◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 現場のスマホ発注は、便利さだけでなく発注として法令上成立しているかで判断する必要があります。
- 取適法第4条の「直ちに明示」と、電子帳簿保存法第7条の保存義務が、満たすべき2つの柱になります。
- 本記事では現場のスマホ発注に必要な要件6項目と、導入してよいかを判断する5ステップを整理します。
目次
スマホ発注を現場で行うとは、発注を「その場で成立させる」ことである
現場のスマホから出した発注を法令上の発注として成立させるには、2つの要件を満たす必要があります。取適法第4条が定める発注内容の「直ちに明示」と、電子帳簿保存法第7条が定める電子取引データの保存です*1*2。
現場でのスマホ発注とは何を指すか
現場でのスマホ発注とは、現場の担当者がスマートフォンから出した発注を、取引上の「発注の明示」と税務上の「電子取引データの保存」を満たす発注として成立させる仕組みのことです。倉庫・工場・工事現場・移動中など、発注担当者がPCの前にいない状況を広く「現場」と呼びます。
ここでいう受発注(発注と受注を合わせた呼び方で、本記事では発注する側の行為を指します)は、電話やFAXを置き換える便利な手段というだけではありません。取適法上、委託事業者(製造委託等をする側の事業者)は中小受託事業者(委託を受ける中小企業)に対して明示義務を負います。明示すべき事項は、給付の内容・代金の額・支払期日・支払方法その他の事項です*1。
便利さではなく「発注として成立しているか」で判断する
スマホ発注を扱う情報は、時間や場所を問わない利便性や発注ミスの削減を中心に整理されているものが目立ちます。一方で、現場から出した発注が取引上・税務上の要件を満たしているかという論点は、導入検討の段階では見落とされやすい部分です。導入を検討する担当者にとって、まず確認すべきなのは機能の便利さよりも、この成立要件のほうです。
事業者間取引の電子化はすでに4割を超えている
企業間取引(BtoB-EC)のEC化率は2024年時点で43.1%(前年比+3.1pt)で、市場規模は514.4兆円(前年比+10.6%)に達しています*5。これはBtoB-EC全体の数値であり、現場のスマホ発注そのものの普及率を示すものではありません。発注という行為自体の電子化が進んでいる前提として押さえておく必要があります。
現場のスマホ発注が満たすべき第一の要件は「直ちに明示」である
取適法第4条第1項は、委託事業者が製造委託等をした場合、給付の内容・代金の額・支払期日・支払方法その他の事項を「直ちに」明示するよう定めています*1。現場からのスマホ発注でも、この明示が発注と同時に行われているかが最初の確認点です。
取適法第4条は「直ちに」明示するよう定めている
条文は「委託事業者は、中小受託事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、中小受託事業者の給付の内容、製造委託等代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を、書面又は電磁的方法により中小受託事業者に対し明示しなければならない」としています*1。「直ちに」という語は言い換えず、条文の表現をそのまま押さえておくことが実務上の起点になります。
明示の手段は「書面又は電磁的方法」であり、スマホからの明示も含まれる
明示の手段は書面に限られず、電磁的方法も認められています*1。したがって、現場のスマホから発注データを送信し、その内容が明示事項を含む形式であれば、明示の手段としては条文上の選択肢に含まれます。
| 明示のタイミング | 第4条第1項「直ちに」への当てはまり |
|---|---|
| 発注と同時に、電磁的方法で明示事項を送信する | 条文の「直ちに」という文言に近い運用だと考えられます |
| 現場からは発注だけし、明示は後日事務所でまとめて行う | 条文の「直ちに」という文言とは離れる運用だと考えられます |
電磁的方法で明示した場合でも、書面交付を求められたら遅滞なく交付する
第4条第2項は、電磁的方法により明示した場合でも、中小受託事業者から書面の交付を求められたときは「遅滞なく」交付しなければならないと定めています*1。現場でスマホ完結の運用にする場合も、書面交付を求められたときの対応手段を用意しておく必要があります。
現場で気をつける点 ―「後でまとめて発注書を出す」運用の位置づけ
現場での発注件数が多いと、明示を後回しにして事務処理としてまとめて発注書を発行したくなる場合があります。しかし条文が原則として求めているのは発注と明示を切り離さない運用であり、この点は現場のスマホ発注を検討する際にあらかじめ確認しておくべきです。
ただし第4条第1項にはただし書があり、明示すべき事項のうち「その内容が定められないことにつき正当な理由があるもの」については、その時点での明示を要しないとされています。この場合は、当該事項の内容が定められた後に「直ちに」書面又は電磁的方法で明示することが求められます*1。現場のスマホ発注でも、単価が後決めになる取引などをこのただし書に当てはめてよいかは、取引ごとに確認しておく必要があります。
自社の発注フローに、明示が発注から時間を置いて行われている工程がないかを確認するには、無料相談で要件を整理するのが近道です。
第二の要件は、発注データを電子取引として保存することである
現場のスマホから発注データを送受信すると、その取引は電子帳簿保存法上の電子取引に該当し、取引情報を電磁的記録として保存する義務が生じます*2。
電子帳簿保存法における「電子取引」の定義
電子帳簿保存法第2条第五号は、電子取引を「取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいう。以下同じ。)の授受を電磁的方式により行う取引をいう。」と定義しています*2。スマホアプリ経由で送る発注データは、この注文書に準ずる情報に当たります。
電子取引を行った場合、電磁的記録の保存義務がある
第7条は「所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない。」と定めています*2。現場からのスマホ発注も電子取引に当たる以上、この保存義務の対象になります。
現場のスマホ発注では「誰がいつ何を出したか」が記録として残る設計にする
電磁的記録の保存というと、データを消さずに残すことだと捉えがちです。しかし現場からの発注では、誰がいつどの端末から何を発注したかまで含めて記録される設計になっているかが、実務上の論点になります。個人所有の端末を使う場合でも、記録がシステム側に残る仕組みであれば、この論点への対応が可能です。
現場のスマホ発注に必要な要件6項目
ここまでの2つの要件(明示・保存)を、現場のスマホ発注に落とし込むと、確認すべき項目は6つに整理できます。製品名を前提にせず、要件として確認することが、どの仕組みを選ぶ場合にも使える判断材料になります。
| # | 要件 | なぜ必要か(根拠) |
|---|---|---|
| 1 | 発注内容の明示が発注と同時に行われる | 取適法第4条第1項の「直ちに」 |
| 2 | 明示した内容を書面として出力できる | 取適法第4条第2項(書面交付の求めへの対応) |
| 3 | 発注データが電磁的記録として保存される | 電子帳簿保存法第7条 |
| 4 | 誰がどの端末から出したかが記録される | 現場に発注権限を渡す前提条件 |
| 5 | 発注権限(発注できる担当者・金額・品目の範囲)を単位ごとに設定できる | 要件4と同じ前提 |
| 6 | 通信が切れた場合に二重発注が起きない | 現場の通信環境という条件 |
要件を満たしているか確認するときの優先順4点(順位根拠:重要度)
- 発注内容の明示が発注と同時に行われているかを確認します(取適法第4条第1項)。
- 電磁的方法で明示した場合に、書面交付の求めへ対応できるかを確認します(同条第2項)。
- 発注データが電磁的記録として保存されているかを確認します(電子帳簿保存法第7条)。
- 誰がどの端末から発注したかが記録に残るかを確認します。
要件を満たしているかの確認は、機能名ではなく動作で行う
受発注システムの機能一覧に「発注書発行機能」「クラウド保存」と書かれているだけでは、要件を満たしているとは判断できません。実際に発注と同じタイミングで明示事項が生成されるか、保存されたデータから誰がいつ発注したかを追えるかという、動作の単位で確認する必要があります。
既存の基幹システム側で満たせる要件もある
要件3・4のような保存・記録の要件は、発注アプリ単体ではなく既存の基幹システムや会計システム側で満たしている場合もあります。現場のスマホ発注を検討する際は、新たに導入する仕組みと既存システムの役割分担を先に整理しておくと、要件表との照合がしやすくなります。
現場のスマホ発注を導入してよいか判断する5ステップ
要件6項目を個別に確認する前に、対象となる取引と現状の運用を洗い出しておくと判断がしやすくなります。次の5ステップは、現場での定着や画面操作の手順ではなく、導入してよいかどうかを判断するための手順です。
- 対象取引を特定します。どの取引先・どの品目が取適法の対象になるかを洗い出します。
- 現在の発注の明示がどの時点で行われているかを書き出します。
- 発注データの保存場所を確認します。
- 現場に渡す発注権限の範囲(担当者・金額・品目)を決めます。
- 上記4点を、既存システムに照らして満たせるかを確認します。
法令要件から見た、現場のスマホ発注の落とし穴4点
現場のスマホ発注を進める中で見落としやすい点を、法令要件の観点から4つに絞って整理します。画面操作の使いやすさに関する論点ではなく、明示・保存・権限に関わる論点です。
発注は現場から、明示は後日事務所から ― という分離
発注そのものは現場のスマホで行いながら、明示に当たる情報(代金の額・支払期日など)を後日事務所側の担当者がまとめて発行している場合があります。この場合、発注と明示が時間的に分離してしまいます。
発注データがメールやチャットにしか残っていない
現場からの発注をチャットツールやメールでやり取りしているだけの場合は注意が必要です。電子帳簿保存法が求める電磁的記録としての保存要件を満たしているかを、個別に確認する必要があります*2。
現場の担当者が誰の権限で発注しているか分からない
複数の担当者が同じ端末やアカウントを共有していると、誰がどの発注を出したかを後から特定できなくなります。要件表の項目4・5と直結する論点です。
取引先に発注手段を提供する側の場合、相手の書面交付の求めに応じられない
自社が発注を受ける側で、取引先に発注手段を提供している場合は、取引先から書面交付を求められたときに遅滞なく対応できる出力手段を用意しておく必要があります*1。
どの取引・どの現場から始めるかの決め方
すべての取引・現場に同時にスマホ発注を広げるのではなく、優先順位を付けて始めるほうが要件確認の負荷を抑えられます。
取適法の対象取引から優先する
取適法第4条の明示義務が生じる取引(製造委託等に該当する取引)を最初に洗い出し、そこから対応を始めると、法令要件との照合作業を絞り込めます*1。
発注の頻度と金額で範囲を切る
発注頻度が高い取引先や、金額の大きい品目から現場のスマホ発注に切り替えると、要件確認によって得られる効果を早い段階で確かめられます。
現場側の前提を確認する
現場担当者が業務でスマートフォンを使える環境にあるかどうかも前提として確認しておく必要があります。参考として、スマートフォンの世帯保有割合は91.8%(2025年8月末時点、総務省 令和7年通信利用動向調査)となっています*3。ただしこれは世帯を対象にした数値であり、企業や現場担当者本人の保有率を示すものではありません。
同調査の企業調査は、公務を除く常用雇用者規模100人以上の企業のみを対象としており、クラウドサービスの利用企業は8割を上回っているとされています*3。
一方、令和7年版情報通信白書では、企業のクラウドサービス利用率は2024年時点で80.6%と示されています*4。これは前段の通信利用動向調査とは年次も調査も異なる数値のため、「8割を上回る」という記述と単純に並べて比較することはできません。
まとめ:現場のスマホ発注は、便利さではなく成立要件で決まる
本稿では、現場のスマホ発注を導入する前に確認すべき要件を整理しました。要点を3つに集約すると次の通りです。第一に、取適法第4条の「直ちに明示」を満たす運用になっているかを確認します。第二に、電子帳簿保存法第7条が求める電磁的記録の保存を満たしているかを確認します。第三に、この2つの要件を6項目に分解した要件表と、導入してよいかを判断する5ステップに沿って、自社の現状を照らし合わせます。
要件6項目チェックリスト
- 発注内容の明示が発注と同時に行われる
- 明示した内容を書面として出力できる
- 発注データが電磁的記録として保存される
- 誰がどの端末から出したかが記録される
- 発注権限を担当者・金額・品目の単位で設定できる
- 通信が切れた場合に二重発注が起きない
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
現場でスマホ発注をどう設計するか(画面の考え方・ブラウザとアプリの判断・定着の進め方)については、スマホ発注の利用場面やユーザー体験を中心に検討する必要があります。また現場の担当者を巻き込みながら定着させる進め方については、実装後のチェックリストを用意するなど、組織的な展開を意識した設計が重要です。
よくある質問
現場のスマホから出した発注も、取適法の「明示」として認められますか。
取適法第4条は明示の手段を「書面又は電磁的方法」としており、スマホからの明示もこの電磁的方法に含まれます*1。ただし明示事項(給付の内容・代金の額・支払期日・支払方法その他の事項)を発注と同時に満たしているかを確認する必要があります。
発注の明示を電磁的方法で行うのに、取引先の承諾は必要ですか。
取適法第4条には、電磁的方法による明示について取引先の承諾を要件とする定めはありません*1。ただし電磁的方法の具体的な方式は公正取引委員会規則に委ねられている部分があるため、実務上の運用は同規則も確認したうえで判断することをおすすめします。
発注を電磁的方法で明示した場合、書面は一切不要になりますか。
電磁的方法で明示した場合でも、中小受託事業者から書面の交付を求められたときは、遅滞なく交付しなければならないと定められています*1。したがって、普段は電磁的方法で足りる場合でも、求めに応じて書面を出力できる手段を用意しておく必要があります。
現場の担当者に発注権限を渡しても問題ありませんか。
権限を渡すこと自体を制限する規定はありません。誰がどの端末からどの範囲で発注したかが記録として残る設計になっているかを、要件表の項目4・5にそって確認する必要があります。
個人所有のスマートフォンから発注してもよいですか。
個人所有の端末を使う場合でも、発注データがシステム側に電磁的記録として保存され、誰が発注したかを追跡できる設計であれば、要件表の項目3・4への対応が可能です。端末の所有形態よりも、記録の残り方を確認することが重要です。
- *1 出典:デジタル庁「e-Gov法令検索」製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(中小受託取引適正化法、通称:取適法)第4条(令和7年法律第41号による改正、2026年1月1日施行)
- *2 出典:デジタル庁「e-Gov法令検索」電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(電子帳簿保存法)第2条第五号・第7条
- *3 出典:総務省「令和7年通信利用動向調査の結果」(2026年5月29日公表)
- *4 出典:総務省「令和7年版情報通信白書」図表Ⅰ-1-1-12・13(2025年7月)
- *5 出典:経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査」(2025年8月26日公表)
画像の出典元
- 発注のイメージ/Photo by Chang Duong on Unsplash
- 導入のイメージ/Photo by Petr on Unsplash
- 法令のイメージ/Photo by Nick Sorockin on Unsplash