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紙の発注をオンライン受発注に切り替えると発注側の仕事はどう変わるか

◆監修・編集責任者 小園 将隆 

B2B EC-COLUMN

この記事のポイント

  • オンライン受発注で減るのはFAX送信・着信確認・控えの保管で、品番と数量の確認や社内承認は画面が変わっても残る
  • 中小企業共通EDIの実証で示された5割前後の業務時間削減はEDIを導入した企業の受発注双方を含む数値であり、紙からの移行全般に一律あてはまるものではない
  • 取引先ごとに異なるシステムへ人手で対応すると社内への転記が残るため、発注データを社内台帳へ移す経路を移行前に確認する
  • 取引先の指定に合わせる形は覚える対象が相手の数だけ増え、自社でツールを選ぶ形は選定と初期設定を担う人が要る
  • 電子受発注に対応している企業は発注側で40.9%(2021年度)にとどまり、紙で受ける取引の条件を決めた並行運用を前提に計画を立てる

50代前半の日本人女性が発注画面の操作場面

紙・FAX中心の発注が抱える不便とオンライン化で変わること

「来月から発注は専用サイトからお願いします」と取引先に言われた、あるいは発注書の控えを探すたびに手が止まる。
そんなときにまず知りたいのは、オンラインに切り替えると自分の手元の仕事がどう変わるのか、という一点だと思います。
結論を先に言えば、変わるのは「送り方」と「控えの残り方」です。
FAXを流す、届いたかを電話で確かめる、控えをファイルに綴じて後から探す、といった作業は減ります。
一方で、何をいくつ頼むかを決め、品番と数量を確かめ、社内で承認をもらう部分は、画面が変わるだけで残ります。
手応えの大きさは、取引先ごとに別々のシステムを使うことになるのか、社内の台帳まで発注データが届くのかで変わってきます。

紙の発注書・FAX・電話で起きている具体的な不便

発注の仕事は、何をいくつ頼むかを決めるところから始まり、相手に届いたことを確かめ、控えを残すところで終わります。
紙とFAXでこの流れをこなしていると、手が止まるのは決める場面ではなく、その前後の細かい作業のほうです。

発注書に書いた数量の「1」と「7」が読み違えられていないか、送ったあとに電話をかけて確かめる。
送信エラーで届いていなければ、同じ紙をもう一度流す。
控えはファイルに綴じ、「先月あの品番をいくつ頼んだか」と聞かれるたびに綴じ込みをめくって探す。
さらに、同じ内容を社内の購買台帳や在庫の表へもう一度入力している職場も珍しくありません。

こうしたやり取りが特殊なわけではありません。
経済産業省の委託調査をもとにした報道では、日本の中小企業の7〜8割が受発注をファクスでやり取りしているとされています2
ただしこれは2019年に公開された全国の中小企業を対象とした数値で、業種別・規模別の内訳までは確認できていません。
自社の周囲でFAXが当たり前だとしても、それは例外的な状況ではない、という程度に受け止めておくのが安全です。

オンラインに切り替えると、この流れの後半が画面の中に移ります。
送信はボタンを押した時点で相手のシステムに記録が残り、届いたかどうかを電話で確かめる必要は基本的になくなります。
控えも綴じ込みではなく履歴として残るので、品番や日付で探せます。
逆に、何をいくつ頼むかを決める部分、品番を取り違えていないかを見る部分は、紙でもオンラインでも人が担ったままです。
紙をやめると発注の仕事そのものが軽くなる、という期待とは少しずれた変わり方をします。

発注側と受注側の電子受発注対応率の差

移行の時期を自社だけの都合で決めにくいのは、発注が相手のある仕事だからです。
この事情は統計にも表れています。

中小企業庁の報告書によると、2021年度時点で電子受発注に対応している企業は、受注側で48.5%、発注側で40.9%でした4
また政府は、2023年を目途に電子受発注システムの導入率約5割の達成を目指すとしてきました4
いずれも同じ報告書に記載された、時点付きの割合です。

受注側のほうが高いという並びは、売る側にとって注文の受け方が自社の売上に直結し、仕組みを用意する動機が働きやすいと考えると説明がつきます。
その結果、発注側は「自分で選んで始める」より「取引先から求められて始める」形に入りやすくなります。
案内が来てから慌てて検討するのはよくある順番で、準備不足というより構造的な話です。

もう一つ読み取っておきたいのは、発注側の対応が半数に届いていないという事実のほうです。
自社が切り替えたとしても、取引先の中に紙のままの相手が残っている可能性は高い。
すべての取引を一度にオンラインへ移す前提で計画を立てると、最初の段階でつまずきます。
移行は「どの取引から移すか」という部分的な話になる、と考えておくほうが実態に合います。

オンライン受発注で発注側からなくなる作業・残る作業とその効果

なくなる作業・残る作業の整理

では、切り替えたあと、発注担当者の手元には何が残るのでしょうか。
まず、いま紙で行っている一連の作業を並べてみます。

このうちオンライン化で消えるのは、送信と着信確認、そして紙の控えの保管です。
押印による社内承認は、システム上の承認操作に置き換わることもあれば、これまで通り紙の稟議が残ることもあります。
ここは導入する仕組みと社内の決裁ルールの組み合わせ次第で、切り替えれば自動的にそろうわけではありません。
承認の扱いを先に決めておかないと、画面で発注できるのに押印待ちで止まる、という状態が生まれます。

発注ミスが減るかどうかも、作業の単位に分けて考えると実感に近づきます。
手書きの数字を相手が読み違える、FAXが途中で切れて品目が一行抜ける、といった「伝わり方」の事故は、データで送る形になれば起きにくくなります。
一方、品番を一つ隣の商品と取り違える、数量の桁を一つ多く打つといった「入力そのもの」の誤りは、入力する人が同じである以上残ります。
減るのは伝達の事故で、入力の誤りはチェックする場所が紙の上から画面の上へ移る、という整理になります。

受注側からの返りも、なくなるわけではありません。
納期回答や注文請書を確認する動作は残り、探す手間が減るだけです。
回答が届いたら通知が来るのか、自分で画面を見に行くのかは仕組みによって違うので、ここを確かめておくと移行後の運用イメージがずれにくくなります。

業務時間削減の実証データとその適用範囲

数字としてどのくらいの効果が報告されているのかも見ておきます。
公的な資料で確認できるのは、中小企業共通EDIに関する実証の結果です。
EDIとは、企業の間で受発注のデータを決まった形式でやり取りする仕組みを指します。

中小企業庁が紹介している中小企業共通EDIの実証事業では、12のプロジェクト(平成28年度補正予算)に参加した中小企業で、業務時間が平均51.4%削減されたと報告されています1
別の報告書では、中小企業共通EDIを導入したモデルプロジェクト別の業務時間削減率が、全プロジェクトの中小企業平均で53.3%と示されています4

半分近く減るなら移行する価値は高い、と読みたくなるところですが、この数字が何を測ったものかは確かめておく必要があります。
いずれも中小企業共通EDIを導入した企業における、受注と発注の双方を含む業務時間の削減率です。
発注側の作業だけを取り出して測ったものではなく、紙からオンライン受発注への移行全般に一律あてはまることを示したものでもありません。
2016年度の実証と2022年に公表されたモデル事業という、時期の異なる結果でもあります。

それでも読み取れることはあります。
時期も対象も違う複数の実証で、おおむね5割前後という近い水準が出ている以上、受発注のデータが企業の間でつながった状態まで到達すれば、事務作業が大きく減る余地があることは示されています。
言い換えれば、この数字は「つながった場合」の姿です。
自社の効果を見積もるときは、削減率をそのまま当てはめるより、いま手で行っている転記のうちどれが消えるかを数えたほうが確かです。
FAX送信と着信確認、控えの綴じ込みが月に何件分あるのか。
そこまで具体化すると、社内で移行を説明するときの根拠にもなります。

品番と数量の確認から、記入、押印、FAX送信、着信確認と控えの保管までの五つの作業を左から順に並べた図
紙・FAX発注で発注側に発生している作業の流れ

移行時に発注側がつまずきやすい点とその備え

社内システムとのデータ連携が実現しない典型パターン

つながった場合に効果が出るということは、つながらない場合に何が起きるかも見ておく必要がある、ということです。
オンラインに移った発注側が最初に直面しやすいのが、まさにここです。

中小企業庁の実証調査事業報告書は、大企業が電子受発注のデータを社内の業務管理システムに連携させて事務処理の効率を高めている一方で、中小企業は取引先ごとに異なるシステムへの対応を人手で社内システムに入力する必要があり、企業間と社内システムのデータ連携が実現できず、デジタル化の効果を十分に享受できていないと指摘しています5
取引先ごとに違うシステムを使う中小企業一般について述べられたもので、個別の企業の契約内容を示したものではありません。

これを発注担当者の机の上に翻訳すると、次のようになります。
取引先の発注画面にログインして品番と数量を入力し、送信する。
そのあと、いま入力したのと同じ内容を、自社の購買台帳や在庫管理の画面へもう一度打ち込む。
紙のときは発注書の控えを見ながら入力していたのが、別のウィンドウを見ながらの入力に変わっただけで、転記の回数そのものは減っていません。
ログインと画面の切り替えが増えた分、かえって手数が増えたように感じることさえあります。

そのため、移行前に確かめておきたいのは画面の使いやすさよりも、入力したデータが社内のどこへ、どうやって移るのかです。
発注の履歴をファイルとして書き出せるのか、書き出せるとして自社の台帳が受け取れる形式か。
書き出せないという答えなら、手入力は続く前提で人の時間を見積もっておく。
この一点を先に押さえておけば、導入後に「思ったより楽にならない」と感じたときに、その理由と次の打ち手をすぐ言葉にできます。

複数担当者での運用・過去データの扱いを確認する視点

ここから挙げる二つは、公的な調査で最適なやり方が示されているものではありません。
ただ、人手でつなぐ構造をそのまま引きずると困りやすい場所なので、確認の観点として整理しておきます。

一つは、発注担当者が複数いる場合の操作範囲です。
紙のときは、発注書を書く人と押印する人が分かれ、誰がどこまで関わったかが用紙の上に残っていました。
オンラインでは、この分担がアカウントの設計に置き換わります。
発注を入力できる人、承認できる人、単価や取引条件を見られる人をどう分けるか。
部署で一つのIDを共有してしまうと、後から「この発注は誰が出したのか」をたどれなくなり、紙の時代にできていた確認が失われます。
担当者が入れ替わったときにIDを止める手順も、決めておかないとそのまま残り続けます。

もう一つは、これまでの紙の控えと、これから溜まるオンラインの履歴の関係です。
紙の控えは自社の棚にありますが、取引先のシステムに入力した履歴は相手の環境の中にあります。
何年分さかのぼって見られるのか、取引が終わったあとも参照できるのか、手元にファイルとして残せるのか。
ここは取引先や仕組みによって扱いが違うため、一般論では決められません。
切り替えの案内を受け取った段階で聞いておくほうが、必要になってから遡って確認するより手間がかかりません。

過去の紙の発注をさかのぼって入力し直す必要があるかも、迷いやすいところです。
発注履歴は、次に同じ品目を頼むときの参照に使うことがほとんどです。
そう考えると、全期間を移すのではなく、よく発注する品目の直近分だけを手元の表に整理しておけば足りる場合もあります。
どこまで戻すかは、記録として残す義務の話と、日々の参照に使う話を分けて決めると作業量に見合います。

30代前半の日本人女性が発注画面の操作場面

紙とオンラインを並行運用する期間は必要か

並行運用が必要になりやすい場面

ここまでを踏まえると、紙とオンラインを一定期間並べて動かす場面は、避けようとして避けられるものではないと分かります。
ただし、並行運用そのものの必要性や適切な期間を直接検証した資料は、今回確認できていません。
以下は、これまでに挙げた課題の構造から考えた進め方です。

並行が残りやすいのは、まず相手の事情によるものです。
発注側の対応が半数に届いていない状況からすれば、取引先の側も紙のまま、という組み合わせは普通に起こります。
次に、取引の性質によるもの。
年に数回しかないスポットの発注、図面や仕様のやり取りが必要な特注品、締め切り後の数量変更や急ぎの追加など、定型の流れに乗りにくい取引は残ります。
最後に社内側の事情で、社内システムへの入力経路が整うまでは、オンラインで出した発注を印刷して回覧するという運用になることもあります。

このように段階を分けると、並行する範囲を「まだ移せていない残り」ではなく「意図して残している部分」として扱えます。
この違いは日々の負担に効きます。
残りとして扱うと、どの取引がどちらの手段なのかを誰も把握しないまま両方が動き、確認のたびに二か所を見ることになるからです。

移行判断の前に確認しておきたいこと

並行運用で困るのは、期間の長さそのものより、終わりの条件を決めないまま続くことです。
二重の台帳が半年も動けば、それが通常の姿になり、元に戻す理由を誰も持たなくなります。

始める前に手元で整理しておきたいのは、次の項目です。

この中で判断が分かれやすいのは、件数の多い取引先から移すか、対応が簡単そうな取引先から移すかという点です。
件数が多いほど転記の減り方は大きく出ますが、うまく動かなかったときの影響も大きい。
逆に件数の少ない相手から始めると安全な代わりに、社内には「手間が増えただけ」という印象が残りやすくなります。
社内台帳への入力経路が確認できているなら件数の多い取引先から、まだ手入力が残るなら件数の少ない相手で操作と権限の運用を試してから広げる、という分け方が現実的です。

期間の目安を数字で示せる資料はありません。
代わりに、範囲を広げる条件を先に書き出しておけば、終わりの見えない並行運用にはなりにくくなります。

ここまでで、オンライン受発注に移ると発注側の手元から何が消え、何が残り、どこでつまずきやすいかを整理してきました。
残っているのは、どの形で移行するのかという選択です。
取引先が用意した仕組みに登録するのか、自社でツールを選ぶのかで、覚えることと決められることの配分が変わります。

現状の棚卸し、一部の取引先から切り替え、範囲を広げるの三段階と、各段階で確認する内容を並べた図
並行運用を前提に段階を分けた切り替えの進め方(本記事の整理)

どの取引から切り替えると転記が減るのかは、取引先ごとの発注件数と、社内の台帳へ入力している経路を並べてみないと判断できません。公開されている統計はその並べ方までは教えてくれず、社内でも発注手段の一覧が作られていないことが多い部分です。

現在の発注手段と件数の内訳を持ち込んでいただければ、受発注のデータをやり取りする仕組みを構築してきた立場から、どこで手入力が残り、どの取引から移すと効きやすいかを一緒に整理できます。無料相談で要件を整理する

発注側・受注側の電子受発注システム対応率(2021年度)

順位は公表された調査に依ります4

公表された調査に依る順序

  1. 受注側の電子受発注対応率 48.5%
  2. 発注側の電子受発注対応率 40.9%

自社の取引先に大企業や特定の系列が多いほど、相手側が先に仕組みを用意している場面に当たりやすくなります。逆に同規模の取引先が中心なら、紙のやり取りが当面残る前提で切り替えの範囲を考えることになります。

取引先指定システムと自社選定ツール、発注側にとって何が違うか

比べる点 取引先が用意したシステムに登録する形 自社で発注管理ツールを選ぶ形
誰が仕組みを決めるか 取引先。画面も操作手順も相手の仕様に合わせる 自社。必要な機能を決めて選ぶ
取引先が増えたとき 相手ごとに登録と操作の習得が増える 窓口は一つでも、相手が受け取れる形かは取引先ごとに確認が要る
社内システムとの関係 履歴を持ち出せるかは相手の仕組み次第 選定の段階で社内への入力経路まで含めて検討できる
発注側の手間の出方 覚える対象が増える形で、運用のたびに出る 選定・初期設定・運用ルールづくりとして、始める前に出る
向きやすい状況 取引が主要な数社に集中している場合 取引先が複数あり、社内の発注情報を一か所にまとめたい場合

取引先が用意したシステムに登録する形 ― 覚える対象が取引先の数だけ増える

この形で発注側に生じる負担

取引先から案内が来て始まるのは、たいていこの形です。
受注側が用意したシステムに発注側が登録し、IDを受け取り、その画面の操作を覚えます。
自社で選定する手間はかからず、始めるまでの距離が近いのが利点です。

負担が見えにくいのは、取引先が二社目、三社目と増えたときです。
中小企業庁の実証調査事業報告書は、電子受発注システムが大企業主導により系列・業種ごとに整備されているのが実情で、中小企業が複数の系列・業種と電子商取引を行うにはそれぞれに対応したシステムを導入する必要があり、その作業と費用の負荷が課題になっていると述べています5
複数の系列・業種と取引する中小企業一般についての記述で、個々の取引でどうなるかを保証するものではありません。

発注担当者の側から見ると、「発注する」という一つの仕事に対して、ログイン先が二つ三つと並ぶことになります。
締めの時刻が相手ごとに違う。
数量の単位がケースなのか本数なのかも、相手の画面の決まりに従う。
品番も自社の呼び方ではなく、取引先のコード体系で入力する。
紙のころは同じ書式の発注書を宛先だけ変えて書いていたのが、相手ごとに別の作法を覚え直す作業に変わります。

この負担は、担当者が替わるときにはっきり表に出ます。
引き継ぐ相手が覚えるのは一つの仕組みではなく、取引先の数だけある画面だからです。
特定の一人しか操作できない状態を避けたいなら、手順を相手ごとに書き残しておく必要があります。
紙の時代に「発注書の書き方」として一枚で済んでいたものが、複数になるということです。

この形を選ぶかどうかの判断材料

選ぶというより受け入れるかどうか、という場面が多い形ですが、判断の余地はあります。
見るべきは、取引先ごとの対応負担をどこまで許容できるかと、社内システムとの連携をどこまで求めるかの二点です。

取引の大半が一社に集中しているなら、相手の仕組みに合わせるほうが早い。
発注件数が多い相手ほど、その画面に慣れるために使った時間は回収しやすくなります。
逆に、同じくらいの規模の取引先が何社もあり、それぞれ別の仕組みを案内されている状況なら、覚える対象が分散したまま、どの仕組みでも社内への転記が残ることになります。
この場合は、最初から全社に対応しようとせず、件数の多い相手から順に移すほうが無理がありません。

連携については、案内を受けた段階で、発注の履歴を自社側に持ち出せるかを聞いておきます。
持ち出せないという答えなら、その取引先の分は社内入力を人手で続ける前提になります。
そのうえで件数から必要な時間を見積もっておけば、「効率化のはずが人手が増えた」と後から感じる場面を減らせます。

30代後半の日本人女性がオンライン会議への参加をしている場面

自社で発注管理ツールを選ぶ形 ― 決められる代わりに決めることが増える

一つの画面にまとめられる範囲と、まとめられない部分

もう一つは、自社の判断で発注管理のツールを導入し、複数の取引先への発注を一つの画面から行おうとする形です。
社内の発注情報が一か所に集まるので、誰が何をいつ頼んだのかを追いやすくなります。
担当者が休んだときに代わりの人が状況を確認できる、という点でも効きます。

ただし、発注は相手のある仕事です。
自社のツールから出した発注を取引先が受け取れるかどうかは、相手の体制によります。
すでに系列の仕組みを使っている取引先には、結局そちらの画面で入力することになる場面も残ります5
すべての発注を一つの画面に集約できるかどうかは、取引先の構成を数えてみないと分かりません。

この形で発注側に生じるのは、覚える負担よりも決める負担です。
どの機能が要るのかを言葉にし、候補を比べ、初期設定で品番や取引先の情報を登録し、誰がどの操作をするかの運用ルールを作る。
この一連を担う人を社内で確保できるかが、実際には最初の関門になります。
担当者が発注業務をこなしながら片手間で進めると、初期設定が中途半端なまま運用が始まり、紙のころの手順が併走し続けます。

機能の範囲をどう決めるか

必要な機能を言葉にする手がかりとして、公的な補助制度が使っている機能の区分が参考になります。
デジタル化・AI導入補助金2026のインボイス枠では、補助額50万円以下の場合は「会計」「受発注」「決済」のうち1機能以上、50万円超〜350万円以下の場合は2機能以上を備えるソフトウェアが対象とされています3

これは2026年度の公募における対象要件です。
自社が申請できるか、どの類型に当たるかは別途確認が必要で、補助の対象になることと自社の業務に合うことも別の話です。

それでもこの区分が役に立つのは、発注の仕組みを考えるときに、受発注の機能だけで足りるのか、請求や支払いの処理までつなげたいのかを先に切り分けられるからです。
発注のデータを会計側でも使えれば、同じ内容を経理がもう一度入力する場面は減らせます。
一方、いま困っているのがFAXの送信と控えの管理だけなら、受発注の部分から始めて、社内の入力経路が見えてから範囲を広げるという順番もあります。
最初から全部をつなごうとすると、決めることが増えて着手が遅れます。

どちらの形を採るにしても、確認する中身は重なります。
発注したデータが社内の台帳へどう移るか、誰がどの操作をできるか、紙で残す取引をどこまでにするか。
形の違いは、これらを自社で決められるのか、相手の仕様に合わせるのかという違いとして現れます。
取引先の指定が先に来た場合でも、この三点を自社の言葉で整理しておけば、相手に何を確認すべきかがはっきりします。

60代前半の日本人女性が発注画面の操作をしている場面

要点の整理

判断の軸 考え方の基準
効果の見込み方 実証で示された5割前後の削減はEDIを導入した企業の受発注双方を含む数値。自社では、いま手で行っている転記のうち何件が消えるかで見積もる
移行の形 取引先の指定に合わせるなら覚える対象が相手の数だけ増え、自社でツールを選ぶなら選定と初期設定を担う人が要る
取引先の構成 取引が数社に集中しているか、同規模の相手が分散しているかで、どちらの形が現実的かが変わる
社内への入力経路 発注データを社内台帳へ移せるかを移行前に確認する。持ち出せないなら手入力が残る前提で時間を見積もる
運用の設計 発注・承認・条件閲覧の権限を分け、紙の控えとオンライン履歴の保管場所を決める
並行運用 紙で受ける取引の条件と、範囲を広げる条件を先に決めてから切り替えを始める

取引先の指定に合わせるのか、自社で仕組みを持つのかという選択は、相手の体制と自社で担える範囲の両方が分かって初めて決まります。片方だけを見て決めると、覚える負担か決める負担のどちらかを後から丸ごと引き受けることになります。 取引先の構成と社内の承認の流れを見せていただければ、それぞれの形を採った場合に発注担当者の手元に残る作業と、事前に取引先へ確認しておくべき点を具体化できます。

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よくある質問

取引先から指定されたオンライン受発注システムへの登録を断ることはできますか

本記事で確認した資料の範囲では、発注側に登録を義務づける定めも、断る権利を保証する定めも扱っていません。
個別の法令上の扱いについてはここでは判断できないため、必要なら専門の窓口で確認してください。
実務としては取引条件の相談になります。
相手が系列や業種単位で仕組みを整備している場合5、その取引先だけ例外にする余地は小さくなりがちです。
断るかどうかより、登録したうえで自社にどれだけ手入力が残るのかを見積もり、履歴の持ち出し可否や締め時刻の運用について相談するほうが、現実的な着地点を見つけやすくなります。

オンライン受発注に切り替えても、一部の取引先や商品だけFAX発注を残せますか

発注の手段は取引先ごとの取り決めなので、相手が受け取れる形であれば残せます。
実際、電子受発注に対応している企業は発注側で40.9%(2021年度)4にとどまっており、すべての取引を一度に移す前提のほうが無理があります。
残すなら、スポットの発注や急ぎの数量変更など「紙で受ける取引」の条件を決めておくことが大切です。
条件を決めずに残すと、どの取引がどちらの手段か誰も把握できなくなり、確認のたびに二か所を見ることになります。

発注担当者が複数いる場合、操作権限はどう設定すればよいですか

権限設計の最適解を示した一次資料は今回確認できていないため、以下は考え方です。
紙のときは、発注書を書く人と押印する人が用紙の上で分かれていました。
この分担をそのままアカウントに置き換えるのが出発点になります。
発注を入力できる人、承認できる人、単価や取引条件を見られる人を分け、部署で一つのIDを共有しない。
共有すると、後から誰が出した発注か追えなくなります。
あわせて、担当が替わったときにIDを止める手順も決めておきます。

発注ツールを導入するとき、会計や決済との連携は必須ですか

必須ではありません。
補助制度の対象要件でも、補助額50万円以下であれば「会計」「受発注」「決済」のうち1機能以上を備えていればよいとされており3、受発注の機能から始めることは想定されています(2026年度の公募条件で、申請の可否は別途確認が必要です)。
判断の基準は制度ではなく社内の入力経路です。
発注したデータを経理がもう一度入力しているなら会計側までつなぐ意味があり、いま困っているのが送信と控えの管理だけなら、受発注の範囲から始めて後で広げる順番でも構いません。

オンラインにすれば発注ミスはなくなりますか

種類によります。
手書きの数字の読み違いやFAXの送信不良といった伝達の事故は、データで送る形になれば起きにくくなります。
一方、品番の取り違えや桁の打ち間違いは、入力する人が同じである以上残ります。
チェックする場所が紙の上から画面の上へ移る、という理解が実態に近いです。
なお、中小企業共通EDIの実証で示された5割前後の業務時間削減14は、EDIを導入した企業の受発注双方を含む数値で、ミスの件数を測ったものではありません。

◆監修・編集責任者

小園 将隆

株式会社フライトソリューションズ ECサービス部 マネージャー

BtoB通販のパッケージシステム「FSOL B2B Ⅱ」の導入支援をはじめ、製造業、卸売業をはじめとした法人向け通販サイト構築を多数手掛ける。卸売領域の専門知識をもとに、日本の商習慣に固有の課題をパッケージシステムの機能追加によって解決。BtoB流通の販路拡大を支援する。

  1. 1 出典:中小企業庁「中小企業共通EDI(次世代企業間データ連携調査事業)実証事業の解説」(2018年)
  2. 2 出典:日経BP(日経クロステック)「中小企業の8割が「ファクスで受発注」の現実、DX時代に日本の競争力が失われる」(2019年)
  3. 3 出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構「デジタル化・AI導入補助金2026 インボイス枠(インボイス対応類型)」(2026年度)
  4. 4 出典:中小企業庁経営支援部技術・経営革新課(委託:EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社)「受発注のデジタル化に関する推進方策 報告書」(2022年)
  5. 5 出典:中小企業庁(委託:EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社)「電子受発注システム普及促進に向けた実証調査事業 報告書」(2023年)

◆この記事について

独自調査以外の一次情報は、省庁・公的機関を中心とした信頼性の高い情報源から引用し、出典を明記しています。
年次更新される統計については、引用元の最新版を確認したうえで掲載しています。

※この記事は上記の監修・編集責任者がAIの協力を得て制作しています。

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