◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 手書き注文書の移行とは何かを、方式の選び分けから説明します。
- 紙をやめる4つの方式と、電子帳簿保存法上の保存区分の違いを整理します。
- 移行の5ステップと、移行が止まりやすい理由への回避策を紹介します。
目次
手書き注文書の移行とは、受け方をデータに置き換えることである
手書き注文書の移行とは、取引先が紙に手書きで送る注文の受け方を、読み取りや入力フォーム、システム連携によってデータの受け渡しに置き換えることです。受注データを在庫・出荷・請求へそのまま引き渡せる状態にします*1。
移行前に決める4つのこと ― 方式・範囲・保存区分・時期
着手する前に、採用する方式、対象とする範囲、電帳法上の保存区分、切り替える時期という4点を決めておくと、途中で判断に迷わずに進められます。
移行で変わること ― 作業効率・人的ミス・検索性
中小企業庁は、受発注のデジタル化によって作業効率の向上、人的ミスの軽減、取引記録の検索性の向上という3つの効果が得られるとしています*1。手書きの注文書を起点とする業務では、転記や照合に人手がかかりやすく、読み違いも生じやすい状態です。移行によって、この負荷を生んでいる受け取り方そのものを見直せます。
移行の途上にある事業者は少なくありません。2026年版中小企業白書 第1-1-31図(帝国データバンク「令和7年度中小企業の経営課題と事業活動に関する調査」・n=12,215)では、デジタル化の取組段階について「アナログな状況からデジタルツールを利用した業務環境に移行している状態」(段階2)と回答した事業者が約6割を占めています*3。
紙をやめる4つの方式 ― スキャナ保存・読取代行・入力フォーム・EDI
紙の注文書からの移行先は1つではありません。紙の扱い方と、取引先の協力が必要かどうかによって、次の4つの方式に分かれます。
方式①:紙で受け取り続け、スキャナ保存に切り替える
取引先からの注文書はそのまま紙で受け取り、自社で読み取ってスキャナ保存に切り替える方式です。取引先に運用変更を求めないため、着手のハードルは比較的低くなります。ただし読み取りには、電帳法施行規則が定める解像度などの技術要件を満たす必要があります*5(詳細は後述のH2「電帳法の分かれ道」で扱います)。
方式②:読み取りで入力の手間を代替する
手書きの記載をシステムで読み取り、基幹システムへの入力を代替する方式です。紙の受け取り自体は残るため、電帳法上はスキャナ保存の扱いになります*5。手書き文字の読み取りには誤読のリスクが伴うため、読み取り結果を人が確認する検証工程を残しておく必要があります。
方式③:取引先にWeb受注画面・入力フォームで発注してもらう
自社が用意するWeb受注画面や入力フォームから、取引先に直接発注してもらう方式です。データが発生した時点で電子化されるため、電帳法上は電子取引(取引情報をデータでやり取りする区分*4)に区分されます。取引先側の協力が前提になりますが、様式や必須項目を自社側で統一しやすくなります。
方式④:EDI・システム間連携でデータを受け取る
取引先のシステムと自社システムをEDI(Electronic Data Interchange、電子データ交換*1)で接続する方式です。注文データをそのまま受け取れます。
中小企業庁は、ITの利用に不慣れな中小企業でも受発注業務のIT化を実現できる仕組みとして「中小企業共通EDI」の仕様を策定しています*1。標準化された仕様を用いれば、取引先ごとに異なる専門端末や用紙をそろえる負担を減らせるとされています*1。
4方式の比較
| 方式 | 紙の有無 | 転記の有無 | 電帳法の区分 | 取引先の協力 |
|---|---|---|---|---|
| ①スキャナ保存への切替 | 紙で受け取る | 転記が残る | スキャナ保存(法4条3項) | 不要 |
| ②読み取りで入力代替 | 紙で受け取る | 代替されるが検証は残る | スキャナ保存(法4条3項) | 不要 |
| ③Web受注画面・入力フォーム | 紙は発生しない | 転記なし | 電子取引(法7条) | 必要 |
| ④EDI・システム間連携 | 紙は発生しない | 転記なし | 電子取引(法7条) | 必要 |
移行の5ステップ ― 数える・絞る・決める・併走させる・定着させる
移行は一度に切り替えるのではなく、現状を数えるところから始めます。範囲を絞り、方式と保存区分を決め、取引先に案内して併走させたうえで、最後に定着させるという順序で進めるとよいでしょう。受発注全体の移行手順はオンライン受発注への移行手順で扱っており、本稿では手書き注文書という媒体固有の分岐に絞って説明します。
- 現状を数える(経路・件数・記載項目・様式の種類を棚卸しする)
- 範囲を絞る(件数の多い取引先や様式が揃っている経路から着手する)
- 受け取り方式と保存区分を決める(4つの方式と電帳法の区分を同時に確定する)
- 取引先に案内し、紙と電子を併走させる
- 切替と定着(紙の受付を順に絞り、運用を引き継ぐ)
ステップ1:手書き注文書の現状を数える
届いている紙の注文書の経路(FAX・持参・郵送)、件数、記載項目、様式の種類を棚卸しします。ここでは数えることに徹し、着手順の判断は次のステップで行います。
ステップ2:移行の範囲を絞る
すべての取引先を同時に対象にするのではなく、件数の多い取引先や様式が揃っている経路に対象を絞ります。範囲が定まることで、次に決める方式や保存区分の検討も具体的に進みます。
ステップ3:受け取り方式と保存区分を同時に決める
絞った範囲について、前章の4つの方式のどれを採るかを決め、同時に電帳法上の保存区分も確定します。受け取り方式が決まれば、保存区分はほぼ自動的に定まります。
取引先ごとに様式が違い、どの項目を共通化すればよいか自社だけでは決めきれないこともあります。無料相談で要件を整理すると、方式と保存区分の検討を進めやすくなります。
ステップ4:取引先に案内し、紙と電子を併走させる
方式が決まったら、取引先へ変更内容を案内します。切替直後は読み違いや設定ミスに備え、紙の受付を残したまま電子の受け取りを並行して運用する期間を置きます。
ステップ5:切替と定着
併走期間の状況を見ながら、紙の受付を経路ごとに順に絞り、最終的に電子への切替を完了します。切替後は社内の運用手順を引き継ぎ、担当者が変わっても同じ手順で回せる状態にします。
受け取り方式を検討する優先順3点(順位根拠:件数と様式のそろい方)
- 件数が最も多い経路を最優先にします。転記の削減量が大きく、社内で効果を示しやすいためです。
- 様式のそろい方が次の判断材料です。項目の共通化にかかる調整が少ないほど、方式③・④へ進める余地が広がります。
- 残りの取引先は、併走期間の実績を踏まえて順次対象に加えます。
電帳法の分かれ道 ― スキャナ保存(法4条3項)か電子取引(法7条)か
受け取り方式が決まると、電子帳簿保存法上の保存区分もほぼ自動的に定まります。紙で受け取るか、データで授受するかによって、次のいずれかに分かれます*4。
紙で受け取った注文書はスキャナ保存
紙で受け取った注文書を電磁的記録(電子データとしての記録*4)として保存する場合は、電子帳簿保存法第4条第3項の対象になります*4。要件は同法施行規則第2条第6項に定められています*5。解像度は25.4ミリメートルあたり200ドット以上、赤色・緑色・青色の階調はそれぞれ256階調以上で読み取ることが求められます。
データで授受した注文書は電子取引
取引先とデータでやり取りした注文書は、電子帳簿保存法第2条第5号が定める電子取引に該当します*4。同号は、取引に関して受領・交付する取引情報の例として注文書を明示的に挙げています*4。電磁的記録の保存義務は同法第7条に定められており、電子取引でやり取りした注文書を紙に印刷して保存する扱いに戻すことはできません*4。
移行の設計に保存要件を含める
どちらの区分でも、検索条件として取引年月日・取引金額・取引先を設定できる状態にしておくのが原則です*5。ただし税務調査で電磁的記録の提示・提出の求めに応じられるようにしている場合など、範囲指定・項目の組合せに関する要件が除かれる場合があります。自社がどの扱いになるかは、国税庁の特設サイトで確認してください*6。要件の詳細は、国税庁の電子帳簿等保存制度特設サイトのスキャナ保存関係のページで確認できます*6*7。
移行が止まる3つの理由と回避策 ― 商慣行41.7%・人材38.9%・様式33.3%
中小企業庁委託の調査は、電子受発注に対応する予定が無い鉄鋼業界の企業36社に、その理由を尋ねています(複数回答、3つまで)*2。上位3つの理由は、商慣行、社内人材の不在、取引先ごとの様式の違いです。
移行が止まる理由の上位3点(順位根拠:鉄鋼業界アンケートの回答割合*2)
- 書面を前提とした商慣行・業務ルールがあるため(41.7%)。取引先との合意形成に時間がかかります。
- 対応に関する知識・経験を有する社内人材や外部専門家がいないため(38.9%)。方式選定を進める人手が足りません。
- 取引先ごとに異なる様式や仕様を指定されているため(33.3%)。難所は項目の共通化です。
書面を前提とした商慣行への回避策
回答企業の41.7%が、書面を前提とした商慣行や業務ルールを理由に挙げています*2。取引先に一律の切替を求めるのではなく、紙と電子を一定期間併走させます。運用を止めずに新しい受け方を試せるため、商慣行を急に変えずに済みます。
社内人材の不在への回避策
38.9%は、対応に関する知識・経験を有する社内人材や外部専門家がいないことを理由に挙げています*2。対象範囲を絞り、決めるべき項目(方式・保存区分・案内内容)を先に固定しておくと、限られた人手でも進めやすくなります。
取引先ごとの様式差への回避策
33.3%は、取引先ごとに異なる様式や仕様を指定されていることを理由に挙げています*2。項目を共通化し、中小企業庁が仕様を策定した中小企業共通EDIのような標準仕様を参照すると、様式差を吸収しやすくなります*1。
| 理由 | 回答割合 | 回避策 |
|---|---|---|
| 書面を前提とした商慣行・業務ルール | 41.7% | 紙と電子の併走期間を置く。 様式が揃う取引先から着手する。 |
| 社内人材・外部専門家の不在 | 38.9% | 対象範囲を絞る。 決める項目を先に固定する。 |
| 取引先ごとの様式・仕様の違い | 33.3% | 項目を共通化する。 中小企業共通EDIなど標準仕様を参照する。 |
母集団:電子受発注に対応する予定が無いと回答した鉄鋼業界の企業36社(複数回答、3つまで)*2。
移行後に見る3つの定着指標 ― 受付件数・照合時間・出荷ミス
移行の効果は、体感ではなく指標で確認します。ここでは3つの視点を示します。
手書き注文書の受付件数(経路別の残存率)
経路(FAX・持参・郵送)ごとに、切替後も残っている手書き注文書の件数を数えます。併走期間に決めた受付停止の順序どおりに件数が減っているかを確認します。
転記・照合にかけていた時間の変化
手書きの記載を基幹システムへ転記し、内容を照合していた作業について、移行前後の変化を確認します。データで受け取る取引先が増えるほど、この作業は減っていく想定です。
認識違いによる出荷・納品ミスの発生
鉄鋼業界を対象にした調査では、回答企業の32.5%が取引先との品種の認識違いによる出荷・納品ミスを経験したと回答しています*2。同じ観点で移行前後のミス発生を自社の記録から比較すると、移行の効果を確認しやすくなります。
あわせて、電話・FAX受注からの脱却は電話・FAX受注からの脱却方法で、システム間のデータ移行手順は受発注システムのデータ移行手順で扱っています。
まとめ|まず着手する一手
本稿では、手書き注文書から移行するための考え方を整理しました。要点は3つです。第一に、移行先は1つではなく、スキャナ保存・読取代行・入力フォーム・EDIという4つの方式から選べます。第二に、方式を決めると、電帳法上の保存区分(スキャナ保存か電子取引か)もほぼ同時に定まります*4。第三に、移行が止まりやすい理由は商慣行・人材・様式の3つに集約されており*2、範囲を絞って併走期間を置くことで対処できます。まずは自社に届いている紙の注文書を数えるところから始めるとよいでしょう。
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
よくある質問
手書きの注文書をスキャンして保存すれば、移行したことになりますか
スキャンして保存するだけでは、紙で受け取る運用自体は変わっていません。紙で受け取る限り、電帳法上はスキャナ保存の区分にとどまります*4。発生源をデータに置き換えるには、入力フォームやEDIなど、取引先側の受け方を変える方式への移行が必要です。
紙の注文書をやめると、取引先との合意はどう残しますか
取引先への案内内容と、切替時期・併走期間を記録として残しておくことが基本です。個別の合意形成の進め方は取引先ごとの事情によって異なるため、本稿では一般的な案内・併走の枠組みまでを扱います。
電子取引でやりとりした注文書を紙に印刷して保存してよいですか
電子取引に該当する注文書は、電子帳簿保存法第7条により電磁的記録での保存が義務づけられています*4。紙に印刷して保存する扱いに戻すことはできません。
取引先ごとに注文書の様式が違う場合、どこから手を付ければよいですか
様式の共通化は、項目レベルで見ると全社一律に決める必要はありません。自社の業務で欠かせない項目だけを先に固定し、それ以外は取引先の様式に合わせるという分け方ができます。中小企業庁が策定した中小企業共通EDIのような標準仕様を参照する方法もあります*1。
中小企業共通EDIとは何ですか
中小企業庁が策定した、受発注業務を標準化するためのEDI(電子データ交換)の仕様です*1。標準化された仕様を用いれば、取引先ごとに異なる専門端末や用紙をそろえる負担を減らせるとされています*1。
- *1 出典:中小企業庁「中小企業の受発注デジタル化」(掲載データの出所は「令和3年度取引条件改善状況調査」中小企業庁、2021年)
- *2 出典:中小企業庁委託・EYストラテジー・アンド・コンサルティング「受発注のデジタル化に関する推進方策 報告書」(2022年3月)
- *3 出典:中小企業庁「2026年版 中小企業白書 第1部第1章第5節 デジタル化・DX」(第1-1-31図の資料は帝国データバンク「令和7年度中小企業の経営課題と事業活動に関する調査」、n=12,215)
- *4 出典:e-Gov法令検索「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(電子帳簿保存法)」(現行版は令和7年法律第13号による改正、2025年4月1日施行)
- *5 出典:e-Gov法令検索「電子帳簿保存法施行規則」
- *6 出典:国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト|スキャナ保存関係」
- *7 出典:国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」
画像の出典元
- 移行のイメージ/Photo by Markus Stickling on Unsplash
- 定着のイメージ/Photo by Vitaly Gariev on Unsplash
- 出荷のイメージ/Photo by Russ Murray on Unsplash