◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 取引先ごとに注文書の様式が異なることは、電子受発注に踏み切れない理由として複数の業界調査で挙げられています。
- 様式差の正体は、記載位置・項目名の表記ゆれ・コード体系という3つの異なる問題に分けられます。
- 自社の受注項目を先に固め、取引先別の項目対応表を作ることが、製品を選ぶより前に必要な準備です。
目次
注文書自動読込とは何か、取引先別の様式差が関門になる理由
注文書自動読込とは、取引先ごとに様式が異なる注文書を、自社の受注データとして自動で取り込む仕組みです。中小企業庁の調査では、鉄鋼業界で「電子受発注に対応する予定が無い」と答えた36社のうち33.3%が、様式差をその理由に挙げています(複数回答・3つまで)*1。
注文書自動読込の定義と対象範囲
注文書自動読込とは、取引先から受け取った注文書を、人が手で入力し直すことなく受注データとして自社システムへ取り込む仕組みです。取引先ごとに様式が異なる場合の要点は、文字を正しく読めるかどうかよりも、記載位置・項目名・コード体系という3つの違いを自社の受注項目へどう対応づけるかにあります。
様式差は電子受発注に踏み出せない理由の上位に挙がる事実
中小企業庁が2022年3月31日に公表した『受発注のデジタル化に関する推進方策 報告書』は、電子受発注に対応する予定が無い理由を業界別に調べています*1。この設問は「対応する予定が無い」と答えた企業のみを母数とした設問です。
鉄鋼業界では「取引先ごとに異なる様式や仕様を指定されているため」と答えた企業が33.3%(母数36社)にのぼりました*1。電気工事業界では36.7%(母数49社)、電材卸業界では30.8%(母数31社)です*1。
鉄鋼・電気工事・電材卸の3業界は、それぞれ別の協力団体・別の調査時期による独立した調査です。複数回答(3つまで選択)の設問でもあるため、割合を単純に合算したり業界を横断して比較したりすることはできません*1。
背景には市場全体の傾向もあります。経済産業省の調査によれば、2024年のBtoB-EC市場規模は514.4兆円、EC化率は43.1%で前年比3.1ポイントの増加です*2。電子化されていない商取引がなお過半を占めており、注文書のような紙・FAXベースの受発注は珍しい存在ではありません*2。
「様式が違う」の中身は3つの層に分けられる
「様式が違う」という表現は、性質の異なる3つの問題をまとめて指しています。記載位置、項目名の表記ゆれ、コード体系という3層です。
3層を区別せずに「非定型対応」とひとまとめに語ると、どこまでを製品に任せ、どこからを自社で決めるべきかが曖昧になります。次の章でまず様式差が生まれる背景を確認し、その後の章で3層それぞれを詳しく見ていきます。
取引先ごとに注文書の様式が異なる背景
様式差そのものより先に、なぜ取引先ごとに様式が異なる状態が続いているのかを確認します。次の章で扱う「様式差が読み取りを止める仕組み」とは役割が異なり、本節は様式差が生まれる背景を扱います。
電子受発注の主流は取引先指定システムという実態
電子受発注に対応している企業が実際に使っている手段を見ると、業界共通の標準システムではなく、取引先が個別に指定するシステムが主流です*1。
| 業界 | 取引先指定システムの利用率 | 業界標準EDIの利用率 | Web-EDIの弊害を感じている企業 |
|---|---|---|---|
| 鉄鋼業界(n=87/n=86) | 75.9% | 11.5% | 62.8% |
| 電気工事業界(n=46/n=55) | 76.1% | 2.2% | 38.2% |
| 電材卸業界(n=102/n=132) | 71.6% | 10.8% | 53.0% |
この表の3行は、それぞれ別の協力団体による別の調査です*1。母数(n)が業界・設問ごとに異なるため、合算せず業界ごとに読んでください。
業界ごとに必要な取引項目そのものが異なる事実
報告書は、業界ごとに受発注で必要となる取引項目の違いも整理しています*1。鉄鋼業界では単重やチャージ番号、支給材と自給材の区別、ミルシートの要否といった加工・材質に関する項目が追加で必要になります*1。
電気工事業界では工事内容や図面の添付が求められ、電材卸業界ではHz区分や役所型番、直送区分といった項目が加わります*1。業界ごとに必要な項目そのものが異なるため、共通の受注フォーマットを一律に当てはめることは難しくなります。
Web-EDIの弊害を半数前後が感じている実態
取引先ごとに異なるWeb-EDIへ個別対応することについて、「弊害を感じている」と答えた企業は業界によっては半数を超えます*1。鉄鋼業界62.8%、電材卸業界53.0%、電気工事業界38.2%です*1。
取引先ごとに異なるシステムへ個別に対応する運用は、取引先数が増えるほど確認作業の負荷が積み上がります。この負荷こそが、次章で扱う様式差の3層を整理する動機になります。
様式差が自動読込を止める3つの層
前章では様式差が生まれる背景を確認しました。本章では、その様式差が実際に自動読込という作業をどう止めるのかを、3つの層に分けて見ていきます。
第1層 記載位置の違いが読み取り領域の固定を妨げる
第1層は記載位置、つまりレイアウトの違いです。注文番号や数量を書く位置が取引先ごとに異なるため、決まった座標だけを読み取る方式では対応できません。
この層への対応は、取引先ごとにレイアウトをあらかじめ登録する方式か、レイアウトそのものを解析する方式のいずれかで吸収します。具体的な方式の比較は次の章で扱います。
第2層 項目名の表記ゆれを人は視認で吸収している
第2層は項目名の表記ゆれです。中小企業庁の報告書は、この層の本質を次のように説明しています。
「一般的に企業間の受発注は、それぞれ取引先ごとの様式が異なっていますが、人の場合は視認が可能なため、例えば『受注担当者』と『担当者』が同じ意味を持つ項目であることを認識し、誤記をせずに記入をし、FAXや電話でそれを伝えることができます」*1(報告書59ページ)。
つまり様式差の核心は、文字を正しく読み取れるかどうかではなく、同じ意味を持つ項目を突き合わせられるかどうかにあります。この突合を、取引先ごとの項目対応表としてあらかじめ定義しておく必要があります。
第3層 コード体系の違いが自動変換を難しくする
第3層はコード体系の違いです。取引先が使う品番と自社の品番、数量や単位の建て方が一致しないことがあります。
この層は項目名の対応づけとは別に、コードの変換規則を1件ずつ定義する作業を必要とします。自社側の商品マスタが整っていないと、変換規則そのものを作れません。
読み取り精度は様式差とは別の論点
文字そのものの読み取り精度、たとえば手書き文字や解像度の問題は、様式差とは別の論点です。読み取り精度については別記事で扱っています。
取引先別の様式を捌く4つの方式
3つの層を踏まえ、取引先別の様式差を実務で捌く方式を4つに整理します。
4方式それぞれの向く条件と限界
| 方式 | 向く条件 | 自社側の準備 | 限界 |
|---|---|---|---|
| ①取引先別テンプレート登録型 | 取引先数・様式数を把握できている | 取引先ごとの帳票レイアウトを事前登録 | 新規取引先・様式変更のたびに登録作業が発生する |
| ②レイアウト解析型 | 取引先数が多く様式変更も起こりうる | 受注項目の確定と項目対応表の整備 | 項目名の意味の対応づけは事前に人が決めておく必要がある |
| ③取引先指定Web-EDIへの個別対応 | 主要取引先が既にWeb-EDIを指定している | 取引先ごとのログイン・画面操作の運用体制 | 対応するシステムが増えるほど運用負荷が増す |
| ④標準EDI・データ連携基盤への移行 | 業界内で標準EDIの利用が広がっている | 自社システムの標準EDI対応 | 産業データ連携基盤は現時点で検討段階の構想である*1 |
選び方を決める4つの判断軸
方式を選ぶ判断軸は、取引先数・様式数・月間の注文件数・様式変更の頻度の4つです。取引先数が多くても月間件数が少なければ、個別対応で足りることがあります。
逆に件数が多く様式変更も頻繁な場合は、レイアウト解析型や標準EDIへの移行を検討する価値があります。自社の取引先数・様式数を自社の数字で確かめるには、無料相談で要件を整理するのが近道です。
4方式は排他ではなく併存が前提
4方式は互いに排他的な選択肢ではありません。件数の多い取引先にはテンプレート登録型を、変則的な取引先には個別対応を、というように併存させる設計が現実的です。
中小企業庁は「産業データ連携基盤」の整備を検討しています*1。これは、受注側と発注側で異なる表現や異なるデータ形式を自動的に翻訳する「翻訳機能」と、双方へ届ける「送達機能」を持つものとして整理されています*1。この2機能の整理はデジタル庁がデータ仲介機能(ブローカー)の構成要素として示した「データ翻訳機能」「認証送達機能」に対応します*4。検討段階の構想であり、現時点で稼働している制度ではありません*1。
取引先別の項目対応表をつくる5つの手順
3層の理解と4方式の比較を踏まえ、取引先別の項目対応表を作る手順を5段階に整理します。製品を選ぶより先に、この整理を済ませておくことが実務上の近道です。
取引先別の項目対応表をつくる5つの手順/順位根拠:着手の実施順序
- 様式を棚卸しする。取引先ごとの帳票種類・受領経路(FAX・メール・Web-EDI)を一覧にします。
- 件数で優先順位をつける。取引件数の多い取引先から着手し、全件同時対応は狙いません。
- 自社の受注項目を確定する。受注に必須の項目と任意の項目を分けて定義します。
- 取引先別の項目対応表を作る。同義項目の突合とコード変換の規則を1件ずつ定めます。
- 例外と人手確認の範囲を決める。確信度が低いデータの差し戻し先をあらかじめ決めておきます。
手順4で作る項目対応表は、たとえば次のような形になります。以下は記入例であり、実際の項目は自社の受注ルールに合わせて設定してください。
| 自社の受注項目 | 取引先Aの表記 | 取引先Bの表記 | 変換規則 |
|---|---|---|---|
| 受注担当者名 | 担当者 | ご注文担当 | 同一項目として対応づける |
| 数量 | 数量 | Qty | 単位表記を確認して自社単位へ変換する |
| 納品希望日 | 納期 | 希望納品日 | 和暦・西暦の表記を自社形式へ統一する |
各手順でつまずきやすい点
手順1の棚卸しでは、担当者の記憶だけに頼ると漏れが生じます。受領した注文書の現物を一定期間分集めて突き合わせることが確実です。
手順5の例外運用では、確信度の閾値を最初から厳しくしすぎると、人手確認の件数が減らず自動化の効果が出ません。閾値は運用しながら調整する前提で設計します。
手順4の対応表づくりは、受注ミスの予防にもつながる作業です。
導入前に確認しておくこと
受領形態で変わる電子帳簿保存法上の扱い
注文書を紙で受け取ってスキャンする場合と、電子データのまま受け取る場合とでは、電子帳簿保存法施行規則上の保存要件の扱いが異なります*3。スキャナ保存の場合、同規則第4条第1項第2号イが、解像度は25.4ミリメートルあたり200ドット以上、赤色・緑色・青色の階調がそれぞれ256階調以上で読み取ることを要件として定めています*3。
要件の適用は受領形態や社内の運用によって変わるため、自社の状況に当てはめた判断は税務・法務の担当者に確認することをおすすめします。
取引先への様式統一依頼という商慣行の制約
取引先に様式の統一を依頼できるかどうかは、商慣行や力関係という制約に左右されます。中小企業庁の報告書も、取引方法が取引先の意向や状況に依存し、商慣習の変更には抵抗感が伴う実態を確認しています*1。
統一を前提にした計画は実現しない可能性があります。取引先の様式は変えられないという前提に立ち、自社側で吸収する設計を先に固めておくほうが現実的です。
効果と費用の見積もりは別軸で検討する
導入効果や費用の見積もりは、様式差への対応とは別の軸で検討する論点です。中小企業庁の報告書には、取引先からのフォーマット改修要望に伴って自社システムの改修費用が発生した事例が記載されています*1。データフォーマットへの2行追加で100万円程度という記述ですが、これは一事例であり相場を示すものではありません*1。
費用の内訳や相場の検討は、様式差への対応設計とは別の軸として整理することをおすすめします。
まとめ:取引先別の様式差に対応する3つの要点
本稿では、取引先ごとに様式が異なる注文書の自動読込について、様式差の正体と対応の設計を整理しました。要点は3つです。
第一に、様式差は記載位置・項目名・コード体系という3つの層に分かれており、読み取り精度だけの論点ではありません。第二に、対応の第一歩は製品選定ではなく、自社の受注項目を確定し取引先別の項目対応表を作ることにあります。第三に、テンプレート登録・レイアウト解析・個別対応・標準EDI移行の4方式は排他的ではなく、取引先の状況に応じて併存させる設計が現実的です。
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
よくある質問
取引先が数十社あっても注文書の自動読込に対応できますか?
対応は可能ですが、取引先数がそのまま対応先の数になるため、まず自社の受注項目を確定し、取引先別の項目対応表を作ることが前提になります。中小企業庁の調査でも、電子受発注に対応する企業の多くが取引先ごとに指定されたシステムを使っている実態が示されています*1。
手書きの注文書にも対応できますか?
手書き文字の読み取り精度は、本記事で扱う様式差とは別の論点です。記載位置や項目名の対応づけができていても、手書き特有の読み取り精度の問題は残るため、別の観点として切り分けて検討する必要があります。
取引先に様式の統一を依頼することはできますか?
依頼自体は可能ですが、取引先が応じるとは限りません。中小企業庁の報告書でも、取引方法が取引先の意向や状況に依存し、商慣習の変更には抵抗感が伴う実態が確認されています*1。統一を前提にせず、自社側で吸収する設計を優先することが現実的です。
読み取ったデータの保存はどのように扱われますか?
紙で受け取った注文書をスキャンして保存する場合と、電子データのまま受け取る場合とでは、電子帳簿保存法施行規則上の保存要件の扱いが異なります*3。受領形態によって適用される要件が変わるため、税務・法務の担当者に確認することをおすすめします。
既存の受注システムとはどのようにつなぎますか?
自動読込で取り込んだデータを、既存の受注システムへ連携させる形が一般的です。連携方法はシステム構成によって異なるため、まず自社の受注項目とデータ形式を整理することが着手の第一歩になります。
- *1 出典:中小企業庁(委託先:EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社)「受発注のデジタル化に関する推進方策 報告書」(2022年3月31日公表)
- *2 出典:経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査」(2025年8月26日公表、対象年2024年)
- *3 出典:電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則(平成10年大蔵省令第43号)第4条第1項第2号イ(e-Gov法令検索「電子帳簿保存法施行規則」、2025年4月1日施行の現行規定)
- *4 出典:デジタル庁「データ連携基盤の整備について」(第4回デジタル田園都市国家構想実現会議 資料8、2022年2月24日)
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