◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 卸売業の手形・小切手は、2026年10月1日と2027年3月末という2つの期限に向けて廃止対応が進んでいます。
- 取適法(下請代金支払遅延等防止法の改正法)により手形払いはすでに禁止されており、廃止は先の話ではなく現在進行形の対応です。
- 支払側だけでなく回収側、そして受発注・基幹システムの設定変更まで含めた対応が必要です。
目次
卸売業の手形・小切手廃止対応とは
卸売業の手形・小切手廃止対応とは、2026年10月1日以降に当座勘定からの手形・小切手支払いが原則できなくなること*1、2027年度初の電子交換所での交換廃止*2、そして2026年1月1日に施行された取適法による手形払いの禁止*4に向けて、支払と回収の手段をでんさい(電子記録債権。手形に代わり電子データで債権の発生・譲渡・決済をする仕組み)やインターネットバンキングによる振込へ切り替える実務です。あわせて、取引先への案内や社内規程、受発注システムの設定も更新します。
「廃止は2027年3月末の話」と捉えている担当者は少なくありませんが、取適法によって手形払い自体はすでに禁止されています*4。自社の取引が対象範囲に該当する場合、廃止対応は将来の準備ではなく現在の法令順守の課題になります。
2026年1月・10月、2027年3月 ― 押さえるべき3つの期限
1つ目は2026年1月1日です。下請法の改正法である取適法が施行され、手形払いなど支払期日までに代金相当額満額を得ることが困難な支払手段が禁止されました*4。対象は資本金基準または従業員基準を満たす取引に限られるため、自社の取引が適用対象かどうかの確認が前提になります*4。
2つ目は2026年10月1日です。全国銀行協会は「10月1日以降は、原則として手形・小切手を用いた当座勘定からの支払いができなくなります」と案内しています*1。最終振出期限は金融機関ごとに設定されるため、原則として取引金融機関に確認のうえ準備を進める必要があります*1。
3つ目は2026年度末、すなわち2027年3月末です。銀行界は2026年度末までに電子交換所での手形・小切手の交換枚数をゼロにすることを最終目標に掲げ、2027年度初から電子交換所での交換を廃止するとしています*2*3。つまり2027年3月末が、紙の手形・小切手を電子交換所で交換できる実務上の最終期限にあたります。
当座勘定支払と電子交換所交換ができなくなる
「廃止」で実際に起こる変化は2段階です。まず2026年10月1日以降、当座勘定から手形・小切手で支払うこと自体が原則としてできなくなります*1。次いで2026年度末(2027年3月末)までに交換枚数をゼロにしたうえで、2027年度初から電子交換所を介した手形・小切手の交換そのものが廃止されます*2*3。
電子交換所システムの保守期限は2029年6月とされ、状況によって2031年6月まで延長できる仕組みになっています*2。交換廃止後に手元に残った手形・小切手は、郵送等による相対決済(個別取立等)で対応する過渡期の枠組みが用意されています*2。
金融機関相談・取引先案内・社内準備 ― 対応の3ステップ
全国銀行協会は対応の全体像として3つの段階を示しています*1。第一に取引金融機関へ相談・申込し、第二に得意先・仕入先へ切替を案内し、第三に社内の規程やシステムの導入準備を進める、という順序です。
卸売業は取引先の数が多いため、社内準備だけでなく、得意先・仕入先双方への案内に時間がかかりやすいことが特徴です。次の7項目は、期限から逆算した着手順の目安です。
卸売業がやること7項目(着手順・順位根拠:手続きの依存関係)
- 取引金融機関へ手形・小切手の取扱終了時期を確認し、代替手段への切替を申し込みます*1。
- 受取手形・支払手形の残高を洗い出し、2027年3月末の最終取立てまでのスケジュールを引きます*1。
- 得意先・仕入先へ、でんさいまたは振込への切替を案内します。
- でんさいやファクタリングへ切り替える場合も、取適法の支払期日規制に抵触しないかを確認します*5。
- 支払期日・支払サイトを、受領した日から起算して60日以内で仕入先と合意します*4。
- 当座勘定の扱い・社内規程・押印運用を見直します。
- 得意先・仕入先マスタの支払条件、締め請求・入金消込のフロー、EDI・BtoB ECとの支払手段の整合を、受発注・基幹システム側で設定します。
いま対応が必要な3つの制度変化
卸売業が向き合う制度変化は、電子交換所の交換廃止、取適法による手形払い禁止、そしてでんさいの利用実態という3つの角度から整理できます。日本貿易会や日本ボランタリーチェーン協会、大手家電流通協会といった流通・卸関連団体も、手形・小切手の電子化に向けた自主行動計画を策定しています*9。
2027年度初、電子交換所での手形・小切手交換が廃止
全国銀行協会は2025年3月、「2027年度初から電子交換所における手形・小切手の交換を廃止する」方針を公表しました*2。銀行界は自主行動計画において、2026年度末までに電子交換所での交換枚数をゼロにすることを最終目標に掲げています*3。
紙の手形・小切手の利用は長期的に減少してきました。全国銀行協会によれば、利用枚数は1979年の約4億4千万枚から2024年には1,967万枚まで減っています*1。それでも取引が残る卸売業にとっては、期限までの具体的な切替作業が必要です。
取適法で「手形払」は2026年1月1日から禁止
下請法は2026年1月1日、改正法「取適法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律)」として施行されました*4。適用対象は、製造委託等の内容と、資本金基準または従業員基準の組み合わせで定まります*4。資本金基準は取引類型により異なり(3億円超・1千万円超3億円以下等)、従業員基準は300人超または100人超です*4。すべての取引が対象になるわけではないため、自社の取引が適用対象に該当するかどうかの確認が出発点になります。
禁止行為の1つが「支払遅延」で、手形払いを支払手段として用いること自体がこれに該当します*4。委託事業者には、支払期日を受領日から起算して60日以内のできる限り短い期間で定める義務があります*4。支払遅延や減額をした場合は、年率14.6%の遅延利息を支払う義務も課されています*4。
でんさい発生記録請求は卸売業・小売業が全業種で最多
でんさいネットの統計によると、2026年7月分の発生記録請求件数は卸売業・小売業が392,182件でした*8。これは全業種合計913,644件の約42.9%にあたり、全業種区分の中で最多です*8。利用契約件数も170,929件と、全業種合計784,024件の中で大きな比重を占めています*8。なお同統計の発生記録請求は、債務者が登録した業種区分に計上されます*8。つまり卸売業・小売業は、でんさいを「支払う側」として使う区分として全業種で最も多いことを示しています。
卸売業は取引先数が多く、支払と回収の両方で手形を使う「両建て」の企業が少なくありません。でんさいの利用がすでに広がっている点は、切替の実務負担を考えるうえで参考になる材料です。
期限から逆算する対応スケジュール
2026年10月1日まで ― 金融機関への申込みと当座勘定の扱い
まず取引金融機関へ、当座勘定からの手形・小切手支払いの取扱終了時期を確認します。金融機関ごとに設定される最終振出期限を把握し、原則として期限前にでんさいや振込への切替申込みを終えることが求められます*1。
この段階で押さえる必要があるのは、支払手段だけではありません。当座勘定を使った他の決済(配当金・小切手による経費精算等)がある場合、それらの扱いも合わせて確認しておくと後戻りが少なくなります。
2027年3月末まで ― 受取手形の残高整理と最終取立て
受取手形については、残高を一覧化し、満期日ごとに最終取立てまでのスケジュールを管理します。電子交換所での交換は2026年度末(2027年3月末)をもって終了し、2027年度初から廃止されるため、それ以降に満期を迎える手形が残らないよう、早い段階での洗い出しが実務上の起点になります*1。
取適法の禁止行為に該当すると、遅延した日数や減じた額に応じて年率14.6%の遅延利息を支払う義務が生じます*4。切替の遅れは事務負担にとどまらず、こうした金銭的な負担につながる点も踏まえておく必要があります。
間に合わない場合は郵送等による相対決済に切り替わる
交換廃止後も、過渡期の枠組みとして郵送等による相対決済(個別取立等)が用意されています*2。ただし、電子交換所を介した従来の効率的な処理ではなくなるため、事務負担は増えると見込まれます。切替を先送りするほど、この個別対応に頼る期間は長くなりがちです。
自社の期限を自社の取引条件に当てはめて確認するには、無料相談で要件を整理する方法もあります。取引先数が多い卸売業ほど、早い段階での棚卸しが後工程の負担を減らします。
でんさいと振込 ― 取適法に抵触しない選び方
でんさい(電子記録債権)は手形に近い運用のまま電子化できる
でんさいは、手形と同様に発生記録・譲渡記録という形で債権を管理できる仕組みです。既存の手形発行フローに近い形で電子化でき、金融機関とのでんさい契約と社内規程の見直しが中心になります*1。
インターネットバンキング振込は支払条件の再設計が必要
振込は最も単純な方法ですが、支払サイトや請求書処理の運用を含めた条件の再設計が伴います。振込手数料を中小受託事業者に負担させ、製造委託等代金から差し引くことは「減額」に該当し、取適法違反になります*5。
でんさい・ファクタリングでも支払遅延に該当する場合がある
公正取引委員会は、電子記録債権やファクタリングを利用する場合であっても支払遅延に該当し得ると明示しています*5。支払期日(最長で受領日から起算して60日以内)までに代金満額相当の現金を得ることが困難な場合が対象です*5。でんさいへ切り替えれば自動的に適法になるわけではなく、支払期日までに満額の現金を受け取れるかどうかが判断基準になります。
| 比較軸 | でんさい(電子記録債権) | インターネットバンキング振込 |
|---|---|---|
| 切替の負担 | 既存の手形発行フローに近い形で電子化できます。 金融機関とのでんさい契約と社内規程の見直しが中心です*1。 |
支払条件・請求書処理を含めた運用の再設計が必要です。 |
| 取引先の対応要否 | 相手方もでんさい利用契約を結んでいる必要があります。 | 相手方の口座情報があれば運用できます。 |
| 取適法上の留意点 | 支払期日までに代金満額相当の現金を得ることが困難な場合は違反になります*5。 | 振込手数料を中小受託事業者に負担させ代金から差し引くと「減額」に該当し違反になります*5。 |
支払側(買掛・仕入)で見直す実務
支払期日・支払サイトを仕入先と60日以内で合意する
取適法では、発注した物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間で支払期日を定める義務があります*4。中小企業庁の令和6年度調査によると、手形支払いのサイトが60日以内(「30日以内」と「60日以内」の合計)である割合は、発注側の回答(N=1,924)で37%、受注側の回答(N=6,209)で33%でした*7。これは手形払いを行っている企業を母数とした割合です。同調査では「全て現金払い」と回答した割合も示されており、発注側(N=7,083)で71%、受注側(N=26,520)で73%となっています*7。設問と母数が異なるため両者は単純には比較できませんが、手形を使い続ける場合のサイトが依然として長い傾向は読み取れます。
取適法の施行前から、公正取引委員会は令和6年11月1日以降、サイトが60日を超える手形等を交付した場合に「割引困難な手形の交付等」に該当するおそれがあるとして指導する方針を示しています*6。支払サイトの見直しは、仕入先ごとの現行条件を洗い出すところから始めます。
振込手数料の差し引きは「減額」に該当する
振込手数料を中小受託事業者との合意の有無にかかわらず負担させ、代金から差し引く行為は「減額」として禁止されています*5。振込手数料の負担ルールをどう設計するかは、慣行の是非を含めて別途整理が必要な論点であるため、本記事では取適法上の留意点として触れるにとどめました。
当座勘定・社内規程・押印運用を見直す
手形・小切手の発行を前提にした当座勘定の使い方、社内規程、押印による決裁フローは、支払手段の切替に合わせて見直しが必要です。稟議・決裁の仕組みを電子承認へ移す場合は、社内規程の改定と周知を早めに始めておくと後工程の負担が減ります。
回収側(売掛・受取手形)で進める実務
受取手形残高を洗い出し、最終取立てまで管理する
支払側の切替に意識が向きやすい一方、受取手形の残高整理を後回しにすると、2027年3月末の交換廃止に間に合わなくなるおそれがあります。満期日ごとに一覧化し、最終取立てまでのスケジュールを早期に引くことが実務の起点です*1。
取引先数の多い卸売業ほど早めの案内が必要
卸売業は取引先数が多く、一社でもでんさいや振込への切替が遅れると、その取引先との決済が滞留する可能性があります。得意先への案内文は、切替の期限・希望する決済手段・必要な手続きを明確に示し、余裕を持った時期に送付することが望まれます。
資金繰り・与信への影響を見立てる
手形を割り引いて資金を回している場合、決済手段の切替は資金繰りの前提を変えます。新規取引先との与信判断の手順まで見直す場合は、別途整理が必要になります。
受発注・基幹システムで見直す設定
手形・小切手の廃止対応は、支払手段の変更だけでは完結しません。得意先・仕入先マスタの支払条件、締め請求・入金消込のフロー、EDIやBtoB ECとの整合まで、受発注・基幹システム側の設定変更が欠かせません。
この作業を内製で行うには、金融機関との窓口対応、取引先への案内、社内規程の改定、そして受発注システムの設定変更という複数分野の知識が必要になります。取引先数やマスタの件数が多いほど、確認すべき項目も比例して増えます。
自社の経理・情報システム部門だけで対応する場合と、受発注システムの専門家に相談する場合とでは、確認にかけられる時間に差が出やすくなります。特にマスタ設定の抜け漏れや複数拠点間の整合確認は、専門知見の有無で精度が変わりやすい作業です。リスクを最小化する観点から、設定変更の範囲を早めに棚卸しする進め方もあります。
得意先・仕入先マスタの支払方法・支払条件を更新する
得意先・仕入先マスタに登録されている支払方法(手形・小切手・振込・でんさい等)と支払条件を、切替後の内容に更新します。マスタが取引先ごとに分散管理されている場合は、更新漏れを防ぐための棚卸しが必要です。
締め請求・入金消込のフローを変更する
支払手段が変わると、締め請求のタイミングや入金消込の突合方法にも影響します。手形の期日管理を前提にしていた業務フローは、振込・でんさいの入金サイクルに合わせて組み直す必要があります。
EDI・BtoB ECとの支払手段整合を確認する
EDI(Electronic Data Interchange。企業間で受発注データを電子的にやり取りする仕組み)やBtoB ECを併用している場合、受注チャネルごとに支払手段の設定が異なっていないかを確認します。チャネル間で支払条件がずれていると、消込の突合作業が煩雑になりやすいでしょう。
まとめ:手形・小切手廃止対応の3つの判断軸
本稿では、卸売業が手形・小切手の廃止に対応するための期限・制度・実務を整理しました。要点は3つに集約できます。第一に、期限は2026年1月1日・2026年10月1日・2027年3月末の3段階であり、取適法による手形払い禁止はすでに始まっています*4。第二に、でんさいや振込への切替は支払期日までに代金満額相当の現金を得られるかどうかが判断基準であり、手段を変えれば自動的に適法になるわけではありません*5。第三に、対応は支払側・回収側・受発注システムの3方向に及ぶため、着手順を決めたうえで進める必要があります。
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
よくある質問
小切手はいつまで使えますか。
まず2026年10月1日以降、当座勘定からの小切手による支払いが原則としてできなくなります*1。電子交換所での交換は2026年度末(2027年3月末)までに枚数をゼロにしたうえで、2027年度初に廃止されます*2*3。最終振出期限は金融機関ごとに設定されるため、原則として取引金融機関に確認のうえ切替を進める必要があります*1。
期限を過ぎて手元に残った受取手形はどうなりますか。
電子交換所での交換廃止後は、郵送等による相対決済(個別取立等)で対応することになります*2。受取手形の残高は早めに洗い出し、最終取立てまでのスケジュールを引いておくことが望まれます。
でんさいに切り替えれば取適法上は問題ありませんか。
でんさいへ切り替えても、支払期日までに代金満額相当の現金を得ることが困難な場合は違反になります*5。取適法は決済手段の名称ではなく、支払期日までに満額の現金を受け取れるかどうかを問題にしています。
取引先がでんさいに対応していない場合はどうすればよいですか。
でんさいは相手方もでんさい利用契約を結ぶ必要があるため、対応していない取引先にはインターネットバンキングによる振込を案内する方法があります。取適法上は、いずれの手段でも支払期日までに代金満額相当の現金を受け取れることが条件になります*5。
- *1 出典:一般社団法人全国銀行協会「紙の手形・小切手利用廃止へ」(特設ページ)https://www.zenginkyo.or.jp/tegata-kogitte-haishi/
- *2 出典:一般社団法人全国銀行協会「手形・小切手の電子化に関する中間的な評価を踏まえた抜本的な取組み等について」(2025年3月26日)https://www.zenginkyo.or.jp/news/2025/n032601/
- *3 出典:金融庁「手形・小切手機能の全面的な電子化について」https://www.fsa.go.jp/policy/tegatakogitte/tegatakogitte.html
- *4 出典:公正取引委員会「取適法リーフレットNo.01」(令和7年8月)https://www.jftc.go.jp/file/toriteki_leaflet.pdf
- *5 出典:公正取引委員会「トリテキ法の確認ポイントー代金編ー」(令和7年10月)https://www.jftc.go.jp/toriteki_pointleaflet2.pdf
- *6 出典:公正取引委員会「(令和6年10月1日)手形等のサイトの短縮について」https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/oct/241001_tegata.html
- *7 出典:中小企業庁「令和6年度 取引条件改善状況調査/自主行動計画フォローアップ調査」(令和7年3月)https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/2025/250327chousa.pdf
- *8 出典:株式会社全銀電子債権ネットワーク「業種別請求等取扱高」統計情報(2026年7月分)https://www.densai.net/stat/
- *9 出典:中小企業庁「自主行動計画(一覧)」https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/koudoukeikaku.html
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- 机の上に置かれた書式と万年筆。書面でのやり取りを表す/Photo by 2H Media on Unsplash
- 取適法のイメージ/Photo by 2H Media on Unsplash
- 選び方のイメージ/Photo by Brands&People on Unsplash
- 仕入のイメージ/Photo by Alberto Rodríguez on Unsplash