◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 担当者で回答が変わる原因は判断の工程だけでなく、受付・原価確認・記録にもあるため、5工程ごとに「誰が・何を見て・どこに残すか」を書き出して個人に寄る箇所から直す。
- 原価・最低利益・数量・納期・取引継続性で受ける・条件を付けて返す・断るに振り分け、項目ごとに列が分かれたら最も厳しい列に合わせる。
- 基準内は担当者、基準外・辞退・協議の申出は責任者が決め、責任者不在時は順番付きの代理と期限付きの回答で止めない。
- 取適法の対象取引では、受託側の価格協議の求めに委託側が応じず価格を決めることが禁止されているため、回答の選択肢に協議の申出を加え、経過を記録する。
- 1件1行の記録と月次の例外見直し、同一指値での回答比較・不在時の回答日数・例外率・記録の漏れの点検で、属人化への戻りを確かめる。
目次

同じ指値でも担当で返答が変わる原因は、流れのどの工程にあるか
同じ指値なのに、担当者によって受けるか断るかが分かれる。
担当者が休むと、取引先への回答が止まる。
こうした状態は、判断の材料と線引きが個人の頭の中にあることから起きます。
まず指値への対応を受付・原価確認・判断・回答・記録の5工程に分けます。
そのうえで、個人の判断に寄っている工程から、受諾・条件交渉・辞退を分ける基準と承認権限を決めてください。
取適法の対象取引では、受託側から価格協議を求められたのに委託側が応じず価格を決めることは禁止されています2。
そのため、回答の選択肢に「協議を申し出る」を加え、経過も記録しておきます。
「指値」が指すもの
ここでいう指値は、取引先が「この価格で請けてほしい」と先に価格を示してくる場面です。
見積を出した後に値引きを求められる流れとは順序が逆で、価格の起点が相手側にあります。
受ける側は、その価格で採算が取れるか、条件を変えれば取れるか、取れないなら断るかを、限られた時間で決めて返さなければなりません。
指値という言葉は、業界によって意味が違います。
不動産では買主の希望価格を、証券では価格を指定した注文を指します。
ここでは、受注側が価格の指定を受けて回答する業務に絞って話を進めます。
自社が下請先へ価格を示す立場になる取引もある場合は、同じ社内の流れでも見る点が変わります。
その立場については、承認ルートの説明とFAQで触れます。
受付から記録までの5工程
指値への回答は一つの判断に見えますが、実際はいくつかの作業がつながっています。
分けると次の5工程になります。
- 受付:指値を受け取り、品目・数量・納期・回答期限を確かめる
- 原価確認:その条件での材料費・加工費・外注費などを積み上げる
- 判断:受ける、条件を付けて返す、断る、協議を申し出るのいずれにするかを決める
- 回答:決めた内容を取引先へ伝える
- 記録:指値額、判断、理由を残す
担当者によって返答が変わるとき、原因は判断の工程だけにあるとは限りません。
受付で回答期限を確かめていないと、急ぎの指値ほど原価確認を省いて即答しがちです。
原価確認の工程にも差が出ます。
ある担当者は直近の材料単価を使い、別の担当者は以前の見積を流用していれば、同じ指値でも採算の見え方が変わります。
判断の前の工程で材料がそろっていないと、判断基準をいくら整えても回答は揃いません。
記録の工程も見落とされがちです。
この取引先の指値を過去にどう受けたかが残っていないと、担当者は自分の記憶に頼るか、前任者に聞くしかありません。
前任者が異動していれば、その時点で過去の判断の理由は失われます。
次に同じ取引先から指値が来たとき、新しい担当者は一から判断し直すことになり、前回と違う回答を返す原因になります。
判断が頭の中にある箇所の見つけ方
個人依存の箇所は、5工程ごとに「誰が・何を見て・どこに残すか」を書き出すと見つかります。
直近の指値を数件選び、実際に対応した担当者に、そのときの動きを工程順に話してもらうと書きやすくなります。
一般論として手順を書いてもらうより、具体的な一件をたどるほうが、普段は意識していない判断が出てきます。
書き出したときに次のような答えが出る工程が、判断が個人に寄っている箇所です。
- 「誰が」が特定の一人の名前になっている
- 「何を見て」が「経験で」「相手を見て」「だいたい」になっている
- 「どこに残すか」が「メールのどこか」「本人の手帳」になっている、または空欄
たとえば判断の工程で、ある担当者が「この取引先は付き合いが長いから多少は受ける」と答えたとします。
その判断自体が誤りとは限りません。
問題は、「付き合いが長い」と「多少」の中身が本人にしか分からず、別の担当者が同じ取引先の指値を受けたときに再現できない点です。
次の節で扱う基準は、こうした言葉を、誰でも同じ答えにたどり着ける項目へ置き換える作業になります。
個人依存が引き起こす困り事は、指値対応に限らず広く挙がっています。
業務可視化ツールの使用経験者142人に聞いた民間調査では、属人化の影響として「業務の引継ぎが困難である」が52.8%、「手順やプロセスが文書化されていない」が47.9%、「キーパーソンの不在が業務に深刻な影響を及ぼす」が44.4%でした1。
ツールを提供する企業が実施した業務全般についての調査なので、指値対応の実態を表す数字ではありません。
それでも、引継ぎの難しさや不在時の停止は、担当替えのたびに指値対応で起きる困り事と同じ種類のものです。
書き出しで空欄や個人名が残った工程は、まさにその引継ぎで失われる部分にあたります。
▼ 図の内容を文字で読む
- 受付
- 原価確認
- 判断
- 回答
- 記録
▼ 図の内容を文字で読む
- 誰が
- 特定の一人の名前になっている
- 何を見て
- 「経験で」「相手を見て」「だいたい」になっている
- どこに残すか
- 「メールのどこか」「本人の手帳」になっている
- 空欄になっている
受ける・条件を付けて返す・断るは何を基準に分けるか
原価と最低利益の置き方
判断の工程で最初に見るのは、指値が自社の原価を上回っているかどうかです。
ここで基準にする原価が人によって違うと、前の節で見たとおり判断は揃いません。
原価確認の工程で使う単価表や積算の様式を一つに決め、どの時点の単価を使うかもそろえておきます。
次に、原価に上乗せして最低限確保したい利益を決めます。
この水準は業種、品目、固定費の大きさで変わるため、一律の率を示すことはできません。
大切なのは数字そのものより、誰が決めた水準なのかを明確にすることです。
担当者がその都度「これくらいは欲しい」と考えるのではなく、責任者が品目群ごとに決め、担当者はその水準と指値を比べるだけにします。
原価と最低利益を置くと、指値は3つの区間に分かれます。
最低利益を確保できる区間、原価は上回るが最低利益に届かない区間、原価を下回る区間です。
最初の区間は受けやすく、最後の区間は断るか条件の変更を求める対象になります。
迷いが生じるのは真ん中の区間で、ここで価格以外の項目が効いてきます。
数量・納期・取引継続性の扱い
真ん中の区間では、価格以外の条件を動かせば採算が取れることがあります。
数量が増えれば段取りや材料の手配がまとまり、1個あたりの原価が下がる場合があります。
納期に余裕があれば、繁忙期を避けて製造できます。
逆に、短納期で残業や外注が必要になるなら、原価確認で見積もった原価そのものが上がります。
そのため数量と納期は、「受けるか断るか」を決める項目というより、「どの条件なら受けられるか」を示す項目として扱います。
回答を「条件を付けて返す」にするなら、数量の下限、納期の延長、支払条件、仕様の簡素化など、何を変えれば指値を受けられるかを具体的に返せるかが分かれ目です。
具体的な条件を示せない条件付き回答は、取引先から見ると実質的な辞退と変わりません。
最も個人差が出やすいのが取引継続性です。
「今回は採算が厳しくても次の大口につながる」という判断は営業上あり得ます。
ただ、担当者が一人で決めると、後から誰もその理由を説明できなくなります。
取引継続性は担当者が単独で使える項目にせず、使う場合は責任者の承認を必須にして、見込んでいる次の取引を記録に書く形がよいでしょう。
こうしておくと、見込みが外れたときにも、その判断を基準の見直しで取り上げられます。
3つの回答への振り分け表
5つの項目を、受ける・条件を付けて返す・断るの3つの回答に振り分けると、次のような表になります。
項目と目安は編集部としての提案で、各社の原価構造に合わせて言葉を置き換える前提です。
表を使うと、すべての項目が一つの列にそろうことは多くないと気付きます。
原価と最低利益は「受ける」の列なのに、納期だけが「断る」の列に入ることもあります。
その場合の扱いを決めておかないと、表があっても判断は担当者の頭の中に戻ります。
扱いは「最も厳しい列に合わせる」と決めるのが分かりやすいでしょう。
納期が収まらないなら、価格が合っていても受けられないためです。
もう一つ、表の3列には入らない回答があります。
指値が原価を大きく下回るときに、断るのではなく、価格そのものについて協議を求める回答です。
取適法は、通常の対価に比べ著しく低い価格を定める買いたたきを禁止しています2。
ただし、どの水準が「著しく低い」に当たるかは個別の取引ごとの判断で、社内の振り分け表で決められるものではありません。
社内で決めておけるのは、原価を下回る指値が来たときに、辞退する前に協議を申し出るかどうかを検討する手順です。
この回答は、誰が決めるかと切り離せないため、承認ルートと一緒に扱います。
| 項目 | 受ける | 条件を付けて返す | 断る |
|---|---|---|---|
| 原価 | 指値が原価を上回る | 条件を変えれば原価を上回る | 条件を変えても原価を下回る |
| 最低利益 | 確保できる | 条件を変えれば確保できる | 条件を変えても確保できない |
| 数量 | 見積の前提どおり | 下限を設ければ採算が合う | 採算が合う数量を相手が受けられない |
| 納期 | 通常の生産計画に収まる | 延長すれば収まる | 延長しても収まらない |
| 取引継続性 | 単独では使わない | 使う場合は責任者が承認 | 辞退の前に責任者が影響を確認 |
▼ 図の内容を文字で読む
- 最低利益を確保できる区間
- 受けやすい
- 原価は上回るが最低利益に届かない区間
- 数量・納期など価格以外の項目で判断が分かれる
- 条件を付けて返す候補になる
- 原価を下回る区間
- 断るか、条件の変更を求める
- 辞退の前に協議を申し出るかを検討する
誰が決め、どの金額・条件から承認を挟むか
担当者と責任者の線引き
振り分け表ができても、担当者がどこまで自分で回答してよいかが決まっていないと、結局すべてを責任者に確認する運用になりがちです。
そうなると、責任者が不在のたびに回答が止まります。
線引きは、基準の内側は担当者、外側は責任者という2段階を軸にします。
分け方の例は次のとおりです。
- 担当者が単独で回答できる:すべての項目が「受ける」の列に入る場合と、表のとおりに条件を付けて返す場合
- 責任者の承認が要る:最低利益を下回って受ける場合、取引継続性を理由にする場合、断る場合、協議を申し出る場合
断る回答を責任者の承認に含めるのは、辞退が取引関係に与える影響が大きく、担当者ごとに断る基準がぶれやすいためです。
一方で「受ける」まで承認を求めると、承認待ちが増えて回答が遅れます。
担当者に任せる範囲を広く取るほど回答は早くなり、狭く取るほど責任者の負担が増えます。
どこに線を引くかは、指値の件数と、責任者が確認に使える時間を見比べて決めることになります。
金額で区切る方法もあります。
1件あたりの受注額が一定以上なら、表の上で「受ける」でも責任者に見せる、という決め方です。
この金額は会社の規模や取引の大きさで変わるので、一般的な目安はありません。
決めた金額は権限表に書き、担当者全員が同じ表を見られる場所に置きます。
不在時の代理
担当不在で回答が止まる問題は、担当者の不在と責任者の不在で原因が違います。
担当者が不在の場合、基準と記録がそろっていれば、別の担当者が同じ表を使って回答できます。
止まるのは、指値が個人のメールアドレスだけに届いている場合や、過去の経緯が本人のメールにしか残っていない場合です。
受付の窓口を共有のアドレスや受注管理の画面にまとめると、不在者の案件を他の人が見つけられるようになります。
責任者が不在の場合は、承認の代理を決めておきます。
代理を一人だけにすると、その人も不在のときにまた止まるため、順番を付けて二人決めておく方法があります。
代理が承認できる範囲を責任者と同じにするか、断る・協議を申し出るといった影響の大きい回答は除くかも、あわせて決めます。
除いた回答については、取引先に「社内で確認中で、いつまでに回答する」と期限付きで伝える手順にしておくと、無回答のまま期限を過ぎる事態を避けやすくなります。
回答期限そのものも、受付の工程で確かめておきたい項目です。
期限が分かっていれば、責任者の戻りを待てるか、代理で決めるべきかをその場で判断できます。
期限を聞かずに受け付けた指値は、不在が重なったときに最も止まりやすい案件になります。
協議を申し出る選択肢と取適法
承認ルートに入れておきたいのが、振り分け表の3列とは別の「協議を申し出る」という回答です。
2026年1月に施行された取適法では、中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、委託事業者が協議に応じない、または必要な説明をしないまま価格を決めることが禁止されています2。
指値を受ける側から見ると、示された価格を受けるか断るかの二択だけでなく、価格について話し合いを求める道が制度上用意されているということです。
ただし、この規定が当てはまるのは取適法の対象取引に限られます。
対象は、製造委託や役務提供委託などの取引の種類と、資本金と従業員数の基準で判断され、従業員数の基準は製造委託等で300人、役務提供委託等で100人です2。
建設工事の請負は建設業法の体系で扱われるため、この規定をそのまま当てはめることはできません。
自社と取引先の取引が対象に当たるかは、取引ごとに公正取引委員会の案内で確かめておく必要があります。
社内の流れに組み込むときは、協議を申し出るかどうかを担当者の判断にせず、責任者の承認事項にしておきます。
申し出る場合は、原価の内訳や材料費の変動など、その指値では採算が合わない理由を示す資料を原価確認の工程から引き継ぎます。
理由を示せる資料がそろっているかどうかが、協議を申し出るか、条件を付けて返すかを分ける実務上の目安になります。
資料が出せないまま協議を求めても、話し合いは価格の押し合いに戻りやすいためです。
自社が下請先へ指値を出す側になる取引もある会社では、同じ権限表に逆向きの手順も必要です。
取適法の対象取引で委託事業者の立場になるなら、相手から協議の求めがあったときに誰が応じ、誰が価格の説明をするかを決めておかないと、担当者が一方的に価格を押し通す形になりかねません。
受ける側の手順と出す側の手順を同じ表に並べておくと、社内でどちらの立場の取引かを取り違えにくくなります。
▼ 図の内容を文字で読む
- 担当者が単独で回答
- すべての項目が「受ける」の列に入る場合
- 表のとおりに条件を付けて返す場合
- 責任者の承認が要る
- 最低利益を下回って受ける場合
- 取引継続性を理由にする場合
- 断る場合
- 協議を申し出る場合
- 代理承認者
- 順番を付けて二人決めておく
- 承認できない回答は期限付きで確認中と伝える
例外が出たとき、記録を次の判断にどう活かすか
記録項目
基準と権限を決めても、すべての指値が表のとおりに収まるわけではありません。
取引継続性を理由に最低利益を下回って受けた、協議を申し出て価格が変わった、といった例外は必ず出ます。
例外そのものが問題なのではありません。
問題になるのは、例外の理由が残らず、次の担当者が同じ判断を再現できないことです。
記録は、1件の指値を1行で残せる項目に絞ります。
項目が多いと記入が後回しになり、結局は担当者の記憶に戻るためです。
提案する項目は次の表のとおりです。
理由の欄を自由記述にすると、「総合的に判断」のような言葉で埋まりがちです。
振り分け表のどの項目で決めたかを選ぶ形にし、選んだ項目に一言添える程度にすると、後で集計しやすくなります。
取引継続性を理由にした場合は、見込んでいる次の取引をここに書いておきます。
協議の欄は、協議を申し出なかった取引でも欄として残しておく意味があります。
原価を下回る指値を、協議を申し出ずに断った件が多ければ、辞退の前に協議を検討する手順が使われていないことが分かるからです。
申し出た場合は、申し出た日と相手の応答を残しておけば、後から協議の経過をたどれます。
取引先との認識が食い違ったときにも、誰がいつ何を伝えたかを記録から確かめられます。
例外の月次見直し
記録を残すだけでは、次の判断は変わりません。
月に一度、責任者と担当者で例外になった行だけを見直し、基準へ戻すかどうかを決めます。
全件を見るのではなく例外に絞ると、見直しにかかる時間を抑えられます。
見直しでは、例外を3つに分けて扱うと話が進みます。
- 同じ理由の例外が繰り返し出ている:振り分け表や権限表を変える候補にする
- 一度きりの事情による例外:記録に残したまま、基準は変えない
- 見込みが外れた例外:取引継続性を理由に受けた後に次の取引が来なかった場合など、同じ判断を承認するときの材料にする
たとえば、ある品目で納期の延長を条件に付けて返す回答が毎月のように出ているなら、振り分け表の納期の置き方が実態に合っていない可能性があります。
その場合は、表の納期の行を見直します。
逆に、特定の取引先だけで例外が続くなら、品目の基準ではなく、その取引先との条件の決め方を見直す話になります。
例外がどちらの軸に集まっているかを見ると、直す場所を取り違えずに済みます。
見直しで基準を変えたら、変えた時期と理由を振り分け表や権限表に書き添えます。
新しく担当になった人が、なぜ今の基準になっているかを記録からたどれるようにするためです。
引継ぎの場面で前任者の説明に頼る部分が減り、表と記録を渡せば伝わる範囲が広がります。
| 記録項目 | 書く内容 | 後で使う場面 |
|---|---|---|
| 指値額 | 取引先が示した価格と数量・納期 | 同じ取引先の次の指値と比べる |
| 自社原価 | 積み上げた額と使った単価の時点 | 原価の前提が古くないか見直す |
| 回答の種類 | 受ける・条件付き・断る・協議を申し出る | 例外率を数える |
| 判断者 | 担当者・責任者・代理のいずれか | 権限どおりに回っているか確かめる |
| 理由 | 振り分け表のどの項目で決めたか | 例外を基準へ戻すか決める |
| 協議の申出と相手の応答 | 申し出た日・相手の回答・決まった価格 | 協議の経過をたどる |
▼ 図の内容を文字で読む
- 判断して回答
- 1件1行で記録
- 月次で例外を見直す
- 振り分け表・権限表を更新
標準化が定着し、属人化に戻っていないかをどう確かめるか
同一指値での回答比較
基準と記録の仕組みは、作った直後は使われても、忙しい時期を境に元の運用へ戻ることがあります。
表を見ずに即答する、記録を後でまとめて書く、といった小さな省略が重なると、判断は再び個人の頭の中へ戻ります。
戻っているかどうかは、感覚ではなく点検の項目で確かめます。
最も直接的なのは、同じ指値を別の担当者に判断させ、回答が揃うかを見る方法です。
過去の記録から指値を一件選び、取引先名や当時の回答を伏せて、二人以上の担当者に振り分け表を使って判断してもらいます。
回答の種類が揃えば、基準が言葉として共有されています。
揃わなければ、どの項目で分かれたかを聞きます。
分かれた理由は、表の言葉の読み方の違いか、原価確認で使った単価の違いであることが少なくありません。
前者なら表の言葉を直し、後者なら原価確認の工程に戻って、使う単価表をそろえ直します。
回答が分かれたこと自体を担当者の評価に結び付けると、本音の判断を出しにくくなります。
点検は、人ではなく仕組みを確かめるものとして行うのがよいでしょう。
不在時の回答日数と例外率
残りの点検項目は、記録から数えられるものです。
- 担当不在時の回答日数:担当者や責任者が不在だった期間の指値について、受付から回答までにかかった日数
- 例外率:記録全体のうち、振り分け表から外れた回答の割合
- 記録の漏れ:受け付けた指値の件数と、記録の行数の差
不在時の回答日数は、通常時の日数と比べて見ます。
不在時だけ長くなっているなら、受付の窓口が個人に残っているか、代理承認が機能していないかのどちらかを疑います。
どちらが原因かは、止まっていた案件の記録の判断者欄を見ると見当が付きます。
例外率は、低ければよいとは限りません。
極端に低い場合は、例外にあたる判断を、表どおりの回答として記録している可能性があります。
反対に高い場合は、表の基準が実態に合っていないことを示しているかもしれません。
月次見直しで基準を変えた後に例外率がどう動いたかを見ると、見直しが判断に反映されているかを確かめられます。
記録の漏れは、受付件数と記録の行数を突き合わせると分かります。
差が出ている場合は、電話や口頭で受けた指値が記録から外れていないかをまず見ます。
受付の工程で記録の行を先に作っておく運用にすると、回答した後に書き忘れる余地が小さくなります。
どの項目をどの頻度で見て、どこまでを合格とするかは、指値の件数や担当者の人数で変わるため、各社で決めることになります。
大切なのは、点検の結果を月次見直しと同じ場に持ち込み、悪化した項目に対応する工程へ戻って手を入れることです。
5工程に分けて考えておくと、どの数字が悪くなったときにどこを直すかが分かり、属人化に戻りかけたところで気付きやすくなります。
| 点検項目 | 見るもの | 悪化したときに見直す工程 |
|---|---|---|
| 同一指値での回答比較 | 別の担当者の回答が揃うか | 判断の表の言葉・原価確認の単価 |
| 不在時の回答日数 | 不在期間の受付から回答までの日数 | 受付窓口・代理承認 |
| 例外率 | 振り分け表から外れた回答の割合 | 判断基準の置き方・記録の書き方 |
| 記録の漏れ | 受付件数と記録行数の差 | 記録の様式・記入の時機 |
▼ 図の内容を文字で読む
- 同一指値での回答比較
- 判断の表の言葉
- 原価確認の単価
- 不在時の回答日数
- 受付窓口
- 代理承認
- 例外率
- 判断基準の置き方
- 記録の書き方
- 記録の漏れ
- 記録の様式
- 記入の時機
自社の回答の流れを書き出しても、どの工程が個人に寄っているか、担当者に任せる範囲をどこまで広げるかは、社内だけだと今の運用に引っ張られて決めにくいことがあります。
現在の指値対応を5工程に沿って整理し、判断が個人に寄っている工程と、権限表で決まっていない箇所を一緒に確かめられます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| どこから直すか | 5工程のうち「誰が・何を見て・どこに残すか」が個人に寄っている工程 |
| 回答の振り分け | 原価・最低利益・数量・納期・取引継続性で判断し、列が分かれたら最も厳しい列に合わせる |
| 承認 | 基準内は担当者、基準外・辞退・協議の申出は責任者、不在時は順番付きの代理 |
| 協議の申出 | 取適法の対象取引かを確かめ、採算が合わない理由を示す原価資料を添える |
| 記録 | 1件1行・6項目で残し、例外は月次で見直して基準へ戻す |
| 定着の点検 | 同一指値での回答比較、不在時の回答日数、例外率、記録の漏れ |
振り分け表・権限表・記録の様式は、作ることより運用し続けることのほうが難しく、点検の結果をどの工程の手直しにつなげるかで迷いやすいためです。 記録の項目と点検項目が自社の件数や体制に合っているか、例外率や記録の漏れが出たときにどの工程を見直すかを確かめられます。
よくある質問
指値と値引き要請は、回答の流れの中でどう区別しますか。
違いは価格の起点です。
指値は取引先が先に価格を示し、値引き要請は自社が出した見積を起点に引き下げを求められます。
値引き要請では原価確認が見積の時点で済んでいるため、その見積の原価と最低利益を使って同じ振り分け表で判断できます。
受付の工程でどちらかを区別して記録しておくと、後で取引先ごとに指値と値引き要請の傾向を分けて見直せます。
担当者の権限を超える指値が来て、責任者が不在のときはどう返せばよいですか。
順番付きで決めた代理承認者に判断を回します。
代理も不在の場合や、代理の承認範囲から外れる回答の場合は、取引先に「社内で確認中で、いつまでに回答する」と期限付きで伝えます。
その場で受諾や辞退を約束しないことが大切です。
この手順を権限表に書いておけば、担当者が独断で受けるか、無回答のまま期限を過ぎるかの二択になりません。
断った指値の記録は、次の見積にどう使えばよいですか。
同じ取引先や同じ品目で次の見積や指値が来たとき、前回の指値額と自社原価の差、断った理由の項目を確かめる材料にします。
同じ品目で繰り返し断っているなら、原価の前提や条件の置き方を月次見直しで取り上げる候補になります。
断った理由が納期だった場合は、納期の条件を先に示す見積にすると、次回は条件を付けて返す回答に変えられるかもしれません。
自社が下請先に指値する側になる場合、何を確認しておけばよいですか。
まず、その取引が取適法の対象に当たるかを確かめます。
対象取引で委託事業者の立場になるなら、相手から価格協議の求めがあったときに応じない、または必要な説明をしないまま価格を決めることは禁止されています2。
通常の対価に比べ著しく低い価格を定める買いたたきも禁止です2。
社内では、協議の求めに誰が応じ、価格の根拠をどの資料で説明するかを、受ける側の手順と同じ権限表に決めておきます。
取適法の対象になるかどうかは、何で判断しますか。
製造委託や役務提供委託などの取引の種類と、資本金と従業員数の基準で判断します。
従業員数の基準は、製造委託等で300人、役務提供委託等で100人です2。
建設工事の請負は建設業法の体系で扱われ、価格転嫁協議の円滑化の促進などを定めた改正規定が2024年12月から施行されています3。
個別の取引が対象に当たるかは、公正取引委員会の案内で自社と取引先の条件を照らして確かめてください。
- 1 出典:株式会社NEXER/オクトパス「業務可視化ツールを使用して業務を行った経験に関するアンケート」(2024年)
- 2 出典:公正取引委員会「取適法・振興法」(2026年)
- 3 出典:国土交通省「建設業法等改正法の一部施行」(2024年)
画像の出典元
- Two business professionals discussing and reviewing documents in a modern office setting./Photo by Mikhail Nilov on Pexels