◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- ISDNの終了時期を踏まえ、インターネットEDIへの移行をいつまでに着手すべきかを整理します。
- 現行EDIの棚卸しから本番切替までの移行手順を、7つのステップで示します。
- 取引先調整や電子帳簿保存法の保存義務など、移行で見落としやすい注意点をまとめます。
目次
インターネットEDIへの移行とは
インターネットEDIへの移行とは、ISDN回線の専用手順で行ってきた受発注データ交換を、インターネット回線上の標準プロトコルへ切り替える取り組みです。INSネットは2028年12月31日にサービスを終了するため*1、取引先調整を含む7ステップでの計画的な移行が必要になります。
インターネットEDIとは、従来ISDNなどの公衆回線と専用の通信手順で行っていた企業間の受発注データ交換の仕組みを指します。この交換を、インターネット回線と標準的な通信プロトコル上で行う点が特徴です。JCA手順・全銀手順(いずれもISDN回線を前提とした従来型の通信手順)を使ってきた企業ほど、通信基盤そのものの見直しが必要になります。
移行の全体像は「7ステップ」で整理できる
移行は回線の切り替えだけでは終わりません。現行EDIの棚卸しから、逆算スケジュール策定、移行方式の決定、取引先への説明まで進めます。
続いてデータ項目の設計、接続テスト、本番切替と旧回線の解約まで、合計7つの工程を順に進める必要があります。各ステップの詳細は後述の章で解説します。
着手期限の結論 — INSネットは2028年12月31日に提供終了*1
NTT東日本・NTT西日本は2024年3月7日、INSネット64等の新規申込受付を2024年8月31日に終了すると発表しました*1。サービス提供そのものは2028年12月31日に終了するとされています*1。公表資料では「利用者が年々減少しており、2029年以降サービス提供に必要な設備部材が枯渇する見込みである」ことが理由として示されています*1。
残りの期間で取引先調整まで完了させる必要があるため、着手の先送りは選択肢になりません。
なぜ今、インターネットEDIへの移行が必要なのか
INSネット(ディジタル通信モード)の提供終了スケジュール*1
ISDN終了は「2024年問題」とだけ語られることがありますが、正確には段階が分かれています。2024年8月31日は新規申込受付の終了であり、既存回線が使えなくなる日ではありません*1。実際にサービス提供そのものが終わるのは2028年12月31日であり*1、この日付を移行計画の起点に置くことが欠かせません。
補完策「メタルIP電話上のデータ通信」は恒久策ではない*2
NTT東日本・NTT西日本は2017年3月13日、補完策を発表しました*2。ISDN対応端末の更改が間に合わない事業者向けに「メタルIP電話上のデータ通信」サービスを提供するという内容です*2。
公表資料には「現行のINSネット ディジタル通信モードとは全く同一の品質とはならない」という注記があります*2。加えて「利用するアプリケーションによっては処理時間が増加する場合がある」とも明記されています*2。
事業者自身がこの補完策を「当面の対応策」と位置づけているため*2、恒久的な代替手段として利用計画に組み込むことは適切ではありません。仮に補完策で当面をしのいでも、通信品質の低下や処理遅延が受発注業務に影響するリスクは残ります。補完策に頼らず、インターネットEDIへ移行する計画を別途立てる必要があります。
自社の数字で移行の緊急度を確かめるには、無料相談で要件を整理するのが近道です。
商取引の電子化は進展している(BtoB-EC市場規模514.4兆円・EC化率43.1%)*3
経済産業省は2025年8月26日、「令和6年度電子商取引に関する市場調査」を公表しました*3。同調査によれば、2024年のBtoB-EC市場規模は514.4兆円で、前年(465.2兆円)比10.6%増です*3。BtoB-ECのEC化率は43.1%で、前年比3.1ポイント増です*3。
なお2024年の伸び率10.6%は前年(2023年)の10.7%増をわずかに下回っており、伸び自体が加速しているわけではありません*3。それでも市場規模とEC化率がともに増加を続けている事実は、電子的な受発注を前提にした取引環境への移行が進んでいることを示しています。
移行先の選択肢と選び方
Web-EDI型/ファイル転送型/クラウドEDIサービスの違い
インターネットEDIへの移行先は大きく3方式に分かれます。取引先数や既存システムとの連携範囲によって、向く方式が変わります。
| 方式 | 特徴 | 向くケース | 留意点 |
|---|---|---|---|
| Web-EDI型 | ブラウザ画面から受発注データを入力・確認する方式です。 | 取引件数がそれほど多くなく、専用システム連携が不要な場合に向きます。 | 件数が増えると手入力の負荷が大きくなります。 |
| ファイル転送型 | SFTP等でファイルを送受信し、既存の基幹システムと連携する方式です。 | 既存システムとの自動連携を重視する場合に向きます。 | 取引先ごとにデータ項目や通信手順のすり合わせが必要です。 |
| クラウドEDIサービス | 通信手順の変換やデータ管理をサービス側が担う方式です。 | 取引先の通信手順が多岐にわたる場合に向きます。 | サービスの対応手順・対応データ形式が自社の取引先と合うかを確認する必要があります。 |
業界標準を使う選択肢 — 流通BMS(卸・メーカーの導入は21,600社超)*6
流通BMS(流通ビジネスメッセージ標準。卸・小売間の受発注データを標準化した通信規約)は、流通システム標準普及推進協議会が運営する業界標準です*6。同協議会の推計では、2025年6月1日時点で卸・メーカー側の導入企業数が21,600社を超え、半年で700社以上増加しています*6。
この数値は卸・メーカー側のみの推計であり、小売側は含まれません*6。取引先が流通BMSを指定している場合は、独自方式より流通BMS対応を優先したほうが接続の手戻りを避けられます。
中小企業向けの選択肢 — 中小企業共通EDI(中小企業庁が仕様を策定)*5
中小企業共通EDI(業種・業界の垣根を越えて使える受発注データ交換の共通仕様)は、中小企業庁が策定した仕様です*5。平成28年度の次世代企業間データ連携調査事業を通じて検証が進められました*5。
中小企業庁が2021年に実施した令和3年度取引条件改善状況調査では、受注側で48.5%が電子受発注に対応していたと報告されています*5。
自社に合う方式を決める判断軸(取引先数・取引量・既存基幹システムとの連携)
方式選定で迷う場合は、優先順位をつけて判断すると絞り込みやすくなります。以下は選定軸を重要度順に並べたものです。
移行先を選ぶ判断軸の優先順4点(順位根拠:判断への影響の大きさ)
- 取引先数と取引データ量です。既存EDIでの月間受発注件数の規模感を最初に把握します。
- 既存基幹システムとの連携要否です。受発注データの自動連携が必要かどうかで方式の候補が変わります。
- 取引先が指定する業界標準への対応要否です。流通BMSや中小企業共通EDIなど、取引先側の指定を確認します。
- 電子帳簿保存法の保存要件への対応可否です。移行後のデータ保存まで含めて方式を評価します。
なお、移行にかかる費用は取引先数・データ量・連携範囲によって幅があり、一次情報で確認できる相場は公表されていません。金額の目安が必要な場合は、上記の判断軸をもとに個別に見積もりを取ることをおすすめします。
インターネットEDI移行の7ステップ
ここからは移行の実務手順を7ステップで解説します。各ステップには「誰が」「何を決めるか」「アウトプット」を示します。
ステップ1 現行EDIの棚卸し(回線・通信手順・端末・取引先・データ項目)
情報システム担当者が中心になり、現在使っている回線種別・通信手順(JCA手順・全銀手順等)・EDI端末・取引先一覧・データ項目を一覧化します。担当者が交代している企業では、この棚卸しだけで相応の時間がかかることがあります。アウトプットは「現行EDI構成一覧表」です。
ステップ2 期限からの逆算スケジュール策定(2028年12月31日を起点に)
INSネットのサービス提供終了日である2028年12月31日*1を起点に、取引先調整・接続テスト・並行稼働の期間を逆算して配置します。情報システム担当者と業務部門責任者が共同でスケジュール案を作成し、経営層の承認を得ることがアウトプットになります。
ステップ3 移行方式と接続先の決定
前章で整理した判断軸(取引先数・連携要否・業界標準対応・保存要件)をもとに、Web-EDI型・ファイル転送型・クラウドEDIサービスのいずれかを選びます。情報システム担当者が候補を絞り、業務部門責任者と合意した方式を決定事項として残します。
ステップ4 取引先への説明と合意形成
決定した移行方式を取引先へ説明し、対応可否と対応時期の合意を取ります。取引先ごとに検討期間が異なるため、営業・購買部門と連携して早期に着手する必要があります。アウトプットは「取引先別の対応状況一覧」です。
ステップ5 データ項目・通信手順のマッピングと設計(保存要件も同時に定義)
新旧のデータ項目・通信手順の対応関係を設計します。ここで電子帳簿保存法第7条が定める電磁的記録の保存要件*4も同時に組み込むことが欠かせません。
後から保存設計を追加すると手戻りが発生しやすいためです。アウトプットは「データ項目マッピング表(保存要件を含む)」です。
ステップ6 接続テストと並行稼働
新方式で送受信テストを行い、問題がなければ新旧両方の回線を並行稼働させます。並行稼働の期間が短いと、切替直後のトラブルで受発注が止まるリスクがあります。情報システム担当者と取引先の双方でテスト結果を確認し、切替可否を判断します。
ステップ7 本番切替と旧回線の解約
並行稼働で問題が確認されなければ本番切替を行い、旧回線・旧端末を解約します。解約手続きが漏れると、使っていない回線の費用が残存し続けます。情報システム担当者が解約完了を確認し、移行プロジェクトの完了を報告します。
移行で見落としやすい注意点
取引先の対応スピードが全体の律速になる
自社の準備が整っていても、取引先側の検討・対応が遅れると移行全体のスケジュールが崩れます。取引先の数が多いほど、合意形成に必要な期間はばらつきます。ステップ2の逆算スケジュールには、取引先対応の遅延分をあらかじめ見込んでおくことが大切です。
EDI取引は電子帳簿保存法上の「電子取引」— 電磁的記録の保存義務*4
電子帳簿保存法第2条第5号は、注文書・契約書・送り状・領収書・見積書等に通常記載される取引情報を電磁的方式で授受する取引を「電子取引」と定義しています*4。同法第7条は、所得税(源泉徴収に係る所得税を除く)および法人税に係る保存義務者が電子取引を行った場合に、財務省令で定めるところにより当該取引情報に係る電磁的記録を保存することを義務づけています*4。
インターネットEDIで授受する注文データはこの電子取引に該当します。移行の要件定義に保存方法を含めないと、稼働後に保存要件を満たせず対応をやり直す事態につながります。
並行稼働期間を確保しないと受発注が止まる
新方式への切替を急ぎ、並行稼働を省略すると、想定外の不具合が起きた際に受発注そのものが止まるリスクがあります。特にJCA手順・全銀手順から標準プロトコルへ通信手順を変える場合、データ項目の解釈違いが接続後に見つかることがあります。並行稼働の期間中に、双方の担当者がデータ内容を突き合わせて確認する体制を組んでおく必要があります。
旧端末・旧回線の解約漏れによるコストの残存
本番切替後も旧端末・旧回線の解約手続きを忘れると、使っていない回線の費用が発生し続けます。ステップ7で解約完了を確認するチェック項目を設け、担当者を明確にしておくことが必要です。
この一連の作業を内製で進める場合、通信手順の知識に加えて、取引先調整の実務経験と電帳法の保存要件に関する理解が必要になります。棚卸しから本番切替まで複数の部門と取引先を横断する調整が発生するため、体制を組めるかどうかを早い段階で見極めることが欠かせません。
まとめ|移行の着手判断チェックリスト
今すぐ確認すべき5項目
着手前に確認する優先順5項目(順位根拠:着手順序の依存関係)
- 現行EDIの回線・通信手順・端末・取引先を棚卸しできているかを確認します。
- 2028年12月31日を起点にした逆算スケジュールを作成できているかを確認します*1。
- 移行方式(Web-EDI型・ファイル転送型・クラウドEDIサービス)を判断軸に沿って絞り込めているかを確認します。
- 取引先への説明・合意形成の進め方を決められているかを確認します。
- 電子帳簿保存法の保存要件を移行設計に含められているかを確認します*4。
次のアクション(CTA接続)
本稿ではインターネットEDIへの移行を7ステップで整理しました。要点は3つに集約できます。第一に、INSネットのサービス提供終了は2028年12月31日であり*1、補完策は恒久策にならないことです*2。第二に、移行は自社だけで完結せず、取引先を巻き込む調整プロジェクトであることです。第三に、EDI取引は電子帳簿保存法上の電子取引に該当し、保存要件を移行設計に組み込む必要があることです*4。期限から逆算すると、着手はもう先送りできる段階ではありません。
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
よくある質問
インターネットEDIへの移行にはどれくらいの期間がかかりますか
必要な期間は取引先数や既存システムとの連携範囲によって変わります。取引先への説明・合意形成にかかる期間が全体の律速になりやすいため、余裕を持ったスケジュールが必要です。期限は2028年12月31日であるため*1、この日付から逆算して着手時期を判断することが大切です。
ISDNの補完策を使えば2028年以降も現行のまま使えますか
使えません。NTT東日本・NTT西日本の発表によれば、INSネットのサービス提供終了は2028年12月31日です*1。補完策「メタルIP電話上のデータ通信」も、NTT東西の公表資料で「全く同一の品質とはならない」「処理時間が増加する場合がある」と注記された当面の対応策とされています*2。恒久的な代替にはなりません。
取引先がインターネットEDIに対応していない場合はどうしますか
まず自社が使う移行方式を決め、早い段階で取引先へ説明し合意形成を進める必要があります。流通BMSのような業界標準を使う選択肢もあり、卸・メーカー側の導入企業数は2025年6月1日時点で21,600社を超えています*6。取引先が指定する標準に合わせられるかを確認することが近道です。
移行後、EDIでやり取りした注文データは保存が必要ですか
必要です。電子帳簿保存法第2条第5号は、注文書・契約書・送り状・領収書・見積書等に通常記載される取引情報の授受を電磁的方式で行う取引を「電子取引」と定義しています*4。同法第7条は、所得税・法人税に係る保存義務者に対し、電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存を義務づけています*4。移行の設計段階で保存要件を組み込む必要があります。
- *1 出典:東日本電信電話株式会社・西日本電信電話株式会社「INSネットの新規申込受付・提供終了について」(報道発表、2024年3月7日)
- *2 出典:NTT東日本・NTT西日本「INSネット ディジタル通信モードにおける当面の対応策『メタルIP電話上のデータ通信』サービスの提供について」(報道発表、2017年3月13日)
- *3 出典:経済産業省 商務情報政策局 情報経済課「令和6年度電子商取引に関する市場調査」(ニュースリリース、2025年8月26日)
- *4 出典:e-Gov法令検索「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(電子帳簿保存法)」第2条第5号・第7条(法令本文)
- *5 出典:中小企業庁 経営支援部 経営支援課「中小企業の受発注デジタル化(中小企業共通EDI)」(掲載ページ)
- *6 出典:流通システム標準普及推進協議会「流通BMS導入企業数推計」(掲載ページ、2025年6月1日時点)
画像の出典元
- 移行のイメージ/Photo by Hal Gatewood on Unsplash
- 手順のイメージ/Photo by 1981 Digital on Unsplash
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- チェックリストのイメージ/Photo by Adrien Olichon on Unsplash