◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 公開されている「最短◯カ月」は提供者側の作業完了までを示すもので、取引先の本稼働までを含むとは確認できないため、4段階のどこで終わるかを見積で確かめる
- 期間を延ばすのは、マスタの整理、標準機能で収まらない取引先ごとの個別ルール、カスタマイズである
- 基幹連携は基幹への転記の負担の大きさで先か後かを決め、費用は製品ごとの範囲の違いを踏まえて同じ軸の見積で比べる
- 取引先展開は主要取引先から始め、並行運用の終了日を先に決めて、Webから届いた注文の割合で進み具合を追う
- 補助金を使う場合は交付決定前に契約・発注・支払いをせず、待つ間にフローの書き出しやマスタの整理を進める
目次

「最短◯カ月」は何の完了を指すのか:Web受発注システムの構築完了と取引先の本稼働を分けて読む
FAXや電話で届く注文を毎日Excelへ打ち直していると、一日でも早くWeb受発注へ切り替えたくなります。
ところが「最短◯カ月」という表示を見ても、それが取引先からWebで注文が届くようになるまでの期間なのかは読み取りにくいものです。
公開例を見ると、示されているのは提供者側の構築が終わるまでの期間です。
SAP連携を前提としたテンプレートは条件付きで最短4カ月1、個別構築の例では3〜6カ月で納品されるケースがほとんどとされます2。
稼働を早めたいなら、標準機能と主要取引先から始め、連携や個別対応は後から足す進め方が近道になります。
期間を4段階に分けて読む
「いつから使えますか」と提供者に聞いたとき、返ってくる答えは、どの時点を「使える」と呼ぶかで変わります。
受注の担当者にとっての本当の区切りは、取引先から届く注文がFAXや電話ではなくWebに変わり、Excelへの打ち直しがなくなった時点でしょう。
一方で、システムを用意する提供者にとっての区切りは、環境とマスタが整い、試験を終えて引き渡した時点です。
この二つの間には、社内での慣らし運転と、取引先に使ってもらうための時間が挟まります。
そこで、期間を次の4段階に分けて読むと、見積の数字と自社の稼働時期の差が見えてきます。
1つ目は契約です。
2つ目は設定完了で、提供者が環境構築やマスタ登録、試験を終え、自社が操作できる状態を指します。
3つ目は自社利用開始で、社内の受注担当がシステム上で注文を処理し始めます。
4つ目が取引先まで含む本稼働で、主要な取引先がWebから注文し、FAXや電話の受付を止められる状態です。
3つ目と4つ目の間が、担当者にとって負担の大きい時期になりやすいところです。
たとえば、社内ではWeb受注の画面を使い始めたのに、取引先の大半がまだFAXで注文してくる場合を考えてみてください。
担当者はFAXを読み取り、その内容をWeb受注の画面へ代わりに入力することになるので、転記の手間は以前と変わりません。
そのうえ、Webから届く注文とFAXの注文を二つの経路で確認するため、見落としの心配はむしろ増えます。
切り替えの効果が出るのは4つ目の段階に入ってからなので、稼働時期を考えるときはここまでを含めて見積もる必要があります。
公開されている期間の例と、その範囲
実際に公開されている期間を、この4段階に当てはめてみます。
日立システムズは、SAPシステムとの連携を前提としたWeb受注テンプレート単体の標準導入を、最短4カ月で構築できるとしています1。
作業内容として挙げられているのは、環境構築、テンプレート導入、マスター設定支援、教育、稼働支援です1。
この期間と費用には、カスタマイズ無しなどの条件が付いています1。
教育や稼働支援まで含むので、2つ目の設定完了から、3つ目の自社利用開始にかかる支援までは提供者の作業範囲に入っていると読めます。
しかし、取引先にWebでの注文を案内し、切り替えてもらう作業が含まれるとは書かれていません。
個別に構築するMOSの導入ガイドでは、3〜6カ月で納品するケースがほとんどとされています2。
工程の例は、ヒアリング2週間〜、契約1週間〜、導入準備・構築1カ月〜、導入前試験3週間〜、運用開始1週間〜という順です2。
各工程に「〜」が付いているとおり、これは下限の目安で、準備や構築の内容によって延びます。
ここでも、取引先への展開や、FAXとの並行運用をいつまで続けるかは工程に含まれていません。
二つの例を並べると、公開されている期間は提供者側の作業が完了するまでが中心で、取引先の本稼働まで含めた期間を示しているとは確認できません。
また、どちらの数字もそれぞれの製品と作業範囲、条件のもとでの値で、Web受発注システム全体の相場を表すものではありません。
クラウドで提供される標準型のサービスについては、契約から利用開始までの日数を示した公式の資料がないため、日数は見積の際に提供者へ直接確かめることになります。
見積を受け取ったら、示された期間が4段階のどこで終わるのかを確かめ、その先の自社利用開始から取引先の本稼働までを自社の計画として足し込みます。
足し込む部分の長さは、取引先の数と、その取引先がWebでの注文にどれだけ前向きかで変わります。
▼ 図の内容を文字で読む
- 契約
- 提供者と契約する
- 設定完了
- 環境構築・マスタ登録・試験が終わる
- 公開されている最短期間はここまでが中心
- 自社利用開始
- 社内の受注担当がシステムで注文を処理し始める
- 取引先からはまだFAXや電話が届く
- 取引先まで含む本稼働
- 主要な取引先がWebから注文する
- 公開例の作業範囲に取引先への展開の記載はない
期間を長くする条件:マスタ整備、取引先ごとの個別ルール、カスタマイズ
標準工程に含まれるマスタ設定とデータ移行
期間の範囲が見えたところで、次はその期間を延ばす原因です。
最初に挙がるのがマスタです。
マスタとは、システムが注文を処理するときに参照する基本情報の台帳で、受発注では商品マスタ(品番、品名、単位、価格など)と取引先マスタ(取引先コード、届け先、担当者など)が中心になります。
取引先がWeb画面で商品を選べるのも、受注担当が届け先を確かめられるのも、このマスタに正しい情報が登録されているからです。
マスタの準備は、特別な追加作業ではなく標準の工程に含まれています。
日立システムズの標準導入の作業にはマスター設定支援があり1、MOSの工程例でも導入準備・構築の中にデータ移行が入っています2。
ただし「支援」という言葉のとおり、提供者が手伝うのは登録の方法や取り込みの作業です。
どの品番を正とするか、どの価格が現在有効かを決めるのは自社です。
その判断に時間がかかると、提供者の作業は待ちになり、期間が延びます。
たとえば、営業担当ごとに別々のExcelで価格表を管理していて、同じ商品が品番の書き方の違いで二行に分かれている状態を考えてみます。
このまま取り込むと、取引先の画面に同じ商品が二つ並んだり、片方にだけ古い価格が残ったりします。
取り込む前に、どちらを残すか、価格はどの表を正とするかを社内で決めなければなりません。
これは提供者の工程表には表れにくい作業で、マスタが整っているかどうかで、自社側の準備期間が変わります。
標準で収まらない個別ルールがカスタマイズに回る
もう一つの原因が、取引先ごとに異なる取引ルールです。
取引先Aには掛率、取引先Bには個別の単価表、締め日は取引先ごとに別、といった違いは、FAXや電話の受注では担当者の記憶や手元のメモで処理されていることがあります。
Webに切り替えると、こうしたルールをシステムが自動で適用できるようにしておく必要があります。
ルールが製品の標準機能の設定で表現できれば、マスタ登録の延長で済みます。
表現できない場合は、カスタマイズに回ります。
日立システムズは、カスタマイズなどがある場合は別途プログラム修正が必要としています1。
先に見た最短4カ月もカスタマイズ無しなどの条件付きの値なので、修正が入れば最短の前提から外れます1。
修正にどれだけの日数がかかるかは公開されておらず、内容と提供者によって変わります。
ここから言えるのは、個別ルールを多く抱えたまま見積を取ると、カスタマイズの項目が増え、期間も費用も読みにくくなるということです。
どのルールが標準機能で吸収でき、どれがカスタマイズになるかは製品ごとに異なるため、提供者に一つずつ確かめるほかありません。
そのとき、ルールの一覧を「取引先との契約で決まっているもの」と「社内の慣習で続けているもの」に分けておくと、判断がしやすくなります。
契約で決まっている価格や締め日は守る必要がありますが、慣習で続いている例外は、切り替えを機に標準のやり方へそろえられる場合があります。
そろえられたルールの分だけ、カスタマイズに回る項目が減ります。
▼ 図の内容を文字で読む
- マスタ整備
- どの品番を正とするか、どの価格が有効かは自社が決める
- 判断が遅れると提供者の作業が待ちになる
- 取引先ごとの個別ルール
- 掛率・単価表・締め日が標準機能の設定で表せるかを確かめる
- 表せない分はカスタマイズに回る
- カスタマイズ
- 別途プログラム修正が必要になる
- 最短期間の前提であるカスタマイズ無しから外れる
標準機能で小さく始める場合と、基幹連携まで含める場合の違い
同じ4軸で並べる
期間を左右するもう一つの分かれ目が、基幹システムとの連携を最初から含めるかどうかです。
基幹システムとは、販売管理、在庫管理、会計など、会社の取引を記録している中心のシステムを指します。
連携しない場合、Webで受けた注文は、受注担当が基幹システムへ入力し直すか、製品が対応していればデータを書き出して取り込むことになります。
連携すれば、Webの注文がそのまま基幹システムへ渡り、この入力の手間は減りますが、データの受け渡しの設計と試験が工程に加わります。
二つの進め方を、作業範囲、期間の根拠、費用の根拠、取引先の負担の4つの軸で並べたのが次の表です。
連携まで含める例として日立システムズのSAP連携前提のテンプレートを、標準機能で始める例として竹田印刷が示すクラウド型サービスの費用の想定を使っています。
製品も作業範囲も異なる二つの例なので、優劣を付けるためではなく、見積を取るときにどこを比べればよいかを示すための並べ方です。
表で判断が分かれるのは、期間の根拠の行です。
連携を含める例には最短4カ月という公開値がありますが、カスタマイズ無しなどの条件付きです1。
標準機能で始める側は、竹田印刷の費用の資料に導入期間の記載がなく4、日数は見積で確かめるしかありません。
つまり、「標準機能なら必ず早い」と公開資料から言い切ることはできません。
言えるのは、連携の設計と試験という工程がない分、提供者側の作業が少なくなる、というところまでです。
取引先の負担の行も見ておきます。
取引先から見ると、Web画面で注文する操作を覚える点はどちらの進め方でも同じです。
違いが出るのは、取引先への案内を始められる時期です。
標準機能で始める場合は、画面が用意できた時点で主要取引先への説明に移れます。
連携まで含めて一度に稼働させる計画なら、連携の試験が終わるまで本稼働を待つことになり、取引先の切り替えもその後ろにずれます。
費用を読むときの注意
表の費用の欄にある数字は、それぞれの提供者の条件での値です。
日立システムズのテンプレートは、最短期間の場合で980万円(税抜)からとされています1。
竹田印刷は自社のクラウド型サービスの想定として、導入までに50万円程度、毎月の運用に20万円程度かかるとしています4。
なお、同じ資料の中でも本文と表とで月額の示し方に幅があるので、実際の金額は見積で確かめる前提で読んでください。
この二つの金額の差を、そのまま「連携型と標準型の一般的な差」と受け取ることはできません。
前者はSAP連携を前提とした構築で、後者はクラウド型の利用料の想定であり、含まれる作業がまったく違うからです。
比べるのであれば、自社が検討している候補それぞれに、同じ4つの軸で見積を出してもらうのが筋です。
クラウド型の費用でもう一つ見ておきたいのが課金の仕組みです。
竹田印刷の資料では、アカウント数に応じた従量課金が一般的で、カスタマイズは別途費用とされています4。
取引先ごとにアカウントを発行する仕組みであれば、取引先を広げるほど月額が変わる可能性があります。
取引先の展開計画と月額の見込みを切り離さずに見積もっておくと、稼働後に予算と合わなくなる事態を避けやすくなります。
標準機能で始めて連携を後から足す場合、その間に残る作業も費用の一部として考えておきます。
Webで受けた注文を基幹システムへ入力する作業は残りますが、手書きのFAXを読み取って打ち直す作業とは性質が違います。
品番や数量がマスタに沿った形で届くので、読み間違いや、取引先へ電話で内容を確かめる往復は減らせます。
残るのは、届いたデータを基幹システムへ移す転記と、その照合です。
この転記にかかる手間と、連携を最初から作る場合に加わる期間と費用とを比べて、どちらを先にするかを決めます。
| 観点 | 標準機能で小さく始める場合 | 基幹連携まで含める場合 |
|---|---|---|
| 作業範囲 | 受注画面の設定・マスタ登録・取引先の利用準備が中心。基幹システムへの入力は担当者が行う | テンプレート導入・マスター設定・教育・稼働支援に加え基幹システムとの連携(日立システムズの例はSAP連携前提) |
| 期間の根拠 | クラウド型の契約から利用開始までの日数は公開資料に記載がなく見積で確認 | 日立システムズのテンプレートで最短4カ月(カスタマイズ無しなどの条件付き) |
| 費用の根拠 | 竹田印刷の想定で導入まで50万円程度・毎月20万円程度。アカウント数に応じた従量課金が一般的でカスタマイズは別途 | 日立システムズのテンプレートで最短期間の場合980万円(税抜)から |
| 取引先の負担 | Web画面での注文操作を覚える。画面が用意できた段階で主要取引先への説明に移れる | Web画面での注文操作を覚える点は同じ。一度に稼働させる計画なら連携の試験が終わるまで本稼働を待つ |
▼ 図の内容を文字で読む
- 標準機能で始める場合
- 画面が用意できた時点で主要取引先への説明に移れる
- 導入日数は公開資料になく見積で確かめる
- 連携まで含める場合
- 連携の設計と試験が工程に加わる
- 一度に稼働させるなら試験が終わるまで本稼働を待つ
- 連携を後から足す場合
- Webで受けた注文を基幹システムへ移す転記と照合が残る
- 転記の手間と連携の期間・費用を比べて先後を決める
取引先に使ってもらうまで:期間の見積もり方と二重運用を短くする進め方
取引先の対応状況
提供者側の期間に、自社で足し込まなければならないのが取引先への展開です。
この部分の長さを考えるうえで参考になるのが、取引先がWebでの受発注にどれだけ対応しているかです。
中小企業庁の令和3年度取引条件改善状況調査を引用した記事によると、2021年9〜11月に回答した22,757社のうち、電子受発注に対応していると答えた受注側の企業は48.5%でした5。
発注側の企業の導入率は全体で40.9%と、さらに低く報告されています5。
同じ記事では、導入の理由として最も多かったのが取引先からの要請であり、受注側には当面導入する予定がないと答えた企業もあったと紹介されています5。
これは2021年度の調査で、導入率は調査の設問の定義に沿った値です。
また、調査資料そのものではなく引用記事で確認した数字なので、取引先の状況を考えるための目安として読んでください。
この調査から読み取れるのは、取引先にとって受発注の方法を変えるきっかけは、相手から求められることになりやすいという傾向です。
自社がWeb受発注を導入する場合、自社からの依頼が、取引先にとって切り替えのきっかけになります。
だからこそ、取引先への案内と説明は導入後に自然に進むものとは考えず、導入計画の中に作業として組み込んでおく必要があります。
主要取引先から広げる
取引先に使ってもらうための準備について、竹田印刷の導入ガイドは、取引先にも利用してもらう必要があることを前提に、事前の合意、新しいフローと操作方法の説明、マニュアルの共有が重要だとしています3。
これを全取引先へ一度に行うと、説明の日程調整や操作の問い合わせが重なり、受注担当が通常業務と並行して対応しきれなくなるおそれがあります。
そこで、注文件数の多い取引先や、Web化に前向きな取引先から始め、段階的に広げる進め方を提案します。
注文件数の多い取引先が先に切り替われば、FAXの転記が減る効果を早い段階で得られます。
前向きな取引先からは、操作で迷った箇所やマニュアルで分かりにくかった点を早めに聞けるので、その後の取引先への説明を改善できます。
取引先展開にかかる期間は、公開資料からは日数として示せません。
そのため、最初に切り替えた数社について、案内してから実際にWebで初めて注文が届くまでにどのくらいかかったかを記録しておくと、残りの取引先の分を見積もる手掛かりになります。
取引先の数が多い場合は、展開の順番を何段階かに区切り、段階ごとに対象の取引先と開始の目安を決めておくと、計画が立てやすくなります。
自社が発注する側で、仕入先にWebで注文を受けてもらう立場の場合も、考え方は同じです。
注文を受ける仕入先に、受け取り方や確認の操作を説明し、合意を得てから切り替えていきます。
並行運用の終了日を決める
並行運用とは、Webでの受注を始めた後も、しばらくFAXや電話での注文を受け付け続けることです。
切り替えの途中で取引先を困らせないために必要な期間ですが、終わりを決めないまま始めると長引きやすくなります。
FAXでも注文が通るなら、取引先にとってはWebの操作を覚える理由が薄いからです。
そのため、並行運用を始める時点で、取引先ごとに終了日を決めて伝えておく進め方が有効です。
終了日の後も、急ぎの注文や画面に障害が起きたときなど、電話で受ける場合の条件を決めておけば、取引先も切り替えに踏み切りやすくなります。
進み具合は、取引先ごとの注文のうちWebから届いた割合で追えます。
割合が伸びない取引先があれば、操作で詰まっているのか、取引先の社内で実際に発注する人まで案内が届いていないのかを個別に確かめます。
この確認を終了日の前に済ませておくと、終了日を迎えた途端に注文が届かなくなる、といった混乱を避けやすくなります。
| 項目 | 導入率(%) |
|---|---|
| 受注側 | 48.5 |
| 発注側 | 40.9 |
▼ 図の内容を文字で読む
- 事前の合意と説明
- 新しいフローと操作方法を説明しマニュアルを共有する
- 主要取引先から始める
- 注文件数の多い取引先、Web化に前向きな取引先から切り替える
- 最初の数社の実績を記録
- 案内から初めてWebで注文が届くまでの期間を残す
- 並行運用の終了日を決める
- 取引先ごとに終了日を伝える
- 終了日後に電話で受ける条件も決める
- Webの割合で進み具合を追う
- 伸びない取引先は操作で詰まっているかを個別に確かめる
省いてよい作業と、省くと稼働後に困る作業
省くと困る作業
期間を短くしたいとき、どの作業を削るかは、稼働後に何が起きるかで判断します。
ここまでに挙げた作業のうち、提供者の標準工程に含まれているのは、マスター設定、教育、稼働支援です1。
MOSの工程例にも、運用開始の前に導入前試験が置かれています2。
取引先への説明やマニュアルの共有も、竹田印刷のガイドが重要としている作業です3。
これらは、省いた場合の影響が稼働後に出る作業です。
マスタの整理を省くと、取引先の画面に古い価格や重複した商品が表示され、注文のたびに電話で確認する往復が残ります。
導入前の試験を省くと、本番の注文で初めて不具合が見つかり、FAXへ戻すことになりかねません。
社内の教育を省くと、受注担当が画面の操作に不慣れなまま、取引先からの問い合わせを受けることになります。
取引先への説明を省くと、取引先はFAXを使い続け、並行運用が終わりません。
どれも、省いた分の時間が、稼働後の手戻りや二重運用に形を変えて戻ってくる作業です。
短縮するなら、作業そのものを削るより、範囲を絞るほうが安全です。
たとえばマスタは、最初に展開する主要取引先が注文する商品から先に整え、残りは展開の段階に合わせて整える、といった絞り方です。
うまく絞れているかは、試験の段階で主要取引先が実際に使う注文のパターンを一通り流してみることで確かめられます。
後から足せる作業
反対に、標準機能での運用を始めた後から足せる候補は、基幹システムとの連携、標準機能で吸収できない個別ルールのためのカスタマイズ、主要取引先以外への展開です。
これらを最初の稼働に含めなくても、Webで注文を受けて処理するという中心の流れは成り立ちます。
ただし、後回しにできるかどうかは自社の状況で変わります。
基幹システムがあり、受注件数が多くて基幹への転記そのものが一番の負担になっている場合は、連携を後回しにすると、切り替えの効果の大部分を先送りすることになります。
取引先の価格ルールが複雑で、標準機能では正しい金額を表示できない場合も、カスタマイズなしでは取引先が安心して注文を出せません。
後回しにする作業を選ぶときは、「それがなくても主要取引先がWebで注文を出し、受注担当が処理できるか」を基準にすると判断しやすくなります。
後から足すと決めた作業は、追加できる条件も見積の段階で確かめておきます。
連携やカスタマイズを稼働後に追加できるか、その場合にどのような手順と費用になるかは、製品と提供者によって異なるからです。
導入前に自社で準備すること:補助金を使う場合の順序も含めて
着手の順番
最短に近い進め方は、提供者の構築期間を縮めることより、自社側の準備で待ち時間を作らないことにかかっています。
竹田印刷のガイドは、導入の手順を、受発注フローの可視化、導入目的の明確化、移行計画、システム選定、テスト運用の5つのステップで示しています3。
受発注フローの可視化では、注文がどこから届き、誰が何に転記し、どこで確認しているかを書き出します。
FAXを受けてExcelに打ち、基幹システムへ入力し、取引先へ確認の電話をかける、という流れが見えると、どこを先に変えたいかがはっきりします。
導入目的の明確化では、転記を減らしたいのか、注文の受付時間を広げたいのかなど、何を優先するかを決めます。
この優先順位が、基幹連携を最初から含めるかどうかの判断材料になります。
移行計画では、どの取引先からいつ切り替えるか、並行運用をいつ終えるかを決めます。
システム選定では、ここまでに整理した個別ルールや連携の要否をもとに、候補ごとに同じ軸で見積を取ります。
テスト運用では、主要取引先の注文パターンを使って、本番の前に一通り動かします。
このうち、商品・取引先マスタの整理と、主要取引先への事前の相談は、選定と並行して進められます。
どの製品を選んでもマスタの整理は必要で、取引先の意向は製品を決める前に聞いておくほうが計画に反映しやすいからです。
選定が終わってからマスタに手を付けると、その分だけ提供者の設定作業が待つことになります。
補助金を使う場合の注意
費用の一部に補助金を使う場合は、順番に制約が加わります。
2026年版から、IT導入補助金は「デジタル化・AI導入補助金」に名称が変わりました6。
交付決定の前に契約、発注、購入、支払いなどを行った経費は、原則として補助の対象外です6。
補助の対象は事務局に登録されたITツール・サービスに限られ、通常枠の上限は450万円です6。
この条件から、補助金を使う場合は、申請から交付決定までを待つ期間が、稼働までの期間に加わることになります。
急いで契約を先に済ませると、その経費が補助の対象から外れるおそれがあります。
また、検討している製品が登録されたツールでなければ対象にならないので、選定の段階で確かめておく必要があります。
公募回ごとの締切や交付決定の時期は、その回の公募要領で確認してください。
交付決定を待つ期間を、空白にする必要はありません。
受発注フローの書き出し、マスタの整理、主要取引先への事前の相談は、ツールの契約や支払いを伴わない社内の作業なので、この間に進められます。
交付決定の時点でこれらが整っていれば、契約後すぐに提供者の設定作業へ入れるので、待ち時間が稼働の遅れにそのままつながりにくくなります。

公開されている期間は提供者側の作業範囲で示されているため、自社の取引先数やマスタの状態を当てはめた稼働時期は、資料を読むだけでは見積もりにくいからです。
検討中の見積の期間がどの段階までを含むか、自社側で足し込む準備と取引先展開の範囲を整理できます。無料相談で要件を整理する
見積を依頼するときに確かめる項目
見積に示された期間と費用が、自社の取引先の本稼働までのどこを含み、どこを自社で足し込むかを判断するための確認項目として並べた。
- 示された期間が、契約・設定完了・自社利用開始・取引先まで含む本稼働のどこで終わるか
- マスタの登録は提供者が行うのか、自社が整えたデータを取り込むのか
- 教育の対象が社内の担当者だけか、取引先への説明も含むか
- 稼働支援の期間と内容
- 取引先ごとの価格や締め日などのルールが標準機能の設定で収まるか、カスタマイズになるか
- 基幹連携やカスタマイズを稼働後に追加できるか、その場合の手順と費用
- アカウント数や取引先数に応じて月額がどう変わるか

回答で取引先への展開が提供者の範囲外と分かったら、その部分の期間は自社の取引先数と最初に切り替えた数社の実績から見積もる。
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 公開されている最短期間 | 契約・設定完了・自社利用開始・取引先まで含む本稼働のどこで終わるかを確かめる |
| 期間が延びる要因 | マスタの整理、標準機能で収まらない個別ルール、カスタマイズ |
| 基幹連携の順番 | 基幹への転記が一番の負担なら最初から、そうでなければ後から足す候補にする |
| 費用の比べ方 | 製品ごとに範囲が違うため、作業範囲・期間・費用・取引先の負担の同じ軸で見積を取る |
| 取引先展開 | 主要取引先から始め、並行運用の終了日を先に決めてWebの割合で進み具合を追う |
| 補助金を使う場合 | 交付決定前の契約・発注・支払いは原則対象外。待つ間に社内の準備を進める |
取引先展開の順番や並行運用の終わらせ方、後回しにする作業の選び方は、取引先の数や個別ルールの複雑さによって答えが変わるからです。 主要取引先の選び方、後から足す作業の切り分け、補助金を使う場合の着手の順番を、自社の状況に合わせて確かめられます。
よくある質問
見積を取るとき、「契約から利用開始まで」の日数に何が含まれるかをどう確認すればよいですか。
まず、その「利用開始」が、提供者の設定完了、社内での利用開始、取引先まで含む本稼働のどこを指すかを尋ねます。
あわせて、マスタの登録を誰が行うか、教育の対象に取引先が含まれるか、稼働支援の期間、カスタマイズの有無を確かめると、日数に含まれる作業の範囲が分かります。
取引先への展開が含まれていなければ、その分は自社で足し込みます。
取引先がWebでの注文に応じてくれない場合、どう進めればよいですか。
取引先の側では、相手から求められたことが導入のきっかけになりやすい傾向が調査の引用で示されています5。
応じない理由が操作の負担なのか、取引先の社内で発注する人に案内が届いていないのかを聞き、前向きな取引先から先に切り替えます。
応じられない取引先については、例外として電話やFAXで受ける条件を決め、その範囲を限っておくと、並行運用が全体に広がるのを抑えられます。
FAXや電話との並行運用はいつまで続けるべきですか。
一律の期間はなく、取引先の状況で変わります。
並行運用を始める時点で取引先ごとに終了日を決めて伝え、注文のうちWebから届いた割合を追いながら、伸びない取引先には終了日の前に個別に理由を確かめる進め方が現実的です。
マスタが整っていない場合、導入前にどこまで整備すればよいですか。
最初に展開する主要取引先が注文する商品と、その取引先の情報から先に整えます。
同じ商品が別の品番で重複していないか、どの価格表を正とするかを決めておけば、取引先の画面に誤った価格が出ることを防げます。
残りの商品や取引先は、展開の段階に合わせて整えていけます。
補助金の申請中に、契約前のトライアルや初期設定を進めてもよいですか。
デジタル化・AI導入補助金では、交付決定の前に契約、発注、購入、支払いなどを行った経費は原則として補助の対象外です6。
トライアルや初期設定がこれにあたるかは個別の条件で変わるため、その回の公募要領で確かめてください。
受発注フローの書き出し、マスタの整理、主要取引先への相談は、契約や支払いを伴わない社内の作業なので、交付決定を待つ間に進められます。
基幹システムとの連携は、稼働後に追加できますか。
追加できるかどうかと、その場合の手順や費用は製品と提供者によって異なります。
最初から連携を前提とした製品もあるため1、標準機能で始める場合は、見積の段階で後からの追加が可能かを確かめておきます。
連携を待つ間は、Webで受けた注文を基幹システムへ移す転記と照合が残ることも計画に入れておきます。
- 1 出典:株式会社日立システムズ「Web受注テンプレート(SAPソリューション)」(2026年)
- 2 出典:MOS(ACROSS Solutions, inc.)「受発注システム導入ガイド」(2026年)
- 3 出典:竹田印刷株式会社「BtoB向け受発注システムの導入ガイド。種類と導入までの手順」(2026年)
- 4 出典:竹田印刷株式会社「Webの受発注システムの選び方とコストの目安」(2026年更新)
- 5 出典:オリックス・レンテック株式会社「受発注のデジタル化は製造業にどんなメリットをもたらすか」(中小企業庁『令和3年度取引条件改善状況調査』の引用、2021年度)
- 6 出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21「デジタル化・AI導入補助金2026(旧IT導入補助金)」(2026年)
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