◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 常温・冷蔵・冷凍の温度帯は、法令が定める保存温度と自社物流の運用を分けて考えると設計が進みます。
- BtoB ECに温度帯別受発注を実装するための機能要件をチェックリストで整理します。
- 改正物流効率化法の判断基準と、温度帯別受発注の打ち手を対応づけて説明します。
目次
温度帯別受発注をECで統合する鍵は、常温・冷蔵・冷凍という温度帯を配送オプションではなく商品マスタの属性として持つことにあります。受注単位と出荷単位を分ける設計も欠かせません。FAXや電話、取引先ごとのExcel帳票で注文を受けている食品卸売業では、温度帯ごとに締め時間や配送便が異なります。そのため、出荷単位の組み立てが受注担当者の経験に依存しがちです。企業間取引の電子化そのものは進んでおり、2024年のBtoB-ECのEC化率は43.1%に達しています*1。それでも温度帯を扱う受発注は電子化が遅れやすい領域です。本稿では、法令が定める保存温度と自社の物流運用を切り分けたうえで、温度帯別受発注ECに求める要件と導入の進め方を整理します。
法令の保存温度と自社運用を分けて考える温度帯別受発注EC
食品卸売の温度帯別受発注ECとは、常温・冷蔵・冷凍などの温度帯ごとに在庫・締め時間・配送便を分けて注文を受ける企業間受発注の仕組みです。受けた注文は、温度帯単位の出荷指示までつなげます。厚生労働省のマニュアルは温度帯ごとの保存温度の目安を示しています*2。
法令の保存温度・自社の温度帯運用・物流政策の評価軸という3層
温度帯という言葉には3つの層があります。第一の層は、食品衛生法や大量調理施設衛生管理マニュアルが示す保存温度です*2*4。第二の層が、自社の物流で運用している常温・冷蔵・冷凍という区分にあたります。そして第三に、改正物流効率化法の判断基準が重なります*3。
この3層を混同すると、法令の数値をそのまま自社の温度帯設計に当てはめてしまい、実態に合わない運用が生まれます。まず法令が定める事実を確認し、そのうえで自社の物流に合わせた温度帯を設計する順序が欠かせません。
「1注文=1出荷」を分ける受注単位と出荷単位の設計
常温・冷蔵・冷凍が混在する注文を1件の出荷としてまとめようとすると、温度帯ごとの締め時間や配送便の違いを吸収できません。受注データと出荷データを分け、1つの受注が複数の出荷に分割される前提でシステムを設計する必要があります。
この分離ができていれば、温度帯ごとに最低ロットやリードタイムを個別に設定でき、伝票や送料の計算も温度帯単位で処理できます。
温度帯を先に決めると送料・伝票・検品の設計が定まる
温度帯を商品マスタの属性として先に確定させると、送料計算・伝票分割・検品ルールは温度帯に連動して決まります。逆に温度帯を配送方法やオプションの一種として後付けすると、例外処理が増えて運用が複雑になりがちです。
食品衛生法と大量調理施設マニュアルが示す保存温度の基準
食品衛生法第51条が求める衛生管理と記録
食品衛生法第51条第1項は、厚生労働大臣が営業施設の衛生的な管理その他公衆衛生上必要な措置について厚生労働省令で基準を定めると規定しています*4。同項第2号は、食品衛生上の危害の発生を防止するために特に重要な工程を管理するための取組に関する基準を含みます*4。
同条第2項は、営業者がこの基準に従い、厚生労働省令で定めるところにより公衆衛生上必要な措置を定め、これを遵守しなければならないと定めています*4。これがHACCP(ハザード分析重要管理点。食品の製造工程で危害要因をあらかじめ管理する衛生管理手法)に沿った衛生管理の根拠条文です。
大量調理施設衛生管理マニュアルが示す保存温度と適用範囲
厚生労働省の大量調理施設衛生管理マニュアル別添1は、原材料や製品の保存温度の目安を示しています*2。冷凍食品は−15℃以下、生鮮魚介類は5℃以下、生鮮果実・野菜は10℃前後です*2。液卵は8℃以下、凍結卵は−18℃以下、ナッツ類とチョコレートは15℃以下、食肉と鯨肉は10℃以下です*2。
このマニュアルは、同一メニューを1回300食以上または1日750食以上提供する調理施設に適用されるものです*2。すべての食品卸売業に一律に課される基準ではありません。ただし同マニュアルは、原材料の納入に際して納入業者が運搬時に適切な温度管理していたかを含め、検収時に品温を点検・記録することを求めています*2。
このため、給食や外食向けに納入する食品卸売業は、取引先を通じて実質的にこの水準の温度管理を求められる立場にあります。なお別添1には、ナッツ類・チョコレート・バター・チーズのように15℃以下という常温と冷蔵の中間にあたる区分もあり*2、3温度帯に単純に割り振れない品目が残る点にご注意ください。3温度帯で整理すると、次のようになります。
| 温度帯 | 代表商品 | 保存温度の目安(出典*2) | 受発注上の制約 |
|---|---|---|---|
| 常温 | 小麦粉・デンプン等の穀類加工品、砂糖、乾燥卵、液状油脂、清涼飲料水。マニュアル本文では缶詰・乾物・調味料等を常温保存可能なものとしています。 | 別添1は上記を「室温」と定めています。清涼飲料水は規格基準に保存基準があるものは当該基準に従います。 | 締め時間に余裕を持たせやすく、まとめ出荷に向きます。 |
| 冷蔵 | 生鮮魚介類・液卵・食肉・鯨肉・生鮮果実野菜 | 生鮮魚介類5℃以下。液卵8℃以下。食肉・鯨肉10℃以下。生鮮果実・野菜10℃前後。 | 締め時間が短く、便数が限られやすい傾向があります。 |
| 冷凍 | 冷凍食品・凍結卵 | 冷凍食品−15℃以下。凍結卵−18℃以下。 | 最低ロットが大きくなりやすく、分納・伝票分割の対象になりやすい傾向があります。 |
FAXとExcelに依存した温度帯別受発注が止めていること
温度帯ごとに異なる締め時間が受注担当の暗黙知に依存する
FAXや電話、取引先ごとのExcel帳票で受注している食品卸売業では、温度帯ごとに締め時間や配送便が異なることが多くあります。そのため、出荷単位の組み立てが受注担当者の経験に依存しがちです。担当者が不在になると、締め時間の判断が滞る場面も起こります。
荷待ち・荷役の負荷が検品作業に直結する
改正物流効率化法の検討資料によれば、荷待ちがある1運行の平均拘束時間は11時間46分です*3。内訳は運転5時間54分、休憩1時間54分、荷待ち1時間28分、荷役1時間34分、点検等57分です*3。荷待ちと荷役を合わせると3時間を超えます*3。
この資料は、荷役等時間に検品を含むと定義しています*3。温度帯ごとに検品ルールが標準化されていないと、荷役等時間の短縮が進みにくくなります。
温度帯混在による誤出荷・返品対応の負担
温度帯を商品マスタの属性として持たず、配送方法の一種として運用していると、常温・冷蔵・冷凍の商品が同じ出荷単位に混在しやすくなります。誤出荷や返品への対応は、受注担当者だけでなく物流現場の負担にもなります。放置すれば、繁忙期の検品や再出荷の工数はさらに積み上がるでしょう。
この荷待ち・荷役の負荷を自社の数字で確かめるには、無料相談で要件を整理するのが近道です。
改正物流効率化法の判断基準と受発注設計の対応
改正物流効率化法の全体像と施行スケジュール
法律名は「物資の流通の効率化に関する法律」に変更されました*3。2024年5月15日に公布され、2025年4月1日には基本方針・荷主と物流事業者の努力義務・判断基準が施行されています*3。
2026年4月には、特定事業者の指定や中長期計画の提出、定期報告、物流統括管理者(CLO。Chief Logistics Officerの略で、物流を統括する経営幹部)の選任などの措置が施行される想定です*3。中長期計画の提出時期は、初年度は2026年10月末である見込みです*3。
特定荷主・特定連鎖化事業者の指定基準は、取扱貨物重量9万トン以上で、対象は上位3,200社程度とされています*3。令和10年度までの目標として、トラックドライバー1人当たり年間125時間の拘束時間短縮と、車両の積載効率を44%に高めることが掲げられています*3。
判断基準と温度帯別受発注の打ち手の対応
| 判断基準(出典*3) | 温度帯別受発注ECでの打ち手 |
|---|---|
| 積載効率の向上等(納品日の集約、発送量・納入量の適正化、リードタイムの確保) | 温度帯別の締め時間・最低ロット・納品日カレンダーをEC側で設定します。 |
| 荷待ち時間の短縮(予約受付システムの導入、出荷・納品日時の分散) | 受注確定データを温度帯別に前送りし、予約システムと連携します。 |
| 荷役等時間の短縮(検品の効率化、商品識別タグ、パレット等の利用) | 事前出荷データを温度帯単位で送り、検品を照合作業に縮小します。 |
自社が「荷主」に該当するかを確かめる
改正物流効率化法第30条は、第一種荷主と第二種荷主を定義しています*3。第一種荷主は、自社の事業に関して貨物自動車運送事業者などに継続して貨物の運送を行わせる契約を締結する者です*3。第二種荷主は、自社の事業に関して継続して貨物を運転者から受け取る、または運転者に引き渡す者を指します*3。
努力義務の対象となる荷主は、この第一種荷主と第二種荷主です*3。自社が取引先へ商品を継続的に配送している場合はいずれかに該当する可能性があり、詳しい判定は農林水産省が公開する物流の合理化に関する資料でも確認できます*5。
BtoB ECに求める温度帯別の機能要件チェックリスト
マスタ要件:温度帯を商品マスタの属性として持つ
- 温度帯(常温・冷蔵・冷凍)を商品コードに紐づく属性として保持できるか
- 配送方法や運賃コードとは独立した項目として温度帯を管理できるか
- 同一商品で温度帯が変わる場合の区分ルールを持てるか
- 温度帯ごとの最低保管ロットをマスタから参照できるか
受注要件:温度帯別の締め時間・最低ロット・リードタイム
- 温度帯ごとに異なる受注締め時間を設定できるか
- 温度帯ごとの最低ロット(金額・重量・ケース数のいずれか)を設定できるか
- 温度帯ごとにリードタイムと納品日カレンダーを分けて表示できるか
- 複数温度帯にまたがる注文を1回の操作で入力できるか
出荷・伝票要件:分割・送料・代替提案
- 温度帯単位で出荷指示を分割できるか
- 温度帯ごとに送料を計算し、伝票を分けて発行できるか
- 分納が発生した場合の伝票分割に対応できるか
- 欠品時に同じ温度帯の代替商品を提案できるか
連携要件:基幹・WMS・EDIとの接続
- 基幹システムやWMS(倉庫管理システム。Warehouse Management Systemの略)と温度帯コードを共通の体系で持ち回れるか
- 在庫を温度帯別に引き当てられるか
- 既存のEDI(電子データ交換。取引先と受発注データを電子的にやり取りする仕組み)を残したまま、温度帯データを追加項目として連携できるか
- 受注確定データを温度帯別に前送りし、配送予約システムと連携できるか*3
要件整理で先に着手する優先順5点(順位根拠:実装の依存関係)
- 温度帯を商品マスタの属性として定義します。他の要件の前提になります。
- 受注単位と出荷単位を分けるデータモデルを設計します。
- 温度帯ごとの締め時間・最低ロット・リードタイムを受注要件として定めます。
- 温度帯単位の出荷指示分割と送料計算のルールを決めます。
- 基幹・WMS・EDIと温度帯コードを揃える連携要件を確定します。
温度帯別受発注ECを導入する5ステップ
Step1 温度帯の棚卸しとStep2 受注単位・出荷単位の設計
Step1では、商品×温度帯×配送便×締め時間の実態を一覧表にして洗い出します。Step2では、受注単位と出荷単位を分離するデータモデルを設計し、1つの受注が複数の出荷に分かれる前提をシステムに組み込みます。
Step3 マスタ整備とStep4 段階リリース
Step3では、洗い出した実態表をもとに商品マスタへ温度帯属性を登録し、締め時間や最低ロットを温度帯ごとに設定します。Step4では、主要取引先や単一温度帯からリリースを始め、影響範囲を限定して運用を検証します。
食品卸売業の商習慣(取引先別価格・掛率・帳合・分納)に対応するBtoB ECパッケージを使う場合も、考え方は変わりません。温度帯を商品マスタの属性として持ち、受注単位と出荷単位を分ける設計思想は共通します。
Step5 効果測定で荷待ち・検品・誤出荷を追う
Step5では、荷待ち時間・検品にかかる時間・誤出荷件数を指標として効果を測定します。改正物流効率化法の判断基準が示す荷待ち時間の短縮や検品の効率化*3は、温度帯別受発注の効果測定指標としてもそのまま使えます。
温度帯別受発注EC導入でよくある失敗と回避策
温度帯を配送方法の一種として実装してしまう失敗
温度帯を配送方法や運賃コードの属性として持たせると、商品自体の温度帯情報を基幹システムやWMSから参照できず、連携の段階で不整合が生じます。温度帯は商品マスタの属性として独立させておくことが欠かせません。
締め時間を取引先マスタだけに持たせてしまう失敗
締め時間を取引先ごとにしか管理しないと、同じ取引先が常温・冷蔵・冷凍を同時に注文した場合の締め時間が一意に決まりません。締め時間は取引先と温度帯の組み合わせで管理する必要があります。
EC側だけ整えて基幹・WMSの温度帯コードを揃えない失敗
BtoB EC側だけ温度帯を整備し、基幹システムやWMSの温度帯コードを揃えないと、出荷指示の段階でデータの読み替え作業が発生します。この読み替えを解消するには、データ移行の設計と各システムの改修体制が必要です。専門パートナーに依頼すれば、自社で改修体制を組む前に必要な工数を見積もれます。
まとめ:温度帯別受発注ECを進める3つの判断軸
本稿では、食品卸売業の温度帯別受発注をBtoB ECに統合する考え方を整理しました。要点は3つあります。第一に、法令が定める保存温度*2*4と自社の温度帯運用、改正物流効率化法の判断基準*3という3層を分けて捉えてください。第二に、温度帯を商品マスタの属性として持ち、受注単位と出荷単位を分けるデータモデルを設計します。第三の軸は、マスタ・受注・出荷伝票・連携の4領域で温度帯別の機能要件を確認し、段階的に導入することです。
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
よくある質問
常温・冷蔵・冷凍の温度は法律で決まっているのですか。
食品全般に一律の温度基準を定めた法律はありませんが、厚生労働省の大量調理施設衛生管理マニュアルが保存温度の目安を示しています*2。このマニュアルは、同一メニューを1回300食以上または1日750食以上提供する調理施設に適用されるものです*2。すべての食品卸売業に一律の義務を課すものではありません。
温度帯をまたぐ注文は1件の注文として受けてよいのですか。
受注としては1件で受け付けても構いませんが、出荷は温度帯ごとに分けて処理する設計が実務的です。受注単位と出荷単位を分けることで、温度帯ごとの締め時間や配送便の違いに対応できます。
温度帯別に送料を分けると取引先の負担感が増しませんか。
送料の分け方は取引先との取り決め次第であり、一律に負担が増えるとは言えません。温度帯ごとに送料を可視化することで、取引先が発注をまとめるタイミングを判断しやすくなる面もあります。
改正物流効率化法で、食品卸売業は何をいつまでに対応すべきですか。
2025年4月1日から、荷主・物流事業者の努力義務と判断基準がすべての事業者に適用されています*3。2026年4月には、指定基準を満たす特定事業者に対して中長期計画の提出や定期報告などが施行される想定です*3。中長期計画の提出は、初年度は2026年10月末が想定時期です*3。自社が該当するかは、取扱貨物重量などの指定基準*3や荷主区分の定義*3を確認してください。
既存のEDIを残したまま温度帯別受発注ECを導入できますか。
既存のEDIを残したまま導入することは可能です。EDIに温度帯データを追加項目として連携し、基幹システムやWMSと温度帯コードを共通の体系で持ち回る設計にすれば、既存の取引先接続を維持できます。
- *1 出典:経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」(2025年8月26日公表)
- *2 出典:厚生労働省「大量調理施設衛生管理マニュアル(別添1含む)」(平成29年6月16日最終改正)
- *3 出典:経済産業省「改正物流効率化法の概要について」(2025年6月6日)
- *4 出典:e-Gov法令検索「食品衛生法第51条」(現行版)
- *5 出典:農林水産省「食品等の流通の合理化について」
画像の出典元
- 食品卸売業で多様な食品を保管する梱包・温度帯別ストレージのイメージ/Photo by François Brémont on Unsplash
- 温度のイメージ/Photo by Megan Nixon on Unsplash
- 受発注のイメージ/Photo by Efe Kurnaz on Unsplash
- 発注のイメージ/Photo by Giorgio Trovato on Unsplash