◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 電話受注の属人化は「取引条件・特例の知識」「受注内容の記録と引き継ぎ」「電話を取る体制」に分け、過去の不在日に困った注文から自社の原因を見分ける。
- 不在の種類ごとに代わりに受ける人を主と副で決め、受付の時間帯と折り返しの期限をセットで取引先に伝える。
- 聞き取り項目は困った注文から逆算して理由を付け、顧客別の特例は条件・変える内容・理由まで書いて、誰が受けても同じ処理ができる形にする。
- 電話・FAX受注をやめると取引に支障が出ると想定する担当者は58.8%(食品の小売・卸売業、n=80)で、全面移行ではなく条件の合う一部の取引先から試す。
- 試行は不在日を含む小さな範囲で行い、取りこぼし・誤受注・聞き直し・折り返しまでの時間を自社の記録で前後比較しながらルールを直す。
目次

「あの人が休むと受けられない」は何が属人化しているのか
担当者が休んだ日に取引先から電話注文が入り、代わりに出た人が納品日や単位の特例を知らずに受けてしまう。
あるいは誰も出られず、注文そのものを取りこぼす。
電話受注の属人化は、中身を「取引条件・特例の知識」「受注内容の記録と引き継ぎ」「電話を取る体制」に分けると、手を付ける順が見えてきます。
まず不在時の受け皿、聞き取り項目、顧客別の条件を電話のまま整えます。
そのうえで、手入力や確認連絡の負担が大きい取引先から、他の受注経路を小さく試します。
食品の小売・卸売業の調査では、電話・FAX受注をやめると取引に支障が出ると考える担当者が半数を超えており1、全面移行を前提にする必要はありません。
不在日に起きる取りこぼしと聞き違い
担当者が不在の日に起きる困りごとは、大きく二つに分かれます。
一つは、電話に誰も出られず、注文が届かないまま時間が過ぎてしまう場合です。
もう一つは、代わりに出た人が注文を受けたものの、その取引先だけの約束事を知らずに処理してしまう場合です。
たとえば、いつもの担当者なら「この店は月曜の注文を水曜着にする」「ケース単位ではなくバラで受ける」と分かっている取引先があるとします。
担当者が休みの日にその取引先から電話が入り、受けた人は品名と数量を聞き取って通常どおり処理します。
翌日になって、納品日や単位が違うと分かります。
一見すると聞き違いですが、聞き取った内容そのものは正しく、照らし合わせるべき条件が担当者の頭の中にしかなかったことが原因です。
こうした状態は、調査の数字にも表れています。
食品の小売・卸売業で受注業務に携わる人を対象にした2023年の調査では、FAX・Eメール・電話で受注している担当者(n=90)の38.9%が「オペレーションの属人化が発生している」と答えています1。
また、業務可視化ツールを使った経験のある人を対象にした2024年の別の調査(142サンプル)では、属人化の影響として「手順やプロセスが文書化されていない」が47.9%、「キーパーソンの不在が業務に深刻な影響を及ぼす」が44.4%でした2。
後者は電話受注に限らない業務全般についての回答です。
対象も時点も違うため、二つの調査の数値を足したり比べたりはできません。
ただ、手順が書かれていないことと、特定の人がいないと業務が止まることが、属人化の典型的な困りごととして挙がっている点は共通しています。
どちらの調査も回答者は限られており、業種や会社の規模が違えば同じ割合になるとは限りません。
属人化の3つの中身
「属人化を解消する」と一言でいっても、何が人に張り付いているかで打ち手は変わります。
ここでは電話受注の属人化を、次の三つに分けて考えます。
この分け方は調査の分類ではなく、原因を切り分けるための整理です。
<ul><li>取引条件・特例の知識:単価、納品日、最低ロット、締め時刻、代替品の可否など、取引先ごとの約束事を一部の人しか知らない</li><li>受注内容の記録と引き継ぎ:聞き取った注文がメモや記憶に残るだけで、別の人が後から確認・修正できない</li><li>電話を取る体制:その取引先の電話を誰が取るか、出られないときにどうするかが決まっていない</li></ul>
三つは互いに重なり合っています。
体制だけを整えて誰かが電話に出られるようになっても、特例の知識が共有されていなければ誤受注が起きます。
逆に取引先ごとの条件表を作っても、電話を取る人が決まっていなければ注文は取りこぼされます。
記録の形が決まっていなければ、正しく受けた注文も、担当者が戻ったときには中身が分からなくなります。
自社の原因の見分け方
原因を見分ける材料は、過去の不在日に実際に困った注文です。
直近数か月で担当者が休んだ日や外出していた時間帯を思い出し、そこで何が起きたかを並べると、三つのうちどれに偏っているかが見えてきます。
誰も電話に出られなかった、折り返しが遅れて取引先から催促された、という出来事が多ければ体制の問題です。
受けたあとで単価や納品日が違った、取引先から「いつもと違う」と言われた、という場合は知識の問題が中心です。
注文は正しく受けたのに、担当者が戻ってから内容が分からず聞き直した、変更の電話が来たときに元の注文を探せなかった、という場合は記録と引き継ぎの問題です。
一つの取引先で複数の原因が重なっていることも珍しくありません。
その場合、結果として一番重いのは注文そのものが届かない取りこぼしなので、まず電話を受ける体制を決め、知識と記録をあとから追いかける順が組みやすいでしょう。
反対に、電話には誰かが出られているのに誤受注が続いているなら、体制より先に条件と記録へ手を付けるほうが効きます。
| 不在日に起きたこと | 疑う原因 | 先に整えるもの |
|---|---|---|
| 誰も電話に出られなかった・折り返しが遅れた | 電話を取る体制 | 不在時の受け皿と折り返しの期限 |
| 納品日や単位が通常と違って処理された | 取引条件・特例の知識 | 顧客別の条件と特例の一覧 |
| 担当者が戻ってから内容を聞き直した | 受注内容の記録と引き継ぎ | 記録の置き場所と書く項目 |
| 変更の電話で元の注文を探せなかった | 受注内容の記録と引き継ぎ | 変更履歴を残せる記録の形 |
▼ 図の内容を文字で読む
- 取引条件・特例の知識
- 納品日や単位の特例を代わりの人が知らない
- 条件が担当者の頭の中にしかない
- 受注内容の記録と引き継ぎ
- 聞き取った注文がメモや記憶に残るだけ
- 戻った担当者が内容を聞き直す
- 電話を取る体制
- 誰も電話に出られず注文を取りこぼす
- 出られないときの扱いが決まっていない
担当者が不在の日に、注文を止めないために先に決めておくこと
不在の種類ごとの受け皿
「不在」とひとくくりにしても、半日の外出、予定された休み、急な病欠、異動や退職では、準備に使える時間が違います。
外出なら戻る時刻が分かるので、折り返しで足りることが多いはずです。
予定された休みなら前日までに引き継ぎができますが、急な病欠ではその朝に代わりを決めることになります。
退職や異動は一時的な代理ではなく、担当そのものを移す話です。
そこで、不在の種類ごとに「誰が電話を受けるか」と「その人が何を見て判断するか」を先に決めておきます。
<ul><li>外出:戻る時刻までの電話は代わりの人が受け、注文内容を記録して担当者に渡す。
判断に迷う注文は折り返しにする</li><li>予定された休み:前日までに、休み中に来そうな注文と注意点を代わりの人に伝えておく</li><li>急な病欠:あらかじめ決めた代わりの人がそのまま受ける。
条件表と過去の記録を見て処理する</li><li>退職・異動:条件表と記録を引き継ぐだけでなく、主要な取引先には新しい担当者を伝える</li></ul>
代わりに受ける人を一人に固定すると、その人も不在の日にまた止まってしまいます。
主と副の二人を決めておくと、重なって休む日でも受け皿が残りやすくなります。
ただし、代わりの人を決めるだけでは、注文を受けたあとに何を見て判断するかが決まりません。
その中身は次の節で扱う聞き取り項目と条件表に頼ることになるので、受け皿の決定と記録の整備は一緒に進めるのが前提です。
転送・留守電・折り返しの期限
代わりの人も出られない時間帯をどうするかも決めておきます。
転送、留守番電話、電話代行など手段はいくつかありますが、どれを使う場合も、先に考えるべきなのは「取引先から見て何が起きるか」です。
電話がつながらず、いつ返事が来るか分からない状態が、取引先にとっては一番困ります。
中心になるのは折り返しの期限です。
たとえば「午前中に受けた留守電には当日13時までに、午後の分は当日17時までに折り返す」のように、受付の時間帯と返事の期限をセットで決め、取引先にも伝えます。
この時刻は例にすぎず、実際には自社の注文の締め時刻や配送の段取りから逆算して決めます。
あわせて、締め時刻の直前に留守電へ入った注文を当日分として扱うかどうかも決めておくと、取引先との行き違いを減らせます。
転送先を個人の携帯にするか、事務所の別の番号にするかといった設定は、使っている電話設備や契約によって変わります。
どの設定が使えるかは自社の契約内容で確かめることになりますが、運用として決めておくべきことは設備にかかわらず共通です。
転送された先で受けた人が、聞き取り項目と条件表を手元で見られること。
受けた注文をその場で処理してよいのか、担当者の確認を待つのかの線引きがあること。
この二つがないと、電話はつながっても、受けた人が判断できずに結局保留になります。
通話録音を使うときの個人情報の扱い
代わりに受けた人の聞き漏れを補うため、通話を録音して後から確認したいと考えることもあるでしょう。
個人情報保護委員会のQ&A(Q1-10)では、通話内容から特定の個人を識別できる場合、その録音は個人情報に当たり、事業者は利用目的を通知または公表する必要があると整理されています3。
一方で、録音していること自体を相手に伝える義務までは負わないとされています3。
取引先の担当者が名乗り、声や話の内容から個人が分かる通話であれば、個人情報に当たる前提で考えるのが自然です。
その場合、受注内容の確認という目的が、自社で公表している利用目的に含まれているかを見ておくことになります。
法律上の義務とは別に、録音を聞ける人の範囲や保存しておく期間を社内で決めておくと、確認のための録音が別の用途に使われるのを防げます。
録音を始めることを取引先へ前もって伝えるかどうかは、義務の問題ではなく、取引先との関係をどう保つかの判断です。
▼ 図の内容を文字で読む
- 外出
- 戻る時刻までの電話は代わりの人が受けて記録する
- 判断に迷う注文は折り返しにする
- 予定された休み
- 前日までに注意点を代わりの人に伝える
- 急な病欠
- あらかじめ決めた代わりの人がそのまま受ける
- 条件表と過去の記録を見て処理する
- 退職・異動
- 条件表と記録を引き継ぐ
- 主要な取引先に新しい担当者を伝える
誰が受けても同じ注文になるように、記録・共有する項目
聞き取り項目の標準化
前の節で決めた受け皿が機能するかどうかは、代わりに出た人が何を聞けばよいか分かっているかで決まります。
慣れた担当者は、無意識のうちに「いつもの品か」「納品先はいつもの店か」「急ぎか」を確かめています。
しかし、その確認の順番が書き出されていることは多くありません。
聞き取り項目は、ゼロから考えるより、過去に困った注文から逆算すると漏れが少なくなります。
納品日を聞き忘れて揉めたことがあれば納品日を必須に、名前の似た商品を取り違えたことがあれば規格や商品コードの復唱を必須に、というように、一項目ずつ理由を付けて足していきます。
理由が書いてあれば、受ける人は項目を形式的に埋めるのではなく、なぜ確かめるのかを分かったうえで聞けます。
最後に、聞き取った内容を相手に読み上げて確かめる「復唱」を手順に入れておきます。
復唱は聞き違いをその場で見つけるためのもので、受けた人の記憶に頼らずに済みます。
記録にも「復唱済み」と残しておくと、後から内容が食い違ったときに、受けた時点での確認があったかを振り返れます。
前出の食品の小売・卸売業の調査では、FAX・Eメール・電話で受注している担当者(n=90)が受注業務の課題として、注文書の手入力に手間がかかる(60%)、注文確認の連絡に手間がかかる(41.1%)、注文の変更対応に時間がかかる(40%)、注文書の管理(保管義務)が煩雑(30%)を挙げています1。
これは担当者の課題認識であり、項目をそろえれば減るという効果を示すものではありません。
ただ、確認の連絡や聞き直しは、最初の聞き取りで何が欠けていたかに左右されやすい作業です。
どの課題が自社で重いかを見ると、聞き取り項目のどこを厚くするかの手がかりになります。
顧客別の取引条件・特例の整理
聞き取り項目がそろっても、取引先ごとの約束事を知らなければ、聞いた注文が正しいかを判断できません。
そこで、取引先ごとに条件と特例を一か所にまとめます。
単価、締め時刻、最低ロット、納品日のルール、代替品を出してよいかといった基本の条件に加えて、その取引先だけの例外を書き出します。
特例は「〇〇商店は特別対応」と書いただけでは引き継げません。
どんな条件のときに、何をどう変えるのか、なぜそうしているのか、いつから誰の了承で始まったのかまで書くと、受けた人が迷いにくくなります。
たとえば「〇〇商店:月曜に受けた注文は水曜着(通常は翌日着)。先方の荷受けが火曜休みのため。担当部署の責任者の了承済み」のような書き方です。
理由まで書いておくと、別の効用もあります。
取引先の事情が変わったとき、その特例をまだ続けるべきかを担当者以外でも判断できます。
また、取引先から書かれていない例外を頼まれたとき、受けた人は「これは書いてある特例とは違う」と気づき、その場で引き受けずに確認へ回せます。
書かれていない例外が来たときに誰に確認するか、確認がとれるまで取引先にどう伝えるかも、一行添えておきます。
「担当者に確認のうえ、本日〇時までにご連絡します」と返せる形にしておけば、受けた人が独断で約束してしまう事態を避けられます。
受注内容の記録と引き継ぎ
受けた注文は、受けた人の手元のメモに残さず、全員が見られる一か所に書きます。
表計算のファイルでも、紙の受注台帳でも、すでに使っている販売管理の仕組みでも構いません。
大事なのは、受けた日時、受けた人、取引先、聞き取り項目、復唱したかどうか、どの特例を当てたかを、誰が書いても同じ形で残すことです。
変更の電話が来たときに、この記録が効いてきます。
変更対応では、元の注文を探す、何が変わったかを書き留める、出荷や仕入れの担当に伝える、という作業が重なります。
元の注文が一か所にあり、変更の内容と受けた人を同じ行に書き足せる形になっていれば、少なくとも元の注文を探す手間と、担当者に聞き直す手間は減らせます。
担当者が戻ったときの引き継ぎも、同じ記録から行います。
不在中に受けて処理まで済んだ注文、判断を保留して折り返しを待っている注文、注文ではないが取引先から聞いた気になる話を分けて渡すと、担当者は戻ってすぐ優先順位を付けられます。
こうして記録が回り始めると、担当者の頭の中にしかなかった判断が、少しずつ記録と条件表の側へ移っていきます。
| 項目 | 確認の仕方 | 抜けると起きやすいこと |
|---|---|---|
| 取引先名と発注者名 | 名乗りを聞いて記録する | 誰からの注文か分からず折り返せない |
| 品名と規格 | 商品名に加えて規格や商品コードを復唱する | 名前の似た商品の取り違え |
| 数量と単位 | ケースかバラかを確かめる | 数量の桁違いや単位違い |
| 納品日と納品先 | いつもの店か・いつもの日かを確かめる | 納品日のずれや届け先の誤り |
| 急ぎかどうか | 締め時刻との関係を伝える | 当日分か翌日分かの行き違い |
| 特例の有無 | 顧客別の条件を見ながら確かめる | 通常の条件で処理してしまう |
▼ 図の内容を文字で読む
- どんな条件のとき
- 月曜に受けた注文
- 何をどう変えるか
- 水曜着にする(通常は翌日着)
- なぜそうしているか
- 先方の荷受けが火曜休み
- いつから誰の了承か
- 担当部署の責任者の了承済み
電話のまま整えるか、他の受注経路へ移すか
電話のまま整える場合の目安
ここまでの整備は、電話の受け方を変えずにできることです。
受け皿、聞き取り項目、条件表、記録の置き場所がそろえば、属人化の多くは電話のままでも軽くできます。
そのうえで、電話から他の受注経路へ移すことを考えたほうがよいのは、どんなときでしょうか。
電話のほうが合う注文もあります。
品目や数量を相談しながら決める注文、当日の急な追加、発注する側が売り場や厨房などの現場から手早く連絡したい場合です。
こうした注文を書面やWebに移すと、取引先の手間がかえって増えることがあります。
同じ食品の小売・卸売業の調査では、受注方法として電話を挙げた担当者は50%でした(n=106、複数回答)1。
複数回答の設問なので、電話だけで受けているとは限らず、他の受注方法と並べて使われていると読むのが自然です。
電話か他の経路かの二択ではなく、どの注文を電話に残すかを考える余地がある、ということでもあります。
他の経路へ移す場合の目安
反対に、移す候補になるのは、毎回ほぼ同じ品目を定期的に注文する取引先や、件数が多く手入力の負担が大きい取引先です。
電話で受けた注文を書き取り、さらに別の画面へ打ち直しているなら、注文が最初から文字で届くだけで、聞き取りと書き写しの段階での間違いは起きにくくなります。
取引先がFAXやメール、Webでの発注に応じられるかどうかも、大きな分かれ目です。
四つの軸がすべてそろう取引先は多くないはずです。
判断が分かれやすいのは、件数は多いのに取引先が電話以外に対応できない場合です。
このときは無理に移すより、電話のまま聞き取り項目と記録を厚くするほうが、取引先との関係を崩さずに負担を減らせます。
移行の壁については、同じ調査でペーパーレス化のハードルを尋ねた設問(n=55)で、アナログな方法に慣れている(50.9%)、システム導入の予算がない(43.6%)が挙がっています1。
慣れは自社の受注担当にも、注文する取引先の側にもあります。
予算の壁については、新しい仕組みを入れる前に、すでにあるFAXやメール、使っている販売管理の注文入力など、手元の手段で移せる範囲を探す余地があります。
一部の取引先から移す考え方
同じ調査で、FAX・電話で受注している担当者(n=80)のうち、FAX・電話受注を廃止すると取引に支障が出ると想定する人は58.8%でした1。
これは担当者の想定であって、実際に支障が出た割合ではありません。
それでも、受注を担う人の半数以上がそう考えているという事実は、全取引先を一度に切り替える進め方が現場の感覚と合いにくいことを示しています。
全部の取引先を一度に移そうとすると、新しい経路に乗れない取引先との取引そのものが揺らぎます。
先の軸で候補になった取引先のうち、数社から試すほうが、うまくいかなかったときに戻しやすくなります。
もう一つ押さえておきたいのは、経路を移すことと属人化の解消は別の話だという点です。
注文が文字で届けば聞き違いは減りますが、その注文に特例を当てる判断や、変更を受け付ける判断は残ります。
他の経路で受ける注文にも、前の節で作った条件表と記録の形をそのまま使えるようにしておくと、経路を変えた先でまた特定の人に判断が集まる事態を避けられます。
| 見る点 | 電話のまま整えるほうが合う | 他の経路へ移す候補になる |
|---|---|---|
| 注文の複雑さ | 相談しながら品目や数量を決める | 品目と数量が毎回ほぼ決まっている |
| 件数と頻度 | 件数が少ない・不定期 | 件数が多い・定期的 |
| 取引先の協力度 | 電話以外での発注が難しい | FAXやメールやWebに応じられる |
| 既存の仕組み | 電話の記録と条件表で回る | 手入力の打ち直しが重く受注の仕組みがある |
▼ 図の内容を文字で読む
- 電話のまま整える
- 品目や数量を相談しながら決める注文
- 当日の急な追加
- 件数が少ない・不定期
- 他の経路へ移す候補
- 毎回ほぼ同じ品目を定期的に注文する
- 件数が多く手入力の負担が大きい
- FAXやメール、Webでの発注に応じられる
- 判断が分かれる場合
- 件数は多いが取引先が電話以外に対応できない
- 電話のまま聞き取り項目と記録を厚くする
取引先に負担をかけずに、受け方を変える進め方
案内の順序
受け方を変えるとき、壁になりやすいのは社内より取引先の側です。
前出の調査の自由回答には、取引先の了承が得られていない、取引先が対応していない、新しいやり方を受け入れてもらえない、といった声がありました1。
これらは個々の回答者の声で、どのくらいの割合かを示すものではありませんが、取引先の受け止め方が進め方を左右することはうかがえます。
取引先に負担をかけない順序は、取引先の作業が増えない変更から始めることです。
<ol><li>社内の不在時ルールと条件表を先に整え、取引先には「担当者が不在でも注文を受けられるようにした」ことと、折り返しの期限を伝える</li><li>定型的な注文が多く、日ごろのやり取りで協力が得やすい取引先に、別の経路を試してもらえるか相談する</li><li>試した取引先の反応と、聞き直しや手入力の変化を見てから、案内する範囲を広げる</li></ol>
一つ目の段階では、取引先がすることは何も変わりません。
電話をかければ、担当者が休みでも誰かが受け、決まった期限までに返事が来る。
この変化は取引先にとっても分かりやすい利点なので、受け方を変えることへの最初の印象をよくする効果があります。
別の経路を相談するときは、何が変わり、何が変わらないのかをはっきり伝えます。
注文の締め時刻や単価などの条件は変わらないこと、いつから試すのか、困ったときの問い合わせ先はどこか。
そして、聞き違いが減る、担当者の不在に左右されにくくなるといった、取引先の側から見た理由を添えます。
電話を残す選択肢
別の経路を案内するときも、電話での注文はこれまでどおり受けると明示しておきます。
新しい経路だけを示されると、取引先は電話を断られたように受け取りかねません。
定期の注文はWebやFAXで、急ぎの追加や相談は電話で、というように使い分けを提案すれば、取引先は自分の都合に合わせて選べます。
ただし、電話を残す場合に気をつけたいのが記録の置き場所です。
Webで届いた注文はWebの画面に、電話の注文は手元のメモに、と経路ごとに記録が分かれると、全体の注文を把握しているのはまた特定の担当者だけになります。
電話で受けた注文も、他の経路で届いた注文と同じ記録先へ入れる流れにしておくことが、経路を増やしても属人化を戻さないための前提です。
▼ 図の内容を文字で読む
- 社内の不在時ルールと条件表を先に整える:担当者が不在でも注文を受けられることと、折り返しの期限を取引先に伝える
- 協力が得やすい取引先に別の経路を相談する:定型的な注文が多い取引先に、何が変わり何が変わらないかを伝えて試してもらう
- 反応を見てから案内する範囲を広げる:聞き直しや手入力の変化を確かめる
小さく試して定着させる:不在時ルールの試行と確かめ方
試す範囲
ここまでのルールを、いきなり全社で始める必要はありません。
まずは一人の担当者が受け持つ取引先の範囲か、属人化が目立つ取引先数社に絞って試します。
試す期間には、担当者の休みや外出が何度か含まれるようにします。
不在日がなければ、決めた受け皿も聞き取り項目も使われないまま終わってしまうからです。
試す前に、対象の担当者と代わりに受ける人の両方に、条件表と聞き取り項目を見てもらいます。
担当者は書き漏れている特例に気づきやすく、代わりの人は書いてあっても意味が分からない箇所に気づきやすい。
この二つの視点で直しておくと、試行中の混乱を減らせます。
見る指標
効果は、自社の記録で試す前と後を比べて確かめます。
見るのは、次のような数です。
これらは編集上の提案で、どの数がどれだけ変わるかを約束するものではありません。
<ul><li>取りこぼし:出られなかった電話のうち、折り返しの期限を過ぎたもの</li><li>誤受注:納品日・数量・単位・特例の当て方などが違って処理された注文</li><li>聞き直し:受けたあとで取引先や担当者に内容を確かめ直した回数</li><li>折り返しまでの時間:留守電や保留にしてから取引先へ返事をするまでの時間</li></ul>
試す前の記録がなければ、試行を始める前の数週間だけでも、同じ形で数えておきます。
比べる相手がないと、ルールの効果なのか、たまたま注文が少なかっただけなのかを見分けられません。
不在日そのものはそれほど多くないので、件数の増減だけで判断すると読み違えやすくなります。
一件ごとに、何が起きて、聞き取り項目や条件表のどこが足りなかったのかを見るほうが、次に直す箇所がはっきりします。
定着のさせ方
定着させるうえで大事なのは、困った注文が出るたびに、ルールの側を直すことです。
誤受注や聞き直しが起きたら、聞き取り項目に足すのか、条件表の特例に書き加えるのか、記録の形を変えるのかを、間を置かずに決めます。
条件表には最終更新日と更新した人を残しておくと、古い特例がいつまでも残る事態に気づけます。
もう一つは、それまで一人で受けてきた担当者の役割を変えることです。
「その人しか受けられない」状態から、「その人が特例を書き出し、代わりの人の受け方を見直す」役へ移ってもらいます。
属人化は担当者の責任ではなく、知識が記録の外にあったことの結果です。
その知識を一番持っている人が書き手になることで、条件表と聞き取り項目は実際の注文に合った形へ育っていきます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 範囲を決めて試す:一人の担当者の取引先か数社に絞り、不在日を含めて試す
- 記録で前後を比べる:取りこぼし・誤受注・聞き直し・折り返しまでの時間を見る
- 困った注文からルールを直す:聞き取り項目・条件表・記録の形のどこに足すかを決める
- 次の範囲へ広げる:直したルールで対象の担当者や取引先を広げる
不在日に困った注文を並べても、取引先ごとに原因が重なっていると、どこから整えるかを社内だけで決めにくいことがあります。
自社の受注の流れと困った注文の例をもとに、知識・記録・体制のどこから手を付けるかを一緒に整理できます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 属人化の原因 | 不在日に困った注文から、知識・記録・体制のどれに偏っているかを見る |
| 不在時の受け皿 | 不在の種類ごとに代わりの人を主と副で決め、折り返しの期限を取引先に伝える |
| 聞き取り項目 | 過去に困った注文から逆算し、項目ごとに理由を付け、復唱を手順に入れる |
| 顧客別の特例 | 条件・変える内容・理由・始まった経緯まで書き、書かれていない例外は確認へ回す |
| 受注経路 | 注文の複雑さ・件数・取引先の協力度・既存の仕組みで見て、一部の取引先から試す |
| 確かめ方 | 取りこぼし・誤受注・聞き直し・折り返しまでの時間を自社の記録で前後比較する |
電話を残す注文と他の経路へ移す注文の線引きは、取引先ごとの事情と既存の仕組みによって変わり、外からの視点があると判断しやすくなります。 取引先の顔ぶれと注文の特徴をもとに、どの取引先から試すか、記録をどこに集めるかを確かめられます。
よくある質問
不在の日に電話を転送するとき、取引先への案内は何を伝えればよいですか。
取引先が知りたいのは、注文がきちんと受けられるかと、いつ返事が来るかです。
担当者が不在でも代わりの者が受けること、出られない場合は留守電などで受け付けて決めた期限までに折り返すこと、締め時刻間際の注文の扱いを伝えます。
担当者の不在の理由まで説明する必要はありません。
転送の設定でどこまでできるかは使っている電話設備や契約で変わるため、案内する前に自社の設定で実際に試しておくと行き違いを防げます。
通話を録音して受注内容を確認する場合、個人情報保護法上は何を確認すればよいですか。
個人情報保護委員会のQ&A(Q1-10)では、通話内容から特定の個人を識別できる場合、録音は個人情報に当たり、事業者は利用目的を通知または公表する必要があるとされています3。
録音していること自体を伝える義務までは負わないと整理されています3。
そのため、受注内容の確認という目的が自社の公表している利用目的に含まれているかをまず確かめます。
あわせて、録音を聞ける人と保存期間を社内で決めておくと、別の用途に使われるのを防げます。
顧客別の特例は、どの粒度で書いておけば引き継げますか。
目安は、担当者以外が読んでも同じ処理ができるかどうかです。
どんな条件のときに、何をどう変えるのか、その理由、いつから誰の了承で始まったのかまで書きます。
「〇〇商店は特別対応」のような書き方では、受けた人は何を変えればよいか判断できません。
理由が書いてあれば、取引先の事情が変わったときに特例を見直せますし、書かれていない例外を頼まれたときに確認へ回すべきだと気づけます。
電話受注を残したまま、FAXやWebを併用してよいのはどんな取引先ですか。
毎回ほぼ同じ品目を定期的に注文する、件数が多く手入力の負担が大きい、電話以外での発注に応じられる、といった条件がそろう取引先は併用を試す候補になります。
一方、相談しながら品目を決める注文や急な追加は、電話のほうが取引先の負担が少ないこともあります。
併用する場合は、どの経路で届いた注文も同じ記録先へ入れる流れにしておかないと、注文の全体を把握できる人がまた限られてしまいます。
一人しか受けられない取引先がある場合、まず何から共有すればよいですか。
まず、その取引先の特例と、よく来る注文の型を担当者に書き出してもらいます。
代わりの人が電話に出られても、特例を知らなければ通常の条件で処理してしまうからです。
次に、その取引先の電話を誰が代わりに受けるかと、判断に迷ったときの確認先を決めます。
書き出した内容は、代わりに受ける人に読んでもらい、意味が分からない箇所を直しておくと、実際の不在日に使える形になります。
- 1 出典:株式会社ハンモック「食品業の受注業務に関する実態調査」(2023年)
- 2 出典:株式会社NEXER/オクトパス「業務可視化ツールを使用して業務を行った経験に関するアンケート」(2024年)
- 3 出典:個人情報保護委員会「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A」
画像の出典元
- Close-up of a businessman writing notes in a diary at a modern office desk./Photo by Gustavo Fring on Pexels