◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 通販事業者が卸ECを構築するときは、既存の卸売業とは出発点が異なり、置き換える受注がないため「売る条件」を先に作る必要があります。
- BtoCと卸では、買い手・価格の持ち方・決済・返品・商品情報など前提が変わる点が複数あります。
- 卸価格の通知方法や商品情報の整備、制度要件は一次情報を確認しながら進めることが欠かせません。
目次
通販事業者向けの卸EC構築は、BtoCの基盤に卸の取引条件を足して作る
通販事業者向けの卸EC構築とは、①売り先の型②卸価格の層③取引条件④商品情報⑤既存BtoC基盤との分け方の5つを決めてから作るシステム整備を指します。既存卸のEC化と違い、置き換える受注がないため売る条件を先に作る順序になります。あわせて、希望小売価格の伝え方やインボイスなどの制度要件も、卸を始める時点で確認する論点になります。
ここでいう「卸(おろし)」とは、小売店や法人など事業者向けに、まとまった数量の商品を販売する取引形態です。本記事では、自社ECやモールでの通販・D2C事業を運営してきた事業者が、新たに卸という販路を立ち上げる場面を想定します。
既存の卸売業のEC化とは出発点が違います
既存の卸売業が行うEC化は、すでにある電話・FAX受注をWebの受注画面へ置き換える工程です。一方で通販事業者が卸を新設する場合、置き換える受注がそもそも存在しません。
そのため本記事の手順は、受注の器を作ることからではなく、掛率・掛売といった「売る条件を作る」ことから始まります。既存の卸受注をWeb化する具体的な工程は、別記事で詳しく解説しています。
通販・EC市場は拡大しており、卸へ出る動きの土台になっています
公益社団法人日本通信販売協会(JADMA)の調査によると、2024年度(2024年4月〜2025年3月)の通販・EC市場売上高は14兆5,500億円でした*8。前年比では7.3%増、金額にして9,900億円の増加です*8。
この数字は2024年度時点のものであり、現在値ではありません。ただし、通販・D2C事業者の裾野が広がるほど、次の販路として卸を検討する事業者が増える土台になっていると言えます。
BtoCと卸で前提が変わる7点
通販事業者が卸を始めると、BtoCで前提にしてきた7つの点が変わります。まず全体を一覧にし、そのあとで1点ずつ見ていきます。
| 観点 | BtoC通販 | 卸(BtoB) |
|---|---|---|
| 買い手 | 一般消費者 | 事業者(小売・法人) |
| 価格の持ち方 | 定価1本 | 取引先別・数量帯別 |
| 決済と回収 | 前払い・都度決済 | 掛売・締め請求 |
| 返品 | 個人向けの返品対応 | 取引条件で個別に取り決め |
| 配送単位 | 個口単位 | ケース・入数単位 |
| 商品情報 | 画像・説明文が中心 | GTIN・入数・外装等の属性 |
| 適用される制度 | 特定商取引法が適用 | 事業者間取引として扱われる場面が生じる |
買い手が事業者になり、特定商取引法の前提が変わります
特定商取引法は第26条第1項第1号で、営業のために若しくは営業として締結する取引を適用除外としています*4。事業者間の取引はこの規定の対象になり得るため、BtoCで整えてきた表示・返品の枠組みをそのまま前提にはできません。
ただし取引の実態によって判断が分かれる場面もあるため、卸取引であれば一律に特定商取引法が及ばないと決めつけないことが大切です。
価格が1つでなくなります
BtoCでは定価1本で販売してきた商品も、卸では取引先別・数量帯別に価格を分けることになります。ここでいう「掛率(かけりつ)」とは、小売の想定売価に対して卸価格を何パーセントに設定するかを示す割合です。価格の層をどう持つかは、後述の「卸価格は4層で持ち、希望小売価格は『参考価格』として伝える」で具体的に扱います。
回収が後払いになります
BtoCは前払いや都度決済が中心ですが、卸では「掛売(かけうり)」、つまり商品の引き渡し時に代金を受け取らず、後日まとめて請求・回収する方法が一般的です。これにともない、取引先の支払い能力をあらかじめ確認する「与信」の管理も必要になります。与信審査の実務は別記事に譲ります。
配送単位が変わります
個口単位で送っていたBtoCの配送に対し、卸ではケース・入数単位で動く前提が加わります。最低ロットや分納の可否も、取引条件として決める項目です。
商品情報の粒度が上がります
小売の棚に商品を載せるには、GTIN(商品を一意に識別する国際標準コード。日本ではJANコードとして流通)や入数、外装サイズといった属性が必要になります。詳細は後述の「小売の棚に載せるにはGTIN・入数・外装の3属性が要る」で扱います。
注文の入り口が変わります
公開されたBtoCのカートに対し、卸では取引先限定の画面への切り替えが必要になります。この画面はクローズドEC(会員登録した取引先だけがログインして閲覧・購入できる非公開のEC画面)と呼ばれます。
ここまでの7点を自社の数字にあてはめて確認したい場合は、無料相談で要件を整理する方法もあります。
卸ECは5段で立ち上げる
前章で見た前提の違いを踏まえ、卸ECは次の5段で立ち上げます。順位の根拠は、後段が前段の決定に依存する実施順序です。
卸ECを立ち上げる5段(順位根拠:実施順序)
- 売り先の型を決める。小売店・法人ユーザー・代理店のうち、どこへ卸すかによって取引条件の設計が変わります。
- 卸価格の層を決める。掛率の水準ではなく、標準卸価格・取引先別・数量帯別・季節限定という層の数と組み方を先に設計します。
- 取引条件を文書にする。与信枠・締め日・支払期日・最低ロット・返品の可否・送料の負担を項目として明文化します。
- 商品情報を卸に耐える形へ整える。GTIN・入数・外装サイズ・賞味期限等の属性を商品マスタに追加します。
- 既存BtoC基盤との分け方を決めてからシステムを選ぶ。在庫・受注・会員・画面のどこを共用しどこを分離するかを先に決めます。
少数の取引先に絞って先行して受注を流し、運用が回ることを確認してから取引先を広げる進め方も有効です。先行運用そのものの作法は、既存の卸売業のEC化を扱う記事で詳しく解説しています。売り先がECモールに出店する事業者の場合は、想定する論点が一部異なります。
卸価格は4層で持ち、希望小売価格は「参考価格」として伝える
価格を何層で持つかを先に決めます
卸価格は、標準卸価格・取引先別・数量帯別・季節限定という4層で考えると整理しやすくなります。掛率の具体的な水準は取引先や商品カテゴリーで異なるため、本記事では層の設計にとどめます。
自社ECの価格との関係を整理します
通販事業者は自社ECで価格をすでに公開しているため、その価格が事実上の店頭価格の目安になりやすい傾向があります。この関係をどう扱うかは、卸を始める際に欠かせない論点です。
希望小売価格を伝えるときの書き方に注意します
公正取引委員会の「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」では、希望小売価格等を流通業者に通知する場合の書き方が示されています*1。「正価」「定価」といった表示や金額のみの表示ではなく、「参考価格」「メーカー希望小売価格」といった非拘束的な用語を用いることが望ましいとされます*1。あわせて、流通業者の販売価格は各流通業者が自主的に決めるべきものであることを明示することも望ましいとされています*1。
再販売価格の拘束が許されるかどうかという可否論は本記事の範囲を超えるため、別記事で扱っています。
取扱先に基準を設ける場合は選択的流通の考え方があります
同指針は、商品を取り扱う流通業者に基準を設ける場合の考え方も示しています*1。基準が品質の保持や適切な使用の確保等、合理的な理由に基づき、かつ取扱いを希望する他の流通業者にも同等の基準が適用される場合には、通常問題とはならないとされています*1。取扱先を絞る条件を設ける際の参考になります。
回収の設計をECに落とし込みます
与信枠・締め日・支払期日は、ECの取引先マスタや請求機能のどこに持たせるかをあらかじめ決めておく項目です。
| 設計項目 | ECの設定対応 |
|---|---|
| 標準卸価格 | 商品マスタの基準価格 |
| 取引先別価格 | 取引先マスタに紐づく価格テーブル |
| 数量帯別価格 | 数量閾値ごとの単価設定 |
| 与信枠・締め日 | 取引先マスタの与信・請求条件欄 |
小売の棚に載せるにはGTIN・入数・外装の3属性が要る
GTIN(JANコード)を整えます
GS1 Japan(一般財団法人流通システム開発センター)によると、GS1事業者コードは「45」または「49」で始まる番号です*5。桁数は9桁、10桁または7桁のいずれかで貸与されます*5。GTIN(JANコード)は、商品のブランドを持つ事業者が、このGS1事業者コードを用いて商品ごとに設定するものです*5。自社EC専業で運営してきた事業者は、この整備が未着手のことがあります。
入数・外装・重量を整えます
卸ではケース単位で動くことが前提になるため、入数・外装サイズ・重量といった属性を商品マスタに追加します。商品画像や素材の整備については別記事にまとめています。
商品マスタを1つにするか2つにするかを決めます
BtoC用の商品マスタに卸向けの属性を追加するか、卸専用のマスタを別に持つかは、既存システムの拡張性によって選択が分かれます。
| 不足している商品情報 | 商談で起きやすいこと |
|---|---|
| GTIN未設定 | 小売側のシステム登録ができず止まる |
| 入数・外装未整備 | 発注単位の提示ができない |
| 賞味期限等の属性欠如 | 取扱いの可否判断が保留になる |
在庫・受注・会員・画面の4点で共用と分離を決める
卸を始める通販事業者が最後に悩むのが、既存のBtoC基盤と卸ECをどこまで分けるかという判断です。在庫・受注・会員・画面の4つに分けて考えます。
在庫を共用するか分離するかを決めます
在庫を共用にすると、卸で大口注文が入った際にBtoCの在庫が枯れる恐れがあります。分離すれば防げますが、在庫の重複保有というコストが生じます。引当の優先順をどちらに置くかもあわせて決める必要があります。
受注データを1本にまとめるか分けるかを決めます
受注データを一本化すると分析はしやすくなりますが、卸特有の項目(締め日・取引先コード等)をBtoC側の画面に混在させない工夫が要ります。CSV連携による実務は別記事で扱っています。
会員・取引先を分けて管理します
BtoCの会員と卸の取引先は、与信・締め条件・担当者情報など保持する項目が異なるため、別マスタとして持つのが基本です。
画面を公開・非公開で切り分けます
卸の注文画面は、取引先ごとの価格・与信枠を表示する必要があるため、クローズドECとして公開画面と切り分けます。
| 観点 | 共用が向く場合 | 分離が向く場合 |
|---|---|---|
| 在庫 | 卸の取扱数量が小さい | 卸で大口注文が見込まれる |
| 受注 | 分析を一元化したい | 卸特有の項目が多い |
| 会員・取引先 | 対象外(常に分離が基本) | 与信・締め条件の管理が必要 |
費用面の比較は別記事にまとめています。
特商法の適用除外・インボイス・PB製造の3論点が増える
特定商取引法の適用除外を踏まえます
前述のとおり、特定商取引法は第26条第1項第1号で、営業のために若しくは営業として締結する取引を適用除外としています*4。ただし取引の実態に応じた判断が必要になる場面もあるため、法令の適用可否を断定せず、必要に応じて所管官庁の資料を確認することが大切です。
請求と保存の要件が加わります
卸を始めると請求の相手が法人になり、インボイス制度への対応が関わってきます。国税庁によると、適格請求書等保存方式(インボイス制度)は令和5年(2023年)10月1日から開始し、記載事項は6項目です*6。記載事項の詳細は別記事にまとめています。
また国税庁は、請求書・領収書・契約書・見積書などに関する電子データを送付・受領した場合、電子帳簿保存法で定められた要件を満たした形で保存することが必要だとしています*7。そのうえで、令和6年からは保存要件に従った電子データの保存を求めています*7。
PB(プライベートブランド)の話が来ると立場が変わります
公正取引委員会・中小企業庁の「中小受託取引適正化法テキスト」(令和7年11月)によると、製造設備を持たない事業者であっても、仕様・内容等を指定して他の事業者に製造を依頼する場合は「委託」に該当します*2。通信販売業等が自社のプライベートブランド(PB、小売事業者などが企画し自社ブランドとして販売する商品)商品の製造を依頼することも、該当する例として挙げられています*2。
一方で、規格品・標準品を購入することは、原則として「委託」に該当しないとされています*2*3。ただし規格品・標準品であっても、その一部でも自社向けの加工等をさせる場合には「委託」に該当するとされています*2。中小受託取引適正化法(取適法、下請法の改正法)の施行期日は令和8年1月1日で、義務違反には50万円以下の罰金の規定があります*2。
通販事業者の卸EC構築でつまずく5つの箇所
ここまでの内容を踏まえ、実務でつまずきやすい箇所と、どの段階で対処すべきかを整理します。
- 卸価格を1層で作ってしまい、取引先が増えた時点で価格の整合が取れなくなる(第2段で層を設計しておく)。
- 与信・締めを決めずに受注を開け、回収の見通しが立たなくなる(第3段で取引条件を文書化しておく)。
- GTINや入数の情報が無く、小売との商談が止まる(第4段で商品情報を整えておく)。
- 在庫を共用にしたまま卸を開始し、大口注文でBtoCの在庫が枯れる(第5段で共用・分離を判断しておく)。
- 自社ECの価格の扱いを決めずに卸を始め、販路間の関係を後から調整することになる(価格設計の段階で希望小売価格の伝え方まで決めておく)。
そのまま使える決定事項チェックリスト
段別チェックリスト
- 売り先の型(小売店・法人ユーザー・代理店)を決めたか。
- 卸価格の層(標準・取引先別・数量帯別・季節限定)を決めたか。
- 与信枠・締め日・支払期日・最低ロット・返品の可否・送料負担を文書化したか。
- GTIN・入数・外装サイズ等の商品情報を整えたか。
- 在庫・受注・会員・画面の共用/分離を決めてからシステムを選んだか。
公開前の最終確認
- 希望小売価格を通知する場合、「参考価格」等の非拘束的な用語を用いているか。
- 取引条件(与信・締め・返品)が取引先ごとに明文化されているか。
- 商品情報(GTIN等)が小売の要求水準を満たしているか。
- 在庫の引当ルールが卸とBtoCの間で決まっているか。
- 電子取引データの保存要件に沿った運用になっているか。
まとめ:通販事業者の卸EC構築は「売る条件を先に作れたか」で決まる
本稿では、通販事業者が卸ECを構築する進め方を、売り先の型・卸価格の層・取引条件・商品情報・既存BtoC基盤との分け方という5段で整理しました。要点を3つに集約すると次のとおりです。第一に、既存の卸売業のEC化とは異なり、置き換える受注がないため売る条件を先に作る必要があります。第二に、BtoCと卸では買い手・価格・決済・商品情報など前提が変わる点が複数あります。希望小売価格の通知方法や取適法上のPBの扱いなど、一次情報を確認しながら進める論点も含まれます。第三に、在庫・受注・会員・画面のどこを共用しどこを分離するかを決めてから、システムの選定に進むことが手戻りを防ぎます。
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
よくある質問
既存のBtoCサイトをそのまま卸に使えますか。
画面や会員基盤をそのまま流用することは難しく、取引先限定の画面や取引先別価格の仕組みを別に用意することが一般的です。在庫・受注をどこまで共用するかは、本文の「在庫・受注・会員・画面の4点で共用と分離を決める」の判断軸に沿って検討してください。
卸価格は取引先ごとに変えてよいのですか。
卸価格(仕切価格)を取引先ごとに設定すること自体は一般的です。ただし卸した先の再販売価格を拘束できるかどうかは別の論点で、独占禁止法上の考え方は別記事で解説しています。
小売店に卸すのにJANコード(GTIN)は必要ですか。
GTIN(JANコード)は、商品のブランドを持つ事業者がGS1事業者コードを用いて商品ごとに設定するものです*5。必要かどうかは取引先の要求次第であり、一律に必須と断定はできませんが、小売との商談では確認を求められることが少なくありません。
卸を始めると特定商取引法の扱いはどうなりますか。
特定商取引法は第26条第1項第1号で、営業のために若しくは営業として締結する取引を適用除外としています*4。ただし取引の実態によって判断が分かれる場面もあるため、卸取引であれば一律に対象外になるとは限りません。
小売から自社ブランド品(PB)の製造を頼まれたら何が変わりますか。
仕様や内容を指定して製造を依頼される場合は「委託」に該当し、通信販売業等がPB商品の製造を依頼することも対象例に挙がっています*2。一方、規格品・標準品の購入は原則として「委託」に該当しないとされています*2*3。
- *1 出典:公正取引委員会「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(平成3年7月11日公表・令和8年7月8日改正)
- *2 出典:公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ」(令和7年11月)
- *3 出典:公正取引委員会「よくある質問コーナー(中小受託取引適正化法)」(継続更新)
- *4 出典:消費者庁「特定商取引法ガイド 訪問販売等の適用除外に関するQ&A」(継続更新)
- *5 出典:一般財団法人流通システム開発センター(GS1 Japan)「GS1事業者コード・GTIN(JANコード)とは」(継続更新)
- *6 出典:国税庁「特集 インボイス制度/制度の概要」(継続更新)
- *7 出典:国税庁「電子帳簿保存法関係/電子取引関係」(継続更新)
- *8 出典:公益社団法人日本通信販売協会(JADMA)「2024年度 通販・EC市場売上高調査」(2025年8月28日公表)
画像の出典元
- 通販のイメージ/Photo by Laura Chouette on Unsplash
- 在庫のイメージ/Photo by Lance Chang on Unsplash
- 受注のイメージ/Photo by Lucas on Unsplash