◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 請求額と指値の差異は、発注時の指定、合意後の変更、請求側の計算・転記の3箇所に分け、メールや見積を含む証跡と照合して原因を切り分ける。
- 契約は書面がなくても成立するため、発注書だけでなく単価を指定したメールや変更の連絡も合意の材料になる。
- 受け取った請求書は自社で書き換えず、売手に修正した適格請求書の交付を求めるか、自社が作った仕入明細書等に売手の確認を受ける。
- 取適法の対象取引では、発注後の減額、振込手数料の差引き、協議に応じない一方的な代金決定が違反とされるため、差額を引いて払う前に対象かどうかを確かめる。
- 発注書の記載、変更の記録、検収時の数量確認、請求照合の判定ルールに確認点を置くと、差異に気づいた後で証跡を集め直す作業が減る。
目次

請求額が指値と違うとき、まず何と何を突き合わせて誤りの所在を切り分けるか
発注時に指定した単価と届いた請求書の金額が合わず、支払ってよいのか、取引先に何と伝えればよいのかで手が止まっていませんか。
まず差異を、発注時の指定、合意後の変更、請求側の計算・転記の3箇所に分け、発注書やメールなどの証跡と突き合わせます。
請求書は自社で書き換えず、取引先に修正した請求書を求めるか、自社で作った仕入明細書等に取引先の確認を受けます。
取適法の対象取引では発注後の減額や一方的な代金決定が規制されるため、差額を引いて払う前に対象かどうかを確かめます。
差異を発注時の指定・合意の変更・請求側の誤りに分ける
請求額と指値の差は、取引のどこかで数字が入れ替わった結果です。
入れ替わりが起こり得る場所は、大きく分けると発注時の指定、発注後の条件変更、請求書を作る側の計算や転記の3箇所です。
この3箇所を順に証跡と当てていくと、「相手が間違えた」「こちらが間違えた」という印象ではなく、どの記録とどの記録が食い違っているかで話を進められます。
最初に見るのは、自社が何をいくらで頼んだかです。
発注書の単価・数量・金額の欄だけでなく、発注書を作る前にやり取りした見積書や、単価を指定したメールも並べます。
ここで自社の発注書そのものが見積と違っていれば、誤りは請求側ではなく自社の入力にあります。
請求書が見積どおりに作られているなら、相手は正しく請求しているので、直すべきは発注の記録です。
発注書と見積が一致していても、その後に数量の追加や仕様の変更などで条件が変わっていれば、請求額はその変更を反映している可能性があります。
担当者同士の電話やメールで変更を決め、発注書を出し直していない場合、請求書を照合する経理担当者からはその変更が見えません。
購買や現場の担当者に、発注後に条件を変えたやり取りがなかったかを聞くのはこの段階です。
発注の記録にも変更の記録にも差異の理由が見当たらなければ、請求書を作る側の計算や転記を疑います。
単価の桁、数量の取り違え、別の取引先向けの単価の適用、税額の端数処理など、請求書の明細を一行ずつ発注内容と当てると、どの行で差が出ているかが見えてきます。
差額が小さいから端数処理だろう、差額がちょうど一行分だから数量の誤りだろう、といった見当は手掛かりにはなりますが、明細を当てるまでは原因と決めないほうが、相手への説明で食い違いが起きません。
書面がなくても残る証跡を集める
「発注書を出していないから、指値を主張できないのでは」と心配になる場面があります。
民法では、契約は申込みに対する承諾で成立し、法令に特別の定めがある場合を除いて、書面の作成その他の方式は要しないとされています2。
つまり、単価を指定したメールに相手が了承の返信をしていれば、そのやり取り自体が合意の内容を示す材料になります。
証跡として集めるものは、見積書、発注書、注文請書、単価を指定したメールやチャット、変更を伝えたメール、納品書、検収記録などです。
どれか一つで決めるのではなく、時系列に並べて、最後に双方が了承した条件はどれかを探します。
口頭で決めた変更は、決めた人の記憶と日付をメモに起こしておくと、相手に確認するときの出発点になります。
ただし、民法のこの原則は契約一般の話で、個別の法律が書面を求めている場合まで不要にするものではありません2。
また、取引基本契約で単価の決め方や変更の手続きを定めていれば、その定めも合意の内容です。
契約書の変更条項や単価の定め方も、ここで一緒に見ておくと、後の支払いの判断が速くなります。
請求書の金額・税率・税額の欄を確認する
差額が出ている場所は、明細の単価や数量とは限りません。
国税庁が示す適格請求書(インボイス)の記載事項には、発行者の名称と登録番号、取引年月日、取引内容、税率ごとに区分した合計額と適用税率、税率ごとに区分した消費税額等、書類を受け取る事業者の名称が含まれます4。
このうち金額の照合で中心になるのは、税率ごとの合計額、適用税率、消費税額等の欄です。
本体価格は発注どおりでも、税率の区分を誤っていたり、税込と税抜を取り違えていたりすると、合計額が指値と合わなくなります。
発注書が税抜の単価で書かれ、請求書が税込で集計されている場合は、どちらの基準で比べているかを先にそろえないと、差異がないのに差異があるように見えます。
なお、小売業や飲食店業などは記載事項の一部が緩和されるため、取引先の業種によって請求書の様式が異なることがあります4。
登録番号や取引年月日の欄も、金額と同じく訂正の対象になり得ます。
金額の差異に気づいたついでに他の欄も見ておくと、取引先への訂正の依頼を一度で済ませられます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 発注時の指定
- 見積書
- 発注書の単価・数量・金額
- 単価を指定したメール
- 合意後の変更
原因別に、全額支払い・差額保留・訂正依頼のどれを選ぶか
請求側の誤りだった場合
切り分けの結果、請求書を作る側の計算や転記に誤りがあると分かれば、取るべき行動ははっきりします。
取引先に訂正を依頼し、正しい金額の請求書を受け取ってから支払う、というのが基本の流れです。
差額がどれだけ明確でも、請求書の数字を自社で書き換えて支払うと、税務上の書類としても取引先との記録としても食い違いが残ります。
迷うのは、支払期日が迫っていて訂正が間に合わないときです。
このとき選択肢は、請求額どおり全額払って後で精算するか、発注時の指定どおりの額を払って差額を保留するか、訂正を待って支払い全体を遅らせるかに分かれます。
どれを選べるかは、取引先との契約に支払期日や精算の定めがあるか、そして取引が取適法の対象かどうかで変わります。
取適法の対象取引では、自社の判断だけで支払う代金の額を決める処理が問題になり得るため、後の節で説明する規制を先に確かめてから選びます。
全額払って後で精算する方法は、取引先との関係を崩しにくい一方、過払い分の返金や次回請求での調整を相手と合意しておかないと、回収の手間が残ります。
差額を保留する場合は、保留している金額とその理由を取引先へ書面やメールで伝え、相手が知らないうちに入金額が少なくなっている状態を作らないことが大切です。
自社の発注入力の誤りだった場合
見積や単価を指定したメールと比べて、自社の発注書の単価や数量のほうが間違っていたと分かることもあります。
この場合、請求書は合意どおりに作られているので、直すのは請求書ではなく発注の記録です。
取引先へ訂正を求めるのではなく、社内で発注書を訂正し、正しい条件を取引先と改めて確認します。
注意したいのは、自社の発注書が合意より低い金額で書かれていたときです。
請求書のほうが発注書より高く見えるため、照合の結果だけを見ると請求側の誤りに見えますが、実際には合意どおりの請求です。
ここで発注書の金額に合わせて支払うと、合意した代金より少なく払うことになります。
取適法の対象取引では、発注時に決めた代金を発注後に減らすことが違反とされているので、記録の訂正と相手との確認を先に済ませます。
逆に、自社の発注書が合意より高く書かれていて、請求書が合意どおりの金額だった場合は、請求額で支払えば済みます。
それでも発注書の訂正は残しておかないと、次の発注で誤った単価が使い回されます。
原因が分からない場合
証跡を当てても、どちらの記録が正しいか決まらないことがあります。
たとえば、単価の変更を電話で話した記憶はあるが、変更後の単価を書いたメールが見当たらない、という場合です。
この状態で自社の見立てどおりの額を払うと、相手は差額を未払いと受け取り、話がこじれやすくなります。
原因が分からないときは、まず取引先に差異があることと自社の記録を伝え、相手の記録を見せてもらうことから始めます。
相手が持っている見積書や変更の連絡が、自社に残っていない合意を示すこともあります。
双方の記録をそろえても決まらない場合は、当事者同士の協議で金額を確定させることになり、その結果は後で確認できるように書面やメールで残します。
協議の間の支払いをどうするかは、前の項目と同じく、契約の定めと取適法の対象かどうかによります。
どちらの誤りか決まらないまま差額を保留すると、相手から見れば一方的な減額にも映ります。
保留するならその理由と、金額が確定した後にどう精算するかを、相手に伝えておきます。
同時履行の抗弁で言えること・言えないこと
支払いを止める根拠として考えられるのが、民法の同時履行の抗弁です。
民法では、双務契約の当事者の一方は、相手方が債務の履行を提供するまで自己の債務の履行を拒めるとされています1。
ただし、相手方の債務が弁済期にないときは除かれます1。
この条文が定めているのは、相手が自分の側の義務の履行を提供するまで、こちらの義務の履行を拒めるということです。
納品が済んでいない、数量が足りないといった、相手の履行そのものに不足がある場面では、この考え方が手掛かりになります。
一方で、納品は済んでいて請求金額だけが合わない場面で、差額部分だけの支払いを保留できるかどうかまでは、条文から直接は示されていません。
そのため、差額の保留は法律が当然に認める権利というより、契約条項と事実関係に照らして取引先と調整する選択肢と考えたほうが実態に合います。
保留を考えるなら、差額の根拠を証跡で示せること、取適法の対象取引でないか確かめたこと、相手に保留とその理由を伝えたことの三つがそろっているかを見ます。
金額が大きい、契約の解釈が分かれるといった場合は、契約書と証跡を添えて法務担当や弁護士に相談する場面です。
▼ 図の内容を文字で読む
- 請求側の計算・転記の誤り
- 取引先に訂正した請求書を依頼
- 期日が迫れば全額払い後の精算か差額保留を相手と調整
- 自社の発注入力の誤り
- 社内で発注記録を訂正
相手に訂正を求めるとき、何を根拠に何を伝え、請求書をどう直してもらうか
連絡で伝える3点
取引先へ連絡するとき、「請求額が違います」だけでは、相手は自社の請求データのどこを見ればよいか分かりません。
伝える内容は、次の3点にまとめると相手が差異を再現しやすくなります。
- 差異の内容:どの請求書のどの明細行が、発注時の指定とどう違うか
- 根拠となる証跡:発注書、単価を指定したメール、変更の連絡など、自社が正しいと考える条件を示す記録
- 希望する訂正方法:修正した請求書を発行してもらうのか、自社が作る仕入明細書等を確認してもらうのか
差異の内容を明細行の単位で示すのは、相手の経理担当者が自社の販売データと照らし合わせるときの手間を減らすためです。
根拠の証跡を添えるのは、相手の担当者が営業担当に確認を回すとき、そのまま転送できるようにするためです。
訂正方法を最初に伝えておくと、相手が訂正版を作った後で別の形式を求めるやり直しを避けられます。
原因がまだ決まっていない段階では断定を避け、「当社の記録ではこの条件ですが、貴社の記録をご確認いただけますか」という形で、相手の記録を見せてもらう依頼にします。
相手の記録に自社が把握していない変更の合意が出てきた場合、請求は正しかったことになり、直すのは自社の発注記録の側です。
売手に修正した請求書を求める方法
請求書の誤りを直すとき、受け取った側が請求書の数字を自分で書き換えて保存する方法は、国税庁の問答では示されていません。
示されているのは、売手に修正した適格請求書の交付を求める方法と、買手が修正した仕入明細書等を作成して売手の確認を求める方法の二つです3。
ここでいう買手は、消費税の仕入税額控除を受ける課税事業者としての自社を指します3。
一つ目の方法では、取引先が誤りを直した適格請求書を改めて交付します3。
取引先にとっては自社の請求データを直して発行し直す作業なので、請求側の誤りがはっきりしている場合に進めやすい方法です。
受け取った修正版は、元の請求書と取り違えないように紐づけて保管し、支払いの根拠にはこの修正版を使います。
修正版を待つ間に支払期日が来る場合は、前の節で見たように、支払いの扱いを相手と決めておく必要があります。
修正版を発行できる時期を連絡の時点で尋ねておくと、支払いの予定を組み直しやすくなります。
仕入明細書等で修正し売手の確認を受ける方法
二つ目の方法は、買手である自社が正しい内容に直した仕入明細書等を作成し、売手である取引先の確認を受けるものです3。
仕入明細書等は買手が作る取引の明細で、売手の確認を受けたものが仕入税額控除のための書類として扱われます3。
この方法が向くのは、取引先の請求書の再発行に時間がかかる場合や、自社のほうで明細を正確に作れる場合です。
注意点は二つあります。
一つは、売手の確認を受けていない仕入明細書等は、この方法の書類として扱えないことです3。
もう一つは、仕入明細書等に記載する登録番号は自社のものではなく、売手である取引先の登録番号だという点です3。
確認の受け方は、取引先に仕入明細書等を送り、内容に同意する旨の返信を受けるなど、確認したことが後から分かる形にしておきます。
どちらの方法を選んでも、差異の連絡から訂正版の受領や確認までのやり取りを一つにまとめて残しておくと、後で税務や監査の場面で経緯を説明しやすくなります。
▼ 図の内容を文字で読む
- 買手から売手へ連絡
- 差異の内容
- 根拠となる証跡
- 希望する訂正方法
- 売手が修正する方法
指値の記載が曖昧だった、または合意後に条件が変わっていた場合はどう扱いが変わるか
契約は書面がなくても成立する
最初の節で見たとおり、契約は書面がなくても成立します2。
この原則は、発注時の合意だけでなく、発注後の条件変更にも同じように働きます。
担当者同士が電話で単価の変更を決め、メールで「それで進めます」と返していれば、発注書が古いままでも、変更後の条件で合意していたと相手が主張する材料になります。
裏返すと、自社の発注書に指値が書かれていても、それだけで請求額の誤りが確定するわけではありません。
相手の手元に、変更を示す記録が残っている可能性があるからです。
反対に、相手が変更の合意を主張しても、それを示す記録がどちらにもなければ、相手の主張もそのままは確定しません。
記載が曖昧な場合も同じ考え方をします。
たとえば、発注書の単価欄に「別途見積による」とだけ書いていて、どの見積を指すのか分からない場合、指していた見積は前後のやり取りから読み取ることになります。
証跡だけで決まらない部分は、相手との協議で確定させ、その結果を記録に残すほかありません。
代金が未確定の発注の明示方法
発注の時点で単価が決まっていない取引もあります。
原材料の価格に連動させる場合や、試作の結果を見て単価を決める場合などです。
こうした取引で後から請求額との食い違いが生じる余地が大きいのは、発注書に何も書かれていないときや、仮の単価が確定した単価のように書かれているときです。
取適法の対象取引については、公正取引委員会の考え方が示されています。
代金の額が未確定でも、算定方法を示せるのであれば、発注の時点でその算定方法を明示する必要があるとされています5。
仮の単価で発注する場合は、仮であることを明示し、その理由と確定する時期を示し、確定したら速やかに通知することとされています5。
これは同法の対象取引についての考え方ですが、対象外の取引でも、曖昧さを残さない発注書の書き方として参考になります。
算定方法が発注書に書かれていれば、請求の照合は「指値と合うか」ではなく「算定方法どおりに計算されているか」の確認になり、差異の原因を探す範囲が狭まります。
仮単価の取引では、確定単価の通知が届いているかどうかが、照合の最初の確認点になります。
変更合意の記録の残し方
条件の変更は発注書を出し直すのが確実ですが、急ぎの場面では電話やチャットで決めることもあります。
その場合でも、決まった内容を短いメールで相手に送り、了承の返信をもらえば、後から確認できる記録になります。
記録に残す要素は、変更した項目、変更前と変更後の条件、新しい条件を適用する発注や納品の範囲、決めた日付と相手の担当者です。
特に、どの納品から新しい単価を適用するかが抜けると、変更前の納品に新しい単価が付いた請求書が届いたとき、どちらが正しいか判断できません。
取適法の対象取引では、代金についての協議の求めと結果を書面に残すことが望ましいとされています5。
対象外の取引であっても、変更の記録が経理担当者まで届かなければ、請求照合の時点で変更が見えないという最初の問題は残ります。
購買担当者が受けた変更の連絡を、発注データの側にも反映させる流れがあれば、照合のたびに担当者へ問い合わせる必要がなくなります。
取引の種類によって、代金の減額や一方的な決定に法令上の制約は関わるか
取適法の対象かどうかの確認点
ここまで何度か触れてきた取適法は、下請法が改められた法律で、2026年(令和8年)1月に施行されました6。
資本金の基準に該当しなくても、製造委託等や役務提供委託等の区分ごとに定められた従業員数の基準に該当すれば対象になるという基準が加わっています6。
基準となる人数は区分によって異なるため、自社の取引がどの区分に当たるかとあわせて、公正取引委員会の案内で確かめておきます。
従業員数は事業者単位で、発注した時点の人数で判断されます5。
発注する側に取引先の従業員数を確認する義務はありませんが、書面で確認しておくことが望ましいとされています5。
請求額の差異に気づいてから対象かどうかを調べ始めると、取引先の人数が分からず判断が止まるので、取引の開始時や発注時に確かめておくと、この場面で迷わずに済みます。
対象かどうかで変わるのは、差額をどう扱うかの自由度です。
対象外の取引であれば、差額の扱いは主に契約の定めと当事者間の協議で決まります。
対象取引であれば、次に説明する減額や一方的な代金決定の規制が、支払う額の決め方そのものに関わってきます。
発注後の減額と振込手数料の差引き
取適法の対象取引では、発注時に決めた代金の額を発注後に減らすことが違反とされます5。
中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに減らす場合は、事前に合意していても違反とされています5。
振込手数料を代金から差し引いて支払うことも、合意があっても違反とされています5。
請求額の差異との関係で気を付けたいのは、自社の判断で差額を差し引こうとする場面です。
たとえば、請求書に誤りがあると考えて自社の見立てで差額を引いて振り込み、その見立てが外れていた場合、発注時に決めた代金より少なく払ったことになります。
また、振込手数料を差し引く運用を続けている場合は、請求額の差異とは別に、それだけで違反とされる点にも注意が要ります。
一方、請求が発注額を上回っているときに、発注額どおりに支払うことがこの「減額」に当たるかどうかは、公正取引委員会の問答からは直接読み取れません。
発注時に決めた代金を払っているのだから問題ないと考えたくなる場面ですが、上回った理由が取引先の主張する変更の合意にある場合は、決めた代金そのものが変わっている可能性があります。
対象取引でこの状況になったら、自社だけで結論を出さず、取引先と協議しながら、必要に応じて専門家に確かめるのが安全です。
協議に応じない一方的な代金決定
取適法では、協議に応じない一方的な価格決定が禁止事項として加わりました6。
公正取引委員会は、中小受託事業者からの申入れに応じず、協議をしないまま一方的に代金を決めることを違反としています5。
請求額の差異の場面に当てはめると、取引先から「単価の変更を申し入れていた」「この金額で合意していたはずだ」と言われたときに、話し合いを拒んで自社の指値どおりの額に決めてしまうことが、この規制に関わり得ます。
自社の記録が正しいと考えていても、相手の申入れには応じて協議の場を持ち、双方の記録を並べて金額を確定させる手順を踏みます。
協議の求めと結果は、書面に残すことが望ましいとされています5。
差異の連絡、相手からの申入れ、協議の内容、確定した金額をメールなどで一連の記録にしておけば、後から協議の経緯を示せます。
これは前の節の変更合意の記録と同じ作業で、請求照合のためにも法令への対応のためにも使える記録になります。

同じ差異を繰り返さないために、発注・検収・請求照合のどこで確認するか
発注書の記載
ここまで見てきた原因のうち、発注時の指定の誤りや記録されない条件変更は、請求書を受け取る前の段階で生まれています。
そのため、確認点は請求照合だけでなく、発注と検収にも置きます。
発注書では、単価・数量・金額を明記し、税抜か税込かも書いておきます。
単価が未確定なら算定方法を、仮単価なら仮であることと確定する時期を書きます。
こうしておくと請求照合で比べる基準が一つに決まり、最初の節で行った、どの基準で比べているかをそろえる作業が要らなくなります。
条件を変更したときは、発注書を出し直すか、変更を記録したメールを発注データに紐づけます。
購買担当者の手元だけに変更の記録があり、照合する経理担当者から見えないことが、合意後の変更による差異の原因でした。
変更の記録を照合する人が見られる場所に置けば、照合のたびに購買担当者へ問い合わせる手間が減ります。
検収時の確認
検収は、納品された物やサービスが発注どおりかを確かめる作業ですが、請求額の差異を切り分けるうえでも意味があります。
数量の不足や過剰、品目の違いを検収で記録しておけば、請求書の数量が発注と合わないとき、それが納品の実態を反映したものか、請求側の転記の誤りかを区別できます。
検収の記録がないと、請求書の数量が発注より多いとき、実際に多く納品されたのか請求の誤りなのかを判断する材料がありません。
取引先への問い合わせから始めることになり、支払期日までの時間を使ってしまいます。
検収時に数量を記録しておくのは、請求照合の段階での問い合わせを減らすための準備でもあります。
請求照合の判定ルール
請求照合では、請求書の明細を発注の記録と検収の記録に当て、差異があるかどうかを判定します。
判定のルールとして決めておきたいのは、どの基準と比べるか、差異があったときに誰が原因を調べるか、原因が分かるまで支払いをどう扱うかの三つです。
比べる基準は、発注書の金額、変更後の条件、検収した数量です。
仮単価の取引では確定単価の通知を照合の起点にし、通知が届く前の請求は、確定単価の通知を待ってから照合します。
差異があったときの担当は、発注入力の誤りなら購買担当者、請求側の誤りなら経理担当者が取引先へ連絡する、というように原因ごとに決めておくと、最初の節の切り分けをそのまま社内の分担に使えます。
これらの確認点は運用の提案で、置けば差異がなくなるという保証はありません。
ただ、発注時の基準がそろい、変更と検収の記録が照合する人に見えていれば、差異に気づいた後で証跡を集め直す作業と、担当者間の問い合わせは減ります。
照合で見つかった差異の原因を次の発注書の書き方に反映させていくと、同じ箇所での食い違いに早く気づけるようになります。
▼ 図の内容を文字で読む
- 発注
- 単価・数量・金額と税抜か税込かを明記
- 未確定なら算定方法、仮単価なら確定時期
- 条件変更
- 変更内容と適用範囲を記録
差異の原因が発注の記録や変更の伝わり方にある場合、一枚ずつ請求書を直しても、次の月にも同じ照合と問い合わせが残ります。
自社の発注から請求照合までの記録がどこで分かれているかを整理し、どの段に確認点を置けるかを一緒に確かめられます。無料相談で要件を整理する
請求額が指値と違うときに支払い前に確かめること
差異に気づいてから支払い額を決めるまでに、記事で扱った確認事項を作業の流れに沿って並べた
- 請求明細を、発注書・見積・単価を指定したメールと一行ずつ照合したか
- 発注後に条件を変えたやり取りがなかったか、購買や現場の担当者に聞いたか
- 税抜と税込、税率ごとの合計額と消費税額等の基準をそろえて比べたか
- 取引が取適法の対象かどうかを、発注時点の従業員数などで確かめたか
- 訂正方法(修正した請求書の交付か、売手の確認を受ける仕入明細書等か)を取引先に伝えたか
原因が決まらない場合や、取適法の対象取引で差額の扱いに迷う場合は、自社だけで決めず取引先との協議と専門家への相談に切り替えます。
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 誤りの切り分け | 発注時の指定、合意後の変更、請求側の計算・転記の3箇所を証跡と照合する |
| 証跡の範囲 | 発注書に限らず、見積、メール、変更の連絡、検収記録も合意の材料になる |
| 請求書の直し方 | 自社で書き換えず、修正した適格請求書の交付か、売手の確認を受けた仕入明細書等による |
| 差額の保留 | 条文から当然には導けない。根拠、取適法の確認、相手への連絡がそろうかで判断する |
| 取適法の対象取引 | 発注後の減額、振込手数料の差引き、協議しない一方的な代金決定が違反とされる |
| 再発防止 | 発注・検収・請求照合に確認点を置き、変更記録を照合する人が見られる場所に置く |

取引先ごとに単価の決め方や変更の伝え方が違うと、照合の基準をそろえる作業が社内だけでは進みにくくなります。 取引先との発注・変更・請求のやり取りを、照合に使える形でどう記録していくかを相談できます。
よくある質問
発注書がなく、メールだけで単価を決めていた場合でも指値を主張できますか。
主張の材料になります。
民法では、契約は申込みに対する承諾で成立し、法令に特別の定めがある場合を除いて書面などの方式は要しないとされています2。
単価を指定したメールと相手の了承の返信がそろっていれば、合意の内容を示す記録です。
ただし、その後に変更のやり取りがあれば変更後の条件が合意になるため、やり取りを時系列で並べて最後に了承した条件を確かめます。
請求額が発注額より低かった場合も訂正した請求書を求めるべきですか。
請求側の誤りであれば求めるのが基本です。
金額は適格請求書の記載事項の一つで、誤りがあれば修正した適格請求書の交付を求めるか、仕入明細書等で売手の確認を受ける方法が示されています3。
取適法の対象取引では、発注時に決めた代金より少なく払う結果になる点にも注意が要ります5。
値引きの合意なのか単純な誤りなのかを取引先に確かめ、その結果を記録に残します。
振込手数料を差し引いて支払うのは問題ありませんか。
取適法の対象取引では、振込手数料を代金から差し引くことは、合意があっても違反とされています5。
対象外の取引では、手数料の負担は取引先との契約で定めた条件に従います。
まず自社の取引が取適法の対象かどうかを確かめることが先です。
取引先の従業員数が基準に近いとき、取適法の対象かどうかはいつの時点で判断しますか。
従業員数は事業者単位で、発注した時点の人数で判断されます5。
発注する側に従業員数を確認する義務はありませんが、書面で確認しておくことが望ましいとされています5。
基準に近い取引先であれば、取引の開始時や発注時に人数を書面で確かめておくと、請求の差異が起きた場面で判断が止まりません。
- 1 出典:e-Gov法令検索「民法 第533条(同時履行の抗弁)」(現行法)
- 2 出典:e-Gov法令検索「民法 第522条(契約の成立と方式)」(現行法)
- 3 出典:国税庁「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A 問92」(2026年)
- 4 出典:国税庁「タックスアンサー No.6625 適格請求書等の記載事項」(2025年)
- 5 出典:公正取引委員会「よくある質問コーナー(取適法)」(2026年)
- 6 出典:公正取引委員会「取適法・振興法」(2026年)
画像の出典元
- Two colleagues reviewing financial documents and graphs during an office meeting./Photo by Tiger Lily on Pexels
- Focused businessman writing ideas on sticky notes for planning and organization./Photo by Yan Krukau on Pexels