◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 受発注DXに使える補助制度は、4つの枠を持つデジタル化・AI導入の制度と、カタログ注文型・一般型の2つの型を持つ省力化投資の制度に分かれます。
- インボイス枠の電子取引類型は、発注側が受注側にアカウントを無償で発行する機能を要件とし、自社単独の導入とは前提が違います。
- 2026年1月施行の取引適正化の法改正と、ISDNを用いた通信サービスの終了が、切り替えの時期を前に寄せています。
- 補助率と補助上限は公募回ごとに改定されるため、公式の公募要領で公募回と確認日を記録します。
目次
受発注DXとは何か、経営が向き合う理由
受発注DXとは、注文の受け渡しから出荷指示、請求までの一連の手続きを、紙や電話に依存した形から電子的なやり取りへ組み替える取り組みです。目的は入力作業の削減だけではありません。受注情報が即時に社内で共有され、在庫と与信の判断が早まることで、納期回答の速さと欠品の少なさという営業上の成果につながります。補助金はこの組み替えの費用の一部を賄う制度であり、何のために組み替えるのかという経営判断が先に立ちます。
受発注DXの対象になる業務の範囲は、受注の入り口にとどまりません。注文書の受領、内容の確認、基幹システムへの入力、在庫の引き当て、出荷指示、納品書と請求書の発行までが一続きの流れです。この流れのどこか一箇所だけを電子化しても、前後で紙の転記が残れば手作業は消えません。範囲を決めるときは、注文が入ってから請求が立つまでを一枚の流れとして描くところから始めます。
紙や電話、FAXによる受発注が経営に与える負荷は、人件費だけでは測れません。受注内容の聞き間違いや転記の誤りは、誤出荷や返品となって物流費と信用の双方を削ります。担当者の記憶と手元のメモに手順が残る状態では、休暇や退職のたびに業務が止まる危険を抱えます。月末の繁忙期に受注が集中すると、確認の往復が増え、営業が価格の交渉に使える時間が削られてしまいます。
属人化の影響は、数字の見えなさとして経営に返ってきます。受注が紙のまま処理されていると、どの商品がどの取引先へどれだけ動いたかを月次の締めまで把握できません。値引きの実態や返品の頻度も、担当者に尋ねなければ分からない状態が続きます。判断の材料が遅れて届く限り、在庫の持ち方や価格の見直しは後追いになるでしょう。受発注の記録が電子で残れば、この材料は締めを待たずに手元へ届きます。
業務効率化にとどまらず経営指標へつなげる視点が、投資の是非を分けます。受発注DXの効果は、受注1件あたりの処理時間、入力の差異件数、納期回答までの時間という3つの指標に表れます。これらは在庫回転や粗利といった経営指標の手前にある数字であり、改善の因果をたどれる形で置くことができます。指標を先に決めておけば、導入後に使ってはいるが効果が分からないという状態を避けられます。
効果を測る前提として、現状の作業量を数える期間を設けます。受注1件あたりの入力時間、月間の受注件数、確認の電話や差し戻しが発生した件数を、2週間から1か月の間だけ記録します。全数を数える必要はなく、繁忙期と閑散期をまたぐ形で標本を取れば傾向はつかめます。記録の様式は表計算ソフトで足り、担当者が一日の終わりに数字を入れる程度の負担に収めます。この記録がないまま導入すると、改善の幅を後から示せず、次の投資の判断材料も残りません。
補助金を検討する順番も、この視点から決まります。制度の枠に合わせて導入範囲を決めると、使いやすさより要件の充足が先に立ち、現場が使わない仕組みが残ります。先に自社の課題と指標を定め、その課題に合う枠があるかを後から突き合わせる順序が現実的です。制度側の要件は年度ごとに改定され、2026年の制度概要では4つの枠が示されています。公式の公募要領で最新の内容を確かめる手間は避けられません。
経営が受発注DXに向き合う理由は、取引先からの要請が自社の都合とは別に届く点にもあります。発注側が電子取引へ切り替える場面では、受注側は対応の可否を短い期間で判断せざるを得ません。準備のないまま迫られると、選定の時間が足りず、既存の業務に合わない仕組みを受け入れることになりがちです。自社の流れを先に整えておくことが、要請への対応余力を生みます。
補助金の枠を選ぶ前に確かめる5項目(順位の根拠:着手の順序)
- 受発注業務のどの工程を電子化するかを決めます。注文の受領、社内入力、出荷指示、請求のうち、手作業が集中する工程を先に特定します。
- 自社導入か取引先を含めた展開かを決めます。発注側として取引先にアカウントを無償で発行して使わせる形態は、インボイス枠の電子取引類型の要件に関わります。
- 自社が支払う費用を一覧にし、対象経費と自己負担に分けます。ソフトウェアの利用料、初期の設定費用、既存システムの改修費を分けて記載します。
- 公式の公募要領で補助率と補助上限、公募回の締切を確かめます。数値は公募回ごとに改定されるため、参照した公募回と確認した日を記録します。
- 登録されたITツールと支援事業者を公式の一覧で確かめます。登録の状況は更新されるため、契約の直前ではなく候補を絞る段階で確認します。
受発注のデジタル化を促す制度環境の変化
受発注のデジタル化を促す制度環境は、法改正と通信基盤の切り替えという二つの動きで変わりました。下請法が改正され、中小受託取引適正化法として施行された点は、受発注の条件と記録の残し方に関わります。電子取引データの保存に関する法令上の扱いも、注文書や請求書を紙で回す運用の見直しを促します。加えて、従来型EDIが使ってきた通信サービスの終了が公式に発表されており、切り替えの時期を自社で選べる期間は限られています。
取引適正化に関する法改正のもとで実務が問われるのは、条件の明確化と記録の保全です。発注の内容と支払いの条件が書面または電子で残っていなければ、後から条件の相違を確かめる手立てがありません。電話と口頭で条件を決める運用では、担当者間の認識の差がそのまま取引の争点になります。受発注を電子化することは、この記録を業務の副産物として自動的に残す方法にもなるでしょう。
制度の内容を確かめる先は、所管する行政機関の原典に限ります。改正の要点については、2026年1月の施行に合わせた説明会の実施が公式に案内されており、施行日と改正のポイントを一次情報で確かめられます。二次的な解説は要約の過程で条件が落ちることがあり、適用範囲の判断には向きません。禁止行為の範囲や手形払いの扱いという論点は、原典の記述をそのまま確認する姿勢が安全です。
電子取引データの保存義務と受発注文書の扱いも、運用設計の前提になります。注文書や請求書を電子でやり取りした場合、その電子データをどう保存するかが法令上の論点です。保存の要件や猶予の扱いは改定されるため、税務を所管する機関の原典で条件と期限を確かめる必要があります。システムを選ぶ段階でこの点を押さえておくと、後から保存方法を作り直す手戻りを避けられます。
電子取引データの保存については、2024年1月以降の取り扱いが実務の分かれ目になりました。電子で受け取ったデータを書面に出力して保存する方法が原則として認められなくなった一方で、相当の理由がある場合の猶予の扱いも定められています。要件の詳細と猶予の条件は国税庁が公開する一問一答などに整理されているため、自社が該当するかを原典で確かめます。受発注システムを選ぶ際は、この保存要件を機能として満たせるかを確認項目に加えます。
従来型EDIの通信基盤終了は、時期の決まった課題です。2024年に公表された通信事業者の発表では、ISDN(電話回線を用いた従来の通信方式)による通信サービスの新規申込受付と提供の終了が示されました。この回線を前提とした受発注の仕組みは、いずれ通信の方式を切り替えなければ動きません。切り替えは自社だけで完結せず、相手先の対応状況にも左右されるため、確認と調整の期間を見込む必要があります。
切り替えの選択肢として、業界で共通化された電子取引の仕様があります。流通分野では流通BMS(流通ビジネスメッセージ標準。取引データの形式と通信方式を共通化した仕様)が整備され、取引先ごとの個別対応を減らす方向が示されています。共通の仕様に寄せると、新しい取引先が増えたときの接続作業が軽くなります。ただし、自社の基幹システムの項目と仕様の項目を対応づける作業は残るため、設計の手間は見込んでおきます。
これらの変化は、投資の時期を前に寄せる要因になります。法改正への対応、電子データの保存、通信方式の切り替えが同じ時期に重なると、社内の人手と予算が一度に必要です。補助制度を使う場合は、公募の締切という外からの時間の制約も加わります。制度環境の変化を並べて見渡し、どの課題から手を付けるかを決めることが、制度選びの前提になります。
自社の商流に合わせた要件整理を進めたい場合は、無料相談で要件を整理するのが近道です。
受発注DXに活用できる補助金の全体像
受発注DXに使える補助制度は、大きく二つの系統に分かれます。一つはソフトウェアの導入を支援する制度で、通常枠、インボイス枠、セキュリティ対策推進枠、複数者連携枠という4つの枠が公式の制度概要に示されています。もう一つは人手不足の解消に向けた省力化投資を支援する制度で、カタログ注文型と一般型の2つの型があります。どちらも対象経費と要件が枠ごとに違うため、自社の課題がどの枠の目的に当たるかを先に見極めます。
デジタル化・AI導入を支援する補助制度は、受発注DXで中心に検討される枠組みです。2026年度の制度は従来のIT導入補助金から名称が変わり、デジタル化・AI導入補助金2026として案内されています。旧称のまま社内資料を回すと、公募要領の参照先を誤る恐れがあります。対象となる経費はソフトウェアの利用料や導入に伴う費用が中心で、枠ごとに範囲が定められています。
受発注システムを商流単位で導入する枠の考え方は、自社単独の導入とは前提が違います。インボイス枠の電子取引類型は、発注側の事業者が受注側の事業者にアカウントを無償で発行し、利用させる機能を要件としています。つまり、自社の中だけで使う仕組みでは要件を満たしません。取引先に使ってもらう前提で、案内と操作の支援まで含めた段取りが要ります。
枠の取り違えは、申請の差し戻しや対象外の判断につながります。自社の受注業務だけを効率化したい場合と、発注側として取引先に電子取引を広げたい場合では、当てはまる枠が変わります。公式ページの要件の記述を、枠ごとに読み分ける作業を省かないことが大切です。判断に迷うときは、公募要領の対象要件と自社の導入形態を並べて突き合わせます。
枠の数だけを覚えても、実際の判断には足りません。4つの枠はそれぞれの中でさらに類型に分かれており、インボイス枠のように類型ごとで対象となる導入形態や必要な機能の要件が変わる場合があります。省力化の制度も、カタログ注文型と一般型で申請の様式と審査の観点が異なります。両制度を合わせると検討の入口は5つから6つに広がるため、自社の課題に合わない枠を早い段階で外す作業が要ります。外した理由を一行ずつ書き残しておけば、稟議の場で選定の経緯を説明できます。
省力化投資を対象とする補助制度との違いは、支援の目的にあります。省力化の制度は人手不足に対応する設備や仕組みへの投資を後押しするもので、カタログ注文型と一般型の2つの入口があります。カタログ注文型は登録された製品から選ぶ方式で、一般型は自社の事業に合わせた投資の内容を示す方式です。受発注の仕組みが省力化の効果を伴う場合は、どちらの制度の目的に近いかを比べます。
補助率と補助上限額は公募回ごとに改定されるため、本稿では数値を記しません。同じ制度でも公募回によって上限や要件が変わり、古い数値を前提にすると資金の見通しが崩れます。確認するときは、制度の公式サイトに掲載された最新の公募要領を開き、参照した公募回と確認した日を社内資料に残します。この一手間が、稟議の途中で前提が変わる事態を防ぎます。
制度の全体像を押さえる目的は、選択肢を絞る速さを上げることです。制度の区分ごとに、受発注DXでの位置づけと確かめる要点を並べると、比べやすくなります。受発注DXの課題は、入力作業の削減、取引先との電子的なやり取り、記録の保全のいずれかに寄ります。課題の置き所が決まれば、検討すべき枠は2つか3つに絞られ、公募要領を読む労力を必要な範囲に収められます。
| 制度の区分 | 受発注DXでの位置づけ | 確かめる要点 |
|---|---|---|
| 通常枠 | ソフトウェアの導入を支援する枠 | 対象経費の範囲と補助率・補助上限 |
| インボイス枠 | 発注側が受注側にアカウントを無償で発行する電子取引類型 | 電子取引類型の対象要件と導入形態 |
| セキュリティ対策推進枠 | ソフトウェアの導入を支援する枠 | 公式の制度概要に示された枠の目的 |
| 複数者連携枠 | ソフトウェアの導入を支援する枠 | 公式の制度概要に示された枠の目的 |
| カタログ注文型 | 登録された製品から選ぶ省力化投資 | 申請の様式と審査の観点 |
| 一般型 | 自社の事業に合わせた投資の内容を示す省力化投資 | 申請の様式と審査の観点 |
補助金の枠と自社の課題を突き合わせる選び方
枠を選ぶ順序は、制度から入らず自社の課題から入ります。自社の受注処理を軽くしたいのか、取引先を含めて電子取引へ移りたいのかで、当てはまる枠が分かれます。次に、対象経費の範囲、補助率と補助上限、登録されたITツールと支援事業者の有無という3点を、公式の公募要領で順に確かめます。補助金は手段であり、選定の主軸は課題との適合です。この順序を守ると、要件に合わせて導入内容をゆがめる事態を避けられます。
自社導入か取引先を含めた展開かで、必要な準備の量が変わります。自社導入であれば、社内の業務手順と権限の整理が中心になります。取引先を含めた展開では、相手先への案内、操作の説明、問い合わせの受け皿までが自社の負担です。取引先の数と、その中で電子取引に対応できる相手の割合を、事前に把握しておく必要があります。
補助率・補助上限・対象経費の確認手順は、公募要領を上から読むだけでは足りません。まず自社が支払う費用を一覧にし、ソフトウェアの利用料、初期の設定費用、社内の人件費、既存システムの改修費という4種に分けます。そのうえで、どの費用が対象になり、どれが自己負担になるかを一件ずつ突き合わせます。対象外の費用が想定より多いと、補助を受けても手元の資金が足りない事態になりかねません。
確認の順序を誤ると、後の工程で前提が崩れます。対象経費の範囲が分からないまま見積もりを取ると、比較の土台がそろいません。登録されたITツールと支援事業者の確かめ方も、契約の直前ではなく候補を絞る段階で押さえます。次に挙げる5項目は、着手の順序に沿って並べています。
登録されたITツールと支援事業者の確かめ方は、公式サイトの掲載情報を起点にします。制度の対象となるのは、あらかじめ登録された製品と、登録された事業者を通じた申請に限られる場合があります。営業提案の資料に記載があっても、公式の一覧で登録の有無と対象の枠を自ら確かめます。登録の状況は更新されるため、確認した時点を記録に残しておくと、社内の説明が通りやすくなるでしょう。
候補を絞る段階では、公式サイトの検索機能で登録済みの製品を洗い出します。対応する業務の分類や機能から絞り込める形で公開されているため、受発注に関わる機能を持つ製品を一覧にし、製品名と登録の情報を控えます。控えた情報は申請書の記載に使えるほか、営業提案の内容と公式の登録内容が食い違っていないかの照合にも役立ちます。見積もりは同じ業務範囲の条件で2社以上から取り、月額の利用料と初期費用を分けて比べます。
枠の取り違えや要件の見落としは、費用と時間の双方を失わせます。交付決定の前に発注した費用は対象外と扱われるため、支払い済みの金額がそのまま自己負担になります。公募の締切に間に合わなければ、次の公募回まで投資の開始が後ろにずれます。その間も紙とFAXの処理は続くため、削減できたはずの作業が積み上がります。
要件の読み解きを社内だけで進める場合、必要になる知見は3つの領域に及びます。制度の要件と公募要領の読み方、自社の受発注業務の流れ、基幹システムとの接続の可否です。この3つを一人が兼ねる状況では、確認の抜けが起きやすくなります。外部の支援を使う場合も、業務の流れを説明できる社内の担当を置くことが前提です。
申請から交付までの流れと社内で準備すること
申請は、公募要領の確認から交付決定後の発注までを一続きの手続きとして進めます。締切は公募回ごとに定められているため、締切から逆算して社内の決裁と見積もりの取得を配置します。事前に必要な手続きにはアカウントの取得や事業者との調整が含まれ、これらは申請書の作成より前に済ませます。実務で影響が大きいのは、交付決定の前に発注しないという原則です。順序を守ることが、対象外と判断される事態を防ぎます。
公募スケジュールと締切に合わせた逆算の進め方は、社内の決裁の速さに左右されます。締切の日付を起点に、見積もりの取得、稟議、申請書の作成、内容の確認という4つの工程を後ろから並べます。決裁に要する日数は組織によって違うため、自社の過去の稟議を基準に置きます。締切の直前に集中させると、要件の読み違いに気づく余裕がなくなります。
逆算の目安を数字で置くと、着手の遅れに気づきやすくなります。仮に社内の決裁に10営業日、見積もりの取得と比較に2週間、申請書の作成と内容の確認に1週間かかるとすれば、締切のおよそ2か月前が着手の期限です。事前に必要な登録の手続きにさらに日数がかかる制度もあるため、この目安は最短の想定として扱います。自社の過去の稟議に要した日数を当てはめ、余裕の日数を1週間分は残しておきます。
事前手続きの準備には、申請に必要なアカウントの取得と要件の整理が含まれます。制度によっては申請の前に所定の登録を求められ、この手続き自体に日数がかかります。並行して、自社の受発注業務の現状と導入後の姿を文書にまとめます。この文書は申請書の下地になり、社内の合意形成にも使えるでしょう。
事業計画の作成では、課題と効果の対応関係を明確に書きます。どの工程の手作業を、どの機能で置き換え、どの指標で効果を測るかを一本の筋で示します。数値の見立てを書く場合は社内で計測した実績値を使い、根拠のない削減率は書きません。審査があるため、採択される結果を前提とした資金の組み立ては避けます。
交付申請と審査の段階では、結果が確定するまで時間があります。審査の結果は保証されないため、不採択となった場合の進め方も併せて用意しておく必要があります。優先順位の高い工程だけを自己資金で先に始める形にすれば、改善の停止を避けられます。逆に、交付を前提に契約を進めると、資金の手当てが崩れる恐れがあります。
交付決定後の発注に関する原則は、実務で見落とされやすい点です。交付決定の前に契約や支払いを済ませた費用は、補助の対象外と扱われるのが通例です。現場が先に動くことを防ぐため、発注の権限と手順を社内で明確にしておきます。導入を急ぐ場合も、決定の前に動かせる作業と動かせない作業を分けて進めます。
社内で準備することは、書類の作成だけではありません。受発注の現状を説明できる担当、システムの接続を判断できる担当、決裁を通す責任者の3者が関わります。この体制を作らずに一人へ任せると、締切と確認の負荷が集中します。外部の支援事業者と進める場合も、自社の業務を説明する役割は社内に残ります。
補助金を前提にした投資判断と効果の見立て方
投資判断は、補助金の有無に関わらず成り立つ形で組みます。まず投資回収の見立てを作り、補助対象外の費用も含めた総額と、削減できる作業時間の金額換算を並べます。次に取引先との合意形成を設計し、電子取引へ移る相手の順序と運用の取り決めを決めます。導入後の指標の測定まで含めて、経営会議での共有の仕組みを先に用意します。補助金は回収の期間を短くする要素であり、判断の前提ではありません。
投資回収の見立てでは、費用の全体像を先に固めます。ソフトウェアの利用料は月額で継続し、初期の設定費用は一度に発生します。既存システムの改修費や社内の教育に要する時間も、費用として並べておきます。補助の対象になる費用と自己負担の費用を分けたうえで、何年で回収するかを決めます。
回収の見立ては、簡単な試算から始めて構いません。たとえば月間の受注が200件で、1件あたり5分の作業を削減できるとすれば、月に約17時間、年に約200時間の作業が減る計算です。人件費を1時間あたり2,000円と置けば年間で約40万円となり、月額の利用料と初期費用に対して何年で釣り合うかが見えます。この試算は自社の実測値に置き換えて使うものであり、削減した時間がそのまま人件費の減少になるとは限らない点にも注意します。
効果の金額換算は、計測できる作業時間から始めます。受注1件あたりの入力時間、確認の往復回数、誤りの手直しに要した時間を、導入前に記録します。この記録がなければ、導入後の変化を数字で示せません。時間の削減を人件費の単価で換算すると、経営会議で比較できる形になるでしょう。
取引先との合意形成では、対象取引先の選定から入ります。取引量の多い相手から移ると、同じ手間でも削減できる作業の量が大きくなります。相手の社内体制によって対応の速さが変わるため、打診の段階で担当者と時期を確かめます。発注側として取引先にアカウントを発行する形態では、案内と操作の説明を自社が担う前提で人員を見込みます。
運用ルールの明文化は、導入後の混乱を抑える作業です。受注の締切時刻、電子で受けられない例外の扱い、変更と取消の手順を文書にします。文書がないまま運用に入ると、例外のたびに電話とメールへ戻り、紙の処理が残ります。取引先と共有する内容と社内だけで持つ内容を分けて整理すると、説明の手間が減ります。
導入後の指標の測定は、指標の選定から始めます。受注1件あたりの処理時間、入力の差異件数、納期回答までの時間、電子取引へ移った取引先の比率が候補になります。指標は4つ程度に絞り、月次で同じ定義で数えることが前提です。定義が変わると推移が読めなくなるため、数え方を文書に残します。
経営会議での共有は、次の投資判断につなげる場になります。月次で指標の推移を示し、想定との差が出た原因を業務の側から説明します。公的な調査でもDXの取り組み状況は継続して把握されています。2026年に公表されたDX動向調査は、1,799社を対象に2026年4月17日から6月12日まで実施されました。自社の位置づけを外部の調査と並べて見ると、投資の優先順位を説明しやすくなります。
補助金を前提にしない判断は、不採択の場合にも進められる状態を作ります。採択には審査があり、結果を保証する説明は成り立ちません。自己資金で始められる範囲を先に決めておけば、交付の可否にかかわらず改善は前へ進みます。補助が受けられた場合は、対象を広げる原資として使う考え方が現実的です。
よくある質問
補助金が不採択となった場合、導入は止めるべきですか
止める必要はありません。審査があるため結果は確定できず、交付を前提にした計画は資金の面で崩れやすくなります。手作業が集中する工程だけを自己資金で先に始め、次の公募回で対象を広げる進め方が現実的です。着手の範囲を分けておけば、交付の可否にかかわらず改善を続けられます。
補助金の対象外になる費用にはどのようなものがありますか
対象の範囲は制度と公募回で定められるため、公式の公募要領で一件ずつ確かめます。自社が支払う費用をソフトウェアの利用料、初期の設定費用、社内の人件費、既存システムの改修費に分け、対象と自己負担を突き合わせる方法が確実です。自己負担が想定より多いと、交付を受けても資金が足りなくなります。
交付決定の前に発注してしまった場合はどうなりますか
交付決定の前に契約や支払いを済ませた費用は、補助の対象外と扱われるのが通例です。支払い済みの金額はそのまま自己負担になります。防ぐには、発注の権限と手順を社内で明確にし、決定の前に動かせる作業と動かせない作業を分けて進めます。判断に迷う費用は、事前に公式の窓口で確認します。
取引先が電子取引に応じない場合はどう進めればよいですか
取引量の多い相手から順に移し、応じない相手には従来の受け方を残す設計にします。例外の扱いを先に文書化しておけば、現場が電話とメールへ戻る事態を抑えられるでしょう。発注側としてアカウントを発行する形態では、案内と操作の説明を自社が担う前提で人員を見込みます。
申請の準備は社内だけで進められますか
進められる場合もありますが、必要な知見は制度の要件、自社の受発注業務の流れ、基幹システムとの接続の可否という3つの領域に及びます。一人が兼ねると確認の抜けが起きやすく、締切の直前に負荷が集中します。外部の支援を使う場合も、業務を説明できる社内の担当を置くことが前提です。
- *1 出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構「デジタル化・AI導入補助金2026 制度概要(通常枠/インボイス枠/セキュリティ対策推進枠/複数者連携枠)」(2026) 経路
- *2 出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構「デジタル化・AI導入補助金2026 インボイス枠(電子取引類型)」(2026) 経路
- *3 出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構「中小企業省力化投資補助金(カタログ注文型・一般型)公式サイト」(2026) 経路
- *4 出典:公正取引委員会「2026年1月施行!~下請法は取適法へ~改正ポイント説明会の実施について」(2026) 経路
- *5 出典:独立行政法人情報処理推進機構「プレス発表 国内企業のDX動向・AI活用動向のポイントを公表(調査対象1,799社/調査期間2026年4月17日~6月12日)」(2026) 経路
- *6 出典:独立行政法人情報処理推進機構「DX動向2026(企業等におけるDX推進状況等調査分析)」(2026) 経路
- *7 出典:一般財団法人流通システム開発センター「流通BMS(流通ビジネスメッセージ標準)/EDI標準化活動」(2018) 経路
- *8 出典:東日本電信電話株式会社「INSネットの新規申込受付終了ならびに提供終了について」(2024) 経路
画像の出典元
- black and brown leather flip flops/Photo by Toa Heftiba on Unsplash
- Close-up of a keyboard with a prominent ‘buy’ button/Photo by Money Knack on Unsplash
- A large pile of brown cardboard boxes with blue tape/Photo by Rohit Choudhari on Unsplash
- Woman in pink hoodie labeling a package/Photo by GB The Green Brand on Unsplash