◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 卸価格の二重入力は、価格マスタの登録、受注入力、請求・会計への転記のどこで起きているかによって減らす手段が変わり、上流の価格登録から切り分けると手戻りが少ない。
- 請求の転記を減らす前に、各拠点の請求書がインボイスの記載事項を持っているかをそろえ、交付した写しの保存場所も確かめておく。
- 価格を1か所で持つ方法と既存システムをつなぐ方法は、削減できる工程・移行作業・運用ルール・前提条件で比べ、どちらでも正とする価格の持ち主を先に決める。
- 企業間EDIは取引先とのやり取りの標準で、社内の拠点間の価格反映は別に手当てする必要がある。
- 1拠点で試し、食い違い件数・打ち直し回数・請求の訂正件数を同じ期間で比べて、残った課題の工程を明細で確かめてから広げる。
目次

卸価格の改定のたびに打ち直す作業は、どの工程で起きているか
卸価格を改定したのに、拠点ごとに入力し直していて価格がそろわない。
同じ受注や請求を、販売管理と会計ソフト、Excelの台帳にも打ち直している。
こうした卸価格の二重入力は、価格マスタの登録、受注入力、請求・会計への転記のどこで起きているかによって、減らす手段が変わります。
まず工程を切り分け、請求書に載せる項目を拠点間でそろえます。
そのうえで、価格を1か所で持つ方法と既存システムをつなぐ方法を同じ軸で比べ、1拠点で試して価格のずれが減ったかを自社の数字で確かめるのが近道です。
価格マスタの登録で起きる二重入力
価格マスタとは、得意先と商品ごとの卸単価を登録しておく基本データのことです。
多拠点の業務では、この価格マスタが拠点の数だけ別々に存在していることが少なくありません。
仮の例で考えます。
本社の営業管理担当が、得意先のX商店向けに、ある商品の卸単価を改定すると決めたとします。
担当者は改定内容をメールで各拠点へ知らせ、A営業所は自拠点の販売管理システムの単価を書き換え、B営業所は自分たちで管理しているExcelの価格表を直します。
倉庫では出荷伝票に単価を載せるために、さらに別の一覧を更新しているかもしれません。
本社で決めた1つの単価が、ここで3か所に打ち込まれることになります。
この形でずれが生まれる理由は、打ち間違いだけではありません。
メールを読んだ日と書き換えた日が拠点ごとに違えば、同じ日の受注でも拠点によって改定前と改定後の単価が混ざります。
X商店にだけ認めている特約価格を、改定のついでに通常価格で上書きしてしまうこともあります。
しかも、このずれは登録した時点では誰も気づかず、請求書を見た得意先からの問い合わせで初めて表に出ることが多いのが厄介なところです。
価格マスタの工程で二重入力が起きているかどうかは、改定1件について同じ単価を何か所に入力しているかを数えると見えてきます。
2か所以上なら、受注や請求の工程を直す前に、価格の登録そのものが分かれていることが根本の原因になっています。
受注入力で起きる二重入力
受注の工程では、FAXや電話、メールで受けた注文を販売管理システムへ打ち込み、同じ内容を出荷指示書や在庫の台帳へもう一度書き写す、という形の二重入力が起きます。
卸価格との関係で注意したいのは、受注のときに単価をどこから取っているかです。
担当者が価格表を見ながら単価を手で入れているなら、価格マスタのずれはそのまま受注データへ持ち込まれます。
受注の手入力そのものが負担として意識されていることは、民間の調査からもうかがえます。
食品の小売・卸売業で受注業務に携わる人を対象にした2023年の調査では、FAX・Eメール・電話で受注している90名のうち60%が「注文書の手入力に手間がかかる」と回答しています2。
同じ設問では、注文確認の連絡、注文の変更対応、担当者しか分からない手順が残る属人化も課題として挙がっていました2。
ただし、この数字は受注業務の改善策を提供する企業による調査で、対象は食品業に限られ、有効回答106名のうちFAX・Eメール・電話で受注する90名が答えた複数回答の結果です。
拠点間で卸価格を二重に入力している割合を測ったものではありません。
読み取れるのは、紙や電話で届いた注文を手で打ち直す作業が、受注の現場で手間として感じられているという実態までです。
自社の受注工程を見るときは、注文1件を受け取ってから出荷指示を出すまでに、同じ内容を何回打っているかを数えます。
あわせて、単価を手で入れているのか、価格マスタから自動で表示されるのかを確かめます。
手で入れている場合、価格のずれは受注の工程で生まれていると考えられます。
請求・会計への転記で起きる二重入力
請求の工程では、拠点の販売管理システムで締めた売上から請求書を作り、本社の経理担当がその売上を会計ソフトへ転記する、という流れがよく見られます。
拠点によっては、販売管理を使わずExcelで請求書を作っていることもあります。
この場合、拠点で請求書を作る手入力と、経理が会計ソフトへ記帳する手入力が二重になります。
先ほどの例に戻ると、B営業所がExcelの価格表の更新を忘れ、X商店へ改定前の単価で請求書を出したとします。
一方、本社の経理担当は改定後の単価を前提に売上を確認していたため、拠点から届いた請求額と見込みの売上が合いません。
経理はB営業所へ問い合わせ、B営業所は請求書を作り直し、場合によってはX商店へ訂正の連絡を入れることになります。
ここで気をつけたいのは、金額に差があるからといって、すぐに単価のずれと決めつけられない点です。
数量の入力違い、値引きの付け忘れ、締め日の扱いの違いでも同じように差は出ます。
差額の大きさは原因を探す手掛かりにはなりますが、実際の明細を1行ずつ照合して、どの項目が違うのかを確かめてから判断します。
3つの工程は独立しているわけではありません。
価格マスタでずれた単価は受注データに入り、受注データの単価は請求書と会計の売上に流れていきます。
下流の請求で訂正が多いとき、原因が上流の価格登録にあることは珍しくないため、切り分けは上流から順に進めると手戻りが少なくなります。
▼ 図の内容を文字で読む
- 卸価格の改定
- 本社で単価を決め、メールで各拠点へ知らせる
- 価格マスタの登録
- 販売管理・Excel・出荷用の一覧へ別々に入力する
- 反映日が拠点ごとに違う
- 受注入力
- 単価を価格表から手で入れると、ずれを引き継ぐ
- 請求・会計への転記
- 請求書の作成と会計ソフトへの記帳が二重になる
- ずれは得意先からの問い合わせで表に出る
請求書を打ち直す前に確認する、インボイスの交付と写しの保存
交付時に必要な記載事項
請求・会計への転記を減らそうとすると、請求書の作り方そのものを変えることになります。
そこで仕組みを選ぶ前に、請求書に必ず載っていなければならない項目を固定しておきます。
インボイス制度では、売手であるインボイス発行事業者は、買手である課税事業者から求められたときにインボイスを交付しなければなりません3。
卸売で得意先が課税事業者であれば、拠点で作っている請求書をインボイスとして交付している場面は多いはずです。
インボイスの記載事項は次のとおりです3。
- 買手の名称
- 売手の名称と登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目はその旨)
- 税率ごとに区分した対価の合計額と適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額
小売や飲食などでは一部の記載を省ける簡易インボイスもありますが、卸売の通常の取引では上の記載事項が基本になります3。
卸価格の二重入力との関係で見ると、税率ごとの対価の合計額と消費税額は、単価と数量の積み上げから決まります。
拠点によって単価がずれていれば、合計額も消費税額も変わり、インボイスの記載内容そのものが違ってきます。
価格のずれは、請求の場面では単なる金額の行き違いではなく、交付した書類の内容の問題として扱うことになります。
写しの保存と拠点間での項目の統一
売手は、交付したインボイスの写しを保存しておく必要があります3。
拠点ごとに請求書を発行していると、写しがどの拠点に、紙なのかファイルなのか、どの名前で残っているのかが拠点ごとにばらばらになりがちです。
項目のそろい方も確かめておきます。
仮の例として、A営業所の販売管理システムは登録番号と税率ごとの合計欄を印字しているのに、B営業所のExcelの請求書は税率ごとの消費税額の欄を作っていなかったとします。
この状態で拠点の請求データを会計ソフトへ自動で取り込む仕組みを作ると、B営業所の欠けた項目はそのまま流れ、転記の手間は減っても請求書の要件は崩れたままになります。
そのため、請求の転記を減らす前に、各拠点の請求書が上の記載事項をすべて持っているかを並べて見比べ、項目名と並びをそろえておくことをおすすめします。
項目がそろっていれば、あとで1か所にまとめる場合も、既存のシステムをつなぐ場合も、対応づけるべき項目がはっきりします。
請求書を電子データで渡す方式に切り替える場合や、写しを何年保存するかについては、ここで挙げた記載事項とは別に確認が必要です。
顧問税理士や国税庁の案内で、自社が採る交付と保存の方式に合わせて確かめてから仕組みを決めます。

価格を1か所で持つ方法と、既存システムをつなぐ方法の違い
比較の軸(削減できる工程・移行作業・運用ルール・前提条件)
工程の切り分けと請求項目の確認が済むと、どの手段で二重入力を減らすかを選ぶ段階に入ります。
ここでは手段を3つに分けて考えます。
1つめは、仕組みは変えずに、改定の起点と反映日を決める運用ルールでそろえる方法です。
2つめは、価格マスタを1つにまとめ、各拠点がそれを参照して受注や請求を行う、価格を1か所で持つ方法です。
3つめは、拠点の販売管理やExcel、本社の会計ソフトを残したまま、その間でデータを受け渡す、既存システムをつなぐ方法です。
3つの方法を、削減できる工程、必要な移行作業、運用ルール、前提条件という4つの軸で並べたのが下の表です。
表の各欄は、特定の製品の仕様ではなく、それぞれの方法の考え方から整理したものです。
費用は既存の環境と選ぶ製品で決まるため、金額では比べず、見積もりの段階で同じ軸に当てはめて確かめます。
表から読み取りたいのは、どの方法も何かを減らす代わりに、別の決めごとを求めるという点です。
価格を1か所で持つ方法は、拠点ごとの価格登録という一番上流の打ち直しをなくせる一方で、拠点がいま使っている価格表や特約価格をすべて1つのマスタへ移す作業が先に来ます。
既存システムをつなぐ方法は、拠点の担当者が慣れた画面を使い続けられる反面、A営業所とB営業所で同じ得意先や商品に違うコードを振っていると、その対応表を作るところから始まります。
判断が分かれやすいのは、拠点で価格を手修正する例外がある場合です。
つないだ仕組みの中でB営業所がX商店の単価を手で直すと、その値が本社の価格に上書きされるのか、本社の価格で戻されるのかによって、食い違いの出方が変わります。
価格を1か所で持つ場合でも、例外価格を誰が登録し、誰が承認するかを決めないと、拠点から本社への依頼がメールで飛び交い、入力は1か所でも確認の往復が残ります。
どちらを選ぶにしても、正とする価格の持ち主を先に決めておくことが、仕組みの違い以上に結果を左右します。
企業間EDIと社内の価格反映は別の仕組み
二重入力を減らす手段を調べていると、EDIという言葉に出会うことがあります。
EDIは、企業と企業の間で受発注などの取引データを決まった形式で電子的にやり取りする仕組みです。
消費財の流通で使われる標準の1つである流通BMSは、電子取引文書であるメッセージと、通信プロトコルやセキュリティについて定めたEDI標準仕様です1。
流通BMSの基本形は、卸売(またはメーカー)と小売の間の取引業務を対象に作られ、発注・出荷・受領・返品・請求・支払の6業務を標準化しています1。
主な対象はスーパーやグロサリー業界の取引です1。
得意先の小売がこの形式で発注してくるなら、FAXで届いた注文を手で打ち直す受注の工程は、取引先との間で減らせる余地があります。
一方で、EDIが扱うのは自社と取引先の間のやり取りです。
本社で決めた卸単価がB営業所のExcelに反映されているかどうかは、EDIの外側にある社内の問題です。
EDIで受け取った注文データを社内の価格マスタと照らし合わせるとき、その価格マスタが拠点ごとにずれていれば、ずれはEDIを入れる前と同じように残ります。
請求についても同じ整理ができます。
流通BMSでは、その後の改訂で消費税の軽減税率に対応した請求鑑メッセージが追加されています1。
ただ、標準の形式で請求データを送ることと、自社の請求書がインボイスの記載事項を満たしているかの確認は別の作業です。
EDIは取引先が同じ標準に対応していることが前提になるため、社内の拠点間の価格のずれを減らす手段とは分けて、取引先ごとに検討するのが現実的です。
| 方法 | 削減できる工程 | 必要な移行作業 | 運用ルール | 前提条件 |
|---|---|---|---|---|
| 運用ルールでそろえる | 打ち直しは残るが反映漏れの確認・問い合わせが減る | ほぼ不要(通知書式と確認表を作る) | 改定の起点・反映日・反映済みの報告を決める | 改定が少なく拠点数が限られる |
| 価格を1か所で持つ | 拠点ごとの価格登録の打ち直し | 拠点の価格表と例外価格を1つのマスタへ移す | 例外価格を誰が登録・承認するかを決める | 各拠点が同じマスタを参照して受注・請求できる |
| 既存システムをつなぐ | 拠点間・会計への転記 | 得意先・商品コードの対応づけ | どの場所の価格を正とするかを決める | 既存システムにデータの出力・取込の手段がある |
▼ 図の内容を文字で読む
- 取引先との間(EDIが扱う)
- 流通BMSの6業務(発注・出荷・受領・返品・請求・支払)
- 取引先が同じ標準に対応していることが前提
- 社内の価格反映(EDIの外側)
- 本社で決めた卸単価が拠点のExcelに反映されているか
- 価格マスタが拠点ごとにずれていれば、EDI導入後も残る
- 請求書の確認(別の作業)
- 標準の形式で請求データを送ること
- 自社の請求書がインボイスの記載事項を満たしているか
拠点数と得意先別価格の複雑さで選び方はどう変わるか
自社の状況を確かめる4つの問い
前の節で並べた3つの方法のうち、どれが合うかは一律には決まりません。
製品の仕様は提供者ごとに異なり、拠点の数や得意先別の価格の多さによって、同じ方法でも準備の重さが変わるからです。
自社の状況を整理するには、次の4つの問いに答えてみるのが手掛かりになります。
- 卸価格を決める人は誰か
- 価格の改定は年に何回あるか
- 拠点で価格を手修正する例外はあるか
- 既存システムはデータの出力や取込の手段を持っているか
1つめの問いで見たいのは、価格の起点が1つかどうかです。
本社の営業管理担当が一人で決めているなら、起点はすでに1つで、あとは各拠点への反映をどうそろえるかの問題になります。
拠点長がそれぞれ自分の得意先の価格を決めているなら、価格マスタを1か所にまとめても登録する人は複数のままです。
この場合は仕組みより先に、誰の決めた値を正とするかを決める必要があります。
2つめの改定の回数は、打ち直しの量を左右します。
同じ改定を拠点の数だけ入力しているなら、打ち直しの回数は改定の件数に拠点の数を掛けた分だけ発生します。
年に数回の改定であれば、改定時のチェック表で反映漏れを防ぐ運用でも回るかもしれません。
改定が頻繁で、拠点もこれから増える見込みなら、手作業で吸収できる量を超えやすくなります。
3つめの例外は、前の節で見たとおり、つなぐ方法と1か所で持つ方法のどちらでも扱いを決めなければならない部分です。
X商店だけの特約価格、季節ごとのスポット値引き、拠点長の判断による端数調整など、例外の種類と件数を把握しておくと、移行や運用ルールの重さが見積もれます。
4つめは、つなぐ方法を選べるかどうかを決める問いです。
販売管理や会計ソフトが、単価や売上をファイルで書き出したり取り込んだりできるかは、使っている製品と契約によって違います。
ここは記事で一般論として答えられる部分ではないため、利用中の製品の説明書や提供元への問い合わせで、自社の環境で何ができるかを確かめます。
答えの組み合わせごとの進み方
4つの問いの答えを組み合わせると、どこから手を付けるかの見当がつきます。
以下は編集上の整理で、効果や費用を実測したものではありません。
価格を決める人が1か所にいて、改定が少なく、拠点での手修正もほとんどない場合は、まず運用ルールで足りるかを試します。
改定内容を同じ書式で通知し、反映日を決め、各拠点が反映済みを報告する形にすると、拠点ごとの打ち直しは残りますが、反映漏れを探す確認や、請求後の問い合わせは減らせます。
それでも食い違いが減らないなら、運用では吸収できない量だと分かるので、次の検討に進む判断材料になります。
改定が頻繁だったり拠点が増えたりしていて、既存システムに出力や取込の手段がある場合は、既存システムをつなぐ方法が候補になります。
この場合に先に決めるのは、どこの価格を正とするかと、得意先・商品コードの対応表です。
ここが曖昧なままつなぐと、ずれた単価が自動で全拠点へ広がるおそれがあります。
拠点での手修正が多く、既存システムに取込の手段がない場合は、価格を1か所で持つ方法の検討が必要になります。
移行の前に、各拠点に散らばっている例外価格を棚卸しし、残すもの、通常価格に戻すもの、本社の承認制にするものに分けておくと、移行後に拠点から例外の登録依頼が殺到する事態を避けやすくなります。
実際の会社では、答えがきれいに1つの組み合わせに収まらないこともあります。
その場合は、第1節で数えた打ち直しの回数が一番多い工程、特に上流の価格登録のずれから手当てする方法を優先すると、下流の受注や請求の訂正もあわせて減る見込みが立てやすくなります。
▼ 図の内容を文字で読む
- 運用ルールでそろえる
- 価格を決める人が1か所で、改定が少なく、手修正がほとんどない
- 先に決める:改定の通知書式・反映日・反映済みの報告
- 既存システムをつなぐ
- 改定が頻繁、または拠点が増え、出力や取込の手段がある
- 先に決める:どこの価格を正とするか、得意先・商品コードの対応表
- 価格を1か所で持つ
- 拠点での手修正が多く、取込の手段がない
- 先に決める:例外価格を残す・戻す・承認制にするの仕分け
導入前に洗い出す項目と、小さく試して価格のずれを確かめる方法
洗い出し表の項目
前の節の4つの問いに答えるには、手元の情報を1枚の表にまとめておくと便利です。
洗い出し表には、少なくとも次の項目を入れます。
- 得意先と商品
- 単価(現在の値と、その単価を登録している場所)
- 改定日(本社が決めた日と、各拠点が反映した日)
- 例外価格(対象の得意先・商品、決めた人、理由)
- 請求項目(インボイスの記載事項のうち、各拠点の請求書に載っているもの)
単価の欄に登録している場所まで書くのは、第1節で数えた二重入力の箇所を、得意先と商品ごとに見える形にするためです。
X商店向けのある商品の単価が、A営業所の販売管理、B営業所のExcel、倉庫の出荷用一覧の3か所に載っていると分かれば、どの登録をなくせば打ち直しが減るのかを具体的に話し合えます。
改定日の欄に本社の決定日と拠点の反映日を並べておくと、反映の遅れがどの拠点で起きやすいかも見えてきます。
価格に直接関わらない受注の周辺業務も、余白に書き出しておきます。
先に紹介した調査で課題に挙がっていた、注文確認の連絡、注文の変更対応、担当者しか分からない手順などは、価格の仕組みを変えても残る作業の例です2。
仕組みを入れたあとに、どの作業が残るのかをあらかじめ分かっておくと、導入の効果を期待しすぎずに済みます。
1拠点で試して確かめる指標
洗い出し表ができたら、いきなり全拠点で切り替えるのではなく、1拠点か、1つの得意先群だけで新しい運用や仕組みを試します。
範囲を絞ると、変える前と後の比較がしやすく、うまくいかなかったときに元のやり方へ戻すのも簡単です。
試すときに測る指標の例は、次の3つです。
いずれも自社で数えるための提案で、どの程度減るかを約束する数字ではありません。
- 価格の食い違い件数(価格マスタ、受注、請求のあいだで単価が合わなかった件数)
- 打ち直し回数(同じ単価や受注を、何か所に入力したか)
- 請求の訂正件数(請求書の作り直しや、得意先からの問い合わせの件数)
比べるときは、試す前と試した後で同じ長さの期間をとり、改定の件数が大きく違う時期どうしを比べないようにします。
改定が多い月と少ない月を比べると、仕組みの効果ではなく改定の多さの違いを見てしまうからです。
3つの指標の動き方は、残っている課題の場所を示す手掛かりになります。
打ち直し回数は減ったのに食い違い件数が減らないなら、拠点での手修正など例外の扱いにずれの原因が残っていると考えられます。
食い違いは減ったのに請求の訂正が減らないなら、請求項目の不足や、会計への転記の工程に問題が残っている可能性があります。
ただし、これはあくまで見当を付けるためのもので、訂正のあった請求書の明細を照合して、実際にどの項目が違っていたかを確かめてから次の手を決めます。
試した結果をもとに運用ルールや設定を直し、もう一度同じ指標で測ってから、次の拠点へ広げていきます。
1拠点で決めた正とする価格の持ち主や反映日の決めごとは、そのまま次の拠点の手順書になるため、拠点が増えても手作業に頼らずに回る形へ近づけられます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 1拠点で試す
- 1拠点か1つの得意先群に範囲を絞る
- 3つの指標で測る
- 価格の食い違い件数・打ち直し回数・請求の訂正件数
- 試す前と後で同じ長さの期間にそろえる
- 明細を照合して原因を切り分ける
- 訂正のあった請求書の明細を1行ずつ確かめる
- 運用ルールや設定を直す
- 正とする価格の持ち主と反映日の決めごとを次の拠点の手順書にする
4つの問いに答えても、正とする価格の持ち主や例外価格の扱いは社内の事情が絡み、担当者だけでは決めきれないことがあります。
洗い出し表の項目をもとに、どの工程の打ち直しから減らすか、運用ルールで足りるか仕組みの見直しが要るかの順番を一緒に整理できます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 工程の切り分け | 改定1件で同じ単価を何か所に入力しているか、受注で単価を手入力しているか |
| 請求項目 | 各拠点の請求書がインボイスの記載事項をすべて持っているか |
| 方法の選び方 | 価格を決める人、改定の回数、拠点での手修正、既存システムの出力・取込の手段 |
| 企業間EDI | 取引先とのやり取りの標準で、社内の価格反映とは別に検討する |
| 試行の確かめ方 | 食い違い件数・打ち直し回数・請求の訂正件数を同じ期間で比べる |

1拠点で試した結果の指標が思うように動かないとき、原因が例外価格の運用なのか、請求項目や転記の工程なのかは、明細を見比べないと判断しにくいものです。 試行で集めた食い違い件数や訂正件数をもとに、残っている課題がどの工程にあり、次の拠点へ広げる前に何を直すかを確かめられます。
よくある質問
二重入力が価格登録と受注入力のどちらで起きているかは、どう見分けるか。
改定1件について、同じ単価を何か所に入力しているかを数えます。
2か所以上なら価格登録の工程で二重入力が起きています。
次に、受注のときに単価を価格表から手で入れているか、価格マスタから自動で表示されるかを確かめます。
手で入れている場合は、受注入力でもずれが生まれます。
両方に当てはまるなら、上流の価格登録から手当てすると受注側のずれもあわせて減らしやすくなります。
拠点ごとに請求書の体裁が違う場合、先に何を揃えるべきか。
インボイスの記載事項がすべて載っているかを先にそろえます。
買手の名称、売手の名称と登録番号、取引年月日、取引内容、税率ごとの対価の合計額と適用税率、税率ごとの消費税額です3。
体裁の見た目よりも、この項目の有無と項目名の対応をそろえておくと、あとで請求データを1か所に集めたり会計ソフトへつないだりするときに、欠けた項目がそのまま流れるのを防げます。
企業間EDIに対応すれば、社内の拠点間の価格入力も減るのか。
企業間EDIは取引先との受発注などのやり取りを標準化するもので、流通BMSの基本形も卸売(またはメーカー)と小売の間の取引を対象にしています1。
取引先から届く注文の打ち直しは減らせる余地がありますが、本社で決めた単価を各拠点の価格表へ反映する作業は別の問題として残ります。
社内の価格のずれは、価格マスタのまとめ方や拠点間のつなぎ方で別に手当てします。
取引先がEDIに対応していない場合はどう運用するか。
FAXや電話で届く注文は、受注時に単価を手で入れずに済むよう、社内の価格マスタから単価を引く形に近づけることが先決です。
受注の手入力自体は残りますが、単価のずれを受注の工程で持ち込まないようにできます。
そのうえで、受け取った注文を何回打ち直しているかを数え、出荷指示や台帳への書き写しを減らせるところから見直します。
小さく試すとき、価格のずれの減少はどの指標で確かめるか。
価格の食い違い件数、同じ単価や受注を入力した打ち直し回数、請求の訂正件数の3つを、試す前と後で同じ長さの期間について数えます。
改定の件数が大きく違う時期どうしは比べないようにします。
指標の動きは残った原因の場所を探す手掛かりなので、訂正があった請求書の明細を照合して、どの項目が違っていたかを確かめてから次の手を決めます。
- 1 出典:流通BMS協議会(GS1 Japan)「流通BMS標準仕様 基本形」(2025年閲覧)
- 2 出典:株式会社ハンモック(調査実施:IDEATECH「リサピー」)「食品業の受注業務に関する実態調査」(2023年)
- 3 出典:国税庁「インボイス制度の概要(適格請求書等保存方式)」(2026年閲覧)
画像の出典元
- Top view of a tidy office desk with files, a calculator, and a plant, emphasizing organization./Photo by Jakub Zerdzicki on Pexels