◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 購買履歴の活用は「使ってよい形に整える」「提案の根拠に変える」「画面と通知に載せる」の3工程で設計します。
- 取引先が法人でも、発注担当者に紐づく履歴は個人情報に当たる場合があり、利用目的の特定が欠かせません。
- 外部のレコメンド基盤へ履歴を渡す構成は、個人関連情報の確認義務に触れる可能性があります。
目次
通販の購買履歴を活用した提案とは — 3工程で使ってよい形に整える
通販における購買履歴の活用とは、過去の注文として記録されたデータを分析する取り組みです。次に必要になる商品や数量を、根拠を添えて取引先の画面や通知へ先回りして提示します。国内のBtoB-EC市場規模はすでに514.4兆円まで拡大しており、履歴は「これから貯まる」ものではなく「すでに貯まっている」段階にあります*3。
「履歴の活用」を3工程に分解する
本記事では「購買履歴」(過去の注文として記録された品目・数量・時期のデータ)を、そのまま次の提案の材料にする設計を扱います。設計は次の3工程に分かれます。
第一に、履歴を分析・提案に使ってよい形へ整えます(本記事H2-2)。第二に、整えた履歴から提案の根拠を作ります(H2-3)。第三に、その提案を画面や通知へ載せます(H2-4)。
この3工程を順に押さえることで、機能の導入ではなく設計として提案を組み立てられます。加えて、提案を出さない条件と運用のルールをH2-5で扱います。
| 工程 | やること | 該当章 |
|---|---|---|
| 1. 使ってよい形に整える | 利用目的の特定・保有範囲・外部連携の可否を決めます。 | H2-2 |
| 2. 提案の根拠に変える | 周期・欠落・数量分布から提案の材料を作ります。 | H2-3 |
| 3. 画面と通知に載せる | どの画面に・いつ・どの文面で出すかを決めます。 | H2-4 |
「発注履歴からの再注文」「営業体制の転換」とは別物である
購買履歴を扱う記事は、しばしば別の話題と混同されます。買い手が自分の発注履歴を見て繰り返し注文する画面の設計は別の記事で扱っています。引き継ぐ項目・引き継がない項目・履歴の一覧検索などが論点です。
本記事は、売り手が履歴を読んで先に提案を出す側の設計であり、同じ履歴データでも向きが逆になります。
提案型営業への転換そのもの(体制・段階・評価指標)も別の記事の範囲です。本記事は組織の話をせず、データと画面の設計に絞ります。
欠品時の代替品提案とも切り分けが必要です。あちらは欠品という事故が起点であるのに対し、本記事は平常時の履歴が起点になります。
BtoBの購買は「発見」ではなく「反復」である
BtoBの発注は、必要なものを必要なときに買う行為です。そのため新規性の提示よりも、抜け・遅れ・まとめ方の指摘のほうが響きやすくなります。
この前提が、後述する提案の作り方を決めています。通販事業者が自社の販売先へ提案する場合も、反復購買が中心であれば同じ設計が使えます。
購買履歴を使う前に確認する3点 — 法人取引でも個人情報に当たり得る
本節の記載は個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」(平成28年11月・令和8年6月一部改正)*1によるものです。あわせて個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)*2を参照しています。個別の取扱いが適法かどうかは、自社の運用に即して個別に判断が必要です。
取引先が法人でも、担当者に紐づく履歴は個人情報に当たる
個人情報保護委員会のガイドライン2-1は、個人情報の範囲を定義しています。そこには「法人その他の団体は『個人』に該当しないため、法人等の団体そのものに関する情報は『個人情報』に該当しない」と記されています*1。ただし同じ箇所は「役員、従業員等に関する情報は個人情報に該当する」とも注記しています*1。
BtoB EC では、発注担当者のアカウントに購買履歴が紐づくのが通例です。したがって「取引先がBtoBだから個人情報ではない」とは言えません。まずこの点を確認する必要があります。
分析して提案に使うなら、利用目的をその粒度で書く
個人情報保護法第17条第1項は、利用目的の特定を義務づけています。条文は「個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱うに当たっては、その利用の目的(以下「利用目的」という。)をできる限り特定しなければならない」と定めています*2。
ガイドライン3-1-1は、行動・関心等の情報を分析する場合の考え方をさらに具体的に示しています。
同項は「本人から得た情報から、本人に関する行動・関心等の情報を分析する場合、個人情報取扱事業者は、どのような取扱いが行われているかを本人が予測・想定できる程度に利用目的を特定しなければならない」としています*1。記載例として挙げられているのは「取得した閲覧履歴や購買履歴等の情報を分析して、趣味・嗜好に応じた新商品・サービスに関する広告のために利用いたします。」です*1。
同項は、抽象的な記載では足りないことも明記しています。「単に『事業活動』、『お客様のサービスの向上』等のように抽象的、一般的な内容を利用目的とすることは、できる限り具体的に特定したことにはならないと解される」*1。つまり「サービス向上のため」とだけ書かれた利用目的では、購買履歴を分析して提案に使う根拠として足りないと考えられます。
なお、すでに公表している利用目的の変更にも制約がかかります。法第17条第2項により「変更前の利用目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲」を超えることができません*2。提案の作り方を後から広げる予定があるなら、その範囲を先に見込んで書いておくほうが動きやすくなります。
外部のツールへ渡すなら、個人関連情報の線を見る
ガイドライン2-8の【個人関連情報に該当する事例】には、事例3として「ある個人の商品購買履歴・サービス利用履歴」が明記されています*1。なお同ガイドラインは、個人情報に該当する場合は個人関連情報には該当しないとも注記しています*1。
法第31条第1項は、個人関連情報の第三者提供に確認義務を課しています。第三者が個人関連情報を個人データとして取得することが想定されるときの規定です。当該第三者が本人の同意を得ていること等を確認しないで提供してはならない、とされています*2。
外部のレコメンド基盤・広告配信・分析サービスへ履歴を渡す構成では、この確認が要件に乗ります。
ここまでの3つの確認事項を自社の受注データの持ち方に照らして整理するには、無料相談で要件を整理するのが近道です。データを外へ出す経路そのものの設計や、履歴をどこまで保持するかは、それぞれ別の論点として扱う必要があります。
受け手は履歴の扱いに敏感である
総務省「令和8年版情報通信白書」は、インターネット利用時に感じる不安の内容を集計しています。最も高かったのは「個人情報やインターネット利用履歴が外部に漏れていないか」で90.3%でした。母集団は2025年・n=25,474で、出所は総務省「通信利用動向調査」です*4。
この数値は個人(消費者)向け調査のものであり、BtoBの発注担当者を対象とした数値ではありません。そのまま流用せず、設計上の含意として受け止めるべきです。
実務上の含意としては、履歴を使っていることを画面や通知で隠さずに書くほうが受け入れられやすいという方向が導かれます。次章以降の「根拠を添えて提示する」設計は、この含意と同じ方向を向いています。
購買履歴から提案の根拠を作る — 周期・欠落・数量分布・併買の4断面
通販の購買履歴を活用する場合も、BtoBは取引先の母数が小さいという前提に立ち、まずは1社の履歴だけから作れる材料を押さえます。他社データとの突き合わせを前提にしない現実的な道筋です。
使うのは4つの断面である
| 断面 | 見るもの | 作れる提案 |
|---|---|---|
| 周期 | 品目ごとの発注間隔 | 前回から周期を超えた品目の補充 |
| 欠落 | 過去に買っていて止まった品目 | 取扱いの確認・停止の兆候への声かけ |
| 数量分布 | 1回あたりの数量のばらつき | 発注単位・まとめ発注の見直し |
| 併買 | 同時に注文される品目の組み合わせ | 買い忘れの指摘 |
いずれも1社の履歴だけで作れる材料です。他社データの突き合わせを前提にしないことが、取引先数が限られるBtoBでの現実的な作り方になります。
なお、4断面を取り出す前段にはデータの可視化工程があります。同じ履歴を社内の意思決定へ向ける解約・停止の予測や、購買履歴とは性質の異なるレビューの商品改善への反映は、それぞれ別の記事で扱います。
提案には根拠を添える
「おすすめ」とだけ示すのでは足りません。「前回のご注文から日数が経過しています」「昨年の同時期にご注文がありました」のように、履歴のどの事実に基づく提案かを画面に書きます。根拠を書くことは、前章で確認した利用目的の透明性とも同じ方向を向いています。
なお、具体的な経過日数や回数の相場を本文の目安として示すことはしません。出典のある相場が確認できないためで、日数・回数は各社が自社の取引条件に応じて決める変数として扱う必要があります。
履歴が少ない取引先をどう扱うか
取引を始めたばかりの先は、周期を取り出すだけの履歴がありません。他社の履歴を根拠に使う構成は前章の個人関連情報の論点に触れるため、まずは自社の商品マスタ側の情報(関連品目・後継品)で代替する順序が現実的です。得意先の業種や規模といった属性データは、別途整備する得意先台帳から補うことになります。
商習慣が提案の自由度を縛る
価格や取扱いの可否は、取引先ごとの取引条件で決まります。履歴の上では提案できても、取引条件の上では出せない品目があるということです。そのため、提案の候補から外す条件をあらかじめ決めておく必要があり、この点は次章の運用設計に接続します。
画面と通知のどこに、いつ載せるか
ここからは番号付きの手順として整理します。上位の解説記事に欠けやすい「いつ出すか」を、各手順に組み込んでいます。
画面と通知への載せ方 5手順/順位根拠:実施順序
- 載せる場所を3つから選びます。マイページ・注文一覧画面は定期的に見る場所で周期提案に向き、カート・注文確認画面は買い忘れの指摘に向きます。商品詳細は併買の提示に向きます。同時に全部は使いません。
- 出すタイミングを決めます。ログイン時に出すか、周期の到来で通知するかを選びます。BtoBは締め日・発注曜日が固定されている取引先が多く、その直前に寄せると効きやすくなります。
- チャネルを画面と通知に振り分けます。画面は相手が来たときに見せるもの、通知はこちらから届けるものです。同じ提案を両方で出すと過剰になります。メール配信そのものの設計は本記事の範囲外とし、切り分けだけを扱います。
- 文面を雛形として固定します。「根拠+提案+操作」の3要素で1つの雛形にします。担当者ごとに文面が変わると、後から効果を評価できません。
- 反応を記録して雛形を直します。提示した提案とその後の注文を突き合わせて記録します。採用されたかどうかが残らなければ、雛形の改善につながりません。
出さない条件と、運用で決めておくこと
ここまでの解説記事にほとんど無い観点として、履歴の活用で提案を「出さない」条件を先に決めておく設計を扱います。
提案を抑止する条件を先に決める
取扱いを終了した品目、与信や取引条件で出せない品目、直近で断られた提案、数量が明らかに合わない提案は出さないようにします。抑止ルールを持たない提案は、精度ではなく信用の問題になりかねません。
頻度の上限を決める
1社あたりの提示回数には上限を置きます。周期提案と併買提案が同時に走ると、画面が提案だらけになってしまいます。
誰が止められるようにするか
営業担当が個別に提案を止められる導線を用意します。取引先の事情はシステムだけでは把握できないためです。
利用目的とプライバシーポリシーの更新を運用に組み込む
提案の作り方を変えたときは、利用目的の記載が実態と合っているかを見直します。変更には法第17条第2項の制約がかかるため*2、想定される範囲を先に書いておくほうが、後から運用を広げやすくなります。
まとめ:購買履歴を提案に変える3つの判断軸
本稿では、通販の購買履歴を提案に活用する設計を整理しました。要点は3つに集約できます。
第一に、履歴の分析・提案利用は利用目的の特定という具体的な義務が乗り、取引先が法人でも発注担当者に紐づく履歴は個人情報に当たり得るという前提です*1。
第二に、提案の根拠は周期・欠落・数量分布・併買という1社の履歴だけで作れる断面から組み立てられるということです。第三に、載せる場所とタイミングを手順として固定し、出さない条件をあらかじめ決めておくことが、提案を信用の問題にしないための土台になります。全体の進め方は卸売業のEC化の進め方にまとめています。
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
よくある質問
取引先が法人なら、購買履歴は個人情報に当たらないのですか。
法人等の団体そのものに関する情報は個人情報に該当しませんが、役員・従業員等に関する情報は個人情報に該当します*1。BtoB EC では発注担当者のアカウントに履歴が紐づくのが通例のため、該当し得ると考えて確認する必要があります。
利用目的には何と書けばよいですか。
行動・関心等の情報を分析する場合は、本人が予測・想定できる程度に利用目的を特定する必要があります*1。「サービス向上のため」といった抽象的な記載では、できる限り具体的に特定したことにはならないと解されています*1。
外部のレコメンドツールへ履歴を渡してもよいですか。
商品購買履歴はガイドラインで個人関連情報の事例として明記されています*1。第三者が個人データとして取得することが想定されるときは、本人の同意が得られていること等の確認が必要です*2。渡す経路そのものの設計は別途検討が要ります。
取引先が少なくても提案の材料は作れますか。
周期・欠落・数量分布・併買という、1社の履歴だけで作れる断面から始められます。他社データとの突き合わせを前提にしない組み方が、取引先数が限られるBtoBでの現実的な道筋です。
発注履歴からの再注文機能とは何が違いますか。
再注文は買い手が自分の発注履歴から繰り返し注文するものです。本記事が扱うのは、売り手が履歴を読んで先に提示する側の設計であり、履歴データの向きが逆になります。
- *1 出典:個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」(平成28年11月・令和8年6月一部改正)
- *2 出典:e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」(平成15年法律第57号・令和8年7月17日施行の現行版)
- *3 出典:経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査(公表資料)」(2025年8月26日)
- *4 出典:総務省「令和8年版情報通信白書(概要)」(2026年7月)
画像の出典元
- 通販のイメージ/Photo by Mildlee on Unsplash
- 工程のイメージ/Photo by 1981 Digital on Unsplash