◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 検収書の日付は契約内容への適合を確かめた区切りであり、支払期日や不適合の通知期限は別の定めで決まる
- 取適法の対象となる情報成果物の委託では、検査の有無にかかわらず受領後60日以内に支払う必要があり、確認時点を受領とするには受注者との事前の合意が要る
- 合格基準は数量・外観と動作・仕様で確認の時点と担当を分け、確認項目表として発注の段階で合意しておく
- 検収後の不具合は、売買・請負では知った時から1年以内の通知、商人間売買では遅滞ない検査と直ちの通知が権利を左右する
- 受領日・検収完了日・支払期日を別の欄で管理し、契約ごとに取適法の対象か、売買か請負か、商人間かを確かめる
目次

調達の検収とは:検収・受領・支払期日・不適合通知はそれぞれ何で決まるか
納品物は届いたのに、何をもって合格とし、いつ検収書を出すかが決まらない。
そのままでは支払処理も、後から見つかった不具合への対応も止まってしまいます。
まず押さえたいのは、検収書の日付は「契約の内容に合っているかを確かめ終えた区切り」だという点です。
支払期日や不具合の通知期限は、検収書の日付とは別の定めで動きます。
取適法の対象となる情報成果物の委託では、検査の有無にかかわらず受領後60日以内に支払う必要があります1。
民法は不適合を知った時から1年以内の通知を求め3、商法は商人間の売買で受領後の遅滞ない検査を求めています5。
基準・期間・記録を契約で先に決めておけば、検収書を出す判断がしやすくなります。
検収書を出す日が左右するもの
検収とは、受け取った納品物が、契約で決めた種類・品質・数量などに合っているかを確かめ、合否を受注者へ返す手続きです。
受領は物やデータを受け取ったという事実を指します。
支払期日は代金を払う期限で、不適合の通知は契約と違う点を相手に伝える行為です。
どれも検収と同じ時期に出てきますが、決まり方がそれぞれ違います。
社内では「検収書を出したら支払い」「検収したら相手の責任は終わり」という言い方がよく使われます。
経理処理の慣習としてそう運用している会社はあっても、法律の上でそれぞれの期限を決めているのは別の定めです。
検収書の日付が直接示すのは、発注側が契約内容への適合を確かめた区切りです。
その日付が支払いや責任にどう効くかは、契約の書き方と、取引に適用される法律で変わります。
具体的な場面で考えてみます。
たとえば、取引先から部品一式と、仕様書に沿って作られた設定データを同じ日に受け取ったとします。
部品は箱を開けて数を数えればその日のうちに確認できますが、設定データは社内の環境で動かしてみないと合否が分かりません。
担当者が「データの確認が終わるまで、まとめて検収書は出さない」と決めると、支払処理も同じだけ後ろへずれます。
この運用が問題になるかどうかは、取引が取適法の対象か、受領の時点を受注者とどう合意しているかで分かれます。
取適法の委託取引では検査しても支払期日は動かない
取適法(中小受託取引適正化法)は2026年から施行された法律で、一定の委託取引で発注する側に支払期日などの義務を課しています2。
法律上、発注する側は「委託事業者」と呼ばれます。
公正取引委員会のQ&Aは、情報成果物の委託について、委託事業者は検査するかどうかにかかわらず、受領後60日以内に定めた支払期日までに代金を支払う必要があると説明しています1。
このことは、検収を丁寧に行って時間がかかっても、それが支払期日を後ろへずらす理由にならないことを意味します。
検収に時間をかけること自体が問題なのではありません。
検収が終わらないうちに支払期日が来ることがあり、その場合でも期日までの支払いが求められる、という順序の問題です。
先ほどの設定データの例でいえば、動作確認が長引いても、支払期日は受け取った日から数えて決まります。
ただし、このQ&Aの説明は情報成果物を対象にしたものです。
物品の製造委託で検査期間と支払期日がどう扱われるか、また物品の単純な購入が取適法の対象になるかは、ここで示した材料だけでは判断できません。
取適法の対象かどうかは、資本金の額、従業員数、委託内容で判定されます2。
公取委の取適法関係のページでは、これらを選んで自社の取引に当てはまるかを確かめられます2。
受領時点を事前に合意する場合の扱い
同じQ&Aには例外もあります。
給付を受領したこととする時点を受注側と事前に合意している場合は、その確認をした時点が支払期日の起算日になります1。
情報成果物については、一定の水準を満たしていることを確認した時点で受領したこととする合意ができるとされています1。
実務では、合意の「事前」という点が大切です。
「検収が終わった日を支払いの起点にしたい」と考えるなら、それを納品後に社内で決めても効きません。
発注の段階で受注者と「どの確認を終えた時点を受領とするか」を合意しておく必要があります。
合意がない取引では、物やデータを受け取った日から数えて支払期日を管理するほうが、期日を過ぎるおそれを小さくできます。
どちらの運用を選ぶ場合でも、検収書の日付と支払期日の起算日を、台帳や帳票の別々の欄に持っておくことをお勧めします。
同じ日になる取引と、別の日になる取引が混在するからです。
欄を分けておくと、経理担当者が検収書の日付から支払期日を計算してしまう取り違えが起きにくくなります。
| 項目 | 何で決まるか | 起点の考え方 |
|---|---|---|
| 検収書の日付 | 契約と社内の検収手続 | 発注側が契約内容への適合を確かめ終えた時点 |
| 支払期日(取適法の委託取引) | 取適法と契約 | 受領日から60日以内。受領時点を事前に合意した場合はその確認時点 |
| 不適合の通知(売買・請負) | 民法566条・637条 | 不適合を知った時から1年以内 |
| 検査と通知(商人間の売買) | 商法526条 | 受領後遅滞なく検査し、発見したら直ちに通知 |
何を確認して合格とするか:物品と成果物で基準と確認方法を分ける
数量・外観で確認できるもの
検収の合否は、納品物が契約の内容に合っているかで決まります。
商法526条は、商人間の売買では、買主は受領したときに遅滞なく目的物を検査しなければならないと定めています5。
検査で種類・品質・数量の不適合を発見したら、直ちに通知を発しなければ、追完・代金減額・損害賠償・解除ができなくなります5。
数量、型番、外装の破損、ラベル、付属品の有無などは、受け取ったその場で確かめられます。
こうした項目は、受領後すぐの検査にもっとも向いています。
受入担当者が確認するときは、「数が合っていれば合格」で終わらせず、発注書と納品書のどの欄を照合したかまで残しておくと、後で確認範囲を説明しやすくなります。
受け取った時点で分かる不備を後になって見つけると、「受領時に検査していれば気づけたはずだ」という話になりやすくなります。
商人間の売買では、見つけたら直ちに通知しなければ権利を失う仕組みになっています5。
そのため、数量や外観の確認は「後でまとめて」に回さず、受け取った日のうちに済ませる運用が合っています。
動作・仕様の確認が要る成果物
ソフトウェア、設定データ、設計書、試作品の性能などは、受け取っただけでは合否が分かりません。
テスト環境で動かす、仕様書と一つずつ照合する、社内で実際に使う部門に確かめてもらう、といった工程が必要です。
確認する人も、受入担当者ではなく技術担当者や利用部門になることが多いでしょう。
商法526条は、直ちに発見できない種類・品質の不適合についても、買主が6箇月以内に発見したときは同様に扱うと定めています5。
受領時には分からない不具合があることを、法律も前提にしているわけです。
ただし、その期間には区切りがあります。
動作確認を先延ばしにするほど、期間の内側で確かめられる範囲は狭くなります。
成果物の取引は、売買ではなく請負として契約されることもあります。
その場合は、検収後の不適合について民法637条の定めが関わり、通知の起点や期間の考え方が変わります(後の節で比べます)。
ここで押さえておきたいのは、確認に時間がかかるものほど、何を確かめれば合格かを先に決めておかないと、検収そのものが終わらなくなるという点です。
合格基準を事前に合意する方法
合格基準を曖昧なまま検収書を求められる状況を避けるには、発注書や契約に検収の確認項目表を付ける方法があります。
確認項目ごとに、確認の方法、合格とする基準、確認する担当を書いておくものです。
数量・外観と動作・仕様の分け方は法律上の区分ではなく、確認の時点と担当者が違うことに合わせた運用上の整理です。
この方法は、前の節で見た受領時点の合意ともつながります。
取適法のQ&Aは、情報成果物について、一定の水準を満たしていることを確認した時点で受領したこととする合意ができると説明しています1。
その「一定の水準」を何で測るかが決まっていなければ、合意をしても確認の終わりが定まりません。
確認項目表は、その水準を具体的な項目に置き換える役割を持ちます。
基準を事前に合意しておくと、担当者が「これで合格にしてよいか」を上司や利用部門、受注者に都度確かめるやり取りが減ります。
一方で、基準そのものが妥当かどうかの判断は残ります。
発注の段階で、利用部門に「何ができていれば使えるか」を聞いておくことが、項目表の質を左右します。
| 確認の種類 | 主な対象 | 確認できる時点 | 合格基準の置き場所 |
|---|---|---|---|
| 数量・外観 | 部品・資材などの物品、梱包の状態 | 受け取ったその場 | 発注書・納品書の品目・型番・数量 |
| 動作・仕様 | ソフトウェア・設定データ・設計書など | テストや仕様書との照合の後 | 仕様書とテスト項目・合格条件 |
検収はいつまでに誰が行い、何を残すか:期間・みなし合格・記録
検収期間と支払期日を別々に設計する
合格基準が決まったら、次はいつまでに確認を終えるかです。
公取委のQ&Aは、情報成果物の委託で検査期間が60日を超える場合でも、委託事業者は受領後60日以内の支払期日までに支払う必要があるとしています1。
契約で検収期間を長くとっても、取適法の委託取引では支払期日は受領を起点に決まります(受領時点を事前に合意した場合を除きます)。
そこで、受領日、検収期限、支払期日を、それぞれ別の日付として管理する設計をお勧めします。
検収期限は支払期日より十分前に置き、不合格が出たときに返品や再納品を判断する余裕を残しておきます。
検収期限を支払期日の直前に置くと、不合格の判断と支払いの準備が同じ時期に重なり、どちらかが間に合わなくなりやすいからです。
取適法の対象でない取引では、支払期日は契約で決めることになります。
ただし商人間の売買であれば、受領後遅滞なく検査するという商法526条の定めは関わります5。
契約で長い検収期間を置いた場合に、この「遅滞なく」との関係がどう扱われるかは個別の判断になります。
期間は確認に必要な長さにとどめておくほうが無難です。
みなし合格を置く場合の注意
みなし合格とは、検収期間内に発注側から不合格の通知がなければ合格とみなす、という契約上の定めです。
受注者にとっては、発注側の確認が止まっても取引が先へ進む安心があります。
発注側にとっては、期間を過ぎると不合格を主張しにくくなるという意味を持ちます。
この定めを置くなら、期間内に確認しきれない成果物がないかを先に見ておく必要があります。
動作確認に時間がかかる成果物に、数量確認と同じ短い期間を当てると、確認が終わる前に合格とみなされてしまいます。
担当者の休暇や繁忙期に検収が止まった場合も同じです。
誰が不合格の通知を出すのか、その人が不在のときは誰が代わるのかまで決めておくと、期間の経過だけで合格になる事態を避けやすくなります。
検収後の責任との関係にも触れておきます。
みなし合格で検収が完了したことだけで、後から見つかった不適合についての権利が消えるとは、確認した民法・商法の条文からは言えません。
一方で、情報システムの受託開発向けにIPAが公表しているモデル契約は、不適合の通知期間の起点を検査完了とする定めを維持しています6。
契約にこうした定めがあれば、検収完了の日、つまりみなし合格の日が、通知期間の起点として効いてきます。
みなし合格の期間は、検収後の責任の期間とも連動しうるものとして決める必要があります。
検収記録に残す項目
誰が検収を行うかは、確認の種類で分けると整理しやすくなります。
数量・外観は受入担当者、動作・仕様は技術担当者や利用部門、合否の決定と受注者への通知は承認者、という分担です。
確認する人と合否を決める人を分けておくと、確認の抜けを承認の段階で見つけやすくなります。
検収の記録には、次の項目を残しておくと後の判断に使えます。
- 受領日(物またはデータを受け取った日)
- 受領時点についての事前の合意の有無と内容
- 確認した項目、確認の方法、確認した人
- 合否と、その判断の根拠となった基準
- 不合格・一部不備の内容と、受注者へ通知した日・方法
- 検収完了日と承認者
- 支払期日
これらを残す理由は、後で不適合が見つかったときに、受領時にどこまで確認していたか、いつ不適合を知り、いつ通知したかが、権利を行使できるかどうかに関わるからです。
民法も商法も、通知の期間を「知った時」や「発見」から数えています35。
その日付を後から思い出して書くのは難しいため、確認のたびに記録へ残す流れにしておくことが役に立ちます。
不合格・一部不備のときの進め方:返品・再納品・支払い保留
返品する場合の支払期日
検収で不合格が出たとき、まず気になるのは支払いの扱いでしょう。
公取委のQ&Aは、支払期日の到来前に給付が委託内容と異なることが分かって返品する場合は、当初の受領日から60日以内に代金を支払う必要はないと説明しています1。
不合格を理由に返品した給付は、当初の受領日を起点にした支払いの対象から外れるということです。
この説明には前提が二つあります。
一つは、支払期日の到来前に分かっていること、もう一つは、給付が委託内容と異なることです。
支払期日を過ぎてから返品する場合や、合格基準が曖昧なまま「なんとなく品質が足りない」と返品する場合は、この前提に乗らないおそれがあります。
前の節で合格基準と検収期限を先に決めておく意味は、ここにも出てきます。
返品や受領拒否、やり直しの要求がどこまで認められるかは、取適法上の規制にも関わる論点で、細部は取引ごとの確認が必要です。
委託内容と異なると言える根拠を示せないまま返品ややり直しを求めると、受注者との関係だけでなく、法令上も問題になりうる点には注意してください。
再納品を受けた場合に、その受領日をどう扱うかも、返品の連絡の段階で受注者とすり合わせておくと、後の支払期日の管理で迷いにくくなります。
仮受領と納期の関係
不合格と並んで迷いやすいのが、納期より早く届いた物品の扱いです。
Q&Aは、中小受託事業者の要請に応じて、あらかじめ定めた納期より前に受けた物品を仮受領として受け取った場合は、納期を受領日とすることも問題ないとしています1。
たとえば受注者から「早く仕上がったので、先に届けたい」と連絡があり、倉庫に置いたとします。
仮受領として扱う合意と記録がなければ、実際に受け取った日が受領日と見られ、支払期日もそこから数えることになりかねません。
仮受領にするなら、受注者からの要請であったこと、仮受領として受け取ったこと、受領日を納期とすることを、書面やメールで残しておくのが安全です。
この説明は、受注者の要請に応じて物品を早く受け取った場面のものです。
発注側の都合で早めに持ってきてもらった場合など、条件が違う場面にそのまま当てはめることはできません。
通知から是正方法の選択まで
不合格や一部不備が出たときは、次の順で進めると、判断と記録が抜けにくくなります。
これは確認した制度を前提にした運用の提案です。
是正方法の選択肢は、法律上の救済手段とも対応しています。
民法は、契約内容に適合しない目的物について、追完請求、代金減額、損害賠償、解除を定めています3。
実務では、まず交換や修正などの追完を求め、それが難しい場合に減額を協議する、という流れになることが多いでしょう。
どれを選ぶかは不備の程度と、納品物が分けられるかどうかで変わります。
一部だけ不合格のとき、代金全体の支払いを止めてよいかは、契約上その給付が一体のものか、分けて受け取れるものかで変わります。
取適法の対象取引では受領日から数える支払期日があるため、合格した部分の支払いまで止めると、その部分の期日を過ぎるおそれがあります1。
部分ごとの検収と支払いを契約で定めておくと、一部不備のたびに全体を止めるかどうかを迷う場面を減らせます。
通知は、どの確認項目がどの基準に合わなかったかを具体的に書いておくと、受注者も是正の範囲を判断しやすくなります。
同じ形式は、検収後に不具合が見つかったときの通知にもそのまま使えます。
検収後に不具合が見つかったら:買主に残る権利と通知の期限
売買(民法566条)
検収書を出した後に不具合が見つかったとき、「もう検収済みだから何も言えない」と考える必要はありません。
民法566条は、売主が種類または品質に関して契約内容に適合しない目的物を引き渡した場合、買主が不適合を知った時から1年以内に通知しないと、追完請求・代金減額・損害賠償・解除ができないと定めています3。
起点は「知った時」であって、検収した日ではありません。
裏を返せば、検収後に見つけた不具合でも、知った時から1年以内に通知すれば、これらの権利を行使する余地が残ります。
また、売主が引渡しの時に不適合を知っていた場合や、重大な過失で知らなかった場合には、この期間の制限は適用されません3。
ただし、これは契約に別の定めがない場合の原則です。
契約に通知期間などの特約があれば、まずそちらを確認することになります。
特約がどこまで有効かは契約ごとの判断になるため、ここでは断定しません。
請負(民法637条)
成果物の完成を約束する契約が請負に当たる場合は、民法637条が関わります。
注文者が不適合を知った時から1年以内に請負人へ通知しないと、追完・報酬減額・損害賠償・解除ができなくなります4。
請負人が引渡しの時に不適合を知っていた場合や、重大な過失で知らなかった場合は、この制限は適用されません4。
民法の原則だけを見ると、売買と請負で通知の起点と期間は同じ「知った時から1年」です。
違いが出てくるのは、実際の契約書の書き方です。
IPAの受託開発向けモデル契約は、民法の「知った時から1年」に対し、検査完了を起点とする定めを維持し、ベンダに重過失がある場合を除外しています6。
この設計の契約では、検収完了の日付が、検収後の責任の期間を数える起点になります。
前の節で触れたみなし合格の日付も、同じ意味を持ちえます。
なお、このモデル契約は情報システムの受託開発・保守運用向けで、物品の購入にそのまま当てはまるものではありません。
商人間売買(商法526条)
会社同士の売買のように商人間の売買に当たる場合は、商法526条の定めも関わります。
買主は受領したときに遅滞なく検査し、不適合を発見したら直ちに通知を発しなければ、追完・代金減額・損害賠償・解除ができなくなります5。
直ちに発見できない種類・品質の不適合については、6箇月以内に発見して直ちに通知した場合も同様に扱われます5。
売主が不適合を知っていた場合は適用されません5。
表で並べると、商人間の売買では、受領後の検査と発見後の通知のタイミングがずっと厳しく求められていることが分かります。
同じ部品の購入でも、相手と自社がともに事業者として行う売買であれば、「知った時から1年あるから後で考えよう」という運用は合いません。
自社の契約に民法と商法のどの定めがどう関わるかは、取引の形と契約の内容によるため、個別の契約については弁護士に確認することをお勧めします。
実務で大切なのは、検収済みかどうかで迷う時間を減らすことです。
どの条文でも、権利を左右しているのは不適合を発見した時期と通知した時期です。
不具合を見つけたら、見つけた日と内容を記録し、確認項目表のどの基準に合わないかを添えて、速やかに受注者へ通知する。
通知が遅れることのほうが、検収書を出したことよりも、権利に大きく響きます。
| 取引の形 | 起点 | 期間・タイミング | 制限が適用されない場合 |
|---|---|---|---|
| 売買(民法566条) | 買主が不適合を知った時 | 1年以内に通知 | 売主が引渡し時に知っていた・重大な過失で知らなかった |
| 請負(民法637条) | 注文者が不適合を知った時 | 1年以内に通知 | 請負人が知っていた・重大な過失で知らなかった |
| 商人間売買(商法526条) | 受領後遅滞なく検査して発見した時 | 直ちに通知(直ちに発見できない種類・品質の不適合は6箇月以内の発見) | 売主が知っていた |
契約書と社内ルールへの落とし込み:何を条項と手順表に残すか
契約に入れる項目
ここまでの判断を契約に書き込むと、検収書を出すたびに個別に迷う場面が減ります。
次の項目は、確認した条文とQ&Aを前提にした編集上の提案です。
- 検収の対象と合格基準(確認項目表を添付)
- 検収期間と、期間内に通知がない場合の扱い(みなし合格を置くかどうか)
- 受領とする時点(確認した時点を受領とする場合は、その合意)
- 支払期日(受領日から数える日数)
- 不合格時の通知方法と是正方法(返品・再納品、修正、代金減額の協議)
- 部分ごとの検収と支払いの可否
- 検収後の不適合について、通知期間とその起点
このうち支払期日と受領時点は、取適法の対象取引かどうかで書き方が変わります。
対象取引では、受領時点を事前に合意しない限り、検査にかかわらず受領後60日以内に支払う前提で期日を置くことになります1。
通知期間の起点については、検査完了を起点とする設計の例があります6。
ただし、民法の原則と異なる定めがどこまで有効かは契約ごとの判断であり、条項を作る段階で法務担当者や弁護士の確認を経ておくと安心です。
社内の検収手順表
契約に書いた内容は、社内の手順表に落とさないと現場で使われません。
手順表は、誰が何を確かめ、何を記録し、次の人へ何を渡すかが分かる形にしておきます。
受領日、検収完了日、支払期日を同じ台帳の別の欄に持っておくと、経理担当者が検収書の日付から支払期日を計算し直す作業がなくなります。
受入担当が記録した受領日がそのまま支払期日の起点として使えるからです。
一方で、合格基準そのものが適切かどうか、不合格をどの是正方法で解決するかといった判断は、手順表を作っても人に残ります。
手順表が減らすのは転記と取り違えであり、判断そのものではありません。
検収後の不適合の受付窓口を決めておくことも、手順表の役割です。
利用部門が不具合に気づいても、調達担当に伝わるまでに時間がかかれば、その分だけ通知が遅れます。
気づいた人がどこへ報告し、誰が受注者へ通知するかを書いておくと、商人間売買のように直ちの通知が求められる場面でも動きやすくなります。
取引類型ごとの確認先
契約と手順を決める前に、自社の取引がどの定めの対象になるかを確かめておきます。
ここが分からないと、支払期日の置き方も、検収後の通知の期限も決まらないからです。
- 取適法の対象の委託取引か:資本金の額、従業員数、委託内容から、公取委の取適法関係のページで確かめる2
- 売買か請負か:契約書が物の引渡しを約束しているか、仕事の完成を約束しているかを見る
- 商人間の売買か:自社と相手がともに事業として行う売買かを見る
- 特約の有効性や、複数の定めの関係:個別の契約ごとに弁護士へ確認する
一つの取引先との間でも、部品の購入は売買、システムの改修は請負、というように取引の形が分かれることがあります。
取引先ごとではなく、契約ごとに類型を確かめておくと、同じ取引先の別の契約に誤った期限を当てはめることを防げます。
検収期間、受領時点の合意、支払期日が契約と社内手順のどこで食い違っているかは、自社の書類を並べてみないと見えにくいためです。
現在の検収条項・支払条件・社内の検収手順を並べ、受領日・検収完了日・支払期日がどこでずれやすいかを一緒に整理できます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 支払期日 | 取適法の委託取引では受領日が起点。検収書の日付ではない |
| 受領時点の例外 | 確認した時点を受領とするなら、受注者と事前に合意する |
| 合格基準 | 数量・外観と動作・仕様で、確認の時点と担当を分ける |
| 不合格のとき | 記録→通知→是正方法の選択→再検査→支払処理 |
| 検収後の不具合 | 売買・請負は知った時から1年、商人間売買は遅滞ない検査と直ちの通知 |
| 契約ごとの確認 | 取適法の対象か、売買か請負か、商人間か |
取引先ごと、契約ごとに類型や条件が分かれると、担当者だけで期限と手順をそろえるのは負担が大きくなるためです。 契約の類型ごとに確認項目表と手順表の形を決め、法的判断が必要な点を弁護士へ確認する前の論点として切り分けられます。
よくある質問
検収書を出さないまま支払期日が来たらどうなりますか。
取適法の対象となる情報成果物の委託では、検査するかどうかにかかわらず、受領後60日以内に定めた支払期日までに支払う必要があります1。
検収書が出ていないことは、期日を延ばす理由になりません。
受領時点を受注者と事前に合意している場合は、その確認時点が起算日になります1。
取適法の対象でない取引では、契約で定めた支払条件に従います。
検収後に不具合が見つかった場合、売買と請負で通知期限は違いますか。
民法の原則では、売買も請負も、不適合を知った時から1年以内の通知が必要です34。
商人間の売買では、受領後遅滞なく検査し、発見したら直ちに通知する必要があり、直ちに発見できない種類・品質の不適合は6箇月以内の発見が求められます5。
契約で通知期間の起点を検査完了とする例もあるため6、まず自社の契約の定めを確認してください。
仮受領や早期納品の受領日はいつになりますか。
取適法の委託取引では、中小受託事業者の要請に応じて納期より前に物品を仮受領として受け取った場合、納期を受領日とすることも問題ないとされています1。
仮受領の扱いにするなら、要請があったこと、仮受領であること、受領日を納期とすることを書面やメールで残しておくと安全です。
自社が取適法の対象かどうかはどう確かめればよいですか。
取適法の対象かどうかは、資本金の額、従業員数、委託内容で判定されます2。
公取委の取適法関係のページで、これらの項目を選んで確かめられます2。
同じ取引先でも契約の内容によって判定が変わることがあるため、契約ごとに確かめるのが確実です。
一部だけ不合格のとき、代金全体の支払いを保留してよいですか。
契約上その給付が一体のものか、分けて受け取れるものかで答えが変わります。
取適法の対象取引では受領日から数える支払期日があるため、合格した部分の支払いまで止めると期日を過ぎるおそれがあります1。
部分ごとの検収と支払いを契約に定めておくと、判断に迷う場面を減らせます。
- 1 出典:公正取引委員会「よくある質問コーナー(取適法)」(2026年)
- 2 出典:公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)関係」(2026年)
- 3 出典:法務省(e-Gov法令検索)「民法 第566条」(現行)
- 4 出典:法務省(e-Gov法令検索)「民法 第637条」(現行)
- 5 出典:法務省(e-Gov法令検索)「商法 第526条」(現行)
- 6 出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「改正民法に対応した『情報システム・モデル取引・契約書』」(2019年)