◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 通話録音は食い違いが起きた後に事実を確かめる材料で、聞き間違いや入力の取り違えは注文メモの型・復唱確認・入力後の照合で減らす
- 民間事業者に録音していることを伝える義務まではないが、個人を識別できる録音には利用目的の通知または公表が要る
- 保存期間は法令に年数がなく、照合・クレーム対応・教育という用途から決めて文書化し、閲覧者を限って復元できない方法で消す
- 従業員には録音の目的・閲覧できる人・評価に使うかどうかを明示する
- 1〜2名か1回線で試し、試行前の食い違い件数と事実確認の時間を基準に効果を見る
目次

通話録音で防げるのは「食い違いの後始末」まで。聞き間違いは受注手順で減らす
注文の数量や納期について、客から「そう言っていない」と言われた。
手元には受電者のメモしかなく、どちらが正しいのか確かめられなかった。
通話録音は、こうした食い違いが起きた後に、実際のやり取りを聞き直して事実を確かめる材料になります。
ただし、受電中の聞き間違いや、メモから入力するときの取り違えそのものは止められません。
注文メモの型や復唱確認と組み合わせることで、はじめてミス対策として働きます。
録音していることを客に伝える法的な義務まではありません1。
ただし通話から個人を識別できるなら、利用目的の通知か公表が必要です。
あわせて、保存・閲覧・削除の決め方と、従業員への明示も要ります。
「そう言っていない」と言われたとき、録音で確かめられること
電話受注の食い違いが表に出るのは、たいてい品物が届いた後です。
「10ケースと言ったのに10個しか来ない」「納期は来週の火曜と伝えたはず」と連絡が来たとき、受けた側の手元にあるのは、受電者が書いたメモと、そこから入力した注文データだけです。
メモが丁寧に書かれていても、それは受電者が聞き取った内容の記録です。
客が実際に口にした言葉の記録ではありません。
通話録音があれば、該当する通話を探して、客が何と言い、受電者が何と返したかを聞き直せます。
客の言い間違いだったのか、受電者の聞き違いだったのか、それとも聞き取りは合っていて入力の段階でずれたのか。
この区別を、推測ではなく音声で付けられます。
どちらの側のずれかが分かれば、謝って作り直すのか、記録をもとに丁寧に説明するのかという、その後の対応も決めやすくなります。
ただし、録音が役に立つのは「探せること」が前提です。
数十件の通話の中から、どの日のどの通話かを特定できなければ、録音があっても確かめられません。
受電の日時や受電者をメモに残しておくことが、ここで効いてきます。
聞き間違い・手入力の取り違えは録音では止まらない
録音は、通話が終わった後に誰かが聞き返して初めて役に立つ仕組みです。
受電者が「15」を「50」と聞き取った瞬間や、メモから注文システムへ写すときに桁を打ち間違えた瞬間には、録音は何も止めていません。
聞き返されない限り、間違った注文はそのまま出荷まで進みます。
受注業務のどこに負担があるかを尋ねた調査があります。
FAX・Eメール・電話での受注業務について答えた90名では、「注文書の手入力に手間がかかる」が60%、「注文確認の連絡に手間がかかる」が41.1%でした6。
同じく「注文の変更対応に時間がかかる」が40%、「オペレーションの属人化が発生している」が38.9%です6。
この調査は株式会社ハンモックが2023年3月にインターネットで実施したもので、対象は食品の小売・卸売業の受注担当者に限られます6。
FAX・Eメール・電話をまとめて尋ねた結果で、電話受注だけの数字でも、通話録音の効果を測った数字でもありません。
業種も調べ方も限られた数字ですが、負担が一か所に集中していない点は参考になります。
挙がった負担は、聞き取った内容を入力する、注文を確認し直す、変更に対応する、特定の人しかやり方を知らない、の四つに分かれています。
このうち録音が直接関わるのは、起きたことを確かめ直す場面だけです。
入力の手間や取り違え、担当者ごとのやり方の違いは、録音を入れても変わりません。
受注の手順そのものに手を入れる必要があります。
注文メモの型・復唱確認・入力後の照合を組み合わせる
聞き間違いを減らす手当てとして、三つの仕組みを組み合わせる方法を提案します。
いずれも公的な資料で効果が示されたものではありません。
それぞれがどこで起きるずれを受け持つのかを押さえたうえで、自社の受注に合わせて形を決めます。
- 注文メモの型:客名、連絡先、品名、数量と単位、納期、届け先、受電日時、受電者の欄を、あらかじめ決めた用紙や入力画面にしておく。
書き漏れが空欄として目に見える - 復唱確認:電話を切る前に、受電者が数量と単位、納期の日付と曜日、届け先を読み上げ、客の返事を待つ。
聞き違いを通話中に直す機会になる - 入力後の照合:メモから注文システムへ入力した後、メモと入力画面を突き合わせる。
できれば入力した人とは別の人が見る。
写し間違いを出荷前に拾う
型は書き漏れ、復唱は聞き違い、照合は写し間違いを受け持ちます。
録音はその後ろに控え、三つをすり抜けて食い違いが起きたときに事実を確かめる役です。
復唱した部分も録音に残るので、聞き返したときに「確認したうえでのずれなのか、確認を飛ばしたのか」まで分かります。
どの手順を直せばよいかの手掛かりになります。
メモの受電日時と受電者の欄は、該当する録音を探すときの索引も兼ねます。
出典:株式会社ハンモック(調査実施:IDEATECH「リサピー」)「食品業の受注業務に関する実態調査」(2026-11-02取得・2023年3月、食品の小売・卸売業の受注担当者、FAX・Eメール・電話受注業務(n=90)、課題の回答割合)
自分の受電環境で使える録音方式を選ぶ:電話機内蔵・外付け・クラウド
方式の種類と、同じ軸での比較表
NTT東日本の解説では、録音の方式は次のように分けて紹介されています5。
録音機能付きのビジネスフォン、電話機に取り付ける外付けの録音装置(ICレコーダー型・受話器接続型)、通話録音システム、CTI、電話のクラウド化です。
CTIは、電話とコンピューターを連携させる仕組みの総称です。
電話のクラウド化は、電話の交換機能をインターネット上のサービスで受ける形を指します。
録音を始めるタイミングにも違いがあります5。
すべての通話を自動で録る方式、通話中に操作して録り始める方式、操作した時点から通話の始まりまでさかのぼって残す方式です。
受注の電話では、どの通話が後で食い違いになるかを、受けている最中には分かりません。
手動で録り始める方式だと、数量を聞き取っている部分が抜けやすくなります。
食い違いの後始末という目的には、自動録音か、さかのぼって残せる方式の方が合わせやすいと考えられます。
方式の向き不向きは受電環境で変わるため、次の表では順位を付けていません。
判断が分かれる四つの点について、方式ごとに何を確かめるかを並べています。
具体的な仕様や費用は製品ごとに違い、共通の公的な基準はありません。
表の中で判断が最も分かれるのは、「今の電話をそのまま使うか、電話の仕組みごと変えるか」です。
ビジネスフォンの機能や外付け装置は、今の番号と回線を前提に録音を足す考え方です。
クラウド化は電話の仕組みそのものが替わるため、録音以外の点、特に番号や発信先の扱いまで確かめる範囲が広がります。
もう一つの分かれ目は、録音を誰がどこで聞くかです。
少人数の事業所で、食い違いが出たときに責任者がその場で聞き返すだけなら、受電する場所で再生できれば足りる場合があります。
責任者が別の拠点にいる、外出先から確認したいといった事情があると、保存場所と聞き方の条件が先に効いてきます。
導入前に自社の電話機・契約で確認する項目
方式を絞る前に、今の受電環境を書き出しておきます。
販売店やサービスの提供元に問い合わせたとき、返ってきた答えを自社に当てはめやすくなります。
回線の種類、同時に受けられる通話の数、録音の保存期間は機種やサービスによって異なり、一般的な目安では判断できない部分です。
- 使っている電話機・主装置の型番と、録音機能の有無
- 契約している回線の種類と、受注に使っている電話番号
- 受注の電話が同時に何本重なることがあるか、受ける人は何人か
- 固定電話以外(携帯電話など)で受けている注文があるか
- 録音をどこに、どれだけの期間、どれだけの量まで保存できるか
- 日時・番号・受電者など、何を手掛かりに録音を探せるか
- 録音機能が標準で付くか、追加料金か
見落としやすいのが、携帯電話で受けている注文です。
固定電話に録音を入れても、営業担当者の携帯で受けた注文が録音の外にあれば、その注文で食い違いが起きたときには確かめられません。
どの電話で注文を受けるかを先に整理しておくと、方式の候補も絞れます。
クラウド化で番号や発信先が変わる場合の注意
電話をクラウドに移す場合、今の市外局番付きの番号を引き継げず、050で始まる番号になる場合があります5。
受注の電話番号は、取引先の発注書の控えや名刺、チラシ、ウェブサイトに載っています。
番号が変われば、取引先に知らせて登録を替えてもらう必要があります。
古い番号にかけてきた注文をどう受けるかも決めなければなりません。
発信先にも制約があり、110番・119番・フリーダイヤルへ発信できない場合があります5。
店舗や作業場で受注用の電話が唯一の固定電話になっているなら、緊急時の連絡手段を別に確保しておく必要があります。
仕入先がフリーダイヤルで窓口を設けている場合は、そこへの発信にも支障が出ます。
こうした条件はサービスごとに違います。
契約前に、自社の番号を残せるか、どの番号へ発信できないかを提供元に確かめておくと、導入後に慌てずに済みます。
なお、通話が始まる前に録音を知らせる案内を流せるサービスもあります5。
案内を流すかどうかは、客への告知の考え方と関わります。
| 方式 | 後付けの考え方 | 拠点・外出先での確認 | 検索・保存の管理 | 追加料金・番号の制約 |
|---|---|---|---|---|
| 録音機能付きビジネスフォン | 今の機種に機能があるか。無ければ機種の入れ替えが要るか | 録音をどの端末で再生できるかを仕様で確認 | 保存容量と探し方(日時・内線など)を確認 | 録音が標準か追加料金かを確認 |
| 外付け録音装置(ICレコーダー型・受話器接続型) | 今の電話機に取り付けて録音を足す | 装置のある場所以外で聞けるかを確認 | 記録媒体の容量と書き出し方を確認 | 回線を変えないため番号の変更は伴いにくい |
| 通話録音システム・CTI | 今の電話設備とつなげられるかを確認 | 社内のパソコンなどで聞けるかを確認 | 顧客情報や注文と結び付けて探せるかを確認 | 録音が標準か追加料金かを確認 |
| 電話のクラウド化 | 電話の仕組みごと移る | インターネット経由で聞けるかを確認 | 保存期間と容量の上限を確認 | 050番号になる場合や110番・119番・フリーダイヤルへ発信できない制約がある |
▼ 図の内容を文字で読む
- 今の番号と回線に録音を足す
- ビジネスフォンの録音機能
- 外付けの録音装置
- 電話の仕組みごと変える(クラウド化)
- 050で始まる番号になる場合がある
- 110番・119番・フリーダイヤルへ発信できない場合がある
- 録音以外の点まで確かめる範囲が広がる
客に「録音します」と伝える義務はあるのか:利用目的の通知・公表との違い
通話内容が個人情報に当たる場合と当たらない場合
録音を始めると、客との通話を記録として持つことになります。
それが個人情報になるかどうかで、事業者の義務が変わります。
個人情報保護委員会のQ&A(令和4年4月更新)は、通話録音は基本的には個人情報に該当しないとしています2。
ただし、他の情報と容易に照合して特定の個人を識別できる場合は、個別の判断になるとしています2。
通話内容そのものから特定の個人を識別できる場合は、個人情報に該当します1。
電話受注の通話には、たいてい客の名前や会社名、届け先の住所、何をいくつ注文したかが含まれます。
さらに、録音を受電日時や注文番号とひも付けて保存すれば、注文データと照らし合わせて誰の通話かがすぐ分かります。
そのため受注の録音は、個人情報として扱う前提で運用を組むのが、迷いの少ない進め方です。
個々の事案の判断を代わりに下すものではなく、扱いを軽く見積もって後で困らないための整理です。
なお、声そのものから本人を確かめるための特徴データを作った場合は、そのデータ自体が個人識別符号になるとされています2。
受注の録音を聞き返すだけなら関わりません。
声で本人確認をする機能を使う場合は扱いが変わる、という点だけ押さえておきます。
伝える義務はないが、利用目的の通知・公表は必要
Q&Aによれば、通話内容から個人を識別できる場合、事業者は利用目的を通知または公表する義務を負います1。
一方で、録音していることについて伝える義務までは負わないとされています1。
つまり、電話のたびに「録音しています」と告げなくても、何のために使うかを明らかにしておけばよい、という関係です。
通知は本人に直接知らせること、公表はウェブサイトへの掲載や店頭への掲示のように、誰でも知ることができる状態に置くことです。
ウェブサイトのプライバシーポリシーなどに、利用目的を載せておくのが公表の方法の一つです。
文面はたとえば「通話を録音し、注文内容の確認、応対品質の向上、お問い合わせやトラブルの際の事実確認に利用します」といった形です。
これは例なので、自社が実際に録音を使う場面に合わせて書きます。
新人の指導や従業員の評価に使う予定があるなら、後から目的を付け足すことにならないよう、最初の段階で含めておきます。
取得の状況から利用目的が明らかな場合に、通知や公表を省ける例外もあります。
ただ、通話録音がそれに当たるかははっきりしません。
例外に頼らず公表しておく方が、判断に迷いが残りません。
録音ガイダンスを任意で流す設計
「この通話は録音させていただきます」という案内は、法令上の必須事項ではなく、事業者が選んで流すものです。
流すかどうかは、客との関係から考えます。
案内があれば、客は録音されていると知ったうえで話します。
後で録音を根拠に説明するとき、「録っていたとは知らなかった」という反発を招きにくくなります。
反対に、毎回の通話の冒頭が少し長くなり、付き合いの長い取引先には大げさに感じられることもあります。
どちらにも決めにくい場合は、組み合わせる方法があります。
ウェブサイトでの利用目的の公表を土台にして、案内は新規の客が多い番号だけ、あるいは営業時間外の受付だけに流す、といった形です。
案内を流せるかどうか自体が方式や契約で変わるため、方式を選ぶときの確認項目に加えておくと手戻りがありません。
行政機関向けQ&Aを民間にそのまま当てはめない
通話録音の扱いを調べていると、国や自治体などの行政機関等を対象にした説明に行き当たることがあります。
行政機関等には民間事業者と異なる規定が適用されるため、そこでの結論を自社の判断の根拠にはできません。
民間の事業者が拠り所にするのは、ここで参照している個人情報取扱事業者向けのQ&Aやガイドラインです1。
自社の事情に当てはまるか迷う事案は、個人情報保護委員会の相談窓口で確かめられます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 通話録音と顧客情報
- 録音と容易に照合できると個別の判断になる
- 通話内容から個人を識別できれば個人情報に当たる
- 個人情報として扱う
- 利用目的の通知または公表が必要
- 録音していることを伝える義務までは負わない
- 個人データとして管理する場合
- 扱う担当者と範囲を限定する
- 不要になれば遅滞なく消去するよう努める
録音データの保存・閲覧・削除・開示請求をどう決めるか
保存期間は用途から逆算して決める
録音を溜め始めると、次に迷うのが「いつまで残すか」です。
ここからの考え方は、録音が「個人データ」に当たる場合のものです。
個人データとは、検索できるよう整理された個人情報の集まりに含まれる情報のことです。
録音がどの管理の仕方で当たるかは個別に判断されますが、当たる前提で決めておけば、後から管理を作り直さずに済みます。
個人情報保護法には、個人データを正確かつ最新の内容に保ち、利用する必要がなくなったときは遅滞なく消去するよう努める規定があります(法第22条)4。
消去は努力義務で、通話録音を何か月、何年残せという年数は定められていません4。
別の法令で保存期間が決まっている情報は、その定めに従います4。
年数の決まりがない以上、「何のために聞き返すか」から逆算するのが自然です。
注文の照合に使うなら、品物が届き、請求や支払いの確認まで食い違いが出なければ、その通話を聞き返す理由はほぼなくなります。
クレームに対応している最中の通話は、その件が片付くまで別に残す必要があります。
新人教育に使う通話は、教材として選んだものだけを残し、それ以外は照合用と同じ期間で消す、という分け方もできます。
決めた期間は、「照合用は○か月、クレーム対応中の通話は対応完了まで」のように文書にしておきます。
担当者が替わっても同じ判断で消せるようにするためです。
客から問い合わせがあったとき、どういう考えで保存しているかを説明する材料にもなります。
閲覧できる人と機器を限定する
ガイドラインは安全管理措置として、個人データを扱う担当者と扱う範囲を限定するアクセス制御を挙げています4。
録音に当てはめると、誰が聞けるのか、どのパソコンや端末から聞けるのかを決めることです。
受電者が自分の通話を聞き直すのはよいとしても、全員が全員の通話をいつでも聞ける状態は、客にとっても従業員にとっても好ましくありません。
従業員が数人の事業所でも、この考え方は変わりません。
ただし、従業員100人以下の事業者には、取扱規程を作る代わりに基本的な取扱方法を整え、責任者が確認するといった、簡略化した措置の例が示されています4。
過去6か月のいずれかの日に5,000人を超える本人の個人データを扱った事業者や、委託を受けて個人データを扱う事業者は、この簡略化の対象から外れます4。
取引先や客の数が多い受注窓口では、この条件に当たらないかを先に確かめておきます。
削除は復元できない方法で、記録を残す
期限が来た録音を消すときは、復元できない方法で消し、消したことを記録に残すことが求められています4。
録音がどこにあるかで、消し方は変わります。
電話機や外付け装置の記録媒体にあるのか、パソコンに書き出したのか、クラウドのサービス上にあるのかで、「消した」の中身が違うからです。
見落としやすいのは、聞き返すために書き出したコピーです。
クレーム対応のために録音ファイルを担当者のパソコンへ移したり、メールで共有したりすると、元の録音を消してもコピーが残ります。
書き出しを認めるか、認めるならどこに置いていつ消すかまで決めておくと、削除の記録が実態とずれません。
記録は、いつ、誰が、どの期間の録音を消したかが後から分かる形にしておきます。
本人から開示を求められたとき
録音が「保有個人データ」に当たる場合、客は自分の録音について開示などを請求できます4。
保有個人データとは、事業者が開示や訂正などに応じる権限を持つ個人データのことです。
録音がこれに当たるかは、保存や管理の仕方による個別の判断になります。
当たる場合に備えて、事業者は請求の受付先、様式、本人確認の方法、手数料を定め、本人が知り得る状態にしておくことができます4。
開示しない場合の事由や、開示しないときに本人へ通知する義務も、ガイドラインに定めがあります4。
現場で起きやすいのは、正式な請求というより、食い違いの最中に客から「録音があるなら聞かせてほしい」と言われる場面です。
受電者がその場で再生して聞かせると、相手が本人かどうか確かめないまま通話内容を伝えることになりかねません。
受付は責任者に回し、本人確認をしてから対応する流れを決めておけば、受電者が一人で判断を迫られずに済みます。

従業員の通話を録音する場合の周知とルール作り
目的を特定して社内規程等で明示する
録音されるのは客だけではありません。
受電者の話し方や受け答えも、そのまま記録に残ります。
自分の通話がいつ誰に聞かれるのか分からない状態は落ち着かないものです。
録音の目的が説明されていなければ、監視のために入れたと受け取られることもあります。
個人情報保護委員会のQ&Aには、個人データを扱う従業者をモニタリングする際の留意点が挙げられています3。
目的を特定して社内規程などに定め、従業者に明示すること、責任者と権限を定めること、実施のルールを決めて運用者に徹底すること、ルールどおりに行われているかを確認すること、です3。
重要な事項を定めるときは、労働組合などへの事前の通知や協議、定めた後の従業者への周知が望ましいともされています3。
このQ&Aが取り上げているのはビデオやオンラインによる監視で、通話録音には触れていません。
ここでは同じ考え方を、通話録音の社内ルールに当てはめる形で提案します。
目的は、「注文内容の照合」「新人の受電対応の確認と指導」「クレーム時の事実確認」のように、録音を聞き返す場面として書きます。
そうすると、従業員にも何に使われるのかが具体的に伝わります。
客向けに公表した利用目的と並べて、両者が食い違っていないかも見ておきます。
責任者・権限・確認方法を決める
ルールに書く中身は、閲覧できる人を限るという保存の決めごとと重なります。
録音を聞けるのは誰か、誰の許可で聞くのか、聞いたことを記録するのかを決めます。
たとえば、受電者は自分の通話、責任者は食い違いやクレームが起きた通話、指導役は担当する新人の通話、という分け方が考えられます。
決めたルールが守られているかを確認する人も置きます。
小さな事業所では責任者が一人で兼ねることになりますが、それでも「誰がいつどの通話を聞いたか」が後から分かる形にしておくと、ルールが形だけになるのを防げます。
再生した記録を機器側で残せない場合は、簡単な記録簿で補います。
評価目的に使うかどうかを分けて明示する
迷いやすいのが、録音を従業員の評価に使うかどうかです。
指導のために聞くことと、評価の材料にすることは、従業員にとって意味が大きく違います。
目的を特定して明示するという考え方に沿えば、評価に使うつもりがあるなら最初から目的に含めて伝え、使わないなら使わないと書いておくことになります。
途中で目的を広げたくなった場合も、黙って使い始めるのではなく、規程を改めたうえで周知し直す手順を踏みます。
評価に使わないと明示しておくと、受電者が自分の通話を教材として聞き直すことへの抵抗も小さくなります。
教育に録音を使うときの進めやすさにもつながります。
録音を注文の照合・新人教育・クレーム対応に使い回す
食い違いが出た注文だけ聞き返す
方式・告知・保存・周知が決まると、残るのは日々の仕事の中での使い方です。
すべての通話を聞き返そうとすると、受注の件数と同じだけ確認の時間が増え、それ自体が新しい負担になります。
用途ごとに、聞き返す範囲を絞っておくのが現実的です。
注文の照合では、食い違いの連絡が来た注文と、出荷前の照合でメモと入力のずれが見つかった注文だけを聞き返します。
メモに受電日時と受電者が書いてあれば、該当の通話を探す時間も短くなります。
聞き返した結果は、どの注文で何がずれていて、原因はどこにあったかを、一行でよいので残します。
この記録が、後の原因の分類と、試行の効果の確認の両方に使われます。
新人は抜き出した通話をメモと突き合わせる
新人の受電対応を確かめるときは、全件ではなく、一定の件数を抜き出して聞きます。
抜き出した通話について、録音で客が話した内容、新人が書いた注文メモ、注文システムへの入力内容を並べて突き合わせます。
メモの型どおりに聞き取れているか、復唱で数量と納期を確かめているか、入力で写し間違いがないかが一度に見えます。
受注のやり方が特定の人に偏っている状態は、属人化として受注担当者自身も課題に挙げています6。
経験の長い担当者の通話を一本選び、新人と一緒に聞いて、どこで何を確かめているかを言葉にしていく使い方もあります。
そこから、メモの型や復唱の手順に書き足す項目が見つかることがあります。
聞き返す件数は指導役の手が回る範囲で決め、新人が慣れてきたら減らしていきます。
クレームは権限者だけが確認する
クレームにつながった通話は、指定した権限者だけが確認します。
受電者本人が当事者になっていることが多く、本人だけで聞き返して判断すると、客への説明も社内での受け止めも偏りやすいからです。
権限者が録音を聞いて事実関係を整理し、客への説明と社内での振り返りを分けて進めます。
客に録音の内容を伝える場合は、責任者が受け付けて本人確認をする流れに沿います。
対応中の通話は、照合用の保存期間が過ぎても対応が終わるまで消さないよう、保存の区分を切り替えておきます。
原因を分類して手順に戻す
聞き返した結果を再発の防止につなげるには、原因の分類が要ります。
分け方は三つが扱いやすいでしょう。
客の言葉を聞き違えた「聞き取り」、聞き取りは合っていたが社内で伝わる途中でずれた「伝達」、メモや入力でずれた「記録」です。
分類ごとに、直す先が決まります。
聞き取りのずれが続くなら復唱する項目を、伝達のずれが続くならメモの受け渡し方を、記録のずれが続くならメモの型と入力後の照合を見直します。
直した手順で次の注文を受け、また食い違いが出たら聞き返して分類する、という繰り返しになります。
この繰り返しで減らせるのは、同じ種類のずれが何度も起きる状態です。
食い違いがなくなることまでは約束できません。
ただ、どこを直せばよいかが分からないまま「気をつけましょう」で終わる状態からは抜け出せます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 食い違いの連絡・照合でずれを見つける
- 該当する通話を権限者が聞き返す
- 原因を聞き取り・伝達・記録に分類する
- 復唱の項目・メモの型・照合の手順を直す
- 直した手順で次の注文を受ける
導入前に決めること、小さく試す手順、効果の確かめ方
導入前に決める5つのこと
- 録音の目的:照合・教育・クレーム対応のどれに使うか
- 方式:受電環境の確認項目をもとに選ぶ
- 利用目的の公表文と、録音の案内を流すかどうか
- 保存期間・閲覧できる人・削除の手順
- 従業員への目的とルールの明示
このうち①の目的は、ほかの四つすべての前提です。
目的が決まれば、②の方式選びと③の公表文づくりは並行して進められます。
個人情報に当たる録音では利用目的の通知または公表が必要になるため1、③は録音を始める前に済ませておきます。
④と⑤は、方式によって保存場所や再生の仕組みが変わるので、方式の見通しが立ってから詰めると手戻りが少なくなります。
1〜2名または1回線から試す
決めごとが揃ったら、いきなり全員・全回線で始めるより、受電者1〜2名か、受注用の1回線から試す方が扱いやすくなります。
期間は数週間を目安にし、聞き返しに実際どれだけ手間がかかるか、保存や削除の手順が回るか、従業員が録音をどう受け止めているかを見ます。
この人数や期間は実績から導いた標準ではなく、運用の不具合を小さいうちに見つけるための提案です。
試す対象には、注文の件数が多く、食い違いの連絡もそれなりにある担当や回線を選ぶと、短い期間でも判断の材料が集まります。
注文がほとんど来ない回線で試すと、何も起きないまま期間が終わります。
録音が役立つのかどうか分からないまま、本格導入を決めることになりかねません。
試行前後の件数と時間で確かめる
効果を確かめるには、比べる元が要ります。
録音を始める前の数週間、食い違いの連絡が何件あり、そのたびに事実確認にどれくらい時間がかかったかを、同じ書式で記録しておきます。
録音の効果について目安になる公的な数値はないため、自社の試行前の件数が基準になります。
- 食い違いの件数と、その原因の分類(聞き取り・伝達・記録)
- 食い違い1件の事実確認にかかった時間
- 録音を聞き返した件数と、聞き返しにかかった時間

数字の読み方にも注意が要ります。
記録を付け始めると、それまで見過ごしていた食い違いまで拾うようになり、件数がかえって増えて見えることがあります。
件数だけで良し悪しを決めると判断を誤ります。
確認にかかる時間が短くなったか、原因の分類に偏りが出て手を入れる場所が見えたか、聞き返しの手間が許容できる範囲か。
これらを合わせて見て、対象を広げるか、聞き返す範囲を絞り直すかを決めます。
録音の方式や告知文、保存期間の決め方は、今の電話設備や受注の流れ、顧客情報の持ち方によって変わります。一般的な考え方だけでは、自社に当てはめにくい部分が残ります。
今の受注のどの段階で食い違いが起きているか、録音と受注手順のどちらで手当てするのが合うかを、自社の状況に沿って整理できます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 録音の役割 | 食い違いが起きた後の事実確認。聞き間違いや入力ミスは受注手順で減らす |
| 受注手順 | 注文メモの型・復唱確認・入力後の照合を組み合わせる |
| 方式選び | 今の電話に録音を足すか、電話の仕組みごと変えるか。番号と発信先の制約を確かめる |
| 客への告知 | 録音を伝える義務はない。個人を識別できる録音は利用目的の通知または公表が要る |
| 保存・閲覧・削除 | 年数は用途から決めて文書化。閲覧者を限り、復元できない方法で消して記録する |
| 従業員 | 目的・責任者・閲覧ルール・評価に使うかどうかを明示する |
| 試行と効果 | 1〜2名か1回線で試し、試行前の件数と確認時間を基準に見る |
試行を始めた後は、記録した食い違いの件数や聞き返しの手間をどう読むかで、対象を広げるか、範囲を絞るかの判断が分かれます。 試行で集めた件数と原因の分類をもとに、次に見直す受注手順と、聞き返す範囲の決め方を確かめられます。
よくある質問
録音ガイダンスは法律上必ず流さないといけませんか。流さなければ違法になりますか。
案内を流さないこと自体が、義務違反になるわけではありません。
民間の事業者は、通話内容から個人を識別できる場合に利用目的を通知または公表する義務を負いますが、録音していることを伝える義務までは負わないとされています1。
案内を流さないなら、ウェブサイトなどで利用目的を公表しておくことが前提になります。
個別の事情で判断に迷う場合は、個人情報保護委員会の相談窓口で確かめられます。
個人事業主や従業員が数人の事業所でも、録音データの安全管理や削除のルールは必要ですか。
必要です。
ただし、従業員100人以下の事業者には、取扱規程の代わりに基本的な取扱方法を整え、責任者が確認するといった簡略化した措置の例が示されています4。
過去6か月のいずれかの日に5,000人を超える本人の個人データを扱った事業者や、委託を受けて個人データを扱う事業者は対象外です4。
小さな事業所でも、誰が聞けるか、いつ消すかの二点は決めておきます。
録音データは何か月から何年保存すればよいですか。
通話録音の保存年数を定めた法令の規定はありません4。
個人データは利用する必要がなくなったら遅滞なく消去するよう努めるとされているため4、照合・クレーム対応・教育といった用途ごとに、聞き返す可能性がある期間から決めます。
決めた期間は文書にして、担当者が替わっても同じ判断で消せるようにします。
携帯電話や固定電話の併用でも録音できますか。従業員の私用携帯で受けた注文はどうしますか。
携帯電話で受けた通話を録音できるかは、方式や機種、サービスの仕様によって異なるため、導入前に提供元へ確かめます。
私用携帯で受けた注文は、会社が管理できない端末に客の情報が残るため、録音の対象に含めるより、受注の電話番号を会社の電話へまとめる方が管理しやすくなります。
どうしても私用携帯で受けた場合は、注文メモの型に書いて復唱し、会社の電話で折り返して内容を確かめる、といった運用で補う方法があります。
録音した通話を従業員の評価や人事に使ってもよいですか。
従業者のモニタリングについて個人情報保護委員会のQ&Aは、目的を特定して社内規程などに定め、従業者に明示することを挙げています3。
このQ&Aは通話録音に直接触れたものではありませんが、同じ考え方に沿えば、評価に使うなら最初から目的に含めて伝え、使わないなら使わないと明示しておくことになります。
途中で評価に使い始めるのではなく、規程を改めて周知し直す手順を踏みます。
客から自分の通話録音を聞かせてほしいと言われたらどうしますか。
受電者がその場で再生するのではなく、責任者が受け付けて本人確認をしてから対応します。
録音が保有個人データに当たる場合、本人は開示を請求でき、事業者は受付先・様式・本人確認の方法・手数料を定めておくことができます4。
録音が保有個人データに当たるかは管理の仕方による個別の判断になるため、迷う場合は個人情報保護委員会の相談窓口で確かめます。
聞き返しの負担が大きくなりそうなとき、どの通話だけ確認すればよいですか。
用途ごとに範囲を絞ります。
注文の照合は食い違いの連絡が来た注文と、出荷前の照合でずれが見つかった注文だけ、新人の確認は抜き出した一定件数だけ、クレームは該当する通話を権限者だけが確認する、という分け方です。
聞き返した結果を原因ごとに分類しておくと、聞き返しが手順の見直しにつながります。
- 1 出典:個人情報保護委員会「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A Q1-10」(2022年)
- 2 出典:個人情報保護委員会「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A Q1-11」(2022年)
- 3 出典:個人情報保護委員会「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A Q5-7」(2022年)
- 4 出典:個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」(現行版、2026年閲覧)
- 5 出典:NTT東日本「自動通話録音に関するコラム」(2026年閲覧)
- 6 出典:株式会社ハンモック「食品業の受注業務に関する実態調査」(2023年)
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- Close-up of a tattooed hand writing in a notebook with pencil and papers around./Photo by Melinee on Pexels
- Group of professionals discussing a project at a computer in a modern office environment./Photo by cottonbro studio on Pexels