◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- Web-EDIの多画面問題は、取引先ごとに仕様の異なる画面へ個別にログインする中で生じる事象です。
- 発生の背景には、発注企業が自社仕様でシステムを個別に構築してきた歴史があります。
- 負担は作業時間だけでなく、電子帳簿保存法上の保存・検索の管理にも及びます。
目次
Web-EDIの多画面問題とは──発注企業ごとの画面が受注側に積み上がる非対称
Web-EDIの多画面問題とは、発注企業ごとに仕様の異なるWeb-EDI画面へ個別にログインし受注作業する中で生じる非効率を指します。Web-EDIとは、ブラウザ経由でEDIの受発注データをやり取りする仕組みです。中小企業庁の令和3年度調査では、鉄鋼業界で電子受発注に対応している86社のうち62.8%(54社)がこの弊害を感じています*2。
多画面問題の定義──中小企業庁が示す「複数のウインドウ」問題
中小企業庁は多画面問題を、「複数企業からの受注に対応するため、パソコンの中で多数のウインドウを開いたり、多数のモニタを使用したりしなければならない」事象と説明しています*1。
令和3年度の報告書はさらに踏み込み、「業界や取引企業ごとに異なるシステムが利用されているため、受注者側になることが多い中小企業は、取引先ごとに異なるEDIを利用する必要性が発生しており、複数の画面を立ち上げ、入力等をしなければならない多画面問題による非効率さ、導入コストの高さなどに悩まされてきました」と述べています*2。定義から分かるのは、負担が受注側に一方的に生じる点です。
負担が受注側に偏る理由──発注側は1画面、受注側は取引先の数だけ増加
発注企業は自社で構築した1つの画面から複数の受注先へ発注できます。一方、受注企業は取引先の数だけ異なる仕様の画面へログインする必要があり、上図のとおり負担の非対称が生まれます。
この非対称は個々の企業の努力不足ではなく、取引先ごとに独立してWeb-EDIが構築されてきた経緯そのものに起因します。原因の詳細は次のセクションで扱います。
広がりの実態──鉄鋼62.8%・電材卸53.0%・流通60.0%が弊害を実感
中小企業庁は2022年2月から3月にかけて業界別のWebアンケートを実施しました。鉄鋼業界は1,140社に配布し164件回収(回収率14.3%)、電材卸業界は718社に配布し132件回収(回収率18.4%)でした。流通業界のボランタリーチェーンは23社に配布し15件回収(回収率65.2%)です*2。
弊害の有無を問うQ4への回答は、鉄鋼が86社中54社(62.8%)、電材卸が132社中70社(53.0%)、流通のボランタリーチェーンが10社中6社(60.0%)でした*2。電気工事業界は約1,000社に配布し103件回収(回収率約10%)で、Q4では55社中21社(38.2%)と他業界より低い水準です*2。Q4の分母は電子受発注に対応していると回答した企業に限られ、業界ごとに母集団と回収規模が異なるため、業界間の数値を単純に比較することはできません。電気工事業界では対応している電子受発注の種類として「取引先指定のシステム」「電子メール」が多く、Web-EDI自体の利用率が他業界より低いことが水準差の背景にあると考えられます*2。
広がりの前提として、電子受発注そのものは進展しています。2021年時点で受注側企業の48.5%が電子受発注に対応しています(令和3年度取引条件改善状況調査・中小企業庁、2021年)*3。これは前段の業界別アンケートとは調査母集団が異なる別統計です。電子受発注の広がりと歩調を合わせる形で、多画面問題も表面化してきたと捉えられます。
多画面問題が起きる3つの原因──Web-EDIの成り立ちに由来する必然
ここでは、なぜ多画面問題が生じるのかを、EDI(電子データ交換。企業間で受発注データを電子的にやり取りする仕組み)の変遷から3つの原因に分解します。前節の「何が起きているか」に対し、本節は「なぜ起きるか」を扱います。
原因①発注企業が自社仕様で個別に構築したWeb-EDI
中小企業庁の報告書 表6「EDIの変遷」によれば、Web-EDIは1990年代に「個別EDI・業界標準EDIに参加しない中小企業との間で、アナログなやりとりが残されていたため、一部の大企業でWebサーバー上にEDIのシステムを構築し、取引相手がブラウザ上で閲覧・操作が可能なシステムを導入」したものです*2。
この経緯のとおり、Web-EDIは発注側の大企業が自社の都合で個別に用意した仕組みです。取引先ごとに別々の画面が生まれるのは偶発的な不具合ではなく、成り立ちからの必然といえます。
原因②企業ごとに異なるデータ形式で自社システムに取り込めない
同じ表6は、Web-EDIの課題として「データ形式も企業によるため、自社システムとの接続が困難」と指摘しています*2。ダウンロード自体ができない画面では、印刷した帳票を見ながら自社システムへ入力し直す運用が残ります*1。
画面へのログインだけでなく、取り込んだ後のデータ形式もばらばらであるため、受注企業は取引先の数だけ変換や手入力の手間を負うことになります。
原因③業界標準EDI・中小企業共通EDIへの対応が限定的
鉄鋼・電材卸・電気工事いずれの業界アンケートでも、対応している電子受発注の種類は「取引先のシステム」「電子メール」が多くを占めました。一方で「業界標準のEDI」「中小企業共通EDI」への対応は限定的という結果でした*2。標準化された仕組みへの移行が進まない限り、個社ごとのWeb-EDIが受注側の主な選択肢であり続けます。
| EDIの種類 | 仕様の決定者 | 受注側の画面数 | 自社システム連携 | 登場時期 |
|---|---|---|---|---|
| 個別EDI | 発注企業が個別に指定 | 取引先ごとに専用端末 | 独自仕様のため困難 | 1970年代 |
| 業界標準EDI | 業界団体が標準化 | 業界内では一元化 | 標準に沿えば可能 | 1980年代 |
| Web-EDI | 発注企業が個別に構築 | 取引先の数だけ増加 | データ形式が企業ごとに異なり困難 | 1990年代 |
| 中小企業共通EDI | 業界横断の標準辞書 | 対応先を集約可能 | 認証製品を選べば連携可 | 2018年〜 |
多画面運用が生んでいるコスト──作業時間と電子帳簿保存法の統制
ここまでの原因を踏まえ、本節では多画面運用が実際にどのようなコストを生んでいるかを整理します。見えている作業負担だけでなく、見えにくい法令面の統制コストにも触れます。
見えている負担──転記・二重入力・確認漏れ
中小企業庁は、受発注をデジタル化して標準化すると「取引先ごとに用意していた専門端末や用紙が不要となり、山積みになっていた伝票をデータで一元的に管理できる」とし、効果として業務効率の向上・人的ミスの軽減・取引データ検索の簡素化を挙げています*3。裏を返せば、多画面運用ではこの3点が失われた状態が続きます。
取引先ごとの仕様差を人手で吸収する作業には専門知識が要ります。データ項目の対応関係を理解した担当者でなければ転記ミスに気づけないため、内製で仕組みを整えるにはEDIの構造理解とシステム連携の知見が欠かせません。
見えているコスト──受発注システムの年間費用は業界で差がある
受発注システムの年間コストは業界のアンケート回答で分布が大きく異なります。鉄鋼業界のボリュームゾーンは年間5〜30万円、電材卸業界は年間100万円以上との回答が4割以上で最も多く、電気工事業界は年間5万円未満との回答が最多です*2。いずれも業界別アンケートの回答分布であり、費用相場そのものではない点に注意が必要です。
費用を可視化したうえで、次にどこまでを自社で内製し、どこから外部の支援を仰ぐかを検討することになります。無料相談で要件を整理すると、自社の取引先構成に合わせた優先順位が見えてきます。
見えていない負担──電子帳簿保存法が求める保存・検索の管理
Web-EDIでの受発注は、電子帳簿保存法が定める「電子取引」に該当します。同法の正式名称は、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律です。同法第2条第5号は電子取引を「取引情報の授受を電磁的方式により行う取引」と定義しています*10。国税庁の一問一答は、この電子取引の具体例として「いわゆるEDI取引」を挙げています(問2)*4。
電子取引に該当すると、その取引情報は電磁的記録により保存しなければなりません(同法第7条)*10。国税庁の一問一答は、取引先ごとに保存先が複数のシステムに分かれること自体は認めつつ、次の条件を示しています。
問32では「取引先ごとに指定のEDIやプラットフォームがあり取引の相手先ごとに取引データの授受を行うシステムが異なっている場合……各取引データについて、必ず一つのシステムに集約して管理しなければならないとすることは合理的でない」としたうえで、「ディスプレイ等に整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力することができるようにしておく必要がある」と述べています*4。検索についても、原則は一課税期間を通じた検索が必要ですが、取引先ごとに指定のEDIやプラットフォームがある場合は合理的な理由があるときに限り、保存媒体ごとの範囲指定検索が認められています(問25・取扱通達4-9)*4。
画面が増えるほど、どの取引先のデータがどのシステムに格納されているかを把握し、検索できる状態に保つ管理の手間も比例して増えます。税務上の詳細な判断は、国税庁の一問一答で個別にご確認ください。
多画面問題を解消する4つのアプローチ──取引先の同意要否で分かれる打ち手
多画面問題への打ち手は、取引先の同意が要るものと要らないものに分かれます。自社だけで判断できない選択肢と、自社の判断で着手できる選択肢を分けて示します。
①中小企業共通EDIでシングルインターフェースに集約──同意が必要
中小企業共通EDIは、「国連CEFACTに準拠した共通辞書を用いて、簡単・便利・低コストに受発注業務のIT化を実現できる汎用性の高い仕組み」で、2018年3月に標準(初版)が公開されました*2。取引先ごとにばらばらだったデータフォーマットを、国際標準に準拠した形で共通化することを目指しています*1。
報告書によれば、実証事業では受発注企業ともに約50%程度の業務時間削減効果が見られることが確認されています*2。この数値は実証事業の結果であり、導入すれば一律に得られる効果とは言えません。移行には取引先側の対応も必要になります。
②業界標準EDIへ寄せる──業界による、同意が必要
消費財流通業界では流通BMS(メッセージと通信プロトコル・セキュリティに関するEDI標準仕様)が使われています。最新版は2025年7月15日公開の基本形Ver2.2.2です*5。ただし報告書は「既存の業界標準EDIは……今後も必要とされるため……直ちに全て置き換えられるわけではない」とし、複数の標準規格が併存する中での相互運用性の確保が課題だとしています*2。流通BMSへの移行手順そのものは本記事の範囲を超えるため、選択肢としての紹介にとどめます。移行の具体的な工程は卸売業界の業界標準EDI移行手順の解説記事で扱っています。
③自社側の受け口を一本化する──同意不要で着手できる打ち手
発注側の画面仕様を自社の都合で変えてもらうことは容易ではありません。一方、受注側で取り込み・突合・自社システムへの連携を1つの導線にまとめる設計は、自社の判断で進められます。
具体的には、取引先ごとのダウンロード可否とデータ形式の差を吸収する受け口の設計を進めます。同時に、自社システムへの連携経路の整理と、前節で触れた保存先の台帳化も進める形になります。この設計を内製で完結させるには、取引先ごとのデータ仕様を読み解く知識と、自社の基幹システムとの接続方法の両方の知見が必要です。専門のパートナーに相談すれば、自社に足りない知見を補いながら進められます。EDIとBtoB ECの使い分けはEDIとBtoB ECの違い・使い分けの解説記事で扱っています。
④周辺の標準化を併せて進める──ZEDI・JP PINT・INSネット終了への備え
受発注の周辺でも標準化が進んでいます。金融分野ではZEDI(全銀EDIシステム。全国銀行資金決済ネットワークが運営)が、総合振込に添付する金融EDI情報について、従来の固定長電文で20桁までという制限をXML形式化で解消しました*6。
請求分野では、デジタル庁がJapan Peppol Authorityとして日本のデジタルインボイス標準仕様JP PINTを管理しています。JP PINTは、国際標準仕様Peppol(請求データを国際的に共通の形式でやり取りする仕組み)をベースにしています*7。
通信回線では、NTT東日本がINSネット(ISDN回線を用いたデータ通信サービス)のディジタル通信モードを2024年1月から段階的に終了しています*9。新規申込受付は2024年8月31日に終了し、サービス提供と補完策は2028年12月31日に終了する予定です*8*9。この期限がある取引先を抱える場合は、集約の計画に組み込む必要があります。
| アプローチ | 取引先の同意要否 | 効果が及ぶ範囲 | 着手の前提 | 期間の目安 |
|---|---|---|---|---|
| ①中小企業共通EDI | 要る | 対応した取引先全体 | 取引先の合意と対応システム | 取引先調整に応じて変動 |
| ②業界標準EDI | 要る(業界による) | 同一業界の取引先 | 業界標準の対応状況 | 業界の移行状況に依存 |
| ③受け口の一本化 | 要らない | 自社の受注業務全体 | 自社の判断・設計 | 自社の設計工数に応じて変動 |
| ④周辺の標準化対応 | 案件による | 金融・請求・回線の周辺業務 | 各標準・期限の把握 | INSネットは2028年12月末が期限*8 |
多画面の集約に着手する5ステップ──棚卸しから段階移行まで
ここでは、前節の4アプローチのうちどれを選ぶ場合でも共通して必要になる、着手までの5ステップを示します。
多画面の集約に着手する5ステップ/順位根拠:実施順序
- 取引先別に画面URL・ログイン情報の管理者・データ形式・ダウンロード可否・月間注文件数を棚卸しします。
- CSV等でダウンロードできる取引先と、画面転記しかできない取引先に仕分け、件数×手作業時間で優先順位を付けます。
- どの取引先のデータがどのシステムに格納されているかを一覧化し、整然とした形式・明瞭な状態で速やかに出力できるかを点検します*4。
- 前節の4アプローチから集約の型を決めます。取引先の同意が要らない「受け口の一本化」から着手できます。
- 件数の多い取引先から段階的に移行します。ISDN・INSネット併用の取引先があれば、2028年12月31日*8を確定期限として計画に組み込みます。
補助制度に触れる場合は執筆時点の事実として示します。中小企業デジタル化・AI導入支援事業(独立行政法人中小企業基盤整備機構)の通常枠では、補助額が1プロセス以上で5万円以上150万円未満、4プロセス以上で150万円以上450万円以下と定められています。補助率は1/2以内(一定条件下で2/3以内)です。直近の締切は2026年9月29日17:00となっています*11。制度内容・締切は変更される可能性があるため、申請前に公式サイトでの確認が必要です。
まとめ──原因の理解と同意不要の一歩から
本稿では、Web-EDIの多画面問題を、原因・コスト・打ち手・進め方の順に整理しました。要点は3つに集約できます。第一に、多画面問題は発注企業が自社仕様で個別にWeb-EDIを構築してきた経緯に由来する必然です。第二に、負担は作業時間だけでなく、電子帳簿保存法が求める保存・検索の管理にも及びます。第三に、集約の打ち手は取引先の同意が要るものと要らないものに分かれ、自社の受け口を一本化する打ち手からは同意不要で着手できます。
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
よくある質問
多画面問題は発注企業に画面を統一してもらえば解決しますか
発注企業ごとの画面統一は取引先の合意が前提となるため、自社の判断だけでは解決しません。一方で、受注側が自社の受け口を一本化する対応は取引先の同意なしに着手できます*2。
Web-EDIの画面をダウンロードできない場合、印刷して保存すれば電子帳簿保存法の要件を満たしますか
電子取引に該当するデータは電磁的記録による保存が義務付けられており、書面への出力のみでの保存措置は令和3年度税制改正後に廃止されています*4。詳細な取り扱いは国税庁の一問一答でご確認ください。
取引先ごとに保存システムが分かれていても問題ありませんか
国税庁は、取引データの授受の方法に応じて保存場所が複数のシステムに分かれること自体は差し支えないとしています。ただし、どの取引先のデータがどのシステムにあるかが分かる管理と、整然とした形式で速やかに出力できる状態が必要です*4。
中小企業共通EDIに移行すれば画面はすべて1つに統合されますか
対応する取引先の範囲でのみ画面の集約効果が及びます。既存の業界標準EDIも「今後も必要とされる」とされており、直ちに全ての仕組みが置き換わるわけではありません*2。
多画面の集約はどこから着手するのが現実的ですか
まず取引先別の棚卸しから始め、連携可否で仕分けたうえで、取引先の同意が要らない自社側の受け口一本化から着手するのが現実的です*2。
- *1 出典:中小企業庁(ミラサポplus)「企業間のデータ連携で、受発注の業務コストを削減する!」(2020年)
- *2 出典:中小企業庁(委託:EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社)「令和3年度中小企業の受発注のデジタル化推進方策に関する調査 受発注のデジタル化に関する推進方策 報告書」(2022年)
- *3 出典:中小企業庁「中小企業の受発注デジタル化」
- *4 出典:国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」(令和7年6月)
- *5 出典:流通システム標準普及推進協議会(流通BMS協議会)「流通BMS」
- *6 出典:全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)「ZEDI(全銀EDIシステム)」
- *7 出典:デジタル庁「電子インボイス」
- *8 出典:東日本電信電話株式会社(NTT東日本)「INSネットの新規申込受付・提供終了について」(2024年3月7日)
- *9 出典:東日本電信電話株式会社(NTT東日本)「ISDN(INSネット)とは?2028年12月終了の影響と企業が取るべき対応」
- *10 出典:e-Gov法令検索「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」(施行日:2025年4月1日)
- *11 出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構「中小企業デジタル化・AI導入支援事業 通常枠」
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