◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 不在の日に止まるのは注文の受け付けより、価格・納期や例外の判断の部分で、書類を共有するだけでは答えきれない
- 止まったときの影響と担当者しか知らない度合いで得意先を並べ、代わりの人が通常の注文を1回処理できる状態を目安に棚卸しする
- 手順は手順書、情報は共有台帳、連絡は共通の窓口、判断は担当の複数化と、中身に合わせて組み合わせる
- 担当者には書かせずに話してもらい、代わりの人が担当者のいる日に試して記録の不足を見つける
- 共有の前に見られる人の範囲と退職・異動時の扱いを決め、更新担当と見直し時期を置いて運用に載せる
目次

「あの人がいないと答えられない」とき、得意先対応の何が止まっているのか
担当者が休んだ日に、得意先からの注文や問い合わせに誰も答えられない。
この場面は、得意先ごとの対応の決め方が一人の頭の中にだけあることから起こります。
属人化を解消するために、全部を文書化する必要はありません。
止まると痛い得意先から、注文の受け方、価格や納期の決め方、例外の扱い、連絡先と過去のやり取りを見える形にします。
そのうえで、手順書・共有台帳・共通の窓口・担当の複数化から、人数と手間に合うものを選びます。
更新する人と見直す時期まで決めれば、いまの道具のままでも運用に載せられます。
不在時に起きること
担当者が休みの日に、得意先から「いつもの品を、いつもの条件で、来週の火曜までにお願いします」と電話が入ったとします。
受けた人は、品名なら過去の伝票から分かります。
しかし「いつもの条件」が単価を指すのか、送料の負担なのか、締め日の扱いなのかは分かりません。
火曜に間に合うかどうかも、在庫や出荷の段取りをどう組んでいるかを知らなければ答えられません。
結局「担当が戻りましたら折り返します」と伝えるしかなく、急ぎの注文であれば、その間に得意先が別の手配を考え始めることもあります。
ここで止まっているのは、注文の受け付けそのものより、受けた後の判断です。
見積書や請求書の控えが共有フォルダに残っている場合もあり、情報がまったく無いわけではありません。
欠けているのは、その単価に至った理由や、急ぎ・欠品のときにどう動くかという決め方です。
過去の書類を見られるようにしただけでは不在の日の問い合わせに答えきれないのは、この判断の部分が書類に残らないためです。
このように、業務の進め方や判断の根拠を特定の人しか知らず、その人がいないと仕事が進まない状態を、ここでは属人化と呼びます。
得意先対応の属人化は、本人がいる間は滞りなく回っているため、問題として見えにくいのが厄介なところです。
休暇や退職、異動の予定が決まって初めて、何が引き継げないのかを考えることになります。
頭の中にあるものの4区分
自社のどこが該当するかを見分けるには、担当者の頭の中にあるものを次の4つに分けて考えると整理しやすくなります。
これは調査で定められた分類ではなく、得意先対応を点検するためにこの記事で用いる区分です。
・注文の受け方:電話・メール・FAX・発注書のどれで届くか、受けたときに何を聞き返すか
・価格・納期の決め方:単価や値引きの根拠、納期をどう約束するか
・例外対応:欠品、急ぎの注文、締め後の追加、返品のときにどう動くか
・連絡先と過去のやり取り:先方の誰に何を確認するか、過去の約束やトラブル
点検は、担当者が不在の日を想定して、得意先ごとに4区分それぞれ「代わりの人が答えられるか」を確かめる形で進めます。
答えられない区分に印を付けていくと、同じ得意先でも、注文の受け方は分かるのに価格の決め方だけが分からない、といった偏りが見えてきます。
4区分には性質の違いもあります。
注文の受け方や連絡先は、書き出せばそのまま伝わる「情報」に近いものです。
一方、価格・納期の決め方や例外対応には、その場の状況を見て選ぶ「判断」が含まれます。
判断を含む部分は文章にしても伝わりにくく、後で共有の方法を選ぶときに扱いが分かれます。
調査が示す属人化の影響
得意先対応に限った調査ではありませんが、属人化がどのような困りごととして現れるかは、民間の調査からも目安が得られます。
業務可視化ツールの使用経験がある142人に尋ねた2024年1月の調査では、属人化の影響として「業務の引継ぎが困難である」が52.8%、「手順やプロセスが文書化されていない」が47.9%、「キーパーソンの不在が業務に深刻な影響を及ぼす」が44.4%選ばれています1。
また、中小企業の経理担当者362人を対象にした2024年6月の調査では、働く悩みとして最も多く挙がったのが「業務の属人化」で、50.0%でした2。
二つの調査は対象も設問も時期も異なるため、数字を足し合わせたり比べたりはできません。
前者は調査を行った事業者による自社調査で、回答者は業務可視化ツールの使用経験者に限られます。
後者は経理担当者の回答で、得意先対応の担当者ではありません。
どちらも、小規模事業の得意先対応がどの程度属人化しているかや、解消策でどれだけ改善するかを示すものではありません。
それでも、属人化が「引き継げない」「書かれていない」「その人がいないと止まる」という形で表に出ること、中小企業の担当者自身にとっても悩みとして意識されていることは読み取れます。
冒頭の電話の場面は、まさにこの三つが重なった状態です。
| 区分 | 中身の例 | 性質 |
|---|---|---|
| 注文の受け方 | 届く経路と受けたときに聞き返すこと | 情報に近い |
| 価格・納期の決め方 | 単価や値引きの根拠と納期の約束の仕方 | 判断を含む |
| 例外対応 | 欠品・急ぎ・締め後の追加・返品 | 判断を含む |
| 連絡先と過去のやり取り | 先方の確認相手と過去の約束やトラブル | 情報に近い |
▼ 図の内容を文字で読む
- 得意先から「いつもの条件で」と電話が入る
- 品名は過去の伝票から分かる
- 単価・送料・締め日の扱いと納期の約束が分からない
- 「担当が戻りましたら折り返します」と伝える
全部は書かない:止まると痛い得意先と業務から棚卸しする
2軸で得意先を並べる
頭の中にあるものの中身が分かると、次に迷うのはどこから手を付けるかです。
すべての得意先について4区分を書き出そうとすると、通常業務と並行では手が回らなくなりがちです。
ここで言う棚卸しは、得意先ごとに「何が誰の頭の中にあるか」を一覧にする作業で、まず着手の順番を決めるところから始めます。
順番は、二つの軸で決めます。
一つは、その得意先の対応が止まったときの影響の大きさです。
売上に占める比重が大きい、納期が厳しく遅れが許されない、請求の締めや支払い条件が他と違う、といった得意先ほど影響は大きくなります。
もう一つは、担当者しか知らない度合いです。
その得意先の注文を他の人が処理したことがあるか、4区分のうちいくつが担当者一人にしか分からないかで見ます。
得意先名を縦に並べ、影響を大・中・小で、知っている人の数を横に書き込むだけで足ります。
影響が大きく、担当者しか知らない得意先が最初の着手先です。
影響が大きくても他の人が対応できる得意先は、手順の確認だけで済むことがあります。
影響が小さく担当者しか知らない得意先は後回しでかまいませんが、担当者の退職日が決まっているなら、その日までに一度は触れておく範囲に入れます。
影響が小さく他の人も対応できる得意先は、今回の棚卸しの対象から外してかまいません。
得意先が数社しかない場合や、担当者一人がすべてを見ている場合は、並べ替えに時間をかけるより、全件を4区分で点検したほうが早いこともあります。
『足りる』の目安
棚卸しでもう一つ迷うのが、どこまで書けば終わりにしてよいかです。
この記事では、代わりの人がその得意先の通常の注文を、一人で1回は処理できる状態を目安にすることを提案します。
実証された基準ではなく、不在の日に業務を止めないために必要な水準から考えた目安です。
目安を担当者と同じ水準に置かないのは、不在の間に求められるのが、いつもと同じ質の対応ではなく、注文や問い合わせを止めないことだからです。
通常の注文を処理できれば、残るのは例外のときだけです。
例外まで網羅しようとすると記録はいつまでも完成せず、その間に休暇や退職の日が来てしまいます。
そのため、答えられないことが出たときの扱いも「足りる」状態に含めておきます。
たとえば、価格の相談は担当者が戻ってから折り返す、急ぎの納期は管理者が判断する、というように、誰がいつまでに答えるかが決まっていれば、得意先に待ってもらう理由を説明できます。
冒頭の電話でも、「折り返します」に加えて「いつまでに、誰から」を伝えられるだけで、先方の受け止め方は変わります。
最初の1週間でやること
着手を先延ばしにしないために、最初の1週間で区切るなら次のような進め方が考えられます。
日数は一例で、得意先の数や担当者の忙しさで前後します。
1. 管理者が得意先の一覧を作り、二つの軸で印を付けて、最初の1社を決める
2. 担当者と短く話し、その1社について4区分のうち代わりの人が答えられない区分を確かめる
3. 答えられない区分の中身を聞き取り、記録役が書き出す
4. 代わりの人が記録を読み、分からない言葉や抜けている判断に印を付ける
1週間で終わるのは最初の1社分で、それで構いません。
1社を通してやってみると、聞き取りにかかる時間や、どの区分が書きにくいかが分かり、2社目以降の段取りを組みやすくなります。
記録をどこに、どの形で残すかは、次に扱う共有の方法の選び方で決めます。
| 止まったときの影響 | 担当者しか知らない | 他の人も対応できる |
|---|---|---|
| 大きい | 最初に着手する | 手順の確認で済むことがある |
| 小さい | 後回しでよい(退職日が決まっていれば期限内に) | 今回は対象外でよい |
▼ 図の内容を文字で読む
- 管理者が得意先の一覧を作り、最初の1社を決める
- 担当者と短く話し、答えられない区分を確かめる
- 答えられない区分を聞き取り、記録役が書き出す
- 代わりの人が記録を読み、分からない箇所に印を付ける
手順書・共有台帳・共通の窓口・担当の複数化をどう使い分けるか
4つの選択肢の比較表
棚卸しで見えた中身を、どの形で残し、誰が使えるようにするか。
この記事では、小規模でも既存の道具で始めやすい手順書・共有台帳・共通の窓口・担当の複数化の4つを比べます。
手順書は、作業の手順と判断の基準を書いた文書です。
共有台帳は、得意先ごとの連絡先、取引条件、過去のやり取りを、複数の人が見られる表やファイルにまとめたものです。
共通の窓口は、個人宛てではなく、共有のメールアドレスや代表の電話番号で注文・問い合わせを受ける形です。
担当の複数化は、得意先ごとに主担当と副担当を置くことです。
4つは同じ問題を解くものではないため、解消できる属人化の種類、初期の手間、続けやすさ、必要な人数・道具という同じ軸で並べると違いが見えます。
表は性質の比較で、効果の大きさや費用を測ったものではありません。
表で判断が分かれるのは、価格・納期の決め方のような判断の扱いです。
手順書に「値引きは担当者の判断で一定の範囲まで」と書くことはできても、「この得意先は長い付き合いなので、量がまとまれば相談に乗る」といった加減は、文章にすると例外だらけになります。
こうした判断は、副担当が実際の見積や納期の相談に何度か同席し、担当者がなぜそう決めたかを横で聞くほうが伝わりやすくなります。
反対に、締め日や先方の窓口の名前のような情報は、人を増やすより台帳に一行書くほうが確実です。
前の節の4区分に戻すと、注文の受け方や例外の進め方は手順書、連絡先と過去のやり取りは共有台帳、問い合わせの取りこぼしは共通の窓口、価格・納期の判断は担当の複数化、というのが大まかな対応になります。
人数と既存の道具で選ぶ
どれを選ぶかは、得意先対応に関わる人数で変わります。
経営者と担当者の2人で回しているような場合、共通の窓口を作っても受け付けを見るのは同じ2人で、取りこぼしはあまり減りません。
副担当を置くとしても、それは経営者自身になります。
この場合は、共有台帳に連絡先と取引条件を残し、例外の進め方だけを短い手順書にするところから始めるのが、手間に対して無理がありません。
担当者以外に受け付けを見られる人が複数いるなら、共通の窓口が働く余地が出てきます。
担当者個人のメールや携帯電話に届いていた問い合わせが共有の受け先に集まれば、不在の日でも誰かが内容を見て、台帳を引きながら一次対応できます。
ただし、誰が対応したかを示す印を付ける運用がないと、全員が見たつもりで誰も返していない、ということが起こります。
道具は、すでに使っている表計算ソフトや共有フォルダ、共有のメールアドレスから始められます。
新しい道具を入れると、操作を覚えることが先に立ち、肝心の中身の書き出しが遅れがちです。
既存の道具で足りなくなる条件は、運用を始めた後に見えてきます。
組み合わせ方
実際には、一つを選ぶより、得意先と区分に応じて組み合わせることになります。
たとえば、棚卸しで最初の着手先になった得意先について、連絡先と取引条件は共有台帳に、欠品や急ぎのときの進め方は1枚の手順書に、価格の判断は副担当を決めて見積に同席してもらう、という分け方です。
共通の窓口は特定の得意先に限らず、受け付け全体の入口として後から加えることもできます。
組み合わせるときは、共有台帳を入口にしておくと迷いが減ります。
不在の日に問い合わせを受けた人が最初に開くのは、その得意先の台帳の行です。
そこに手順書の置き場所と副担当の名前を書いておけば、台帳から先の行き先がたどれます。
記録が別々の場所に散らばると、書いてあるのに見つからないという、別の形の属人化が残ります。
| 選択肢 | 主に解消できる属人化 | 初期の手間 | 続けやすさ | 必要な人数・道具 |
|---|---|---|---|---|
| 手順書 | 手順(注文の受け方・例外の進め方) | 書き出しに時間がかかる | 手順が変わるたびに直す必要がある | 書き取る人と文書の置き場所 |
| 共有台帳 | 情報(連絡先・取引条件・過去のやり取り) | 項目を決めれば少ない | やり取りのたびに追記が要る | 複数人が見られる表やファイル |
| 共通の窓口 | 連絡(問い合わせの取りこぼし) | 受け先の設定と得意先への周知 | 誰が対応したかの印が要る | 受け付けを見る人が担当者以外にもいる |
| 担当の複数化 | 判断(価格・納期の決め方) | 副担当が慣れるまで時間がかかる | 日常的に関わらないと知識が薄れる | 副担当を置ける人数 |
▼ 図の内容を文字で読む
- 経営者と担当者の2人
- 共有台帳に連絡先と取引条件を残す
- 例外の進め方だけを短い手順書にする
- 受け付けを見られる人が複数
- 共通の窓口に問い合わせを集める
- 誰が対応したかを示す印を付ける
- 得意先と区分に応じて組み合わせる
- 共有台帳を入口にする
- 台帳に手順書の置き場所と副担当の名前を書く
本人の負担を抑えて、頭の中の知識を引き出す
聞き取りと横での記録
共有の形が決まっても、中身を出せるのは担当者だけです。
ここで担当者に「手順書を書いてほしい」と頼むと、通常の業務に書く作業が上乗せされます。
しかも本人にとって当たり前になっていることほど、書くべきことだと気付かれずに抜け落ちます。
そこで、書く作業と話す作業を分けます。
担当者には話してもらい、管理者か記録役が書き取ります。
聞くことは4区分に沿って具体的にします。
「この得意先から注文が来たら、最初に何を確認しますか」「この単価はどういう経緯で決まりましたか」「これまでに困った注文はありましたか」といった問いのほうが、「業務を教えてください」より答えやすく、判断の理由も出てきます。
話すだけでは出てこない手順は、実際の処理を横で見て記録します。
担当者が注文を受けて処理する場面に同席し、どの画面や書類を見たか、どこで手を止めて考えたかを順に書き取ります。
本人が説明しなくても、見ていた資料の順番から判断の手掛かりが分かることがあります。
代わりの人が試す
記録ができたら、担当者が読んで確認するだけでは足りません。
担当者は書かれていない部分を頭の中で補って読めてしまうため、抜けに気付きにくいからです。
確かめるのは、代わりの人が記録だけを見て、実際に1件の注文を処理できるかどうかです。
試すのは、担当者がいる日にします。
代わりの人が記録を見ながら処理し、担当者は横で見て、手が止まったところだけ答えます。
手が止まった箇所が、そのまま記録の不足です。
得意先へ返す前に担当者が確認するので、試しの段階で誤った単価や納期を伝えてしまう心配も抑えられます。
聞き取りから代わりの人の試行までを1回分と考えると、棚卸しで置いた「通常の注文を1回は処理できる」という目安を、その場で確かめられます。
不完全でも始める
記録は最初から完全にはなりません。
例外は起きてみないと思い出せないことが多く、1回の聞き取りですべてを出し切るのは無理があります。
不足は次に例外が起きたときや見直しのときに足していく前提で、まず通常の注文が回る分を残します。
担当者が聞き取りに乗り気でないこともあります。
忙しさに加えて、自分しか知らないことを手放すと立場がなくなるのではないか、という不安が背景にある場合もあります。
聞き取りは業務時間の中に置き、本人の同意を得たうえで進めます。
目的は担当者を外すことではなく、不在の日に得意先を待たせないことだと伝え、主担当は引き続き本人が務めることもはっきりさせておきます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 担当者
- 4区分に沿った問いに話して答える
- 試す日は手が止まったところだけ答える
- 記録役
- 聞いたことを書き取る
- 実際の注文処理を横で記録する
- 代わりの人
- 記録だけを見て実際に1件の注文を処理する
共有の前に決めておく、個人データの安全管理と見られる人の範囲
安全管理措置の考え方
共有台帳や共通の窓口に切り替えると、得意先の担当者の氏名や連絡先、個人客であれば住所や購入の履歴などが、これまでより多くの人の目に触れる場所に置かれます。
担当者の頭の中や手帳にあったものを共有するので、置き場所と見られる人を先に決めておく必要があります。
個人情報保護法第23条は、個人情報取扱事業者に、取り扱う個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じることを求めています3。
具体的にどこまで行うかは、事業の規模や性質、個人データの取扱状況、リスクの大きさ、本人の権利利益が侵害される程度に応じて決まり、中小規模事業者は大企業と同等の措置まで必須とはされていません3。
規模に応じて簡略にできるのは手法の部分で、措置を講じること自体が不要になるわけではありません。
措置を考える観点は、通則編ガイドラインで組織的・人的・物理的・技術的の4つに整理されています4。
共有台帳に当てはめると、たとえば次のような決めごとになります。
表の例はこの記事での当てはめで、ガイドラインに示された手法の例示そのものではありません。
自社が中小規模事業者に当たるかどうかの定義や、規模に応じた手法の例示は、通則編ガイドラインで確認してください。
得意先が法人中心か個人客中心かで、台帳に載る個人データの量と種類は大きく変わり、決めごとの重さも変わります。
判断に迷う点が残る場合は、ガイドラインの該当箇所を読むか、専門家に相談するのが確実です。
見られる人の範囲
見られる人の範囲は、不在の日に誰がその情報を使うかで決めます。
問い合わせを一次対応する人には、得意先の連絡先と注文の受け方が必要です。
一方、価格の条件や値引きの経緯は、見積を出す主担当と副担当が見られれば足ります。
すべてを一つの表に入れて全員に見せれば管理は楽ですが、見る必要のない人にまで取引条件や個人の連絡先が見えることになります。
逆に細かく分けすぎると、不在の日に必要な人が必要な情報を開けず、属人化が形を変えて戻ってきます。
連絡先と注文の受け方の表と、取引条件の表を分け、フォルダやファイルの単位で見られる人を変える、という程度の分け方であれば、既存の道具でも扱えます。
退職・異動時の扱い
共有を始めるときに、人が抜けるときの扱いも合わせて決めておきます。
属人化を解消しようとするきっかけが担当者の退職や異動であれば、なおさらです。
・共有台帳やフォルダの閲覧権限を、退職・異動の日に外す
・担当者個人のメールや携帯電話に残る得意先とのやり取りを、共通の窓口や台帳へ移しておく
・台帳を個人の記録媒体や個人用のクラウドに持ち出さない取り決めを、共有の開始時に伝えておく
・得意先に、窓口や担当が変わることと新しい連絡先を知らせる
とくに二つ目は、引継ぎの中身と安全管理の両方に関わります。
得意先とのやり取りが担当者個人の受け先に残ったままだと、退職後にその履歴を誰も見られなくなり、同時に会社の管理が届かない場所に個人データが残ります。
共通の窓口で受ける形に移しておけば、この二つを一度に減らせます。
| 観点 | 共有台帳での決めごとの例 |
|---|---|
| 組織的 | 台帳を管理する人と取扱いのルールを決める |
| 人的 | 見られる人に取扱いの決めごとを伝える |
| 物理的 | 印刷した台帳や控えの置き場所と処分の仕方を決める |
| 技術的 | ファイルやフォルダの閲覧権限とパスワードを設定する |
▼ 図の内容を文字で読む
- 一次対応する人
- 得意先の連絡先
- 注文の受け方
- 主担当と副担当
- 価格の条件や値引きの経緯
- 退職・異動の日
- 共有台帳やフォルダの閲覧権限を外す
- 個人のメールや携帯電話に残るやり取りを共通の窓口や台帳へ移す
作って終わりにしない:更新担当・見直し頻度と、専用システムを検討する段階
更新担当と見直し時期
記録と共有の形ができても、更新が止まれば少しずつ現状とずれていきます。
単価が変わった、先方の担当者が替わった、という変化は日々起きるのに、記録を直すことが誰の仕事でもないからです。
そこで、更新担当を1人決めます。
ただし、更新担当が一人ですべて書くわけではありません。
例外や変更が起きたら、対応した人がその場で台帳に一行追記するのが基本で、更新担当は書き方をそろえ、古い記述を直し、抜けを担当者に確かめる役です。
その場で書く決まりがあると、後で思い出して書く手間が減ります。
見直しの時期は、たとえば年に1回と、担当者が替わるときに置きます。
見直しでは記録を読み返すだけでなく、聞き取りのときと同じように代わりの人が1件処理してみると、古くなった箇所が見つかります。
価格改定や得意先の窓口の交代のように、記録に直結する変化があったときは、時期を待たずに直す対象です。
既存の道具で足りるかの判断条件
運用を続けると、表計算ソフトや共有フォルダでは扱いにくい場面が出てくることがあります。
足りるかどうかは、次の4つの条件で見ます。
・同時に更新する人数:同じファイルを複数の人が同時に開いて書き込み、上書きや食い違いが起きる
・検索の手間:過去のやり取りを探すのに時間がかかり、電話を受けている間に答えられない
・権限分け:見られる人を項目ごとに分けたいのに、ファイル単位でしか分けられない
・記録の量:一覧が長くなり、どこが古いかに更新担当が気付けない
どれか一つが一度起きただけなら、ファイルの分け方や書き方の工夫で収まる場合があります。
同じ詰まりが繰り返し起き、その対処に更新担当の時間が取られるようになったら、既存の道具が限界に近づいている合図です。
専用システムを検討する段階
その段階で、顧客管理や受注管理の専用システムを検討します。
システムは、同時更新や検索、権限分けといった道具の側の限界を補うものです。
一方で、価格や納期をどう決めるかといった判断の中身を、システムが代わりに持ってくれるわけではありません。
棚卸しをせずにシステムへ移ると、担当者の頭の中にあるものは頭の中に残ったまま、入れ物だけが新しくなります。
逆に、既存の道具で棚卸しと共有を回した記録があれば、それがそのままシステムへ移す中身になります。
運用中に詰まった条件を書き留めておくと、システムに何を求めるかを決めるときの材料にもなります。
どの製品が合うか、費用がどの程度かは、得意先の数や記録の量、関わる人数で変わるため、詰まった条件を手元にそろえてから比べるのが順当です。
▼ 図の内容を文字で読む
- 同時に更新する人数
- 複数の人が同時に書き込み、上書きや食い違いが起きる
- 検索の手間
- 電話を受けている間に過去のやり取りを探しきれない
- 権限分け
- 項目ごとに分けたいのに、ファイル単位でしか分けられない
- 記録の量
- 一覧が長くなり、更新担当が古い箇所に気付けない
得意先を二つの軸で並べてみても、自社の業務のどこまで書けば足りるのか、どの手段から始めるのが人数に合うのかは、社内だけでは決めきれないことがあります。
自社の得意先と業務の並べ方、最初に着手する1社、手順書・共有台帳・共通の窓口・担当の複数化のどれから始めるかを一緒に整理できます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 着手する順番 | 止まったときの影響が大きく、担当者しか知らない得意先から |
| 点検の区分 | 注文の受け方・価格や納期の決め方・例外対応・連絡先と過去のやり取り |
| 足りる目安 | 代わりの人が通常の注文を一人で1回処理できる |
| 手段の選び方 | 手順は手順書、情報は共有台帳、連絡は共通の窓口、判断は担当の複数化 |
| 知識の引き出し方 | 担当者は話し、記録役が書き、代わりの人が担当者のいる日に試す |
| 共有前の決めごと | 見られる人の範囲と退職・異動時の扱い |
| 運用 | 更新担当1人、その場での追記、見直し時期 |
| システムを検討する段階 | 同時更新・検索・権限分け・記録量の詰まりが繰り返し起きる |
運用を始めると、いまの表計算ソフトや共有フォルダで続けるべきか、専用システムを検討する段階に来ているのかの線引きに迷いが出てきます。 運用中に詰まっている条件を整理し、既存の道具で工夫して続けるか、システムを検討するかを判断するための材料をそろえられます。
よくある質問
得意先が数社しかない場合も棚卸しは必要ですか。
必要です。
ただし、並べ替えに手間をかける必要はありません。
得意先が数社なら、一社が止まったときの影響はそれだけ大きくなります。
全件を4区分で点検し、代わりの人が答えられない区分から書き出せば、優先順位を付ける作業を省いたまま棚卸しを進められます。
担当者が協力的でないときは、どう進めればよいですか。
まず、協力しにくい理由を分けて考えます。
忙しくて時間が取れないなら、書かせずに話してもらう形にし、聞き取りを業務時間の中に置きます。
自分の役割がなくなる不安があるなら、目的は不在の日に得意先を待たせないことで、主担当は本人のままだと伝えます。
聞き取りで出てきた知識が記録として残ることを本人の仕事として認めることも、協力を得やすくする一つの方法です。
取引先の担当者名や連絡先も個人情報にあたりますか。
法人との取引でも、台帳に残るのは先方担当者の氏名、電話番号、メールアドレスなど、特定の個人に結び付く情報です。
個人情報や個人データに当たるかの判断は、個人情報保護委員会の通則編ガイドラインで定義を確認するのが確実です。
実務上は、個人データとして扱う前提で、見られる人の範囲や退職・異動時の扱いを決めておくと、共有を始めた後に慌てずに済みます。
手順書が古くなるのを防ぐには、何を決めておけばよいですか。
更新担当を1人決めること、例外や変更が起きたら対応した人がその場で追記すること、見直しの時期を決めることの三つです。
見直しは、たとえば年に1回と担当者が替わるときに置き、代わりの人が1件処理して古い箇所を見つけます。
価格改定や先方の窓口の交代など、記録に直結する変化は時期を待たずに直します。
共有の窓口を作ると、担当者への相談が減って得意先との関係が薄れませんか。
共通の窓口は注文や問い合わせを受ける入口を共有にするもので、得意先とのやり取りまで別の人に移すものではありません。
受けた内容は主担当へ回し、主担当がこれまでどおり応対する形にできます。
得意先に窓口の変更を伝えるときに、担当者は変わらないことを添えておくと、先方も安心して連絡できます。
担当者が不在の日の一次対応だけを他の人が受け持つ、という役割分担にしておけば、関係を保ちながら取りこぼしを減らせます。
- 1 出典:株式会社NEXER「業務可視化ツールを使用して業務を行った経験に関するアンケート」(2024年)
- 2 出典:株式会社ミロク情報サービス MJS税経システム研究所「中小企業の経理担当者の働き方&実務の困りごと実態調査」(2024年)
- 3 出典:個人情報保護委員会「個人情報保護法FAQ(中小規模事業者の安全管理措置)」(2026年)
- 4 出典:個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」(2026年)
画像の出典元
- Side view of concentrated young bearded employee in white shirt sitting at wooden desk and typing on keyboard while working on computer in light modern office/Photo by Andrea Piacquadio on Pexels