◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 定着しない状態は、発注・検収・支払いの仕事ごとに、新旧どちらの経路で処理されたかを数えると、戻っている場所が見えてくる。
- 戻る原因を仕入先側の対応、社内手順、使う人の負担に切り分けると、手順の修正・仕入先との再調整・範囲を戻すの中から手当てを選び分けられる。
- 取引条件を切り替えるなら、発注内容の明示、受領日から60日以内の支払期日、2年間の保存、免税事業者からの仕入れの控除割合を先に決めておく。
- 発注の仕組みを切り替えるなら、仕入先が注文を受け取れるか、仕入先の側で入れ直しが要るかを先に確かめる。
- 元の経路を残す並行期間は、期限と止める条件を始める前に決め、仕入先にも伝えておく。
目次

仕入先を替えたのに元の発注方法に戻るのは、仕事のどこで起きているのか
新しい仕入先を導入して発注の流れも説明したのに、しばらくすると現場から以前の窓口へ電話が入り、メールで注文が届き、請求書は特定の人の手元で止まっている。
こうした戻りは、発注・納品確認(検収)・支払いの仕事ごとに「誰が・どの経路で・いつまでに」やるかが決まっていないと起こりやすくなります。
運用を定着させるには、切り替えるものによって先に決めることが変わります。
取引条件を切り替えるなら、発注内容の明示、60日以内の支払期日、書類の保存、免税事業者との取引の扱いを先に決めます。
発注の仕組みを切り替えるなら、仕入先側が使える状態かを先に確かめます。
元の経路を残す並行期間と、切り戻す条件も、始める前に決めておきます。
発注・納品確認・支払いごとに戻りの兆候を見る
「新しい仕入先が定着しない」と感じたら、まずどの仕事で元のやり方に戻っているかを分けて見ます。
仕入先との取引は、発注する、届いた物を確かめる(検収)、請求を受けて支払う、という三つの仕事でできています。
戻り方は仕事ごとに違うことがあります。
たとえば、発注は新しい経路で出ているのに検収は紙のまま、という場合があります。
検収は記録されているのに、請求の処理だけが特定の人の手元で止まっている、という場合もあります。
一括りに「使われていない」と見ると、どこに手を入れればよいかが見えなくなります。
仕事ごとの戻りの兆候は、たとえば次のような形で現れます。
- 発注:急ぎの追加分だけ、担当者が新しい仕入先の営業担当へ電話やメールで直接頼み、決めた様式に発注の内容が残らない
- 検収:納品書に手書きで印を付けて終わり、受け取った日や数量が社内の記録に入らない
- 支払い:請求書が特定の担当者に届き、その人の記憶やメールと突き合わせて処理されるため、担当者が休むと処理が止まる
三つの仕事は順番につながっているので、一か所の戻りが後ろの仕事へ響きます。
電話で頼んだ追加分は、検収の段階で「この納品はどの注文のものか」が分からなくなります。
支払いの段階では、請求書の明細と照らすための発注の記録がありません。
結局は電話を受けた人に聞くしかなくなり、その人を中心にした個人対応が支払いまで続きます。
中小企業庁のミラサポplusの解説によると、取引の下位の階層では電話やFAXが残っており、手入力の転記によるミスや書類の紛失のリスクがあります4。
新旧の経路が混ざると、電話で受けた内容を誰かが後から新しい経路へ入れ直す必要が出てきます。
そうなると、社内でも同じ種類の転記のリスクを抱えることになります。
この見方を使うには、導入後の一定期間、発注・検収・支払いのそれぞれが新旧どちらの経路で処理されたかを数えられることが前提になります。
件数が分かれば、戻っている場所を特定できます。
たとえば「発注はほぼ新しい経路で出ているが、検収の記録が抜けている」と分かれば、手を入れる場所は検収に絞れます。
原因を仕入先側・社内手順・使う人の負担に切り分ける
戻っている場所が分かったら、次はなぜ戻るのかを考えます。
ここでは原因を三つに切り分けることを提案します。
一つ目は、仕入先側が新しい経路に対応できていないこと。
二つ目は、社内の手順が現場の動きに合っていないこと。
三つ目は、使う人の入力や確認の負担が増えたことです。
切り分けるのは、原因ごとに手を入れる相手と方法が違うからです。
仕入先側の原因は、自社の中をいくら整えても解けません。
新しい発注方法を決めても、仕入先がその形で注文を受け取れなければ、仕入先から確認の電話を求められ、電話が残ります。
納品書や請求書が紙でしか届かなければ、検収と支払いも紙に戻ります。
EDI(企業間で受発注のデータを電子的にやり取りする仕組み)について、ミラサポplusは次のように述べています。
1社だけが導入しても効果は得られず、取引先の状況や環境を考えて導入するかどうかを判断する必要がある、という内容です4。
取引の相手と一緒に動かす仕組みは、相手の側が動ける状態でなければ使われません。
社内手順の原因は、決めた流れが現場の実際の動きを拾えていない場合です。
たとえば、通常の発注は新しい様式で出すと決めたものの、欠品に気付いて当日中に追加を頼むときの手順を決めていなかったとします。
現場は急ぎの分だけ電話に頼り、それが例外として扱われないまま積み重なっていきます。
検収日の記録漏れも、手順の問題で起こりえます。
納品を受け取る人と記録を入れる人が別々で、両者の受け渡し方が決まっていない場合です。
使う人の負担の原因は、手順は合っていても、新しいやり方のほうが手間がかかる場合です。
以前は品番と数量を一行で伝えていたのに、新しい様式では入力欄が増えた、承認を待たないと送れない、といった変化があるとします。
急いでいる人にとっては、こうした手間が旧経路へ戻る理由になります。
請求処理が個人対応に戻るのは、照合に必要な情報が新しい経路のどこにあるか分からないときです。
探すより、覚えている人に聞いたほうが早くなってしまいます。
同じ「電話発注が残っている」という現象でも、原因によって打つ手は変わります。
仕入先が電話を求めているなら、受け渡しの形を仕入先と再調整します。
急ぎの手順がないなら、例外の扱いを社内手順に加えます。
入力が面倒なら、入力や確認を簡素にするか、試す範囲を見直します。
この切り分け方と仕事ごとの兆候の整理は、公的な調査で実測されたものではなく、編集部が提案する見方です。
▼ 図の内容を文字で読む
- 仕入先側が新しい経路に対応できていない
- 発注:仕入先から確認の電話を求められる
- 検収・支払い:納品書や請求書が紙でしか届かない
- 社内手順が現場の動きに合わない
- 発注:急ぎの追加分だけ電話で頼む
- 検収:受け取った日が記録されない
- 使う人の入力・確認の負担が増えた
- 発注:入力欄や承認待ちを避けて旧経路へ戻る
- 支払い:照合を覚えている人に頼る個人対応になる
取引条件を切り替えるときに、先に決めておくこと
発注内容の明示と書類の保存
取引条件の切り替えは、新しい仕入先との間で、何をどう頼み、いつ払い、何を残すかを決め直す作業です。
自社の決めごとで進められる部分は大きいのですが、発注の様式や支払日の決め方は、法律と税の条件に従う必要があります。
ここが曖昧なまま始めると、現場は分からない部分を前の仕入先とのやり方で埋めようとします。
それが、元の発注方法へ戻るきっかけになります。
仕入先との取引が、取適法(委託取引で委託する側に義務を定めた法律)の対象となる委託取引であれば、委託する側(委託事業者)には四つの義務があります。
発注内容等の明示(書面または電磁的方法)、支払期日の設定、書類・電磁的記録の作成と保存、遅延利息の支払いです1。
対象になるかどうかは取引の内容や当事者の要件で決まり、社内で「仕入れ」と呼んでいる取引がすべて当てはまるとは限りません。
自社の取引が当てはまるかは、公正取引委員会や中小企業庁の資料で判定しておく必要があります。
また、四つの義務は、発注の運用が崩れていないかを見る点検項目としても使えます。
発注内容は、書面か電磁的方法で明示します1。
運用に落とす最初の作業は、新しい仕入先への発注で毎回そろえる項目を一つの様式に決めることです。
あわせて、急ぎの電話で頼んだ分もその様式に残すかどうかを先に決めておきます。
前の節で見た「急ぎの分だけ電話」が残っていると、明示の記録がない発注が混ざってしまいます。
メールやシステムで明示する場合の細かな手続きは、公正取引委員会の資料で自社のやり方に照らしておくと安心です。
書類や電磁的記録は、作成して2年間保存する義務があります1。
保存で困るのは、並行期間中に新旧の経路の記録が別々の場所に残る場合です。
新しい経路の記録はシステムに、電話で頼んだ分は担当者のメモやメールに残ると、後から一つの取引をたどれなくなります。
保存先を一か所に決め、旧経路の記録をそこへ移す担当も決めておきます。
そうすれば、検収や支払いの照合にも同じ記録を使えます。
支払期日と遅延利息の考え方
支払期日は、物品等を受領した日から起算して60日以内に定める必要があります。
役務提供委託の場合は、中小受託事業者が役務の提供をした日から起算します1。
運用上の鍵は、起算点が受領日であることです。
請求書が届いた日や、社内で検収を締めた日を基準に支払日を数えていると、受領から実際の支払いまでが思ったより長くなる場合があります。
締め日と支払日を決めるときは、締め日の直後に受け取った分ほど支払いまでの日数が長くなる点に注意します。
新しい仕入先との締め日と支払日を決める段階で、その分でも60日以内に収まるかを数えておきます。
この確認は、受け取った日が記録されていなければできません。
前の節で検収の戻りとして挙げた「受け取った日が記録されない」状態は、支払期日の管理にも直接響きます。
支払期日までに支払わなかった場合は、年率14.6%を乗じた額の遅延利息を支払う義務があります1。
運用の面では、請求書が個人の手元で止まる、検収の記録が見つからず照合が終わらない、といった場面が遅延につながります。
どちらも、支払いの仕事が新しい流れに乗っていないときに起こる問題です。
遅延利息の定めは、支払いの戻りを放置しない理由にもなります。
免税事業者の仕入先と控除の経過措置
新しい仕入先が免税事業者(消費税の納税義務が免除されている事業者)であれば、もう一つ決めておくことがあります。
インボイス発行事業者以外の者からの仕入れでは、仕入れにかかった消費税を納める税額から差し引く仕入税額控除が、経過措置として一定の割合でしか認められません。
国税庁によると、令和8年度の税制改正で経過措置の適用期限が2年延長され、控除できる割合も見直されました2。
令和8年10月以後の2年間は70%、令和10年10月以後の2年間は50%、令和12年10月以後の1年間は30%で、令和13年10月以降は控除できなくなります2。
また、令和8年10月1日以後に開始する課税期間からは、上限額も下がります。
一のインボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れの合計額(税込み)が、その年または事業年度で1億円(改正前は10億円)を超えると、超えた部分は控除できません2。
これが定着と関わるのは、同じ品物を同じ価格で仕入れても、時期によって控除できる税額が変わるからです。
仕入先がインボイス発行事業者かどうかを確かめずに取引を始めると、後から価格を話し合う必要が出て、取引条件をもう一度決め直すことになります。
取引を始める前に、相手がインボイス発行事業者かどうかを確かめておきます。
あわせて、控除の割合が変わる時期に価格をどう扱うかも話し合っておけば、運用の途中で条件が揺れることを避けられます。
自社への影響の大きさや個別の処理は、顧問の税理士などと確認します。
日本商工会議所・東京商工会議所が会員の中小企業を対象に2025年6〜7月に行った調査があります(回答2,710者)3。
この調査では、本則課税事業者の43.7%が、インボイス制度の導入後も免税事業者から仕入れなどを行っていました3。
また、本則課税事業者の42.3%が、今後、免税事業者との取引価格や仕入先の見直しを行うとしています3。
商工会議所の会員を対象にした調査なので、全企業の姿を表す数字ではありません。
また、二つの数字は別々の問いへの回答です。
免税事業者から仕入れている事業者のうち何割が見直すかを示すものではありません。

それでも、免税事業者との取引を続けながら、価格や仕入先を見直そうとする事業者が一定の割合でいることは読み取れます。
仕入先の切り替えがこうした見直しの一部として起きている場合は、注意が必要です。
価格だけを決め、発注・検収・支払いの運用を決めないまま始めると、この節の前半で見た点検項目が抜けたまま取引が動き出します。
| 期間 | 控除可能割合(%) |
|---|---|
| 令和8年10月〜(2年間) | 70 |
| 令和10年10月〜(2年間) | 50 |
| 令和12年10月〜(1年間) | 30 |
| 令和13年10月〜 | 0 |
発注の仕組み(システム・EDI)を切り替えるときは、仕入先側の対応から確認する
仕入先が使える状態かを先に確かめる
導入するのが取引条件ではなく、発注システムやEDIのような発注の仕組みである場合は、進める順番が変わります。
取引条件は、自社で決めて仕入先へ伝えれば動き出せます。
一方、発注の仕組みは、仕入先がその仕組みで注文を受け取り、納品や請求の情報を返せる状態になって初めて動きます。
自社の中で操作を覚えても、仕入先が受け取れなければ、注文はメールや電話で補うことになります。
ミラサポplusは、EDIは1社だけが導入しても効果を得られず、取引先の状況や環境を考えて導入するかどうかを判断する必要があるとしています4。
同じ解説では、中小企業共通EDIの考え方も紹介されています。
提供事業者がデータを共通の辞書に変換すれば、受注側は自社のシステムを使い続けられる、という考え方です4。
つまり、仕入先に新しいシステムを必ず入れてもらう必要があるわけではありません。
変換の仕組みを間に挟むことで、仕入先の負担を抑えられる場合があります。
仕入先に確かめておきたいのは、主に次の三つです。
- 新しい仕組みで送られた注文を、仕入先が受け取って読める形になっているか
- 受け取った注文を、仕入先の社内システムへ手で入れ直す必要があるか
- 納品の連絡や請求の情報を、どの形で返してもらえるか
二つ目は、自社の画面からは見えにくい点です。
仕入先の側で入れ直しが必要だと、仕入先は入力の手間と誤りを避けるために、電話やメールでの確認を求めてくることがあります。
これが、最初の節で見た「仕入先側の原因」による戻りです。
三つ目が紙のままであれば、自社の発注が新しくなっても、検収と支払いは紙の照合のまま残ります。
EDI実証事業の削減率の読み方
効果の目安として、ミラサポplusは中小企業庁の実証事業の結果を紹介しています。
12の実証プロジェクトで、EDIの導入による中小企業の業務時間の削減率は平均51.4%でした4。
解説はその理由として、限られた事業期間内に既存の業務フローを変えやすかったことを挙げています4。
この数字を読むときは、二つの点に気を付けます。
一つは、実証事業の中で受発注の業務時間がどれだけ減ったかを示す数字だという点です。
社内で新しい運用が使われ続けたか、つまり定着の度合いを測った数字ではありません。
もう一つは、削減の理由が業務フローの変えやすさで説明されている点です。
仕組みを入れただけでなく、それに合わせて仕事の流れを変えたことが、効果の背景として挙げられていると読めます。
自社に当てはめるなら、この数字を「入れれば業務時間が半分になる」という見積もりには使いません。
新しい仕組みに合わせて、発注・検収・支払いの流れのどこを変えるかを決めてから導入する、という順番の手掛かりとして使います。
流れを変えないまま仕組みだけを入れると、古い手順と新しい画面の両方を回すことになります。
そうなると、使う人の負担という戻りの原因を、自分たちで作ることになります。
補助金の対象経費でできること
発注の仕組みを入れる費用は、公的な補助金の対象になる場合があります。
中小企業基盤整備機構の「デジタル化・AI導入補助金2026」の通常枠では、次の経費が補助対象に含まれています5。
ソフトウェア購入費、クラウド利用料(最大2年分)、導入コンサルティング・活用コンサルティング、導入設定・マニュアル設定・導入研修、保守サポートです5。
補助額は1プロセス以上で5万円以上150万円未満、補助率は1/2以内(条件により2/3以内)です5。
対象になるのは業務プロセスを備えたITツールで、汎用的なプロセスだけのものは対象外です5。
補助額や補助率は申請の枠や要件によって変わります。
申請を考える場合は、自社の導入内容が当てはまるかを公募の要領で確かめる必要があります。

ここで分けて考えたいのは、費用の区分と定着の効果です。
導入研修やマニュアル設定が補助対象経費に入っているのは、教える場や手順書を作る費用を申請に含められる可能性がある、という意味です。
研修をすれば現場が使い続ける、という意味ではありません。
研修の費用を見込むなら、最初の節で切り分けた原因のうち、社内手順と使う人の負担のどちらに向けた研修なのかを先に決めておきます。
そうすれば、研修の中身を現場の戻りに合わせられます。
なお、仕入先側の原因は、自社の研修では解けません。
| 観点 | 取引条件の切り替え | 発注の仕組みの切り替え |
|---|---|---|
| 動き出す前提 | 自社で決めて仕入先へ伝える | 仕入先が注文を受け取り納品や請求の情報を返せる |
| 先に決めること | 発注内容の明示・支払期日・書類の保存・免税事業者の扱い | 仕入先の受け取り方・入れ直しの有無・納品と請求の返し方 |
| 戻りの例 | 様式から外れた急ぎの追加分 | 仕入先側の入れ直しに伴う確認の電話 |
| 費用の論点 | 取引価格の見直し | ツールの費用と導入研修などの補助対象経費 |
立ち上げ期の試行範囲・担当・並行期間をどう決めるか
試行する範囲の選び方
取引条件と発注の仕組みのどちらを切り替える場合でも、導入直後に全品目・全部署を一度に切り替えると、戻りが起きたときにどこで起きたのかが分かりにくくなります。
ここからは、立ち上げ期の試行範囲・窓口・並行期間の決め方を、編集部の提案として示します。
効果を実測で確かめたものではないため、自社の発注の回り方に合わせて調整する前提で読んでください。
試行は、発注の頻度が高く、仕入先が新しいやり方に対応しやすい品目から始めることを提案します。
頻度が高い品目では、短い期間で発注・検収・支払いが何度も回るので、どの仕事で戻りが起きるかが早く見えます。
仕入先が対応しやすい品目を選ぶのは、原因を切り分けやすくするためです。
仕入先側の原因をあらかじめ小さくしておけば、戻りが起きたときに、社内手順か使う人の負担かに絞って見られます。
たとえば、毎週決まった量を頼む消耗品と、時期ごとに仕様を打ち合わせて頼む品目があるとします。
この場合は、消耗品から始めるほうが比べやすくなります。
仕様を打ち合わせる品目は一回ごとのやり取りが多く、新しい様式に収まらない連絡が生まれることがあります。
そのため、手順が固まってから広げる対象にします。
窓口の置き方
試行の間は、新しい仕入先とのやり取りの窓口を一人に絞ることを提案します。
窓口を絞るのは、例外を一か所に集めるためです。
急ぎの追加や仕様の確認など、新しい経路に乗りにくい依頼が出ることがあります。
そのときは、現場が直接仕入先へ電話をかけるのではなく、窓口に頼み、窓口が新しい経路へ代わりに入力します。
こうすると、現場が電話で頼みたくなる場面でも、記録は新しい経路に一本化されます。
検収の段階では注文の記録と納品を突き合わせられ、支払いの段階でも請求書の明細を照らす記録が手元にあります。
電話で受けた内容を後から入れ直す転記も、窓口一人の仕事として見える場所に出てきます。
窓口の代行入力の件数は、それ自体が手掛かりになります。
同じ部署から同じ種類の依頼が繰り返し来るなら、二つの可能性を疑えます。
新しい手順がその部署の動きに合っていないか、入力の負担が重いかのどちらかです。
一方で、窓口に負担が集中しすぎると、窓口が休んだ日に現場が直接電話をかけ始めます。
代わりの担当を決めておく、代行を受け付ける時間を決めておくなど、窓口自体が個人対応にならない工夫も必要です。
元の経路を残す期間と終了条件
元の発注経路をいきなり止めると、新しい経路でつまずいたときに注文が出せなくなります。
かといって期限を決めずに残すと、現場は慣れた経路を使い続け、並行期間がそのまま元の運用に戻ってしまいます。
そこで、並行させる期間と旧経路を止める条件を、始める前に決めておきます。
並行期間の長さには、「長ければ安全」「短ければ早く定着する」といった一般的な目安がありません。
自社の発注サイクルに合わせて決めることになります。
一つの考え方は、試行する品目で発注から支払いまでが新しい流れで一巡し、その間の戻りを確かめられる長さにすることです。
期限の日付だけでなく、止めてよいと判断できる条件も言葉で決めておきます。
たとえば「新しい経路で発注・検収・支払いまで終わった」「窓口の代行入力が減ってきた」といった条件です。
条件が決まっていれば、期限が来たときに、延ばすか止めるかを迷わずに済みます。
並行期間には一つ前提があります。
新旧どちらの経路で発注したかを、注文ごとに記録できることです。
この記録がないと、新しい経路がどれだけ使われているかが分かりません。
旧経路で出た注文の検収や支払いが漏れていないかも確かめられません。
旧経路を止める条件と時期は、仕入先にも事前に伝えておきます。
仕入先の担当者が以前の慣れで電話の注文を受け付け続けると、自社で決めた終了が守られないからです。
同じように、うまくいかなかったときに元へ戻す切り戻しの条件も、始める前に決めておきます。
何が起きたら範囲を戻すのかが決まっていれば、立ち上げ期の混乱の中で場当たり的に判断せずに済みます。

定着できているかをどう確かめ、うまくいかないときに何を選ぶか
数える項目と見直しの契機
定着しているかどうかは、感覚より件数で確かめたほうが原因に近づけます。
確認する項目として、仕事ごとに次の四つを提案します。
- 発注:新しい経路で出た発注の割合
- 検収:受け取った日の記録が抜けている件数
- 支払い:請求書の明細と検収の記録が合わない件数
- 支払い:受領日から数えた支払期日が守られているか
四つ目は、取適法の対象となる取引であれば、受領日から起算して60日以内という支払期日の枠で確かめます1。
二つ目の検収日の記録が抜けていると、この確認ができません。
そのため、二つ目と四つ目は組み合わせて見ます。
三つ目の差異の件数からは、数字が合わないことは分かっても、なぜ合わないかまでは分かりません。
差異があったときは、請求書と注文と納品の明細を一件ずつ照らします。
数量の違いなのか、旧経路で頼んだ注文が記録に入っていないのか、価格の取り決めの違いなのかを確かめます。
旧経路の注文が記録に入っていないことによる差異が続くなら、問題は支払いではありません。
発注の戻りが後ろの仕事へ響いている印です。
見直しの契機は、一度の漏れではなく、同じ原因による戻りが続いたときに置くことを提案します。
確認の頻度や、何件を超えたら見直すかという基準値には、一般化できる値がありません。
発注の回数が多い品目と少ない品目で、同じ基準を当てはめることもできません。
そのため、自社の発注サイクルに合わせて決めます。
大事なのは、毎回同じ項目を同じ数え方で見て、変化が分かるようにしておくことです。
修正・再調整・切り戻しの選び分け
見直しが必要になったら、最初の節で切り分けた三つの原因に応じて手当てを選びます。
社内手順が合っていないなら手順を修正します。
仕入先の対応が原因なら、仕入先と再調整します。
使う人の負担が大きすぎるなら、試す範囲を戻します。
原因を見ずに一律で研修をやり直したり、旧経路へ全面的に戻したりすると、別の原因による戻りは残ったままになります。
手順の修正は、戻りが起きた場面を手順に書き足すことから始めます。
急ぎの追加の扱いが決まっていなかったなら、窓口が受けて代行入力する流れを手順に入れます。
検収の記録漏れなら、受け取った日を入れる人とタイミングを決め直します。
納品を受け取る人がその場で入れるのか、記録の担当にどう渡すのかを決めるということです。
入れる場所と人を決めれば、後から思い出して入れる確認と転記が減ります。
仕入先との再調整では、注文の受け取り方、納品や請求の情報の返し方を話し合い直します。
必要であれば、支払日などの取引条件も話し合います。
取適法の対象となる取引では、いくつかの点を前提にします。
発注内容を書面または電磁的方法で明示すること、支払期日を受領日から60日以内に定めること、遅れれば年率14.6%の遅延利息を支払うことです1。
変えた条件も、発注内容の明示と同じように記録に残します。
条件を変えられるかどうかは個別の契約と取引の内容によるため、契約の条項を確かめたうえで話し合います。
使う人の負担が原因なら、試す範囲を戻します。
新しいやり方を全部やめるのではなく、品目や部署を絞り、負担の軽い範囲で回し直します。
入力欄を減らす、承認の流れを見直すなど、負担を下げる手を打ってから、もう一度広げます。
旧経路へ全面的に戻す切り戻しは、範囲を絞っても回らないときの選択肢です。
たとえば、仕入先が新しいやり方に対応できる見込みが立たない場合がこれに当たります。
判断するときは、立ち上げ前に決めた切り戻しの条件に照らします。
切り戻しを決めたら、仕入先には次のことを伝えます。
いつから、どの経路で注文を出すのか。
すでに新しい経路で出している注文と支払いをどう扱うのか。
注文の経路が変わっても、受け取った物の受領日の記録、支払期日、書類の保存は途切れさせないようにします。
切り替わりの時期の注文を一覧にしておくと、検収と支払いの漏れを見つけやすくなります。
▼ 図の内容を文字で読む
- 仕事ごとに件数を数える
- 新しい経路での発注の割合
- 検収日の記録漏れ・請求と検収の差異・支払期日
- 同じ原因による戻りが続いているかを見る
- 原因を切り分ける
発注・検収・支払いのどこで戻っているかは、慣れた手順を前提にしている社内の当事者だけでは見えにくいことがあります。
相談では、自社の発注経路と取引条件を仕事ごとに並べ、どの品目から試すか、旧経路を止める条件をどう置くかを一緒に整理できます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 戻っている場所 | 発注・検収・支払いの仕事ごとに、新旧どちらの経路で処理されたかを数える |
| 戻る原因 | 仕入先側の対応、社内手順、使う人の負担に切り分ける |
| 取引条件の切り替え | 発注内容の明示、受領日から60日以内の支払期日、2年間の保存、免税事業者からの仕入れの控除割合を先に決める |
| 発注の仕組みの切り替え | 仕入先が注文を受け取れるか、入れ直しが要るか、納品と請求の情報をどう返せるかを先に確かめる |
| 並行期間 | 期限と止める条件を始める前に決め、仕入先にも伝える |
| 見直し | 同じ原因が続いたら、手順の修正・仕入先との再調整・範囲を戻すから選ぶ |

並行期間の終了や切り戻しは、仕入先との関係や取引条件にも関わります。決める前に、第三者の目で条件を点検しておくと判断しやすくなります。 相談では、数える項目と見直しの契機を、自社の発注サイクルに合わせて決める方法を確かめられます。
よくある質問
仕入先が新しい発注方法に対応できない場合、自社の発注はどう扱うか
自社の側の記録と、仕入先への渡し方を分けて考えます。
社内では新しい経路で発注を記録し、仕入先へは対応できる形で発注内容を伝えます。
そうすれば、検収と支払いの照合は社内の記録で行えます。
EDIの場合は、提供事業者がデータを共通の辞書に変換することで、仕入先が自社のシステムを使い続けられる場合があります4。
どちらの場合も、取適法の対象となる取引であれば、発注内容を書面または電磁的方法で明示する義務は変わりません1。
元の発注経路は、いつまで並行して残せばよいか
一般的な長さの目安はなく、自社の発注サイクルに合わせて決めます。
一つの考え方は、試行する品目で発注から支払いまでが一巡し、その間の戻りを確かめられる長さにすることです。
期限とあわせて、止めてよいと判断できる条件も言葉で決めておきます。
新旧どちらの経路で発注したかを注文ごとに記録できることが、並行させる前提です。
検収と支払いの記録は、取適法上どのくらい保存すればよいか
取適法の対象となる取引では、書類または電磁的記録を作成して2年間保存する義務があります1。
これは取適法上の義務です。
税務など他の制度での保存の扱いは、別に確かめる必要があります。
並行期間中は、旧経路で出た注文の記録も同じ保存先に集めておくと、後から一つの取引をたどれます。
仕入先が免税事業者のとき、取引条件はどう見直すか
インボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れは、控除できる割合が段階的に下がります。
令和8年10月以後の2年間は70%、その後は50%、30%と下がり、令和13年10月以降は0%になります2。
令和8年10月1日以後に開始する課税期間からは、上限額も設けられます。
一のインボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れが年1億円を超えると、超えた部分は控除できません2。
取引を始める前に相手がインボイス発行事業者かを確かめ、割合が変わる時期の価格の扱いを話し合っておくと、途中で条件が揺れにくくなります。
自社への影響の大きさや個別の処理は、顧問の税理士などと確認してください。
補助金は導入後の運用の教育に使えるか
デジタル化・AI導入補助金2026の通常枠では、導入研修や活用コンサルティングが補助対象経費に含まれています5。
ただし、対象は業務プロセスを備えたITツールで、補助額や補助率は申請の枠や要件によって変わります5。
導入済みのツールについて後から研修だけを申請できるかなど、個別の扱いは公募の要領で確かめてください。
研修が経費になることと、研修で運用が定着することは別の話です。
どの原因に向けた研修かを、先に決めておきます。
切り戻しを決めるとき、仕入先へ何をどう伝えるか
次の二点を、書面やメールなど記録が残る形で伝えます。
一つは、いつから、どの経路で注文を出すのか。
もう一つは、すでに新しい経路で出した注文と支払いをどう扱うのかです。
取適法の対象となる取引であれば、経路が変わっても、発注内容の明示、受領日から60日以内の支払期日、記録の保存は続きます1。
取引条件そのものを変える場合は、個別の契約に照らして話し合います。
- 1 出典:公正取引委員会「取適法 委託事業者の義務」(2026年)
- 2 出典:国税庁「令和8年度税制改正特集(インボイス制度関係)仕入税額控除に係る経過措置」(2026年)
- 3 出典:日本商工会議所・東京商工会議所「中小企業におけるインボイス制度等に関する実態調査」(2025年)
- 4 出典:中小企業庁(ミラサポplus)「企業間のデータ連携で、受発注の業務コストを削減する!」(2020年)
- 5 出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構「デジタル化・AI導入補助金2026 通常枠」(2026年)
画像の出典元
- Group of colleagues discussing documents in an industrial-style office./Photo by Henri Mathieu-Saint-Laurent on Pexels
- Close-up of home inspector holding a checklist on a clipboard with a pen./Photo by RDNE Stock project on Pexels