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卸売の仕切価格・掛率の決め方と改定手順

◆監修・編集責任者 小園 将隆 

B2B EC-COLUMN

この記事のポイント

  • 卸売の掛率は、業界相場を探すのではなく、必要粗利から逆算して決めます。
  • 取引先ごとに掛率へ差をつける場合は、差の根拠をマスタへ残す必要があります。
  • コスト上昇時の改定手続きと、取適法・独占禁止法の線引きを順に整理します。
卸売価格の設定
▽ 写真の出典元

卸売の仕切価格と掛率の関係――上代・仕切価格・掛率を式で整理する

卸売の仕切価格とは、卸売業者が取引先へ商品を引き渡すときの取引価格であり、掛率とは、その仕切価格が上代(希望小売価格などの基準価格)に占める割合です。上代1,000円の商品を掛率70%で卸す場合、仕切価格は700円になります*3。本記事では、この掛率を「相場から選ぶ数字」ではなく「自社の必要粗利から逆算して決める数字」として扱い、コスト上昇時の改定手続きまで整理します。

図
上代に掛率を掛けて仕切価格が決まり、小売価格は店舗側が付ける。歩引き・リベートは仕切価格の外側で調整する。

掛率=仕切価格÷上代、仕切価格=上代×掛率で表せます

掛率の関係は、次の2つの式で表せます。「仕切価格=上代×掛率」と「掛率=仕切価格÷上代」です。上代1,000円・掛率70%であれば仕切価格は700円、上代1,000円・仕切価格800円であれば掛率は80%(8掛け)になります。

どちらの式も同じ関係を別の向きから見たものにすぎません。ただし卸売の実務では、上代から掛率を先に決めて仕切価格を求める順序と、必要な仕切価格から掛率を逆算する順序の両方が使われます。次の章では後者の逆算を中心に扱います。

「6掛け」「7掛け」という言い方と実務での使われ方

掛率は「6掛け」「7掛け」のように、10分率の呼び方で表現されることがあります。6掛けは掛率60%、7掛けは掛率70%を意味し、掛率77.5%であれば「7掛け7分5厘」のように表せます。取引先との会話では、掛率の数値そのものより、この呼び方で条件を確認する場面もあります。

呼び方が業界の慣習で決まっているように見えても、その数字の根拠が自社の原価構造と一致しているかは別問題です。次章で、必要粗利からの逆算という別の出発点を示します。

建値・歩引き・リベートとの区別

仕切価格と混同しやすい用語に、建値・歩引き・リベートがあります。建値はメーカーや卸が設定する基準価格の呼び方の一つです。歩引きは請求額から一定割合を差し引く決済上の調整であり、リベートは一定期間の実績に応じて事後的に払い戻す仕組みです。いずれも仕切価格そのものではなく、仕切価格を基準にした周辺の調整項目という位置づけになります。

建値制度をECサイトの価格表示にどう反映するかは、実装方式に関わる論点のため、卸売の建値制度をECへ移行する手順の記事で扱います。事後値引きであるリベートの管理については、卸売リベート・割戻のEC管理の記事で扱います。

掛率は相場でなく必要粗利から逆算して決める

「業界別の掛率相場」として流通している数字には、調査名・母集団・年次を確認できるものが見当たりません。相場探しから始めても自社の数字は決まらないため、本章では自社の原価構造から掛率を逆算する手順を示します。

逆算の式――仕切価格=原価÷(1-必要粗利率)

必要粗利から掛率を逆算する式は「仕切価格=原価÷(1-必要粗利率)」です。求めた仕切価格を上代で割ると、掛率=仕切価格÷上代で求められます。原価に対して先に粗利率を決め、そこから仕切価格・掛率の順に導く点が、上代から掛率を先に決める考え方との違いです。

必要粗利に織り込むコスト

必要粗利率には、仕入原価だけでなく複数のコストを織り込む必要があります。物流費、与信および回収にかかるコスト、販促負担、返品リスクの4つが代表的な要素です。

  • 物流費:配送・保管にかかる実費
  • 与信および回収コスト:支払サイトの長さや未回収リスク
  • 販促負担:カタログ・展示会など取引先向けの販促費
  • 返品リスク:返品・不良品の発生に備える分

これらを仕入原価に上乗せしたうえで必要粗利率を設定すると、仕入原価だけで決めた掛率よりも実態に近い数字になります。自社の数字を自分で出せる状態にするには、この4項目を洗い出す作業が欠かせません。

計算例――上代1,000円・原価620円・必要粗利率20%のとき

上代1,000円、仕入原価620円、必要粗利率20%という条件(説明のための計算例であり、特定企業の実績値ではありません)で計算します。仕切価格=620円÷(1-0.20)=775円です。掛率=775円÷1,000円=77.5%(7掛け7分5厘)になります。

この例のとおり、必要粗利率を先に固定すれば、原価が変わっても同じ考え方で仕切価格・掛率を再計算できます。物流費や与信コストの洗い出しで手が止まる場合は、無料相談で要件を整理するところから始める方法もあります。

取引先ごとの掛率差に必要な「根拠」の示し方

取引先のイメージ
▽ 写真の出典元

取引先ごとに掛率へ差をつけること自体は珍しくありません。ただし差の根拠を聞かれたときに答えられる状態にしておく必要があります。

差の根拠になりうる要素

掛率差の根拠として説明しやすい要素5点/順位根拠:説明のしやすさ(客観性の高さ)

  1. 取引数量:まとめて仕入れる量に応じた物流・処理コストの差を反映します。
  2. 物流負担:取引先が配送・倉庫作業の一部を負担する場合の差です。
  3. 与信条件:支払サイトの長さや保証の有無による回収リスクの差です。
  4. 販促協力:カタログ掲載や展示会出展など、取引先側の協力度合いの差です。
  5. 返品条件:返品の可否・期限による在庫リスクの差です。

数量による掛率差をどこまで段階的に設計するかは、BtoB ECの数量割引・階段価格の設定の記事で扱います。

差の根拠をマスタに残す

差をつけた掛率は、適用開始日・根拠・承認者をマスタに記録しておく必要があります。口頭やメールだけで決めた掛率は、担当者が変わった時点で根拠が分からなくなりかねません。記録する項目の設計は次の章でさらに詳しく扱います。

独占禁止法上の論点は2つある

取引先ごとの掛率差そのものは、独占禁止法が禁じているわけではありません。掛率を決める側が押さえる論点は2つです。1つ目は流通業者の販売価格を拘束しないこと、2つ目は上代の示し方です。いずれも公正取引委員会「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(令和8年7月8日最終改正)が考え方を示しています*3。同指針は、事業者が流通業者の販売価格を拘束する場合、原則として不公正な取引方法として違法となるとしています*3。他方で、事業者が設定する希望小売価格や建値については、流通業者に単なる参考として示している限りは問題とならないとしています*3。再販売価格の拘束や取引先別の価格設定をさらに詳しく知りたい場合は、BtoB ECにおける販売店価格の統制と取引先別価格のEC実装の各記事で解説しています。

コスト上昇時の掛率改定――4月・10月に向けた4つの手順

仕入原価・物流費・人件費が上がったとき、掛率をどこまで反映してよいかで悩む担当者は少なくありません。ここでは公表データと改定の手順を順に示します。

改定の時期――3月・9月は価格交渉促進月間です

価格改定は4月と10月に行う企業が比較的多く、中小企業庁はその前月にあたる3月と9月を「価格交渉促進月間」に設定しています*2。改定の申し入れを検討するなら、この前月のタイミングを目安にすると準備がしやすくなります。

価格交渉の実態を数字で押さえる

中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果」(令和8年6月26日公表)は、受注側の中小企業30万社へ配布し、69,625社から回答を得た調査です(調査期間は2026年4月20日から6月3日)*2。回答からは発注側企業が延べ91,233社抽出されており、以下の割合はいずれも回答企業数ではなく、この発注側企業ごとの回答を母数とする分布です*2

直近6か月間に価格交渉が行われた割合は90.7%でした(「価格交渉不要」の回答を除いた分布、n=65,311)*2

コスト上昇分のうち実際に価格転嫁が実現した割合の平均値は54.2%です(「価格転嫁不要」の回答を除いた分布、n=72,037)*2。コスト要素別では、原材料費55.7%、労務費50.0%、エネルギーコスト48.9%となっています*2。同調査には「価格転嫁不要」を含む別の分布もあり、母集団が異なる数値を単純に比較できない点に注意が必要です。

改定を進める4ステップ

掛率の改定は、思いつきの値上げ交渉にせず、次の4ステップで進めると経緯を後から説明できます。

図
掛率改定はコスト根拠の整理から適用開始日と版の管理まで4段階で進める。
  1. コスト根拠の整理:仕入原価・物流費・人件費など、上昇した項目と金額を整理します。
  2. 協議の申し入れ:整理した根拠をもとに、取引先へ改定の協議を申し入れます。
  3. 発注内容の明示:協議後の条件は、口頭でなく発注書や取引条件通知書などの書面で明示します。
  4. 適用開始日と版の管理:新しい掛率の適用開始日を決め、変更履歴として版を残します。

掛率の決定・改定で守る法令の線引き――取適法と独占禁止法

根のイメージ
▽ 写真の出典元

掛率の決定・改定には、独占禁止法に加えて、2026年1月1日に施行された中小受託取引適正化法(通称「取適法」)が関わる場面があります*1。改正前の題名は下請代金支払遅延等防止法で、現行の正式な題名は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(昭和31年法律第120号)です*4

取適法が禁じる「協議に応じない一方的な代金決定」と「買いたたき」

公正取引委員会「取適法リーフレットNo.01」(令和7年8月)は、禁止項目の一つを次のように挙げています*1。「中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に代金を決定すること」*1

同リーフレットはあわせて、「発注する物品・役務等に通常支払われる対価に比べ著しく低い代金を不当に定めること」を「買いたたき」として禁止項目に挙げています*1。改定の協議を申し入れられた側が、これらに当たらない対応を取れるようにしておく必要があります。

自社の取引が取適法の対象かを確かめる

取適法の適用対象取引は、製造委託・修理委託・特定運送委託・情報成果物作成委託・役務提供委託の5類型として挙げられています*1。適用基準には、従来の資本金基準に加えて従業員基準(300人・100人)が追加されました*1

対象取引の類型 概要
製造委託 物品の製造を他社に委託する取引
修理委託 物品の修理を他社に委託する取引
特定運送委託 製造等の目的物の引渡しに必要な運送を他社に委託する取引
情報成果物作成委託 プログラムや設計図などの作成を他社に委託する取引
役務提供委託 役務の提供を他社に委託する取引(プログラム作成・運送・物品の倉庫における保管・情報処理とそれ以外で適用基準の区分が異なる)

この5類型には、単純な商品の売買が名称として含まれていません。ただし「自社の取引は対象外である」と断定することはできません。自社の取引がどの類型に当たるかは、取引の実態に即して個別に確認する必要があります。自社の取引にPB(プライベートブランド)商品の受託生産のような製造の委託が含まれる場合は、製造委託に当たることも考えられます。

委託事業者に課される4つの義務と11の遵守事項

取適法では、委託事業者(発注側)に4つの義務と11の遵守事項が課されています*1。掛率・仕切価格の決定や改定の場面でも、この義務・遵守事項の範囲に自社の取引が含まれるかどうかを踏まえて対応する必要があります。個別の判定に迷う場合は、専門家や公正取引委員会の相談窓口へ確認することをおすすめします。

決めた掛率を運用に乗せる最低要件――マスタ管理と承認フロー

逆算した掛率も、根拠を示せる差も、運用に乗せられなければ現場では使われません。最後に、決めた掛率を運用する側の最低要件を整理します。

掛率マスタに持たせる項目

掛率マスタには、少なくとも適用開始日・根拠・承認者・版の4項目を持たせる必要があります。この4項目があれば、後から「いつから」「なぜ」「誰の承認で」その掛率になったかを追跡できます。

例外価格を口頭運用にしない

特定の取引先向けの例外的な掛率は、口頭やメールのやり取りだけで運用しがちです。しかし例外価格も承認フローに載せておかなければ、担当者の異動時に根拠が失われます。承認フローに載せる運用に切り替えることをおすすめします。

実装の方式選定は別途検討する

掛率マスタをシステム上でどう持つか(価格グループと掛率の組み合わせ、個別単価、基幹システム参照、階段価格など)には複数の実装方式があります。方式の比較は、取引先別価格のEC実装と卸売の建値制度のEC移行の各記事で扱います。

掛率マスタに適用開始日・根拠・承認者・版を持たせ、例外価格も承認フローに載せる運用は、表計算ソフトの手作業だけでは版管理が崩れやすくなります。運用に乗せる段階で仕組みが必要になった場合は、無料相談で自社の要件を整理することをおすすめします。

まとめ――掛率は逆算・根拠・手続きの3点で決まる

手順のイメージ
▽ 写真の出典元

本稿では、卸売の仕切価格・掛率の決め方と改定の手順を整理しました。要点を3つに集約すると次の通りです。第一に、掛率は業界相場から選ぶのではなく、必要粗利からの逆算で決めます。第二に、取引先ごとの掛率差には、数量・物流負担・与信条件などの客観的な根拠が必要です。第三に、コスト上昇時の改定は、根拠の整理から協議・書面明示・適用日管理までの手続きを踏み、取適法・独占禁止法の線引きを踏まえて進めます。BtoB EC-COLUMNでは、卸売業のEC化の進め方についても解説しています。


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よくある質問

掛率の相場は業界ごとに決まっているのですか。

出典を確認できる業界別の掛率相場は見当たりません。相場を探すより、必要粗利から自社の掛率を逆算する方法をおすすめします(本文「掛率は相場でなく必要粗利から逆算して決める」参照)。

取引先ごとに掛率を変えても問題ないのですか。

取引先ごとの掛率差そのものは問題になりません。数量・物流負担・与信条件などの客観的な根拠を、適用開始日・承認者とともにマスタへ記録しておく運用が求められます。

コスト上昇分を仕切価格に反映したいが、取引先が協議に応じない場合はどうなりますか。

取適法は、価格協議の求めに応じず一方的に代金を決定することを禁止項目としています*1。対象取引に当たるかどうかは個別の確認が必要なため、専門家や公正取引委員会の相談窓口へ確認することをおすすめします。

上代(希望小売価格)を小売店に守らせてよいのですか。

公正取引委員会の指針は、事業者が流通業者の販売価格を拘束する場合は原則として不公正な取引方法として違法となるとしています*3。一方で、希望小売価格や建値を単なる参考として示す限りは問題とならないとしています*3。詳しい線引きは関連記事で解説しています。

◆監修・編集責任者

小園 将隆

株式会社フライトソリューションズ ECサービス部 マネージャー

BtoB通販のパッケージシステム「EC-Rider B2B Ⅱ」の導入支援をはじめ、製造業、卸売業をはじめとした法人向け通販サイト構築を多数手掛ける。卸売領域の専門知識をもとに、日本の商習慣に固有の課題をパッケージシステムの機能追加によって解決。BtoB流通の販路拡大を支援する。

  1. *1 出典:公正取引委員会「取適法リーフレットNo.01」(令和7年8月)
  2. *2 出典:中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果」(令和8年6月26日公表)
  3. *3 出典:公正取引委員会「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(令和8年7月8日最終改正)
  4. *4 出典:e-Gov法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(昭和31年法律第120号)

画像の出典元

  1. 卸売価格の設定/Photo by Irham Setyaki on Unsplash
  2. 取引先のイメージ/Photo by Patrick Tomasso on Unsplash
  3. 根のイメージ/Photo by Pramod Kumar Sharma on Unsplash
  4. 手順のイメージ/Photo by Kelly Sikkema on Unsplash

◆この記事について

独自調査以外の一次情報は、省庁・公的機関を中心とした信頼性の高い情報源から引用し、出典を明記しています。
年次更新される統計については、引用元の最新版を確認したうえで掲載しています。

※この記事は上記の監修・編集責任者がAIの協力を得て制作しています。

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