◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 売掛の費用は、すでに出ている費用(工数・資金負担・貸倒損失)と、対策で足す費用に分けて見る。
- 経営セーフティ共済は倒産時の資金繰りに備える貸付で、加入から6か月以上たってからの倒産などが条件になり、入金遅れや夜逃げには使えない。
- ファクタリングは入金待ちの資金負担を減らす手段で、手数料の総額、償還請求の有無、取引の形と相手の登録を見積もり段階で確かめる。
- 貸倒損失は法人税の要件を満たせば損金にできるため、損失と対策費用は税引前か税引後のどちらかにそろえて比べる。
- 費用対効果は「減らせる損失+減らせる工数−対策費用」を対策ごとに別々に試算し、差が小さいときは明細や条件に戻って確かめる。
目次

入金遅れが出たとき、売掛の費用は「すでに出ている分」と「対策で足す分」に分けて見る
取引先の入金が遅れはじめ、督促や消込に追われています。
共済やファクタリングの案内は届くものの、払う価値があるのか判断がつかない。
そんなときにまず変えられるのは、費用の比べ方です。
売掛の費用は、すでに出ている費用(督促・消込の工数、入金待ちの資金負担、貸倒損失)と、対策で足す費用(共済掛金、ファクタリング手数料など)に分けて見ます。
倒産への備え、資金化、工数削減は、それぞれ減らせるものが違います。
そのため料金の安さで並べず、「減らせる損失・工数−対策費用」を自社の数字で対策ごとに試算し、税務上の扱いを含めた実質負担で判断します。
すでに出ている費用:工数・資金負担・貸倒損失
対策の見積もりを前にすると、目に入るのは月額や手数料など、これから払う金額です。
しかし比べる相手になるのは、何もしなかった場合に出続ける費用のほうです。
こちらは請求書にも帳簿の一行にもまとまっていません。
先にこの費用を拾い出しておかないと、どの見積もりも高く見えるか、何となく安く見えるかのどちらかになり、判断の根拠が残りません。
すでに出ている費用は、性質の違う三つに分けると数えやすくなります。
<ul><li>工数:請求書の発行、入金の消込(入金額と請求を突き合わせて売掛金を消す作業)、遅れている取引先への連絡や再請求に使っている時間</li><li>資金負担:入金が予定より遅れるあいだ、仕入や給与の支払いを手元資金や借入でつないでいる分の負担</li><li>貸倒損失:取引先が払えなくなり、回収をあきらめた売掛金そのもの</li></ul>
三つは発生の仕方が違います。
工数は毎月少しずつ出ていくので、気づかれにくい費用です。
資金負担は、遅れた金額と日数に応じて膨らみます。
貸倒損失はたまにしか起きませんが、起きると一度に大きく出ます。
同じ「売掛の費用」でも、ならして見るべきもの、遅れの量で見るべきもの、最悪の一件で見るべきものが混ざっているわけです。
回収難は、統計の上でも目に見える形で出ています。
帝国データバンクの2025年度の倒産集計では、倒産主因が「売掛金回収難」とされた件数は62件で、前年度の49件から26.5%増えました5。
ただしこれは、倒産した企業自身の主因を数えた統計です5。
取引先が倒産する確率や、自社に貸倒れが起きる頻度を示す数字ではありません。
自社の判断には、自社の過去の未回収と遅延の記録を使います。
対策のために足す費用
対策の費用は、何に備えるかで性格が分かれます。
<ul><li>倒産への備え:取引先の倒産時に資金を借りられる共済の掛金、取引信用保険などの保険料</li><li>資金化:入金を待たずに売掛金をお金に換えるファクタリングの手数料</li><li>工数の削減:請求・消込・督促を助けるシステムの利用料、回収業務の外部委託費</li></ul>
このうち公的制度である共済は掛金の範囲や貸付の条件が公表されているため、後の節で数字を使って説明します。
保険料は取引先の信用力や契約の内容で変わります。
システムや委託の費用も、提供元と範囲によって決まります。
どれも一律の相場で比べられるものではないため、見積もりの内訳で何に対して払うのかを確かめることになります。
大切なのは、足す費用を、すでに出ている費用のどれを減らすために払うのかと結び付けることです。
たとえば共済の掛金は、平時の督促の手間を減らしません。
ファクタリングの手数料は、入金待ちの資金負担を減らすために払うものです。
この結び付けがないまま「月いくらなら安い」と考えると、減らしたい費用と違う対策にお金を使ってしまいます。
費用の見落としやすい点
見落としやすいのは、まず工数です。
督促の電話は営業担当、消込は経理、再請求の書類づくりは事務担当というように、部署をまたいで少しずつ使われています。
そのため、会社全体でどれだけの時間を使っているかを誰も合計していないことがあります。
担当者の兼務の中に溶けている時間は、対策の費用と比べる段になって初めて意味を持ちます。
対策の側にも、見積もりの金額だけでは分からない費用があります。
途中でやめたときに戻らない分、使うたびにかかる分、税務上の扱いで実質が変わる分です。
共済には掛金が戻らない期間があり、ファクタリングは利用のたびに手数料がかかります。
月額や率だけを並べると、こうした差が消えてしまいます。
そしてもう一つが、貸倒損失の実質です。
回収できなかった売掛金は、税務上の要件を満たせば損金にでき、会社が負う実質の負担は額面より小さくなります。
どの条件でそうなるかによって、対策に払ってよい金額の上限も動きます。
| 区分 | 中身 | 自社で拾う数字 |
|---|---|---|
| すでに出ている費用:工数 | 請求・消込・督促の作業 | 作業時間と人件費 |
| すでに出ている費用:資金負担 | 入金遅れのあいだのつなぎ資金 | 遅れた金額と日数 |
| すでに出ている費用:貸倒損失 | 回収をあきらめた売掛金 | 過去の未回収額 |
| 対策で足す費用:倒産への備え | 共済掛金・保険料 | 年間の支払額 |
| 対策で足す費用:資金化 | ファクタリング手数料 | 利用ごとの手数料総額 |
| 対策で足す費用:工数の削減 | システム利用料・委託費 | 年間の支払額 |
▼ 図の内容を文字で読む
- 工数
- 毎月少しずつ出ていく
- 気づかれにくい費用
- ならして見る
- 資金負担
- 遅れた金額と日数に応じて膨らむ
- 遅れの量で見る
- 貸倒損失
- たまにしか起きない
- 起きると一度に大きく出る
- 最悪の一件で見る
貸倒れは税務上どこまで損金にできるか:実質負担を左右する要件
取引停止から1年以上と備忘価額
回収をあきらめた売掛金は、そのまま会社の損になります。
ただ法人税では、要件を満たせば貸倒損失として損金に入れられ、その分だけ課税所得が減ります。
試算で貸倒損失を「減らしたい費用」に置くとき、額面の全額で数えるか、損金算入を見込んだ実質で数えるかで、対策にかけてよい費用の上限が変わります。
国税庁は、継続的な取引をしていた取引先に対する売掛債権について、取引停止の時と最後の弁済の時などのうち最も遅い時から1年以上経過したとき、売掛債権額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理できるとしています3。
備忘価額とは、帳簿から完全には消さず、記録を残すために置いておくごく小さな金額のことです。
売掛金の大半を損金にしつつ、債権があった事実は帳簿に残す形になります。
実務で効いてくるのは、起点が「最も遅い時」である点です。
取引を止めた後に一部でも入金があれば、起点はその入金の時へ後ろにずれます。
督促して少しずつ払ってもらっている取引先は、支払いが続くかぎり、この扱いの1年が始まりません。
分割で回収を続けるか、見切りをつけるかの判断は、損金にできる時期とも関わってきます。
対象外になる場合(担保物・単発取引)
この扱いは、売掛債権に担保物がある場合には使えません3。
不動産取引のように、たまたま行った取引の相手に対する売掛債権にも適用されません3。
継続して取引してきた取引先との売掛金を前提にした扱いだと考えると、範囲がつかみやすくなります。
少額の売掛金には、別の扱いもあります。
同じ地域の債務者に対する売掛債権の総額が取立費用より少なく、支払を督促しても弁済がない場合も、備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理できるとされています3。
取り立てにかかる費用のほうが高いという費用対効果の判断が、税務の上でも意味を持つ場面です。
ただし条件には「督促しても弁済がない」ことが含まれているので、督促をまったくせずにあきらめることとは違います。
試算に入れるときは、比べる両側の扱いをそろえます。
貸倒損失を損金算入後の実質で数えるなら、対策費用の側も損金になる分を差し引いた実質で数えます。
どちらも税引前の額で比べるやり方でもかまいません。
片方だけ税の効果を引くと、比較が一方に偏ります。
ここで説明した要件は法人税の取扱いです。
個人事業の場合や消費税の扱いは、この要件だけでは判断できません。
手元の売掛金が要件に当たるかどうかは、取引の経緯や担保の有無で変わるため、個別の可否は税理士に確認します。
▼ 図の内容を文字で読む
- 取引停止の時と最後の弁済の時などのうち最も遅い時を起点にする
- 途中で一部入金があれば起点はその時へずれる
- 起点から1年以上たつと備忘価額を残して損金経理できる
取引先が倒産したときの備え:経営セーフティ共済の掛金と貸付の条件
掛金と貸付上限
取引先の倒産に備える公的な仕組みとして、中小企業基盤整備機構が運営する経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)があります。
取引先の倒産で売掛金などの回収が難しくなったときに、借入れができる制度です1。
ここで押さえておきたいのは、受け取るのが「貸付」だという点です。
回収できなかった売掛金が戻ってくるのではなく、倒産で空いた入金の穴を埋める資金を借りられる備えであり、借りた分は返します。
掛金月額は5,000円から20万円の範囲で選べます1。
貸付額は、回収が困難になった額と、納付した掛金総額の10倍のうち少ない方で、最高8,000万円です1。
掛金総額が小さいうちは、回収困難額が大きくても、借りられる額は掛金総額の10倍で頭打ちになります。
備えたい取引先の売掛残高を思い浮かべ、その規模に届くまでどれだけ積み立てる必要があるかを見ると、掛金月額の選び方が具体的になります。
掛金は、法人であれば損金に算入できます1。
一方で、令和6年10月以降に解約して再加入した場合、解約日から2年を経過する日までの掛金は損金・必要経費に算入できません1。
資金繰りの都合で解約と加入を繰り返すと、掛金の税務上の扱いが変わる点に注意が必要です。
貸付の利率や返済の条件は、加入前に運営元の案内で確かめておきます。
使える倒産・使えない場合
貸付を受けるには、取引先の倒産が加入から6か月以上たってからであり、倒産までに6か月分以上の掛金を納めている必要があります2。
入金遅れに気づいてから慌てて加入しても、その取引先がすぐに倒産すれば間に合いません。
なお、掛金月額5,000円で、加入から借入れの手続きまでが6か月以上10か月未満の場合には、別の基準が設けられています2。
対象になるのは、直接の取引先に生じた次のような事態です2。
<ul><li>破産・再生・更生・特別清算の申立て</li><li>取引停止処分</li><li>弁護士などによる支払停止の通知</li></ul>
夜逃げなどは対象外です2。
入金が遅れている、督促しても返事がないという段階も、上のような事態に当たらなければ貸付の対象になりません。
共済は「遅れ」ではなく「倒産」に備える仕組みだと分けて考えると、他の対策との役割分担が見えてきます。
また、複数の事態が生じた場合は、倒産日から6か月を過ぎると請求できなくなります2。
取引先の異変を知った時点で、手続きの期限も意識しておく必要があります。
解約手当金と掛け捨て
掛金を12か月以上納めていれば、解約したときに掛金総額の8割以上が戻ります1。
12か月未満で解約すると戻らず、掛け捨てになります。
費用として見ると、長く続けるほど積み立てに近づき、短期間でやめると支払った掛金がそのまま費用になる仕組みです。
そのため共済の費用は、掛金の額面だけで判断しません。
解約したときに戻らない見込みの分、そのお金を他に回せないことの負担、法人なら損金算入による税の効果を合わせて見ます。
資金に余裕がない時期に高い掛金月額を選び、早々に解約することになれば、費用は額面どおりに残ります。
続けられる金額かどうかも、費用対効果の一部です。
▼ 図の内容を文字で読む
- 加入:掛金月額は5,000円から20万円の範囲で選ぶ
- 加入から6か月以上・6か月分以上の納付:この後に起きた取引先の倒産が貸付の対象になる
- 12か月以上の納付:解約時に掛金総額の8割以上が戻る(12か月未満は掛け捨て)
▼ 図の内容を文字で読む
- 対象になる事態
- 破産・再生・更生・特別清算の申立て
- 取引停止処分
- 弁護士などによる支払停止の通知
- 対象外
- 夜逃げなど
- 倒産に当たらない段階
- 入金が遅れている
- 督促しても返事がない
ファクタリングは「何を減らす手段」か:手数料の読み方と注意点
資金化と貸倒れ防止は別の目的
ファクタリングは、売掛債権を支払期日より前に資金に換える手段です。
期日を待たずにお金を受け取る代わりに、手数料や割引の分だけ受取額が減ります。
減らしているのは、入金を待つあいだの資金負担です。
共済と並べて「どちらが安いか」と比べたくなるかもしれません。
しかし共済は倒産が起きたときの資金の穴に備えるもの、ファクタリングは平時の入金待ちを短くするもので、効く場面がそもそも違います。
取引先が最終的に払わなかったとき、その負担を誰が負うかは契約で決まります。
貸倒れの負担まで自社から離れるかどうかは、手段の名前ではなく、見積もりと契約書の中身で確かめる事柄です。
見積もりで確認する項目
金融庁は、高額な手数料や大幅な割引率のファクタリングは資金繰りを悪化させ、多重債務につながるおそれがあると注意を促しています4。
ただし、何%を超えたら高いという基準は示していません4。
だからこそ、率の数字だけで判断せず、自社が実際にいくら受け取り、どんな義務を負うのかを見積もりから読み取る必要があります。
見積もりや契約書で見ておきたいのは、次の点です。
<ul><li>手数料の総額:率だけでなく、事務手数料などを含めて、受け取る額が売掛金からいくら減るか</li><li>償還請求の有無:取引先が払わなかったとき、自社が買い戻しや返金を求められるか</li><li>取引の形:売掛金を買い取る取引なのか、売掛金を担保にお金を貸す取引なのか</li><li>取引先との取り決め:取引先との契約に、売掛金の譲渡を制限する約束がないか</li></ul>
手数料の総額は、資金化によって短くなる入金待ちの日数と並べると意味が分かります。
期日まであと少しの売掛金に高い手数料を払えば、短縮できる日数に対して割高になります。
また、毎月の資金不足を埋めるために繰り返し使うと、手数料が売上から継続して差し引かれます。
資金繰りの谷が一時的なのか、取引条件から来る恒常的なものなのかで、見るべき費用の大きさが変わります。
ファクタリングを装った違法な貸付けへの注意
金融庁は、ファクタリングを装って、貸金業登録のない業者が債権を担保とした違法な貸付けを行っている事案が確認されているとしています4。
名目が売掛金の買い取りでも、中身が売掛金を担保にした貸付けであれば、登録のない業者との取引は違法な貸付けに関わることになります。
見積もりの段階で、取引の形と相手の登録を確かめておく理由はここにあります。
契約の内容に不審な点がある場合、金融庁は警察(#9110)や金融サービス利用者相談室に相談するよう案内しています4。
手数料の安さを比べる前に、取引として安心して使える相手かどうかを先に確かめる、という順番になります。
| 対策 | 主に減らすもの | 費用の出方 | 使える場面の条件 |
|---|---|---|---|
| 経営セーフティ共済 | 取引先倒産時の資金繰りの穴(貸付のため返済が必要) | 毎月の掛金(12か月未満の解約は掛け捨て) | 加入6か月以上・6か月分以上の納付と、対象となる倒産の事態 |
| ファクタリング | 入金待ちの資金負担 | 利用ごとの手数料 | 取引先が払わない場合の負担は契約で確認 |
| 請求・督促の仕組みの見直し | 請求・消込・督促の工数 | システム利用料や委託費など | 遅れが多くの取引先に広がっているとき |
▼ 図の内容を文字で読む
- 受け取る額
- 手数料の総額(事務手数料などを含む)
- 取引先が払わなかったときの負担
- 償還請求の有無
- 取引の形と取り決め
- 売掛金の買い取りか、売掛金を担保にした貸付けか
- 取引先との契約に譲渡を制限する約束がないか
費用対効果を自社の数字で試算する:減らせる損失・工数から対策費用を引く
損失側の数字の集め方
試算の式は「減らせる損失+減らせる工数−対策費用」です。
期間は年単位などにそろえ、損失側と費用側を同じ長さで比べます。
難しいのは費用側ではなく、損失側の数字を集めるところです。
工数は、請求・消込・督促に使った時間を、担当者ごとにしばらく記録すると見えてきます。
営業担当の督促の電話や、経理担当が入金明細と請求書を突き合わせる時間も含めます。
集めた時間に人件費をかけたものが、何もしなければ出続ける工数の費用です。
資金負担は、遅れた金額と遅れた日数から考えます。
その間を借入でつないだのであれば利息、手元資金で埋めたのであれば、そのお金を他に回せなかったことが負担です。
遅れが特定の時期に集中するなら、その時期の分を分けて見ると、資金化の手段を使う場面が具体的になります。
貸倒損失は、過去の未回収額を数年分さかのぼって拾います。
税務上の要件を満たして損金にできたものは、実質の負担に直して数えます。
このとき、平均値だけにしないことが大切です。
大口の取引先の一件が年に一度起きるかどうかという損失は、平均にすると薄まってしまい、備える必要がないように見えます。
平均と並べて、残高の大きい取引先が倒産した場合の金額も控えておきます。
対策費用の年換算
共済は、年間の掛金を並べるだけでは実態とずれます。
続ける見込みが立つなら、費用として数えるのは解約時に戻らない見込みの分と、資金を寝かせる負担が中心になります。
一方、12か月未満でやめる可能性があるなら、掛金の全額を費用として見ておくほうが安全です。
ファクタリングは、一年に使う見込みの回数と、一回ごとの手数料総額をかけ合わせます。
一回分の率だけを見ていると、繰り返し使ったときの負担がつかめません。
システムの利用料や委託費は、月額を年に直し、導入時にかかる費用があればそれも加えます。
効果の種類が違う対策は別々に見る
減らせるものが違う対策は、一つの式にまとめて「どれが一番得か」を出そうとしないほうが判断を誤りません。
共済の効果は、取引先が倒産した年にしか現れません。
倒産が起きない年は効果がないように見えますが、比べる相手は平時の損得ではなく、残高の大きい取引先が倒産したときに資金をつなげるかどうかです。
その金額と、掛金総額の10倍で決まる借入れの上限とを並べて考えます。
ファクタリングは、手数料の総額と、入金待ちで出ていた資金負担を比べます。
工数を減らす対策は、年間の費用と、減らせる作業時間に人件費をかけた額を比べます。
同じ会社が複数の対策を組み合わせることもありますが、その場合も試算は対策ごとに分け、それぞれが何を減らしたかを見えるようにしておきます。
試算の結果、差がわずかになることもあります。
そのときに差額の大小だけで結論を出すと、仮に置いた時間や遅延日数の見積もり違いで判断が逆転しかねません。
差が小さいときほど、実際の入金記録や見積もりの明細、契約の条件に戻って、どの数字が結果を左右しているかを確かめます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 損失側の数字を集める:工数・遅れによる資金負担・過去の貸倒損失
- 税務上の扱いをそろえる:損失も対策費用も、税引前か税引後のどちらかで比べる
- 対策費用を年単位に直す:掛金・手数料・利用料を同じ期間にそろえる
- 対策ごとに差し引く:減らせる損失+減らせる工数−対策費用
状況別に、どこから検討するか
倒産リスクが気になる取引先が少数の場合
売掛残高が特定の取引先に偏っていて、その取引先の経営に不安がある場合、気になるのは平時の手間より、倒産したときに資金が回るかどうかです。
この状況では、共済のような倒産時の備えから検討する理由があります。
ただし加入から6か月以上たってからの倒産でなければ貸付は受けられず、夜逃げなどは対象外です2。
心配が差し迫っているほど、間に合わない可能性も考えておく必要があります。
掛金月額は、備えたい売掛残高と、掛金総額の10倍で決まる借入れの上限を見比べて考えます。
あわせて、その取引先への売掛残高を増やさない取引条件の見直しも、追加の費用をかけずにできる検討です。
備えを厚くすることと、そもそも抱える残高を抑えることは、別の方向から同じ不安に応えます。
入金待ちで資金が詰まる場合
取引先はいずれ払ってくれるものの、支払いまでの期間が長く、仕入や給与の支払いとの間に資金の谷ができる場合があります。
この状況で減らしたいのは貸倒損失ではなく、入金待ちの資金負担です。
資金化の手段が候補になりますが、手数料の総額、償還請求の有無、相手の登録と取引の形を確かめることが前提です。
資金の谷が繁忙期などの一時的なものなら、使う回数を絞った資金化で足りるかもしれません。
毎月のように谷ができるなら、手数料が継続的にかかる前提で年間の負担を出し、取引条件の見直しや他の資金調達と比べます。
この判断の分かれ目は、先に集めた資金負担の記録から読み取れます。
遅延が多数の取引先に広がる場合
一件ごとの金額は小さいものの、遅れる取引先が多く、督促と消込に追われている場合は、工数と資金負担が主な費用です。
倒産への備えや資金化をしても、この手間は減りません。
検討するのは、請求・消込・督促の仕組みの見直しです。
見直しで減るのは、担当者が入金明細と請求書を一件ずつ目で突き合わせる作業や、どの取引先にいつ連絡したかを記録から探し直す手間です。
一方で、遅れの理由を取引先に聞き、支払いの約束を取り付けるといった判断を伴う対応は残ります。
対策の費用は、減らせる作業時間に人件費をかけた額と比べ、残る対応にどれだけの人手が要るかも見込んでおきます。
少額で回収の見込みが薄いものは、取り立ての費用のほうが高くつくことがあります。
そうした売掛金は、督促を尽くしても払われない場合に損金にできる扱いがあることを踏まえ、追い続けるか区切りをつけるかを決めます3。
実際には状況が重なっていることも多いはずですが、その場合も対策ごとに試算を分け、減らしたい費用に合う手段から順に検討します。
| 状況 | 先に検討する対策 | 前提として確かめること |
|---|---|---|
| 倒産が心配な取引先が少数 | 経営セーフティ共済など倒産時の備え | 加入から6か月以上の待ち・対象となる倒産の事態・備えたい残高と借入れの上限 |
| 入金待ちで資金が詰まる | ファクタリングなどの資金化 | 手数料の総額・償還請求の有無・取引の形と相手の登録 |
| 遅れが多くの取引先に広がる | 請求・消込・督促の仕組みの見直し | いま使っている工数と対策の年間費用 |
督促や消込の時間、入金遅れの資金負担は複数の担当者に分かれて発生するため、社内だけで集計しようとすると手が止まりやすい作業です。
相談では、手元の請求と入金の記録からどの費用を数えるか、どの対策を別々に試算するかを整理できます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 費用の分け方 | すでに出ている費用(工数・資金負担・貸倒損失)と、対策で足す費用を分ける |
|---|---|
| 試算の式 | 減らせる損失+減らせる工数−対策費用を、対策ごとに別々に出す |
| 税務のそろえ方 | 損失と対策費用を、税引前か税引後のどちらかにそろえて比べる |
| 共済 | 倒産時の資金繰りへの備え(貸付)。加入から6か月以上と、対象となる倒産の事態が条件 |
| ファクタリング | 入金待ちを短くする手段。手数料の総額、償還請求の有無、取引の形と相手の登録を確かめる |
倒産への備え、資金化、工数の見直しのどれを優先するかは、自社の取引先の構成と資金繰りの状況によって変わります。 相談では、自社の状況がどの場面に近いか、見積もりを比べる前にどの数字と条件をそろえるべきかを確かめられます。
よくある質問
取引先が倒産した場合、経営セーフティ共済は加入直後でも借りられますか。
借りられません。
貸付を受けるには、取引先の倒産が加入から6か月以上たってからで、倒産までに6か月分以上の掛金を納めている必要があります2。
掛金月額5,000円で、加入から借入れの手続きまでが6か月以上10か月未満の場合には別の基準があります2。
不安な取引先が出てから加入しても間に合わないことがあるため、備えとして早めに検討しておく制度です。
売掛金を貸倒損失にできるのは、取引停止からどのくらい経ってからですか。
法人税では、継続取引の取引先への売掛債権について、取引停止の時と最後の弁済の時などのうち最も遅い時から1年以上経過したとき、備忘価額を控除した残額を損金経理できます3。
取引停止後に一部でも入金があれば、起点はその入金の時になります。
個別の可否は税理士に確認してください。
担保を取っている売掛金は、貸倒損失の扱いが変わりますか。
売掛債権に担保物がある場合、取引停止などから1年以上経過したときに損金経理できる扱いは使えません3。
担保がある売掛金をどう処理するかは、担保の内容や回収の状況によるため、税理士に確認します。
少額の売掛金を督促せずに諦める場合、税務上はどう扱われますか。
同じ地域の債務者に対する売掛債権の総額が取立費用より少なく、支払を督促しても弁済がない場合には、備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理できるとされています3。
条件には督促しても払われないことが含まれているため、督促をまったくしないまま諦めた場合に、この扱いに当てはまるとは言えません。
共済の掛金を途中で解約すると、掛け捨てになる期間はありますか。
あります。
掛金を12か月以上納めていれば解約時に掛金総額の8割以上が戻りますが、12か月未満では戻りません1。
また、令和6年10月以降に解約して再加入した場合、解約日から2年を経過する日までの掛金は損金・必要経費に算入できません1。
ファクタリング業者に不審な点があるときは、どこに相談できますか。
金融庁は、ファクタリングを装った違法な貸付けの事案が確認されているとして、不審な場合は警察(#9110)や金融サービス利用者相談室に相談するよう案内しています4。
契約前に、売掛金を買い取る取引なのか、売掛金を担保にした貸付けなのかを契約書で確かめておくと、相談の際にも状況を伝えやすくなります。
- 1 出典:中小企業基盤整備機構「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)加入をご検討中の方へ」(2026年閲覧)
- 2 出典:中小企業基盤整備機構「経営セーフティ共済 共済金貸付の条件ページ」(2026年閲覧)
- 3 出典:国税庁「No.5320 貸倒損失として処理できる場合」(2026年閲覧)
- 4 出典:金融庁「高額な手数料によるファクタリングの利用に関する注意喚起」(2026年閲覧)
- 5 出典:株式会社帝国データバンク「倒産集計 2025年度報(2025年4月〜2026年3月)」(2025年度)
画像の出典元
- Close-up of hands typing on a laptop and reviewing business documents, focused on finance and legal tasks./Photo by Mikhail Nilov on Pexels