◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 取引先を段階に分けて卸価格を変えること自体は独占禁止法でただちに禁じられておらず、区分の軸と閾値を明確にして取引先に示すことが出発点になる
- 階層設計で問われるのは差の大きさより付き方で、占有率に応じたリベートや著しく累進的なリベートは競争品の取扱いを制限し、市場シェア20%超が一応の目安となる有力事業者が行うと問題となりうる
- 取引先がチェーンの場合、本部一括交渉と拠点別契約のどちらでも、取引依存度と協議の経過、他の取引先と比べた差を説明できるかが確認点になる
- 自社が多拠点の場合は地域による差も規制の対象に含まれるため、拠点別の実費で説明できる範囲にとどめ、商品価格と配送条件を分けて設計する
- 基準の文書化と価格提示・協議の記録は、後から理由を説明するための材料であり、個別の適法性は事案ごとの総合判断による
目次

取引先の増加・多拠点化で一律卸価格が難しくなったときの考え方
取引先が増えて、まとまった数量を引き取る小売チェーンと、少量を都度発注する個人店に同じ卸値を出し続けるのが苦しくなる。
倉庫を二拠点に分けたら、遠方へ小口で送る負担も見えてきた。
この段階で変えられるのは、個別の値引きを認めるかどうかではなく、価格を分ける基準そのものです。
取引先を段階に分けて卸価格を変えること自体は、独占禁止法でただちに禁じられているわけではありません。
鍵になるのは、区分の基準を明確にして取引先に示すこと、階層間の差やリベートを過度に累進させないこと、価格を一方的に決めず協議の経過を残すことです。
取引先がチェーンの場合も、自社が多拠点の場合も、確かめる中身はこの三点に戻ってきます。
取引先が増えるほど、一律の卸価格は「誰にも合わない価格」に近づいていきます。
まとまった数量を定期的に引き取る取引先からは高いと言われ、少量を都度発注する取引先に合わせると採算が合わない、という板挟みになります。
その場で値引きを認める対応を重ねるうちに、社内の誰も全体像を説明できない価格表ができあがります。
自社や取引先が多拠点になると、このずれはさらに広がります。
同じ商品でも、どの倉庫から出すか、店舗単位で小口に配送するか物流センターへまとめて納品するかで、自社側の負担は変わります。
取引先の側も、本部が一括で条件を決める会社と、店舗ごとに発注する会社とでは、そもそも価格を提示する相手が違います。
こうした場面で多くの事業者が先に気にするのは、「取引先によって値段を変えて大丈夫なのか」という点です。
不公正な取引方法を定めた告示では、一般指定第3項として「不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもつて、商品若しくは役務を供給し、又はこれらの供給を受けること」が挙げられています1。
ここで目を留めたいのが「不当に」という限定です。
相手方や地域によって価格が違うこと自体をすべて禁じた規定ではなく、不当と評価される差別が問題になる、という構造になっています。
この告示は特定の業種に限らず全業種を対象としています1。
では、不当と言われない差とは何か。
流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針では、リベートの供与基準を明確にして取引の相手方に示している場合や、販売コストの支援など異なる基準を合理的に使い分けている場合には、数量リベートなどは市場実態に即した価格形成を促す面があり、独占禁止法上問題になりにくいとされています2。
逆に言えば、基準が社内にも取引先にも示されていない状態での価格差は、後から理由を説明する材料を持たないということです。
だから着手する順序は、基準の設計が先になります。
これまでに認めてきた個別の値引き実績を後から階層に当てはめる順序だと、階層そのものが例外の寄せ集めになり、なぜその取引先だけ安いのかを説明できなくなります。
先に軸と閾値を決め、既存の取引先をその軸で並べ直して、外れる先がどれだけあるかを見る。
外れた先が多ければ、軸の選び方か閾値の置き方が自社の取引実態に合っていない、という判断ができます。
なお、ある価格体系が独占禁止法に触れるかどうかは、最終的には公正取引委員会が個別の事案ごとに総合的に判断します。
以降で扱うのは、判断されたときに自社の理由を説明できる状態をどう作るか、という運用の話です。
卸価格の階層はどんな基準で区分すべきか
基準を明確にし取引先へ開示する
指針が挙げている条件のうち、実務で最も手をつけやすいのは「基準を明確にし、取引の相手方に示している」ことです2。
ただ、明確という言葉は解釈の幅が広いので、自社の運用に置き換えて考える必要があります。
実務的には、社内の別の担当者が同じ資料を見たときに、同じ取引先を同じ階層に判定できるかどうかが目安になります。
そのためには、何を数えるか(数量か金額か、税抜か税込か)、いつからいつまでを数えるか(直近12か月か前年度実績か)、いつ判定するか(年1回か半期ごとか)、どの単位で数えるか(法人単位か店舗単位か)まで決まっている必要があります。
ここが曖昧なまま「大口は安く」と決めると、担当者ごとに判定が揺れ、結果として説明できない価格差が生まれます。
取引先へ示す範囲も迷いやすいところです。
全取引先に全階層の価格表を配ることが求められているわけではありませんが、少なくともその取引先が、自分がどの階層に当たるのか、どの条件を満たせば上の階層になるのかを理解できる状態にはしておきたいところです。
階層が上がる条件が分かっていれば、価格差は「達成できる条件の違い」として受け止められますが、条件が分からなければ「あの会社だけ優遇されている」という話になります。
なお、どの軸をどの比率で組み合わせるべきかを定めた公的な基準の一覧はありません。
区分の中身そのものは、自社の費用構造と取引実態に即して自ら定めることになります。
だからこそ、決めた基準を文書として残し、決め方の理由を説明できるようにしておくことに意味があります。
複数の基準(数量・与信・契約継続性等)を組み合わせる場合の注意
区分の軸は一つとは限りません。
年間の仕入数量や金額、決済条件、納品の形態、取引の継続年数、販促への協力など、候補はいくつもあります。
ただし、軸によって「自社の負担差やリスク差との結び付きやすさ」がかなり違います。
数量や金額は、まとめ出荷による作業効率や与信管理の手間と結び付けて説明しやすい軸です。
決済条件も、前払や現金決済なら回収リスクと資金繰りの差として説明できます。
納品形態も同様で、店舗ごとの小口配送と物流センターへの一括納品では、ピッキングと配送の手間が実際に違います。
一方、取引の継続年数や販促への協力度は、自社側の費用差に直結しにくく、評価する人によって判断が揺れやすい軸です。
使ってはいけないということではありませんが、なぜその項目が価格に影響するのかを、他の取引先にも同じ物差しで当てはめられる形にしておく必要があります。
複数の軸を組み合わせると、今度は判定の透明性が落ちます。
点数化して合計で階層を決める方法は柔軟ですが、配点を公開しないまま運用すると、結局は担当者の裁量で階層が動く仕組みになります。
境界付近の扱い(わずかに閾値を下回った先をどうするか、期中に数量が急増した先をいつ昇格させるか)を先に決めておくと、例外の判断を毎回迫られずに済みます。
もう一つ、リベートを目的別に分けておくことも整理に役立ちます。
指針では、販売コストの支援など異なる基準を合理的に使い分けている場合にも、独占禁止法上問題になりにくいとされています2。
数量に応じた割戻しと、販促協力に対する支払いと、物流条件に応じた調整を一つの数字に混ぜてしまうと、後から「この差は何の対価か」を説明できません。
目的ごとに算定式と支払時期を分けておけば、取引先から理由を聞かれたときに、該当する部分だけを示して答えられます。
例外運用の扱いも見落とせません。
基準を作っても、1社だけ例外で上の階層の価格を出す運用が続くと、その例外こそが問題になります。
優越的地位の濫用に関する考え方でも、対価の決定を評価する際には、他の取引先と比べた差別性が判断材料の一つとされています3。
例外を完全になくす必要はありませんが、誰が承認し、どの理由で、いつまで認めるのかを記録に残す仕組みは必要です。
階層間の価格差やリベートを独禁法上問題なく設計するには
基準が決まると、次に迷うのは「では、どのくらい差をつけてよいのか」です。
結論から言えば、差の大きさそのものより、差の付き方のほうが独占禁止法上の論点になります。
指針では、占有率リベートや著しく累進的なリベートによって競争品の取扱いを制限する場合、市場における有力事業者がこれを行うと市場閉鎖効果が生じ、独占禁止法上問題となりうるとされています2。
ここでいう有力事業者は、市場シェア20%超が一応の目安とされています2。
占有率リベートとは、取引先の仕入れ全体に占める自社商品の割合に応じて支払う形のものです。
この形は、取引先が他社商品を扱うほど自社からの割戻しが減る構造になるため、価格の話でありながら、実質的には競争品を扱いにくくする効果を持ちます。
著しく累進的という点も、階層設計に直接関わります。
階層の段差が大きいほど、境界の少し手前にいる取引先には「あと少し発注すれば、これまでの分も含めて全体が安くなる」という強い誘因が働きます。
段差が極端になると、その誘因は事実上の数量の縛りに近づいていきます。
段の数を増やして一段あたりの差をなだらかにする、あるいは閾値を超えた分だけに適用する形にするなど、段差の効き方を弱める設計は、この点を意識した組み立てと言えます。
自社が市場シェア20%超の目安に当たらないと考えている場合でも、価格差の設計から完全に自由になるわけではありません。
一般指定第3項の差別的対価の規定は、業種や規模で適用が外れる形にはなっておらず、全業種を対象としています1。
同じ規模で同じ条件の取引先の間に、基準では説明できない大きな価格差があれば、その差がなぜ生じたのかは問われうる、という前提で考えておくのが現実的です。
逆に言えば、階層ごとの差を、自社が実際に負担している費用やリスクの差の範囲で説明できるように組み立てておけば、説明の筋は通ります。
まとめ出荷で削減できる作業時間、前払で減る回収リスク、センター納品で減る配送回数。
こうした具体的な差と、階層間の価格差の方向がそろっているかを、設計の段階で一度突き合わせておくと、後の説明が楽になります。
なお、有力事業者に当たるかどうかは、どの範囲を一つの市場として捉えるかによって変わります。
商品の種類や地域の取り方で分母が変わるため、自社の感覚だけで「うちは小さいから関係ない」と決めてしまうのは避けたいところです。
ここまでで、階層そのものの作り方と、階層間の差の付け方の考え方は整理できました。
残るのは、その階層を誰に対して適用するかという単位の問題です。
基準の考え方までは整理できても、自社の取引先をどの軸で切れば階層が破綻しないかは、実際の受注と出荷の実績を並べてみないと判断できません。
取引先ごとの数量や納品条件、これまで認めてきた個別値引きを持ち寄れば、どの軸なら価格差の理由として説明できそうか、例外がどこに溜まっているかを一緒に確認できます。無料相談で要件を整理する
階層の区分に使う軸と、価格差の理由として説明するときに確かめること
自社が負担する費用やリスクの差と結び付けて説明しやすい軸から、評価の主観が入りやすい軸へ並べています。
- 年間の仕入数量・金額:まとめ出荷による作業効率や与信管理の手間と結び付けやすい。数える対象(数量か金額か)と判定期間をそろえておく
- 決済条件:前払・現金決済などは回収リスクと資金繰りの差として説明できる。条件が変わった取引先をいつ再判定するかを決めておく
- 納品形態:店舗への小口配送とセンターへの一括納品では配送・作業の手間が異なる。多拠点の取引先では店舗ごとに形態が混在しやすい
- 取引の継続年数:長期取引の安定性を評価する軸だが、自社の費用差に直結しにくい。他の取引先にも同じ物差しで当てはまるかを確認する
- 販促への協力:数量に応じた割戻しと混ぜず、目的と算定式を分けて扱う。何の対価かを説明できる形にしておく
自社の取引先の大半がどの軸で差がつくかによって、主に使う軸と補助に回す軸は入れ替わります。

取引先が多拠点(チェーン)の場合、本部一括交渉と拠点別契約のどちらを選ぶか
| 適用単位 | 価格の決まり方 | 独禁法上とくに確かめること | 向きやすい場面 |
|---|---|---|---|
| 本部一括交渉型 | 本部との合意で全店舗分の価格を一本化する | 取引依存度と協議の経過、他の取引先と比べて説明できない差がないか | 店舗ごとの条件差が小さく、発注も本部に集約されている場合 |
| 拠点(店舗)別契約型 | 店舗・支店ごとに個別に契約し価格を決める | 拠点ごとに条件が違う合理的な理由、地域や相手方による不当な差別的対価になっていないか | 店舗の規模・与信・納品条件の差が大きく、発注も店舗単位で行われる場合 |
本部が全店舗分をまとめて決める場合に確かめること
チェーン本部が全店舗分の条件を一括して交渉し、価格も本部との合意で一本化する形です。
自社から見れば窓口が一つになり、価格表も単純になります。
その分、一回の交渉で決まる金額が大きく、条件の押し引きが強く出やすい形でもあります。
この形で問題になりやすいのは、価格を一方的に決めたと評価されないかという点です。
優越的地位の濫用に関する考え方では、対価を一方的に決定する場合であっても、取引の相手方との十分な協議の有無、他の取引先との比較における差別性、仕入価格を下回るかどうかなどを総合的に判断するとされ、需給関係を反映した交渉の一環であれば問題とならないとされています3。
つまり、結果として厳しい条件になったことだけで直ちに問題になるのではなく、そこへ至る過程が見られるということです。
立場によって、注意すべき向きが変わります。
自社の売上の大きな部分を一つのチェーンが占めていて、その取引を失うと事業が立ち行かないという関係であれば、本部から提示された条件を受け入れざるを得ない側は自社です。
反対に、自社の商品が取引先の品揃えに欠かせず、小規模なチェーンが仕入先を容易に変えられないという関係であれば、条件を示す側である自社の提示の仕方が見られます。
優越した地位に当たるかどうかは、市場を支配するほどの地位までは必要とされず、取引依存度、市場における地位、取引先を変更できる可能性、取引を続ける必要性といった具体的な事情から判断される、という整理です3。
そのため、本部一括で決める場合ほど、経過を残す意味が大きくなります。
いつ、どの条件を提示し、相手がどう回答し、どこを修正して合意に至ったのか。
担当者の記憶ではなく記録として残っていれば、他の取引先と条件が違う理由も、その場の力関係ではなく交渉の内容として説明できます。
もう一点、一括で価格を決めるということは、店舗ごとの条件差を価格に反映しないという選択でもあります。
都市部の小型店と郊外の大型店で納品の手間が大きく違うのに価格が同じなら、その差は自社が吸収していることになります。
吸収できる範囲かどうかは、配送条件や最低ロットなど、価格以外の条件で調整できているかを含めて確認しておきたいところです。

店舗ごとに契約し価格を決める場合に確かめること
店舗や支店ごとに個別に契約を結び、それぞれの取引条件に応じて価格を決める形です。
発注も店舗単位で行われ、規模や与信の状況が店舗によって大きく違う場合には、実態に合った形になります。
この形で確かめたいのは、店舗ごとの価格差が何に由来しているかです。
一般指定第3項は、地域または相手方によって不当に差別的な対価で供給することを不公正な取引方法として挙げています1。
同じチェーンに属する店舗の間で価格が違う場合、その差が発注規模や決済条件、納品形態といった説明できる条件の違いから生じているのか、単に交渉した担当者が違うから生じているのかで、意味はまったく変わります。
実際に起きやすいのは後者です。
店舗ごとに担当営業が付き、それぞれが独自の判断で値引きを認めていくと、条件がほとんど同じ二つの店舗に別々の価格が出ます。
後になって本部がその差に気づき、低いほうの価格に全店をそろえるよう求めてくる、という展開も想定できます。
店舗別に契約するとしても、階層の判定は共通の基準で行い、価格差は基準で説明できる範囲に収める、という運用が現実的です。
与信の差を価格に反映する場合も、同じ考え方が当てはまります。
新規開店した店舗と長く取引のある店舗で条件を変えるなら、何をもって条件を戻すのか(取引期間か、支払遅延がない実績か)を先に決めておきます。
戻す条件が決まっていないと、いつまでも不利な価格に据え置かれた店舗から理由を問われたとき、答えが個別の判断になってしまいます。
本部一括と拠点別のどちらが有利か、一般論としての答えはありません。
どちらの形でも、取引依存度と協議の経過は確認され3、価格差は基準で説明できるかが問われます1。
チェーンの発注が本部に集約されているか店舗に分かれているか、店舗間の条件差が大きいかという実態に合わせて選び、選んだ形に応じて記録の取り方を決めるのが、実務的な順序です。
自社が多拠点の場合、卸価格は拠点間で統一すべきか地域差を反映すべきか
ここまでは取引先側の拠点の話でしたが、自社が複数の倉庫や支店を持つ場合にも、似た迷いが出ます。
関東の倉庫から近隣へ届けるのと、関西の倉庫から遠方の離島へ送るのとでは、同じ商品でも自社の負担はまったく違います。
それなら出荷元や届け先の地域によって卸価格を変えてよいのか、という問いです。
一般指定第3項が「地域又は相手方により」と書いていることは、ここで効いてきます1。
相手方ごとの差だけでなく、地域による差も条文の対象に含まれている以上、地域差を設ける場合も「不当」と言われない理由が必要になります。
地域差の理由として持ち出しやすいのは、物流にかかる費用の差です。
物流費は売上に対して無視できない大きさを持ちます。
2022年度の物流コスト調査(有効回答195社)では、売上高物流コスト比率は全業種平均で5.31%とされています4。
ただしこの数値は全業種の平均であり、卸売業に限った値でも、拠点間でどれだけ差があるかを示した値でもありません。
したがって「地域差はこのくらいまでなら妥当」という根拠には使えず、自社の拠点ごとの実費、つまり路線便の運賃、配送距離、倉庫の作業費を集計して初めて、差の理由を説明する材料になります。
設計の選択肢として検討しやすいのは、商品本体の卸価格は全社で統一し、拠点や地域による差は配送条件のほうで表す形です。
送料の負担区分、送料無料になる最低発注ロット、納品リードタイムといった条件は、費用差との対応が分かりやすく、取引先にも説明しやすくなります。
価格そのものに地域差を織り込むと、階層による差と地域による差が一つの数字に混ざり、なぜこの取引先がこの価格なのかを分解して説明できなくなります。
もう一つ、自社が多拠点であることから生じる内部の問題もあります。
拠点ごとに営業担当が独自の値引きを出していると、同じ取引先が窓口にした拠点によって違う価格を受け取ることになります。
取引先の側が多拠点であれば、この違いは店舗間で共有され、いずれ本部から指摘されます。
取引先を法人単位で名寄せし、階層の判定は全社共通で行ったうえで、拠点が持てる裁量の範囲をあらかじめ決めておく必要があります。
地域差を設ける判断をする場合は、算定の根拠も残しておきます。
どの費目を、どの単位で、どう按分して差を出したのか。
この記録がないと、数年後に担当者が変わった時点で、自社でも差の理由を再現できなくなります。

差別対価・優越的地位の濫用に抵触しないための実務チェックリスト
階層基準の文書化
ここまで見てきた確認点は、突き詰めると「後から理由を説明できる材料が残っているか」に集まります。
その材料の一つ目が、階層基準そのものの文書です。
文書に含めておきたいのは、区分に使う軸と閾値、数える対象と判定の期間・時点、適用の開始と終了、リベートがある場合はその算定式と支払時期、そして例外を認めるときの手続と承認者です。
この範囲が書かれていれば、社内の誰が見ても同じ判定ができ、取引先へ示す内容もそこから切り出せます。
指針が挙げている「基準を明確にし取引の相手方に示している場合」という条件2を、自社の運用として形にしたものがこの文書に当たります。
作った文書は、運用の実態と離れていないかを定期的に確かめます。
例外承認が増えている軸があれば、その軸が実態に合っていない可能性があります。
文書があること自体が目的ではなく、実際の価格がその文書から説明できる状態を保つことが目的です。
価格改定時の協議記録の残し方
材料の二つ目は、価格を決めるときの経過です。
対価の決定を評価する際には、取引の相手方との十分な協議の有無が判断材料の一つとされています3。
協議したかどうかは、記録がなければ確かめようがありません。
残す項目は複雑である必要はありません。
いつ、どの条件を、どの方法で提示したか。
相手からどのような回答や要望があったか。
どこを修正して、いつ合意したか。
メールのやりとりが残っているならそれで足りますし、対面や電話で決めた場合は、その日のうちに内容を書面やメールで送って相手の確認を得ておけば、同じ役割を果たします。
とくに記録の意味が大きいのは、値上げのときと、階層を下げるときです。
取引先にとって不利な変更は、一方的に通知されたと受け取られやすく、後から理由を問われる可能性も高くなります。
変更の理由、判定に使った実績、適用の開始時期を示し、相手の意見を聞く期間を置いてから適用する。
この手順を踏んでおけば、結果として相手が納得しなかった場合でも、決め方そのものは説明できます。
最後に、本記事の整理の位置づけに触れておきます。
ここで述べてきたのは、差別的対価に関する告示1、リベートと基準の明確化に関する指針2、対価の決定と協議に関する考え方3という、それぞれ独立した資料を、卸価格の階層設計という一つの場面に当てはめて組み立てた整理です。
公正取引委員会が個別の事案について示した判断そのものではありません。
自社の階層設計や契約形態が適法かどうかの最終的な判断は、事案ごとの総合判断によるため、金額や条件が大きい取引、他社の取扱いを制限する効果が生じうる設計については、専門家への確認を前提に進めるのが安全です。
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 階層を分ける前提 | 区分の軸と閾値、判定期間を文書にし、取引先が自分の階層と昇格条件を理解できる状態にする |
| 価格差の付け方 | 自社が負担する費用やリスクの差で説明できる範囲にとどめ、占有率に応じた形や著しい累進は避ける |
| 取引先がチェーンの場合 | 本部一括か拠点別かにかかわらず、取引依存度と協議の経過を記録し、店舗間の差は共通基準で説明できる範囲に収める |
| 自社が多拠点の場合 | 地域差も差別的対価の規定の対象に含まれるため、拠点別の実費で説明できる範囲に限り、価格差と配送条件を分けて設計する |
| 価格改定時 | 提示日・提示内容・相手の回答・合意日を残し、不利な変更は理由と適用時期を先に伝える |
階層を決めた後には、受注時にどの価格を引き当てるか、拠点をまたぐ取引先をどう名寄せするかという運用の問題が残ります。 現在の価格表と受注の流れを見ながら、階層の判定と協議の記録をどこで持つか、見直しのたびに何を残せばよいかを整理できます。
よくある質問
階層価格を導入する際、契約書や取引条件通知書にはどんな項目を明記すべきか
法令が様式を定めているわけではありませんが、基準を明確にして相手方に示すという指針の考え方2に沿うなら、少なくとも適用する階層と単価、その階層に該当する条件、判定の対象期間と判定の時点、適用期間、リベートがある場合は算定方法と支払時期、そして条件が変わったときの見直し手続を書いておくと、後から説明ができます。
取引先ごとの通知書にはその取引先に関係する範囲だけを載せ、全体の基準は社内文書として持つ形でも構いません。
重要なのは、通知書に書かれた価格が社内の基準から導けることです。
取引先から価格差の理由を聞かれた場合、どう説明すれば優越的地位の濫用と疑われにくいか
他社の具体的な価格を挙げるのではなく、自社が使っている区分の軸と、その取引先が現在どの階層に当たるか、どの条件を満たせば階層が変わるかを示すのが基本です。
対価の決定は、十分な協議の有無や他の取引先との比較における差別性などから総合的に判断されるとされています3。
説明の場で相手の意見を聞き、その内容を記録に残しておけば、協議の経過そのものが材料になります。
逆に「決まりですから」とだけ答える対応は、基準があっても一方的な決定と受け取られやすくなります。
階層区分を後から見直す(格下げする)場合に注意すべきことは何か
格下げは取引先にとって不利な変更なので、判定の根拠と適用時期を先に伝え、意見を述べる期間を置いてから適用するのが無難です。
このとき効いてくるのが、最初に決めた判定期間と判定時点です。
あらかじめ「直近12か月の実績で毎年見直す」と示してあれば、格下げは基準どおりの運用として説明できます。
基準に定めていない時期に個別に引き下げると、他の取引先との扱いの違いを問われたときに、理由を示しにくくなります3。
自社が市場シェアの大きい有力事業者に該当するかどうかはどう判断すればよいか
指針では、市場における有力事業者の一応の目安として市場シェア20%超が示されています2。
ただし、この割合は分母となる市場をどう捉えるかで変わります。
商品の範囲を広く取れば低く、特定の商品分野や地域に絞れば高く出るため、自社の感覚だけで結論を出すのは難しい部分です。
占有率リベートや強い累進のある割戻しを導入しようとしている場合は、その設計が競争品の取扱いにどう影響するかとあわせて、専門家に確認しておくのが現実的です。
- 1 出典:公正取引委員会「不公正な取引方法(告示)」(1982年)
- 2 出典:公正取引委員会「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(1991年発出・2026年最終改正)
- 3 出典:公正取引委員会「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(2010年発出・2026年最終改正)
- 4 出典:公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会「2022年度物流コスト調査(速報値)」(2022年度)
画像の出典元
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- Two businessmen shaking hands outside a modern office buildi/Photo by Vitaly Gariev on Pexels
- Close-up of a business handshake between professionals outdo/Photo by Ketut Subiyanto on Pexels
- Professional handshake symbolizing cooperation and partnersh/Photo by olia danilevich on Pexels