◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 仕入先が原因でも、顧客に対して自社が負うのは契約上の債務不履行責任と、自社が製造物責任法上の製造業者等に当たる場合の責任の二系統である
- 販売しているだけなら基本的に製造業者等には当たらないが、輸入している場合や自社を製造業者として表示している場合は責任を負う立場になる
- 仕入先へは契約不適合責任として追完・代金減額・損害賠償・解除を請求できるが、不適合を知った時から1年以内の通知など期限の管理が前提になる
- PL保険は製品の欠陥で他人の身体・財産に与えた損害の賠償責任を引き受ける保険で、国内取引信用保険は販売先からの代金回収を守る保険であり、仕入先倒産による供給停止はどちらの対象でもない
- 供給停止と求償できても回収できないリスクは契約と保険では埋まらないため、仕入先の与信管理と調達先の分散で確率と影響を下げる必要がある
目次

仕入先トラブルはどんな場面で自社の賠償リスクにつながるか
納品した商品に不具合が出て、原因をたどると仕入先から入れた部材だった。
あるいは仕入先の工場が止まり、顧客に約束した納期に間に合わない。
こうした場面でまず気になるのは、自社が顧客にどこまで賠償しなければならないのか、その分を仕入先に回せるのか、という点だと思います。
自社の責任は、顧客との契約を守れなかったことによる債務不履行責任と、自社が製造物責任法上の「製造業者等」に当たる場合の責任という二つの系統で生じます。
仕入先への求償は契約不適合責任を軸に契約条項で設計でき、契約で移しきれない賠償責任はPL保険で備えられます。
ただし取引信用保険は販売先からの代金回収を守る保険であり、仕入先の倒産による供給停止そのものはこの保険の対象ではありません。
欠陥・納期遅延・供給停止という三つの入口
仕入先に起因するトラブルが自社の賠償問題に発展する入口は、実務の感覚としておおむね三つに分かれます。
仕入れた商品や部材そのものに不具合がある場合、約束した日に物が入ってこない場合、そして仕入先が倒産するなどして供給が止まる場合です。
どれも「仕入先が原因」という点では同じに見えますが、自社に跳ね返ってくる責任の形は少しずつ違います。
一つ目の品質の問題は、最も分かりやすく賠償の話になりやすい類型です。
顧客に納めた商品が仕様どおりに動かない、数量が足りない、表示と中身が違うといった事態になれば、顧客からは交換や修補、値引き、あるいは発生した損害の賠償を求められます。
さらに、その欠陥が原因で顧客や消費者の身体や他の財産に損害が出た場合には、契約上の話にとどまらず、製品の欠陥そのものを理由とした責任が問題になります。
二つ目の納期遅延は、物の中身に問題がなくても自社が約束を守れなくなる類型です。
自社は顧客に対して納期を約束しており、その約束が守れなければ、仕入先の都合であっても顧客との関係では自社が遅れた側になります。
三つ目の供給停止はこれが極端になったもので、仕入先が急に倒産すると、代金の取りはぐれという意味での回収事故が起きていなくても、自社の顧客への納品ができなくなり、顧客に迷惑をかけて自社の売上と信用を落とすことになります5。
賠償の金額だけでなく、取引そのものを失う形で損害が出るのがこの類型の怖さです。
同じトラブルでも、責任の出口は二方向に分かれる
ここで押さえておきたいのは、自社に向かってくる責任の出口と、自社から仕入先へ向かう請求の入口が、別々の仕組みで動いているという点です。
顧客に対して自社が負う責任は、顧客との契約を履行できなかったことによる責任と、製造物責任法が定める責任の二系統に分かれます。
製造物責任法上の「製造業者等」には、販売しているだけの業者は基本的に当たりませんが、輸入業者や、自社を製造業者として表示している事業者は責任を負う立場になります1。
つまり自社が単なる転売の立場なのか、自社ブランドを付けて売っているのかで、同じ欠陥でも背負うものが変わります。
一方、仕入先に対しては、引き渡された目的物の種類・品質・数量が契約の内容に適合していない場合に、契約不適合責任の問題として請求を組み立てることになります2。
これは旧民法で瑕疵担保責任と呼ばれていた領域に当たるもので、品質不良の類型が最も直接に結び付きます。
納期遅延や供給停止は、物の中身の不適合ではなく、引き渡しという約束が守られていない問題として、別の整理で扱うことになります。
この表のうち、品質不良の行だけが「契約の責任」と「製造物責任」の両方にまたがっている点が、以降の判断の分かれ目になります。
自社が製造にも輸入にも関わらず、仕入先の商品をそのままの表示で売っているのか、それとも自社名やブランドを付けて売っているのかで、同じ一個の欠陥品に対する立場が変わるからです。
次の節では、この二系統がそれぞれどんな理屈で自社に向かってくるのかを見ていきます。
| トラブルの類型 | 自社に生じやすい責任 | 仕入先への請求の軸 | 主な備え |
|---|---|---|---|
| 品質不良・欠陥 | 顧客への契約上の責任/自社が製造業者等に当たる場合の製造物責任 | 契約不適合責任 | 検収と通知の運用、契約条項、PL保険 |
| 納期遅延 | 顧客への契約上の責任 | 引き渡しの遅れに対する責任 | 納期と遅延時の取り決め、代替調達 |
| 倒産などによる供給停止 | 顧客への契約上の責任 | 請求はできても回収は不確実 | 仕入先の与信管理、複数仕入先の確保 |
仕入先の問題で自社が賠償責任を負うのはどんな場合か
契約上の債務不履行責任(民法415条)
顧客に対する責任のうち、件数として多いのは契約上の責任のほうです。
自社は顧客との間で、何を、いつ、どんな品質で納めるかを約束しています。
その約束が果たされなければ、債務不履行として損害賠償の対象になるというのが民法415条の基本的な建て付けで、債務者の責めに帰すべき事由がない場合には賠償責任を負わないという例外が置かれています。
ここで多くの方が引っかかるのが、「悪いのは仕入先なのだから、自社に責めはないのではないか」という感覚です。
気持ちとしては自然ですが、顧客との契約と仕入先との契約は別々の契約であり、顧客から見れば約束した相手は自社です。
どこから仕入れるか、どの仕入先を選ぶか、在庫をどれだけ持つかは自社が決めていることでもあるため、仕入先に原因があるという一事で当然に免責されるとは考えにくい、というのが出発点になります。
実際に責めに帰すべき事由があるかどうかは、契約でどんな約束をしていたか、代替手段があったか、どんな事情で供給が止まったかといった個別の事情で判断が分かれる部分なので、ここは断定せずに自社の契約書を読み直す必要がある箇所です。
賠償の大きさを左右するのは、顧客との契約に損害賠償の範囲や上限についての定めがあるかどうかです。
交換や修補の費用だけで収まるのか、顧客側の生産停止や販売機会の損失まで請求されうるのかで、桁が変わります。
仕入先との交渉を始める前に、まず自社が顧客に対して何をどこまで約束しているのかを確認しておくと、仕入先へ何を求めるべきかも具体的になります。
製造物責任法上の責任(表示製造業者等)
もう一つの系統が、製造物責任法に基づく責任です。
こちらは契約の有無にかかわらず、欠陥のある製造物で他人の生命・身体・財産に損害が生じた場合に、製造業者等が負う責任です。
法律上の「製造業者等」に当たるのは、製造・加工・輸入を業として行う者、自ら製造業者として製造物に表示した者、製造業者と誤認させるような表示をした者、そして実質的な製造業者と認められる表示をした者です1。
逆に言えば、仕入先の商品を仕入先の表示のまま販売している販売業者は、基本的にはこの「製造業者等」には当たりません1。
ところが、自社ブランドのラベルを貼る、パッケージに自社名を製造元として載せる、OEMで作らせた商品を自社名義で売るといった形になると、立場は変わります。
どの表示が「製造業者と誤認させる表示」に当たるかは個別の事情で判断される領域なので、自社の商品ラベルや取扱説明書、パッケージの記載が実際にどうなっているかを現物で確かめるのが、この判断の起点になります。
製造物責任法には免責事由も置かれています。
一つは開発危険の抗弁と呼ばれるもので、製造物を引き渡した時点の科学・技術の知見では欠陥があることを認識できなかったことを証明した場合です1。
もう一つは、自社が部品や原材料の製造業者である場合に、その欠陥がもっぱら他の製造業者の設計に関する指示に従ったことにより生じ、かつ欠陥が生じたことに過失がないことを証明した場合です1。
二つ目は、仕入先から部材を買って使った側ではなく、指示を受けて部材を作った側のための抗弁である点に注意が必要です。
仕入れた部材に欠陥があったという事実そのものが、自社の製造物責任を自動的に消してくれるわけではありません。
時間の面も見ておく必要があります。
製造物責任は、損害および賠償義務者を知った時から3年間行使しないときは時効で消滅し1、製造業者等が当該製造物を引き渡した時から10年を経過したときも追及できなくなります1。
10年という期間は、取引が終わり、仕入先との関係が切れたあとも責任が残りうる長さです。
どのロットをいつ、どの仕入先から入れ、どこへ出荷したかという記録が残っていないと、後から事実関係を立証することも、仕入先へ求償することも難しくなります。
仕入先との契約でリスクをどこまで移転・求償できるか
追完請求・代金減額・損害賠償・解除の構造(民法562〜564条)
自社が顧客に対して責任を負う構造が見えたところで、次はその負担を仕入先へどこまで戻せるかです。
引き渡された物の種類・品質・数量が契約の内容に適合していない場合、買主である自社は、民法562条により、修補・代替物の引渡し・不足分の引渡しという方法で履行の追完を請求できます2。
まず「ちゃんとしたものを入れ直してください」と求めるのが出発点だということです。
仕入先が追完に応じない場合には、563条により代金の減額を請求できます2。
そして564条により、追完請求や代金減額請求とは別に、損害賠償の請求や契約の解除も併せて行うことができます2。
この並びには意味があります。
いきなり賠償金額の交渉に入るより、まず代替品を入れさせて顧客への納品を成立させるほうが、損害の総額そのものを小さくできる場面が多いからです。
実務で争点になりやすいのは、損害賠償の中身です。
自社が顧客に支払った賠償金や、回収・交換にかかった人件費・物流費を仕入先へ請求できるかは、どこまでを賠償の対象とするかという問題になります。
取引基本契約の損害賠償条項で、第三者からの請求に起因する損害を含めるのか、損害の範囲に上限を設けるのかといった定めが置かれていれば、その定めが交渉の前提になります。
条項が何も書かれていない契約ほど、トラブルが起きてから「どこまでが損害か」を一から争うことになりがちです。
通知期間と契約での調整(民法566条)
契約不適合責任を使ううえで、見落とすと取り返しがつかないのが期間の管理です。
民法566条により、買主はその不適合を知った時から1年以内に不適合の内容を売主へ通知することが必要とされています2。
権利そのものが残っていても、通知を怠れば請求できなくなる構造なので、「交渉の材料として黙って様子を見る」という選択は、この場面では取りにくくなります。
商人同士の売買ではさらに手前に検査と通知の義務があり、契約書の実務では、通知期間を「直ちに」から「◯営業日以内」に延ばす、発見期限を6か月から1年へ延長する、売主が不適合を知っていた場合には期間制限を適用しないという条項を加えるといった調整が行われています2。
買う側の立場からは、検収に現実的に必要な日数を確保し、すぐには表面化しない不具合にも対応できるよう発見期限を延ばしておくほうが有利です。
逆に、仕入先が用意した雛形をそのまま使っていると、自社の検収体制では到底間に合わない短い期間が入っていることもあります。
もう一点、契約に特約があればその特約が優先します。
つまりここまで説明した民法の請求構造や期間は、契約で何も決めていない場合の初期設定であり、自社が結んでいる取引基本契約に別の定めがあれば、そちらで動くということです。
仕入先ごとに契約書の条項がばらついている場合、トラブルが起きたときにどの条件で交渉しているのか分からなくなります。
どの仕入先とどの版の契約を結んでいるか、通知期限はいつまでか、その起算点はいつかを、契約書を開かずに確認できる状態にしておくと、発生時に動ける速さが変わります。
なお、契約で責任分担をどれだけ丁寧に設計しても、それは自社と仕入先の間の取り決めです。
顧客や、製品の欠陥で被害を受けた第三者との関係まで書き換えるものではありません。
対外的にはまず自社が対応し、そのうえで仕入先へ求償するという順序は変わらないため、契約条項は「自社が負担をゼロにする仕組み」ではなく「いったん負担した分を戻すための根拠」として読むのが実態に近いところです。
そして戻せなかった分、あるいは契約の相手ではない第三者に対して負う責任が、次に見る保険の出番になります。
PL保険と取引信用保険、契約でカバーできないリスクへの備えの違い
PL保険がカバーする範囲
契約で仕入先へ戻せなかった負担のうち、自社が第三者に対して負う賠償責任に備えるのが生産物賠償責任保険、いわゆるPL保険です。
この保険は、製造者または販売者の過失による製品の欠陥によって他人の身体や財産に損害を与えた場合の、法律上の賠償責任をカバーするものです3。
前の節で見た製造物責任法上の責任は、まさにこの範囲に当たります。
一方で、補償されないものもはっきりしています。
医薬品など対象外とされる製品や、医療行為に関する責任は補償から除外されます3。
また、どこまでが対象になるかは保険会社ごとの約款や引受条件によって変わるため、自社が扱っている商品がそもそも引受対象なのか、どんな事故が免責とされているのかは、加入前に個別に確認する必要があります。
保険金額や料率についてもここでは具体的な金額を示しませんが、扱う商品の性質と、顧客の損害が人身に及びうるかどうかで必要な水準は変わります。
整理すると、品質トラブルについての備えは二層になります。
仕入先との契約は、自社が負担した分を仕入先へ戻すための層です。
PL保険は、戻せるかどうかにかかわらず、自社が被害者に対して負う賠償責任そのものを引き受ける層です。
仕入先が小規模で、求償できても支払能力が足りない可能性があるなら、後者の層の重みが増します。
取引信用保険が対象とするのは仕入先倒産ではなく売掛金未回収
もう一つ名前が挙がりやすいのが取引信用保険です。
ここは誤解が生じやすいところなので、対象をはっきりさせておきます。
国内取引信用保険は、国内の取引先が商品の販売やサービスの提供にかかわる代金支払債務を履行しないことによって生じる損害を補償する保険であり、原則として継続的な取引先が対象とされています4。
つまり守られるのは、自社が売った代金、すなわち販売先に対する売掛金です。
向きが逆だという点が要点です。
この保険が想定しているのは、自社が商品を納めたのに相手が払ってくれないという場面であり、仕入先が倒産して物が入ってこないという場面ではありません。
したがって、仕入先の倒産による供給停止で生じた損害は、この保険の枠組みが対象とするものには含まれないと読むのが素直です4。
「取引先の倒産に備える保険」という言葉だけで判断すると、備えたつもりの穴が残ります。
この表から見えるのは、仕入先トラブルの三類型のうち、保険が正面から受け止めてくれるのは品質不良から生じる対外的な賠償責任の部分だということです。
納期遅延や供給停止によって自社が顧客に負う責任、代替調達でかさんだ費用、失った取引といった損害は、ここまでに挙げた二つの保険のどちらの対象にもなっていません。
仕入先へ前渡金を払っていた場合の焦げ付きも、販売先からの代金回収を守る取引信用保険とは向きが違う損害です。
この残った部分をどう減らすかが、最後の論点になります。
| 比べる点 | PL保険 | 国内取引信用保険 |
|---|---|---|
| 守る損害 | 製品の欠陥で他人の身体・財産に損害を与えた場合の法律上の賠償責任 | 取引先が代金支払債務を履行しないことで生じる損害 |
| 向き合う相手 | 被害を受けた顧客・第三者 | 自社の販売先 |
| 対象外として挙げられているもの | 医薬品など対象外の製品や医療行為に関する責任 | 原則として継続的な取引先以外 |
| 仕入先倒産による供給停止 | 対象ではない | 対象に含まれない |
仕入先選定・与信管理でリスク自体を減らすには
仕入先の与信管理は代金回収だけの話ではない
与信管理という言葉は、ふつう売掛金を回収できるかという文脈で使われます。
ただ、仕入先に対する与信管理の目的はそこだけではありません。
仕入先与信管理の目的は、安定した仕入を確保して自社の商流が止まることを未然に防ぐことと、前渡金や寄託行為がある場合に下請先の倒産時にそれが不良債権化することを防ぐことにあるとされています5。
お金を取りはぐれないための管理というより、物が入り続けることを守るための管理だと捉えると、担当者が何を見るべきかがはっきりします。
実害の出方も、売掛金の焦げ付きとは違います。
仕入先が急に倒産すると、回収事故がなくても自社の顧客への納品ができなくなり、顧客に迷惑をかけて自社の売上と信用を落とすことになります5。
賠償金を払って終わる話ではなく、その後の取引が細っていく形で効いてくるのがこの損害の性質です。
だからこそ、起きてから契約条項や保険証券を確認するのではなく、起きる確率そのものを下げる手当てが要ります。
どこまで踏み込んで仕入先を見るかは、業種や取引額、その仕入先への依存度によって変わります。
一社に大半を依存している部材なのか、すぐに他から引ける汎用品なのかで、必要な管理の濃さは違います。
前渡金を出している、金型や材料を預けているといった関係があるなら、倒産時に失うものがその分だけ増えます。
まずは、止まったときに最も困る仕入先を数社に絞り、そこから状況を把握する手順を決めるという進め方が現実的です。
契約・保険・与信管理で分担したあとに何が残るか
ここまでに出てきた手当てを、守れる範囲で分けて置き直します。
仕入先との契約は、品質不良について自社が負担した分を仕入先へ戻すための根拠を作ります。
PL保険は、製品の欠陥で他人の身体や財産に損害を与えた場合の賠償責任を引き受けます3。
与信管理と複数仕入先の確保は、供給が止まる確率と、止まったときの影響範囲を下げます。
それでも残るものがあります。
最大のものは、仕入先に請求できることと、実際に回収できることが別だという点です。
倒産した相手に対する損害賠償請求権は、紙の上では成立していても、現金として戻ってくるとは限りません。
契約条項を厚くしても回収可能性までは担保されないため、相手の支払能力を見ること、つまり与信管理が契約の価値を支える関係になります。
納期遅延によって顧客に負う責任も、契約と保険の隙間に落ちやすい部分です。
ここで効くのは、顧客との契約で納期遅延時の取り扱いをどう定めているか、代替品で納めることが許されるのか、どの程度の遅れまでなら解除されないのかといった、事前の取り決めです。
仕入先側の契約だけを整えても、顧客側の契約が厳しければ自社の負担は減りません。
自社を挟んだ両側の契約を同じ机の上に並べて見比べると、どちらの条件がきつく、どこで損害が自社に溜まる構造になっているかが見えてきます。
最後に、いざというときに動けるかどうかは、平時にどれだけ情報が整っているかで決まります。
どの商品をどの仕入先から仕入れ、どの契約書のどの条項が適用され、通知期限の起算点がいつで、どのロットをどの顧客へ出荷したか。
これらが別々の台帳や個人のメールに散っていると、通知の1年という期限2や、引渡しから10年という長い期間1に対応することが現実的でなくなります。
契約、保険、与信管理のどれを厚くするかを考える前に、自社の取引の記録がその判断に耐えるかを見ておく価値があります。
自社に向かってくる二つの責任は、相手も根拠も期間も違います。
どちらが問題になっている場面なのかを見分けるための手掛かりを、短く並べておきます。
責任の系統や請求の仕組みは一般的な整理ができても、実際にどちらの責任が問題になるかは、自社の商品表示や顧客との契約条件といった個別の事情で変わります。
いま扱っている商材と販売の形を前提に、自社が製造物責任を負う立場に立ちうるのか、顧客への責任がどこまで及ぶのかを一緒に切り分けられます。無料相談で要件を整理する
自社が負う2つの責任類型の整理(契約上の債務不履行責任と製造物責任法上の責任)
責任を問う相手と、責任が発生する根拠の違いで分けて並べています。
- 責任を問うてくる相手が、契約を結んだ顧客なのか、契約関係のない被害者なのかで、どちらの系統かが分かれる
- 契約上の責任は「約束した品質・数量・納期を守れたか」で判断され、製造物責任は「製造物に欠陥があったか」で判断される
- 製造物責任を負う立場になるのは、製造・加工・輸入を業として行う場合と、自社を製造業者として表示している場合や製造業者と誤認させる表示をしている場合
- 納期遅延と供給停止は、顧客との契約上の責任としては問題になるが、製造物責任法の枠組みには乗らない
- 製造物責任には、損害と賠償義務者を知った時から3年、引渡しから10年という期間の区切りがあり、契約不適合の通知は知った時から1年以内という別の期限で動く
- 仕入先へ戻せるのは契約上の請求であり、被害者に対して負う製造物責任そのものは契約で他社へ移せない
自社が製造・輸入・自社表示のいずれにも関わっていない場合は、上から二つ目までの軸で整理すると判断が早くなります。
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| どちらの責任か | 請求してきたのが契約相手の顧客なら契約上の責任、契約関係のない被害者なら製造物責任を疑う |
| 製造物責任を負う立場か | 製造・加工・輸入を業として行っているか、自社を製造業者として表示していないかで判断する |
| 仕入先へ戻せる範囲 | 契約不適合なら追完・代金減額・損害賠償・解除。範囲と上限は取引基本契約の条項が前提になる |
| 守るべき期限 | 契約不適合の通知は知った時から1年以内、製造物責任は知った時から3年・引渡しから10年 |
| 保険の受け持ち | PL保険は他人の身体・財産への賠償責任、取引信用保険は販売先からの代金回収。仕入先倒産の供給停止はどちらでもない |
| 残るリスクへの手当て | 供給停止と求償の回収不能は、仕入先の与信管理と調達先の分散で確率と影響を下げる |
契約・保険・与信管理のどれを厚くすべきかは、仕入先への依存度や受注から出荷までの記録の残り方によって答えが変わり、資料を読むだけでは決めきれない部分が残ります。 現在の仕入構成と取引の記録の持ち方を見ながら、どの損害が契約で戻せて、どこが自社に残る見込みなのか、記録の面で先に直しておくべき箇所はどこかを確かめられます。
よくある質問
仕入先が「責任はすべて仕入先が負う」と一筆入れれば、自社は免責されるのか
その一筆は、自社と仕入先の間で負担をどう分けるかを決めるものです。
顧客や、製品の欠陥で被害を受けた第三者との関係まで書き換える効力はありません。
対外的にはまず自社が対応し、そのうえで追完・代金減額・損害賠償・解除といった請求で仕入先へ戻していく構造になります2。
したがって一筆の価値は免責ではなく求償の根拠にあり、相手に支払能力があるかどうかで実際に戻る額が変わります。
仕入先との契約書に「瑕疵担保責任」という古い用語が残っている場合、どう扱えばよいか
現行民法では、引き渡された目的物の種類・品質・数量が契約の内容に適合しない場合の契約不適合責任として整理されています2。
契約書に旧来の用語が残っていても、実際に何ができるかは、その条項が追完・代金減額・損害賠償・解除のどれをどんな条件で認める書き方になっているかで読むことになります。
あわせて確認したいのが通知の期間です。
民法では不適合を知った時から1年以内の通知が必要とされており2、契約に別の定めがあればそちらが優先するため、期限とその起算点がどう書かれているかを条項ごとに見ておくと安全です。
PL保険と取引信用保険は両方に入る必要があるのか
守っている対象が違うので、必要性は自社の事業の形で判断します。
PL保険は、製品の欠陥で他人の身体や財産に損害を与えた場合の法律上の賠償責任をカバーします3。
国内取引信用保険は、取引先が代金支払債務を履行しないことによる損害、つまり自社の売掛金を守るものです4。
自社が製造・輸入・自社表示のいずれかに関わっているならPL保険の必要性が高く、特定の販売先への売掛金が大きいなら取引信用保険の検討対象になります。
どちらに入っても仕入先の倒産による供給停止そのものは埋まらないため、その部分は与信管理と調達先の分散で考えることになります。
仕入先が海外の事業者の場合、国内取引信用保険や国内のPL保険は使えるのか
国内取引信用保険は、国内の取引先が代金支払債務を履行しないことによる損害を対象とした商品です4。
もともと自社の販売先の未回収を守る保険であるため、海外の仕入先の倒産に備えるという使い方には合いません。
一方、海外から自社が輸入している場合は、輸入を業として行う者が製造物責任法上の製造業者等に当たるため1、国内で欠陥が問題になったときの責任主体は自社になります。
PL保険で備える必要性はむしろ高まる立場ですが、どの地域での事故や販売が補償対象かは保険会社ごとの約款で異なるので、加入前に適用範囲を個別に確認してください。
仕入れた部材の欠陥が原因なら、自社は製造物責任を免れられるのか
仕入れた側であることを理由に自動的に免れる仕組みにはなっていません。
製造物責任法の免責事由として挙げられているのは、引渡時の科学・技術の知見では欠陥を認識できなかったという開発危険の抗弁と、部品・原材料の製造業者がもっぱら他の製造業者の設計指示に従ったことで欠陥が生じ、かつ過失がなかった場合の抗弁です1。
後者は、指示を受けて部材を作った側のための規定であり、部材を買って使った側のものではありません。
自社が製造・加工・輸入や自社表示に関わっているなら、まず自社が責任を負う立場に立ち、そのうえで仕入先へ求償するという順序になります。
- 1 出典:消費者庁「製造物責任法の概要Q&A」(2026年確認時点)
- 2 出典:BUSINESS LAWYERS(弁護士監修)「検査・契約不適合責任条項のポイントを民法・商法を踏まえ解説」(2026年確認時点)
- 3 出典:日本損害保険協会「損害保険Q&A(からだの保険・他 問94)」(2026年確認時点)
- 4 出典:東京海上日動火災保険「国内取引信用保険 商品説明」(2026年確認時点)
- 5 出典:帝国データバンク「仕入先の与信管理〜商流確保と与信リスク〜」(2026年確認時点)
画像の出典元
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