◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 得意先の稟議の読み手は審議部門と決裁者であり、書類と添付資料だけで判断できるように書く
- 決裁権限は金額や格付で段階的に決まるため、申請額がどの段階に当たるかを起案前に確かめる
- 信用情報は内部調査・直接情報・間接情報のどれかを示し、出所と取得日を添える
- 新規・増額・減額で厚く書く点が変わり、却下が見込まれるときは代替条件を最初から添える
- 承認と登録が済むまで限度は使えないため、出荷や取引開始の予定日から日程を逆算する
目次

得意先の稟議は誰が起案し、誰が決裁するのか
得意先から取引拡大の打診を受けたときや、新しい得意先と掛取引を始めるときには、稟議書に何をどこまで書けば通るのかで迷いがちです。
差し戻されて、初回の出荷日に間に合わなくなる事態も避けたいところです。
与信管理の解説では、起案部門が調査と事前相談を経て申請し、審議部門が意見を付け、決裁者が判断する流れが示されています3。
この流れの中で起案者が変えられるのは、書類の中身と準備の順番です。
信用調査の結果、限度額と支払条件、訪問記録、リスクへの手当てをそろえます。
そのうえで案件の種類に応じて書く厚みを変えると、承認者が判断しやすい稟議書に近づきます。
起案部門・審議部門・決裁者の役割
得意先に掛けで商品を納める取引では、代金を受け取るまでの間、自社が相手に信用を与えていることになります。
この信用の上限を与信限度と呼びます。
限度を新しく設けるときや金額を変えるときには、社内で申請と承認を経ます。
リスクモンスターの与信管理講座では、その手順を次のように説明しています3。
まず営業部門が得意先を調べ、申請の前に審議部門へ事前相談をします。
そのうえで与信限度申請書を提出し、審議部門が内容を確かめて意見を付けます。
申請書は社内規程に基づいて回付され、最後に決裁者が判断します3。
承認された限度は社内システムへ登録されます。
登録が済むまでは、限度や条件を使えません3。
この流れを見ると、稟議書の読み手は二者いることが分かります。
一人は、内容を細かく確かめる審議部門です。
もう一人は、審議部門の意見を見ながら最終判断を下す決裁者です。
どちらも起案者ほど得意先の現場を知っているわけではありません。
そのため、判断は書類と添付資料に頼ることになります。
起案者が現場で見聞きしたことも、書面に書かれていなければ判断材料になりません。
もう一つ大切なのは、承認と登録が済んで初めて限度が使えるという点です。
得意先と初回の出荷日を決めてから稟議を書き始めると、事前相談、審議、回付の時間がそのまま出荷日に食い込みます。
営業担当として得意先と日程を詰める段階で、社内の承認にかかる時間も一緒に見込んでおく必要があります。
なお、同講座は与信限度申請書という書類名で説明しています。
それを稟議と呼ぶのか、審査会で決めるのかといった形式までは述べていません。
得意先の取引条件を承認する書類を社内で何と呼び、どの書式を使うかは会社ごとに違います。
以下では、得意先に関する承認を求める書類をまとめて稟議書と呼びます。
決裁権限は金額や格付で段階的に決まる
最終判断をする決裁者は、一人に決まっているとは限りません。
決裁権限は、申請する金額や得意先の格付に応じて段階的に設定するのが一般的とされています3。
格付とは、得意先の信用力を段階で表した評価のことです。
後の節で触れる信用調査の結果から決まります。
段階があるということは、申請の中身によって回付先が変わるということです。
たとえば既存の得意先の限度を少しだけ上げるつもりでも、増額後の金額が上の段階に入れば、それまでより上位の決裁者が判断することになります。
格付の低い得意先なら、同じ金額でも上位の決裁が必要になる設計もありえます。
回付先が変われば確かめる人も変わり、承認までの時間や求められる資料も変わる可能性があります。
自分の案件が稟議にかける対象かどうかも、この権限の考え方から見当がつきます。
講座では、新しい得意先に掛取引の枠を設ける場合や既存の枠の金額を変える場合、承認を経てから枠を使う型が示されています3。
ただし、どの金額やどの格付から誰の決裁になるのかは、自社の規程や権限表が優先します。
申請しようとしている金額がどの段階に当たるかを起案の前に知っておけば、誰に向けて書くのかがはっきりします。
▼ 図の内容を文字で読む
- 営業部門が得意先を調査
- 審議部門へ事前相談
- 与信限度申請書を提出
- 審議部門が確認し意見を付ける
- 決裁者が最終判断
- 承認・登録後に限度を使用
稟議書(与信限度申請書)に何を書き、何を添付するか
営業側が出す資料
読み手が審議部門と決裁者だと分かれば、何を書くかは「その人たちが何を確かめるか」から逆算できます。
講座の例では、申請にあたっての資料の用意が分担されています。
営業側は訪問記録、ヒアリングの内容、収集した資料を用意します。
管理側は企業情報、財務諸表、信用調査会社のレポートを用意します3。
同講座では申請者を営業部長としています。
ただし、誰の名前で申請し、誰が下書きを作るかは会社の規程で決まります。
営業側の資料で重みを持つのは訪問記録です。
審議部門は、財務諸表から数字を読み取ることはできます。
一方で、得意先の事務所や倉庫の様子、担当者の受け答え、取引を増やしたい理由といった事情は、現場に行った人の記録からしか分かりません。
記録には、訪問した日、面談した相手の役職、確かめた内容、気になった点を分けて書いておきます。
そうすれば、読み手は事実と起案者の見立てを区別して読めます。
申請内容そのものも、読み手が一目で分かる形にしておきます。
冒頭で読ませたいのは、得意先の名称と取引の内容、申請する限度額、締め日や支払期日といった支払条件、そして申請の理由です。
これらが冒頭で読めれば、審議部門は添付資料をどの観点で見ればよいかを掴めます。
なぜこの得意先と取引するのか、どれくらいの取引を見込むのかを添えておくと、決裁者がリスクを取る理由を判断する材料にもなります。
これは講座の確認項目には含まれていないので、起案者側の工夫として考えてください。
審議部門が確認する項目
講座によると、審議部門は申請書を受け取ると、次の事柄を確かめます3。
財務の状況、契約の内容、訪問記録、担保や保証の評価、返済条件です。
この五つは、起案者が書面のどこで答えるかを決める目安になります。
とくに判断が分かれやすいのは、担保・保証と返済条件の欄です。
担保や保証を取らない場合、その欄を空けたまま出すと、読み手には事情が分かりません。
検討しなかったのか、検討したうえで不要と判断したのかが区別できないからです。
取らない理由を一文添えておけば、審議部門が確認のために問い合わせる手間を一つ減らせます。
返済条件も、限度額と切り離さずに書きます。
支払期日までの日数が長いほど、回収前の未収金は積み上がります。
限度額と支払条件を並べて書けば、読み手はその枠の大きさが取引の量に見合うかを判断しやすくなります。
不足書類を求められたとき
審議部門は、確認に必要な書類が足りなければ申請部門に提出を求めます3。
求められてから得意先に連絡し、資料を取り寄せて出し直すと、その往復の分だけ承認が後ろへずれます。
避けにくいのは、得意先から出してもらえない資料がある場合です。
そのときは、添付した資料の一覧と、入手できなかった資料とその理由を申請書に書いておきます。
たとえば「決算書は開示に応じてもらえなかったため、登記情報と訪問記録で補った」と書いてあるとします。
これなら審議部門は、その前提で追加の確認が要るかを判断できます。
理由が書かれていない不足は、単なる添付漏れと見分けがつきません。
その結果、問い合わせの対象になりがちです。
| 審議部門が確かめる項目 | 起案者が書面で示すことの例 |
|---|---|
| 財務 | 財務諸表の有無、決算期、入手した日 |
| 契約 | 取引基本契約の有無や締結予定、主な取引条件 |
| 訪問記録 | 訪問日、面談相手、確かめた内容、気になった点 |
| 担保・保証 | 担保や保証を求めるか、求めない場合はその理由 |
| 返済条件 | 締め日・支払期日・支払方法と、申請する限度額との関係 |
▼ 図の内容を文字で読む
- 営業側が出す資料
- 訪問記録
- ヒアリングの内容
- 収集した資料
- 管理側が出す資料
- 企業情報
- 財務諸表
- 信用調査会社のレポート
- 申請書の冒頭に書く内容
- 得意先の名称と取引の内容
- 申請する限度額
- 締め日や支払期日などの支払条件
- 申請の理由
得意先の信用はどんな情報で確認し、どう書くか
内部情報・直接情報・間接情報の違い
審議部門が財務や訪問記録を確かめるといっても、その元になる情報には種類があります。
講座では、取引先の信用を調べる情報源を三つに分けています4。
自社の取引履歴などを使う内部調査、取引先から直接得る決算書や訪問による情報、そして登記情報・新聞・雑誌・口コミなどの間接情報です4。
内部調査は費用をかけずに使える一方、担当者の主観に左右されやすいとされています4。
「長く付き合いがあり、信頼できる会社です」という一文は、起案者の実感としては正しくても、審議部門には判断材料として扱いにくい書き方です。
そこで、何年から取引があるか、その間に支払いの遅れがあったかどうかを記録に基づいて書きます。
そうすれば同じ内部情報でも、読み手が確かめられる形になります。
決算書が手に入る場合の評価の考え方も、講座で示されています。
まず業界平均や財務指標と比べて点数をつけ、定性的な項目で加減して、AからFの格付を決めます4。
格付の基準では、相手に支払う力があるかどうかを重視します4。
定性的な項目とは、決算の数字には表れない事柄のことで、ここで起案者の訪問記録が生きてきます。
数字を点数にする作業は管理側が担うとしても、点数を上げ下げする材料は現場から出てくることがあるからです。
情報の出所と取得日を記載する
稟議書に信用情報を書くときは、内容と一緒に、どこから得たか、いつ得たかを添えておくことを勧めます。
同じ「業績は堅調」という記述でも、元になる情報によって読み手の受け止め方は変わります。
最新の決算書から読んだものか、数年前の新聞記事によるものか、得意先の担当者から聞いた話かで、置ける信頼の度合いが違うからです。
時点が大切になる理由は、講座の見直しの解説からも読み取れます。
与信限度を見直す時期は取引先の決算期末から半年以内が望ましく、最新の財務諸表を使うとされています2。
古い数字のまま判断すると、その後の変化を見落とすおそれがあるためだと考えられます。
新規取引の稟議でも、決算書の決算期と入手日を書いておけば、その情報がどれだけ新しいかを審議部門が書類だけで判断できます。
得意先が決算書の開示に応じない場合、どう評価するかは、ここで参照した講座では説明されていません。
そのため決まった評価方法を示すことはできません。
稟議書の書き方としては、取れた情報の範囲と、取れなかった情報およびその理由を分けて書く形が考えられます。
自社の取引履歴、登記情報、訪問記録のうち、どの情報で判断材料を補ったのかが見えれば、審議部門は不足を前提に検討できます。
たとえば、限度額や支払条件で手当てするかどうかです。
どこまでの情報で承認してよいかを決めるのは審議部門と決裁者です。
扱いは事前相談の段階で聞いておけば、申請書を出す前に方針を確かめられます。
| 情報源の区分 | 情報の例 | 稟議書に書くときの添え書き |
|---|---|---|
| 内部調査 | 自社での取引履歴 | 対象の期間と、記録に基づくか担当者の印象かの区別 |
| 外部の直接情報 | 決算書、訪問 | 決算期と入手日、訪問日と面談相手 |
| 外部の間接情報 | 登記情報、新聞、雑誌、口コミ | 情報の出所と取得日 |
▼ 図の内容を文字で読む
- 内部調査
- 自社での取引履歴
- 添える内容:対象の期間と、記録に基づくか担当者の印象かの区別
- 外部の直接情報
- 決算書、訪問
- 添える内容:決算期と入手日、訪問日と面談相手
- 外部の間接情報
- 登記情報、新聞、雑誌、口コミ
- 添える内容:情報の出所と取得日
新規取引・限度の見直し・却下時の代替条件で、書く内容はどう変わるか
案件別の比較表
ここまでの項目は、どの案件でも同じ厚みで書くわけではありません。
新しい得意先と取引を始めるのか、既存の限度を増やすのか減らすのかで、読み手が知りたい点は変わります。
申請どおりには通りにくいと分かっている場合も同様です。
判断の中心、厚くする記載、追加で付ける資料の三つの軸で並べると、次のようになります。
新規取引では、自社に取引の履歴がないため、内部調査の材料がほとんどありません。
そのぶん外部の直接情報と間接情報の比重が上がります。
どこから得た情報か、いつ得た情報かを書くことが、そのまま情報の確かさの説明になります。
見直しの稟議では、すでに自社の取引履歴があります。
そのため、増額でも減額でも実績が判断の中心になります。
増額では、取引が広がって限度に近づいている、あるいは超えているという事実が出発点です。
そのうえで、取引が増えても支払いが遅れずに続いていることを示せれば、枠を広げる理由になります。
減額は得意先にとって望ましくない話なので、起案者は書きにくいと感じるかもしれません。
それでも、支払遅延や信用悪化の事実を時系列で書いておけば、決裁者はどこまで減らすかを判断しやすくなります。
減らす幅が書類から読み取れないと、決裁者は判断を保留するか、起案者に説明を求めることになります。
値引きや特別な支払条件など、限度額以外の取引条件を承認する稟議は、ここで参照した解説では扱われていません。
与信の申請と同じ書式で回すのか、別の決裁経路になるのかは、自社の規程で確かめる必要があります。
見直しの事由と頻度
見直しの稟議を書くタイミングには二通りあります。
決まった時期に行う定期の見直しと、何かが起きたときの見直しです。
講座では、与信限度に有効期限を設け、最低でも年1回は見直すよう勧めています2。
大口の取引先や注意が必要な取引先は、年2回見直すなど、管理の水準を上げるのが好ましいとされています2。
これらは同社の解説による目安であり、法令や業界の基準で決まっている頻度ではありません。
定期の見直しとは別に、取引の拡大や限度超過は増額の、支払遅延や信用悪化は減額のきっかけになります2。
取引の拡大は、得意先と日々やり取りする営業担当が先に気づきやすいことです。
一方で支払遅延は、入金を確かめる部署の側で見つかることもあります。
どちらが起点でも、得意先の事情を直接確かめられるのは営業担当です。
見直しの稟議では、現場から見た状況を書く役割を担うことになります。
たとえば、年1回の見直しの時期が来ても、得意先の直近の決算書がまだ届いていない場合を考えます。
講座の目安どおり、決算期末から半年以内に最新の財務諸表で見直すとします2。
その場合、期限が近づく前に得意先へ決算書の提出を頼んでおくことになります。
そうしておけば、見直しの稟議を古い数字で書かずに済みます。
却下されそうなときの代替案
事前相談の段階で、審議部門から「申請どおりでは難しい」という反応が返ってくることがあります。
講座では、却下された申請も、限度の引き下げ、支払期間の短縮、流通経路の変更、前払い、管理の強化によって調整できるとしています3。
- 限度の引き下げ:申請額を下げ、小さな枠で取引を始める
- 支払期間の短縮:代金を受け取るまでの期間を短くし、回収前の未収金が膨らむのを抑える
- 流通経路の変更:取引の経路そのものを見直す
- 前払い:代金を先に受け取り、その取引の回収の不安をなくす
- 管理の強化:取引を続けながら、入金や取引の状況を確かめる頻度を上げるなどの手当てをする
これらは、却下されてから考えるより、最初の申請書に添えておくほうが話を進めやすくなります。
たとえば「希望はこの限度額だが、難しければ支払期間を短くしたうえで半分の額から始めたい」と書いておくとします。
そうすれば決裁者は、差し戻す代わりに条件付きで承認するという選択肢を持てます。
ただし、代替条件は得意先にとって負担が増える内容です。
申請書に書く前に、どこまでなら得意先が受け入れられそうかを営業担当として見立てておく必要があります。
そうしないと、社内の承認は下りても取引が成り立たないことになりかねません。
代替条件を得意先と話した記録があれば、決裁者はその条件で取引が実際に続くかどうかも判断できます。
| 案件の種類 | 判断の中心 | 厚くする記載 | 追加で付ける資料 |
|---|---|---|---|
| 新規取引 | 初回の信用評価と限度額 | 情報源ごとの出所と取得日、訪問記録 | 入手できた財務諸表・企業情報・信用調査会社のレポート |
| 見直し(増額) | 取引の拡大や限度超過が続く理由 | 取引の伸びと支払いの実績 | 最新の財務諸表 |
| 見直し(減額) | 支払遅延や信用悪化の程度 | 遅延の経緯と現在の入金の状況 | 取引履歴と入金の記録 |
| 却下時の代替条件 | 条件を変えれば取引を続けられるか | 代替条件と、それで抑えるリスク | 代替条件を得意先と話した記録 |
▼ 図の内容を文字で読む
- 新規取引
- 判断の中心:初回の信用評価と限度額
- 厚く書く:情報源ごとの出所と取得日、訪問記録
- 見直し(増額)
- 判断の中心:取引の拡大や限度超過が続く理由
- 厚く書く:取引の伸びと支払いの実績
- 見直し(減額)
- 判断の中心:支払遅延や信用悪化の程度
- 厚く書く:遅延の経緯と現在の入金の状況
- 却下時の代替条件
- 判断の中心:条件を変えれば取引を続けられるか
- 厚く書く:代替条件と、それで抑えるリスク
差し戻しや承認の遅れを減らすには、起案前に何を準備するか
承認にかかる日数の実態
稟議に時間がかかるのは、得意先の案件に限った話ではありません。
弁護士ドットコム株式会社のプロフェッショナルテック総研は、2024年に社内稟議の実態を調査しました。
クラウドサインの利用者のうち、回答が得られた312名へのウェブアンケートです。
この調査では、稟議の承認までに「1日以上かかる」が73.5%でした1。
「2〜3日」との回答は52.5%です1。
なお、これは社内稟議全般についての調査です。
得意先の与信の稟議に限った数字ではなく、すべての企業を代表する値でもありません。
同じ調査で稟議の課題として最も多かったのは、「承認完了までに関わる人が多すぎる」の41.0%です。
続いて「稟議書作成前の相談や根回しに時間がかかる」が35.9%、「稟議書の作成が必要となる対象範囲が広すぎる」が31.6%でした1。
これらの課題を得意先の稟議に重ねると、起案者が手を打てる部分と打てない部分が見えてきます。
関わる人の多さは決裁権限の段階と回付の経路で決まるので、起案者には変えられません。
ただ、申請額がどの段階に当たるかを先に知っていれば、誰が読むかを前提に書類を作り、日程を見込めます。
相談や根回しの時間は、講座の流れでも申請の前に事前相談として置かれている工程です3。
相談の場に持っていく材料をそろえておけば、一度の相談で確かめられることが増えます。
対象範囲の広さについては、自分の案件が承認の要る案件かどうかを権限表で確かめることが、起案者にできる対応になります。
起案前の確認リスト
ここまでの内容を、申請書を書き始める前の確認として並べると、次のようになります。
事前相談の前に済ませておくこと、相談で確かめること、提出の前に見直すことの順です。
このリストに沿って準備しても、差し戻しや日数が必ず減ると言える根拠はありません。
それでも、起案前に自分で確かめておける部分はあります。
審議部門から不足書類を求められる往復や、決裁の段階を取り違えて回付をやり直す手間がそれです。
何を確かめたかを申請書に残しておけば、読み手は同じ確認を繰り返さずに済みます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 案件の種類を決める(新規・増額・減額)
- 申請額と格付の見込みから決裁の段階を確かめる
- 社内の取引履歴を記録から書き出す
- 直接情報・間接情報を集め、出所と取得日を控える
- 入手できない資料とその理由を書き留める
- 審議部門へ事前相談し、不足しそうな書類と代替条件の余地を聞く
自社に規程やひな形がない・合わないときはどう整えるか
社内で確認する項目
社内に得意先の稟議のひな形がないこともあります。
あっても項目が古く、審議部門の確かめたいことと合っていない場合もあります。
そのとき起案者が最初にすることは、新しい書式を作ることではありません。
いま社内で決まっていることを確かめ、書き出すことです。
- 決裁権限の段階:どの金額、どの格付から誰の決裁になるか
- 申請書の項目:財務、契約、訪問記録、担保・保証、返済条件に答える欄があるか
- 見直しの決まり:限度の有効期限、見直しの頻度、見直しのきっかけになる事由
- 承認後の手続き:誰が限度を社内システムに登録し、いつから使えるか
確かめる相手は、与信の審議を担う経理・管理部門と、自分の上長です。
権限表や規程の扱いは管理部門に、過去に通った稟議の書き方や回付の実際は上長に尋ねると、それぞれ違うことが分かります。
ひな形の項目が足りないときは、前の節で整理した審議部門の確認項目と照らし合わせます。
足りない欄は、申請書の本文や添付で補います。
書式を勝手に変えるのではなく、補った内容が審議部門にとって必要かどうかを事前相談で聞いておきます。
そうすれば、次に同じような案件を起案する人にも引き継げる形になります。
規程が優先する前提
ここまで紹介した流れや確認項目は、与信管理の講座で解説されている一般的な型です。
講座自体も、申請書は社内規程に基づいて回付されると説明しています3。
決裁の段階や必要な書類は、会社ごとの規程が優先します。
解説の型と自社の運用が違っていても、それだけで自社のやり方が間違っているとは言えません。
得意先の数や取引の規模、審議を担う人の体制によって、必要な確認の深さは変わるからです。
合わないと感じた点を起案者個人の判断で省いたり付け足したりすると、稟議書の読み手との食い違いが生じやすくなります。
上長や管理部門に相談して扱いを決めてもらうほうが、その食い違いを避けられます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 書き出す項目
- 決裁権限の段階
- 申請書の項目
- 見直しの決まり
- 承認後の手続き
- 管理部門に尋ねる
- 権限表や規程の扱い
- 上長に尋ねる
- 過去に通った稟議の書き方
- 回付の実際
稟議で求められる確認項目と、得意先ごとの取引条件や入金の記録を置いている場所が離れていると、起案のたびに資料を集め直すことになります。
いまの承認の流れと、得意先の取引条件や取引履歴をどこで管理しているかを整理し、起案の準備で手間がかかっている箇所を一緒に洗い出せます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 読み手 | 審議部門と決裁者。書類と添付資料だけで判断できるように書く |
| 決裁の段階 | 金額や格付で段階的に決まる。申請額がどこに当たるかを起案前に確かめる |
| 記載の土台 | 財務・契約・訪問記録・担保と保証・返済条件の五つに答える |
| 信用情報 | 内部・直接・間接の区分と、出所・取得日を添える |
| 案件の種類 | 新規は初回の評価、増額は拡大と支払いの実績、減額は遅延の経緯を厚く書く |
| 見直し | 最低年1回、大口・要注意先は年2回などが目安(同社の解説) |
| 却下が見込まれるとき | 限度の引き下げ・支払期間の短縮・流通経路の変更・前払い・管理の強化を添える |
| 日程 | 承認と登録が済むまで限度は使えない。出荷日から逆算する |
規程やひな形が実際の運用と合わないとき、社内だけでは何から整えるかを決めにくいことがあります。 得意先との取引条件の管理と社内承認の進め方について、現在の運用を伺いながら、確認や転記が重なっている部分を確かめられます。
よくある質問
決算書がもらえない得意先の稟議はどう書けばよいですか。
参照した与信管理の講座では、決算書が取れない得意先の評価方法までは説明されていません。
稟議書には、入手できた情報と、入手できなかった決算書およびその理由を分けて書いておきます。
入手できた情報とは、自社の取引履歴、登記情報、訪問記録などです。
こうしておけば、審議部門は不足を前提に判断できます。
どこまでの情報で承認するかは審議部門と決裁者が決めるため、事前相談で扱いを確かめておくと安心です。
却下されそうなとき、どんな代替条件を添えられますか。
講座では、限度の引き下げ、支払期間の短縮、流通経路の変更、前払い、管理の強化によって調整できるとしています3。
却下されてからではなく、最初の申請書に「難しければこの条件で」と添えておくと、決裁者が条件付きで判断しやすくなります。
ただし、得意先が受け入れられる条件かどうかは、事前に見立てておく必要があります。
与信限度は何をきっかけに見直すのですか。
講座では、与信限度に有効期限を設けて最低でも年1回見直し、大口や要注意の取引先は年2回などに上げるのが好ましいとしています2。
定期の時期とは別に、取引の拡大や限度超過は増額の、支払遅延や信用悪化は減額のきっかけになります2。
頻度は同社の目安で、自社の規程があればそちらが優先します。
承認前に出荷や取引を始めてもよいですか。
講座の説明では、承認と社内システムへの登録が済むまで、限度や条件は使えないとされています3。
自社の規程に従うのが前提です。
初回の出荷日や取引開始日を得意先と決める段階で、事前相談から登録までの日程を逆算しておく必要があります。
稟議書と与信限度申請書は同じものですか。
講座は与信限度申請書という名前で説明しており、それを稟議と呼ぶかどうかまでは述べていません。
得意先の取引条件を承認する書類の名前や書式は、会社ごとに違います。
自社で何という書類を使い、どの経路で回付されるのかを、規程や管理部門に確かめてください。
- 1 出典:プロフェッショナルテック総研(弁護士ドットコム株式会社)「社内稟議の実態調査」(2024年)
- 2 出典:株式会社リスクモンスター「取引先与信の見直しをしよう!(与信管理講座 第5章)」(2026年)
- 3 出典:株式会社リスクモンスター「与信限度額の審議・決裁のしくみって?(与信管理講座)」(2026年)
- 4 出典:株式会社リスクモンスター「取引先の信用力の評価(信用調査)ってどうやってやるの?(与信管理講座)」(2026年)
画像の出典元
- A businessman in a black suit reviews a printed application form with a pen on his desk./Photo by Kampus Production on Pexels