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多拠点のインターネットEDI移行、手順と一括・順次の判断基準

◆監修・編集責任者 小園 将隆 

B2B EC-COLUMN

この記事のポイント

  • 移行の単位は拠点ではなく、拠点と取引先を結ぶ接続であり、最初に数えるべきは接続の本数である
  • 一括移行が成立するのは全拠点・全取引先が同時期に同じ方式へ対応できるときに限られ、期限や方式がばらつくなら順次移行が現実的になる
  • 順次移行の着手順は、期限が早い接続、業務への影響が大きい接続、方式が重なる接続という観点から組み立てられる
  • 切り戻しができるかどうかは、旧回線の契約・旧手順の稼働・相手先の送信再開の3つが揃っているかで決まり、回線の解約時点で不可逆になる
  • INSネットは2024年に新規申込受付が終了し2028年にサービス提供終了が予定されているが、対象や自社への影響は拠点ごとの契約確認で確定させる必要がある

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▽ 写真の出典元

多拠点でのインターネットEDI移行、単一拠点の切替と何が違うのか

取引先からインターネットEDIへの切替を求められた、あるいは現行回線の保守終了が気になり始めた。
そこまでは決まったのに、拠点が複数あるせいで「本社から順に進めるのか」「全拠点をいっせいに切り替えるのか」で手が止まる、という段階の方が多いと思います。
この記事では、多拠点のインターネットEDI移行が単一拠点の切替と何が違うのかを整理したうえで、現状の棚卸しから並行運用までの手順、そして一括移行と順次移行を分ける判断材料をお伝えします。
先に結論を言うと、判断の中心にあるのは拠点数ではなく、取引先ごとの対応方式と対応時期がどれだけ揃っているかです。
揃っているなら一括、ばらついているなら順次が現実的になります。

切り替える単位は「拠点」ではなく「接続」

拠点が一つで、取引先も一社であれば、移行の日程は自社と相手の二者で決められます。
拠点が増えると、切替の対象は拠点そのものではなく、拠点と取引先を結ぶ接続の一本一本になります。
ここが単一拠点の切替と最も違うところです。

拠点が3つ、取引先が10社あっても、すべての拠点がすべての取引先とつながっているとは限りません。
一方で、同じ取引先に対して複数の拠点がそれぞれ別の接続を持っている、という形もよくあります。
そのため、移行計画で最初に数えるべきなのは拠点数ではなく、現に稼働している接続の本数です。
接続本数が分かると、調整すべき相手先の担当者の数と、テストの回数がそのまま見えてきます。

この数え方に切り替えると、日程の感覚が変わります。
接続ごとに相手先と方式をすり合わせ、テストを行い、本番切替日を合意する作業が積み上がるからです。
医薬品や健康食品の製造・販売や卸事業を手掛けるピップグループの移行では、事前調整から利用開始までにおよそ1か月かかるとされています2
これは2016年時点の1社の事例であり、業種や相手先の体制が違えば前後します。
ただ、接続1本ごとに調整期間が発生するという構造は、拠点がいくつあっても変わりません。

拠点ごとに違うのは回線と通信手順だけではない

通信手順を新しい方式に置き換えれば移行は終わる、と考えると後工程でつまずきます。
実際には、拠点によって受注の締め時間が違う、出荷指示の出し方が違う、受信データを基幹システムへ取り込む仕組みが拠点独自に作り込まれている、といった差が残っていることが多いためです。
通信がつながっても、その後ろの業務が拠点ごとに別物なら、テストも切替手順書も拠点ごとに用意し直すことになります。

そこで本記事の整理としては、棚卸しの段階で「全社で共通化する項目」と「拠点に残したままにする項目」を先に線引きすることをおすすめします。
通信方式・文字コード・データ項目の定義といった対外的な取り決めは共通化の候補になり、受注締め時間や社内の運用ルールは拠点固有のまま残しても支障が出にくい部分です。
ただし、どこまで共通化すべきかを一律に定めた公的な基準は確認できていません。
ここは自社の業務実態を見て決める領域であり、本記事では移行管理の考え方としてお伝えしています。

この線引きを先にしておくと、後で「拠点ごとに個別対応が必要なのか」という問いに自分たちで答えられるようになります。
個別対応が必要なのは拠点そのものではなく、取引先との取り決めが違う接続と、業務の作り込みが違う拠点の二か所だ、という整理になるはずです。

インターネットEDI移行の標準的な手順(現状把握から本稼働まで)

現状棚卸し(拠点・取引先・通信方式の一覧化)

最初にやることは、動いている接続をすべて表に落とすことです。
拠点名、取引先名、通信方式(手順名)、回線の種類、使っている機器やソフト、データの種類(発注・出荷・請求など)、1日の送受信時刻、担当部署。
この程度の列があれば、後の判断はほとんどこの表の上でできます。

棚卸しで抜けやすいのは、毎日は動かない接続です。
月次でしか送らないデータ、繁忙期だけ使う臨時の接続、障害時のバックアップ回線、EDIとFAXを併用している取引先。
こうした接続は担当者の記憶にしか残っていないことがあり、切替後にはじめて「あの回線が止まっていた」と気づく原因になります。
回線の契約書や請求明細から逆に洗い出すと、現場の記憶だけに頼らずに済みます。

この一覧ができた時点で、拠点ごとの負荷の偏りも見えます。
接続が1本しかない拠点と、十数本を抱える拠点では、移行にかけるべき人手も期間もまったく違います。
後の一括か順次かの判断は、この偏りの上に立ちます。

方式選定:自社で選べる部分と、相手に従う部分を分ける

方式選定というと自社が何を採用するかの話に見えますが、実際には選べる範囲は限られています。
取引先が「この方式で接続してほしい」と指定してくる場合、その接続についてはこちらに選択肢がありません。
逆に、自社が発注側として相手に接続してもらう場合や、業界標準がまだ固まっていない相手との接続では、自社側で方式を決められます。

ですから方式選定の作業は、棚卸し表の各行を「相手指定」「自社選択」「これから協議」の3つに仕分けるところから始めるのが実務的です。
相手指定の行が多いほど、自社の統一方針は後退します。
自社選択の行が一定数あるなら、そこは同じ方式に寄せて、運用と保守の対象を減らせます。

なお、中小企業間の受発注を共通の仕様でつなぐ取り組みとして、中小企業庁は中小企業共通EDIの実証事業で12件のプロジェクトを選定しています3
この実証では受発注業務の時間が平均51.4%削減されたと報告されています3
ただしこれはEDI導入全般の効果を測ったものであり、多拠点企業がインターネットEDIへ移行したときの効果を示す数値ではありません。
方式を検討する際の参考値として扱い、自社の削減見込みとしてそのまま使わないほうが安全です。

検証:通信がつながることと、業務が回ることは別

検証は、通信の疎通確認とデータ内容の突合の二段構えで考えます。
通信がつながっても、コード体系や桁数、文字コード、明細行の並びが旧手順と違えば、基幹システム側で落ちます。
特に既存の手順から移行する場合、旧来のフォーマットに合わせて社内で独自の変換を入れていることがあり、その変換が新方式でも同じ結果を出すかは実データで確かめるしかありません。

確認しておきたいのは正常系だけではありません。
相手先が送信に失敗したとき、同じデータが二重に届いたとき、締め時間を過ぎて届いたとき。
こうした異常時に誰が気づき、どう再送を依頼するかを決めておかないと、切替直後の問い合わせがすべて情報システム部門に集まります。

検証の範囲は、拠点ごとに業務の作り込みが違うなら拠点ごとに必要です。
同じ取引先・同じ方式でも、A拠点で通ったテストがB拠点で通るとは限らない、という前提で計画してください。

段階移行:最初の1本をどう選ぶか

段階移行では、最初に切り替える接続の選び方が全体の進みを左右します。
本記事としての考え方は、「業務が止まったときの影響が小さく、かつ後続の接続と同じ方式である接続」を先頭に置くことです。
影響が小さければ不具合が出ても立て直せますし、同じ方式であれば、そこで作った手順書とテスト項目を次の接続へそのまま使えます。

逆に、取引量が最も多い主要取引先を最初に持ってくると、学びは大きい代わりに失敗したときの損失も大きくなります。
期限が迫っていて選ぶ余地がないなら別ですが、順番を選べるうちは、小さく試して型を作るほうが結果的に早く進みます。

切替日そのものにも制約があります。
月末月初の締め処理、棚卸し、繁忙期を避けると、実際に切替に使える日は限られます。
拠点ごとに繁忙期がずれている業種なら、そのずれを利用して順番を組めます。

並行運用への移行:旧環境をいつ止めるか

新方式での受信を始めても、すぐに旧手順を止めない期間を設けるのが並行運用です。
同じ発注データを新旧の両方で受け取り、内容が一致するかを突き合わせます。
一致しない項目が出たら、変換定義か相手先の送信設定のどちらに原因があるかを切り分けます。

並行運用をどれだけ続けるかについて、業種横断の基準となる資料は今回確認できていません。
実務上の目安としては、月次処理まで含めて1周するだけの期間を見るという考え方があります。
日次の発注は毎日確認できても、月次の請求データは1か月に一度しか流れないためです。
この点は自社の業務サイクルに合わせて決める部分になります。

旧環境の停止は、並行運用が終わった時点ではなく、回線や機器の契約を解約した時点で不可逆になります。
この二つを分けて考えると、切り戻しの余地をどこまで残すかを自分たちで設計できます。

現状棚卸しから方式選定、検証、段階移行、並行運用へと進む流れ図
現状把握から本稼働までの進め方

拠点を一括移行するか順次移行するか、判断基準

判断を分けるのは、取引先の対応期限と方式のばらつき

一括か順次かは、自社の体制の都合で決まると思われがちですが、実際に効いてくるのは相手側の事情です。
取引先ごとに、いつまでに切り替えてほしいかの期限も、どの方式で接続するかの指定も違います。
期限と方式がほぼ揃っていれば、まとめて切り替えたほうが手戻りは少なくなります。
逆にばらついていれば、一括にしようとしても、結局は対応済みの相手と未対応の相手を同時に抱えることになり、新旧両方の運用が長く並びます。

つまり一括移行が成立するのは、全拠点・全取引先が同じ時期に同じ方式へ対応できるときに限られます。
この条件は、取引先が少数で、同じ業界のルールに沿って動いている場合には満たせます。
取引先の数が増えるほど、また業種がまたがるほど、この条件から外れていきます。

拠点数ではなく接続数で考えると答えが出やすい

「拠点が5つあるから順次にしよう」という決め方は、判断の材料としては弱いものです。
拠点が5つでも接続が全部で6本しかなく、方式も揃っているなら、一括で切り替えられる可能性があります。
拠点が2つでも接続が数十本あり、相手先ごとに方式が違うなら、順次にせざるを得ません。

判断の軸に置くのは、棚卸し表で数えた接続の本数と、そこに並ぶ方式・期限の種類数です。
方式の種類が1つか2つに収まり、期限も同じ四半期に固まっているなら一括寄り。
方式が3種類以上に分かれ、期限が年単位でばらけているなら順次寄り、という見方ができます。

期間の見積もりに使える手がかりと、その限界

順次移行を選んだとき、全体でどれくらいかかるのかは誰もが知りたいところです。
手がかりの一つが、先ほどのピップグループの事例で示された、事前調整から利用開始までおよそ1か月という数字です2
同じ事例では、2016年時点で取引先の10%強がIP網に対応した流通BMSやWeb-EDIなどへ移行済みだったとされています2
裏を返せば、移行を始める時点では未対応の相手先のほうが多かったということです。

ただしこれは卸事業を営む1社の個社事例であり、複数拠点を持つ企業の拠点間移行にかかる平均期間や体制負荷を示した統計ではありません。
接続を何本並行して進められるかは、自社の担当者数と相手先の応答速度で決まります。
そのため、1本あたりの調整期間に接続本数を単純に掛けた数字を全体期間として扱うと、過大にも過小にもなります。

現実的な見積もり方は、まず数本を実際に切り替えてみて、自社の場合の1本あたりの所要期間と同時並行できる本数を実測し、それを残りの本数に当てはめる方法です。
最初の数本を早めに着手する理由は、ここにもあります。

ここまでで、移行の単位は接続であること、手順は棚卸しから並行運用まで並ぶこと、一括か順次かは相手先のばらつきで決まることを見てきました。
ここからは、実際に選んだ方式ごとに何が起きるのか、通信方式の違いや切り戻しの設計をどう扱うのかを具体的に見ていきます。

一括か順次かは、拠点数ではなく接続ごとの方式と期限のばらつきで決まります。<br>そのばらつきは自社の棚卸し表を見ないと机上では判断できず、最初の一覧づくりでつまずく例が多いところです。

拠点と取引先の接続がどう並んでいるかを共有いただければ、一括と順次のどちらが現実的か、最初に着手する接続はどれかの当たりを付けるところまでご一緒に整理できます。無料相談で要件を整理する

多拠点移行で単一拠点と異なる論点

取引先との接続を1本ずつ切り替える前提に立ったとき、単一拠点の切替では発生しない調整が生じる箇所を並べています。

  • 切替の単位が拠点ではなく拠点と取引先を結ぶ接続になり、調整件数が拠点数より多くなりやすい
  • 取引先ごとに指定される通信方式が異なり、拠点単位で方式を統一できるとは限らない
  • 取引先ごとに切替の対応期限が違い、自社の都合だけで全体日程を引けない
  • 拠点ごとに受注の締め時間や基幹システムへの取り込み方法が違い、同じ手順書を流用できないことがある
  • 接続1本あたりに事前調整の期間が積み上がるため、接続本数が多いほど全体が長期化する2
  • 旧回線や旧手順をいつ止められるかは、外部のサービス提供終了時期にも左右される1

このうち日程に最も強く効くのは、取引先ごとの対応時期のばらつきです。

40代前半の日本人女性が手順の指導をしている場面
▽ 写真の出典元

移行方式ごとの進め方と、方式選定後に残る課題

移行方式 向いている状況 判断の基準 期間と影響範囲
一括移行(拠点・取引先を同時期に切り替える) 取引先数が少なく、各取引先の対応期限と通信方式がほぼ揃っている 全拠点・全取引先が同時期に同一の通信方式へ対応できることが前提。対応時期がばらつく場合は不向き 移行期間は短く収まるが、切替時の不具合が全拠点に同時に及ぶ
順次移行(拠点・取引先ごとに段階的に切り替える) 取引先ごとに対応方式や対応時期が異なる、または接続本数が多い 相手先と1件ずつ日程を合わせられる体制があること。新旧の併存を許容できること 完了までは長期化しやすいが、切替失敗時の影響範囲を限定できる

一括移行が成立する条件と、選んだ後に効いてくること

一括にできるのは、相手側の条件が揃っているときだけ

一括移行の利点ははっきりしています。
新旧の環境を並べて運用する期間が短くて済み、手順書もテスト項目も一式で足ります。
運用担当者が覚える手順も一度で済むので、拠点をまたいだ教育の負担も小さくなります。

ただしこの利点は、全拠点・全取引先が同じ時期に同じ方式へ対応できるという前提の上に成り立ちます。
一社でも切替時期が合わない取引先が残れば、その接続のために旧手順を維持することになり、一括にした意味が薄れます。
したがって一括を選ぶ前に確認すべきなのは自社の準備状況ではなく、棚卸し表に並んだ取引先の対応可否と希望時期です。

現実には、取引先が数社でかつ同じ業界ルールに沿っている場合に一括が成立しやすく、取引先が増えるほど条件は崩れていきます。
「一括でいけるか」を判断するには、まず全取引先に対応時期を確認する作業が要る、という順序になります。

一括を選んだときに備えておくこと

一括移行では、切替日に問題が出たときの影響が全拠点に同時に及びます。
受注データが取り込めなければ、その日の出荷が全拠点で止まる可能性があります。
そのため一括を選ぶ場合ほど、切替日の前に検証を厚くし、当日に判断する人と連絡経路を決めておく必要があります。

もう一つ、一括では拠点ごとの業務差が当日まで表に出ないことがあります。
本社で作った手順書を全拠点に配って同じ日に切り替えると、拠点独自の運用が手順書に書かれていないまま当日を迎えます。
切替日を一つにするとしても、事前のテストは拠点ごとに行い、拠点の担当者に手順書を読ませて差分を出してもらうほうが安全です。

順次移行の順番の決め方と、長期化への備え

優先順位は期限・影響・方式の重なりで決める

順次移行を選ぶと、次に悩むのは「どの拠点、どの取引先から着手するか」です。
本記事としての整理では、次の3つを順に見ていく決め方をおすすめします。

一つ目は期限です。
取引先から指定された切替期限が早いものは、自社の都合にかかわらず先に着手するしかありません。
二つ目は影響の大きさです。
取引量が多く、止まると出荷や請求に直結する接続は、余裕のある時期に十分な検証時間を取って切り替えます。
三つ目は方式の重なりです。
同じ通信方式・同じデータ形式の接続をまとめて進めると、一度作った設定やテスト項目を使い回せます。

この3つは同時に満たせないこともあります。
期限が早い接続がいちばん影響の大きい接続だった、という状況は珍しくありません。
その場合は期限を優先し、検証の期間を確保するために他の準備を前倒しする、という順序になります。

長期化を前提に、体制と記録を設計する

順次移行では、完了までの期間が長くなります。
接続1本あたりに事前調整から利用開始までの期間がかかり2、それが本数分積み重なるためです。
この期間中、新方式と旧方式の両方を運用し続けることになり、担当者の負担は移行前より一時的に増えます。

長期化に備えるうえで効くのは、記録の残し方です。
接続ごとに、いつ誰と何を合意し、どのテストを通したかを同じ形式で残しておくと、担当者が異動しても引き継げます。
数か月にわたる移行では、途中で担当が替わることを前提に考えたほうが現実的です。

もう一点、旧方式のまま残っている接続の一覧を、常に最新の状態で見られるようにしておくことです。
移行が進むほど「まだ切り替わっていないのはどこか」が分かりにくくなり、対応漏れはそこで起きます。
棚卸し表に切替状況の列を足して、そのまま進捗管理表として使うのが手軽です。

拠点・取引先ごとに異なる通信方式やデータ形式への対応

流通BMSが定める主な接続方式の違い

流通BMSは、流通業界の企業間取引で使われるメッセージとその通信方式を定めた標準です。
通信の部分は一つではなく、サーバー同士が直接つながるS-S手順と、クライアント側からサーバーへ接続しに行くC-S手順に大きく分かれます。
S-S手順ではAS2やebMSが、C-S手順ではJX手順が用いられます。

この区分を知っておくと、取引先から方式を指定されたときに、自社側で何を用意する必要があるかの見当が付きます。
サーバー同士が直接つながる方式では、自社側も常時接続の受け口を用意し、証明書の管理や到達確認の仕組みを持つことになります。
クライアントから接続しに行く方式では、自社側の負担は相対的に軽くなりますが、取りに行く時刻の設定や取り忘れの検知が運用の論点になります。

どの方式がどれくらい使われているかという普及率は、本記事では確認できた資料がないため示しません。
また、拠点間で方式を統一しなければならないという決まりがあるわけでもありません。
実際には、取引先が指定する方式に合わせる結果として複数方式が並ぶことがあり、その状態を前提に運用設計をする必要があります。

取引先ごとの対応状況をどう確認するか

取引先の対応状況は、こちらから聞かないと分からないのが実情です。
問い合わせるときに、こちらの方式を伝えるだけで終わらせず、次の内容を確認しておくと後の手戻りが減ります。
対応可能な通信方式、対応できる時期、テストに使える環境があるか、データ項目の仕様書があるか、切替後に旧手順を並行して残せるか。

このうち見落とされがちなのが最後の項目です。
相手先が旧手順を早期に停止する予定であれば、自社の並行運用の期間もそれに合わせて短くせざるを得ません。
並行運用の設計は自社だけで決められない部分がある、ということです。

なお、移行を始めた時点で取引先の多くが未対応であることは珍しくありません。
先の事例では、2016年時点で取引先の10%強がIP網に対応した方式へ移行済みとされています2
これは特定の1社の状況ですが、未対応の相手が多数残る前提で計画を立てるほうが、途中で計画を組み直す回数は減ります。

Two business professionals working on growth charts using la
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並行運用と切り戻しの設計で注意すること

切り戻しができる状態と、できなくなる時点を分けて考える

移行の計画を立てるとき、「うまくいかなかったら戻せるのか」は必ず論点になります。
戻せるかどうかは一つの条件では決まらず、いくつかの要素の組み合わせで決まります。
旧回線が契約されたまま残っているか、旧手順の機器やソフトが稼働できる状態にあるか、相手先が旧手順での送信を再開できるか。
この3つのうち一つでも欠けると、実質的に戻せません。

つまり切り戻しの余地は、技術的な設計というより、契約と相手先の都合で決まる部分が大きいということです。
新方式に切り替えた直後に旧回線を解約すると、そこから先は前に進むしかなくなります。
逆に旧回線を残しておけば費用は二重にかかりますが、判断の時間を買えます。

どちらを取るかは、移行する接続の重要度と、外部の期限までにどれだけ余裕があるかで変わります。
止まると出荷に直結する接続では、費用を払ってでも戻せる状態を一定期間保つ判断に合理性があります。

並行運用の中身を決めておく

並行運用は「両方動かしておく」だけでは意味が薄く、何を比べるかを決めて初めて機能します。
比べる対象は、受信した件数、金額の合計、明細の項目値、そして基幹システムへの取り込み結果です。
件数だけを見て一致していると判断すると、項目の中身がずれていても気づけません。

差分が出たときの扱い方も先に決めておきます。
新方式の値を正とするのか、旧方式を正とするのか。
移行期間中は旧方式を正として業務を回し、新方式は確認のためだけに使う、という進め方であれば、業務が止まるリスクを下げられます。

なお、並行運用の期間や比較項目について業界共通の基準を示した資料は、今回の調査では確認できていません。
ここで挙げた内容は、一般的な移行管理の考え方として本記事が整理したものです。
自社の業務サイクルと取引先の都合に合わせて調整してください。

検証、並行運用、新方式の単独運用、旧環境の停止という4段階と各段階の確認事項を示した図
並行運用から旧環境停止までの段階の置き方

ISDNサービス終了など外部要因が自社にいつ影響するか

公表されている節目をそのまま自社の期限にしない

レガシーな手順でEDIを続けている場合、移行の期限を外から決められることがあります。
NTT東日本は、INSネット64・INSネット64ライト・INSネット1500について、2024年をもって新規申込の受付を終了し1、2028年にサービス提供を終了する予定としています1
この2つの年は、自社で日程を調整できる性質のものではありません。

ただし、この発表が自社にそのまま当てはまるとは限りません。
対象はNTT東日本管内の該当サービスであり、拠点がNTT西日本管内にある場合や、契約しているサービスの種類が異なる場合には、確認すべき内容が変わります。
また、代替となる回線が必要かどうか、必要ならどの程度の準備期間がいるかは、拠点ごとの契約内容によって違います。
ここは記事側で一律に答えられない部分なので、拠点ごとに現在の契約を確認するところから始めてください。

多拠点で厄介なのは、この確認が拠点数だけ必要になることです。
回線の契約が拠点ごとに分かれている場合、契約書も請求先も窓口も別々になっていることがあります。
棚卸し表に回線の契約主体と契約種別の列を足しておくと、この確認を一度で済ませられます。

外部の期限から逆算して着手時期を決める

外部の期限が確認できたら、そこから逆算して着手時期を決めます。
逆算に必要なのは、接続1本あたりの調整期間と、同時に何本進められるかの2つです。
1本あたりの目安として、事前調整から利用開始までおよそ1か月という事例があります2が、これは個社の値であり、自社の実測に置き換えていくものです。

逆算した結果、期限までに全接続を終えられないと分かった場合の選択肢は限られます。
同時に進める本数を増やすために外部の支援を入れるか、優先順位を付けて期限に直結する接続から先に片付けるか。
どちらにせよ、逆算を早い段階でやっておくほど選べる手は多くなります。
期限の直前に気づくと、選択肢は最も費用のかかるものだけが残ります。

移行を進める上でよくある落とし穴

接続の数え漏れと、相手任せの進捗管理

多拠点の移行で実際に問題になりやすいのは、技術的な難しさよりも管理の抜けです。
代表的なのが、棚卸しで数え漏れた接続です。
月次だけ動く接続や、拠点が独自に契約した回線は、本社の一覧に載っていないことがあります。
これらは切替後しばらく経ってから、月次処理のタイミングで表面化します。

もう一つは、相手先に依頼した後の放置です。
「対応時期を確認します」と言われたまま返答が来ず、こちらも他の接続に追われて数か月が過ぎる。
順次移行では接続の本数が多いため、こうした宙に浮いた案件が積み上がります。
依頼した日と次に確認する日を記録しておくだけでも、取りこぼしはかなり減ります。

効果の見積もりと、拠点への説明でつまずくところ

移行の予算を通す段階で、効果をどう説明するかに悩む場面もあります。
ここで注意したいのは、他社や実証事業の効果をそのまま自社の見込みとして使わないことです。
中小企業共通EDIの実証事業では受発注業務時間が平均51.4%削減されたと報告されていますが3、これは選定された12件のプロジェクト3を対象にEDI導入全般の効果を測った結果です。
すでにEDIを運用している企業が通信方式を変える移行とは、前提が異なります。

自社の説明に使うのであれば、削減効果よりも、旧回線の維持ができなくなることと、取引先からの要請に応えられないことの二点を軸に据えるほうが実態に合います。
効果を語る場合も、実証事業の数値は参考として示し、自社の見込みは自社の業務量から積み上げるのが誠実です。

拠点への説明では、「なぜ今なのか」と「拠点側で何をするのか」を分けて伝えると通りやすくなります。
前者は外部の期限と取引先の要請で説明でき、後者は棚卸し表の該当行を見せれば具体的になります。
全拠点に同じ資料を配るより、拠点ごとに自分の接続だけを抜き出した表を渡すほうが、動いてもらいやすいはずです。

要点の整理

基準
移行方式の選択 取引先の対応方式と対応時期が揃うなら一括、ばらつくなら順次
切替の単位 拠点数ではなく、拠点と取引先を結ぶ接続の本数で数える
着手の順番 期限が早い接続、影響が大きい接続、方式が同じ接続の順に検討する
旧環境の停止 外部のサービス提供終了時期と、拠点ごとの契約確認の結果で決める
並行運用 件数だけでなく項目の中身まで突き合わせ、月次処理を一巡できる期間を見る

並行運用の長さや旧環境をいつ止めるかは、相手先の都合と自社の契約が絡むため、社内だけでは決め切れないまま先送りになりがちです。 現在の接続状況と外部の期限までの余裕を踏まえて、切り戻しの余地をどこまで残すか、どの接続から動かすと全体が早く終わるかを具体的な形にできます。

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よくある質問

既存のISDN回線を使ったEDIはいつまで使えるか

NTT東日本は、INSネット64・INSネット64ライト・INSネット1500について2024年に新規申込の受付を終了し1、2028年にサービス提供を終了する予定と公表しています1
ただしこれはNTT東日本管内の該当サービスについての発表です。
拠点の所在地や契約しているサービスの種類によって前提が変わるため、拠点ごとに現在の契約内容を確認したうえで、自社にとっての期限を確定させてください。

流通BMSに対応していれば拠点間の通信プロトコルを統一できるか

必ずしも統一できるとは限りません。
流通BMSが定める通信方式は一つではなく、サーバー同士がつながるS-S手順(AS2、ebMS)と、クライアントから接続に行くC-S手順(JX手順)に分かれています。
どの方式を使うかは取引先との取り決めで決まるため、複数の方式が並ぶことがあります。
統一を目指すなら、自社側で方式を選べる接続に絞って寄せていく、という進め方が現実的です。

拠点によって取引先の移行期限が異なる場合、優先順位はどう決めるか

期限、業務への影響、方式の重なりの順に見ていく決め方が扱いやすいです。
まず取引先から指定された期限が早い接続は選ぶ余地がないため先に着手します。
次に、止まると出荷や請求に直結する接続は、繁忙期を避けて検証時間を確保できる時期に置きます。
その上で、同じ通信方式・同じデータ形式の接続をまとめて進めると、設定やテスト項目を使い回せて全体が早く進みます。

移行後に旧回線・旧手順への切り戻しは可能か

設計次第です。
切り戻すには、旧回線の契約が残っていること、旧手順の機器やソフトが稼働できること、相手先が旧手順での送信を再開できることの3つが揃っている必要があり、一つでも欠けると実質的に戻せません。
特に回線を解約した時点で不可逆になるため、並行運用の終了と回線の解約は別の判断として分けて扱うことをおすすめします。
なお、どの程度の期間残すべきかを示す共通の基準は確認できていないため、接続の重要度と外部の期限までの余裕から自社で決める領域になります。

取引先が新しい方式に未対応の場合はどう進めるか

未対応の相手が残る前提で計画を組むのが現実的です。
ある卸事業者の事例では、2016年時点で取引先のうちIP網に対応した方式へ移行済みだったのは10%強とされています2
この場合、未対応の接続については旧手順を維持しながら、対応可能になった相手から順に切り替えることになります。
その際は、旧手順を維持できる期限を自社側で把握しておき、その期限が近づく接続については相手先へ早めに相談を持ちかける形になります。

◆監修・編集責任者

小園 将隆

株式会社フライトソリューションズ ECサービス部 マネージャー

BtoB通販のパッケージシステム「FSOL B2B Ⅱ」の導入支援をはじめ、製造業、卸売業をはじめとした法人向け通販サイト構築を多数手掛ける。卸売領域の専門知識をもとに、日本の商習慣に固有の課題をパッケージシステムの機能追加によって解決。BtoB流通の販路拡大を支援する。

  1. 1 出典:東日本電信電話株式会社(NTT東日本)「「INSネット」の新規申込受付終了及びサービス提供終了について」(2024年) 経路
  2. 2 出典:日経クロステック(xTECH)「ISDN移行のハードルは業界によって様々、EDIなどは早期対応が必要」(2016年) 経路
  3. 3 出典:中小企業庁「中小企業共通EDI(次世代企業間データ連携調査事業・ミラサポplus解説)」(2018年) 経路

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  1. Dynamic 3D abstract image with red and orange digital patter/Photo by Pachon in Motion on Pexels
  2. 40代前半の日本人女性が手順の指導をしている場面/画像:生成AI(自社)
  3. Two business professionals working on growth charts using la/Photo by Gustavo Fring on Pexels

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◆この記事について

独自調査以外の一次情報は、省庁・公的機関を中心とした信頼性の高い情報源から引用し、出典を明記しています。
年次更新される統計については、引用元の最新版を確認したうえで掲載しています。

※この記事は上記の監修・編集責任者がAIの協力を得て制作しています。

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