◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 交渉で通した値上げ分を卸価格へ移す速さが要で、価格転嫁率53.5%は全業種の中小企業を対象とした全国調査の値です1
- 得意先の組織階層に応じた卸価格の切り替えは5階層まで扱え、掛け率表の手作業を仕組みへ移せます2
- 大規模なカスタマイズの初期費用1500万円はモデルケースで示された下限であり、上限ではありません5
目次

価格転嫁率53.5%でも動かぬ掛け率
得意先ごとの卸価格を一枚の「掛け率表」で抱えたままだと、値上げのたびに転記と照合が増えます。卸価格を得意先の組織階層へひも付ける形へ移せば、改定のたびの手作業を減らし、価格の食い違いによる受注の取りこぼしを避けやすくなります。
夕方の事務所、めくられる「掛け率表」の紙。営業企画の担当者が、蛍光ペンの匂いが残る行に線を引いています。原材料費の上昇分は先方へ説明して通ったのに、卸価格へ反映する作業だけが机の上に残ります。蛍光ペンの線は増えるのに、表計算の列は画面の右へ逃げていきます。値上げの合意は会議室で終わり、そこから先は手の仕事として積み上がります。
ここで一度、交渉そのものの結果を見ます。53.5%が、全国調査で示された中小企業の価格転嫁率で、上がったコストの半分をやや超える分だけ販売価格へ移せた計算になります1。2025年のこの調査は全業種の中小企業を対象としており、卸売業だけを取り出した値ではありません。動いていないのは交渉ではなく、掛け率の更新です。反映が遅れれば、古い単価のまま「請求」へ流れる場面が出ます。
その「請求」に流れ込む古い単価の陰で、53.5%という全業種を通した転嫁率が、卸売業に固有の反映の遅れを覆い隠しています1。値上げの合意そのものが得られていても、掛け率表への転記が翌月にずれ込めば、その月の請求は旧単価のまま流れてしまいます。交渉の成果と反映の速さは別々の指標として、両方を追っておく必要があります。
改定のたびに繰り返す「掛け率表」の手直しは、担当者の残業という形で毎回支払われている費用です。
取引先拡大が招く手作業の限界
加盟店3,000社・品種3,800の卸売網
日東電工CSシステム株式会社は、全国の販売加盟店へ向けて製品を卸しています。取り扱う品種と加盟店の数が増えるほど、「得意先ごとの掛け率」の組み合わせは掛け算で膨らみ、掛け率表への転記と照合がそのぶん増えます。自社ではどうか、取引先の数と品目の数を一度かけ合わせて数えてみてください。
数の見当を先に置きます。3,000社が、同社が全国に持つ販売加盟店の数で、取り扱う品種は3,800にのぼります3。25,000品が、2020年に公開したBtoBサイト「ハルイチ」の初期掲載数です3。品種の一つひとつに加盟店ごとの掛け率が付くため、単価を手で直す進め方は早い段階で行き詰まります。
3,000社の加盟店に3,800品種が重なると、担当者が一件ずつ目視で確認しなければならない組み合わせの数は膨大になります3。値上げのたびにこの組み合わせをすべて開いて手直しする進め方では、確認漏れが起きやすくなります。組み合わせの規模そのものが、手作業を続けられるかどうかの分かれ目になります。
商品点数2万点規模のEC移行
株式会社ポディウムは、取扱商品をECへ移す際に、登録済みの商品情報の整理から手を付けました。卸価格の切り替えは、商品情報が整っていなければ動きません。「まず商品を並べる」ではなく、「まず商品を絞る」という順序で進める場面もありますね。
規模を数で押さえます。20,000点が、同社が精査前に登録していたおよその商品点数で、2025年に公開された事例の値です4。掲載の前に「精査」を挟むかどうかで、その後の確認の手間が変わります。価格の付け先を品目から得意先の属性へ移す判断が、設定を始める前に必要になります。
20,000点という登録数は、精査を経ないまま卸価格の設定へ進めば、そのまま設定作業の件数として残ることを示しています4。品目を絞ってから卸価格を設定する順序を取るかどうかで、その後の改定にかかる手間が変わります。移行の入り口で商品情報を整理しておく判断が、後工程の負荷を左右します。
400万円というEC-Riderの小規模なカスタマイズの初期費用の下限は、改定のたびの「手直し」を何年ぶん引き受けるかという物差しで測る額です5。
階層別卸価格という代替の仕組み
代わりの進め方は、卸価格を「品目の値札」ではなく「得意先の属性」へひも付ける形です。得意先を属する組織の階層で束ね、その階層に対して卸価格を割り当てます。本社と支店、代理店とその下にぶら下がる店舗まで、取引の関係をそのまま価格の設定へ移せます。改定のときに触るのは、階層へ結び付いた設定です。
対応の幅を一つ確かめます。5階層が、得意先の組織階層に応じて卸価格を切り替えられる上限で、2026年時点の値です2。同じ「商流」の中で本社・支社・営業所が重なっても、階層をたどって適用する卸価格が決まります。値上げのたびに全件を開くか、階層の設定を一度直すかで、担当者の作業量は大きく変わります。
5階層という上限は、本社・支社・代理店・配下店舗といった一般的な商流の深さをおおむね覆う数です2。この上限を超える階層構造を持つ事業者では、どこかの段階で複数の階層を一つに束ねる工夫が要ります。階層の設計を始める前に、自社の商流が何段で成り立っているかを数えておく必要があります。
小規模事業者向け初期費用の水準
取引先の数がまだ絞られている段階では、階層の設計も軽く済みます。既存の「販売管理」との連携を後回しにできるなら、最初の作り込みは受注と卸価格の設定に集中できます。まず動かして、足りない部分をあとから足していく進め方が取れます。
金額の目安を並べます。170,000円が、EC-Rider B2B Ⅱの「ベースエンジン利用料」の月額の下限で、2026年時点の値です5。400万円からの初期費用とは別に、毎月この利用料が積み上がる形です5。自社の改定が年に何回あるか、直近1年の回数と合わせて数えてみてください。
400万円からの初期費用に170,000円からの月額を重ねると、小規模な導入でも一年目の負担は初期費用だけでは収まりません5。改定の回数が少ない事業者ほど、月額の利用料が全体の費用感に占める比重は大きくなります。この小規模な水準を確かめたところで、次は基幹システムまで作り込む大規模な水準へ話を進めます。
大規模事業者向け初期投資の水準

基幹システムとの連携や独自の承認の流れまで作り込むなら、初期の投資は別の桁になります。「在庫」「与信」「請求」を既存の仕組みと突き合わせる範囲が広がるほど、設計と試験に時間がかかります。どこまでを作り込み、どこからを運用で吸収するかという決めごとが、金額を左右します。
桁を一つ確かめます。1500万円が、EC-Riderの大規模なカスタマイズの「モデルケース」で示された初期費用の下限で、2026年時点の値です5。この額は下限であり、上限ではありません。連携する仕組みの数や移行する商品情報の量によって、見積もりは上へ動きます。
1500万円という下限は、400万円からの小規模なカスタマイズと比べて、投資の規模が一段違うことを示しています5。基幹システムとの連携を後回しにできるかどうかが、この二つの水準のどちらに近づくかを決める分かれ目になります。作り込みの範囲を早い段階で決めておくと、見積もりの桁を早めに見通せます。
ここから先は、取引先の構えごとの卸価格の決め方と、費用の見当。
作り込む範囲によって初期費用の下限は大きく動くため、自社の連携の条件を並べたうえで見積もりの前提をそろえる必要があります。
連携する仕組みの数と移行する商品情報の量を伝えれば、初期費用がどこまで上へ動くかの見当を確かめられます。無料相談で要件を整理する
掛け率の更新を軽くする打ち手
- 得意先の組織階層へ卸価格をひも付け、階層の設定だけで改定を反映する
- 品目ごとの例外価格を減らし、階層の設定で吸収できる範囲を広げる
- 商品情報を精査し、掲載する品目を絞ってから卸価格を設定する
- 掛け率の適用の開始を記録し、見積と請求の単価を突き合わせる
- 既存の販売管理との連携範囲を決め、作り込む部分と運用で吸収する部分を分ける
この並びに優劣の順序はありません。
どの打ち手を先に置くかは取引先の構えで変わるため、当てはまる事業者ごとに進め方を分けて見ていきます。

取引先の構えごとの卸価格の決め方
| 当てはまる事業者 | 卸価格の決め方 | 先に着手する作業 |
|---|---|---|
| 得意先ごとに掛け率が分かれる製造業 | 得意先の属性へ掛け率をひも付ける | 現在の掛け率表の重複をそろえる |
| 販売代理店を束ねる卸売業 | 組織の階層へ卸価格を割り当てる | 代理店と配下の店舗の関係を登録する |
| 品目数が先に膨らんでいる事業者 | 掲載する品目を絞ってから卸価格を付ける | 商品情報の精査と重複の削除 |
掛け率の重複を先にそろえる進め方
得意先ごとに交渉の経緯が違うと、同じ品目へ何種類もの掛け率が並びます。ここで最初に確かめるのは、階層の数よりも「掛け率の重複」です。同じ条件の得意先が別々の掛け率で登録されていないか、一覧を並べて数えてください。重複を残したまま仕組みへ移すと、そのまま設定の件数として持ち込むことになります。
費用の見当も先に置きます。170,000円からの月額の利用料は、階層の設計が軽い段階でも同じく発生します5。作り込みを足さずに始めるなら、初期の作業は掛け率の整理へ集中します。
掛け率の重複をそろえる作業は、53.5%という転嫁率の背後にある反映の遅れをそのまま解消する作業でもあります1。交渉で合意した値上げ幅が、重複した掛け率のどれに反映されているかを一つずつ確認する手間は、件数が少ない段階のほうが軽く済みます。取引先の数が少ないうちにこの整理を済ませておく判断が、後の負担を減らします。
難易度は低めで、工数の大半は「掛け率の整理」に向きます。
| 確かめる項目 | この場合の見方 |
|---|---|
| 掛け率の種類 | 同じ条件の得意先で重複していないか |
| 例外の価格 | 品目ごとの特例をどこまで残すか |
| 連携の範囲 | 販売管理との突き合わせを後回しにできるか |
同じ条件の得意先で掛け率が重複していると、卸価格を仕組みへ移す前に整理の範囲を決めておく必要があります。
手元の掛け率表をそのまま持ち込み、どこまでを階層の設定へ寄せられるかを相談できます。無料相談で自社の条件を持ち込む
組織の階層へ卸価格を割り当てる進め方
代理店とその配下の店舗まで含めると、取引の相手は社数以上の広がりを持ちます。ここで置く基準は、掛け率の種類の多さよりも「組織の関係の深さ」です。本社と支店、代理店と店舗のどこまでを登録するかで、設定の量が変わります。
規模を思い出します。3,000社という加盟店の広がりに3,800の品種が重なると、「一件ずつ」の設定では追いつきません3。階層の設定へ寄せるほど、改定のときに開く画面は少なくて済みます。
25,000品という初期掲載数と3,800の品種、3,000社の加盟店を重ねると、品目単位で掛け率を管理する進め方は組み合わせの数だけで行き詰まります3。階層で束ねる設計に切り替えるかどうかの判断は、この組み合わせの規模を実際に数えた時点で下ります。数えてみて初めて、階層化の必要性が見えてくる事業者もあります。
難易度は中ほどで、工数は「代理店と店舗の関係の登録」へ最も多く向かいます。
| 確かめる項目 | この場合の見方 |
|---|---|
| 階層の深さ | 本社から店舗まで何段で束ねるか |
| 卸価格の適用 | 上位の階層の設定を下位へ引き継ぐか |
| 加盟店の登録 | 担当者の追加と退職をどこで反映するか |
代理店と配下の店舗まで階層が重なると、どこまで登録すれば改定が一度で済むかの判断が要ります。
自社の商流の段数を示したうえで、階層の割り当てが実際の取引に合うかを試せます。無料相談で自社の条件を持ち込む
品目を絞ってから卸価格を付ける進め方
登録済みの商品情報が古いまま残っていると、卸価格の設定より前に掲載の判断が要ります。ここで先に決めるのは、掛け率よりも「掲載する品目の範囲」です。終売の品目や重複した登録を抱えたまま価格を付けると、改定のたびに不要な行まで触ることになります。
量を確かめます。20,000点という精査前の登録数を抱えていた例では、掲載の前に品目を絞る作業が先に置かれました4。卸価格の設定へ進むのは、その後です。
20,000点という精査前の登録数は、25,000品を掲載した別の事例と比べても近い規模にあり、品目数の多さ自体が卸価格の設定を難しくするわけではないことがわかります34。難しくしているのは、品目を絞る作業を挟むかどうかという順序の違いです。同じ規模でも、精査を先に置くかどうかで作業の重さが変わります。
難易度は中ほどで、工数の多くは「商品情報の精査」に向かいます。
| 確かめる項目 | この場合の見方 |
|---|---|
| 登録済みの品目 | 終売と重複をどこまで削るか |
| 商品情報の項目 | 価格の表示に必要な情報がそろっているか |
| 公開の順序 | 品目を絞ってから卸価格を設定するか |

登録済みの商品情報が整っていない段階では、卸価格の設定へ進む前に絞り込みの順序を決める必要があります。
現在の登録件数と商品情報の状態を見せながら、公開までに残す品目の範囲を詰められます。無料相談で自社の条件を持ち込む
要点の整理
| 判断の場面 | 進め方の目安 |
|---|---|
| 取引先の数が少なく改定も年に数回 | 掛け率表の重複をそろえてから仕組みを検討する |
| 代理店と店舗まで階層が重なる | 組織の階層へ卸価格を割り当てる |
| 登録済みの品目が膨らんでいる | 掲載する品目を絞ってから卸価格を設定する |
| 基幹システムとの連携が前提 | 作り込む範囲を決めてから初期費用を見積もる |
| 月々の負担を先に押さえたい | 初期費用とは別に月額の利用料を年数で積む |
価格の食い違いが受注の確認作業へ広がる前に、卸価格の持ち方を一度点検しておく価値があります。 得意先の数と年間の改定回数を伝えれば、階層で束ねる形が自社に合うかどうかを判断する材料が手に入ります。
よくある質問
価格転嫁の交渉が通れば、掛け率表のままでも運用できますか
交渉と反映は別の作業です。合意した単価を「掛け率表」へ書き写す手間は、得意先の数だけ残ります。取引先が少なく改定も年に一度なら、表のままでも回ります。改定が重なるほど転記と照合が増えるため、直近1年の改定回数を数えたうえで判断してください。
階層で卸価格を分けると、個別の特約はどう扱いますか
階層に載らない条件は、品目ごとの例外として残します。ただし例外が増えるほど階層で束ねる意味が薄まるため、まず「例外の数」を数えてから残す範囲を決めてください。3,800という品種の規模では、例外の件数がそのまま確認の手間になります3。
掛け率を変えたのに、古い単価で受注が入るのを防げますか
適用の開始を設定へ持たせると、注文の時点で参照する単価が切り替わります。紙とメールの受注が残っている間は、「請求」との突き合わせを続ける必要があります。受注の経路ごとに、どの単価を見ているかを一覧で確かめてください。
商品点数が多い場合、公開までにどれくらいの整理が要りますか
掲載する品目を絞る作業が先に来ます。25,000品を初期掲載した例のように、公開の時点で載せる範囲を決めてから卸価格を設定する進め方があります3。「終売」の品目が残っていると、価格の確認そのものが長引きます。
初期費用と月額のどちらを先に見るべきですか
使い続ける前提なら、月額の利用料を年数で掛けた額を先に置いてください。初期費用は一度きりでも、利用料は毎月かかります。作り込みを足すほど初期費用は上へ動くため、「どこまで作り込むか」を決めてから両方を並べる順序が無理のない進め方です。
価格の食い違いで受注が止まるほどの影響は起きますか
食い違いが直ちに取引の停止につながるとは限りません。ただし見積と請求の単価が合わない状態が続くと、確認のやり取りが増え、発注の手が止まる場面は出ます。「いつ」「どの得意先で」食い違いが起きたかを記録して、頻度を確かめてください。
- 1 出典:中小企業庁「価格交渉促進月間(2025年9月)フォローアップ調査結果」(2025年) 経路
- 2 出典:株式会社フライトソリューションズ「EC-Riderお役立ちコラム(BtoB向けECサイトで取引先ごとに卸価格を切り替える)」(2026年) 経路
- 3 出典:株式会社フライトソリューションズ「EC-Rider B2B 導入事例(日東電工CSシステム株式会社様)」(2020年) 経路
- 4 出典:株式会社フライトソリューションズ「EC-Rider B2B 導入事例(株式会社ポディウム様)」(2025年) 経路
- 5 出典:株式会社フライトソリューションズ「EC-Rider(BtoB EC受発注システム)料金プラン・費用ページ」(2026年) 経路
画像の出典元
- 20代前半の日本人男性が倉庫事務所での受注対応をしている場面/画像:生成AI(自社)
- 50代後半の日本人男性が倉庫事務所での受注対応をしている場面/画像:生成AI(自社)
- 30代後半の日本人男性が倉庫事務所での受注対応をしている場面/画像:生成AI(自社)
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