◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 流通BMSの仕様は、メッセージ(電子取引文書)の仕様と通信プロトコルの仕様という2つの層で構成されています。
- 発注・出荷・受領・返品・請求・支払という6つの業務に対応する複数種類の標準メッセージが定められています。
- 通信にはebMS・AS2・JX手順という3つの手順が用意されており、どれを使うかは取引先の指定に従います。
- 仕様のバージョンは複数存在し、自社が参照すべき版は取引先である小売の採用バージョンによって決まります。
目次
メッセージと通信の2層構造 — 流通BMS仕様が定める範囲
流通BMS(流通ビジネスメッセージ標準)の仕様とは、消費財流通業界のEDI(電子データ交換)で使う電子取引文書(メッセージ)の仕様を指します。これに、受け渡しに用いる通信プロトコル・セキュリティの仕様を合わせた、一体の標準です*1。取引先から対応を求められた際は、まずこの2層構造を押さえることが出発点になります。
メッセージ層と通信・セキュリティ層 — 仕様が定める2つの領域
第1の層は、発注や出荷などの業務で交換する電子取引文書そのものを定めた「メッセージ仕様」です。第2の層は、そのメッセージを保護しながら送受信するための「通信プロトコル仕様」になります*1。上位記事の多くはこの2つを区別せずに列挙しているため、読者が「メッセージの話」と「回線の話」を混同しやすい点に注意が必要です。
策定主体はGS1 Japan — 2007年策定の経緯
流通BMSは、GS1 Japan(一般財団法人流通システム開発センター)が事務局を務める流通BMS協議会によって策定されています*1。最初の標準仕様である基本形Ver.1.0は2007年4月に公開されました*1*2。以来、業務範囲や税制改正への対応を反映しながら、複数回にわたり改訂が重ねられています。
流通BMSはEDI全体の中の一つの標準に位置づけられます。EDI全体の分類や種類についてはEDIの種類に関する解説で整理していますので、あわせてご確認ください。
仕様が定めない範囲 — 自社基幹とのマッピングは実装側の仕事
流通BMS仕様は、メッセージの項目や通信手順そのものを定めていますが、自社の基幹システムが持つ項目とメッセージの項目をどう対応させるかまでは定めていません*4。この対応関係(マッピング)を設計する作業こそが、仕様対応の実作業の中心です。仕様書を読むだけでは終わらない理由がここにあります。
基幹システムとの連携をどう設計するかについては、BtoB ECと基幹システムの連携に関する解説で扱っています。
6業務・8種の標準メッセージ — 発注から支払までを網羅
流通BMSのメッセージ仕様は、発注・出荷・受領・返品・請求・支払の6業務に対応する複数種類の標準メッセージとして整理されています*1。まずは、この6業務がどのように標準メッセージへ割り当てられているかを確認します。
発注・出荷・受領・返品・請求・支払 — 対象となる6業務
流通BMSが対象とする業務は、発注・出荷・受領・返品・請求・支払の6つです*1。これらの業務に対応する形で、6業務・8種の標準メッセージという規格上の建て付けが用意されています*1。個別のメッセージ名称は仕様書側の「メッセージ別項目一覧」で規定されており、実際に対応する際はこの一覧を取引先の指定バージョンで確認する必要があります*3。
現行の基本形Ver2.2では、付属する「メッセージ別定義一覧」に全28種のメッセージが定義されています*11。このうち発注から支払までの受発注型業務プロセスに区分されるのは、次の10種です*11。
| メッセージ名称 | 役割 |
|---|---|
| 発注 | 小売企業が卸・メーカーに商品を発注します。ここで付番された取引番号が支払メッセージまで引き継がれます |
| 出荷 | 卸・メーカーが事前に出荷明細情報を伝え、小売企業が検品の突合に使います |
| 出荷梱包(紐付あり) | 梱包Noと明細を紐付けた形式で出荷明細を伝えます |
| 出荷梱包(紐付なし) | 梱包Noと明細を紐付けない形式で出荷明細を伝えます |
| 受領 | 小売企業が入荷内容との突合結果を連絡します |
| 受領訂正 | 受領後に判明した納品数量不足を、双方合意のうえ訂正します |
| 返品 | 小売企業が受領後の商品を取引先に返品する際に使います |
| 請求 | 一定期間分の受領・返品をもとに売上内容を通知します |
| 支払 | 小売企業が請求と受領の突合結果として支払内容を伝えます |
| 請求鑑 | 請求書の鑑にあたる合計金額等を交換します(Ver2.0で追加)*2 |
残る18種は、出荷荷姿・集計表作成データ・値札・発注予定・商品提案・納品提案・POS売上といったオプション用途と、預りDC(預り在庫型センター)向けの在庫補充勧告・入庫予定・入庫確定・在庫報告などです*11。自社が実装する範囲は、取引先が指定するメッセージに限られるのが通常です。
XML形式の採用 — 固定長のJCA手順との違い
流通BMSのメッセージはXML(Extensible Markup Language、構造化されたデータ形式)で表現されます*1。これは、固定長のテキスト形式でデータをやり取りする従来のJCA手順とは構造上の大きな違いです*6。JCA手順は、日本チェーンストア協会が開発し1982年7月に通商産業省(現・経済産業省)によって流通業界全般の標準通信手順「J手順」として制定されたものです*6。BSC伝送制御手順に準拠し、適用回線は電話回線とDDX回線、通信速度は2,400bps、漢字伝送は不可という制約があります(9,600bpsには対応していません)*6。
実務で開く文書 — メッセージ別項目一覧と運用ガイドライン
実務でまず開くべき文書は「メッセージ別項目一覧」と「運用ガイドライン」です*3。運用ガイドラインは基本編・その他メッセージ編・預り在庫編・生鮮業界編の4編で構成されており、自社の取引形態に応じて参照する編が変わります*3。
いずれも改訂が続いているため、版番号だけでなく公開日まで確認する運用が欠かせません(最新の公開日は後述のバージョン章で整理します)。
基本形・生鮮・百貨店版・商品マスタ — 業界別の派生仕様
流通BMSには、基本形のほかに生鮮向け・百貨店向けの派生仕様と、商品マスタに関する仕様が存在します*2*3。取引先の業態によって参照すべき仕様が異なるため、対応にあたっては自社の取引先がどの派生仕様を採用しているかを確認する作業が必要になります。
ebMS・AS2・JX手順 — 3つの通信プロトコルの役割分担
流通BMSの第2層である通信プロトコル仕様は、メッセージをどの手順で送受信するかを定めた領域です。ここでは3つの手順が用意されており、それぞれ役割が分かれています*5*6。
S-S手順のebMS・AS2とC-S手順のJX手順 — 役割の違い
サーバー同士が直接通信するS-S手順には、国際標準であるebMS・AS2が使われます*6。一方、クライアント・サーバー型の通信であるC-S手順で使うのは、SOAP-RPCを用いて国内で開発されたJX手順です*6。この2種類の通信形態の違いを理解しておくと、ベンダー提案がどちらの手順に対応しているかを評価しやすくなります。
参照する文書 — 通信プロトコル利用ガイドラインと機能確認シート
通信プロトコルを実装する際に参照すべき文書は「通信プロトコル利用ガイドライン」「ebXMLのひな型CPA」「流通ビジネスメッセージ標準機能確認シート」です*5。これらは流通BMS協議会のサイトで公開されており、通信基盤関連の標準としてまとめて確認できます*5。
セキュリティ基盤 — 流通業界共通認証局証明書ポリシー
通信のセキュリティを担保する基盤として「流通業界共通認証局証明書ポリシー」が定められています*5。通信プロトコルの選定だけでなく、証明書の運用まで含めて対応範囲を捉える必要があります。
手順の選定は取引先の指定に従う
どの通信手順を使うかは、自社単独で決められるものではなく、取引先の指定に従うのが基本です。取引先ごとに指定する手順やバージョンが異なる場合、社内で複数の通信方式を並行して運用することになります。取引先ごとに個別のWeb-EDI画面を使い分ける運用が増えると、Web-EDIの多画面問題に関する解説で触れているような課題につながることがあります。
2007年から現行Ver2.2まで — バージョンの読み解き方
流通BMSの仕様は一度制定されて終わりではなく、業務範囲の拡張や税制改正への対応に合わせて版を重ねてきました。ここではバージョンの変遷を時系列で確認します。
バージョン履歴 — 基本形Ver.1.0から現行Ver2.2まで
| 公開時期 | 版 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 2007年4月 | 基本形Ver.1.0 | 最初の標準仕様。発注・出荷・受領・返品・請求・支払の6業務・8種の標準メッセージを規定*1*2 |
| 2008年3月 | 基本形Ver.1.1 | スーパー業界とアパレル業界の取引に必要な要素を加味*2 |
| 2008年7月 | 生鮮Ver1.0 | スーパー業界と生鮮業界の取引を対象とした仕様*2 |
| 2009年4月 | 基本形Ver.1.2 | チェーンドラッグストア・ホームセンター業界の検討結果を反映*2 |
| 2009年10月 | 基本形Ver1.3 | 基本形と生鮮のメッセージ統合、法定管理義務商材区分の追加*2 |
| 2010年10月 | 百貨店版(26種) | 百貨店業界の取引に必要な標準メッセージ26種を公開*2 |
| 2014年10月 | 百貨店版Ver2.1 | 百貨店版に1メッセージを追加*2 |
| 2018年11月 | 基本形Ver2.0 | 消費税軽減税率(区分記載請求書等保存方式)に対応。請求鑑メッセージを新規追加*1*2 |
| 現行系 | 基本形Ver2.2 | 値引業務専用の値引メッセージに対応*3 |
| 現行系 | 百貨店版Ver2.2 | 適格請求書等保存方式(インボイス制度)に対応*3 |
仕様は改訂され続ける — 2025年にも修正版が公開
流通BMSの仕様は現在も改訂が続いています。メッセージ別項目一覧ver2.2.2は2025年7月15日に再修正版が公開されました。運用ガイドラインも2025年5月29日に修正版が公開されています*3。
仕様を参照する際は、版番号だけでなく公開日を確認し、最新の修正版であるかを確かめる運用が必要です。
自社が参照すべき版は取引先の採用バージョンで決まる
自社がどのバージョンに対応すべきかは、自社の都合だけでは決められません。取引先である小売がどのバージョンを採用しているかによって、参照すべき仕様書が決まります。複数の取引先と接続する場合、取引先ごとに異なるバージョンへの対応を求められることも珍しくありません。
仕様書の入手と読む順序 — 5ステップで自社の立ち位置を確認
流通BMSの仕様書は、流通BMS協議会のサイトで無償公開されています*2。どこから手をつければよいか迷う場合は、以下の順序で読み進めると全体像をつかみやすくなります。
仕様書を読む順序5ステップ(順位根拠:手順としての実施順序)
- 流通BMS協議会サイトの「流通BMS標準仕様」目次で全体像を把握します。標準メッセージと運用ガイドライン、通信基盤関連の標準など9項目に分類されています*2。
- 「導入ガイドライン」の概要編・業界編・システム編という3部構成で、自社の立ち位置を確認します*4。
- 取引先が指定するバージョンの「メッセージ別項目一覧」を取得します*3。
- 「マッピングシート」を使い、既存のEDIシステムと標準の項目対応を埋めます*4。
- 「通信プロトコル利用ガイドライン」と「機能確認シート」で、通信要件を確定します*5。
この順序で読み進めると、仕様書のどこに何が書かれているかを把握したうえで、自社の作業範囲(マッピング設計・通信要件の確定)に進むことができます。
ISDN終了とインボイス制度 — 対応期限と普及の実勢
流通BMSへの対応が求められる背景には、外部要因による期限が存在します。ここでは回線の終了時期と制度改正、そして普及の実勢を確認します。
INSネット提供終了は2028年12月31日 — JCA手順の移行期限
NTT東日本は2024年3月7日、INSネット(ISDN回線を用いた通信サービス。INSネット64・64ライト・1500が対象)について発表しました。新規申込受付は2024年8月31日に終了し、サービス提供自体は2028年12月31日に終了します*8。
JCA手順など、ISDN回線に依存する従来のEDIは、この期限までに移行先を確定させる必要があります。回線の提供が終了すれば、既存の通信手順そのものが使えなくなり、受発注業務の継続に影響が及ぶ可能性があります。
自社の対応範囲を具体的な数字で確かめるには、無料相談で要件を整理するのが近道です。
実際の移行プロジェクトの進め方については、卸売業界のEDI移行手順に関する解説で扱っています。
インボイス制度は令和5年10月1日開始 — 請求メッセージとの関係
適格請求書等保存方式、いわゆるインボイス制度は令和5年10月1日に開始しました*9。適格請求書には所定の記載事項を満たす必要があり、国税庁が記載事項の全項目を公表しています*10。
流通BMSでは、百貨店版Ver2.2がこのインボイス制度に対応した仕様として位置づけられています*3。請求に関するメッセージを扱う場合は、この対応状況を踏まえて仕様書を確認する必要があります。
インボイス制度への具体的な対応方法は、BtoB ECにおけるインボイス制度対応に関する解説で取り上げています。
卸・メーカーの導入企業数は21,600社以上(推計) — 普及の実勢
流通BMS協議会が公開している社名公開企業一覧によると、卸・メーカーの流通BMS導入企業数は21,600社以上と推計されています。この数値は第28回調査(2025年6月1日現在)によるものです*7。
調査対象企業からの回答をもとにした推計値であり、実際の導入企業数を厳密に確定したものではない点に留意が必要です。それでも、規格として広く実務に使われている実態がうかがえます。
自社でこの仕様に対応するには、EDIメッセージ仕様の理解に加え、XML形式のデータ処理の知識が求められます。さらに、基幹システムとのマッピング設計や通信プロトコルの実装に関する知識も必要です。
これらを社内リソースだけで賄うのが難しい場合は、外部の専門パートナーに設計・実装を委ねる選択肢もあります。仕様書の解釈からマッピング設計までを自社ですべて担うか、実装経験を持つ相手と分担するかが分かれ目になります。
まとめ — 流通BMS仕様を読み解く3つの視点
本稿では、流通BMS仕様の全体像を3つの視点から整理しました。第一に、仕様はメッセージ層と通信・セキュリティ層という2つの層で構成され(現行Ver2.2のメッセージは全28種)、自社基幹とのマッピングは仕様の対象外として自社側に残ります。第二に、バージョンは2007年の基本形Ver.1.0から現行のVer2.2まで複数存在し、自社が参照すべき版は取引先の採用バージョンによって決まる点が特徴です。第三に、仕様書の入手先と読む順序を押さえておけば、対応の初動に迷いません。
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
流通BMS仕様に関するよくある質問
流通BMSの仕様は無償で入手できますか。
はい、無償で入手できます。流通BMSの標準仕様は、流通BMS協議会のサイトで無償公開されており*2、標準仕様の目次から必要な文書を選んで参照できます。
どのバージョンに対応すればよいですか。
対応すべきバージョンは、取引先である小売が指定する版に従うのが基本です。自社で任意に選べるものではなく、取引先ごとの指定を確認する必要があります。
通信プロトコルは3つのうちどれを選べばよいですか。
通信プロトコルも、取引先が指定する手順に合わせるのが基本です。ebMS・AS2はサーバー間通信のS-S手順、JX手順はクライアント・サーバー型のC-S手順として役割が分かれています*5*6。
JCA手順のままでは何が問題になりますか。
JCA手順はISDN回線を前提とした通信制御手順であり、INSネットは2028年12月31日にサービス提供を終了します*8。回線の終了に合わせた移行の検討が必要です。
仕様に対応すれば自社の改修は不要ですか。
いいえ、仕様への対応だけでは足りません。流通BMSの仕様は自社基幹システムとの項目対応(マッピング)までは定めておらず、この設計は自社側の作業として残ります*4。
- *1 出典:GS1 Japan(一般財団法人流通システム開発センター)「流通BMS」
- *2 出典:流通BMS協議会(流通システム標準普及推進協議会)「流通BMS標準仕様」
- *3 出典:流通BMS協議会「流通ビジネスメッセージ標準(流通BMS)」
- *4 出典:流通BMS協議会「導入ガイドライン」
- *5 出典:流通BMS協議会「通信基盤関連の標準」
- *6 出典:GS1 Japan「通信制御手順」
- *7 出典:流通BMS協議会「社名公開企業一覧」(第28回調査・2025年6月1日現在)
- *8 出典:NTT東日本「INSネットの新規申込受付・提供終了について」(2024年3月7日)
- *9 出典:国税庁 タックスアンサー No.6498「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」
- *10 出典:国税庁 タックスアンサー No.6625「適格請求書等の記載事項」
- *11 出典:流通BMS協議会「流通ビジネスメッセージ標準(基本形Ver2.2)メッセージ別項目一覧(ver2.2.2)」所収「メッセージ別定義一覧 Ver2.2」
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