替後のINSネット上のデータ通信(補完策)は2028年末に提供を終了する予定と案内しています1。
この案内は2026年時点の掲載で、対象はNTT東日本のINSネットです。
自社の回線がこの日付に当てはまるかは、回線の契約で決まります。
契約書や請求書から回線事業者名、サービス名、設置場所を拾い、どの事業者のどのサービスかを特定してから、その事業者の案内を読みます。
提供エリアや契約によって対象や時期は変わるため、NTT東日本以外の事業者やエリアの回線なら、その事業者の案内が基準です。
ISDNではない専用回線でEDIを続けている場合は、この期限そのものは当てはまらず、その回線の契約条件で考えることになります。
NTT東日本は、企業間の高セキュリティ通信の移行先として、閉域ネットワークを使ったサービスも案内しています1。
ただ、この案内は回線の置き換え先を示したもので、EDIの通信手順をどう変えるかまでは述べていません。
回線を替えるだけで取引先との発注を続けられるかどうかは、取引先がどの手順で受けているかにかかっているので、結局は取引先ごとの棚卸しに戻ってきます。
もう一つ押さえておきたいのは、この日付は作業の目標ではなく、旧回線が使えなくなる上限だという点です。
切替は取引先ごとに相手の都合と合わせて進めることになるため、期限ぎりぎりに予定を置くと、一社の遅れがそのまま発注の停止につながります。
期限は、そこから逆算して取引先ごとの調整期間を割り振るための起点として使います。
移行前の棚卸し:取引先ごとに何を洗い出すか
通信手順・回線・データ種類
棚卸しの単位は、回線でもシステムでもなく取引先にします。
先ほどのピップグループの事例では、取引先の小売店ごとに個別の事前調整を行い、先方のスケジュールに合わせて利用開始日を決めていました4。
調整も切替も取引先ごとに進むのなら、管理する表も取引先を1行とする1枚にしておくと、そのまま移行の進捗表として使えます。
以下の欄は公的な手順書で定められたものではなく、移行の判断に必要な情報から組んだ提案です。
最初の欄は通信手順です。
JCA手順、H手順、全銀手順、流通BMSの手順など、その取引先と何の手順でやり取りしているかを書きます。
送受信ソフトの接続設定や、取引先から受け取った接続仕様の資料が手掛かりになります。
手順名が分かれば、その取引先と同じ手順のまま回線だけ替えて続けられるのか、手順から変える必要があるのかを考えられます。
回線は、手順とは別の欄にします。
GS1 Japanの整理でもH手順はISDN回線と専用回線の両方に対応するとされており3、手順名だけでは期限の影響を受けるかどうかが決まらないからです。
同じH手順の取引先でも、ISDN回線なら前の節の期限に直結し、専用回線なら別の契約条件で考えることになります。
データ種類には、その経路で何が行き来しているかを書きます。
自社から送る発注データだけなのか、取引先から返ってくるデータも同じ経路で受けているのかで、切替の範囲が変わります。
送る向きだけを新しい手順へ移し、返ってくるデータが旧回線に残っていた、という移し漏れは、この欄を埋めておくと切替前に気付けます。
利用システム・運用担当・契約
利用システムには、発注データをどのシステムが作り、どのソフトが送っているかを書きます。
手順やデータの形式が変わると、変換や受け渡しの部分で自社側の改修が必要になる場合があり、その範囲を見積もるときにこの欄を使います。
運用担当は、自社と取引先の両方について書きます。
回線型EDIは長く動いてきた仕組みであることが多く、設定の中身を知る人が限られている場合があります。
自社の担当が空欄の行は、それ自体が「確認先が決まっていない」という情報です。
取引先側の窓口は、このあと対応可能な手順を問い合わせる相手になり、移行後の連絡先にもなります。
契約には、回線の契約と、取引先との間で接続方法を取り決めた書面の有無を書きます。
回線をいつ解約できるか、取り決めの変更に何の手続きが要るかは契約ごとに違います。
ここで調べた条件が、切替の順番や旧回線の解約時期を決めるときの制約になります。
たとえば、ある取引先の行が、手順はH手順、回線はISDN回線、データ種類は発注データの送信と取引先からのデータの受信、自社の担当は情報システム部門の一人だけ、と埋まったとします。
この1行からは、期限の影響を受けること、返ってくるデータも一緒に移す必要があること、調整の窓口が一人に集中していることが読み取れます。
欄を埋めることがそのまま、その取引先で何を決めなければならないかの洗い出しになります。
すべての欄を最初から埋める必要はありません。
空いている欄に、誰に聞けば埋まるかを書き添えておけば、そのまま確認作業の一覧になります。
同じ取引先でも拠点ごとに経路が違うなら、行を分けておくと、一部だけ切り替わった状態も後で追えます。
| 欄 | 書く内容 | 移行の判断での使い道 |
|---|---|---|
| 取引先名 | 発注データをやり取りする相手ごとに1行 | 調整と切替を進める単位 |
| 通信手順 | JCA手順・H手順・全銀手順・流通BMSの手順など | 同じ手順で続けられるかの見極め |
| 回線 | 電話回線・ISDN回線・専用回線・インターネット | 回線の終了期限の影響を受けるか |
| データ種類 | 自社が送るデータと取引先から受けるデータ | 切替で移し漏れる向きがないか |
| 利用システム | データを作るシステムと送受信ソフト | 自社側で改修する範囲 |
| 運用担当 | 自社と取引先の担当者と連絡先 | 問い合わせ先と移行後の連絡先 |
| 契約 | 回線契約と取引先との取り決め | 解約と変更の条件 |
▼ 図の内容を文字で読む
- 2024年1月から:ディジタル通信モードを段階的に終了
- 切替後:INSネット上のデータ通信を補完策として提供
- 2028年12月31日(予定):補完策の提供終了
棚卸しの結果から取引先を分け、移行の順番を決める
3つの分類
棚卸し表ができたら、取引先ごとに、インターネット上の新しい手順で受けてもらえるかを見ていきます。
JCA手順やH手順と、インターネット上の流通BMSの手順は、対応する回線も手順も異なる別の方式です3。
自社が新しい手順を用意しても、取引先にその手順で受ける用意がなければ発注は届かないため、分かれ目は自社ではなく受注側の状況にあります。
そこで、取引先を次の3つに分けます。
・自社の接続変更で足りる:取引先がすでに対応している手順があり、自社がそれに合わせて接続を用意すれば済む
・受注側の対応や合意が要る:取引先に新しい手順を用意してもらう、または手順や切替日の変更に合意してもらう必要がある
・当面残す:取引先がすぐには対応できない、または期限の影響を受けない経路で、今回は旧経路のまま扱う
この分け方は、方式が違う以上は受注側の対応が要る場合がある、という前提から組んだ整理です。
分類の材料は推測ではなく、取引先への問い合わせで集めます。
聞くことは、対応済みの通信手順、新しい手順を受け入れられる時期、試験に参加できる時期、窓口の担当者です。
たとえば、ある取引先から「流通BMSの手順にはすでに対応している」と返事があれば、その取引先は自社の接続変更で足りる側に入ります。
「対応の予定はあるが時期は未定」なら、合意が要る側に入れて、時期の相談から始めます。
「当面残す」は、何もしないという意味ではありません。
ISDN回線に依存したまま残す取引先は、事業者が案内する期限までには移す必要があるので、残す理由と、次に取引先へ確認する時期を表に書いておきます。
移行先の候補も流通BMSに限りません。
ピップグループの事例でも、移行先には流通BMSのほかWeb-EDIなども挙がっていました4。
相手が受けられる方式を一緒に探す前提で話を続ければ、期限の直前になって残った取引先が見つかる事態を避けやすくなります。
時期を平準化する
順番を決めるうえで参考になるのが、先ほどの事例で挙がった課題です。
ピップグループは取引先の小売店を1社ずつ先方のスケジュールに合わせて切り替えており、残りの取引先が切替直前に集中すると間に合わなくなるおそれがあるとして、移行時期の平準化を課題に挙げていました4。
2016年時点の1社の事例なので、期間の長さを今の目安にはできません。
それでも、相手の都合に合わせて1社ずつ切り替える以上、予定が後ろへ寄るほど調整の余地が減るという構図は避けにくいものです。
この構図から順番を考えると、先に声をかけたいのは「受注側の対応や合意が要る」取引先です。
相手の準備を待つ時間は自社では縮められないので、依頼を早く出すほど相手の予定に組み込んでもらいやすくなります。
「自社の接続変更で足りる」取引先は自社の都合で日程を組めるため、依頼の返事を待つ間に進め、新しい接続の設定や試験の進め方を固める場として使えます。
期限から逆算するときは、取引先を月や四半期ごとに割り振り、最後の期間に件数が偏っていないかを表で確かめます。
偏りが見えたら、後ろにいる取引先へ前倒しを相談する、社内の作業が詰まる時期を避けるといった調整をします。
割り振りの結果は、取引先へ依頼するときに伝える希望時期にもなります。
▼ 図の内容を文字で読む
- 期限の影響を見る
- 通信手順
- 回線
- 切替の範囲を見る
- データ種類(移し漏れの確認)
- 利用システム(自社側の改修範囲)
- 連絡と制約を見る
- 運用担当(問い合わせ先)
- 契約(解約と変更の条件)
通信手順とデータ形式の選び方:流通BMSの3手順はどこで分かれるか
サーバー間手順(ebMS・AS2)
取引先への問い合わせを進めると、「この手順なら受けられる」という答えが返ってきます。
消費財流通の取引先であれば、その候補として流通BMSが出てきます。
流通BMSは、メッセージ(電子取引文書)と通信プロトコル/セキュリティについて定めたEDIの標準仕様で、消費財流通業界で唯一の標準となることを目標に策定されています2。
GS1 Japanによると、導入企業は2025年時点で21,600社以上です2。
ただし対象は消費財流通業界で、取引先が別の業界標準や独自の仕様を使っているなら、その取り決めが先に来ます。
流通BMSの通信手順は、つなぎ方で2つに分かれます。
サーバー間の手順として国際標準のebMSとAS2、クライアント・サーバー間の手順としてSOAP-RPCを使うJX手順が採用されています3。
サーバー間の手順は、発注側と受注側がそれぞれサーバーを置き、サーバー同士でデータを送り合う形です。
発注側から見ると、自社にもサーバーの役割を持つ環境が要り、それを自社で用意するかサービスで用意するかという次の節の問題につながります。
ebMSとAS2のどちらにするかは、自社だけでは決まりません。
取引先がどちらに対応しているかが先にあり、相手が一方を指定していればそれに合わせるのが基本です。
ebMSの取引先とAS2の取引先が混在するなら、自社は両方に対応する必要が出てきます。
手順ごとの使い分けの目安や必要な環境の詳細は、流通BMS協議会の通信プロトコル利用ガイドラインで確かめてください。
クライアント・サーバー間手順(JX手順)
JX手順は、クライアント・サーバー間の手順です3。
片方がサーバーを用意し、もう片方がクライアントとして接続してデータをやり取りします。
発注側が確かめるべきは、その取引先との関係で自社がどちらの側に立つかです。
自社がサーバーを用意して取引先に接続してもらうのか、取引先のサーバーへ自社が接続しに行くのかで、自社が用意するものも、障害時に見る場所も変わります。
どちらの側に立つかは取引先と取り決める事項なので、分類のための問い合わせで手順名と一緒に聞いておくと、二度手間を避けられます。
手順と同時に考えておきたいのが、データの形式です。
流通BMSは通信手順だけでなく、メッセージ、つまり発注などの電子取引文書の形も定めた標準です2。
従来の手順で送っていたデータの並びが流通BMSのメッセージと同じとは限らないため、手順を移すと、自社システムが作るデータをメッセージの形へ変換する工程が加わる場合があります。
棚卸し表の利用システムの欄は、この変換をどこで行うかを決めるときに効いてきます。
| 手順 | つなぎ方 | 採用されている手順 | 発注側が取引先と確かめること |
|---|---|---|---|
| ebMS | サーバー間 | 国際標準の手順 | 取引先がebMSで受けるか |
| AS2 | サーバー間 | 国際標準の手順 | 取引先がAS2で受けるか |
| JX手順 | クライアント・サーバー間 | SOAP-RPCを使う手順 | 自社がサーバー側かクライアント側か |
▼ 図の内容を文字で読む
- 自社の接続変更で足りる
- 取引先がすでに対応している手順がある
- 自社が接続を用意すれば済む
- 受注側の対応や合意が要る
- 新しい手順を用意してもらう、または合意してもらう
- 依頼を早く出し、時期の相談から始める
- 当面残す
- すぐには対応できない、または期限の影響を受けない
- 残す理由と次に確認する時期を表に書く
自社で組むか、サービスを使うか:費用項目と運用負担の見方
費用項目の整理
サーバー間の手順を使う場合も、取引先ごとに手順が違う場合も、送受信の環境と変換を自社で持つのか、外のサービスに任せるのかという選択が出てきます。
サービスに任せる形の一例として、中小企業庁のミラサポplusが紹介している中小企業共通EDIがあります。
2018年4月にITコーディネータ協会が中心となって初版を策定したもので、受注側と発注側がそれぞれこの標準に対応するプロバイダーと契約し、プロバイダーが変換を担う仕組みです5。
発注側は、独自に構築した自社システムを引き続き使えるとされています5。
この仕組みは中小企業の受発注を想定した標準で、流通BMSなどの業界標準とは別のものです。
流通BMSや他の業界標準で受けている取引先には使えない場合があるので、選択肢になるかどうかは、棚卸し表の手順の欄と取引先の業界で決まります。
それでも、変換を自社システムの外へ出すと自社側に残る作業がどう変わるかを考えるうえで、分かりやすい例になります。
費用は金額ではなく、どの項目が自社に残るかで比べます。
以下は比較のために整理した項目です。
・自社で組む場合:送受信の環境(サーバーやソフト)、取引先ごとの接続設定、データの変換処理、試験の工数、稼働後の保守
・サービスを使う場合:初期設定、サービスの利用料、自社システムとサービスの間でデータを受け渡す部分の改修、試験の工数
・どちらでも残る項目:取引先との調整の工数、並行運用中の旧回線の費用
サービスの料金がどの項目にどうかかるかは提供元ごとに違うため、見積もりは同じ項目の並びにそろえて比べると、どちらの案で何が抜けているかが見えます。
ミラサポplusでは、受注側は対応プロバイダーと業務アプリを利用すれば大きな費用はかからないとされていますが、金額の記載はなく、発注側の費用も示されていません5。
発注側にとってこの点が意味を持つのは、取引先へ移行を依頼するときです。
受注側の負担がどの程度になるかは、依頼を受け入れてもらえるかどうかに関わるため、取引先へ説明する材料として押さえておけます。
運用負担の違い
費用の項目と並べて見ておきたいのが、稼働した後の運用です。
自社で組む場合は、送受信の監視、通信が止まったときの切り分け、取引先が増えたり設定が変わったりしたときの対応、証明書を使う構成ならその更新を、自社で受け持ちます。
サービスを使う場合は通信や変換の部分を提供元が受け持つ形になりますが、どこまでを受け持つかは契約で決まります。
障害が起きたときに、自社・提供元・取引先の誰が何を見るのかを契約前に確かめておかないと、問い合わせの行き先が決まりません。
判断の手掛かりは棚卸し表にあります。
取引先ごとの手順がばらばらで、設定を知る担当が一人しかいない行が目立つなら、自社で組むとその負担が同じ人にさらに集まります。
逆に、手順がそろっていて社内に保守を担える人がいるなら、自社で持つことで設定を変える自由度を残すという考え方もあります。
どちらが安いかの一般論ではなく、自社の表で残る作業を比べることが、この選択の進め方です。
▼ 図の内容を文字で読む
- サーバー間(ebMS・AS2)
- 取引先がどちらで受けるかを確かめる
- 混在するなら両方に対応する
- クライアント・サーバー間(JX手順)
- 自社がサーバー側かクライアント側かを取り決める
- データの形式(メッセージ)
- 自社システムのデータをメッセージの形へ変換する工程が加わる場合がある
試験接続・並行運用から本番切替、旧回線の解約まで
取引先との事前調整
分類と時期について取引先と話がついたら、取引先ごとに切替へ進みます。
事例でも、取引先ごとに個別の事前調整を行い、利用開始日を合わせていました4。
ここから先の進め方は公的な手順書で定められたものではなく、移行中に発注を止めないための考え方として示します。
事前調整で取引先と決めておきたいのは、使う手順と接続先の情報、試験の日程、本番の切替日、切替の前後でどちらの経路を正式な送信経路とするか、問い合わせの窓口です。
中でも、正式な経路の取り決めは欠かせません。
新旧両方の経路が使える期間に同じ注文を両方から送ると、取引先が二重に受け取るおそれがあるからです。
試験接続では、つながることだけでなく、取引先がデータを自社のシステムへ取り込めるところまで確かめます。
送った件数と取引先が取り込んだ件数が一致するか、内容が正しく読み取れるか、送信に失敗したときにどう再送するかを、取引先と一緒に見ておきます。
試験の合否は情報システム側だけで判断せず、自社の発注業務の担当者と取引先の担当者にも確認してもらいます。
データの中身の誤りに気付けるのは、日々その注文を扱っている人だからです。
本番切替の直後は、旧経路をすぐには止めず、戻せる状態で残しておきます。
新しい経路で問題が見つかったときに、正式な経路を一時的に旧経路へ戻せれば、その間も発注を続けられます。
どの条件で戻すか、戻す判断を誰がするかを事前調整の段階で決めておけば、問題が起きた当日に判断の場を作る手間が省けます。
切替日は、自社の発注業務の担当者にも前もって伝えておきます。
切替の前後に届いた問い合わせが新旧どちらの経路の話なのかを、受けた人がすぐ区別できるようにするためです。
旧回線の解約条件
旧回線は、その回線を使っていた取引先すべての切替と受信確認が済んでから解約します。
理由は、最後の一社が切り替わるまで戻る手段を残しておくためです。
棚卸し表に切替日と受信確認日の欄を足して取引先ごとの完了を管理すると、どの回線がいつ解約できるかを表から読み取れます。
1本の回線を複数の取引先で使っているなら、最後の取引先が終わるまで解約できません。
取引先ごとに回線が分かれていれば、終わった順に解約していく選択肢もあります。
ただし残しておく間は回線の費用がかかり続けるので、並行期間の長さは費用とのつり合いで決めることになります。
戻る手段にも期限があります。
NTT東日本のINSネットであれば、補完策の提供終了予定は2028年12月31日と案内されており1、それ以降は旧回線へ戻ること自体ができなくなります。
最後の取引先の切替を期限の直前に置くと、並行期間を取れないまま切り替えることになるため、時期の割り振りではこの分の余裕も見込みます。
解約の手続きや条件は契約ごとに異なるので、契約書と事業者の案内で確かめます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 自社で組む場合
- 送受信の環境(サーバーやソフト)
- 取引先ごとの接続設定
- データの変換処理
- 試験の工数と稼働後の保守
- サービスを使う場合
- 初期設定とサービスの利用料
- 自社システムとサービスの間の改修
- 試験の工数
- どちらでも残る項目
- 取引先との調整の工数
- 並行運用中の旧回線の費用
移行後の運用:障害時対応と問い合わせの引き継ぎ
引き継ぎ表
切替が終わると、移行を進めた担当者の手を離れ、日々の運用に入ります。
たとえば、取引先から「データが届かない」と連絡が来たとします。
受けた人がその取引先の手順や経路を知らなければ、どこから調べるかを決めるところから始めることになり、対応が遅れます。
そこで、棚卸し表の運用担当の欄を、移行後の連絡先と保守担当の一覧にそのまま引き継ぎます。
取引先ごとに残しておきたいのは次の項目です。
・現在の通信手順と経路(新旧どちらか)
・切替日
・自社の窓口と取引先の窓口
・接続設定の管理者(証明書を使う構成なら、その管理者と更新時期も)
・サービスを使っている場合は提供元の問い合わせ先
連絡を受けた人は、まず表でその取引先の経路を確かめます。
そのうえで、自社から送信した記録があるか、通信が成立したか、取引先側で取り込みに失敗していないか、の順にたどると、自社・提供元・取引先のどこを見るべきかが絞れます。
この表で減るのは、誰が知っているかを探す時間と、その取引先がどの経路で送っているかを調べ直す手間です。
障害そのものがなくなるわけではありませんが、最初の連絡を受けた人が次に誰へつなぐかで迷わずに済みます。
表が実際に使えるかは、障害を想定して連絡の順番をたどってみると確かめられます。
連絡先が古い、更新時期が空欄になっている、といった抜けはそこで見つかります。
「当面残す」に分けた取引先も、同じ表に残しておきます。
移行が一段落した後も旧経路で動いている取引先があることが表で見えていれば、次に取引先へ確認する時期や回線の期限を見落としにくくなります。
▼ 図の内容を文字で読む
- 試験接続:接続だけでなく取り込み、件数、再送まで取引先と確かめる
- 本番切替:合意した日に正式な送信経路を新しい手順へ移す
- 並行期間:旧経路を戻せる状態で残す
- 受信確認:取引先の取り込みを確認し、完了を記録する
- 旧回線の解約:その回線を使う取引先すべてが済んだ後に行う
棚卸し表ができても、取引先ごとの分類や依頼の順番、自社で組むかサービスを使うかは、自社の取引先の構成と社内の体制によって答えが変わり、表を見ただけでは決めにくいためです。
途中まで埋めた棚卸し表をもとに、どの取引先から依頼を始めるか、取引先へ何を問い合わせるかを整理できます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 最初の一手 | 新しい方式を選ぶ前に、取引先ごとの手順・回線・データ種類・担当・契約を棚卸しする |
| 期限 | 回線契約から事業者とサービスを特定し、その事業者の案内で終了時期を確かめる |
| 分類 | 自社の接続変更で足りる/受注側の対応や合意が要る/当面残す、を取引先への問い合わせで決める |
| 順番 | 合意が要る取引先へ先に依頼し、期限の直前に件数を集中させない |
| 手順の選択 | 取引先が対応している手順と、自社がサーバー側かクライアント側かで決める |
| 構築かサービスか | 金額の一般論ではなく、自社に残る費用項目と運用作業で比べる |
| 旧回線の解約 | その回線を使う取引先すべての切替と受信確認が済んだ後 |
| 移行後 | 棚卸し表の担当欄を、連絡先と保守担当の一覧へ引き継ぐ |
旧回線の期限までに試験と並行期間を確保できるかは、取引先の返答と回線契約の条件を突き合わせないと見通せないためです。 取引先ごとの返答と回線契約を並べて、期限までの時期の割り振りに無理がないかを確かめられます。
よくある質問
取引先が流通BMSに対応していない場合はどうするか
その取引先は「受注側の対応や合意が要る」か「当面残す」に入ります。
まず対応できる通信手順を問い合わせ、相手が別の業界標準や独自の仕様を使っているなら、その取り決めに合わせます。
2016年の発注側の事例では、移行先には流通BMSのほかWeb-EDIなども挙がっていました4。
中小企業同士の受発注であれば、双方が対応プロバイダーと契約する中小企業共通EDIも候補になりますが、業界標準で受けている取引先には使えない場合があります5。
ISDNを使っていない従来方式でも棚卸しは必要か
期限の扱いは変わりますが、棚卸しは役に立ちます。
H手順は専用回線でも使われ、JCA手順は電話回線・DDX回線に対応する手順です3。
ISDNではない回線なら、NTT東日本が案内する補完策の終了予定はそのまま当てはまらず、その回線の契約条件で判断します。
ただ、どの取引先がどの回線に依存しているかを一覧にしておかなければ、期限の影響を受ける取引先とそうでない取引先を見分けられません。
取引先から対応時期を先延ばしされた場合、旧回線はいつまで残すか
残せる上限は、事業者が案内する提供終了と回線の契約条件で決まります。
NTT東日本のINSネットなら、補完策の提供終了予定は2028年12月31日です1。
上限を過ぎると旧回線へ戻ることもできなくなるため、先延ばしの申し出を受けたら上限を伝えたうえで、試験と並行期間を取れる最後の時期を取引先と確かめます。
その取引先が残る間は、同じ回線を使う他の取引先が切り替わっても解約できない点も、費用の見通しに入れておきます。
Web-EDIと流通BMSのどちらを選べばよいか
どちらが優れているかではなく、取引先が何で受けられるかで決まります。
流通BMSは消費財流通業界の標準で、通信手順だけでなく電子取引文書の形も定めています2。
取引先が消費財流通で流通BMSに対応しているなら、どの手順で受けるかを確かめるのが先です。
Web-EDIは提供するサービスごとに使い方が異なるため、取引先がそのサービスを使えるか、データを自社と取引先のシステムへどう取り込むかを試験接続の前に確かめます。
試験接続では何を確認し、誰の承認を取るか
接続できることに加えて、取引先がデータを自社システムへ取り込めるか、送った件数と取り込んだ件数が合うか、失敗時にどう再送するかを確かめます。
承認は情報システム側だけでなく、自社の発注業務の担当者と取引先の担当者からも得ておくと、データの中身の誤りに気付きやすくなります。
公的な手順書に基づく決まりではなく、移行中に発注を止めないための考え方です。
移行後に取引先からデータが届かないと連絡があった場合、切り分けは何から始めるか
引き継ぎ表で、その取引先がいま新旧どちらの経路で送っているかを確かめるところから始めます。
並行期間中なら、正式な送信経路として取り決めた側で送っているかも見ます。
経路が分かれば、送信記録、通信の成立、取引先側の取り込みの順にたどり、自社・提供元・取引先のどこを見るかを絞れます。
- 1 出典:NTT東日本「ISDN(INSネット)のサービス終了に関する案内」(2026年)
- 2 出典:一般財団法人流通システム開発センター(GS1 Japan)「流通BMS(流通ビジネスメッセージ標準)」(2025年)
- 3 出典:一般財団法人流通システム開発センター(GS1 Japan)「通信制御手順」(掲載年不明)
- 4 出典:日経BP(日経クロステック)「ISDN移行のハードルは業界によって様々、EDIなどは早期対応が必要」(2016年)
- 5 出典:中小企業庁(ミラサポplus)「企業間のデータ連携で、受発注の業務コストを削減する!」(2020年)