◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 卸売業の物流コスト上昇は、運賃相場・法制度・価格転嫁という3つの要因が同時に動いている状態です。
- 対策は「自社だけで着手できる対策」「得意先の合意が要る対策」「投資を伴う対策」の3層で優先順位をつけると進めやすくなります。
- 2026年5月に施行された改正物流効率化法は、特定荷主にCLO選任と中長期計画の提出を義務づけており、社内の合意形成にも使えます。
目次
卸売業の物流コスト上昇とは何か——道路貨物輸送+4.5%の内訳
卸売業の物流コスト上昇とは、運賃・法制度・価格転嫁が同時に動いている状態を指し、単価交渉だけでは吸収しきれません。日本銀行の企業向けサービス価格指数(CSPI、運輸・情報通信等のサービス価格の動向を示す統計)があります。これによると、道路貨物輸送は2026年7月速報で前年比+4.5%です*1。
上がっているのは運賃だけではありません。輸送・保管・荷役の単価が同時に上がり続け、少量多頻度の商流を前提にした従来の配送設計では吸収できなくなった状態です。値上げを受け入れるか交渉するかという二択で消耗する前に、まず「どこが」上がっているかを分解しておく必要があります。
前年比+4.5%——日銀CSPIで見る道路貨物輸送の上昇
日本銀行が2026年8月26日に公表したCSPI2026年7月速報では、道路貨物輸送の指数は112.9(2020年平均=100)で、前年比+4.5%でした*1。総平均の指数は115.1、前年比+3.6%であり、道路貨物輸送は全業種平均よりも上昇幅が大きい品目です*1。
倉庫+2.1%・こん包+2.2%・3PL+1.9%——品目別に見る上昇の内訳
同じCSPIでは、倉庫は指数105.6・前年比+2.1%、こん包は指数108.8・前年比+2.2%でした*1。3PL(サードパーティーロジスティクス、荷主に代わって物流業務を包括的に受託する事業形態)は指数110.9です。前年比は+1.9%で、他の品目に比べて上昇幅が緩やかです*1。輸送そのものの単価上昇が、保管・荷役よりも先行して進んでいることが分かります。
売上高物流コスト比率5.32%——自社の位置を測る物差し
公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)は2025年度物流コスト調査報告書(概要版)を公表しています。有効回答205社の売上高物流コスト比率は、全業種平均で5.32%です*5。卸売業単独の数値は同概要版に記載がないため、全業種平均として引用します。自社の物流コストがこの水準を上回っているかどうかが、対策の緊急度を測る最初の物差しになります。
運賃告示・法改正・価格転嫁——物流コスト上昇の3つの要因
標準的運賃は2024年3月告示で8%引き上げ——荷役の対価も新たに加算
国土交通省は2024年3月22日、新たなトラックの標準的運賃を告示し、運賃水準を8%引き上げるとともに、荷役の対価等を新たに加算しました*4。標準的運賃は法的な強制力を持つものではありませんが、運送事業者が荷主に運賃を提示する際の目安として広く参照されています。この告示以降の改定は確認できていないため、本稿では2024年3月告示の内容を最新版として扱います。
改正物流効率化法が特定荷主にCLO選任と中長期計画の提出を義務づけ
物資の流通の効率化に関する法律(略称:物流総合効率化法)は、令和8年法律第21号による改正を経て、2026年5月20日に施行されました*3。同法第45条は、貨物自動車運送事業者等に運送を行わせた貨物の重量が政令で定める重量以上の第一種荷主等を「特定荷主」として指定すると定めています*3。
特定荷主には、第46条により中長期計画の作成・提出が、第47条により物流統括管理者(CLO、Chief Logistics Officer。荷主の物流業務を統括管理する責任者)の選任が義務づけられました*3。同法第30条は「荷待ち時間等」を荷待ち時間及び荷役等時間と定義しており、運転者の拘束時間の短縮が法の主眼であることが読み取れます*3。
卸売が発注者の取引は54.6%、受注者としては62.9%——集計軸で見え方が変わる
中小企業庁の価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果は、価格転嫁率を発注企業の業種別と受注企業の業種別の二通りで集計しています。卸売業が発注者となる取引の転嫁率は54.6%で、全体の54.2%とほぼ同水準でした*2。これは「卸売業が取引先からの値上げをどこまで受け入れたか」を示す数値です。内訳は原材料費55.7%、エネルギー費47.8%、労務費47.2%で、エネルギー費と労務費はいずれも前回調査(2025年9月)から低下しています*2。一方、卸売業を受注企業の業種別に見た転嫁率は62.9%で、32業種中5位と全体を上回ります*2。自社のコスト上昇を通す側としては、卸売業はむしろ健闘している位置づけです。
| 費用項目 | 卸売業が発注者の取引(2026年3月) | 前回(2025年9月) |
|---|---|---|
| コスト全般 | 54.6% | 54.1% |
| 原材料費 | 55.7% | 55.7% |
| エネルギー費 | 47.8% | 49.4% |
| 労務費 | 47.2% | 48.6% |
出典:中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果」(令和8年6月26日)*2の【発注企業の業種毎に集計】を基に作成。同一調査内の内訳数値であり、他調査との比較は含みません。
同調査では、発注企業の業種別に集計した価格交渉平均点で、トラック運送業が32業種中32位(6.27点)でした*2。この集計は発注者の業種で分類されるため、32位は「運送事業者が発注者となる取引で交渉が最も行われていない」ことを示します。運送事業者が受注者として置かれた状況は別の集計にあたり、受注企業の業種別で見たトラック運送業の転嫁率は36.9%・32業種中31位です*2。運送事業者から見れば転嫁が難しい相手であっても、荷主である卸売業から見れば運賃上昇分の一部が仕入コストに乗ってくる構図です。値上げ要請に対応するかどうかを社内で判断するには、原価データの整理・仕入条件の把握・営業部門との調整など、複数部門にまたがる検討が欠かせません。可視化したコストを自社の数字で確かめるには、無料相談で要件を整理するのが近道です。
出荷データの可視化と発注ロット見直し——自社だけで着手できる対策
着手優先順5点/順位根拠:実施順序の依存関係
- 出荷実績を積載率・出荷頻度・行き先で棚卸しする(自社完結)。
- 発注ロットの最小単位を見直す(自社完結)。
- 受発注をシステム化し、締め時間と出荷波動を平準化する(自社完結)。
- リードタイム・時間指定の緩和を得意先と協議する(得意先合意が必要)。
- 共同配送・輸送網の集約を検討する(投資が必要)。
運賃交渉の前に、まず自社だけで着手できる対策があります。得意先の合意も投資も要らないため、最初の1か月で着手しやすい領域です。
出荷実績を積載率・出荷頻度・行き先で棚卸しする
最初にやるべきことは、出荷実績データの棚卸しです。積載率・出荷頻度・行き先別の出荷件数を可視化すると、どの得意先向けの配送が単価を押し上げているかが見えてきます。この棚卸しをせずに対策リストを実行しても、効果の出所が分からないままになります。
発注ロットの最小単位を見直す——少量多頻度が単価を押し上げる
少量多頻度の出荷は、1件あたりの物流コストを押し上げる要因です。発注ロットの最小単位を引き上げられる商品群を洗い出し、まとめ出荷に切り替えられる余地を探ります。取引条件そのものを変えない範囲で、社内の受発注ルールだけを見直せる部分です。
受発注をシステム化し、締め時間と出荷波動を平準化する
電話・FAX・メールでの受注を続ける場合、締め時間の徹底や出荷波動の平準化を人手の運用でカバーする必要があり、繁忙期ほど負荷が集中します。受発注をシステム化すると、締め時間や発注ロットの下限をシステム側の設定として運用に落とし込める点が実務上の利点です。得意先別の最低発注金額を設定できる仕組みも、まとめ出荷の前提を整えるうえで役立ちます。
リードタイム緩和と時間指定見直し——得意先の合意が要る対策
翌日必着を外せる商品群を見分ける
すべての商品を翌日必着で運ぶ必要はありません。在庫回転率や欠品時の代替性を基準に、リードタイムを緩和できる商品群を洗い出すと、まとめ出荷の対象を広げられます。得意先にとって必着が必須でない商品から交渉を始めると、合意を得やすくなります。
時間指定・付帯作業を見直す——荷待ち時間等は法律上の定義がある
時間指定配送や検品・棚入れといった付帯作業は、運転者の拘束時間を延ばす要因です。物流総合効率化法第30条は、これらを「荷待ち時間」「荷役等時間」として明確に定義しています*3。法律上の定義がある概念だと示すことで、得意先との協議を感覚論ではなく制度の言葉で進められます。
値上げ要請への向き合い方——発注者として54.6%、受注者として62.9%という現在地
運送事業者からの値上げ要請をすべて受け入れるべきか、それとも交渉すべきか、判断に迷う場面は少なくありません。中小企業庁の調査では、卸売業が発注者となる取引の価格転嫁率は54.6%で全体(54.2%)とほぼ同水準、受注者として自社のコスト上昇を転嫁できた割合は62.9%で32業種中5位でした*2。卸売業は「値上げを受け入れる側」としても「値上げを通す側」としても中位以上にあり、一方的に不利な立場とは限りません。とはいえ、得意先との合意を得ずに納品条件を変更すると、発注量の減少や取引解消につながるおそれがあります。実際に「コストが上昇したが、発注企業から申し入れがなく、発注減少や取引停止を恐れて交渉を申し出なかった」と回答した企業は5.0%です(2026年3月・価格交渉不要の回答を含む分布)*2。値上げを一方的に拒むのではなく、自社側の設計変更とセットで交渉することが現実的な進め方です。
共同配送と保管費見直し——投資を伴う対策
共同配送・輸送網の集約
自社完結の対策と得意先合意の対策をやり切ってもなお物流コスト比率が高い場合、共同配送や輸送網の集約が選択肢になります。他社との共同配送は積載率を上げる効果が期待できますが、パートナー選定や配送ルートの調整に時間を要します。
倉庫・在庫の再配置と保管費の考え方
倉庫拠点の再配置や在庫の集約は、保管費と輸送費のバランスを見直す打ち手です。拠点を集約すれば保管費は下がりやすい一方、配送距離が延びて輸送費が上がる場合があるため、両方を合わせて試算する必要があります。
第1層・第2層をやり切ってから第3層へ進める
投資を伴う対策は効果が大きい半面、意思決定に時間がかかります。出荷データの可視化や発注ロットの見直しといった自社完結の対策を先に済ませておくと、投資判断の材料となる数字がそろい、社内稟議も進めやすくなります。
CLO選任と中長期計画——法対応を社内合意の梃子にする
自社は特定荷主に当たるか——政令で定める重量が判定基準
物流総合効率化法第45条は、特定荷主の指定要件を定めています*3。対象は、貨物自動車運送事業者等に運送を行わせた貨物の年度合計重量が、政令で定める重量(基準重量)以上の第一種荷主等です。基準重量の具体的な数値や該当社数は一次情報で確認できていないため、本稿では「政令で定める重量以上」という条文の表現にとどめます。自社が該当するかどうかは、荷主事業所管大臣からの指定の有無で確認するのが確実です。
CLO選任・中長期計画の提出は社内を動かす根拠になる
特定荷主に指定されると、第46条により中長期計画の作成・提出が、第47条によりCLOの選任が義務になります*3。中長期計画の作成には、物流部門だけでなく法務・経営企画・現場の出荷担当者が連携する必要があります。主務省令で定める記載事項を踏まえて計画を作るため、社内の複数部門を巻き込む体制づくりが欠かせません。この義務化は、社内で後回しにされがちな物流投資の議論を前に進める根拠として使える面があります。
罰則は百万円以下の罰金——義務の重さを測る目安
同法第75条は、CLO選任義務(第47条第1項)等に違反した場合、違反行為をした者を百万円以下の罰金に処すると定めています*3。罰則の水準自体は義務の重さを測る一つの目安にすぎませんが、特定荷主に指定された場合は法的な義務として扱う必要があります。
0〜30日・31〜60日・61〜90日——90日で進める実行ステップ
対策は、いきなり得意先との交渉から始めるのではなく、現状把握から段階的に進めると合意を得やすくなります。
- 0〜30日:出荷データと物流費の科目を分解し、積載率・出荷頻度・行き先別の実態を把握します。
- 31〜60日:発注ロットの最小単位と受発注の締め時間を見直し、自社側の設計を変更します。
- 61〜90日:把握したデータをもとに、リードタイムや時間指定の緩和を得意先と協議し、必要であれば投資判断に進みます。
まとめ:卸売業が物流コスト上昇に対策する3つの判断軸
本稿では、卸売業の物流コスト上昇の背景と対策を、一次情報にもとづいて整理しました。要点を3つに集約すると次の通りです。第一に、道路貨物輸送の価格指数は2026年7月速報で前年比+4.5%と上昇が続いています*1。第二に、対策は自社完結・得意先合意・投資という3層で順序立てて進めると着手しやすくなります。第三に、2026年5月に施行された改正物流効率化法は特定荷主にCLO選任と中長期計画の提出を義務づけており、社内の合意形成を進める根拠です*3。
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
よくある質問
物流コストの上昇はいつまで続きますか。
明確な終了時期は一次情報からは確認できません。日本銀行のCSPIでは道路貨物輸送の前年比が2026年6月・7月ともに+4.5%と高止まりしており*1、直近の指数の動きを継続的に確認することが実務上の対応になります。
運賃の値上げ要請は断ってよいのですか。
一律に断るべきとも受け入れるべきとも言えません。中小企業庁の調査では、価格交渉が行われた割合は90.7%まで浸透しています*2。それでも交渉できなかった企業は残っており、自社の原価データを整理したうえで個別に判断する必要があります。
売上高物流コスト比率は何%が目安ですか。
JILSの2025年度調査では、全業種平均の売上高物流コスト比率は5.32%です*5。卸売業単独の数値は同概要版に記載がないため、全業種平均を目安として自社の比率と比較する使い方になります。
中小の卸売業でも改正物流効率化法の対象になりますか。
荷主全般に対する努力義務・判断基準への対応と、特定荷主のみに課されるCLO選任・中長期計画の義務は区別されます*3。特定荷主に該当するかは、貨物の年度合計重量が政令で定める基準重量以上かどうかで判定されます*3。
何から着手するのが現実的ですか。
最初の1か月で着手しやすいのは、出荷実績を積載率・出荷頻度・行き先で棚卸しすることです。得意先の合意も投資も不要なため、対策の優先順位づけの土台になります。
- *1 出典:日本銀行調査統計局「企業向けサービス価格指数(2026年7月速報)」(2026年8月26日公表)
- *2 出典:中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果」(令和8年6月26日)
- *3 出典:e-Gov法令検索「物資の流通の効率化に関する法律」(2026年5月20日施行版・令和8年法律第21号による改正)
- *4 出典:国土交通省「新たなトラックの標準的運賃を告示しました」(令和6年3月22日)
- *5 出典:公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会「2025年度物流コスト調査報告書(概要版)」(2026年4月30日公表)
画像の出典元
- 物流コストと配送センター/Photo by CHUTTERSNAP on Unsplash
- 物流のイメージ/Photo by Homa Appliances on Unsplash
- 出荷のイメージ/Photo by Roger Starnes Sr on Unsplash
- 発注のイメージ/Photo by Masjid MABA on Unsplash