◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 一人担当の弱点は、受領・照合・承認・支払・仕訳の5段階ごとに「本人不在で止まる地点」と「誤りに誰も気づかない地点」に分けて洗い出せる
- 支払遅延の重さは、令和8年1月施行の取適法の対象取引かどうかで変わるため、会社単位ではなく取引単位で確かめる
- インボイス経過措置は令和8年10月から控除割合70%となり段階的に下がり、年間1億円の上限もあるため、切替時期と累計の記録場所を引継ぎ資料に残す
- 承認者の設置、保管者の分離、手順書、代行者の通し練習で、増員せずに単独の地点を減らせる
- 通し練習で同じ段階が埋まらない、確かめる人がいないときに、ツール・外部委託・体制変更を比べる
目次

自分が休んだら止まる場面から、買掛業務の事故が起きる地点を洗い出す
来週休みを取りたいのに、月末の支払を誰に頼めばよいか思い浮かばない。
請求書の金額を打ち間違えても、自分以外に気づく人がいない。
買掛金を一人で担当していると、こうした不安は日常的に生まれます。
経理担当者が挙げる困りごとでも、最も多いのは業務の属人化で、MJSの調査では50.0%でした1。
まずは、請求書の受領から仕訳までのどこが自分だけの作業かを洗い出します。
支払遅延が法律上の問題になるかは、自社が発注側として取適法の対象になるかで変わります。
増員の前に、承認者の追加、手順書、代行者の通し練習でどこまで補えるかを確かめ、それでも足りない場合に仕組みを変えるという順で判断できます。
受領→照合→承認→支払→仕訳のどこが本人だけか
買掛金の業務は、仕入先から請求書を受け取るところから、帳簿に仕訳を残すところまで、いくつかの段階に分かれています。
請求書を受け取る、発注や納品の内容と照合する、支払を承認する、振込を実行する、買掛金を消し込んで仕訳する、の5段階です。
一人で担当していると、この全部が一つの流れとして頭の中で回っているため、どこが危ないのかを外から見分けにくくなります。
そこで、段階ごとに「自分がいないとここで止まるか」と「自分が間違えたとき、ここで誰かが気づくか」の二つを問いかけてみます。
前者は休暇や退職のときに支払が止まる地点、後者は誤りがそのまま外へ出ていく地点です。
最初の受領は、見落としが生まれやすい段階です。
郵送で届くもの、メールに添付されるもの、取引先のWebサービスにログインして取りに行くものが混ざっていると、どこに何が届くかを把握しているのは担当者本人だけ、という状態になりがちです。
休暇中に個人宛てのメールで届いた請求書は、誰にも開かれないまま支払期日に近づきます。
受領で止まれば、照合から仕訳までの後ろの段階もすべて動きません。
照合では、請求書の金額を発注書や納品書と突き合わせます。
単価の取り決め、値引き、分割納品や返品の扱いなど、取引先ごとの事情を記憶で処理していると、代わりの人は何と何を比べればよいのか分かりません。
同じ請求書が郵送とメールの両方で届いた場合や、前月分の再送が混ざった場合も、気づけるのは過去の経緯を知っている人だけです。
ここで誤りを見逃すと、二重払いや過払いの原因がそのまま支払へ進みます。
承認の段階は、形があっても中身が伴っていないことがあります。
上長や経営者の押印をもらっていても、承認者が照合結果や請求書を見ずに一覧へ印を押しているだけなら、金額を確かめたのは実質的に担当者一人です。
洗い出しでは、承認者が「何を見て承認しているか」まで書き出すと、形式だけの承認かどうかが分かります。
支払の実行は、不在時の停止と誤りの見逃しが同時に起きる地点です。
インターネットバンキングのログイン情報や操作権限を一人が持ち、振込データの作成から送信までを同じ人が行っていると、その人が休めば振込は止まり、振込先口座の誤りや変更も他の人の目に触れません。
仕入先から「振込先が変わった」という連絡が来たとき、それを誰が確かめて登録しているかも、ここで書き出しておきたい点です。
最後の消込と仕訳は、遅れても当日は誰も困らないため、後回しにされやすい段階です。
ただ、支払と消込の対応が月をまたいでずれると、月次や決算で買掛金の残高が合わないときに、原因を一件ずつさかのぼる作業が担当者に戻ってきます。
締めの時期に支払と消込が重なると、どちらを先にするかを決めるのも本人だけです。
書き出すときは、各段階を「本人しか知らない情報」と「本人しか確認しない判断」に分けておくと、次に何を補えばよいかが見えてきます。
受領経路や取引先ごとの取り決めのような情報は、一覧や手順書にすれば他の人へ渡せます。
一方、照合で差異を見つける判断や、承認で金額の妥当性を確かめる判断は、書類を整えても一人の目であることは変わらず、別の人に確かめてもらう仕組みがないと補えません。
この区別が、後で取り上げる手順書と承認者の役割分担の土台になります。
経理担当者が挙げる困りごとの上位
一人担当の不安は、個人の性格や能力の問題として片付けられがちですが、経理の現場で広く共有されている悩みでもあります。
ミロク情報サービスのMJS税経システム研究所が中小企業の経理担当者に実施した調査では、実務の困りごととして最も多く挙がったのが「業務の属人化」で、50.0%でした1。
2位は「業務の煩雑さ」43.1%、3位は「業務量の多さ」32.0%と続いています1。
この調査の対象は、同社の月刊誌の送付先企業と企業向けメールマガジンの受信者で、2024年6月にWebアンケートで集めた362件の回答です1。
経理担当者全般の困りごとを聞いたもので、買掛金の担当者や一人体制の会社に絞った結果ではありません。
中小企業全体の割合を示す数字として読むより、属人化を困りごととして意識している経理担当者が少なくないことの手掛かりとして受け取るのが適切です。
上位三つを並べてみると、一人担当の状況と重なる部分があります。
業務が煩雑で量も多いと、目の前の処理を終わらせることが優先され、手順を書き残したり、他の人に教えたりする時間が後回しになります。
書き残されないまま処理が続くほど、業務は本人の記憶に寄っていきます。
属人化は、担当者が引き継ぎを嫌がった結果というより、引き継ぎに時間を割けない忙しさから生まれる面がある、と整理できます。
一方で、この調査から、属人化がどのくらいの頻度で支払の事故を起こすのか、どれほどの損失につながるのかは分かりません。
自社のリスクの大きさを測る物差しになるのは、前の項で書き出した5段階の一覧の方です。
本人がいないと止まる段階がいくつあるか、誤りに誰も気づかない段階がどこかが、そのまま自社の課題の場所を示します。
| 順位 | 困りごと | 割合 |
|---|---|---|
| 1位 | 業務の属人化 | 50.0% |
| 2位 | 業務の煩雑さ | 43.1% |
| 3位 | 業務量の多さ | 32.0% |
『機会損失』は支払遅延の何を指すのか:発注側として取適法の対象かで変わる
取適法の施行と対象確認
洗い出した地点のうち、支払が止まる場所は、取引先から見れば「約束の日に代金が入らない」という結果として表れます。
このとき、遅れが法律上の問題になるのか、取引先との信頼の問題にとどまるのかは、取引ごとに違います。
分かれ目の一つが、取適法の対象となる取引かどうかです。
取適法は、下請代金支払遅延等防止法(下請法)などを改正した法律の通称で、略称は中小受託取引適正化法です3。
改正法は令和7年(2025年)5月に成立・公布され、令和8年(2026年)1月から施行されています3。
もとの法律名が示すとおり、仕事を委託する側の代金の支払い方が関わる法律です。
自社が発注側(委託事業者)として対象になるかどうかは、仕入先へ何を委託しているかという取引の内容と、自社と相手方の資本金や従業員数といった規模の要件の組合せで決まります。
同じ仕入先でも、取引の内容によって対象かどうかが変わり得るため、会社単位ではなく取引単位で見る必要があります。
支払期日の定め方や、遅れた場合の扱いなど具体的な規律の内容は、公正取引委員会や中小企業庁が公表している説明資料で、施行後の内容に沿って確かめてください。
改正前の下請法の解説を参照する場合は、施行後の内容と合っているかを確かめてから使う方が安全です。
一人担当の会社でこの確認が重要になるのは、休暇や退職で支払が止まったとき、その影響が取引によって大きく違うからです。
対象となる取引の支払が遅れれば、社内の段取りの遅れでは済まず、法律上の規律に触れるおそれが出てきます。
代わりに支払を処理する人がいる場合も、どの取引先の支払を最優先で守るべきかが分かっていなければ、限られた時間で正しい順番を選べません。
確認は次の順で進めると、代わりの人にも引き継げる形で残せます。
- 仕入先の一覧に、取引ごとに委託している内容を書き添える
- 公正取引委員会・中小企業庁の資料で、取引の内容と規模の要件に当てはめる
- 対象になる取引に印を付け、支払予定日を他の支払と区別して管理する
- 判断がつかない取引は、顧問の専門家や公的な相談窓口に確認する
対象外でも残る取引先との関係
取適法の対象にならない取引であれば、支払が数日遅れても問題はない、ということにはなりません。
仕入先との間では、契約書や取引基本契約、発注時の条件で支払日を決めているはずで、その日に払えなければ合意した約束を守れなかったことになります。
法律の規律が及ぶかどうかとは別に、約束どおり払うことは取引の前提です。
「機会損失」という言葉は、ここで二つの意味に分けて考えると整理しやすくなります。
一つは、支払の遅れや誤りが取引先との関係に及ぼす影響です。
遅れのたびに仕入先から問い合わせが入り、説明と再手配に時間を取られ、取引先の担当者から「支払が不安定な会社」と見られれば、急ぎの対応や条件の相談をお願いしにくくなります。
どの程度の影響が出るかは、取引の長さや相手との関係によって変わるため、一律の金額では示せません。
もう一つは、担当者自身の時間です。
一人で回している担当者は、遅れの穴埋めや問い合わせ対応、締めのやり直しに時間を取られるほど、支払条件の見直しや取引先ごとの支払額の推移の確認といった、本来なら改善に使えた時間を失います。
最初の節で見た調査で、属人化と並んで業務の煩雑さや業務量の多さが上位に挙がっていたことは、この時間の取られ方と重なります1。
この時間の損失は帳簿には表れませんが、一人体制を続けるかどうかを考えるときには、事故の有無と並べて見ておきたい点です。
まとめると、一人担当の支払遅延には、法律上の規律に触れるおそれがある遅れ、契約と信頼の問題としての遅れ、担当者の時間の目減りという三つの層があります。
どの層の問題が大きいかは、取適法の対象となる取引の多さと、取引先との関係の深さで変わります。
| 観点 | 取適法の対象となる取引 | 対象とならない取引 |
|---|---|---|
| 支払が遅れたときの問題 | 法律上の規律に触れるおそれがある | 契約で合意した条件と取引先との信頼の問題 |
| 確かめる資料 | 公正取引委員会・中小企業庁の説明資料 | 契約書・取引基本契約・発注時の条件 |
| 不在時の優先度 | 最優先で期日を守る支払として印を付ける | 契約上の期日に沿って管理する |
| 代行者に伝えること | 対象取引の一覧と支払予定日 | 支払予定一覧と取引先ごとの取り決め |
▼ 図の内容を文字で読む
- 受領:郵送・メール・Webサービスなど受領経路を本人だけが把握
- 照合:取引先ごとの単価や値引きの取り決めを記憶で処理
- 承認:承認者が照合結果を見ずに印を押すと確認は実質一人
- 支払:振込データの作成から送信までを一人で完結
- 消込と仕訳:遅れると締めで残高が合わない原因を追う作業が戻る
担当者不在でも支払・締めが回るかを、インボイス確認を例に点検する
経過措置の割合と年間上限
支払が止まる地点とは別に、一人担当で抜け落ちやすいのが、制度の変更に合わせて処理を変える作業です。
止まれば誰かが気づく支払と違い、こちらは担当者が知らなければ、誤ったまま処理が続いてしまいます。
その例として分かりやすいのが、インボイス制度の経過措置です。
インボイス制度では、仕入税額控除を受けるために、取引先が適格請求書発行事業者として登録しているかを確かめ、要件を満たす請求書を保存します。
免税事業者など、インボイス発行事業者ではない仕入先からの課税仕入れについては、一定の割合だけ控除できる経過措置が設けられています。
この割合は、令和8年度税制改正で見直されました。
国税庁の説明によると、控除できる割合は、令和8年(2026年)10月から2年間は70%、令和10年10月から2年間は50%、令和12年10月から1年間は30%となり、令和13年10月以降は0%です2。
改正前は、令和8年10月から3年間50%とされる予定でした2。
あわせて、インボイス発行事業者以外からの課税仕入れの税込合計額が年間1億円(改正前は10億円)を超える場合、超えた部分の課税仕入れには経過措置を適用できません2。
これらは令和8年10月以後に開始する課税期間から適用されるため、どの時点から新しい扱いになるかは、自社の課税期間の始まり方で変わります2。
この改正は、一人担当の会社にとって二つの点で手間を増やします。
一つは、割合が段階的に変わることです。
今の割合を覚えていても、切り替わる時期を誰も把握していなければ、次の段階に入った後も前の割合で処理が続きます。
もう一つは、年間の上限です。
インボイス発行事業者以外からの仕入れが多い会社では、課税期間の途中で累計がいくらになっているかを追い、上限を超えた部分を区別する必要が出てきます。
累計を担当者が自分の表だけで管理していると、不在や退職のときに数字ごと途切れます。
最初の節で見た調査で、経理担当者は属人化を最大の困りごととして挙げていました1。
制度の改正に合わせた判断は、担当者の知識に依存しやすい作業で、属人化が引き継ぎ漏れにつながりやすい場所と言えます。
ただし、これは二つの資料を組み合わせた整理であり、引き継ぎ漏れがどのくらい起きるか、控除額にどれほど影響するかまでを示すものではありません。
影響の大きさは、インボイス発行事業者以外からの仕入れがどれだけあるかによって会社ごとに違います。
引継ぎ資料に残す確認項目
制度の知識を一人の頭の中に置かないためには、引継ぎ資料に「今どう処理しているか」だけでなく、「なぜそう処理しているか」「いつ変わるか」を残しておくことが役に立ちます。
インボイスの経過措置であれば、次の項目を一つの資料にまとめておくと、代わりの人が同じ判断にたどり着きやすくなります。
- 仕入先ごとの登録番号の有無と、最後に登録状況を確認した時期
- インボイス発行事業者以外からの仕入れに当たる取引先と、その仕訳の区分
- 自社の課税期間で現在適用している控除割合と、次に割合が変わる時期
- インボイス発行事業者以外からの課税仕入れの年間累計を記録している場所
- 判断に迷ったときの相談先(顧問税理士など)
この中で特に抜けやすいのは、「次に割合が変わる時期」と「年間累計の場所」です。
どちらも日常の照合では目に入らず、担当者が覚えているから回っている情報だからです。
支払予定の一覧や月次の締めの手順の中に、切り替え時期の確認を予定として書き込んでおけば、担当者が替わっても確認の機会そのものは残ります。
引継ぎ資料が機能しているかは、実際の請求書で確かめるのが確実です。
インボイス発行事業者以外の仕入先から届いた請求書を一枚選び、代わりの人に資料だけを見て仕訳の区分と適用する割合を判断してもらいます。
担当者と同じ結論になれば資料は足りており、途中で担当者に質問が出たなら、その質問の答えが資料に欠けている項目です。
インボイスに限らず、期日のある確認作業はこの方法で点検できます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 法律上の規律
- 取適法の対象となる取引の支払遅れ
- 規律に触れるおそれがある
- 契約と信頼
- 合意した支払日を守れない
- 問い合わせが増え、急ぎの相談をしにくくなる
- 担当者の時間
- 遅れの穴埋めや締めのやり直し
- 支払条件の見直しに使えた時間を失う
人を増やさずに牽制と引継ぎを補う:代替手段と確かめ方
承認者・保管者を分ける
ここまでの洗い出しで、一人担当の弱い地点は大きく二種類に分かれました。
一つは、承認や照合のように、担当者の判断を他の誰も確かめていない地点です。
もう一つは、受領経路や制度の扱いのように、手順と知識が担当者の頭の中にしかない地点です。
人を増やさなくても、前者は確かめる人を別に置くことで、後者は手順を書き出して代わりの人に一度通してもらうことで、ある程度補えます。
牽制とは、一人が行った作業を別の人が確かめることで、誤りや不正に気づける状態を作ることです。
経理の担当者が一人しかいない会社でも、確かめる役は経理担当者である必要はありません。
経営者や、総務・営業など別の部門の人を承認者に置く方法があります。
ここで決めておきたいのは、承認者に「何を見てもらうか」です。
支払先、金額、支払日、根拠となる請求書の一覧を支払の前に渡し、前月と金額が大きく違う取引先、初めて支払う取引先、振込先口座が変わった取引先には印を付けておくと、承認者は全件を細かく見なくても、確かめるべき箇所に目を向けられます。
もう一つの分け方は、お金を動かす手段の保管者を分けることです。
通帳、銀行印、インターネットバンキングのログイン情報や認証用の機器を同じ人が持っていると、一人で支払を完結できてしまいます。
振込データを作る人と、送信を承認する人を分けられるかは、利用している銀行のサービスの設定によって異なるため、取引銀行の案内で確かめてください。
分けられない場合でも、送信後の振込明細を承認者が後日見る運用にすれば、誤りに気づく機会は一つ増えます。
これらの手段が機能しているかは、承認者の行動で確かめられます。
承認者が一覧を見て一度でも質問をしたか、振込先口座の変更を承認者が把握しているか、という点です。
何か月も質問がないまま承認が続いているなら、承認は形だけになっている可能性があります。
また、経営者を承認者にした場合、経営者が関わる支払を誰が確かめるかという問題が残ります。
承認者を置いても誤りがなくなるわけではなく、変わるのは、担当者一人の目だけで外へ出ていた支払に、もう一度確かめる機会が加わるという点です。
手順書と代行者の通し練習
手順書は、画面の操作手順だけを並べても、代わりの人は判断の場面で止まります。
書き残したいのは、照合で何と何を比べるか、差異があったときに誰へ確認するか、支払日が休日に当たるときどうするか、といった判断の基準です。
取引先ごとの例外、たとえば分割で請求が来る取引先や、毎月決まった時期にメールで請求書が届く取引先も、一覧にしておくと受領の見落としを防ぎやすくなります。
ただ、書いた本人は、自分が何を書き漏らしたかに気づきにくいものです。
そこで役に立つのが、代わりの人に実際の月の処理を一度通してもらう練習です。
担当者が横にいる状態で、受領から仕訳まで、手順書だけを頼りに代わりの人に処理してもらいます。
担当者は手を出さず、質問が出たときだけ答え、その質問を記録します。
記録した質問が、手順書に欠けている項目の一覧になります。
答えを手順書に書き足し、次の機会にもう一度通してもらって、質問が減ったかを確かめます。
休暇の予定が決まったら、その前の月に一度通しておくと、本番の不在時に初めて手順書を使うことを避けられます。
代わりの人が経理以外の業務と兼ねている場合は、その人の繁忙期を避けて練習の日を決めるのが現実的です。
ここで挙げた方法は、どれも実務上の提案で、効果を測った調査に基づくものではありません。
そのため、効果は「事故がなくなるか」ではなく、「本人しか知らない・本人しか確かめない地点がいくつ減ったか」で見るのが確実です。
最初の節で書き出した5段階の一覧に、承認者と代わりの人の名前を書き入れてみると、空欄が残った段階が、人を増やさずには埋めにくい地点として見えてきます。
| 補う手段 | 補う地点 | 機能しているかの確かめ方 |
|---|---|---|
| 支払前一覧と承認者の設定 | 承認・照合の単独確認 | 承認者が一覧を見て質問をしたか |
| 通帳・印・ログイン情報の保管者を分ける | 支払実行の単独完結 | 振込明細を承認者が後日見ているか |
| 手順書(判断基準と取引先ごとの例外) | 受領経路と照合基準の属人化 | 手順書だけで処理できた範囲 |
| 代行者の通し練習 | 不在時の停止 | 練習中に出た質問の数と内容 |
| 制度変更の引継ぎ資料 | 期日のある確認の抜け落ち | 代行者が同じ区分と割合を判断できたか |
▼ 図の内容を文字で読む
- 令和8年10月から2年間:控除できる割合70%
- 令和10年10月から2年間:控除できる割合50%
- 令和12年10月から1年間:控除できる割合30%
- 令和13年10月以降:控除できる割合0%
ツール導入・外部委託・体制変更を選ぶ条件と、着手順の決め方
自社の数字を当てはめる判断枠
代替手段を試しても埋まらない地点が残ったとき、ツールの導入、外部への委託、社内の体制変更を検討する段階に入ります。
どれを選ぶべきかを、請求書が何件を超えたら、という一律の基準で決めることはできません。
同じ件数でも、取引先の数や支払日の回数、担当者が不在にできる日数によって、無理のかかり方が違うからです。
そこで、次の数字と状況を自社に当てはめてみます。
- 月に受け取る請求書の件数と、取引先の数
- 月の支払日の回数と、支払サイト(請求の締めから支払までの期間)
- 担当者が不在でも支払を止めてよい日数(取引先との期日から逆算した余裕)
- 経理担当者以外で承認者や代行者を引き受けられる人がいるか
- 取適法の対象となる取引と、インボイス発行事業者以外からの仕入れの有無
これらを並べると、判断の方向が見えてきます。
たとえば、支払日が月に一回で、休暇をその日から外して取れるなら、代行者の通し練習と手順書で不在時の停止はかなり補えます。
反対に、支払日が月に何度もあり、どの週に休んでも支払日に当たるなら、不在のたびに代行者が確実に処理できる状態が欠かせません。
承認者を引き受けられる人がいない場合は、手順書をいくら整えても、判断を確かめる人がいないという地点は残ります。
こうした場合が、仕組みそのものを変える検討に進む条件になります。
三つの選択肢は、導入の準備、費用のかかり方、権限の分け方、不在時の続けやすさという共通の観点で見ると違いが分かります。
請求書の受領や支払の管理を行うツールを入れる場合、準備として取引先情報や承認の経路を登録する作業が要ります。
費用の形は製品によって異なるため、月額の利用料か、件数に応じた料金かを確かめて自社の件数に当てはめます。
権限の面では、支払データの作成と承認を別の利用者に分けられるかが、牽制を補えるかどうかの分かれ目です。
請求書や処理の状況が共有の場所に残れば、不在時に他の人が状況を追いやすくなりますが、照合で差異をどう扱うかという判断は人に残ります。
外部に委託する場合は、どこからどこまでを任せるかと、請求書や支払情報の受け渡し方を取り決める準備が要ります。
費用は委託する範囲によって変わります。
権限の面では、支払の実行まで委託するのか、振込データの作成までにとどめて社内で承認するのかを決める必要があります。
不在時の継続性は委託先の体制に支えられますが、社内の窓口が一人のままなら、その窓口が新たな単独の地点になります。
社内で兼務者を置く、人を採用するといった体制変更は、権限を社内で分けやすい点が利点です。
一方で、費用は人件費として継続的にかかり、二人目が実際に一人で処理できるようになるまでの教育の期間が必要です。
その間は、前の節で作った手順書と通し練習の記録が教育の材料になります。
どの選択肢を選んでも、手順書と洗い出しの一覧は無駄になりません。
ツールの設定や委託先との取り決めは、今の業務の流れと判断の基準が書き出されていて初めて正しく決められるからです。
最初の一手の選び方
着手の順番は、手間が少なく、結果が次の判断に使えるものから並べると決めやすくなります。
ここまでの内容を順にたどると、次の流れになります。
- 5段階ごとに、本人不在で止まる地点と、誤りに誰も気づかない地点を書き出す
- 取適法の対象となる取引を確かめ、不在時にも最優先で守る支払に印を付ける
- 支払前の一覧を作り、経理以外の承認者に見てもらう
- 判断基準と制度の扱いを含めた手順書を作り、代わりの人に一度通してもらう
- それでも埋まらない地点について、ツール・外部委託・体制変更を比べる
この順番にしているのは、前の手順の結果が次の判断の材料になるからです。
書き出しをせずにツールを選ぶと、どの地点を補うためのツールなのかがはっきりせず、導入した後も同じ地点に単独の作業が残ることがあります。
なかでも通し練習の結果は、仕組みを変えるかどうかの判断に直結します。
代わりの人が手順書で最後まで処理できたなら、今の体制のまま代替手段で補えていると判断できます。
毎回同じ段階で止まるなら、その段階をツールで支えられないかを検討する理由になります。
代わりの人そのものが見つからないなら、外部委託か体制変更を考える段階です。
一人で担当している状態は、すぐには変えられないことも多いはずです。
それでも、止まる地点と気づけない地点が見えていれば、休暇を取る前に何をしておけばよいか、どの支払を優先して守ればよいかは決められます。
体制を変えるかどうかは、その積み重ねの結果を見てから判断しても間に合います。
▼ 図の内容を文字で読む
- 請求書を一枚選ぶ:インボイス発行事業者以外の仕入先から届いたもの
- 資料だけで判断してもらう:代わりの人が仕訳の区分と適用する割合を判断
- 担当者の結論と比べる:同じ結論なら資料は足りている
- 出た質問を資料に足す:質問の答えが資料に欠けている項目
止まる地点や取適法の対象かどうかは取引ごとの事情で変わり、担当者一人で書き出すと自分では見えない単独の作業が残りやすいためです。
自社の買掛業務を5段階に分けて、どこが一人に依存しているか、何から補うかの順番を整理できます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 止まる地点 | 受領・照合・承認・支払・仕訳の各段階で、本人不在で止まるか |
| 気づけない地点 | 各段階で、本人の誤りに別の人が気づけるか |
| 支払遅延の重さ | 取適法の対象取引か、契約と信頼の問題か |
| 制度変更の引継ぎ | 経過措置の割合・切替時期・年間累計の所在が資料にあるか |
| 代替手段の効き目 | 承認者が質問しているか、代行者が手順書で通せたか |
| 仕組みを変える条件 | 通し練習で同じ段階が埋まらない、確かめる人がいない |
▼ 図の内容を文字で読む
- ツール導入
- 取引先情報や承認の経路を登録する
- 月額か件数に応じた料金かは製品で異なる
- 支払データの作成と承認を別の利用者に分けられるか
- 外部委託
- 任せる範囲と受け渡し方を取り決める
- 費用は委託する範囲で変わる
- 支払の実行まで任せるか、振込データの作成までか
- 体制変更
- 権限を社内で分けやすい
- 人件費が継続的にかかる
- 二人目が処理できるまでの教育の期間が要る
▼ 図の内容を文字で読む
- 止まる地点・気づけない地点の書き出し:5段階ごとに書き出す
- 取適法の対象取引の確認:不在時にも最優先で守る支払に印を付ける
- 承認者と支払前の一覧:経理以外の承認者に見てもらう
- 手順書と代わりの人の通し練習:判断基準と制度の扱いを含めて一度通す
- ツール・外部委託・体制変更を比べる:それでも埋まらない地点について検討する
代替手段を試しても埋まらない地点が残ったとき、ツール・外部委託・体制変更のどれが合うかは件数や承認者の有無で変わるためです。 通し練習で残った地点と自社の件数・支払日をもとに、どの選択肢を比べるべきかを確かめられます。
よくある質問
経理が一人の会社でも、承認だけ社長に任せれば牽制になるのか
牽制の一つにはなりますが、社長が何を見て承認するかを決めておかないと、押印だけの形式になりやすくなります。
支払先・金額・支払日・根拠となる請求書の一覧に、前月と大きく違う取引先、初めての取引先、振込先口座が変わった取引先の印を付けて渡すと、確かめる箇所が絞れます。
あわせて、社長自身が関わる支払を誰が確かめるかは別に考えておく必要があります。
取適法の対象かどうかは、何を見て確かめればよいか
取引ごとに、仕入先へ何を委託しているかという取引の内容と、自社と相手方の資本金や従業員数といった規模の要件を照らし合わせます。
要件の詳細は、公正取引委員会や中小企業庁が公表している説明資料で、令和8年(2026年)1月の施行後の内容を確認してください3。
判断がつかない取引は、顧問の専門家や公的な相談窓口に確認すると確実です。
インボイスの経過措置が変わった令和8年10月以降、仕入側は何を確認すべきか
インボイス発行事業者以外からの課税仕入れについて、控除できる割合は令和8年10月から2年間70%となり、その後50%、30%と段階的に下がり、令和13年10月以降は0%になります2。
年間の税込合計が1億円を超えた部分には経過措置を適用できません2。
令和8年10月以後に開始する課税期間から適用されるため、自社の課税期間の開始月、該当する仕入先の一覧、年間累計の記録場所を確かめておきます2。
休暇中や退職時に支払を止めないため、最低限引き継ぐ項目は何か
請求書の受領経路と取引先ごとの例外、取適法の対象取引に印を付けた支払予定の一覧、インターネットバンキングの操作権限を誰が持っているか、照合で差異が出たときの確認先、インボイスの区分と割合の扱いです。
資料だけで足りるかは、代わりの人に実際の月の処理を一度通してもらい、出た質問を記録して確かめるのが確実です。
請求書の枚数がどのくらいになったら、ツールや外部委託を検討すべきか
一律の件数の目安はありません。
件数に加えて、支払日の回数、不在にできる日数、承認者や代行者を引き受けられる人がいるかの組合せで判断します。
手順書と通し練習を行っても同じ段階で止まる場合や、確かめる人が見つからない場合が、仕組みを変える検討に進む目安です。
- 1 出典:株式会社ミロク情報サービス MJS税経システム研究所「中小企業の経理担当者の働き方&実務の困りごと実態調査」(2024年)
- 2 出典:国税庁「インボイス制度の仕入税額控除に係る経過措置(令和8年度税制改正特集)」(2026年)
- 3 出典:公正取引委員会「取適法(中小受託取引適正化法)の案内ページ」(2026年)