◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 賠償の根拠は納品書の書き損じではなく、約束どおりに引き渡さなかったことや契約不適合であり、納品書は何をいつ渡したかの記録として働く。
- 商人間の売買では、買主に受領後の検査と直ちの通知が求められるため、受領日と数量の記録が、通知の遅れを話し合う材料になる。
- 消費者相手では、賠償責任を全部免除する条項などは無効になる。事業者間の限定条項は、契約書ごとに確かめる必要がある。
- 取適法の記録・保存義務は委託事業者にあり、受託側は受領日・品目・数量を相手の記録と合わせておくと行き違いを減らせる。
- 控えの保存期間は、税務(法人7年、欠損金ありは10年)と時効(5年・10年)で目的が別なので、目的別に決めて長い方にそろえる。
目次

納品書の記載ミスだけで賠償を請求されるのか:納品書の役割と賠償の根拠を切り分ける
納品後に「数が足りない」「頼んだ品目と違う」と言われることがあります。
そんなとき、納品書の書き方の落ち度で賠償を求められるのではと不安になるかもしれません。
民法の条文に照らすと、賠償の根拠になるのは納品書の書き損じではありません。
約束どおりに引き渡さなかったことや、契約に合わない物を渡したことが根拠になります2。
納品書は、いつ何をどれだけ渡したかを示す記録として働きます。
事業者間の売買では、買主に受領後の検査と速やかな通知が求められます3。
そのため、受領日と数量を残しておくことが、自社の立場を守る大きな手掛かりになります。
納品書の不備が賠償につながる場面
納品書の不備と一口に言っても、中身はいくつかに分かれます。
品目名や数量の書き間違い、納品日の記入漏れ、取引先への渡し忘れ、受領印のもらい損ねといったものです。
賠償の話に発展しやすいかどうかは、書類の誤りが実際に渡した物の誤りと重なっているかで大きく変わります。
仮に、注文どおりの数を倉庫から出荷したのに、納品書には注文より少ない数を書いてしまったとします。
物は約束どおり届いているので、取引先に生じる不都合は、検収の照合が合わず手間がかかる、といったものにとどまるのが通常です。
反対に、納品書には注文どおりの数を正しく書いたのに、実際には箱の中身が足りなかった場合はどうでしょうか。
書類は正確でも、約束した数を渡していないという問題が残ります。
前者は書類の問題、後者は納品の問題です。
取引先から「足りない」と言われたとき、まず切り分けたいのは、この二つのどちらに当たるかです。
その出発点として、納品書の控えと出荷の記録を突き合わせます。
書類の数字だけを見て謝罪や値引きの話に進む前に、実際に何が出ていったかを確かめる順番が大切です。
渡し忘れや受領印の取り漏れも、同じ見方で整理できます。
それ自体で物が欠けるわけではありませんが、後で「届いていない」と言われたときに、渡したことを示す手段が一つ減ります。
こうした不備は、賠償の原因というより、争いになったときに自社の説明を弱める要因として効いてきます。
賠償の本体は納品・契約の側にある
民法415条は、債務の本旨に従った履行をしないとき、または履行が不能のときに、債権者が損害の賠償を請求できると定めています2。
「債務の本旨に従った履行」とは、約束した内容どおりに物やサービスを提供することです。
賠償の根拠として条文が挙げているのはこの履行の不備で、書類の記載の誤りそのものではありません。
同じ条文には例外もあります。
契約その他の債務の発生原因と取引上の社会通念に照らして、債務者に責めに帰すべき事由がない場合は除く、というものです2。
履行に不備があれば常に賠償になるわけではなく、その不備が誰の落ち度によるものかも問われます。
ここから整理すると、納品書の誤りが賠償の問題になるのは、それが実際の過少納品や誤納品と結び付いている場合だと考えられます。
書き損じだけで物が約束どおりに届いているなら、まずは訂正した納品書を出し直して照合をそろえる話になります。
ただし、取引先との契約で納品書の交付や記載内容が取り決められている場合は、その取り決めを守ったかどうかが別に問われます。
取引基本契約書や注文書に、納品書や受領書の取り交わし方が書かれていないかは、一度見ておく価値があります。
▼ 図の内容を文字で読む
- 取引先から食い違いの連絡を受ける
- 納品書の控えと出荷記録を突き合わせる
- 書類だけの誤り→訂正した納品書で照合をそろえる
- 実際の過不足・誤納品→履行の不備として賠償の根拠になりうる(民法415条)
賠償を求められる根拠は何か:債務不履行・契約不適合と、賠償される範囲
債務不履行と契約不適合の請求の形
前の節で切り分けた「実際の納品の誤り」には、届いた物の種類・品質・数量が契約と合っていない場合が含まれます。
民法では、これを契約不適合と呼びます。
売主が契約の内容に適合しない物を引き渡した場合の扱いは、民法562条以下にまとめられています2。
契約不適合があった場合に買主が求められることは、次の4つの形に整理されます2。
<ul><li>追完:足りない分を届ける、正しい品に取り替えるなど、契約どおりの状態にすること</li><li>代金減額:代金を減らすこと</li><li>損害賠償:不適合によって生じた損害を金銭で埋めること</li><li>解除:契約関係を解消すること</li></ul>
売り手の側から見ると、賠償はこの4つのうちの1つにすぎません。
数量不足なら、足りない分を届ける追完で収まるのか、不足のせいで取引先に別の損害が出ているのかによって、話の重さが大きく変わります。
取引先から連絡を受けたら、相手が何を求めているのかを聞き取り、追完で足りる話なのかを最初に確かめると、その後のやり取りが整理しやすくなります。
この整理は、物を引き渡す売買を前提にしています。
制作物の納品や役務の提供は、契約の種類によって条文の組み立てが異なるため、同じ当てはめがそのまま使えるとは限りません。
制作やサービスについて納品書を出している場合は、契約書でどのような契約として扱われているかを先に見ておく必要があります。
通常損害と特別損害
賠償を求められた場合に、どこまでの損害が対象になるかを決めるのが民法416条です。
損害賠償は、債務不履行によって通常生ずべき損害を原則とします。
特別の事情によって生じた損害は、当事者がその事情を予見すべきであったときに限って請求できるとされています2。
例で考えてみます。
取引先が、届いた部品を使って自社製品を組み立てる予定だったとします。
部品が足りず、追加で取り寄せる費用がかかったという損害は、部品の不足から通常生じうるものと考えやすいでしょう。
一方、組み立てが遅れて取引先がさらに先の顧客との契約を失った、という損害はどうでしょうか。
この場合は、売り手がその事情を予見すべきだったかどうかが争点になります。
取引の書類にどんな事情が書かれていたかは、売り手がその事情を予見すべきだったかを考えるときの材料の一つになりえます。
これは条文の要件から導いた整理です。
書類の記載だけで予見の有無が決まるという意味ではありません。
実務に引き直すと、納期の遅れや数量の不足が取引先の生産や販売に直結すると分かっている取引では、受注の段階で約束を守れるかを確かめておくことが大切になります。
無理な納期や数量を引き受けないことが、賠償の範囲が広がる場面そのものを減らす方向に働きます。
食い違いが起きたとき納品書は何の証拠になるか:検査・通知の期限と争いの進み方
商人間の売買の検査・通知
ここまでの請求には前提があります。
取引先がいつまでに不適合を知らせてきたか、という点です。
事業者同士の取引では、この期限が納品書を出す側にとって大きな意味を持ちます。
商法526条は、商人間の売買について定めています。
買主は目的物を受領したら遅滞なく検査し、種類・品質・数量の不適合を見つけたら直ちに売主へ通知しなければなりません3。
通知をしなかった買主は、その不適合を理由とする追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・解除ができなくなります3。
すぐには発見できない不適合もあります。
その場合は、受領から6か月以内に発見して通知すれば足りるとされています3。
ただし、売主が不適合を知っていた場合は、こうした期限の制限は働きません3。
売り手から見ると、この規定は、受領から時間が経った後の申し出に対して、通知が遅れていないかを問える根拠になります。
その一方で、この根拠を使うには、いつ受領されたかを示せることが前提です。
受領してしばらく経ってから「実は足りなかった」と言われた場合、受領日がはっきりしていれば、通知が遅れていないかを話し合いの材料にできます。
なお、取引基本契約書で検査の期間や通知の期限を別に定めている場合は、その定めが優先する可能性があります。
商法の期限だけを前提に話を進めず、検収条項の書き方もあわせて見ておく必要があります。
民法566条との違い
相手が消費者の場合や、商人間の売買に当たらない場合は、商法526条は使えません。
このときの基本は民法566条です。
種類・品質の不適合について、買主が不適合を知った時から1年以内に売主へ通知しないと、追完・代金減額・損害賠償・解除ができなくなるとされています2。
ただし、引渡しの時に売主が不適合を知っていた場合や、重大な過失で知らなかった場合は例外です2。
両者を並べると、違いは起点と長さにあります。
商法526条は「受領」を起点に、遅滞なく検査し直ちに通知することを求めます。
これに対し、民法566条は買主が「知った時」から1年です。
民法の側は、いつ知ったかが基準になるため、受領日だけでは期限を区切れません。
もう一つの違いは、対象となる不適合の種類です。
民法566条は種類・品質の不適合についての規定で、数量の不足は条文の対象に挙がっていません2。
消費者向けの販売で数量の食い違いを言われた場合、この1年の通知期間が当てはまるとは限りません。
契約や利用規約の定めとあわせて考える必要があります。
納品書と受領記録でできること
通知期限の話を踏まえると、納品書と受領の記録が何の役に立つかがはっきりします。
商人間の取引で食い違いを言われたとき、売り手が確かめたいのは次の3点です。
「いつ受領されたか」「そのとき何がいくつ渡ったか」「通知はいつ来たか」。
納品日・品目・数量が書かれた納品書の控えと、受領印や受領メールなどの受領確認がそろっていれば、前の2点は自社の記録から示せます。
たとえば、受領から相当の日数が過ぎた後に、数量が足りなかったと連絡が来たとします。
受領日と、そのときの数量の記録があれば、検査・通知が遅れていないかを取引先と話し合う材料になります。
逆に、受領日が分からなければ、遅れているかどうかの議論そのものが始められません。
ただし、納品書の控えがあれば裁判で必ず勝てる、というものではありません。
納品書が争いの中でどの程度の重みで扱われるかは、個々の事情や他の証拠によって変わります。
ここで言えるのは、納品書と受領記録が、何をいつ渡したかを示し、争点を整理するのに役立つ記録だということまでです。
3点のうち最後の「通知はいつ来たか」は、取引先から届くものです。
届いた日を自社の側でも残しておきます。
電話で受けた連絡は日時と内容をメモに残し、確認のメールを返しておくと、後で通知の日付について認識がずれることを防げます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 商法526条(商人間):受領→遅滞なく検査→不適合は直ちに通知
- 商法526条:直ちに発見できない不適合は受領から6か月以内に発見・通知
- 民法566条:種類・品質の不適合を知った時から1年以内に通知
- 例外:売主が不適合を知っていた場合(民法566条は重大な過失で知らなかった場合も含む)
出典:商法526条・民法566条(e-Gov法令検索、2026年確認)
責任はどこまで限定できるか:契約書の免責条項、消費者相手の制限、時効
消費者契約法8条の無効類型
賠償のリスクに備える方法として、契約書や利用規約に責任を限定する条項を入れることを考える方もいるでしょう。
この点は、取引の相手が消費者か事業者かで答えが分かれます。
消費者との契約では、消費者契約法8条が一定の条項を無効としています。
たとえば、事業者の債務不履行による損害賠償責任の全部を免除する条項や、事業者の故意または重大な過失による場合に責任の一部を免除する条項です4。
「いかなる場合も一切責任を負いません」という書き方は、消費者相手では効力を持たないと考えておくべきです。
同じ条の2項には例外もあります。
契約不適合の場面で、事業者が追完や代金減額の責任を負うことにしている場合などは、無効の対象から外れる形になっています4。
消費者向けでは、責任を一律に免れる書き方は通りません。
その一方で、交換などの追完や代金の減額で対応する責任を示した場合には例外が置かれています。
まずは、この構造を押さえておけば足ります。
事業者間の限定条項で確認すること
消費者契約法は、事業者と消費者の契約を対象とする法律です。
事業者間の契約には適用されません4。
では、事業者間なら自由に責任を限定できるかというと、そう言い切れる根拠はありません。
事業者間の限定条項がどこまで有効かは、条項の書き方や取引の事情によって判断が分かれうるためです。
実務で見ておきたいのは、取引先と交わした取引基本契約書や個別の注文書に、次のような定めがあるかどうかです。
<ul><li>賠償の上限額や、対象を通常の損害に限る定め</li><li>検査の期間や、不適合を通知する期限の定め</li><li>納品書・受領書の取り交わし方の定め</li></ul>
これらの定めは、前の節で見た商法526条の期限や民法416条の範囲と組み合わさって、実際に負う責任の大きさを決めます。
自社に不利な定めになっていないか、故意や重大な過失の場合まで責任を免れる書き方になっていないかは、個別の判断が要るところです。
契約の締結や更新の機会に、弁護士などの専門家に見てもらうのが確実です。
請求できる期間
賠償を請求できる期間には、通知期限とは別に、時効による終わりもあります。
民法166条は、債権は、権利を行使できることを知った時から5年間、または権利を行使できる時から10年間行使しないと、時効によって消滅すると定めています2。
通知期限と時効は、役割が違います。
通知期限は、不適合を期限内に知らせたかどうかの問題です。
時効は、請求できる権利そのものがいつまで続くかの問題です。
売り手にとって時効の期間は、記録を残しておく期間の目安になります。
取引先から請求を受ける可能性が残る間は、納品の事実を示す控えを手元に置いておく理由があります。
最長で10年という期間は、後で見る国税の保存期間とは目的が別です。
両者を混同せずに考えます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 取引の相手は消費者か事業者か
- 消費者→消費者契約法8条:全部免除や故意・重過失の一部免除は無効、追完・代金減額の責任を負う場合などは例外
- 事業者→取引基本契約書・注文書の賠償上限、検査期間、通知期限の定めを確認
- どちらも:知った時から5年・行使できる時から10年で時効
取引先が下請法(取適法)の対象なら何が変わるか:記録義務は誰にあるか
委託事業者の記録義務
取引先から製造や加工などを委託されて納品している場合は、中小受託取引適正化法(取適法)の対象になる取引かどうかも関わってきます。
取適法は、これまでの下請法に代わる法律で、2026年1月に施行されました5。
対象になるかどうかは、取引の内容と、発注側・受注側の資本金や従業員数の基準で決まります。
ここで押さえておきたいのは、取適法の書類作成・保存の義務を負うのは発注する側だという点です。
法律の言葉では、発注側を委託事業者と呼びます。
委託事業者は、委託の内容や代金の額などを記載した書類または電磁的記録を作成し、2年間保存します5。
給付の検査をした場合は、検査を完了した日、検査の結果、不合格品の取扱いも記録することになっています5。
納品書を出す受注側に、同じ記録の義務が課されているわけではありません。
受注側にとってもう一つ大事なのが、支払期日のルールです。
委託事業者は、物品等を受領した日から起算して60日以内で、できる限り短い期間内に支払期日を定めなければなりません5。
このルールは、検査をするかどうかに関係なく適用されます5。
支払期日までに支払わなかった場合は、年率14.6%の遅延利息がかかります5。
支払期日の起点が「受領した日」だという点は、納品書を出す側にとって見逃せません。
受領日がいつかによって支払期日が決まり、支払が遅れているかどうかも決まるからです。
受託側が合わせておく項目
受注側に記録の義務はなくても、発注側の記録と自社の記録が食い違っていると困るのは受注側です。
たとえば、自社の納品書では月末に納めた記録になっているのに、発注側の記録では翌月の受領になっていたとします。
この場合、支払期日の起点がずれます。
検査で不合格とされた品の扱いについても、自社の側に何も残っていなければ、相手の記録に沿って話が進みがちです。
そこで、取適法の対象になる取引では、次の項目を発注側の記録と合わせておくことを勧めます。
<ul><li>納品日と受領日(同じ日として扱うか、別の日として扱うか)</li><li>品目と数量(発注書の記載と同じ表記になっているか)</li><li>検査の結果と不合格品の扱い(発注側から結果の連絡を受けているか)</li></ul>
これは法律上の義務ではありません。
受注側が、支払の遅れや検査結果をめぐる行き違いを減らすための運用上の工夫です。
発注側が受領日をどう記録しているかを一度聞いておくと、自社の納品書の日付の書き方を合わせやすくなります。
自社が受注側か発注側かは、取引ごとに変わることもあります。
自社が別の会社に加工を頼んでいる取引があれば、その取引では自社が委託事業者として記録・保存の義務を負う可能性があります。
立場は取引ごとに確かめておく必要があります。
▼ 図の内容を文字で読む
- 受託側:納品書(納品日・品目・数量)を添えて納品
- 委託事業者:受領日と、検査をした場合は検査完了日・結果・不合格品の取扱いを記録(2年間保存)
- 委託事業者:受領日から60日以内で支払期日を定める
- 支払期日までに支払わない場合は年率14.6%の遅延利息
出典:公正取引委員会「委託事業者の義務(中小受託取引適正化法)」(2026年確認、2026年1月施行)
納品書の運用をどの順に整えるか:記載項目・受領確認・控えの保存・電子化
記載項目
ここまでの話を発行側の作業に戻すと、争いになりやすいのは三つの場面です。
一つ目は、取引先の通知が期限内かどうかをめぐる行き違いです。
二つ目は、取適法の対象取引での受領日や検査結果の食い違いです。
三つ目は、納品した内容と請求した内容のずれです。
どれも「何をいつどれだけ渡したか」という記録で答える問題なので、整える順番も、その記録が生まれる順に沿って考えると分かりやすくなります。
最初は、納品書の記載項目です。
少なくとも納品日・品目・数量が、取引先の注文書や契約と照合できる形で書かれているかを見ます。
品目名が社内の略称になっていて注文書の表記と違う、分納なのにどの注文の何回目か分からない、といった書き方は要注意です。
後で突き合わせるときに、手間と解釈の余地を生みます。
書き方を見直したら、実際に照合できるかを試してみるのが近道です。
ある月の請求書を一枚選び、請求した金額の内訳と、その月の納品書の数量を突き合わせて、差が出ないかを確かめます。
差が出たら、その原因が書き損じなのか、分納や返品の記録漏れなのかをたどります。
そうすると、記載項目のどこを直せばよいかが見えてきます。
受領確認
次は受領確認です。
受領印、署名、受領メール、配送の記録など、取引先が受け取ったことを示す記録を残します。
商人間の取引では、受領日が通知期限の起点になります。
取適法の対象取引では、支払期日の起点にもなります。
受領日が追える状態にしておくことの意味は大きいといえます。
どの方法で受領を確認するのがよいかは、取引先の受け取り方によって変わります。
紙の受領印を取りにくい取引先なら、受領のメールを返してもらう方法があります。
配送業者の配達記録を納品書の控えとひも付ける方法もあります。
いずれにしても、受領日が後からたどれる方法を選びます。
民法には、支払などの弁済をする人が、引き換えに受取証書の交付を求められるという規定があります(486条)2。
これは支払をした側が受け取る証明の話で、納品の受領印をもらう根拠とは別の規定です。
取引先に受領確認をお願いするときの理由づけには使えません。
確かめ方としては、過去に食い違いが起きた月、あるいは任意の月の取引を抜き出します。
そのうえで、すべての納品について受領日が追えるかを見ます。
受領日を追えない取引が目立つ取引先や配送経路があれば、そこから受領確認の方法を変えていきます。
控えの保存期間
三つ目は控えの保存です。
国税庁は、法人が帳簿と、取引に関して作成・受領した書類を、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存するよう案内しています1。
青色申告で欠損金が生じた事業年度などは10年間です1。
国税庁の案内に挙がっている書類の例は、棚卸表、貸借対照表、損益計算書、注文書、契約書、領収書などです。
納品書は例示の中に名前がありません1。
ただし例示は「など」とされているので、例にないから保存しなくてよい、とは読めません。
取引に関して作成した書類であることに変わりはないため、注文書や契約書と同じ取引書類として扱い、同じ期間保存しておくのが安全です。
気をつけたいのは、この期間が税務のための保存期間だという点です。
賠償をめぐる争いに備える期間の目安は、前に見た時効です。
知った時から5年、行使できる時から10年で、起算点も税務の期間とは違います2。
取適法で発注側が記録を保存する期間は2年です5。
ただし、これは発注側の義務で、受注側の控えの保存期間を決めるものではありません。
目的ごとに期間を決めたうえで、実際の運用では長い方にそろえておくと扱いやすくなります。
どの目的で見返すことになっても、控えが残っている状態を作れるからです。
なお、ここで挙げた国税の保存期間は法人の場合です。
個人事業者は扱いが異なる点に注意が要ります。
電子化の前に確認すること
最後が電子化です。
納品書をPDFにしてメールで送ったり、受発注のシステム上でやり取りしたりする形にすると、紙の控えを探す手間は減ります。
一方で、電子取引でやり取りした取引情報の電磁的記録の保存は、電子帳簿保存法の対象です。
国税庁の案内でも、具体的な保存方法は同法の一問一答を参照するよう示されています1。
保存の要件を満たさない形で電子化を進めると、紙をなくしたのに税務上の保存として足りない、ということになりかねません。
電子化は、最新の一問一答で保存の仕方を確かめてから進めるのが順序です。
メール添付やシステム上のデータなど、自社がやり取りする形ごとに確かめておきます。
電子化には、受領確認とつなげやすいという面もあります。
メールで納品書を送り、取引先から受領の返信をもらえば、送った日と受け取った日が同じ記録の中に残ります。
ただ、電子化したからといって争いが起きなくなるわけではありません。
減るのは、控えを探す手間と、受領日をたどる作業です。
何がいくつ渡ったかの記載が不正確なら、電子でも紙でも同じ問題が残ります。
電子化を最後に置いているのはそのためで、記載項目と受領確認を整えた後に進めると、整えた記録をそのまま電子の形で残せます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 1 記載項目:納品日・品目・数量を注文書と照合できる形に(請求書と突き合わせて差を見る)
- 2 受領確認:受領印・署名・受領メール・配送記録(任意の月で受領日が追えるかを見る)
- 3 控えの保存:税務と時効の目的別に期間を決め、長い方にそろえる
- 4 電子化:電子帳簿保存法の一問一答で保存方法を確かめてから進める
▼ 図の内容を文字で読む
- 取適法:委託事業者の書類・電磁的記録の保存 2年
- 時効:権利を行使できると知った時から5年
- 国税:法人の取引書類 確定申告書の提出期限の翌日から7年
- 時効:権利を行使できる時から10年
- 国税:欠損金が生じた事業年度など 10年
出典:国税庁「No.5930 帳簿書類等の保存期間及び保存方法」(令和7年時点の法令等、法人の場合)、民法166条(e-Gov法令検索、2026年確認)、公正取引委員会「委託事業者の義務」(2026年確認)
受領日・数量・通知日の記録がどこで途切れているかは、自社の納品書の書式と、取引先ごとの受け取り方を並べてみないと見えにくいためです。
いまの納品書の記載項目と受領確認の取り方を持ち寄れば、照合や受領日の追跡ができない取引がどこにあるかを一緒に整理できます。無料相談で要件を整理する
食い違いの連絡を受けたときに確かめる条件
連絡を受けた時点で、自社が負う責任の重さを分ける条件を、本文の説明順に並べた
- 取引先は商人か消費者か(商法526条の検査・通知の義務が使えるか)
- 食い違いは種類・品質の不適合か、数量の不足か
- 受領日はいつで、取引先からの通知はいつ届いたか
- 取引基本契約書や注文書に、検査期間・通知期限・賠償の上限の定めがあるか
- 取適法の対象取引か、その取引で自社は受託側か委託側か
相手が消費者なら商法526条ではなく民法566条が基本になり、取適法の対象取引なら受領日が支払期日の起点にもなる
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 賠償の根拠 | 約束どおりの履行がないことや契約不適合(民法415条・562条以下)。納品書の書き損じそのものではない |
| 賠償の範囲 | 通常生ずべき損害が原則。特別の事情による損害は予見すべきだった場合(民法416条) |
| 事業者間の通知 | 受領後遅滞なく検査し直ちに通知。すぐ発見できない不適合は受領から6か月以内(商法526条) |
| 民法の通知 | 種類・品質の不適合を知った時から1年以内(民法566条) |
| 責任の限定 | 消費者相手は消費者契約法8条の無効類型。事業者間は契約書ごとに確かめる |
| 取適法 | 記録・保存義務は委託事業者。受託側は受領日・数量を相手の記録と合わせる |
| 控えの保存 | 法人の取引書類は7年(欠損金ありは10年)。時効は5年・10年で目的が別 |
電子化や控えの保存期間の決め方は、取引の形ごとに確かめる点が多く、日々の運用に落とし込む段階で迷いやすいためです。 やり取りの形ごとに、受領日と控えをどこに残すかの流れを整理できます。契約条項の有効性など法的な判断は、弁護士への相談と併せて進めてください。
よくある質問
納品書に受領印やサインがなくても、納品したことは主張できますか。
受領印やサインは、納品したことを示す記録の一つです。
それがない場合も、配送の記録や受領のメール、出荷の記録などを合わせて、何をいつ渡したかを示すことになります。
受領印の有無で主張のしやすさがどの程度変わるかは、他にどんな記録があるかによるため、一概には言えません。
なお、民法486条の受取証書の規定は支払に関するもので、納品の受領印の根拠ではありません2。
次回以降は、受領日が後からたどれる方法で受領確認を残しておくと安心です。
メールで送ったPDFの納品書は、控えとして保存しておく必要がありますか。
電子取引でやり取りした取引情報の電磁的記録の保存は、電子帳簿保存法の対象です。
具体的な保存方法は、国税庁が同法の一問一答を参照するよう案内しています1。
送ったPDFをどの形で残せば要件を満たすかは、最新の一問一答で確かめてください。
税務とは別に、取引先との争いに備える意味でも、送信日と受領の返信を含めて残しておく価値があります。
納品書と請求書の数量が違っていた場合、どちらが優先されますか。
どちらの書類が優先するかを一律に決めた規定は、この記事で扱った条文にはありません。
基準になるのは、契約や注文書で約束した内容と、実際に引き渡した物です。
両方の書類を注文書と受領の記録に突き合わせ、どちらに誤りがあるかをたどったうえで、誤っている方を訂正して取引先に知らせます。
納品書に免責の文言を印刷しておけば、賠償責任を負わずに済みますか。
相手が消費者の場合、債務不履行による賠償責任の全部を免除する条項などは、消費者契約法8条で無効とされています4。
事業者間では同法は適用されません。
ただ、納品は契約を結んだ後の手続なので、納品書に印刷した文言が取引の条件として扱われるかどうかは、ここで扱った条文からは判断できません。
責任の範囲を取り決めたいなら、取引基本契約書や注文の段階で合意しておくのが確実です。
取適法の対象かどうかは、どうやって確認すればよいですか。
取適法の対象かどうかは、取引の内容と、発注側・受注側の資本金や従業員数の基準で決まります。
公正取引委員会が取適法の概要や委託事業者の義務を公表しているので、自社と取引先の規模、取引の内容を当てはめて確かめます5。
判断に迷う場合は、発注側が自社を対象取引として扱っているかを取引先に聞くのも一つの方法です。
納品書を紛失したら、いつまで遡って再発行や保存の対応が必要ですか。
再発行についての決まりは、この記事で扱った資料では確認できません。
保存については、法人の取引書類は確定申告書の提出期限の翌日から7年間、欠損金が生じた事業年度などは10年間とされています1。
また、賠償請求の時効は、知った時から5年、行使できる時から10年です2。
この範囲で控えが欠けている取引は、出荷記録や受領の記録など、代わりに納品の事実を示せる資料がないかを確かめておきます。
- 1 出典:国税庁「No.5930 帳簿書類等の保存期間及び保存方法」(令和7年)
- 2 出典:法務省(e-Gov法令検索)「民法(明治29年法律第89号)」(2026年確認)
- 3 出典:法務省(e-Gov法令検索)「商法(明治32年法律第48号)」(2026年確認)
- 4 出典:消費者庁(所管法令)/e-Gov法令検索「消費者契約法(平成12年法律第61号)」(2026年確認)
- 5 出典:公正取引委員会「委託事業者の義務(中小受託取引適正化法)」(2026年)