◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 店舗のLINE発注は電子帳簿保存法上の「電子取引」に当たり、発注した店舗側にも保存義務が生じます。
- 個人LINEのままだと、検索機能の確保や事務処理規程の整備を店舗自身が担う必要があります。
- 受注側が保存要件を満たすシステムを整えれば、店舗のダウンロード保存の負担を軽くできます。
目次
店舗が卸売業者やメーカーへLINEで注文を送る「LINE発注」は、電子帳簿保存法上の「電子取引」に当たります。同法第7条は電子取引をした保存義務者に電磁的記録の保存を義務づけており、注文を受ける卸・メーカーだけでなく、発注した店舗側にも保存義務が生じます*1。個人LINEのまま運用する場合、検索機能の確保と訂正削除防止に関する事務処理規程の整備は、店舗が自ら担うことになります*2。一方、受注側の受発注システムが真実性の確保・検索機能の確保の要件を満たしていれば、店舗はデータを個別にダウンロードしなくても保存要件を満たした状態を維持できます*2。背景には、BtoB-ECの市場規模が2024年に514.4兆円、EC化率が43.1%まで拡大する一方*4、紙や口頭による業務が中心でデジタル化が図られていない中小企業が15.4%残る*5という、商取引のデジタル化の偏りがあります。本記事では、店舗が発注側として何をどう保存すべきか、個人LINE運用の限界はどこにあるか、2026年1月施行の取適法は店舗の仕入れに関係するのかを、法令原典と国税庁の一問一答に基づいて整理します。
LINE発注とは|店舗が発注側になる2つの方式
LINE発注とは、店舗が卸売業者やメーカーへの注文内容をLINE上のメッセージまたはLINEミニアプリから送信する発注方式です。受注側は、その内容を受発注システムで処理します。この方式で授受する注文情報は電子帳簿保存法上の「電子取引」に当たり、発注した店舗側にも保存義務が生じます*1。
方式A|個人LINE・LINE公式アカウントへメッセージで送る
方式Aは、店舗の担当者が個人LINEや取引先のLINE公式アカウントへ、品名・数量・納期をメッセージで送る方式です。新しいアプリの導入なしに始められる手軽さが利点です。
一方で、送信した注文情報の保存・検索・訂正削除防止は店舗と受注側の双方が個別に対応する必要があります*2。運用のしくみを取り決めずに始めると、後述する実務負担が店舗側に集中します。
方式B|LINEミニアプリ/LINE連携型受発注システムから送る
方式Bは、店舗がLINEミニアプリや連携型の受発注システムの画面から発注し、受注側のシステムが自動で記録・保存する方式です。店舗はLINEアプリの操作だけで完結し、別アプリの追加インストールが不要です。
保存要件の充足を受注側のシステムに寄せられる点が、方式Aとの実務上の大きな違いです。この差は次章以降の電子帳簿保存法の要件と密接に関わります。
なぜ店舗ではLINEが選ばれるのか|月間利用者1億人という基盤
LINEヤフー株式会社の発表によると、スマートフォンに紐付くLINEアカウントを保有するiOS・Androidのユーザーのうち、1か月の間に一度でもLINEを起動したアカウント数は、2025年12月末時点で国内1億ユーザーを超えました*6。
店舗・取引先の双方が既にLINEを日常的に使っているため、新しい発注専用アプリを別途導入する障壁を避けられます。この普及度の高さが、店舗側の受け入れやすさに直結しています。
店舗のLINE発注は「電子取引」に当たる|電子帳簿保存法の保存義務
LINE発注の仕組み全体(発注から受注処理までの流れ)は、「LINE受発注の仕組み」の解説記事で整理しています。電子帳簿保存法は、正式名称を「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」といいます。本記事では、店舗側が発注する場面に絞り、この法律上の扱いを見ていきます*1。
電子取引の定義|法2条5号が示す「取引情報」の範囲
電子帳簿保存法第2条第5号は、注文書・契約書・送り状・領収書・見積書などに通常記載される事項を「取引情報」と定義しています。そのうえで、取引情報の授受を電磁的方式で行う取引を「電子取引」としています*1。
LINEのメッセージやミニアプリで注文の品名・数量・納期を送るやり取りは、この「取引情報の電磁的な授受」に当てはまります。国税庁の一問一答にLINEを名指しした問いはありませんが*2、条文の定義に照らせば店舗のLINE発注は電子取引に位置づけられます。
保存義務は誰に生じるか|法7条は発注した店舗側も対象とする
電子帳簿保存法第7条は、電子取引をした保存義務者に対し、その取引情報に係る電磁的記録の保存を義務づけています*1。保存義務者には、注文を受ける卸・メーカーだけでなく、発注する店舗側も含まれます。
この点は、発注する側である店舗で見落とされやすいポイントです。「発注する側だから記録を残す義務はない」という理解は誤りであり、店舗にも法令上の保存義務が生じる点に注意が必要です。
保存要件の全体像|システム概要書類・見読可能装置・検索機能・改ざん防止の4本柱
電子取引データの保存には、システム概要書類の備え付け、見読可能装置(ディスプレイ・プリンタ等)の備え付け、検索機能の確保が必要です。これらに加え、改ざん防止措置のいずれかを満たすことが求められます*2。改ざん防止措置は次の4つから選択します。
| 選択肢 | 内容 |
|---|---|
| 1 | タイムスタンプが付与された後の取引情報を受け取る。 |
| 2 | 取引情報の授受後、速やかにタイムスタンプを付与し、保存した者の情報を確認できるようにする。 |
| 3 | 記録事項の訂正・削除した場合に、その事実と内容を確認できるシステム(または訂正削除ができないシステム)で授受・保存する。 |
| 4 | 正当な理由がない訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定め、備え付けて運用する。 |
個人LINEのままだと店舗が背負う5つの実務負担
方式Aのように個人LINEで発注を続ける場合、保存要件を満たす作業は店舗自身が担うことになります。国税庁の一問一答が示す具体的な対応内容を、実務負担として整理します*2。
検索機能を店舗が自前で確保する|索引簿とファイル名規則の運用
検索機能の確保には、ファイル名に日付・取引先・金額を規則的に記録する方法や、表計算ソフトで索引簿を作成する方法があります*2。店舗が受け取ったLINEのやり取りをこの規則に沿って自ら整理し続ける必要があります。
スマートフォンのみでの運用と、機種変更時のデータ移行
国税庁は、パソコンやプリンタを持たずスマートフォンのみで取引する場合も、検索機能の確保と事務処理規程の備え付け・運用が必要だとしています*2。
スマートフォンの利用期間は、電子取引データの保存期間より短くなりやすい傾向があります*2。そのため機種変更時には、データを移行するか、交換前の端末を保存期間中は動作する状態にしておく対応が求められます。
訂正削除防止に関する事務処理規程の整備と運用
改ざん防止措置としてタイムスタンプ等のシステムを使わない場合は、正当な理由がない訂正・削除の防止に関する事務処理規程を店舗自身が定める必要があります。規程を備え付けたうえで、規程どおりに運用します*2。
猶予措置は免除ではない|相当の理由とデータ・書面双方の提示が要件
令和5年度税制改正による猶予措置には、前提となる要件があります。検索機能などの確保が難しいことについて税務署長が相当の理由を認め、かつ税務調査等の際に電子データと出力書面の両方を提示・提出できる状態にあることです*2。「対応しなくてよい」と読み替えるのは誤りで、提示できる準備を欠かせません。
誤送信・宛先違いで証跡が残らないリスク
個人LINEのトーク履歴は、宛先違いや誤送信があっても、システムのように送信ログや承認履歴として一元管理されているわけではありません。「言った言わない」の食い違いが起きても、店舗側で個別に履歴をさかのぼって確認する手間が生じます。
店舗が抱えるこれらの負担を自社の受発注フローで確かめるには、無料相談で要件を整理するのが近道です。
受発注システム経由なら店舗の負担はどこまで消えるか
事業者側が要件を満たせば購入者側はダウンロード保存が不要|国税庁一問一答 問45
国税庁一問一答の問45によれば、ECサイト上で領収書等データを随時確認できる状態のとき、購入者はデータを一律にダウンロードして保存する必要はありません*2。
ただしこの取扱いには条件があります。ECサイト提供事業者側が、購入者において満たすべき真実性の確保・検索機能の確保の要件を満たしている場合に限って受けられると明記されています*2。無条件に保存が不要になるわけではありません。
この論理は受発注システムにも当てはまります。受注側のシステムが真実性・検索機能の要件を満たしていれば、店舗は個別にダウンロード・索引簿作成をしなくても、保存要件を満たした状態を維持できます。
店舗の実務はどう変わるか|個人LINE運用とシステム経由運用の比較
| 項目 | 個人LINE運用(方式A) | システム経由運用(方式B) |
|---|---|---|
| 検索機能の確保 | 店舗が索引簿・ファイル名規則を自作。 | システム側の要件充足で店舗の追加作業が縮小*2。 |
| 事務処理規程 | 店舗が規程を定めて備え付け。 | 受注側の運用規程に含めて管理できる場合がある。 |
| 端末更新時の対応 | 機種変更のたびにデータ移行が必要*2。 | クラウド上のデータのため端末更新の影響を受けにくい。 |
| 誤送信・宛先違い | 履歴の一元管理がなく個別確認が必要。 | 発注履歴がシステムに記録され追跡しやすい。 |
卸・本部側が用意すべきもの
店舗の負担を減らすには、卸・本部側で保存基盤(真実性・検索機能の要件を満たすシステム)、要件充足を示す説明資料、店舗向けの操作案内の3点を整える必要があります。これらを社内担当だけで整備するには、電子帳簿保存法の要件理解と受発注システムの選定・運用の両方の知識が求められます。
自社の受発注が保存要件を満たせるかどうかは、取引先の数や現在の発注チャネルの構成によって整理の仕方が変わります。個別の要件整理は無料相談で承っています。
取適法(2026年1月施行)は店舗の仕入れに関係するか
対象は製造委託等の5類型|単純な商品売買は原則対象外
取適法は、正式名称を「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」といい、2026年1月1日に施行されます。下請代金支払遅延等防止法の改正・改称により成立した法令です*3。
同法第2条第6項は、「製造委託等」を製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託・特定運送委託の5類型と定義しています*3。店舗が卸売業者から商品を仕入れる単純な売買取引は、この5類型のいずれにも当たらないため、原則として対象外です。
対象になり得るケース|PB商品の製造委託・什器の修理委託等
店舗の取引でも、プライベートブランド商品の製造を委託する場合や、店舗什器・設備の修理を委託する場合は、製造委託・修理委託に該当し得ます*3。また、販売する商品を取引の相手方へ届ける運送を他の事業者に委託する場合は、2026年1月の改正で新設された特定運送委託に当たることがあります*3。改称のニュースだけを見て一律に「対応が必要」と判断せず、自社の取引が委託契約に当たるかを個別に確認することが欠かせません。
対象になる場合の実務|明示義務と60日以内の支払期日
対象取引に当たる場合、同法第4条は委託内容の明示を義務づけますが、明示方法は書面・電磁的方法のいずれでもよいとされています*3。第3条は、支払期日を給付受領日から起算して60日の期間内、かつできる限り短い期間内に定めるよう求めています*3。なお、電磁的方法で明示した場合でも、相手方から書面の交付を求められたときは遅滞なく交付する必要があります*3。
店舗へLINE発注を導入する手順
STEP1 発注チャネルと対象取引の棚卸し
まず、電話・FAX・個人LINE・既存システムなど、現状の発注チャネルを取引先ごとに棚卸しします。どの取引が電子取引に当たるかをこの段階で洗い出します*1。
STEP2 保存方式の決定|店舗保存かシステム側充足か
電子取引に当たる取引について、店舗側で検索機能・事務処理規程を整備するか、受注側のシステムで要件を満たすかを決めます。前章で見たとおり、システム側で満たす方が店舗の負担は小さくなります*2。
STEP3 事務処理規程の整備|国税庁のサンプル規程を基準に
タイムスタンプ等のシステムを使わない場合は、国税庁が示す訂正削除防止に関する事務処理規程のサンプルを基に、自社・店舗向けの規程を作成し備え付けます*2。
STEP4 店舗への案内とテスト発注
店舗に対し、発注方法・保存の役割分担・問い合わせ窓口を案内し、実際の取引の前にテスト発注で操作を確認します。店舗側の疑問をこの段階で解消しておくと、本稼働後の混乱を避けられます。
STEP5 運用開始後の点検|導入前チェックリスト
運用開始前チェックリスト5点/順位根拠:実施順序
- 発注チャネルごとに電子取引該当の有無を洗い出したか確認します。
- 検索機能・見読可能性・改ざん防止措置のいずれを満たすか決定します。
- 訂正削除防止に関する事務処理規程を整備し、備え付けます。
- 店舗へ発注方法と保存の役割分担を案内し、テスト発注で確認します。
- 運用開始後、保存要件の充足状況を定期的に点検します。
まとめ:店舗のLINE発注を制度対応させる3つの判断軸
本稿では、店舗のLINE発注が電子帳簿保存法上の電子取引に当たること、個人LINE運用では店舗自身が保存要件を負うこと、取適法の対象範囲を整理しました。要点は3つに集約できます。第一に、店舗のLINE発注は電子取引であり、発注した店舗側にも保存義務が生じます*1。第二に、個人LINEのままでは検索機能の確保・事務処理規程の整備を店舗が自前で担うことになります*2。第三に、受注側のシステムが要件を満たせば店舗の負担を軽くでき、取適法は製造委託等の対象取引に限って関係します*3。
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
よくある質問
店舗が個人のLINEアカウントで発注した場合、そのトーク履歴は保存が必要ですか。
必要です。発注内容(品名・数量・納期など)を含むトークのやり取りは電子取引の取引情報に当たり、発注した店舗側にも電子帳簿保存法上の保存義務が生じます*1。
発注内容をスクリーンショットで残しておけば保存要件を満たしますか。
スクリーンショットによる保存自体は、国税庁の一問一答でも保存方法の一つとして認められています*2。ただし画像を残すだけでは足りません。ファイル名の規則づけや索引簿の作成による検索機能の確保と、訂正削除防止に関する事務処理規程の整備・運用を併せて行う必要があります*2。
基準期間の売上高が5,000万円以下なら検索機能は不要ですか。
条件付きで不要になります。判定期間に係る基準期間(通常2年前)の売上高が5,000万円以下で、かつ税務調査等の際にダウンロードの求めに応じられる場合です*2。売上高の基準だけで自動的に不要になるわけではありません。
LINEで発注し、請求書は紙で受け取っている場合はどう保存すればよいですか。
保存方法を取引の形式ごとに分けます。LINEでやり取りした発注データは電子取引として電磁的記録での保存が必要で、紙の請求書は従来どおり書面のまま保存する取扱いになります*1。
- *1 出典:e-Gov法令検索「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(電子帳簿保存法)第2条第5号・第7条」
- *2 出典:国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】令和8年7月」問18・問19・問21・問33・問45等
- *3 出典:e-Gov法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)第2条・第3条・第4条」(2026年1月1日施行)
- *4 出典:経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査 公表資料」(2025年8月26日)
- *5 出典:中小企業庁「2026年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要」p.43 図1(調査:株式会社帝国データバンク「令和7年度中小企業の経営課題と事業活動に関する調査」)
- *6 出典:LINEヤフー株式会社「LINE、国内月間利用者数が1億ユーザーを突破」(2026年1月29日)
画像の出典元
- 発注のイメージ/Photo by Martin Sanchez on Unsplash
- 電子帳簿のイメージ/Photo by Jakub Żerdzicki on Unsplash
- 受発注のイメージ/Photo by Judy Beth Morris on Unsplash
- 取適法のイメージ/Photo by 2H Media on Unsplash