◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 基準となる価格表を一本に決め、得意先ごとの差額として卸価格を持たせると、請求と仕訳へ同じ数字が渡ります。
- 5階層までの組織階層で卸価格を切り替えられる仕組みがあり、本社と支社で単価が違う取引にも合わせられます4。
- 第29号の会計基準が、リベートと値引きを変動対価として扱うよう定めており、確定額としては計上できません2。
- 1回までが、適格請求書1枚につき税率ごとに認められる消費税の端数処理の回数です3。
- 画面から入る受注が増えるほど、登録した卸価格がそのまま請求額になり、価格表の直しが会計処理へ直結します。
目次

得意先ごとの卸価格運用と会計処理の要点
得意先別の卸価格は、基準となる価格表を一本持ち、そこからの差額を得意先ごとに登録する形にすると、請求と仕訳へ同じ数字を渡せます。値引きは売上から直接引き、リベートは変動対価の見積りとして収益から控除し、確定額として扱わない点に注意します2。請求書の端数処理も同じ台帳から組み立てます3。
夕方の経理室では、その台帳から出た請求書の束が、複合機から出たばかりでまだ温かいまま机へ積まれます。担当者は得意先コードの順に並べ替え、価格表の写しと単価を一枚ずつ照合していきます。手が止まるのは、同じ商品に「本社向けの価格」と「支社向けの価格」が並び、どちらが適用中なのか台帳から読み取れない時です。卸価格の運用は、価格を決めた後に、請求と仕訳へ引き渡す場面で詰まります。
単価が違うこと自体は、それほど手間になりません。厄介なのは、単価の差が「値引き」なのか「リベート」なのか、伝票の摘要からは判断がつかない点です。前者は売上高から直接引き、後者は支払う時期も金額も後から決まります。転記の順序が入れ替わるだけで、月次の数字はそろわなくなります。
照合のためにもう一度価格表を開く一手間は、締めのたびに担当者の残業として積み上がる費用です。
収益認識基準が求めるリベート・値引きの処理
収益認識に関する会計基準は、リベートや値引きを「変動対価」として扱うよう求めています2。変動対価とは、契約で約束した対価のうち、後から変わりうる部分を指します。購入数量に応じて戻す金額や、期末に精算する販売奨励金がこれにあたります。見積った金額を収益から控除して計上する点が要になります。
基準の位置づけを先に確かめます。第29号として公表されたのが、この収益認識に関する会計基準です2。2018年の公表で、リベートと値引きの扱いが変動対価として整理されました。それ以前の実務では、支払った時点で「販売促進費」として費用計上する扱いも残っていました。いまは、収益の額そのものを見積りで調整するか、費用として別に立てるか、契約の中身で判断が分かれます。
見積りの方法には、最頻値による方法と期待値による方法があります。過去の実績から「この得意先はほぼ達成する」と読める契約なら最頻値が合い、達成率が年ごとにばらつく契約なら期待値が合います。さらに、収益の著しい減額が生じない可能性が高い部分に限って計上する制限もかかります。見込みで多めに収益を立てることはできません。
実務では、得意先ごとの卸価格表とリベート契約書を同じ台帳で持てるかが分かれ目になります。卸価格を下げて請求する契約と、標準価格で請求して後からリベートで戻す契約では、処理の入口が変わります。前者は請求額そのものが下がり、後者は請求額と収益額にずれが残ります。同じ「実質の単価」でも、帳簿へ残る金額の内訳はそろいませんね。
43.1%まで進んだ2024年のBtoB-EC化率のもとでは、紙の価格表を手で書き直す運用を続けるほど、画面から入る注文との照合に担当者の時間が取られます1。
インボイス制度における消費税端数処理のルール
卸価格を得意先ごとに変えると、請求書へ載る単価の桁数も得意先ごとに変わります。ここで効いてくるのが、適格請求書の消費税額の計算方法です。明細行ごとに消費税を計算して丸めるか、税率ごとの合計額に対して丸めるか、扱いははっきり決まっています3。「一行ずつ丸めて最後に足す」やり方は認められていません3。
請求書の作り方をもう一度確かめます。1回までが、適格請求書1枚につき税率ごとに認められる端数処理の回数です3。明細行ごとに丸めていた従来の帳票と比べると、丸める場所は一か所へ寄ります。2023年から始まったインボイス制度のもとで示された取り扱いで、切上げ・切捨て・四捨五入のうち「どれを選ぶか」は事業者が決められます。得意先ごとに単価が細かく分かれるほど、明細行の端数は増えます。
適格請求書1枚当たりの端数処理
手順としては、税率ごとに対価の額を合計し、その合計へ税率を掛けて消費税額を出します。得意先別の卸価格で単価が細かく分かれていても、丸める場所は合計の後ろに置きます。「明細ごとに税込価格を作る」運用をしている場合は、請求書の様式から見直すことになります。値引きを同じ請求書で差し引く時は、どの時点の金額を合計へ入れるかを社内で決めておいてください。
BtoB-EC化率43.1%の伸びと卸価格管理の実態
受注の経路が画面へ移るほど、卸価格の登録内容がそのまま請求額になります。紙の注文書なら、営業担当が単価を書き直して調整する余地がありました。画面からの受注では、登録された得意先別の価格が表示され、そのまま出荷と請求へ流れます。「登録を直す」ことと「価格を決める」ことが、同じ作業になったわけです。
市場の大きさを一度置いておきます。514.4069兆円が、2024年のBtoB-ECの市場規模です1。先に挙げたBtoB-EC化率と同じ調査で示された金額で、企業間の取引額のうち電子化された分にあたります1。自社の受注のうち「画面から入った分」の割合を、直近の一年で数えてみてください。紙とFAXが半分を超えるなら、価格改定のたびに両方へ手当てが要ります。
価格改定のたびに両方へ手当てが要る点に加えて、卸価格を分けるほど、登録先も照合先も増えます。得意先ごとに「どの価格表を適用中か」を一覧で出せるかどうかを、まず確かめてください。出せないうちは、価格改定のたびに営業と経理で別々の写しが増えていきます。整えるべきは価格の決め方ではなく、決めた価格の引き渡し方になります。
ここから先は、得意先の数と契約の形ごとに、卸価格の決め方と会計処理の詳細を見ていきます。
登録した卸価格がそのまま請求額になる段になると、価格の決め方と会計処理を切り離して直すことができなくなります。
得意先別の価格が収益認識と請求の要件を満たしたまま流れているかを、いまの台帳のまま点検できます。無料相談で要件を整理する
得意先別の卸価格で先に決めておくこと
- 基準となる価格表を一本に決め、得意先ごとの差額として卸価格を登録する
- 値引きとリベートを、伝票の摘要ではなく登録の区分で判別できるようにする
- リベートは変動対価の見積りとして、月次で収益から控除する形に載せる
- 請求書の端数処理を、税率ごとの合計の後ろへ一か所に寄せる
- 価格改定の履歴を、適用開始の時点とあわせて残す
この並びに優劣の順序はなく、ここから先は得意先の数と契約の形に応じた具体例を見ていきます。
ここからは、得意先の数と契約の形で分かれる三つの進め方を、表で見比べます。

得意先の数と契約の形で分かれる卸価格の進め方
| 読み手の状況 | 卸価格の決め方 | 会計処理で先に整えること |
|---|---|---|
| 表計算で卸価格を管理している小規模の卸 | 価格表の列を増やして得意先別の単価を持つ | 値引きを専用の列で記録する |
| 本社と支社で単価が分かれる多拠点取引 | 組織の階層ごとに基準からの差額を登録する | 請求先と出荷先を分けて集計する |
| 年間リベート契約を結んでいる取引 | 標準価格で請求し、期末に精算する | リベートを変動対価の見積りとして月次へ反映する |
表計算のまま卸価格を整える小規模の卸
得意先が数えられる範囲にとどまり、価格表は表計算で管理している場合です。改定のたびにファイルを複製し、「最新」「最新版」「最新版_確定」と名前が伸びていく光景は、どの会社にも一つはあります。この規模なら、仕組みを入れ替えるより、版の決め方を先に直す方が早く効きます。
先に挙げた登録の区分での切り分けに加えて、ここでは別の決め手が要ります。価格表の列を増やして得意先別の単価を並べるか、差額だけを「別表」として切り出すか、取引先が増える見込みで選びます。増える見込みが薄いうちは、列を並べる方が転記は少なくて済みます。
まず、価格表のファイル名へ適用開始の時点を入れ、改定前の版を別の場所へ移してください。次に、値引きの記録を伝票の摘要から専用の列へ移し、リベート契約書の写しを同じ場所へ集めます。表計算のままでも、「どの単価がいつから有効か」を一覧で出せれば、締めの照合はかなり軽くなります。
難易度は低く、工数は「価格表の作り直し」と社内の取り決めを合わせて数日ほどです。
| 決めること | 当面の進め方 |
|---|---|
| 価格表の版 | ファイル名へ適用開始の時点を入れ、改定前を別に保管する |
| 値引きの記録 | 専用の列で持ち、伝票の摘要へは書かない |
| リベートの記録 | 契約書の写しと見積り額を同じ場所へ集める |
表計算のままでも回るうちに版の管理と登録の区分を決めておくと、取引先が増えた時の作り直しを避けられます。
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本社と支社で単価が分かれる多拠点取引の卸価格
同じ企業グループでも、本社と支社で卸価格が違う取引です。窓口は本社でも、発注は各支社から入り、請求先は本社へ戻るという流れが続きます。「どの支社の注文か」で単価が変わるため、得意先コードを一つ持つだけでは足りません。
先に挙げた基準の価格表と差額の登録に加えて、ここでは、どこまで細かく階層を分けるかが決め手になります。経済産業省の令和6年度電子商取引に関する市場調査では、BtoB-EC化率(その他を除く)が2024年時点で43.1%に達しており1、複数拠点を抱える取引先ほど、卸価格を仕組みで管理する必要性が高まっています。仕組みの上限を一度確かめます。5階層までの組織階層で卸価格を切り替えられるBtoB-EC向けの仕組みがあり、本社・支社・部署と分けても収まる範囲です4。2026年時点で示されている対応の範囲で、自社の組織図がこれより深いなら、「どこでまとめるか」の判断が要ります。
階層を決めたら、基準となる卸価格を本社へ置き、支社は差額で登録します。部署単位の例外は、承認の記録とひも付けて残してください。「請求先」と「出荷先」が分かれる取引では、収益の計上先と請求書の宛先を取り違えないよう、集計の単位も先に決めておきます。
難易度は中ほどで、工数は「階層の洗い出し」と試験運用に月単位の時間を見込んでください。
| 組織の階層 | 卸価格の持たせ方 | 請求と仕訳での扱い |
|---|---|---|
| 本社 | 基準となる卸価格を登録する | 請求先としてまとめる |
| 支社 | 基準からの差額で登録する | 出荷元ごとに実績を集計する |
| 部署 | 例外のみ個別に登録する | 承認の記録を伝票へひも付ける |
組織の階層ごとに卸価格を分ける運用は、どこまで細かく分けるかを決めないまま進めると、例外の登録だけが積み上がります。
自社の取引先の組織図に対して、どの階層まで価格を分ける必要があるのかを整理できます。無料相談で自社の条件を持ち込む
年間リベート契約を結んでいる取引の会計処理
年間の購入金額に応じて、期末や四半期ごとに金額を戻す契約を結んでいる取引です。営業が結んだ条件を経理が後から知る形になりやすく、「聞いていない条項」が締めの直前に出てきます。契約の数が増えるほど、月次で見積る対象も増えます。
先に挙げた収益からの控除に加えて、ここでは見積りの置き方が決め手になります。達成の見込みが読める契約なら過去の実績から最頻値を置き、期末まで読めない契約なら期待値で置きます。どちらの場合も、「確定額」として帳簿へ載せない点は変わりません。
契約ごとに、条件・適用期間・見積り方法を一枚の台帳へ写してください。毎月、「見積り額と支払実績の差」を書き出しておくと、期末の調整が一度で済みます。差の大きい得意先から条件を見直せば、翌期の見積りは置きやすくなります。
難易度は高めで、工数は「契約の棚卸し」と見積り方法の合意に経理と営業双方の時間が要ることを踏まえ、ここまでの三つの進め方を要点として一覧で確かめます。
| 確かめる中身 | 記録の残し方 |
|---|---|
| リベートの条件 | 契約書の該当条項と適用期間を台帳へ写す |
| 見積りの方法 | 最頻値と期待値のどちらを選んだかを理由とともに残す |
| 月次の反映 | 見積り額と実績額の差を毎月書き出す |

リベートの見積りは契約条件と会計処理の両方にまたがるため、経理だけでも営業だけでも決めきれません。
契約ごとの条件を台帳へどう写せば月次の収益へ反映できるか、記録の形を確かめられます。無料相談で自社の条件を持ち込む
要点の整理
| 確かめる場面 | 判断の基準 |
|---|---|
| 卸価格の持たせ方 | 基準の価格表と得意先ごとの差額に分けているか |
| 値引きとリベートの切り分け | 伝票の摘要ではなく登録の区分で判別できるか |
| リベートの計上 | 確定額ではなく変動対価の見積りとして収益から控除しているか |
| 請求書の端数処理 | 税率ごとの合計の後ろで処理し、明細行では丸めていないか |
| 組織階層への対応 | 本社・支社・部署のどこまで卸価格を分けるか決まっているか |
| 受注経路の内訳 | 画面から入る受注と紙の受注の割合を数えているか |
卸価格の見直しは、価格表と受注の仕組みと月次の締めが同時に動くため、一つの部署だけでは完結しません。 どの順番で手を付ければ締めの手戻りが減るのか、自社の取引条件に沿った進め方を聞けます。
よくある質問
得意先ごとに卸価格を変えること自体に問題はありませんか
価格は取引条件の一部であり、合理的な理由があって得意先ごとに差があること自体は珍しくありません。ただし、取引規制に触れるかどうかは、当事者の関係や取引の形態によって個別に判断されます。ここで「問題ない」と言い切れる範囲ではないため、心配な契約は法務や専門家へ確認してください。
建値制とオープン価格制で仕訳は変わりますか
請求額そのものが下がる契約と、標準価格で請求して後から戻す契約とでは、帳簿へ残る金額の内訳が変わります。ただし具体的な仕訳の形は制度と契約の中身で分かれるため、一律の「型」を当てはめることは避けてください。自社の契約書で、どの時点の金額が対価として確定するかを先に確かめると判断しやすくなります。
リベートの見積り額が実績とずれたらどうしますか
変動対価は見積りである以上、実績との差は生じます。差が出た期に見積りを見直し、収益の額を調整する形で反映します。毎月「見積り額と支払実績の差」を一覧に残しておくと、期末の調整が一度で済みます。差の大きい得意先から契約条件を見直してください。
価格改定の途中で請求書を出す時、どの単価を使いますか
適用開始の時点を価格表に持たせ、出荷日と検収日のどちらを基準にするかを取引先と決めておきます。決めがないまま改定すると、同じ月の請求書に新旧の単価が混ざります。得意先ごとに「基準の日付の取り決め」があるかを数えて、空欄の先から埋めてください。
端数処理の方法は得意先ごとに変えられますか
切上げ・切捨て・四捨五入のどれを選ぶかは事業者が決められますが、請求書の中で税率ごとに処理する回数は決まっています3。得意先ごとに方法を変えると、社内の照合と得意先側の検収がそろわなくなります。社内で一つに決め、請求書の様式にも同じ方法を反映してください。
仕組みを入れ替えずに卸価格の管理を整えられますか
得意先の数が少なく、改定の頻度も低いなら、版の管理と「登録の区分」を決めるだけでも転記の手戻りは減ります。受注の経路が画面へ移っている場合は、登録内容がそのまま請求額になるため、台帳を一本にする効きが大きくなります。自社の受注の内訳を数えてから判断してください。
- 1 出典:経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査 報告書」(2025年) 経路
- 2 出典:企業会計基準委員会(ASBJ)「収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)・適用指針第30号」(2018年) 経路
- 3 出典:国税庁「軽減税率・インボイス制度対応室 応用編資料」(2023年) 経路
- 4 出典:株式会社フライトソリューションズ「EC-Riderお役立ちコラム『BtoB向けECサイトで取引先ごとに卸価格を切り替える』」(2026年) 経路
画像の出典元
- Employees interacting at a sleek office reception desk, fost/Photo by cottonbro studio on Pexels
- Professionals in a meeting room engaged in a collaborative b/Photo by Gustavo Fring on Pexels
- 60代前半の日本人男性が会議室の準備をしている場面/画像:生成AI(自社)