◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 取適法の対象取引では、電話だけの発注は明示義務違反になり、電話のあと直ちに明示事項を書面か電磁的方法で示す必要がある
- 対象外の取引でも、注文書がないと納期・数量・単価が食い違ったときに発注側が示せる根拠がなく、照合や再発注のたびに手戻りが生じる
- 必須か代替できるかは紙かメールかではなく、明示事項が揃い、直ちに送られ、記録に残るかで判断する
- 継続取引は基本契約に毎回同じ事項を網羅し、変わる項目を個別発注で示すと、メールやEDIでも明示を満たしやすい
- 注文書は取適法の2年と税法上の原則7年の長い方に合わせて保管し、メールでやり取りした分は電子取引として検索と改ざん防止に備えて保存する
目次

注文書なしの発注で、納期・数量・単価が食い違ったとき何が不利になるのか
電話で頼んだ数量と届いた数が合わない、メールで伝えたはずの単価が請求書と違う。
こうしたとき、発注した側に「こう頼んだ」と示せる記録がなければ、話し合いは記憶の突き合わせになってしまいます。
下請法を改正した取適法(2026年1月施行)の対象取引では、発注内容を書面または電磁的方法で直ちに明示する義務があり、電話だけの発注は明示義務違反になります2。
対象外の取引でも、根拠が残らないことの不利は変わりません。
紙かメールかではなく、明示事項が揃い、すぐに記録へ残る形かどうかで必須と代替を分け、最小限の項目・承認・保管から整えていくのが現実的です。
電話だけの発注は取適法で明示義務違反になる
取適法は、これまでの下請法を改正した法律で、2026年(令和8年)1月から施行されています5。
この法律で発注する側は「委託事業者」と呼ばれ、発注したときに必要な事項を記載した書面または電磁的記録を、直ちに受注側へ交付する義務を負います1。
第4条に定められていることから、以下ではこの義務を「4条明示」と呼びます。
電話での発注について、公正取引委員会のQ&Aは、電話で発注した場合も電話連絡のあと直ちに4条明示が必要であり、電話のみの発注は明示義務違反になると説明しています2。
急ぎの案件で電話を入れること自体が禁じられているわけではありません。
問題になるのは、電話で話がまとまったまま、その内容を書面やメールなどで受注側へ示さずに進めてしまうことです。
この点は、食い違いが起きた場面での立場を大きく変えます。
取適法の対象取引で納期・数量・単価の認識がずれたとき、発注側は「記録がないので主張しにくい」という以前に、守るべき手続きを欠いていた側に立つことになります。
相手の記憶違いを指摘したくても、まず自社が明示していなかったことが問われる構図です。
口頭で作らせて受領を拒むと受領拒否にもなる
Q&Aにはもう一つ、発注側が見落としやすい設問があります。
正式な発注であるにもかかわらず4条明示をしないまま口頭で作らせ、納品されたものの受け取りを拒むことは、明示義務違反に加えて受領拒否にも当たるという説明です2。
たとえば、取引先に電話で部品の製作を頼み、届いた品が想定していた仕様と違っていたとします。
発注側としては「頼んだ内容と違うから受け取れない」と考えるのが自然でしょう。
しかし、その「頼んだ内容」を示した書面やデータがなければ、仕様が違うという判断を支えるものがありません。
受け取らないという対応そのものが、別の違反として扱われる余地が生まれます。
つまり、注文書を出さない発注は、食い違いの場面で発注側が取れる対応の幅を狭めます。
違いを指摘して作り直しを求めるにも、受け取りを保留するにも、出発点として「何を頼んだか」が明示されていることが前提になるからです。
取適法の対象外の取引で弱くなる根拠
相手先の規模や取引の種類によっては、取適法の義務が及ばない取引もあります。
その場合、4条明示をしなかったこと自体を法律上の違反として問われることはありません。
ただ、食い違いが起きたときに困る中身は、対象取引とほとんど変わりません。
注文書がないことだけで、取引そのものが成り立たなくなるとは限りません。
困るのは、取引が成り立っていることを前提にしたうえで、その中身を発注側が示せないことです。
納期をいつにしたのか、何個頼んだのか、いくらで合意したのか。
電話の内容は担当者のメモか記憶にしか残らず、メールで頼んだ場合も、数量は本文に書いたが単価は以前の見積書を見てもらう前提だった、途中で「20個追加で」と電話で伝えた、といった形で、最新の合意が一か所にまとまっていないことがよくあります。
こうなると、仕入先が受注時に残した記録と、自社の担当者の記憶を比べるしかなくなります。
相手の記録に誤りがあっても、それを覆す材料が自社の手元にない状態です。
取適法の対象かどうかにかかわらず、発注内容を自社の側で残しておくことは、相手と対等に話し合うための材料を持つことでもあります。
なお、どの取引が取適法の対象になるかは、取引の種類と、発注側・受注側それぞれの資本金や従業員数の区分によって決まります。
区分の具体的な基準は、公正取引委員会と中小企業庁が公表している資料で確かめるのが確実です。
判定に迷う取引先がある場合は、ひとまず対象として扱い、明示事項を揃えて送る運用にしておくと、後から判定が変わっても手順を組み直さずに済みます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 電話だけで発注する
- 電話連絡のあと直ちに明示を送らない
- 内容が担当者のメモや記憶にしか残らない
- 明示義務違反になる
- 対象取引では電話のみの発注が違反
- 食い違いの場面で不利になる
- 「何を頼んだか」を示す書面やデータがない
- 口頭で作らせて受け取りを拒むと受領拒否にも当たる
注文書を出さないことで、照合・再発注・条件見直しにどんな手戻りが生じるのか
取引記録17項目と2年保存から見える照合の手間
食い違いは毎回起きるわけではありません。
注文書を出さない運用の負担がむしろ大きく表れるのは、何も揉めていない平常時の照合作業です。
取適法の委託事業者には、取引の内容や代金の額などを書類または電磁的記録で作成し、2年間保存する義務があります(第7条)1。
記録すべき事項は17項目に及び、給付を受け取った日、検査の結果、代金を変更した場合の内容と理由など、発注のあとに起きた事柄も含まれます1。
この記録は、発注した時点で決まっていたことと、その後に起きたことを一続きで残すためのものだといえます。
発注内容が一つの文書にまとまっていれば、そこへ受領日や検査結果を書き足していけば記録になります。
ところが、発注内容が電話のメモ、担当者ごとの受信箱、見積書の添付ファイルに散らばっていると、記録を作るたびに「何を頼んだか」を組み立て直す作業が先に必要になります。
月末の請求照合を例に考えてみます。
仕入先から請求書が届き、購買か経理の担当者が、この数量と単価で合っているかを確かめます。
発注番号の付いた注文書があれば、その番号で突き合わせれば済みます。
注文書がなければ、発注した担当者に聞き、担当者はメールを検索し、見つからなければ仕入先へ問い合わせることになります。
発注した担当者が休暇中や異動後であれば、照合はそこで止まります。
しかもこの手戻りは、一度で終わらず毎月の照合のたびに繰り返されます。
影響は照合だけにとどまりません。
前回と同じ条件で再発注したいとき、前回の単価や数量をすぐに引けなければ、改めて見積もりを依頼するか、記憶を頼りに発注するしかありません。
過去の発注条件が並べて見られない状態では、単価がいつ、どれだけ変わったかも追えず、取引条件を見直す話し合いの材料を自社で持てなくなります。
こうした機会損失は金額として表に出にくいものの、発注内容を記録に残しているかどうかで、確認に使う時間と交渉の材料の量が変わります。
支払期日・遅延利息の管理が曖昧になる場面
取適法では、支払期日は4条明示の記載事項の一つであり、給付を受け取った日を起点に定めることが求められています1。
そして、期日までに代金を支払わなかった場合には、年率14.6%の遅延利息が発生します1。
発注内容が曖昧だと、この支払管理の起点がぶれます。
分納や一部納品があった場合、どの納品がどの発注に対応するのかが分からなければ、受領日を特定するところで時間がかかります。
確認が終わるまで支払処理を保留したくなりますが、その確認の遅れは自社の内側の事情です。
保留しているうちに支払期日を過ぎれば、遅延利息の対象になり得ます。
発注のたびに明示事項を揃えた注文書を出していれば、受領日・検査結果・支払期日を同じ発注に結び付けて管理できます。
注文書は発注の時点だけの書類ではなく、受け取りから支払いまでを追うための起点になっている、というのがこの節で押さえておきたい点です。
▼ 図の内容を文字で読む
- 発注内容が散らばる
- 電話のメモや担当者ごとの受信箱に分かれる
- 受領日の特定に時間がかかる
- 分納や一部納品がどの発注に対応するか分からない
- 支払処理を保留する
- 確認の遅れは自社の内側の事情
- 支払期日を過ぎる
- 年率14.6%の遅延利息の対象になり得る
どの取引で注文書が必須で、どの取引ならメールや電子データで代替できるのか
書面でなく「直ちに・明示事項が揃う・記録に残る」で見る
ここまでの話から、注文書を出すべきだという結論は分かっても、すべての発注で紙の注文書を作るのは現実的ではない、と感じる方も多いはずです。
取適法の4条明示は、書面または電磁的記録で行うものとされています1。
紙の注文書だけが唯一の方法ではなく、メールやEDI(企業間で受発注のデータを決まった形式でやり取りする仕組み)で明示することも、方法としては認められています。
そのため、必須か代替できるかを分けるのは「紙かメールか」という形式ではありません。
見るべきは、明示事項が揃っているか、直ちに送られているか、後から見返せる記録に残るか、の三点です。
「直ちに」について、Q&Aは「すぐに」という意味だと説明しています2。
あわせて、契約の締結に日数がかかる場合は、契約書とは別に、発注したあと直ちに明示する必要があるとしています2。
紙の注文書でも、発注から何日も経ってから郵送するのでは「直ちに」とは言いにくく、逆にメールでも、数量しか書いていなければ明示事項が揃っていません。
形式の良し悪しではなく、この三点を満たしているかどうかで判断するのが実務的な見方です。
継続取引は基本契約の記載で足りる場合と足りない場合
同じ取引先から同じ品目を繰り返し仕入れる継続取引では、基本契約をどう使うかで発注ごとの手間が大きく変わります。
Q&Aでは、契約書に明示事項が網羅されていれば、個々の発注ごとに改めて明示する必要はないとされています2。
一方で、運送の委託を例に、個々の運送内容が毎回異なる場合には契約書だけでは足りないとも説明しています2。
この違いは、仕入れの現場に当てはめるとよく分かります。
決まった品目を決まった単価で、毎月同じ数量、同じ納入場所へ届けてもらう取引なら、明示事項をすべて基本契約に書き込むことができます。
しかし実際には、数量や納期が発注のたびに変わる取引の方が多いのではないでしょうか。
その場合、基本契約に書けるのは毎回同じ部分だけで、変わる部分は発注ごとに示さなければ明示事項が揃いません。
つまり基本契約は、注文書を不要にするものではなく、注文書に毎回書く項目を減らすものと考えると扱いやすくなります。
単価や支払条件など変わらないものは契約へ、数量・納期・納入場所など変わるものは個別の発注へ、と分担を決めておけば、個別の発注はメールやEDIの短い内容でも明示事項を満たせます。
EDIの記号・略称を使うときの事前明示
EDIや社内の発注システムでは、品目や納入場所をコードや略称で送ることがよくあります。
Q&Aは、こうした記号を使う場合でも、その意味をあらかじめ書面または電磁的方法で明示しておけば使えると説明しています2。
たとえば、品目を「A-102」、納入場所を「W2」といったコードで送っている場合、長く取引している相手なら意味は通じているつもりかもしれません。
しかし、コードの対応表を相手に渡していなければ、記号だけでは発注内容を特定できません。
新しく取引を始めるときにコード表を渡し、品目の追加や改訂があったときに送り直す、という手順を決めておくと、EDIでの発注が明示として機能する状態を保てます。
ここまでの判断を、発注の方法ごとに並べると次のようになります。
表で差が出るのは、方法そのものよりも「発注ごとに変わる項目をどこで示すか」と「いつ送るか」の列です。
紙でもメールでもEDIでも、変わる項目が抜ければ明示事項は揃いませんし、送るのが遅ければ直ちにとはいえません。
自社の発注をこの二つの列で見直すと、どの取引で注文書が必須になり、どの取引ならメールやEDIで足りるかの線引きが具体的になります。
| 方法 | 明示事項の揃え方 | 発注ごとに内容が変わるとき | 明示のタイミング |
|---|---|---|---|
| 紙の注文書 | 様式に明示事項の欄を設けて記載する | その都度記載する | 発注後すぐに渡す。郵送で日数がかかる運用は避ける |
| メール等の電磁的方法 | 本文やひな形に明示事項を揃える | その都度記載する | 電話で話した場合も直後に送る |
| EDI | 項目をデータで送る。記号の意味は事前に明示する | 変わる項目をデータに含める | 発注データの送信と同時 |
| 基本契約と個別発注 | 毎回同じ事項は契約に網羅する | 契約にない変動部分は個別発注で示す | 契約締結に日数がかかるなら発注後すぐに別途明示 |
▼ 図の内容を文字で読む
- 基本契約に書く事項
- 単価や支払条件など毎回変わらないもの
- 明示事項が網羅されていれば個別の明示は不要
- 個別の発注で示す事項
- 数量・納期・納入場所など発注ごとに変わるもの
- 抜ければ明示事項が揃わない
- 個別の発注の送り方
- メールやEDIの短い内容でも明示事項を満たせる
- 契約締結に日数がかかるなら発注後すぐに別途明示
注文書には最低限どの項目を載せ、誰が承認し、どう保管するのか
最小限の記載項目
方法の線引きができたら、次は注文書やメールに何を書くかです。
土台にしやすいのは、取適法が4条明示の記載事項として挙げている項目です1。
主なものは次のとおりです。
- 発注側・受注側の名称
- 委託した日(発注日)
- 給付の内容(品目・仕様・数量)
- 受領期日と受領場所(納期と納入場所)
- 検査完了期日
- 代金の額
- 支払期日
公正取引委員会のページではこれらに「等」が付いており、取引の内容によって必要な事項が加わります1。
自社の発注に当てはめる際は、この一覧を出発点にして、扱う取引に必要な事項が抜けていないかを原典の一覧と照らし合わせておくと安心です。
期日の書き方にも注意が要ります。
Q&Aは、予定の期日であっても具体的な日付で特定する必要があると説明しています2。
「来月上旬」「準備でき次第」といった書き方では、受領期日として特定されません。
取適法の対象外の取引でも、同じ項目を使った様式にそろえておくと、取引先ごとに様式を使い分ける手間がなくなります。
対象かどうかの判定が後から変わっても、注文書の中身を作り直さずに済む点も実務上の利点です。
単価・納期が未定のときの書き方
発注の現場では、単価が決まる前に製作や手配を始めてもらわなければならない場面があります。
Q&Aは、単価が決まっていない段階で発注する場合、仮単価または「0円」と記載したうえで、その旨、未定の理由、確定する予定の日を明示し、単価が決まったら直ちに補充して明示するよう求めています2。
たとえば、原材料の値上がりを受けて単価を交渉している最中に、納期の都合で先に製作を頼む場合です。
このとき注文書には、仮単価であること、原材料価格の改定交渉中であること、単価を確定させる予定日を書き添えます。
単価が決まったら、補充の明示を送り、最初の注文書と同じ発注番号に結び付けて保管しておくと、後の照合で「どの時点の単価で精算したか」をすぐにたどれます。
納期については、前の項で触れたとおり、予定であっても具体的な日付で特定することが求められています2。
未定のまま空欄にせず、その時点で見込む日付を書いておくことが基本になります。
承認の置き方(社内ルールとしての提案)
注文書を誰が承認するかは、取適法や税法で決められているものではなく、各社の社内ルールです。
ここで述べるのは、食い違いや手戻りを減らすための考え方の一例です。
承認を置く目的は、誰が、いつ、その条件で頼むと決めたのかを記録に残すことにあります。
この記録があれば、食い違いが起きたときに社内で誰に確かめればよいかがすぐに分かります。
具体的には、金額の大きさで承認者を分ける、単価や数量を発注後に変えたときは改めて承認を取る、仮単価を確定させたときにも承認を通す、といった置き方が考えられます。
一方で、承認を厚くしすぎると、承認待ちを避けるために電話で先に頼んでしまう、という逆の動きを招きかねません。
少額で定型の継続発注は、基本契約で決めた条件の範囲内であれば担当者の判断で出せるようにするなど、発注の速さと記録の確かさの釣り合いを取ることが大切です。
保存期間と電子取引データの保存
保管期間は、二つの制度を重ねて考える必要があります。
取適法では、取引の記録を2年間保存する義務があります1。
これとは別に、国税庁は注文書を保存対象の書類の例に挙げており、保存期間は原則として確定申告書の提出期限の翌日から7年、青色申告で欠損金が生じた事業年度などは10年としています3。
制度ごとに期間が違うため、実務では長い方の税法上の期間に合わせて保管しておけば、両方を満たす運用を一本で組めます。
メールで送ったり受け取ったりした注文書は、紙に印刷して保管すれば済むとは限りません。
国税庁の電子帳簿保存法の一問一答では、電子取引の取引情報を電磁的記録のまま保存することが同法の対象とされ、訂正や削除を防ぐための事務処理規程、検索機能、書面に出力した場合の扱いといった項目が設けられています4。
つまり、メールの注文書は、後から検索できる状態と、改ざんを防ぐ措置を備えて保存することが求められます。
受信箱や送信済みフォルダに残しておくだけで足りるかどうかは、一問一答の個別の回答で要件を確かめてから判断するのが確実です。
| 観点 | 取適法の取引記録 | 法人税法上の帳簿書類 |
|---|---|---|
| 保存するもの | 取引の内容や代金の額など17項目の記録 | 注文書を含む帳簿書類 |
| 保存期間 | 2年間 | 原則7年。欠損金が生じた事業年度などは10年 |
| 電子でやり取りした場合 | 書類または電磁的記録で作成・保存 | 電子取引として電子帳簿保存法の保存対象 |
| 運用の目安 | 長い方の期間にそろえて一本で保管する | 長い方の期間にそろえて一本で保管する |
▼ 図の内容を文字で読む
- 仮単価または0円で発注する
- 注文書に仮単価であることを書く
- 未定の旨と理由を明示する
- 未定の理由
- 単価を確定させる予定日
- 決まったら直ちに補充して明示する
- 確定した単価を改めて相手へ示す
- 同じ発注番号に結び付けて保管する
- どの時点の単価で精算したかを後でたどれる
口頭・メール発注から注文書運用へ、負担を抑えてどの順で切り替えるのか
取適法対象の取引から先に直す
項目・承認・保管の形が決まっても、今ある発注をすべて一度に切り替えるのは負担が大きく、現場の発注そのものが止まりかねません。
手を付ける順番として勧めたいのは、取適法の対象になる取引からです。
理由は、前半で見たとおり、対象取引では明示しないこと自体が発注側の義務違反になるからです。
対象外の取引で記録が残らないのは実務上のリスクですが、対象取引では法令上の問題に直結します。
まず取引先の一覧に、取適法の対象かどうかの判定欄を設け、対象になる取引先への発注から明示事項を揃えた形に移していくと、優先順位をめぐって社内で迷う時間が減ります。
対象外の取引は、取引額の大きさや食い違いの起きやすさといった社内のリスク判断で順番を決めて構いません。
継続取引・スポット・緊急発注の3つに分けて進める
対象取引の中でも、発注の性格によって直し方が違います。
発注を次の3つに分けると、それぞれに合った手当てを並行して進められます。
- 継続取引:基本契約を見直し、毎回同じ事項は契約へ書き込みます。
発注ごとに変わる数量・納期・納入場所は、メールやEDIの個別発注で必ず示します。
EDIでコードを使っている場合は、コード表を相手に渡してあるかもこの機会に見直します。 - スポット取引:明示事項の欄を固定したひな形のメールか注文書様式を用意します。
欄が空いたままでは送れない形にしておくと、記載漏れを送る前に気づけます。 - 緊急の電話発注:電話のあと直ちに明示を送ることを手順として決めます。
Q&Aが示すとおり、緊急であっても電話連絡後すぐの明示が必要です2。
電話中に書き取るメモの欄をひな形と同じ並びにしておけば、電話が終わったあとの転記が少なくて済みます。
この分け方の利点は、どの区分でも「明示事項を揃えて、すぐ送り、記録に残す」という同じ考え方を使いながら、手間のかかり方に合わせて道具を変えられることです。
継続取引は契約の見直しに時間がかかりますが、一度整えれば個別の発注は軽くなります。
スポットと緊急の発注は、ひな形と手順を決めるだけで今日からでも始められます。
切り替えが進んだかの確かめ方
切り替えを始めたら、うまく回っているかを数で見ておくと、次に直す場所が分かります。
記録しておきたいのは、電話で発注したあと明示が送られていなかった件数、納期・数量・単価それぞれの食い違いの件数、請求照合のときに発注した担当者へ問い合わせた件数の三つです。
月ごとに区分と取引先で分けて記録すれば、どこに抜けが残っているかが見えてきます。
件数が減らない区分があれば、原因を分けて考えます。
ひな形の項目が足りないのか、基本契約の記載が実際の取引と合っていないのか、決めた手順が忙しい時期に守られていないのか。
原因によって、直すものがひな形なのか、契約なのか、手順なのかが変わります。
直したあとも同じ記録を続け、次の月に件数がどう動いたかを見る、という繰り返しで運用を整えていきます。

こうした記録は、運用が改善したことを保証するものではありません。
ただ、照合のたびに担当者へ問い合わせる回数や、電話のあとに明示を送り忘れる回数が見えるようになれば、どの転記や確認が減り、どこにまだ手間が残っているのかを社内で共有できます。
注文書を出す運用は、書類を増やすことが目的ではなく、発注した内容を後から誰でもたどれる状態を作ることだと捉えると、切り替えの優先順位も判断しやすくなります。
取適法の対象かどうかや、基本契約と個別発注のどちらに何を書くかは、取引先ごとの条件で変わり、社内だけでは線引きしにくいことがあります。
電話・メール・EDIといった今の発注経路ごとに、明示事項がどこで抜けやすいか、受発注の流れをどこから整えるかを一緒に整理できます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 取適法の対象取引 | 電話・口頭だけの発注は明示義務違反。電話のあとすぐに明示事項を書面か電磁的方法で示す |
| 方法の選び方 | 紙かメールかではなく、明示事項が揃い、直ちに送られ、記録に残るか |
| 継続取引 | 基本契約に明示事項が網羅されていれば個別の明示は不要。毎回変わる項目は発注ごとに示す |
| EDIの記号 | コードや略称の意味を事前に相手へ明示しておく |
| 単価未定 | 仮単価または0円と、未定の理由・確定予定日を明示し、決定後すぐに補充する |
| 保存 | 取適法の記録は2年、税法上は原則7年(10年の場合あり)。長い方に合わせる |
| 電子の注文書 | 電子取引として電子帳簿保存法の対象。検索できる状態と改ざん防止の措置を備える |

切り替えを始めたあとも、明示漏れや照合の手戻りが残る区分は、ひな形・契約・手順のどこに原因があるかを見極める必要があります。 記録した件数をもとに、発注内容の残し方と請求照合までの流れのどこを直せば確認の手間が減るかを確かめられます。
よくある質問
メールで発注した場合も注文書を出したことになりますか
取適法の4条明示は、書面だけでなく電磁的記録でも行えるとされています1。
メールで明示事項が揃い、発注後すぐに送られていれば、明示の方法として扱える形の一つです。
ただし、数量だけを書いて単価や納期を省いたメールでは明示事項が揃いません。
電磁的方法を使う際の細かな手続きは、公正取引委員会の資料で確かめておくと確実です。
緊急で電話発注した場合、あとから何をすればよいですか
電話連絡のあと直ちに、明示事項を記載した書面か電磁的記録を相手に送ります2。
取適法の対象取引で電話のみのまま済ませると、明示義務違反になります2。
電話中のメモをひな形と同じ並びで取っておくと、送るまでの転記が少なく済みます。
基本契約がある継続取引でも、発注のたびに注文書は必要ですか
契約書に明示事項がすべて網羅されていれば、個々の発注ごとに改めて明示する必要はないとされています2。
一方、発注ごとに内容が異なる場合は、契約書だけでは足りません2。
数量・納期・納入場所など毎回変わる項目は、メールやEDIなどで発注のたびに示すことになります。
単価がまだ決まらない段階で発注するときはどう書きますか
仮単価または「0円」と記載し、その旨、単価が未定である理由、確定する予定の日を明示します2。
単価が決まったら、直ちに補充して明示します2。
最初の注文書と補充の明示を同じ発注番号に結び付けて保管すると、精算時の照合がしやすくなります。
注文書の保存は何年で、メールで送った場合はどう保管しますか
取適法の取引記録は2年間の保存義務があり1、税法上は注文書を含む書類を原則として確定申告書の提出期限の翌日から7年、欠損金が生じた事業年度などは10年保存します3。
長い方に合わせて保管すれば両方を満たせます。
メールでやり取りした注文書は電子取引として電子帳簿保存法の保存対象で、検索できる状態や改ざんを防ぐ措置が求められます4。
具体的な要件は国税庁の一問一答で確かめてください。
自社が取適法の対象かどうかはどう確かめますか
取適法の対象かどうかは、取引の種類と、発注側・受注側それぞれの資本金や従業員数の区分によって決まります。
区分の具体的な基準は、公正取引委員会と中小企業庁が公表している資料で確かめるのが確実です。
取引先ごとに判定し、迷う場合は対象として扱い明示事項を揃えておくと、後から判定が変わっても運用を作り直さずに済みます。
- 1 出典:公正取引委員会「委託事業者の義務(取適法)」(2026年)
- 2 出典:公正取引委員会「よくある質問コーナー(取適法)」(2026年)
- 3 出典:国税庁「タックスアンサー No.5930 帳簿書類等の保存期間」(現行制度)
- 4 出典:国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」(令和6年6月版を含む)
- 5 出典:公正取引委員会「取適法トップページ」(2026年)
画像の出典元
- Two professionals collaborating on business plans using a laptop and paper documents./Photo by Gustavo Fring on Pexels
- Close-up of hands writing in a notebook with a pen on a rustic wooden table./Photo by Artem Podrez on Pexels