◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 比べられない見積の多くは、依頼時に仕様・数量・納期・受渡条件がそろっていないことから生じるため、依頼条件と回答様式を先に固定する
- 比較表は、送料・付帯費用・最低ロットの余りを金額に直す部分と、納期や供給面を基準つきの段階で評価する部分に分ける
- 止まると困る品目は供給面、代替しやすい汎用品は単価・送料・納期を重く見て、重みの理由を一文で残す
- 取適法の対象となる取引では、協議に応じない一方的な代金決定は禁止され、一律の率での引下げや多量前提の単価の流用は買いたたき等のおそれがあるため、根拠を説明して協議した経過を記録する
- 依頼条件・見積・比較表・重みの理由・協議の経過・決定理由を稟議に残し、取引開始後は同じ項目で実績を見直す
目次

仕入先の相見積で3社の見積が比べられないとき、まず相見積が要る場面かを確かめる
3社から見積が届いたのに、1社は送料込み、1社は最低ロットつき、1社は納期が「別途相談」。
単価だけ並べれば最安の会社は分かります。
それでも、そこへ決めてよいのか、承認者に何と説明するのかで手が止まります。
比べられない原因の多くは、見積を依頼した時点で仕様・数量・納期・受渡条件がそろっていないことです。
依頼条件を先に固定し、単価に加えて送料や最低ロット、支払条件、供給面を同じ表で比べます。
そのうえで品目の重要度に応じて重みを変えます。
価格交渉では協議と説明の経過を残し、自社仕様の製造委託などでは取適法の対象かも確かめます。
見積が比べられなくなる典型的な原因
比べられないときに最初に疑うのは、見積書の書式の違いではありません。
各社が前提にしている条件の違いです。
たとえば、A社はまとまった数量を前提にした単価で送料は別、B社は少数からの単価で送料込みだとします。
C社は単価がいちばん安いものの、納期欄が「別途相談」です。
この3枚の単価を横に並べても、同じものの値段を比べたことにはなりません。
見積の前提がずれやすい箇所は、次のとおりです。
- 単価の基準になっている数量(1回の発注数か、年間の見込み数か)
- 送料・梱包費・手数料が単価に含まれているか
- 納期の書き方(受注後の日数か、確約のない目安か)
- 仕様の扱い(指定どおりの品か、各社が提案する同等品か)
- 支払条件(締め日・支払日・支払方法)
- 見積の有効期限
こうしたずれは、依頼が「この品目でお見積りください」程度だったときに起きます。
依頼に書かれていない条件は、各社が自社の標準条件で埋めるからです。
各社にとってはそれが自然な書き方で、比較を難しくしようとしているわけではありません。
それでも受け取った側では、条件をそろえ直す作業と問い合わせの往復が後から発生します。
そろえ直すときに「送料はたぶんこのくらい」と自社で補うと、その仮定が比較表に紛れ込みます。
承認者に「この送料はどこから出た数字か」と聞かれたとき、根拠を示せません。
前提のずれが大きいなら、手元で補正するより、条件を示して依頼し直すほうが説明しやすい結果になります。
相見積を取る場面と、継続・絞り込みでよい場面
依頼し直す前に、今回の品目にそもそも相見積が要るのかを確かめておきます。
相見積を取るかどうかは、まず社内の購買規程で決まります。
規程が取引額などで線を引いていれば、それに従います。
規程がない場合や例外が認められている場合は、品目の代替性と、今回見直すことになったきっかけで判断します。
相見積で比べる意味が大きいのは、次のような場面です。
- 新しい品目の仕入れを始めるとき
- 既存の仕入先から価格改定の申し入れがあった、または納期に不安が出てきたとき
- 契約の更新時期が来た、あるいは長く条件を見直していないとき
- 品質や供給の継続に心配が生じたとき
一方で、相見積を取っても比べる相手がほとんどいない場面もあります。
たとえば、自社仕様の型や図面を預けて作ってもらっている品目では、他社に切り替えると品質確認をやり直すことになります。
代替できる仕入先が実質的に見当たらない品目もあります。
少額の都度発注では、相見積の手間が差額に見合わないこともあるでしょう。
こうした場合は、継続や1社への絞り込みでも筋は通ります。
ただし、なぜ1社で決めたのかは記録しておきます。
承認者への説明になるだけでなく、次に見直すときに「前回は何が理由で比べなかったか」が分かるからです。
相見積を取るか取らないかと、取った見積をどう使うかは、分けて考えます。
後の節で扱う取適法の資料も、相見積を取ること自体を求めてはいません。
問題にしているのは、見積をどう使って代金を決めたかです。
相見積を取ると決めたら、次は各社が同じ前提で見積を書けるよう、依頼の条件を固めます。
見積を比べられる形にするため、依頼時にそろえる項目
仕様・数量・納期・受渡条件の固定
比較の土台は、見積が届く前の依頼の段階で決まります。
依頼に書く項目を考えるとき、手掛かりになる定めがあります。
製造委託等の取引に適用される取適法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律)の運用基準です。
運用基準は、発注の際に、給付の内容として品目、品種、数量、規格、仕様等を明示し、代金の額は原則として具体的な金額で明示することを示しています2。
この定めは、取適法の対象となる製造委託等で、発注する側が行う明示についてのものです。
既製品を仕入れる一般の取引に、そのまま義務としてかかるとは限りません。
それでも、何を決めれば発注内容が一つに定まるかという項目の並びは、見積依頼の雛形にもそのまま使えます。
発注のときに明示する項目を依頼の段階で固めておけば、見積と発注の内容がずれにくくなるからです。
依頼文に入れておきたい項目と、書かなかったときに起きることを並べます。
- 品目・規格・仕様:図面や品番を示し、同等品の提案を受けるかどうかも書く。
書かないと、1社だけ安い同等品で見積もり、単価差が仕様差なのか値段差なのか分からなくなる - 数量:1回あたりの発注数量と、継続取引なら年間の見込み数量を分けて書く。
書かないと、各社が別の数量を基準に単価を出す - 納期:希望納期と、受注後何日で納めるかの形で回答してほしいことを書く。
書かないと、確約のない目安と確約された日数が並ぶ - 受渡条件:納入場所、送料の負担、梱包の指定を書く。
書かないと、送料込みと送料別の単価が混ざる - 支払条件:自社の締め日・支払日を示し、それと異なる条件を希望する場合は明記してもらう
- 見積の有効期限と回答期限
もう一つ効くのが、回答の書き方を指定することです。
単価、送料、梱包費、その他の費用を別々の欄に書いてもらう様式を渡しておきます。
そうすれば、届いた見積を比較表へ写すときに、どこまでが単価でどこからが付帯費用かを読み解く手間が減ります。
同等品を提案する場合は別欄に書いてもらえば、指定品どうしの比較と提案の検討を分けて扱えます。
数量帯を分けて見積を取るときの注意
数量によって単価が変わる品目では、1回あたりの数量を段階に分けて見積を取ることがあります。
数量ごとの単価が分かるので便利ですが、使い方を誤ると問題になります。
取適法の運用基準は、多量の発注を前提に見積りをさせ、その単価を少量発注の単価として代金を定めることは、買いたたきに該当するおそれがあるとしています2。
違反行為事例としては、1個、5個、10個の見積書を出させたうえで、大量に作るときの単価で少量を発注した例が挙げられています2。
買いたたきかどうかは、通常の対価などを踏まえて総合的に判断されるもので、数量の扱いだけで決まるわけではありません。
また、これは取適法の対象となる製造委託等の取引についての考え方です。
それでも、比較の進め方には同じ注意がそのまま当てはまります。
数量帯ごとの見積を取ったら、実際に発注する予定の数量を先に決め、その数量帯の単価で各社を比べます。
年間の見込み数量で単価を取り決める場合は、見込みを下回ったときに単価をどう扱うかを、依頼の段階で条件として示しておきます。
そうしておけば、後から数量が変わったときに、改めて協議する根拠がはっきりします。
▼ 図の内容を文字で読む
- 数量を固定しない
- 各社が別の数量を基準に単価を出す
- 最安が数量の違いで決まってしまう
- 受渡条件を固定しない
- 送料込みと送料別の単価が混ざる
- 自社の仮定で送料を補い、根拠を示せなくなる
- 同等品の可否を書かない
- 1社だけ同等品で見積もる
- 単価差が仕様差か値段差か分からなくなる
- 納期の回答形式を書かない
- 確約された日数と目安が並ぶ
- 納期の確実さを比べられなくなる
単価以外に、総コストと供給面で比べる項目
金額に換算できる項目
条件をそろえて見積が届いたら、比較表を作ります。
最初に並べるのは、見積書の単価だけでは見えない負担を金額にした結果です。
ここで示す分け方は、比較表を作るための考え方の一例で、決まった様式ではありません。
自社の品目に合わせて項目を足し引きしてください。
金額に直しやすいのは、次のような項目です。
- 送料・運賃:送料別の見積は、発注1回あたりの送料を加える
- 梱包費・手数料・型代などの付帯費用:初回だけかかるものと、毎回かかるものを分ける
- 最低ロットによる余り:発注単位が必要数を上回る場合、使い切れない分も費用として扱う
最低ロットの影響は、単価だけを見ていると最も見落としやすいところです。
単価の安い会社ほど発注単位が大きいことがあり、必要な数より多く買えば、余った分の代金と保管の手間が自社に残ります。
比べるときは、単価に発注数量を掛け、送料と付帯費用を足したうえで、実際に使う数量で割り戻します。
そうすると、1個を使うために実際に払う額で各社を並べられます。
支払条件の違いは、金額への直し方が会社によって分かれます。
支払までの期間が長いほど資金繰りには余裕が出ますが、それを金額に換算するかどうかは社内の考え方次第です。
換算しない場合は、次に説明する段階評価の欄に入れ、違いがあることを表の上で見えるようにしておきます。
換算しにくい項目の段階評価
もう一方の欄には、金額にしにくいけれど選定を左右する項目を並べます。
- 納期の確実さ:回答した納期を確約しているか、繁忙期の扱いはどうか
- 不良時の対応:交換・返品の条件、連絡から対応までの流れ
- 供給の継続性:生産の拠点、欠品時の代替品の提案があるか
- 受発注のやり取り:注文の受け方(電話・FAX・メール・Web受発注など)、納品書や請求書の形式
これらは「良い・普通・不安がある」のような段階で評価します。
大事なのは、段階の印より先に、何があれば上の段階かを文章で決めておくことです。
たとえば納期なら、「受注後の日数を確約している」なら上の段階、「目安のみ」なら中の段階、「回答なし」なら下の段階、といった具合です。
基準を先に書いておけば、担当者の印象で段階が動きません。
承認者に聞かれても、なぜその段階にしたかを見積書の記載で示せます。
受発注のやり取りの項目は、取引が始まってから効いてきます。
注文の受け方が自社の運用と合わないと、注文のたびに転記や確認の電話が発生します。
単価差が小さい候補どうしなら、この手間の違いが決め手になることもあります。
この欄は軽く扱わず、現場で注文を出す人に確認してから埋めます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 金額に換算できる項目
- 送料・運賃
- 梱包費・手数料・型代などの付帯費用
- 最低ロットによる余り
- 実際に使う数量で割り戻した、1個あたりの額
- 換算しにくい項目の段階評価
- 納期の確実さ
- 不良時の対応
- 供給の継続性
- 受発注のやり取り
- 支払条件
- 金額に換算する場合は金額の欄へ
- 換算しない場合は段階評価の欄へ
品目の重要度と取引形態で評価項目の重みを変える
止まると困る品目の場合
比較表の項目がそろっても、全部を同じ重さで見るとは限りません。
どの項目を重く見るかは、その品目が止まったときに何が起きるかで変わります。
これは比較の考え方の提案で、重みの標準的な比率があるわけではないため、ここでは数値を示しません。
欠品すると自社の生産や出荷が止まる品目では、供給の継続性、納期の確実さ、不良時の対応を重く見ます。
単価の差は、欠品したときの損失と並べて評価します。
単価がいちばん安くても、納期が目安でしか示されていない会社に全量を任せると、一度の遅れで単価差以上の損失が出るかもしれません。
それなら、単価が少し高くても供給面の段階評価が高い会社を選ぶ理由になります。
こうした品目では、1社に絞らず、複数の仕入先に分けて発注する選択肢もあります。
ただし、発注を分ければ1社あたりの数量は減ります。
前の節で触れたとおり、見積の単価は前提の数量で変わります。
分割を考えるなら、分けたあとの数量で見積を取り直して比べます。
取引形態でも重みは変わります。
自社仕様の型や図面を預けて作ってもらう取引では、切り替えのたびに品質確認をやり直す必要があります。
そのため、継続して安定供給できるかを重く見ることになります。
こうした自社仕様の製造委託は、後の節で扱う取適法の対象になり得る取引でもあります。
代替しやすい汎用品の場合
どこからでも同じものが買える汎用品では、単価、送料、納期の比重が上がります。
欠品しても別の仕入先からすぐに調達できるなら、供給の継続性に高い重みを置く理由は小さくなります。
切り替えやすい分、条件の見直しも定期的に行いやすく、1社に長く固定する必要もありません。
ただし、汎用品でも、受発注のやり取りの手間は軽く見ないほうがよい場合があります。
発注の頻度が高い品目では、注文1回ごとの小さな手間が積み重なるからです。
単価差がわずかな候補どうしなら、この欄の評価で決めても説明はつきます。
重みを承認者に説明するときは、配分そのものより、なぜその配分にしたかを一文で残します。
たとえば「この部材は欠品すると出荷が止まるため、納期の確実さと供給の継続性を単価より優先した」と書きます。
こう書けば、最安の会社を選ばなかった理由がそのまま読めます。
点数で重みを付ける場合も、点数の横にこの一文を添えておけば、次の担当者が同じ考え方で見直せます。
| 観点 | 止まると困る品目 | 代替しやすい汎用品 |
|---|---|---|
| 重く見る項目 | 供給の継続性・納期の確実さ・不良時の対応 | 単価・送料・納期 |
| 単価差の扱い | 欠品したときの損失と並べて評価する | 比較の中心に置く |
| 仕入先の数 | 複数社への分割も検討し、分割後の数量で見積を取り直す | 1社に固定せず切り替えやすい |
| 取引形態との関係 | 自社仕様の製造委託では切り替えに品質確認が要る | 受発注の手間が差になることがある |
▼ 図の内容を文字で読む
- 止まると困る品目
- 供給の継続性・納期の確実さ・不良時の対応を重く見る
- 単価差は欠品したときの損失と並べて評価する
- 複数社への分割も検討し、分割後の数量で見積を取り直す
- 代替しやすい汎用品
- 単価・送料・納期の比重が上がる
- 1社に固定せず、条件の見直しを定期的に行いやすい
- 発注が多い品目では受発注の手間が差になることがある
- 自社仕様の製造委託
- 切り替えのたびに品質確認をやり直す
- 継続して安定供給できるかを重く見る
相見積を使った価格交渉で、してはいけないこと
協議に応じない一方的な決定
比較表で候補が絞れると、次は価格の交渉です。
ここで、自社の取引がどちらの種類かを意識しておく必要があります。
一つは、自社仕様の品を作ってもらう製造委託のような取引です。
もう一つは、仕入先が一般に売っている既製品を買う取引です。
前者では、取適法の決まりが交渉の進め方に直接かかわる可能性があります。
取適法は、従来の下請法が改められた法律です1。
発注する側(委託事業者)が、取引先(中小受託事業者)から価格協議の求めがあったのに協議に応じない場合や、必要な説明をしない場合があります。
取適法は、そのようにして一方的に価格を決める行為を禁止しています1。
たとえば、仕入先が原材料や人件費の上昇を理由に価格の相談を申し入れてきたとします。
そこで「他社の見積はこの値段だから」とだけ答えて従来の価格を押し通すと、協議に応じたとは言いにくくなります。
公的資料のなかで、他社の見積があることを理由に値下げを求めることの可否を、直接示した記載はありません。
ですから、相見積を交渉材料にすること自体が直ちに問題だとは言えません。
気をつけたいのは進め方です。
相手から協議の求めがあれば応じ、自社が求める価格の根拠を説明し、相手の説明も聞いたうえで決めます。
買いたたきの考え方については、2024年に、労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針などを踏まえ、解釈を明確にする運用基準の改正も行われています4。
一律の引下げと多量発注前提の見積
相見積の結果を見て、既存の仕入先に「全品目を一律に何%下げてほしい」と求めたくなることがあります。
取適法の留意事項では、従前の単価から一定率を割引料として引き下げて代金の額を定めることは、買いたたき又は協議に応じない一方的な代金決定の禁止に該当するおそれがあるとされています3。
品目ごとの原価や条件の違いを見ずに一律の率を当てはめると、根拠のある協議になりにくいからです。
見積の数量の扱いも、交渉の段階で改めて効いてきます。
前の節で触れたとおり、多量発注を前提にした見積の単価を少量の発注に当てはめることは、買いたたきに該当するおそれがあります2。
交渉で「この単価なら出せると見積にあった」と持ち出す場合は、その見積がどの数量を前提にしていたかを確かめてからにします。
運用基準は、買いたたきかどうかを、代金の額を決める際に十分な協議が行われたかどうかなど、対価の決め方を踏まえて総合的に判断するとしています2。
ここから言えるのは、見積の比較結果を交渉に使うときは、比べた見積の数量条件が今回の発注と一致しているかを確かめることです。
そのうえで、どんな根拠を示して、相手とどう話し合ったかを残しておくことが、判断で見られる決め方の部分に対応します。
これは資料を読み合わせた記事としての整理で、記録さえあれば違反にならないという意味ではありません。
取適法の対象かどうかの確認
ここまでの禁止やおそれは、取適法の対象となる取引の話です。
対象になるかは、取引の内容と、当事者の規模の基準の両方で決まります。
規模の基準には資本金の基準があり、それに該当しなくても、従業員数の基準に該当すれば適用の対象となります1。
従業員数の基準は、製造委託等では300人、役務提供委託等では100人とされています1。
自社仕様の品を作ってもらう取引であれば、対象かどうかを一度確かめておく価値があります。
一方、仕入先が一般に販売している既製品を買う売買の取引がどう扱われるかは、取引の中身によって判断が変わり得ます。
この記事では断定しません。
公正取引委員会の取適法の特設ページで、自社の取引の種類と規模を当てはめて確かめてください。
判断に迷う取引は、公正取引委員会の相談窓口や法務の専門家に確認するのが確実です。
対象外の取引であっても、協議に応じ、根拠を説明し、経過を残す進め方は、実務として役に立ちます。
仕入先との関係を長く保つうえでも、社内で決定を説明するうえでも、決め方が見える形になるからです。
ただし、それは法律上の義務としてではなく、実務の工夫として取り入れるものです。

選定理由の記録、選ばなかった仕入先への連絡、取引開始後の再評価
稟議に残す項目
ここまでに作ったものは、そのまま稟議の材料になります。
承認者が知りたいのは、どの会社に決めたかよりも、なぜその会社なのかです。
とくに最安の会社を選ばなかった場合は、その理由が読めるかどうかで承認の通りやすさが変わります。
残しておきたいのは次の項目です。
- 依頼条件:送った依頼文と回答様式
- 各社の見積:届いた見積書そのもの
- 比較表:金額への換算方法と、段階評価の基準
- 重みとその理由:品目の性質から何を優先したかの一文
- 価格協議の経過:日付、自社が示した根拠、相手の説明、合意した内容
- 決定理由と次点の会社
依頼条件と見積書を一緒に残すのは、比較が同じ前提で行われたことを示すためです。
次点の会社を書いておけば、決めた会社で問題が起きたとき、どこに当たればよいかがすぐ分かります。
価格協議の経過は、前の節で見たとおり、代金の決め方が判断で見られることから、記録しておく意義があります2。
担当者が替わったときも、これらがそろっていれば、前回の判断を引き継いで見直せます。
選ばなかった仕入先への連絡
見積を出してくれた会社には、決まった時点で結果を伝えます。
相手は見積を出すために仕様を読み、原価を計算しています。
結果が分からないままだと、生産や在庫の予定を立てにくくなります。
理由をどこまで伝えるかは、社内の方針で決めてかまいません。
一つの考え方は、価格面、納期面、供給面といった項目の単位で伝え、他社の具体的な単価や見積の中身は出さないことです。
他社の見積は、その会社が自社に向けて出したものだからです。
「今回は納期の確約を重視しました」と伝えるだけでも、相手は次に見積を出すときの参考にできます。
次の機会にも声をかけるつもりがあるなら、そのことも添えておきます。
取引開始後の再評価
選定は、取引が始まったところで終わりではありません。
見積の段階で段階評価にした納期の確実さや不良時の対応は、実際に取引してみて初めて確かめられます。
取引開始後は、納期を守れたか、不良が出たときにどう対応したか、価格改定の申し入れがあったかを記録しておきます。
選定時の比較表と同じ項目で記録すれば、見積時の評価と実績を並べて見られます。
見直す間隔に決まった標準はありません。
決めやすいのは、出来事を見直しのきっかけにするやり方です。
契約の更新前、仕入先から価格改定の申し入れがあったとき、納期遅れや不良が続いたときなどです。
重要な品目ほど、実績の記録を短い間隔で見ておくと、問題が大きくなる前に気づけます。
仕入先からの価格改定の申し入れは、取適法の対象となる取引では価格協議の求めにあたり得ます。
このときは、前の節で見たとおり協議に応じ、説明を尽くして決めます。
見直しの結果、相見積を取り直すことになったら、前回の依頼条件に実績から分かったことを反映して依頼します。
そうすれば、比べるたびに条件の精度が上がっていきます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 依頼条件を固定して見積を依頼する
- 比較表で比べて選定する
- 価格協議の経過と決定理由を記録し、結果を伝える
- 取引開始後の納期・不良・価格改定を記録する
- 見直しのきっかけで、実績を依頼条件に反映する
比較表の項目や重みは品目と取引形態によって変わり、自社だけで決めると、承認者に説明できる形になっているか判断しにくいためです。
受発注・購買の実務の観点から、自社の品目に合わせた見積依頼の項目と比較表の組み立てを一緒に整理できます。無料相談で要件を整理する
承認者への説明で、問いごとに使う記録
承認者が選定の根拠を確かめるときの問いごとに、本文で残すとした記録を対応させて並べた。
- 同じ条件で比べたのか:依頼文と回答様式、各社の見積書
- なぜ最安の会社ではないのか:比較表の換算結果と、重みを付けた理由の一文
- 数量の前提は合っているか:比較に使った数量帯と、実際の発注予定数量
- 価格はどう決めたのか:価格協議の日付、示した根拠、相手の説明、合意内容
- 決めた会社で問題が起きたらどうするか:次点の会社と、取引開始後の再評価のきっかけ
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 依頼条件 | 品目・規格・仕様、数量、納期、受渡条件、支払条件、有効期限を固定し、回答様式も指定する |
| 数量 | 実際に発注する数量帯の単価で比べる。多量前提の単価を少量発注に当てはめない |
| 比較表 | 送料・付帯費用・最低ロットの余りを金額に直し、納期や供給面は基準を決めて段階で評価する |
| 重み | 止まると困る品目は供給面、代替しやすい汎用品は単価・送料・納期を重く見て、理由を一文で残す |
| 価格交渉 | 協議の求めに応じて根拠を説明し、一律の率での引下げは避け、経過を記録する |
| 取適法 | 自社仕様の製造委託などでは、取引内容と資本金・従業員数の基準で対象かを確かめる |
| 再評価 | 契約更新・価格改定の申し入れ・納期遅れや不良をきっかけに、同じ項目で実績を見直す |

選定理由や価格協議の記録は、取引が始まってからの再評価まで続けて使う必要があり、残し方を決めておかないと見直しのたびに作り直しになるためです。 見積依頼から選定、取引後の実績記録までを、どの記録でつなぐかを整理できます。取適法の対象かどうかの判断は、公正取引委員会の資料や専門家への確認をあわせて進めてください。
よくある質問
相見積は何社から取ればよいですか。1社だけでは問題がありますか。
社数は、まず社内の購買規程で決まります。
規程がなければ、代替できる仕入先が実際に何社あるかで考えます。
自社仕様の型を預けている品目や、代替先が実質的に見当たらない品目では、1社で決めることもあります。
その場合は、なぜ1社にしたかを記録に残しておけば、承認者にも次の担当者にも説明できます。
既存の仕入先に、他社の見積を見せて値下げを頼んでよいですか。
他社の見積を理由に値下げを求めることの可否を、直接示した公的資料はありません。
ただ、取適法の対象となる取引では、相手から価格協議の求めがあったのに応じない場合や、必要な説明をせず一方的に価格を決める場合は禁止されています1。
交渉では、比べた見積の数量条件が今回の発注と合っているかを確かめ、根拠を説明して協議した経過を残します。
他社の見積書そのものは、その会社が自社に向けて出したものです。
見せるのではなく、条件の差として伝えるほうが無難です。
数量が少ない発注でも、多量発注時の見積単価を使ってよいですか。
取適法の対象となる製造委託等では、多量の発注を前提に見積りをさせ、その単価を少量発注の単価として代金を定めることは、買いたたきに該当するおそれがあるとされています2。
実際に発注する数量帯の単価で比べ、年間見込みで単価を決めるなら、見込みを下回ったときの扱いを依頼の段階で条件にしておきます。
自社の仕入が取適法の対象かどうかは、どこで確認しますか。
公正取引委員会の取適法の特設ページで確認できます。
対象は取引の内容と規模の基準で決まります。
資本金の基準に該当しなくても、従業員数の基準(製造委託等は300人、役務提供委託等は100人)に該当すれば対象になります1。
既製品を買う売買取引の扱いなど判断に迷う場合は、公正取引委員会の相談窓口や法務の専門家に確認してください。
選ばなかった仕入先には、理由をどこまで伝えればよいですか。
決めた時点で結果を伝えます。
理由は社内の方針で決めてかまいませんが、価格面・納期面・供給面といった項目の単位で伝え、他社の具体的な単価は出さないのが一つの考え方です。
「今回は納期の確約を重視しました」程度でも、相手が次の見積に生かせます。
取引開始後の再評価は、どれくらいの間隔で行えばよいですか。
決まった標準の間隔はありません。
契約の更新前、価格改定の申し入れがあったとき、納期遅れや不良が続いたときなど、出来事をきっかけに見直すと決めやすくなります。
選定時の比較表と同じ項目で実績を記録しておけば、見積時の評価と比べて判断できます。
- 1 出典:公正取引委員会・中小企業庁「下請法・下請振興法が取適法・振興法に変わりました(取適法特設ページ)」(2026年)
- 2 出典:公正取引委員会「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律の運用基準」(2026年)
- 3 出典:公正取引委員会「取適法の留意事項・Q&A」(2026年)
- 4 出典:公正取引委員会「運用基準の改正(買いたたきの解釈の明確化)」(2024年)
画像の出典元
- Close-up of a professional writing notes with calculator at a wooden desk./Photo by Mikhail Nilov on Pexels