◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- Web受発注システムの費用は初期費用・月額・アカウント数による従量・オプションやカスタマイズ・保守に分かれ、同じ利用期間の総額で比べる。
- 竹田印刷の目安ではSaaSは初期30~50万円・月10~20万円程度だが、1社の目安であり相場として扱わない。
- 必要機能を「標準機能で済む・運用で吸収する・追加開発が要る」に分け、追加開発が要る部分だけで個別開発を検討する。
- 見積もりは同じ条件で依頼し、金額差は取引先側のアカウントの扱いや保守範囲など前提の違いを明細で確かめてから判断する。
- 取引先の切り替え意向と独自システムの有無、補助金を使う場合は交付決定後に契約することを、費用判断の前提として確かめる。
目次

料金表を見ても総額が見えないのはなぜか:Web受発注システムの費用の構成
電話やFAXで届く注文を転記し、数量や単価を確かめ直す手間を減らしたい。
そう考えてWeb受発注システムの料金を調べても、月額の表示だけでは自社の総額が見えません。
費用は初期費用・月額・アカウント数による従量・オプションやカスタマイズ・保守に分かれ、既製のクラウドか個別開発かでも変わります。
受発注サービスを運営する竹田印刷の目安では、クラウド既製は初期30~50万円、月10~20万円程度です1。
まず取引先数・注文件数・価格体系・連携要件を整理しましょう。
そのうえで同じ条件の見積もりを比べ、取引先が実際に使うかまで確かめると判断しやすくなります。
初期費用と月額(ランニング)の違い
Web受発注システムの料金は、一つの金額ではなく、性質の違う費用の組み合わせでできています。
まず分けておきたいのは、使い始めるまでに一度かかる初期費用(イニシャルコスト)と、使っている間に継続してかかるランニングコストです。
竹田印刷の整理でも、クラウド型(SaaS)の費用は初期費用とランニングコストに分けて示されています1。
料金表で目に入りやすいのは月額です。
しかし社内で稟議にかけるときに問われるのは、何年使うといくらになるかという総額です。
月額が安く見えても、初期費用が大きければ、短い期間で比べると割高になります。
反対に初期費用が小さくても、月額が積み上がれば、数年後には差が逆転することもあります。
比べるときは「初期費用+月額×利用する月数」のように、同じ利用期間で並べ直すと、表示上の安さに引きずられにくくなります。
ただし、この式に入れる月額そのものが、自社の使い方によって変わります。
料金表だけで総額が見えない理由の多くは、ここにあります。
アカウント数による従量課金
クラウド型の料金は、アカウント数に応じた従量課金が一般的だとされています1。
アカウントとは、システムにログインして使う人や会社ごとの利用枠のことです。
受注側の事業者にとって悩ましいのは、アカウントを誰に発行するかで数が大きく変わる点です。
たとえば、社内で受注を処理する担当者だけに発行する場合を考えます。
注文を送ってくる取引先の発注担当者にもそれぞれ発行する場合とでは、必要な数がまるで違います。
取引先が数十社あり、1社に複数の発注担当者がいれば、社内の人数より取引先側のアカウントの方が多くなることも考えられます。
取引先側のアカウントが課金対象に含まれるのか、含まれるならどう数えるのかは、提供元の料金設計によって異なりえます。
取引先数や注文件数を課金の単位にしているかどうかも、提供元ごとに確かめる必要があります。
一般的に言えるのは、利用者が増えれば月額も動く仕組みが多いというところまでです。
取引先を順番に増やしていく計画なら、1年後や2年後の利用者数で月額がどうなるかも見積もりで聞いておきましょう。
そうすると、総額の見通しが立てやすくなります。
オプション・カスタマイズ・保守運用の別費用
もう一つ、料金表に表れにくいのが、オプションの追加や独自カスタマイズの費用です。
竹田印刷の整理では、これらは基本料金とは別にコストがかかるとされています1。
カスタマイズとは、提供元が用意した標準の機能や画面を、自社の取引に合わせて変えることです。
受発注の現場で別費用になりやすい場面を、仮に考えてみます。
取引先ごとに単価や掛率(定価に対する割合)が違い、その価格を取引先の画面にそのまま表示したいとします。
標準機能で対応できなければ、追加の設定や開発が必要になります。
受け付けた注文を社内の販売管理システムへ取り込みたい場合も同じです。
決まった形式での出力が標準に含まれていなければ、オプションや個別の対応になります。
どちらも、自社の取引のやり方がそのまま費用に反映される部分です。
保守運用も、どこまでが月額に含まれるかを分けて見ておきたい費目です。
問い合わせ窓口、不具合時の対応、機能の更新などのうち、どれが基本料金の範囲でどれが別契約なのかは、提供元によって異なりえます。
月額の数字だけでなく、その月額で何が受けられるのかまで並べると、他の見積もりと比べられる状態になります。
▼ 図の内容を文字で読む
- 初期費用
- 標準機能を自社の取引に合わせるカスタマイズ
- 月額(ランニングコスト)
- 社内の担当者に発行するアカウント数
- 取引先の発注担当者に発行するアカウント数
クラウド既製・ハーフスクラッチ・フルスクラッチで費用はどう変わるか
3形態の費用比較
費目の分かれ方は、どの提供形態を選ぶかによっても変わります。
竹田印刷の整理では、提供形態を次の三つに分けて費用を比べています1。
- クラウド既製(SaaS):提供元が用意したシステムを、インターネット経由で利用料を払って使う形態
- ハーフスクラッチ:既存の仕組みを土台にし、足りない機能を追加開発する形態
- フルスクラッチ:自社専用のシステムを一から開発する形態
同社が示す目安では、SaaSの初期費用は30~50万円、ランニングコストは10~20万円です1。
ランニングコストの単位は表の中で明記されていませんが、月額と読み取れます。
個別に開発する2つの形態は、SaaSより初期費用が大きくなる側に示されています。
とくにフルスクラッチは、開発の規模と搭載する機能の数によって金額が変わるとされています1。
表で判断が分かれるのは、右端の「費用が増える要因」の列です。
SaaSは利用者の数や追加する機能で月額が動きます。
個別開発の2形態は、何をどれだけ作るかで初期費用そのものが決まります。
つまり、SaaSは「使い方」で、個別開発は「作り方」で総額が動くと整理できます。
個別開発で費用が増える要因
フルスクラッチは、自社の取引に完全に合わせられます。
その反面、費用が膨らむ要因を複数抱えています。
開発の規模と機能の数で初期費用が変わるうえ、自社で保守する場合は人件費が高額になりやすいとされます。
さらに、数年に一度の改善にも数十万~数百万円がかかるとされています1。
導入時の見積もりだけを見て判断すると、改善の費用が後から積み上がる点を見落としがちです。
ハーフスクラッチは土台がある分、一から作るより費用を抑えやすい形です。
ただし、追加開発する機能が多いほど高くなりうるとされています1。
取引先別の価格、独自の承認の流れ、基幹システムとの連携と、足したい機能を順に積み上げていくと、土台を使う利点は小さくなっていきます。
ハーフスクラッチの費用を左右するのは、どこまでを土台の標準機能で済ませ、どこからを作るのかという線引きです。
運用中の費用は、追加した部分の保守がどう扱われるかで変わります。
土台の部分は提供元が保守し、追加した部分は別の保守契約になるといった分かれ方もありえます。
保守の範囲は見積もりで確かめておく必要があります。
この費用目安をどう読むか
ここまでの金額と傾向は、竹田印刷という1社が示した目安です。
同社は自社でも受発注のサービスを運営しており、提供事業者の立場からの整理である点は踏まえておきたいところです。
また、どのくらいの規模の企業や、どこまでの機能を想定した金額なのかは、記事の中で明記されていません1。
そのため、この目安を市場の相場として扱ったり、他社の料金をこの範囲に当てはめたりするのは避けた方が安全です。
使い道は二つあります。
一つは、形態によって費用の水準や総額を動かす要因がどう違うのかを、社内で説明するときの見取り図にすることです。
もう一つは、届いた見積もりがこの目安から大きく外れたときに、その理由を提供元に尋ねるきっかけにすることです。
外れていること自体は良し悪しを示しません。
含まれる範囲が違うのか、自社の条件で機能が増えているのかを、明細で確かめて判断します。
| 形態 | 初期費用 | 運用中の費用 | 費用が増える要因 |
|---|---|---|---|
| クラウド既製(SaaS) | 30~50万円 | 10~20万円(月額と読み取れる) | アカウント数・オプション追加・独自カスタマイズ |
| ハーフスクラッチ | 追加開発の量で変動 | 追加部分の保守範囲を見積もりで確認 | 追加開発する機能の多さ |
| フルスクラッチ | 開発規模と搭載機能数で変動 | 自社保守の人件費・数年に一度の改善費(数十万~数百万円) | 開発規模・機能数・保守体制 |
▼ 図の内容を文字で読む
- クラウド既製(SaaS)
- 初期費用30~50万円、ランニングコスト10~20万円(月額と読み取れる)
- 動かすのは使い方(アカウント数・オプション・カスタマイズ)
- ハーフスクラッチ
- 既存の仕組みを土台に、足りない機能を追加開発
取引先数・注文件数・価格体系・連携要件から、どの形態を選ぶか
必要機能の洗い出しから始める
竹田印刷は、形態を選ぶ前の準備として次の点を重視しています1。
SaaSやハーフスクラッチでは、自社に必要な機能の洗い出しです。
フルスクラッチでは、十分な予算の確保と運用体制の整備です。
どの形態でも、自社が何を必要としているかが分からないままでは、費用が妥当かどうかを判断できません。
洗い出しは、機能の一覧表を眺めるより、いま注文がどう流れているかを書き出す方が進めやすくなります。
たとえば次のような流れがあったとします。
取引先からFAXで注文書が届き、受注担当者がその内容を販売管理システムに入力し、在庫を見て納期を電話で回答する、という流れです。
この場合、Webに置き換えたいのがどの部分かで、必要な機能が変わります。
取引先が自分で注文を入力する部分なのか、入力された注文を販売管理システムへ移す部分なのか、納期の回答まで含めるのかを決めます。
流れを書き出したら、次の4つの観点で自社の条件を言葉にしておきましょう。
後の見積もり依頼にもそのまま使えます。
- 取引先数:何社の、何人の発注担当者が使うか。
アカウント数と、取引先への案内の手間に関わる - 注文件数:月に何件の注文が届き、繁忙期にどこまで増えるか。
転記や確認の作業量と、導入効果の大きさに関わる - 価格体系:取引先ごとの単価や掛率、数量による値引きがあるか。
標準機能で表現できるかどうかに関わる - 連携要件:受けた注文を販売管理や会計などのシステムへ渡すか、どの形式で渡すか。
追加開発の有無に関わる
この4つの観点と形態の対応は、判断を進めるための整理の仕方です。
何社・何件を超えたら個別開発に切り替える、といった決まった基準があるわけではありません。
既製サービスで足りない部分の見分け方
条件が言葉になったら、候補にしたクラウド型サービスの標準機能と一つずつ照らし合わせます。
このとき、足りるか足りないかの二択で考えると、少しでも合わない部分があるだけで個別開発に傾きがちです。
次の三つに分けて考えると、追加開発が本当に必要な範囲が見えやすくなります。
- 標準機能で済む:設定だけで自社の取引に合わせられる
- 運用で吸収する:一部の取引先や例外的な注文だけ、社内の手作業で補う
- 追加開発が要る:標準機能でも運用でも補えず、取引に支障が出る
たとえば、取引先ごとの掛率がほとんどの取引先で数種類に収まり、一部の取引先だけ個別の特価があるとします。
数種類の掛率を標準機能で設定できるなら、運用で吸収できるかもしれません。
特価のある取引先だけは、受注担当者が注文を確認して単価を直せばよいからです。
反対に、ほぼすべての取引先で品目ごとに単価が違い、それを取引先の画面に正しく表示しなければ注文が成り立たないなら、追加開発が要る側に入ります。
追加開発が要る部分だけを取り出せば、具体的な範囲で比べられます。
その部分をクラウド型のオプションで補うのか、ハーフスクラッチで作るのかを検討します。
運用で吸収する部分は、費用がかからない代わりに社内の作業として残ります。
その作業量も、後で比べる材料に含めておきます。
運用体制と予算の確認
どの形態を選んでも、導入した後に社内で回す仕事は残ります。
商品の追加や価格の改定のたびに登録内容を更新する作業があります。
取引先からの操作の問い合わせに対応し、不具合が起きたときに提供元へ連絡する役割も、誰かが担う必要があります。
クラウド型なら仕組みの保守は提供元が担いますが、商品や価格の情報を最新に保つのは自社の仕事です。
フルスクラッチでは、十分な予算と運用体制が欠かせないとされています1。
これらの仕事に加えて、システムそのものの保守と改善まで自社側に寄るためです。
社内にシステムを任せられる担当者がいなければ、運用を外部に頼る費用まで含めて予算を組む必要があります。
初年度の費用だけでなく、数年使う間の改善費まで見込んで予算を確保できるか。
そこが、個別開発を候補に残すかどうかの分かれ目になります。
▼ 図の内容を文字で読む
- 標準機能で済む
- 設定だけで自社の取引に合わせられる
- 数種類の掛率を標準機能で設定できる
- 運用で吸収する
- 一部の取引先や例外的な注文だけ社内の手作業で補う
見積もり依頼の前に揃える情報と、見積書で確かめる課金条件
依頼前に整理する情報
形態の候補が絞れたら、複数の提供元から見積もりを取って比べる段階に入ります。
ここでつまずきやすいのは、提供元ごとに伝えた条件がばらばらで、届いた見積もりを並べても何が違うのか分からなくなることです。
たとえば、ある提供元には社内担当者の人数だけを伝え、別の提供元には取引先のアカウントも含めて伝えたとします。
この場合、金額の差は料金の違いではなく、条件の違いから生まれます。
依頼の前に、次の6つを一枚にまとめ、すべての提供元に同じものを渡すと比べやすくなります。
- 取引先数と、取引先側でシステムを使う人数
- 月間の注文件数と、繁忙期の件数
- 価格体系(取引先ごとの単価・掛率・値引きの有無)
- 連携要件(注文データを渡す先のシステムと、渡し方)
- 必要な機能と、その中で追加開発が要るとした部分
- 導入後に社内で運用を担う担当者と体制
前半の4項目は、形態を選ぶときに言葉にした条件そのものです。
後半の2項目は、標準機能との照らし合わせや運用体制の確認で整理した内容です。
新しく調べ直すものではなく、ここまでの検討を提供元に伝わる形に整えたものと考えると、準備しやすくなります。
見積書で確認する課金単位と別費用
見積書が届いたら、総額より先に、その総額がどう計算されているかを確かめます。
クラウド型ではアカウント数に応じた従量課金が一般的で、オプションや独自カスタマイズは別にかかるとされています1。
見積書では、少なくとも次の点を読み取れるかを見ていきます。
- 何を単位に課金しているか(アカウント数か、それ以外の単位もあるか)
- 取引先側のアカウントが課金対象に含まれるか
- 利用者が増えたとき、月額がどの段階でどれだけ上がるか
- オプションやカスタマイズが、初期費用・月額のどちらに入っているか
- 保守運用の費用に含まれる対応の範囲
読み取った内容は、提供元ごとに列を分けた自社用の比較表に書き写しましょう。
違いがどこにあるのかが見えてきます。
ある提供元だけ金額が大きく違う費目があっても、それだけで高い・安いとは決められません。
一方は保守の範囲が広い、もう一方は取引先のアカウントを含んでいない、といった前提の違いが隠れていることがあるためです。
差が出た費目は、明細と前提条件を照らし合わせます。
そのうえで、同じ条件にそろえた場合の金額を提供元に尋ねてから判断します。
契約期間・解約・データ移行の確認
金額の比較とは別に、契約の条件も総額に関わります。
確かめたいのは、最低利用期間、解約の手続きと時期、解約時に注文履歴や商品の登録内容を取り出せるかどうか、の三つです。
いずれも提供元ごとに異なりうるため、契約書や利用規約で一つずつ確かめておきたい項目です。
最低利用期間があれば、途中で別のサービスへ移りたくなっても、その期間分の費用は避けられません。
データを取り出せる形式が限られていれば、次のシステムへ移るときに登録をやり直す手間が生じます。
導入する時点で解約の話をするのは気が進まないかもしれません。
それでも、使い始めてから条件を知るより、比べている段階で聞いておく方が選択肢を残せます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 課金の単位と別費用を読み取る
- 提供元ごとに列を分けた比較表へ書き写す
- 差が出た費目を明細と前提条件に照らす
- 同じ条件にそろえた金額を提供元に尋ねる
- 金額を比べて判断する
取引先が使い続けてくれるか:導入しても動かない場合の見極め
取引先の対応意向の確かめ方
費用の見通しが立っても、もう一つ確かめておきたい前提があります。
注文を送ってくる取引先が、実際にそのシステムで発注してくれるかどうかです。
受注側がシステムを用意しても、取引先が電話やFAXで注文を送り続ければ、転記の手間は減りません。
中小企業庁の令和3年度取引条件改善状況調査を引用した記事によると、電子受発注に2021年までに対応したと回答した受注側の企業は48.5%でした2。
同じ記事では、当面対応の予定がないと答えた受注側も一定の割合を占めています2。
また、製造業の受注側では、対応した理由の上位に取引先からの要請が挙がっています2。
製造業に限った結果なので、他の業種にそのまま当てはめることはできません。
それでも、電子化が取引先との関係の中で進むことをうかがわせます。
受注側が自社のシステムを用意する場合、取引先から見れば、発注の方法を変えてもらうことになります。
そこで契約の前に、注文の多い取引先から順に話を聞いておきましょう。
聞いておきたいのは、Webでの発注に切り替えられるか、誰がどの端末から発注するのか、切り替えの時期に希望があるか、です。
これが、導入後に使われない事態を避ける手掛かりになります。
主要な取引先が切り替えに前向きなら、アカウント数の見積もりも現実に近い数で組めます。
取引先ごとにシステムが異なる問題
取引先の中には、すでに自社の電子受発注システムを持っているところもあります。
同じ調査の引用では、発注側の企業の電子受発注システム導入率は全体で40.9%とされています2。
こうした取引先は、受注側が用意したシステムではなく、自分たちのシステムへの入力を求めてくることがありえます。
その結果、受注側は取引先ごとに違う画面へログインして注文を確かめる状態になりかねません。
この問題は、施策の場でも課題とされてきました。
EDIとは、企業間で注文などのデータを決まった形式でやり取りする仕組みのことです。
既存の中小企業共通EDIには、取引先が導入しなければ運用できないという課題がありました。
そこで中小企業庁が、業界や系列ごとに異なる電子受発注システムにつないで入力データを自動変換する、データ連携基盤の開発に着手したと2021年に報じられています4。
基盤の現在の運用状況は報道からは分からないため、利用を考える場合は最新の情報で確かめる必要があります。
実務では、主要な取引先がすでに独自のシステムで発注しているかを先に把握しておくことが大切です。
独自のシステムで発注してくる取引先が多ければ、自社で用意するシステムが受け持つのは、それ以外の取引先からの注文になります。
その分、利用するアカウントの数も、転記が減る範囲も、当初の想定より小さくなる可能性があります。
併用期間と運用負担
すべての取引先が同時に切り替わることは考えにくいものです。
電話・FAX・メールでの注文は、しばらく残ると見ておく方が現実的です。
このとき、受注側の担当者が電話やFAXで受けた注文をWeb受発注システムに代わりに入力すれば、注文の記録を一か所にまとめられます。
一方で、その代行入力は社内の作業として残るため、併用が続く間は転記の手間がゼロにはなりません。
取引先への説明や、操作の問い合わせへの対応も、併用期間の負担です。
これらを提供元がどこまで支援するのか、説明用の資料や問い合わせ窓口が料金に含まれるのかは、見積もりの段階で尋ねておきたい点です。
移行や教育にかかる費用は、提供元の支援の範囲と取引先の数で変わります。
一般的な金額を当てはめるより、自社の取引先数を伝えて個別に確かめる方が確実です。

費用対効果は何で測るか:受注側が回答した効果と測り方
受注側が挙げた効果の上位
社内で導入を説明するとき、費用と並んで問われるのが、何がどれだけ良くなるのかです。
中小企業庁の令和3年度取引条件改善状況調査を引用した竹田印刷の記事では、受発注システムを導入した受注側の企業が得られた効果が紹介されています1。
生産性が向上した(41.8%)、業務の定型化・マニュアル化が可能になった(39.9%)、残業時間を減らすことができた(20.6%)などが挙がっています1。
これらは、導入した企業のうち、その効果があったと答えた企業の割合です。
作業時間が何割減った、費用がいくら浮いたという量を示す数字ではありません。
そのため、回答の割合をそのまま自社の削減率や削減額に置き換える使い方はできません。
社内への説明では、受注側の企業がどの方向の効果を感じているかを示す材料として使います。
自社でどれだけの効果が見込めるかは、別に測る必要があります。
自社の作業時間を先に測る
効果を自社の数字で語るには、導入前の作業を測っておくことが出発点になります。
受発注の転記や確認にかかる時間は、おおよそ「月間の注文件数×1件あたりの所要時間」で見積もれます。
1件あたりの時間は、いくつかに分けて測ると、システムでどこが減るのかを結び付けやすくなります。
たとえば、注文書を読み取って入力する時間、数量や品番が不明なときに取引先へ問い合わせる時間、入力の誤りを直す時間です。
取引先がWebで品番を選んで注文するようになれば、FAXの注文書を読み取って入力する時間は、Webで受けた注文の分だけ減ることが見込めます。
一方、在庫や納期の確認、例外的な注文の判断など、人が判断する作業は残ります。
導入後に同じ方法で測り直し、減った時間と残った時間を比べましょう。
そうすれば、費用に対してどの作業がどれだけ軽くなったかを、自社の数字で説明できます。
導入前の数字は、提供元との打ち合わせでも役に立ちます。
注文件数と作業時間の内訳を見せれば、どの作業がシステムで置き換えられ、どの作業が残りそうかを具体的に話し合えるためです。
補助金は使えるか:IT導入補助金(デジタル化・AI導入補助金)の確認ポイント
対象経費と登録ITツールの条件
費用の見当がついたら、補助金で負担を抑えられるかも確かめておきたいところです。
候補になるのはIT導入補助金です。
2026年度からは、デジタル化・AI導入補助金という名称に変わったと報じられています。
中小企業基盤整備機構のJ-Net21の解説によると、通常枠の対象は事務局に登録されたITツールに限られます3。
対象経費は、ソフトウェア購入費、クラウド利用料、導入関連費とされています3。
つまり、検討しているWeb受発注システムがITツールとして登録されていることが、まず前提になります。
登録の有無は提供元ごとに異なるため、見積もりを依頼する際に合わせて尋ねておくと、比較の段階で候補を絞り込めます。
申請はIT導入支援事業者と連携して行い、GビズIDプライムの取得とSECURITY ACTIONの自己宣言も必要とされています3。
補助額の区分や補助率は、導入する業務の範囲などで変わり、特例の条件もあります。
申請を考える年度の公募要領で確かめる必要があります。
受給した後には、効果の報告が求められるとされています3。
導入前に作業時間を記録しておけば、この報告の準備にも役立てられます。
契約・発注の時期に関する注意
補助金を使う場合にもっとも気を付けたいのは、契約の時期です。
交付が決定する前に契約・発注・購入・支払いをした経費は、原則として補助の対象外とされています3。
見積もりを比べて導入先を決めたあと、すぐに契約を結んでしまうと、その費用は補助を受けられなくなるおそれがあります。

補助金を使う場合の順番は、次のとおりです。
見積もりの比較で候補を決め、IT導入支援事業者と申請し、交付決定を待ってから契約します。
交付決定までの期間は導入時期に影響するため、取引先への切り替えの案内や社内の準備の日程も、この順番に合わせて組むことになります。
ただし、補助金は公募の時期や審査の結果に左右されます。
補助を前提に予算を組むより、まず補助がなくても導入できるかを確かめましょう。
補助は負担を抑える手段として位置付けておく方が、判断を誤りにくくなります。
形態ごとの費用の違いが分かっても、自社の注文の流れや価格体系を標準機能と照らし合わせる作業は、提供元の機能を知らないと判断しにくい部分です。
注文の流れと取引先数・価格体系を伝えると、標準機能で済む範囲と追加の対応が要りそうな範囲、その費用がどの費目に入るかを確かめられます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 総額の比べ方 | 初期費用+月額×利用月数を、同じ利用期間でそろえて比べる |
| 月額を動かす条件 | アカウント数(取引先側を含むか)・オプション・カスタマイズ・保守の範囲 |
| 形態の選び方 | 標準機能で済む/運用で吸収する/追加開発が要るに分け、追加開発が要る部分だけ個別開発を検討する |
| 費用目安の扱い | 竹田印刷1社の目安として見取り図に使い、相場とはみなさない |
| 見積もり依頼 | 取引先数・注文件数・価格体系・連携要件・必要機能・運用体制を全社に同じ条件で渡す |
| 取引先の利用 | 主要な取引先の切り替え意向と、独自システムの有無を契約前に確かめる |
| 補助金 | 登録ITツールかを確かめ、交付決定後に契約する |
見積もりの条件の整理や取引先への切り替えの進め方は、自社だけで決めると前提が抜けやすい部分です。 整理した取引先数・注文件数・価格体系などの条件をもとに、課金の単位、取引先側のアカウントの扱い、保守の範囲を自社の条件に当てはめて確かめられます。
よくある質問
Web受発注システムの月額は何で変わりますか。アカウント数以外の課金単位はありますか。
クラウド型の受発注システムでは、アカウント数に応じた従量課金が一般的とされています1。
オプションの追加や独自カスタマイズも別費用になるため、使う機能によっても月額は動きます1。
取引先数や注文件数など、アカウント数以外を課金の単位にしているかどうかは、提供元によって異なりえます。
見積もりの際に、課金の単位と、利用者が増えたときの月額の増え方を尋ねてください。
取引先に使ってもらうとき、取引先側にも費用や手間はかかりますか。
取引先に費用がかかるかどうかは、取引先側のアカウントを誰の契約で数えるかなど、提供元の料金設計によります。
受注側の契約に含まれるのか、取引先に別の負担が生じるのかを、見積もりの段階で確かめておくと安心です。
手間の面では、取引先にとって発注の方法が変わるため、操作を覚える時間や担当者を決める手間がかかります。
説明資料や問い合わせ窓口を提供元がどこまで用意しているかも、あわせて尋ねておくと、併用期間の負担を見積もりやすくなります。
見積もりを複数社から取るとき、何をそろえて依頼すれば比べられますか。
次の内容をまとめ、すべての提供元に同じものを渡します。
取引先数と取引先側の利用人数、月間の注文件数と繁忙期の件数、価格体系、連携要件、必要な機能、社内の運用体制です。
条件がそろっていないと、金額の差が料金の違いなのか、前提の違いなのか見分けられません。
届いた見積もりは、課金の単位、オプションやカスタマイズの扱い、保守の範囲を費目ごとに並べて比べます。
既製サービスに後から機能を追加した場合、費用はどう扱われますか。
オプションの追加や独自カスタマイズには、基本料金とは別にコストがかかるとされています1。
後から追加した場合の扱いは、提供元によって異なりえます。
一度きりの費用になるのか、月額に上乗せされるのか、追加した部分の保守がどう扱われるのか、を確かめましょう。
将来足したい機能がすでに見えているなら、最初の見積もりの段階で、追加時の費用の考え方も聞いておくと総額の見通しが立てやすくなります。
補助金を使いたい場合、契約はいつ結べばよいですか。
IT導入補助金では、交付決定前に契約・発注・購入・支払いをした経費は、原則として補助の対象外とされています3。
補助を使うなら、見積もりで候補を決め、IT導入支援事業者と申請し、交付決定を受けてから契約する順番になります。
名称や要件は変わることがあるため、申請する年度の公募要領で確かめてください。
電話・FAXでの受注が残る取引先がある場合、どう運用しますか。
すべての取引先が同時に切り替わるとは限りません。
電話やFAXで受けた注文を、受注側の担当者がWeb受発注システムに代わりに入力する運用が考えられます。
こうすれば注文の記録を一か所にまとめられ、後の確認先を一つにできます。
ただし代行入力の作業は残ります。
併用する取引先の数と注文件数を見て、導入効果を見積もる際に差し引いておくと実態に近づきます。
- 1 出典:株式会社竹田印刷(TS-BASE運営)「Webの受発注システムの選び方とコストの目安」(2026年更新)
- 2 出典:オリックス・レンテック株式会社「受発注のデジタル化は製造業にどんなメリットをもたらすか」(中小企業庁『令和3年度取引条件改善状況調査』の引用)
- 3 出典:中小企業基盤整備機構 J-Net21「IT導入補助金(通常枠)」(2026年)
- 4 出典:日刊工業新聞社 ニュースイッチ「中小企業庁が中小企業の電子受発注実現へ開発する「データ連携基盤」の全容」(2021年)
画像の出典元
- Hand filling out paperwork with a pen, showcasing focus on document completion./Photo by RDNE Stock project on Pexels