◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 卸売の商流可視化とは、誰が誰に何をいくらで売ったかを取引データとして記録し、参照できる状態にすることです。
- 卸売業では受注チャネルの分散と多段流通により、出荷先の先が見えにくくなっています。
- ECの受発注データを起点に、項目定義から指標化まで4つのステップで可視化を進められます。
目次
卸売の商流可視化とは — 誰が誰に何を売ったかを記録する
卸売の商流可視化とは、誰が誰に何をいくらで売ったかを取引データとして粒度をそろえて記録し、いつでも参照できる状態にすることです。国内のBtoB-EC化率は2024年に43.1%まで進んでいます*1。
卸売業の商流は、メーカーから一次卸、二次卸を経て需要家へ届くまでに複数の事業者が関わります。所有権と代金の流れである商流と、モノの動きである物流を分けて捉える視点が出発点になります。
商流と物流の違い — 所有権の移転とモノの移動は一致しない
商流とは商品の所有権と代金が移る流れを指し、物流とは商品そのものが移動する流れを指します。商物分離という考え方のもとでは、この2つは必ずしも一致しません。
例えば、メーカーから需要家へ直接商品を配送しても、代金の請求は一次卸を経由する場合があります。このとき物流は直送でも、商流は一次卸を経由したままです。可視化の対象は取引データが示す商流であり、配送記録だけを追っても実態はつかめません。
可視化できると答えられる問い — 帳合先別売上と直送比率
商流を可視化すると、帳合先別の売上構成、直送分の構成比、定番品と特売品の内訳、初回発注後に取引が継続しているかどうかを答えられるようになります。これらはいずれも、受注時点の取引データが粒度をそろえて残っていて初めて集計できる問いです。
ECの受発注データが可視化の起点になる理由
受注をECへ寄せると、受注の時点で取引先コード・商品コード・単価・区分といった項目が構造化データとして残ります。電話やFAXでの受注は、後工程で担当者が基幹システムへ再入力する過程で情報が欠落したり、区分の付け方が担当者ごとに揺れたりしやすいものです。
ECの受発注データを起点にすれば、この再入力・推定という工程そのものを減らせます。取引先の多対多構造をどうシステムで設計するかは別の論点であり、本記事ではデータの可視化に絞って扱います。
卸売の商流が見えなくなる3つの要因
本節では、商流が見えなくなる要因を一次情報の記述にもとづいて整理します。次節では、見えるようにするために何をそろえるべきかを扱います。
受注チャネルの分散 — 電子受発注に対応するのは受注側で48.5%
中小企業庁の令和3年度取引条件改善状況調査(2021年)による数値があります。電子受発注に対応している企業は、受注側で48.5%、発注側で40.9%でした*2。いずれも産業全体の集計値です。裏を返せば、受注側の半数近くが電話・FAX等の非電子チャネルを残していることになります。
同庁の令和3年度調査報告書は、この普及率を「2015年で20%弱、直近でも40%程度」と総括しています*3。受注チャネルが電話・FAX・EDI・ECに分散したままでは、取引データの粒度がチャネルごとに揃いません。可視化の前提となる記録そのものが欠けてしまいます。
個社仕様Web-EDIがデータを分断する — 手入力と人員の稼働
同報告書が鉄鋼業界の加工業者・二次問屋に対して行ったヒアリングでは、需要家ごとに個別仕様のWeb-EDI(企業間の受発注をインターネット経由でやり取りする仕組み)への対応実態が記載されています。取引先ごとに画面や操作を合わせ、社内システムには手入力が発生しているとのことです*3。同じヒアリングには、ある事業者が5人体制で1日の6割の時間を割いて対応しているとの記述もあります*3。
個社仕様のWeb-EDIが増えるほど、担当者は取引先ごとの画面操作を覚え、結果を手作業で転記する時間を積み増すことになります。この転記の過程で入力ミスや区分の付け違いが起きると、後工程の集計そのものが崩れます。
個社仕様への対応を後回しにすると、取引先が増えるたびに手入力の負荷が積み上がります。可視化に必要な項目定義を先延ばしにするほど、後から蓄積済みのデータを作り直す手戻りが発生しやすくなります。
この負荷を自社の数字で確かめるには、無料相談で受発注の要件を整理するのが近道です。
多段流通で最終需要家が見えない — 鉄鋼流通の構成比が示す実態
中小企業庁の同報告書は、鉄鋼流通における先行事例として構成比を記載しています。メーカーの大手需要家への直売は約5%にとどまります*3。一次問屋がメーカーから仕入れる比率は約95%、一次問屋から大手需要家への卸売は約70%、加工業者・二次問屋の仕入は約25%です*3。
この比率は同報告書が鉄鋼流通の構成として記述したものであり、卸売業全体に当てはまる数値ではありません。ただし、多段流通のもとでは自社の出荷先が最終需要家と一致しない場面がある、という点を具体的な数字で裏づける例にはなります。
自社の受注データだけを見ていると、出荷先を最終需要家と取り違えたまま販売先別の分析を進めてしまう可能性があります。帳合先・直送先・最終需要家を別の項目として持つ設計が、この取り違えを防ぐ手立てになります。
商流可視化でそろえるデータ項目
可視化の実務でつまずきやすいのは、ツールの選定よりも先に、そろえるべきデータ項目とその粒度を決めていない点です。ここでは最低限の項目とコード体系の考え方を整理します。
最低限そろえる5つのデータ項目
下表は、商流可視化のために取引データへ持たせる項目と、粒度を決める際の注意点をまとめたものです。
| 区分 | 項目 | 粒度の注意 |
|---|---|---|
| 誰が→誰に | 取引先コード(出荷先・請求先・帳合先) | 3者が一致しない前提で、それぞれ別列として持ちます。 |
| 何を | 商品コード(自社コード・JAN/GTIN) | 商品改廃後の旧コードも名寄せして残します。 |
| いくらで | 受注単価・仕切単価・掛率 | 建値と実売価を別項目として分けます。 |
| いつ | 受注日・出荷日・検収日 | 売上計上をどの日付基準に置くか先に決めます。 |
| どう流れたか | 直送区分・帳合区分・特売区分 | 区分値の定義を、運用開始前に固定します。 |
コード体系をそろえることが前提条件
取引先コードや商品コードが取引先ごと・システムごとにばらついていると、上表の項目をいくら定義しても集計時に名寄せの手間が発生します。取引先マスタの名寄せ・統合の実務手順は、別記事で詳しく扱います。
流通BMSの6業務8種をデータの器として使う
流通BMS(消費財流通のためのEDI標準仕様。GS1 Japanが策定)は、発注・出荷・受領・返品・請求・支払という6業務・8種類の標準メッセージを持ちます。基本形Ver.1.0として2007年4月に公開されました*4。ただし対象はスーパー・グロサリー業界を起点とした卸売(またはメーカー)〜小売間の取引です*4。鉄鋼や電材卸など他業界へそのまま適用できる仕様ではなく、ここでは項目定義の考え方を参照する対象として扱います。
個社仕様のWeb-EDIは取引先ごとに項目の呼び方や区分値が異なりがちですが、流通BMSの6業務の単位に沿えば、項目定義を取引先間で共通化しやすくなります。可視化のためのデータ整備と、取引先拡張のための標準化を、別々の取り組みとして進めずに済みます。
この6業務の単位に沿ってデータを持てば、可視化のための項目整理と、取引先を標準EDIへ広げていく作業を同じ土台の上で進められます。既存EDIから流通BMSへ移行する具体的な手順は、別記事に譲ります。
ECの受発注データで商流を可視化する4ステップ
ここまで整理した項目を、実際にどう積み上げていくかを4つの手順に分けて示します。順序はSTEP1から着手し、後戻りしない範囲で進めるのが基本です。
商流可視化の実施順4ステップ/順位根拠:手順(実施順序)
- STEP1|受注チャネルを棚卸しする。電話・FAX・EDI・ECのチャネル別に、件数・金額・処理にかかる時間を数え、どこにデータの欠落が生じているかを把握します。
- STEP2|ECへ受注を寄せ、そろえる項目を定義する。取引先コード・商品コード・単価・区分の区分値をあらかじめ文書化してから運用を始めます。
- STEP3|基幹システムや既存EDIと連携し、名寄せ済みの取引先マスタへ統合する。既存EDIとECが併存する期間の扱いを、ここで設計します。
- STEP4|指標に落として定点で見る。帳合先別売上構成・直送比率・欠品率・初回発注からの継続率を、決めた周期で確認します。
可視化した商流データの使いどころ
データをそろえて終わりにせず、どの意思決定に使うかを決めておくと投資判断の根拠になります。本節では代表的な3つの使いどころを扱います。
発注が途切れた取引先を見つける
帳合先別の売上を定点で見ていると、発注が途切れた取引先や、継続率が下がっている取引先を早く把握できます。休眠している取引先への働きかけ方は、別記事で扱います。
請求・与信の突合精度を高める
取引先コードと単価区分が整っていると、月次の請求・締め処理での突合作業の精度が上がります。締め・請求突合の実務は、別記事で詳しく扱います。
電子帳簿保存法の電子取引定義と両立する
電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)第2条第5号は、電子取引を定義しています。取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項)の授受を電磁的方式により行う取引、というのがその定義です(2025年4月1日施行時点)*5。
ECで受発注をやり取りする以上、可視化のために残すデータは、この定義に沿う保存対象のデータでもあります。保存要件の詳細は本記事の範囲外であり、条文の定義のみを紹介するにとどめます。
可視化の項目定義と保存要件の対応は、別の担当部門と早い段階ですり合わせておくと、後から項目を追加する手戻りを避けやすくなります。
卸売の商流可視化でつまずきやすい3つの点
ここまでの手順を踏んでも、進め方を誤ると成果につながりにくくなります。本節では、着手前に確認しておきたい3つの点を扱います。
目的を決めずにダッシュボードから着手する
可視化の画面を先に作ってしまうと、どの意思決定に使うのかが後付けになりがちです。先に「どの意思決定を変えるか」を1つ決めてから、必要な項目を逆算する順序が現実的です。
取引先への負担を考えずに移行を進める
既存EDIから一気に切り替えると、取引先側の対応が追いつかず、受注の取りこぼしにつながりかねません。既存EDIとの併存期間や移行の順序を先に設計しておく必要があります。
数値の定義を後回しにする
売上計上基準、返品の扱い、値引きの扱いを最初に文書化しないまま集計を始めると、後から数値の意味がぶれます。この作業を自社だけで内製する場合、取引先コードの設計、商品コードの名寄せ、基幹システムとの連携仕様の整理という、業務知識とデータ設計の両方の知識が要ります。
外部の知見を借りる場合との違いは、区分値の定義や既存EDIとの併存設計にかかる検討の範囲です。自社の商習慣に合わせてどこまで区分値を細かく持つべきかは、個別の取引条件によって変わるため、判断に迷う場面では専門家に相談する選択肢もあります。
まとめ — 卸売の商流可視化で押さえる3つの判断軸
本稿では、卸売の商流可視化とは何かと、ECの受発注データを起点にした進め方を整理しました。要点を3つに集約すると次の通りです。第一に、商流可視化とは誰が誰に何をいくらで売ったかを取引データとして記録することです。第二に、受注チャネルの分散と多段流通が見えなくなる主な要因であり、鉄鋼流通の構成比のような具体例が実態を裏づけます。第三に、項目定義から指標化までの4ステップで、既存EDIとの併存を設計しながら進める必要があります。
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
よくある質問
商流の可視化と物流の可視化は何が違いますか。
商流は所有権と代金の移転を指し、物流はモノの移動を指します。直送のように物流と商流が一致しない取引もあるため、可視化する対象は取引データが示す商流です。
ECを導入すれば自動的に商流は見えるようになりますか。
自動的には見えるようになりません。ECの受発注データを起点に、取引先コードや区分値といった項目をあらかじめ定義しておく必要があります。
自社の出荷先の、さらに先まで追うことはできますか。
自社が持つ取引データだけで追える範囲には限界があります。多段流通では出荷先が最終需要家と一致しないことがあり、その先は取引先からの情報提供に頼る部分が残ります。
既存のEDIを残したままでも商流の可視化はできますか。
できます。既存EDIとECを併存させながら、名寄せ済みの取引先マスタへ両方のデータを統合する設計にすれば、移行を段階的に進められます。
商流を可視化すると何から着手すればよいですか。
まず受注チャネルを棚卸しし、電話・FAX・EDI・ECの件数と処理時間を把握することから始めます。そのうえで、可視化に使う項目の区分値を定義します。
- *1 出典:経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」(2025年8月26日公表)
- *2 出典:中小企業庁「令和3年度 取引条件改善状況調査」(2021年・産業全体の集計値/電子受発注システム導入率 受注側48.5%・発注側40.9%)
- *3 出典:中小企業庁「中小企業の受発注のデジタル化推進方策に関する調査 報告書」(2022年3月31日)
- *4 出典:GS1 Japan(一般財団法人流通システム開発センター)「流通BMS」
- *5 出典:e-Gov法令検索「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(電子帳簿保存法)第2条第5号」
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