◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 展示会受注システムの費用対効果は、相場額ではなく、自社の転記・確認の時間、失注の件数と粗利、年間の出展回数を計算式に入れて判断する
- 計算に入れるのは今かかっている時間ではなく、導入後も残る入力・確認を差し引いた「減る時間」で、失注は売上ではなく粗利で数える
- 補助金(2026年はデジタル化・AI導入補助金)は登録ITツールが対象で、交付決定前の契約・支払いは原則対象外のため、契約より先に手続きを進める
- 効果が費用に届かず、受けた人が返信まで回せているならExcelの運用改善で足りるが、転記そのものが損の中心なら運用改善では届かない
- 導入する場合も1回の展示会・受付の工程だけで試し、見込みと実際の時間・件数を比べて続けるかを決める
目次

展示会の注文処理で、手作業のままだとどこに損が出るか
展示会から戻ると、受注票に書いた注文や、名刺の裏にメモした見積依頼が机に積まれます。
Excelへの転記と在庫・納期の確認に追われて、来場者への返信が遅れがちです。
展示会受注システムを入れれば楽になりそうでも、小規模な自社で費用を払って元が取れるのかは分かりにくいものです。
判断の材料になるのは、他社の相場額ではありません。
自社の転記時間、ミスや取りこぼしの件数、年間の出展回数です。
これらを計算式に入れれば、導入とExcelの運用改善のどちらが合うかが見えてきます。
補助金を使うなら、契約より先に手続きを始めることも欠かせません。
会場での受付から返信までの工程
展示会の注文処理は、会場で注文や見積依頼を受け付けた時点では終わりません。
受付の内容を記録し、帰社後に社内の台帳やExcelへ転記し、在庫と納期を確かめてから、来場者へ回答や見積書を返すところまでが一続きの仕事です。
手作業で回している会社では、この流れのどこかで同じ情報を何度も書き写しています。
たとえば会場で、来場者から商品の注文を口頭で受け、出展担当者が受注票に品番と数量を書き込んだとします。
来場者の連絡先は名刺で受け取り、受注票とは別にクリップで留めておきます。
帰社後、事務担当の社員が受注票と名刺を見ながらExcelへ入力し、在庫を倉庫担当に問い合わせ、納期が分かってから来場者へメールで回答します。
この仮の流れだけでも、同じ注文が受注票、Excel、メールの三つに書かれています。
システム化を考えるときは、まずこの工程を自社の言葉で書き出すところから始まります。
どの工程を楽にしたいのかが決まらないまま製品を比べると、使わない機能に費用を払うことになりやすいからです。
受付から回答までを一枚の紙に並べ、それぞれの工程を誰が担当しているかを書き添えるだけでも、情報がどこで人の手を渡っているかが見えてきます。
転記・在庫確認・納期回答で起きること
手作業で損が出やすいのは、情報が人の手から手へ渡る場面です。
会場では来場者と話しながら書くため、字が読みにくい、品番の桁が抜ける、数量の単位が書かれていないといった記録の欠けが起こりえます。
帰社後の転記でその欠けに気づいても、書いた本人に聞き直す手間がかかり、聞き直している間に返信が遅れます。
出展担当者が別の展示会や営業に出ていれば、確認だけで数日待つこともあるでしょう。
在庫と納期の確認も、展示会のあとにまとめて発生します。
会期中に受けた注文が帰社後に一度に届くため、倉庫や仕入先への問い合わせが重なり、回答を待つ注文が積み上がります。
来場者の側から見れば、会場では話が進んだのに、その後何日も連絡がない状態です。
その間に他社へ注文が移れば、その注文で得られたはずの粗利がまるごと失われます。
もう一つ見落としやすいのが、見積依頼や問い合わせの取りこぼしです。
注文は受注票に残っても、「あとで見積もりを送ってほしい」という依頼は名刺のメモや担当者の記憶にしか残らないことがあります。
返信の漏れは、件数として表に出にくいぶん、損として数えられないまま続きます。
ここで挙げた損は、どの会社でも同じ大きさで起きるわけではありません。
注文の件数が少なく、会場で受け付けた人がそのまま転記と回答まで担当している会社なら、渡し忘れや聞き直しはほとんど起きないでしょう。
逆に、会場で受ける人と帰社後に処理する人が分かれていると、受け渡しの回数だけ確認が増えます。
同じ「手作業」でも、損がどの工程に偏っているかは会社ごとに違うということです。
自社の数字を数える項目
元が取れるかどうかは、損の大きさを自社の数字で表せるかで決まります。
他社の導入効果や一般的な平均値を当てはめても、自社の件数や作業時間とは合いません。
直近の展示会の記録を振り返るか、次の展示会で実際に測るのが確実です。
時間は、作業した人ごとに記録するのが望ましい方法です。
転記を担当した事務の社員と、在庫を確かめた倉庫担当の時間を合算しないと、手作業の負担を小さく見積もってしまいます。
会場で受注票を書いていた時間は、システムを入れても入力の時間として残るため、帰社後の作業とは分けて記録しておくと後の計算が正確になります。
返信漏れや失注の件数は、正確には分からないことも多いでしょう。
その場合は、分かる範囲で「少なくとも何件」と下限を置いておけば、計算に使えます。
多めに見積もった件数で導入を決めると、導入後に効果が足りないと感じる原因になるため、控えめな数字から始めるほうが判断を誤りにくくなります。
ここで数えた項目は、次の手段の比較でも、その後の費用対効果の計算でもそのまま使います。
▼ 図の内容を文字で読む
- 会場で注文・見積依頼を受け付ける
- 受注票や名刺のメモに記録する
- 帰社後にExcelや台帳へ転記する
- 在庫と納期を確かめる
- 来場者へ回答・見積書を送る
▼ 図の内容を文字で読む
- 1回の受付件数(注文と見積依頼を分けて数える)
- 帰社後の転記にかかった時間
- 在庫と納期の確認にかかった時間
- 聞き直しや修正が必要になった件数
- 返信が漏れた件数と、遅れて失注した件数
- 年間の出展回数
小規模事業者が選べる手段と、費用・運用負担の比べ方
4つの手段の比較表
前の節で書き出した工程に対して、取りうる手段は大きく四つあります。
Excelの使い方を改める方法、既製のクラウドサービスを使う方法、すでに使っている販売管理システムに入力の入り口を足す方法、自社向けに個別開発する方法です。
どれか一つが正解というわけではなく、同じ物差しで並べたうえで、自社の困りごとを解ける手段のうち負担が最も軽いものを選ぶことになります。
表の金額欄がほとんど「見積もりを取る」になっているのは、展示会の受注に使うシステムの料金を相場として示せる確かな数字がないためです。
インターネット上には受注管理システムの料金目安も出ていますが、ネット通販の出荷管理や、企業間の継続的な受発注を想定したものが多く、展示会の受注とは使い方も規模も違います。
他の用途の目安額を当てはめて予算を決めるより、候補の提供元から自社の条件で見積もりを取り、年額に揃えて並べるほうが判断を誤りません。
判断が分かれやすいのは、表の下の二行、会場での使いやすさと後工程との連携です。
帰社後の転記がいちばんの負担になっている会社では、会場で端末に入力したデータが、そのまま注文を処理する場所まで届くかどうかが効果を左右します。
クラウドサービスに入力しても、そのデータを販売管理へもう一度打ち直すのであれば、転記はなくならず、場所が移っただけになります。
同じことは在庫の確認にも言えます。
会場で端末に注文を入力できることと、その場で在庫や納期を確かめられることは別の話です。
在庫を確かめるには、社内の在庫データがそのサービスとつながっている必要があります。
「会場で在庫を見たい」という目的があるなら、在庫データをどこから、どのくらいの間隔で取り込むのかを提供元に確かめる必要があります。
Excelの運用改善は費用の面では最も軽く済みますが、転記そのものは残ります。
減らせるのは、記録の欠けによる聞き直しや、返信漏れの見落としです。
個別開発は、自社の工程に合わせて作れる一方、工程を変えるたびに改修の費用と時間がかかります。
展示会での受け方がまだ固まっていない段階では、その負担が重くなりやすい点を考えておく必要があります。
見積もりを取るときに聞く項目
見積もりを依頼するときは、総額だけでなく、何が含まれていて何が含まれていないかを聞いておくと、次の節の計算に入れる数字がそろいます。
候補ごとに次の項目を同じ表に書き込んでいくと、比べやすくなります。
・初期費用に含まれる作業の範囲(初期設定、既存データの移行、操作の説明)
・料金は月額か年額か、最低契約期間はどのくらいか、展示会の会期だけ使う契約があるか
・利用者の人数や受注件数で料金が変わるか
・会場で通信が切れたときに入力できるか、通信が戻ったあとにデータがどう扱われるか
・既存の販売管理や会計へデータを渡す方法(ファイルの出力、取り込み、直接の連携)
・補助金の登録ITツールになっているか、提供元がIT導入支援事業者として登録されているか
利用者の人数で料金が変わる契約では、会場に立つ人全員を利用者として登録すると、そのぶん費用が膨らみます。
会期中だけ応援に入る社員がいる場合は、入力を担当する人を絞れるか、一時的な利用者の扱いがあるかも聞いておくとよいでしょう。
最後の項目は、補助金を使うかどうかで重みが変わります。
補助の対象になるかどうかで自己負担が大きく変わることがあるため、候補を絞り込む前の段階で確かめておくと、あとで比較をやり直さずに済みます。
| 比べる軸 | Excelの運用改善 | 既製クラウドサービス | 既存の販売管理への連携 | 個別開発 |
|---|---|---|---|---|
| 初期費用 | 様式づくりの社内作業が中心 | 提供元に見積もりを取る | 既存の提供元に見積もりを取る | 開発会社に見積もりを取る |
| 年額の費用 | 既に使っている表計算ソフトの範囲 | 提供元に見積もりを取る(月額は12倍して比べる) | 追加の利用料を提供元に見積もりを取る | 保守費を見積もりに含めてもらう |
| 運用担当者の負担 | 様式とルールの維持を社内で担う | 初期設定と入力担当の習熟 | 既存システムの担当者が対応 | 改修の依頼先を確保する |
| 会場での使いやすさ(オフライン含む) | 紙や端末で入力し同時編集は共有方法しだい | 通信が切れたときの動きを提供元に確認 | 社外から入力できるかを提供元に確認 | 要件として指定する |
| 後工程との連携 | 販売管理への転記が残る | データの出力・取込の方法を提供元に確認 | 受注後の処理と同じ仕組みで続けやすい | 要件として指定する |
展示会受注システムの費用の内訳と、費用対効果の計算のしかた
費用の内訳
見積書に載る金額だけを費用と考えると、導入後に思わぬ負担が出ます。
展示会の受注に使うシステムの費用は、少なくとも次の五つに分けて見ておくと漏れが減ります。
このうち後半の二つは、提供元の請求書には出てこない社内の費用です。
入力担当が操作を覚えるまでの時間は、その人の時給に換算して費用に加えます。
会場で使う端末を新たに買う場合や、会場の通信が不安定で回線を用意する場合も、システム本体とは別に見積もりに入れておきます。
導入作業のうち、受注票の様式を作り直す作業や、既存の顧客リストを整える作業は社内で行うことも多く、その時間も同じように換算します。
補助金を使う場合は、対象になる経費の範囲が決まっています。
デジタル化・AI導入補助金2026(旧IT導入補助金)の通常枠では、ソフトウェア購入費、クラウド利用料(最大2年分)、導入関連費などが対象経費とされています2。
社内の習熟時間や、会場で使う端末・通信の費用を補助で賄えると見込んで計算するのは避け、自己負担として数えておくほうが安全です。
クラウド利用料が対象になるのは最大2年分のため、3年目以降の利用料はこの補助では賄われない点も、長く使う前提なら計算に入れておきます。
効果の見方と計算式
効果は、減る作業時間と、防げる取りこぼしの二つに分けて考えます。
前の節で数えた項目を使うと、次のように計算できます。
・1回の展示会で減る時間の価値=(減る転記時間+減る確認時間)×時給換算額
・1回の展示会で防げる損失=防げる返信漏れ・失注の件数×1件あたりの粗利
・年間の効果=(上の二つの合計)×年間の出展回数
・年間の費用=年額の利用料+(初期費用+導入作業)÷使う予定の年数+習熟と周辺費用
年間の効果が年間の費用を上回れば、元が取れる見込みがあると考えられます。
計算式そのものは単純ですが、入れる数字の選び方で結果が大きく変わるため、三つの点に気をつけます。
一つ目は、入れるのは「今かかっている時間」ではなく「減る時間」だということです。
システムを入れても、会場で注文を入力する時間や、入力内容を確かめる時間は残ります。
会場での入力が受注票への手書きより時間がかかれば、そのぶん効果は小さくなります。
今の転記と確認にかかる時間から、導入後も残る入力と確認の時間を差し引いた残りが、減る時間です。
二つ目は、失注の損失を売上ではなく粗利で数えることです。
注文を一件逃したときに失うのは、その売上から仕入や製造の原価を引いた分です。
売上で数えると効果を大きく見積もりすぎ、導入後に「思ったほど回収できない」と感じる原因になります。
三つ目は、初期費用を何年で割るかです。
長く使う前提で年数を大きくすると、年間の費用は小さく見えます。
展示会での受け方や取扱商品が数年で変わりそうなら、短めの年数で割っておくと、途中で使わなくなった場合の損を抑えた判断になります。
出展回数による分かれ目
年間契約の利用料は、展示会に何回出ても大きくは変わらないことが多い費用です。
一方で効果は、出展するたびに積み上がります。
このため、出展回数が少ない会社ほど、同じシステムでも元が取りにくくなります。
この関係は、計算式を並べ替えると分かりやすくなります。
年間の費用を1回の展示会あたりの効果で割ると、元を取るのに必要な出展回数が出ます。
自社の年間の出展回数がその回数を上回っていれば、導入を前向きに考えてよい目安になります。
仮に、1回の展示会あたりの効果が年間の費用の4分の1だったとします。
この場合、年に4回以上出展すれば計算上は元が取れ、年2回なら費用の半分しか回収できません。
年2回の会社でも、会期だけ使える契約があれば費用が出展回数に比例するため、1回ごとの効果と1回ごとの費用を比べる判断に変わります。
そうした契約があるかどうかは提供元によって違うため、前の節で挙げた見積もりの項目で確かめておきます。
展示会以外の受注にも同じシステムを使う予定があるなら、その分の効果を加えて計算することもできます。
ただし、実際に使うかどうか決まっていない用途まで効果に入れると、判断が甘くなります。
まずは展示会の受注だけで計算し、他の用途は「使えば上乗せになる分」として別に置いておくと、判断の根拠がぶれません。
補助金を使う場合の自己負担は、補助の対象になる経費に補助率を掛けた分を差し引き、対象外の費用を足して求めます。
補助率が2分の1なら、対象経費の半分が自己負担として残ります2。
補助は申請すれば必ず受けられるものではないため、補助がある場合とない場合の両方で計算しておくと、結果を待つ間も判断を進められます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 初期費用
- 月額または年額の利用料
- 導入作業(設定、既存データの移行、受注票の様式の作り直し)
- 入力担当の習熟にかかる時間
- 周辺費用(会場で使う端末、通信回線)
▼ 図の内容を文字で読む
- 減る時間×時給換算額
- 防げる失注件数×1件あたりの粗利
- 2つの合計×年間の出展回数=年間の効果
- 年間の効果と年間の費用を比べる
補助金で実質負担を下げられるか:対象者と手続きの順序
対象になる事業者
ITツールの導入費用を支える代表的な制度がIT導入補助金で、2026年は「デジタル化・AI導入補助金」の名称で実施されています2。
中小企業・小規模事業者等を対象とした制度のため、自社がその規模に当たるかどうかが最初の確認点になります。
会社の規模を考えるときの基本になるのが、中小企業基本法第2条の定義です。
同条は、中小企業者を、資本金や出資の総額、常時使用する従業員の数によって業種別に定めています1。
小規模企業者については、おおむね常時使用する従業員が20人以下、商業またはサービス業を主な事業とする場合は5人以下の事業者とされています1。
商業やサービス業で従業員が5人以下の会社、製造業などで20人以下の会社なら、小規模企業者の範囲に入ります。
ただし、補助金のような個別の制度では、法律の定義とは別に、申請できる事業者の要件が置かれていることがあります。
申請できるかどうかは法律の定義だけで決めず、公募要領の対象者の条件と照らし合わせて判断します。
対象経費と補助率・補助額
2026年の通常枠の補助額は、5万円以上150万円未満と、150万円以上450万円以下の二つの区分に分かれています2。
補助率は原則2分の1以内で、賃金に関する要件を満たす場合は3分の2以内になります2。
対象経費は、前の節で触れたとおり、ソフトウェア購入費、クラウド利用料(最大2年分)、導入関連費などです2。
補助額に下限があることは、小さく始めたい会社にとって見落としやすい点です。
補助率が2分の1なら、補助額が5万円に届くには、対象経費が少なくとも10万円必要になります。
小さな既製サービスを短い期間だけ使う計画では、対象経費がこの水準に届かず、補助金を使う前提そのものが成り立たないことがあります。
その場合は補助金を当てにせず、前の節の計算を補助なしで行うほうが現実的です。
申請枠には、通常枠のほかにインボイス枠、セキュリティ対策推進枠などがあり3、枠ごとに条件が異なります。
ここで挙げた補助額と補助率は通常枠のものなので、別の枠で申請する場合は、その枠の条件で計算し直す必要があります。
もう一つの大きな条件が、ツールと支援事業者の登録です。
この補助金では、IT導入支援事業者と、その事業者が扱うITツールが事前に事務局へ登録されていることが必須とされています3。
どれほど自社に合うサービスでも、登録されていなければ補助の対象にはなりません。
展示会の受注に使いたいサービスが登録ITツールに含まれているかは、公式サイトの情報と提供元への問い合わせの両方で確かめておく必要があります。
契約前に済ませる手続き
補助金を使う場合に最も避けたいのは、先に契約してしまうことです。
交付決定の前に契約・発注・購入・支払いを行った経費は、原則として補助の対象外になります2。
次の展示会に間に合わせようとして先に申し込むと、その費用は補助を受けられなくなるおそれがあります。
例外があるかどうかは、公募要領で確かめます。
申請には、GビズIDプライム(行政の電子申請に使う事業者向けのアカウント)の取得、SECURITY ACTION(情報セキュリティ対策に取り組むことを自ら宣言する制度)の自己宣言、事務局に登録されたIT導入支援事業者との連携が必要です2。
これらを済ませてから交付申請を行い、交付決定を受けてから契約と支払いに進む、という順序になります。
この順序を展示会の日程と重ねると、使えるかどうかの見通しが立ちます。
2026年の交付申請の受付はすでに始まっており、2次以降の締切は公式サイトの事業スケジュールで示されています3。
次の展示会の日から逆算して、交付決定を待ってから契約し、入力担当が練習する時間まで取れるかを確かめます。
間に合わない場合は、次の展示会はExcelの運用改善で乗り切り、その次の展示会に向けて補助金を申請する、という分け方もできます。
ここで挙げた補助額や要件は、2026年の通常枠についてのものです。
公募の回や締切は年度ごとに変わり、この記事を読む時点で受付が終わっている場合もあります。
申請を決める前に、最新の公募要領と事業スケジュールで条件を確かめてください。
▼ 図の内容を文字で読む
- GビズIDプライムを取得する
- SECURITY ACTIONを自己宣言する
- IT導入支援事業者と登録ITツールを選ぶ
- 交付申請を行う
- 交付決定を受ける
- 契約・支払いに進む
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構(J-Net21)「デジタル化・AI導入補助金2026(旧IT導入補助金)の概要」、中小企業基盤整備機構「デジタル化・AI導入補助金2026 公式サイト」(2026年の通常枠)
Excelや既存ツールで済ませてよいのはどんな場合か
運用改善で足りる条件
費用対効果を計算して、年間の効果が年間の費用に届かなかった場合、Excelの運用改善で済ませるのは十分に合理的な選択です。
とくに、年間の転記時間と聞き直しの件数が小さく、出展が年に数回で、会場で受けた人がそのまま在庫確認と返信まで回せている会社では、システムを入れても減る作業がわずかにとどまります。
運用改善で変わるのは、主に記録の欠けと返信漏れです。
受注票の項目をExcelの列と同じ並びにそろえると、帰社後の転記が「受注票の中から探して写す」作業から「上から順に打ち込む」作業に変わります。
品番、数量、単位、希望納期、連絡先を必須の欄にしておけば、会場で書き漏らしたときにその場で気づけるため、帰社後の聞き直しが減ります。
注文と見積依頼を同じ表で管理し、「注文」「見積依頼」の区分と「回答済み」の欄を設けるのも効果があります。
名刺のメモにしか残っていなかった見積依頼が表の一行になり、回答していない行が一目で分かるようになるからです。
前の節で触れた、件数として表に出にくい取りこぼしを、数えられる形に変える工夫ともいえます。
共有の仕方も決めておく必要があります。
同じファイルを複数の人が別々にコピーして編集すると、どれが最新か分からなくなり、二重登録や上書きが起きます。
受注の表は一つのファイルにまとめ、誰が入力し、誰が更新するかを決めておきます。
この表には来場者の氏名や連絡先が入るため、誰が閲覧でき、誰が編集できるかの範囲も決めておきます。
個人情報の取扱いとして社内でどこまでの管理が必要かは、別に確認しておく項目です。
一方で、Excelの運用改善では転記そのものはなくなりません。
前の節の計算で、効果の大部分が「減る転記時間」から来ていた会社では、運用改善だけでは損の中心に手が届かないことになります。
導入を検討するサイン
次のような状態が続いているなら、Excelの工夫だけでは補いにくく、システムの導入を検討する側に寄せて考えたほうがよいでしょう。
・会期中や帰社後に、複数の人が同じ表へ同時に入力する必要がある
・会場で在庫や納期を確かめてから注文を受けたい
・帰社後の転記が他の業務を圧迫し、来場者への返信が数日単位で遅れている
・共有したExcelで上書きや二重登録が起きている
・展示会で受けた注文を、販売管理へもう一度入力している
一つ目と四つ目は、ファイルを共有する仕組みそのものの限界に近いものです。
入力する人が増えるほど、誰がどの行を触ったかを追う手間が増え、ルールで防ぐのが難しくなります。
二つ目は、Excelが社内の在庫データとつながっていない限り、会場では解決できません。
システムを入れる場合も、在庫データとつながる仕組みがあって初めて実現するため、前の節で触れたとおり、在庫データの取り込み方を提供元に確かめる必要があります。
三つ目と五つ目は、転記の時間と回数そのものが損になっている状態です。
ここに当てはまる会社は、費用対効果の計算で「減る時間」が大きく出やすく、導入で元が取れる見込みも立てやすくなります。
ただし、会場で入力したデータが販売管理へ届かない手段を選ぶと、五つ目の二重入力は残ります。
サインが一つだけ当てはまる場合は、その工程に絞って手段を選ぶほうが、費用を抑えられます。
全部の工程を一度に変えようとすると、導入作業も習熟も大きくなり、計算した効果が出る前に現場が混乱しかねません。
どの工程から手を付けるかが決まれば、次は小さく試す段階に進めます。
小さく始める手順と、展示会前に確認すること
1回の展示会・1工程で試す
システムを使うと決めた場合も、最初から年間契約で全工程を切り替える必要はありません。
最初は1回の展示会で、注文と見積依頼の受付という1つの工程に絞って試すと、効果を測りやすく、合わなかったときの損も小さく抑えられます。
受付に絞るのは、展示会の受注で情報が最初に生まれる工程であり、ここが変われば帰社後の転記と聞き直しにも影響が及ぶからです。
試せる形があるかどうかは、提供元によって違います。
無料の試用期間や、利用者数を絞った小さなプランがあるか、その期間や使える機能はどうかを、契約前に提供元に確かめます。
試用では使えない機能がある場合、その機能に頼る工程は試しの範囲から外して考えます。
補助金の申請を考えている場合は、試用の申込みが契約や発注に当たらないかも、提供元と公募要領で事前に確かめておくと安心です。
試す前には、費用対効果の計算で見込んだ「減る時間」と「防げる件数」を書き留めておきます。
見込みを書かずに試すと、展示会が終わったあとに「便利だった」「使いにくかった」という感想しか残らず、続けるかどうかを数字で判断できなくなるからです。
会場・担当者・データ連携の確認
展示会の当日に慌てないために、次の順に準備を進めます。
1. 会場の通信を確かめる:出展する会場やブースで通信が使えるかを主催者や会場の案内で調べ、通信が切れたときの動きを提供元に確かめる
2. 予備の受注票を用意する:システムと同じ項目を並べた紙の受注票を用意し、通信が戻らないときに使えるようにする
3. 入力担当者が練習する:実際の商品の品番と数量で入力を練習し、来場者と話しながら入力できるかを確かめる
4. データの渡し方を決める:受け付けたデータを、誰が、いつ、どの形で販売管理や会計へ渡すかを決める
5. 補助金を使う場合は手続きの順序を守る:交付決定を受けてから契約する
通信の確認を最初に置くのは、展示会の会場では来場者や出展者が多く、普段と同じように通信できるとは限らないからです。
通信が切れたときに入力できないサービスで、紙の予備もなければ、その時間に受けた注文は記録が欠けたまま帰社後の作業に回ります。
予備の受注票の項目をシステムと同じにしておけば、あとで入力するときも項目を探す手間がかかりません。
入力担当者の練習は、費用対効果の計算にも関わります。
会場で入力に手間取ると、来場者を待たせるうえ、受注票に書くより時間がかかり、計算で見込んだ「減る時間」が小さくなります。
応援で入る社員も含めて、会期より前に一度は触っておく時間を取ります。
データの渡し方を決めておかないと、会場で入力したデータが帰社後にそのまま放置されたり、結局Excelに写し直されたりします。
システムに入れたデータを販売管理へ取り込むのか、手で入力し直すのかによって、減る転記の量は大きく変わります。
手で入力し直す場合は、その時間を「導入後も残る時間」として計算に入れておきます。
展示会後の見直し
展示会が終わったら、試す前に書き留めた見込みと、実際の時間・件数を比べます。
比べるのは、帰社後の転記と確認にかかった時間、聞き直しや修正の件数、返信が漏れた件数、そして会場で入力にかかった時間です。
見込みどおりに時間が減っていれば、年間の出展回数を掛けた計算で年間契約に切り替えるか、在庫確認など次の工程へ広げるかを検討できます。
効果が一部の工程にしか出なかった場合は、どこで時間が残ったのかを確かめます。
会場での入力に時間がかかったのか、帰社後に販売管理へ写し直す作業が残ったのかで、次に手を打つ場所が変わります。
見込みより効果が小さかった場合も、すぐに失敗と決める必要はありません。
入力担当者が初めて使ったことによる手間なのか、選んだ工程や手段が自社に合っていなかったのかを分けて考えます。
前者なら、2回目の展示会で改めて測る価値があります。
後者なら、Excelの運用改善に戻るという判断も、試した結果として十分に意味のある結論です。
展示会のたびにこの見直しを繰り返すと、自社の数字がたまり、費用対効果の計算は回を重ねるごとに確かなものになります。
最初の判断で迷ったときほど、小さく試して測るという順序が、費用をかけすぎないための支えになります。
▼ 図の内容を文字で読む
- 試す前
- 減る時間と防げる件数の見込みを書く
- 入力担当者が練習する
- 展示会
- 受付の工程だけをシステムで行う
- 通信が切れたら予備の受注票を使う
- 帰社後
- 転記と確認の時間を記録する
- 聞き直しと返信漏れの件数を数える
- 見直し
- 見込みと実際を比べる
- 続けるか・広げるか・戻すかを決める
工程を書き出して数字を集めても、どの工程の損が大きいのか、どの手段なら転記が本当に減るのかは、自社の中だけでは判断しにくいことがあります。
書き出した工程と件数をもとに、どの工程から手段を試すか、見積もりで提供元に何を聞くべきかを一緒に整理できます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 損の数え方 | 受付から回答までの工程ごとに、転記・確認の時間と、聞き直し・返信漏れ・失注の件数を数える |
| 手段の比べ方 | 4つの手段を年額に揃え、会場での使いやすさと後工程との連携の違いを重視して比べる |
| 元が取れる目安 | (減る時間×時給+防げる失注×粗利)×出展回数が、年間の費用を上回るか |
| 補助金 | 2026年の通常枠は補助率原則2分の1以内、補助額5万円以上。登録ITツールが対象で、交付決定前の契約は原則対象外 |
| Excelで足りる場合 | 効果が費用に届かず、受けた人が返信まで回せている。転記そのものが損の中心なら運用改善では届かない |
| 始め方 | 1回の展示会・受付の工程だけで試し、見込みと実際を比べて続けるかを決める |
費用対効果の計算、補助金の手続きの順序、展示会の日程を一度に組み合わせて考えるのは、通常業務と並行すると手が回りにくいものです。 次の展示会の日程から逆算して、試す範囲、補助金を使うかどうか、展示会前に確かめる項目の順序を整理できます。
よくある質問
補助金の申請は、システムを契約したあとでもできますか
原則として、契約したあとの経費は補助の対象になりません。
デジタル化・AI導入補助金2026の通常枠では、交付決定の前に契約・発注・購入・支払いを行った経費は、原則として補助対象外とされています2。
すでに契約したサービスの費用を補助で賄うのは難しいため、これから別のツールを検討する場合に、交付決定を待ってから契約する順序を守ります。
例外の有無は公募要領で確かめてください。
従業員が数名の会社でも補助金の対象になりますか
対象になる可能性があります。
中小企業基本法では、小規模企業者を、おおむね常時使用する従業員が20人以下、商業またはサービス業を主な事業とする場合は5人以下の事業者としています1。
ただし補助金の申請要件は制度ごとに定められています。
法律の定義に当てはまることに加えて、公募要領の対象者の条件や、GビズIDプライム、SECURITY ACTIONなどの申請要件を満たす必要があります2。
展示会の会場で電波が弱いときは、受注入力をどうすればよいですか
まず、検討しているサービスが通信の切れた状態で入力を受け付けるか、通信が戻ったときにデータがどう扱われるかを提供元に確かめます。
そのうえで、システムと同じ項目を並べた紙の受注票を予備として用意しておくと、通信が戻らないときも記録の欠けを防げます。
紙で受けた分はあとで入力が必要になるため、受注票に番号を振っておくと、どの注文をまだ入力していないかを確かめやすくなります。
展示会ごとに契約を分けるより、年間契約のほうが得ですか
どちらが得かは、料金の形と出展回数で変わります。
利用量で料金が変わらない年間契約なら、出展が多いほど1回あたりの負担が下がります。
会期だけの契約がある場合は、1回分の費用に年間の出展回数を掛けた額と、年間契約の年額を比べると判断できます。
会期だけの契約を用意しているかは提供元によって異なるため、見積もりの段階で両方の料金を聞いておくと比較しやすくなります。
Excelで集めた注文を、あとから受注システムへ移せますか
移せるかどうかは、移行先のサービスがどのような形式のデータを取り込めるかによります。
Excelやファイルからの取り込みに対応しているか、Excelの列をサービスの項目にどう対応させるかを、提供元に確かめてください。
今のうちにExcelの列を「品番」「数量」「単位」「連絡先」のように1項目1列にそろえ、同じ意味の情報を同じ書き方で入れておくと、どのサービスへ移す場合でも整える手間が減ります。
- 1 出典:e-Gov 法令検索「中小企業基本法 第2条」(現行法令)
- 2 出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構(J-Net21)「デジタル化・AI導入補助金2026(旧IT導入補助金)の概要」(2026年)
- 3 出典:中小企業基盤整備機構(IT導入補助金事務局)「デジタル化・AI導入補助金2026 公式サイト」(2026年)