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卸売の取引条件見直し|交渉の進め方と法の線引き

◆監修・編集責任者 小園 将隆 

B2B EC-COLUMN

この記事のポイント

  • 取引条件の見直しは、価格・支払・その他条件の三層に分けて棚卸すところから始まります。
  • 自社の取引が取適法の対象取引か、単純な売買として独占禁止法で見るべきかを先に判定します。
  • 根拠資料を添えて自ら希望する条件を提示し、協議の記録を双方で残すところまでが申し入れの手順です。
取適法のイメージ
▽ 写真の出典元

卸売の取引条件見直しとは

卸売における取引条件の見直しとは、取引先との間で継続して適用してきた価格・支払・その他の条件を、コストや制度の変化に合わせて協議のうえ改定することです。中小企業庁は、受注側の中小企業30万社へ2026年3月時点のフォローアップ調査を実施しました。価格転嫁率は54.2%、「価格交渉が行われた」割合は90.7%でした*1。同庁は全体として改善傾向にあるとしつつ、まだ道半ばという評価を示しています*1

価格・支払・その他—取引条件は3つの層に分かれる

取引条件と聞くと単価や掛率を思い浮かべがちですが、条件はそれだけではありません。支払手段・支払期日、返品や物流費の負担、協賛金や従業員派遣といった項目も、すべて取引条件の一部です*3

価格が動かない場合でも、支払サイトの短縮や返品条件の見直しが実現すれば、実質的な負担は変わります。三層のどこに手をつけるかを最初に決めておくと、交渉の焦点がぶれません。

いま見直しが動いている背景—転嫁率54.2%の意味

同調査の回答企業数は69,625社で、調査期間は2026年4月20日から6月3日までです*1。コスト要素別では、原材料費55.7%、労務費50.0%、エネルギーコスト48.9%まで転嫁が進んでいます*1

交渉のテーブルにはほぼ全員が着いている状況です。そのため、差がつくのは何を根拠に、どの条件を出すかという実務の精度になります。

卸売業は「納入業者」と「発注者」の両方の顔を持つ

卸売業者は、仕入先に対しては条件の見直しを求める立場になり、販売先に対しては条件を示す立場にもなります。どちら側で読むかによって、使える根拠が変わってくる点に注意が必要です*2*3

取適法か独禁法か—交渉前に確認する土俵

図
取引の内容によって適用される法律が変わる

取適法(2026年1月1日施行)の対象取引

中小受託取引適正化法(取適法、旧・下請代金支払遅延等防止法)は2026年1月1日に施行されました*2。対象取引は製造委託・修理委託・特定運送委託・情報成果物作成委託・役務提供委託です。適用基準には従来の資本金基準に加え、従業員基準(300人・100人)が追加されています*2

委託事業者には4つの義務と11の遵守事項が課されます。支払期日は受領日から起算して60日以内のできる限り短い期間とすることが義務であり、違反時の遅延利息は年率14.6%です*2。11の遵守事項の11番目には「協議に応じない一方的な代金決定」の禁止が明記されています*2

単純な売買は独占禁止法で見る

取適法の対象取引には、単純な売買(仕入れて売る取引)は列挙されていません*2。この場合の根拠は、独占禁止法第2条第9項第5号ハです。同号ハは、取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定・変更・実施することを、優越的地位の濫用の対象に含めています*3

「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(改正 令和8年6月17日)は、取引の対価の一方的決定に関する想定例を示しています。労務費・原材料費・エネルギーコスト等の上昇で相手方のコストが大幅に増加したとします。相手方が資料に基づき単価引上げの協議を求めたにもかかわらず、理由の説明や根拠資料の提供をすることなく従前の単価を一方的に定める行為が、その一例です*3

大規模小売業者への納入は運用基準も確認する

納入先が大規模小売業者にあたる場合は、「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法」の運用基準も対象になります。この運用基準は、あらかじめ合意された取引条件を事後的に変更する行為などを問題視しています*6

項目 取適法(中小受託取引適正化法) 独占禁止法(優越的地位の濫用)
適用対象 製造委託・修理委託・特定運送委託・情報成果物作成委託・役務提供委託*2 単純な売買を含む取引全般*3
根拠条項 取適法の4義務・11の遵守事項*2 独占禁止法第2条第9項第5号ハ*3
禁止行為の書かれ方 「協議に応じない一方的な代金決定」を遵守事項として明記*2 「取引の対価の一方的決定」の想定例として具体的な状況を例示*3
申告先 公正取引委員会・事業所管省庁*2 公正取引委員会*3

価格・支払・その他—見直す条件を三層で棚卸す

卸売のイメージ
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価格の層—コスト要素別の反映状況まで見る

単価・掛率・改定サイクルに加えて、原材料費・労務費・エネルギーコストといったコスト要素別の反映状況を確認します*1。掛率の決め方そのものは別テーマになるため、本記事では棚卸しの対象としてのみ扱います。

支払の層—現金のみ87.5%・支払期日60日超6.6%

支払手段は「現金のみ」とする回答が87.5%まで増加した一方、支払期日が60日を超過している企業が6.6%残っています*1。取適法では手形払等が禁止されています*2。銀行界も自主行動計画で2026年度末までに電子交換所における交換枚数をゼロにし、2027年度初から交換自体を廃止する方針です*5。同計画によると、2025年の交換枚数は年間約1,416万枚(手形670万枚、小切手746万枚)でした*7。これを2027年3月末にゼロにするため、月次の目標交換枚数が設定されています*7。支払手段の見直しには、この期限を踏まえた準備が必要です。

その他の層—返品・物流費・協賛金も取引条件

返品条件、物流費やセンターフィーの負担、協賛金等の負担、従業員等の派遣、無償の役務提供も取引条件です*3。これらは価格が動かなくても、負担の所在が変われば実質的な条件改定になります。

確認項目 根拠となる資料
価格 単価・掛率・改定サイクル・コスト要素別の反映状況 原材料費・労務費・エネルギーコストの伝票・見積の推移
支払 支払手段・支払期日・手数料負担 取引基本契約書・支払条件の記録
その他 返品・物流費・協賛金・従業員派遣・情報提供 個別合意書・覚書・請求実績

発注者リストとコスト要素で相手を調べる

発注者リストで取引先の評価を確認する

中小企業庁は、発注者ごとの価格交渉・価格転嫁・支払条件の評価を「発注者リスト」として公表しています。掲載ページは2026年8月4日に更新されました*1。交渉に入る前に、相手方がどのような評価を受けているかを確認できる状態が整っています。個別の発注者名を本記事では挙げませんが、リストで自社の取引先を確認する使い方ができます。

業種・地域による転嫁率の差

調査では、上位の都道府県と下位の都道府県で価格転嫁率に20%以上の差が生じています*1。自社の業種・地域が全国平均に対してどの位置にあるかを把握しておくと、交渉の切り出し方の判断材料になります。

取引階層が深いほど転嫁率が低い傾向

調査では、受注企業の取引階層が深くなるにつれて価格転嫁の割合が低くなる傾向が引き続き示されています*1。ただし1次請けの企業と4次請け以上の企業の転嫁率の差は縮小しました*1。自社が何次の取引に位置しているかも、根拠資料を組み立てるうえで確認しておく価値があります。

ここまでの棚卸しと相手方の状況把握を自社の数字で確かめるには、無料相談で要件を整理するのが近道です。

申し入れの6ステップ—根拠資料から記録まで

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▽ 写真の出典元
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申し入れから記録までの6ステップ

労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針(令和5年11月29日策定、令和7年12月改正)があります。発注者・受注者双方が採るべき行動を12項目にまとめた指針です*4。このうち受注者側の行動を軸に、申し入れの手順を6ステップに整理します。

取引条件見直しの申し入れ手順6ステップ/順位根拠:手順(実施順序)

  1. 見直す条件を三層で特定します。価格・支払・その他条件のどこを改定したいのかを先に決めます。
  2. 根拠資料を揃えます。指針は「根拠とする資料」を受注者の行動として明記しており、発注者側にも公表資料での説明を求めています*4
  3. タイミングを合わせます。価格改定は4月・10月に行う企業が比較的多く、その前月にあたる3月・9月が価格交渉促進月間です*1
  4. 自ら希望する条件を先に提示します。指針は、発注者から価格を提示されるのを待たずに自ら希望する額を提示することを受注者の行動として挙げています*4
  5. 協議の場を求め、説明を受けます。協議に応じない一方的な代金決定は取適法の禁止事項です*2。資料に基づく協議の求めを無視して据え置くことは、優越的地位の濫用の想定例として示されています*3
  6. 交渉記録を作成し、双方で保管します。指針は「交渉記録の作成、交渉記録の双方での保管」を発注者・受注者双方の行動として求めています*4

折り合わない場合の窓口

価格交渉が行われたものの、コスト上昇分の全額の転嫁に至らなかった企業のうち、発注企業から「納得できる説明があった」と回答した企業は約6割でした*1。裏を返せば、説明に納得できていない企業も残っています。指針は受注者の行動として「相談窓口の活用」も挙げています*4。取適法では、報復措置が禁止されるとともに、違反情報の提供先に事業所管省庁が加わりました*2。窓口があること自体が、申し入れをためらう理由を減らす材料になります。

根拠資料に基づく協議の求めを説明なく無視することは、優越的地位の濫用の想定例に含まれます*3。一方、記録を残さないまま口頭で交渉を終えると、後日の確認材料が残りません。指針が交渉記録の双方保管を求めているのは、この点への対応と考えられます*4

合意した条件をシステムに落とす

取引先別の条件をどこに持つか

取引先ごとの掛率・支払サイト・返品条件がシステム外の表計算や個人の記憶に散っていると、改定のたびに転記の抜けや問い合わせが発生します。取引条件をマスタとして持ち、適用日つきで改定履歴を残せる状態にしておくことが、見直しを継続的な運用に落とし込む前提になります。

改定は適用日つきの履歴で引ける状態にする

指針が求める交渉記録の作成・保管*4は、システム側では「いつから、どの条件に、誰との合意で変わったか」を引ける状態として実装する話に置き換えられます。条件をシステムに持つには、価格・支払・返品などの区分を横断して確認できる購買・経理・法務の連携も欠かせません。契約条項が独占禁止法の対象になるかどうかの判断には、法務担当者の確認が必要です。

支払手段の切り替えに伴う締め・請求の見直し

紙の手形は2026年度末までに電子交換所での交換枚数がゼロとなり、2027年度初からは交換自体が廃止されます*5。支払手段を切り替える場合、締め処理や請求書の運用も合わせて見直す必要があります。この部分は締め・請求の突合という別テーマになるため、本記事では課題の所在を示すにとどめます。

まとめ—取引条件見直しの3つの判断軸

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本稿では、卸売の取引条件見直しを「土俵の判定」「三層の棚卸し」「申し入れの手順」の3つに整理しました。第一に、自社の取引が取適法の対象取引か、単純な売買として独占禁止法で見るべきかを先に確定します*2*3。第二に、価格・支払・その他条件を三層で棚卸し、根拠資料を伴う項目から優先順位をつけます。第三に、根拠資料を添えて自ら希望する条件を提示し、協議の記録を双方で残すところまでを一連の手順として実行します*4



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よくある質問

取引条件の見直しを申し入れると、取引を切られませんか。

取適法では報復措置が禁止事項に挙げられており、違反情報の提供先には事業所管省庁が加わりました*2。制度上は申し入れを理由とした不利益な取り扱いが禁止されています。ただし個別の対応は取引の実情により異なるため、最終的な判断は弁護士や所管窓口に確認することをおすすめします。

当社は仕入れて売るだけですが、取適法は関係しますか。

取適法の対象取引に列挙されているのは、製造委託・修理委託・特定運送委託・情報成果物作成委託・役務提供委託です*2。単純な売買はこの列挙に含まれないため、独占禁止法第2条第9項第5号ハの優越的地位の濫用として見ることになります*3

支払サイトは何日以内にすべきですか。

取適法の対象取引では、受領日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定めることが義務とされています*2。単純な売買の場合は取適法の直接の義務対象ではありませんが、支払期日の考え方は交渉時の参考になります。

手形での支払いはいつまで受けられますか。

取適法の対象取引では手形払等がすでに禁止されています*2。銀行界の自主行動計画では、2026年度末までに電子交換所での交換枚数をゼロにし、2027年度初から交換自体を廃止する方針が示されています*5

交渉のタイミングはいつがよいですか。

価格改定は4月・10月に行う企業が比較的多く、その前月にあたる3月・9月が価格交渉促進月間とされています*1。指針も、値上げ要請のタイミングを受注者側の行動として挙げています*4

◆監修・編集責任者

小園 将隆

株式会社フライトソリューションズ ECサービス部 マネージャー

BtoB通販のパッケージシステム「EC-Rider B2B Ⅱ」の導入支援をはじめ、製造業、卸売業をはじめとした法人向け通販サイト構築を多数手掛ける。卸売領域の専門知識をもとに、日本の商習慣に固有の課題をパッケージシステムの機能追加によって解決。BtoB流通の販路拡大を支援する。

  1. *1 出典:経済産業省・中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査の結果」(2026年6月26日公表)/中小企業庁「価格交渉促進月間フォローアップ調査」(2026年8月4日更新)
  2. *2 出典:公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)リーフレットNo.01」(令和7年8月)
  3. *3 出典:公正取引委員会「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(改正 令和8年6月17日)
  4. *4 出典:内閣官房・公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針の改正について」(令和5年11月29日策定/令和7年12月改正)
  5. *5 出典:金融庁「手形・小切手機能の全面的な電子化について」(令和8年3月31日、令和8年7月24日更新)
  6. *6 出典:公正取引委員会「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法の運用基準」(平成17年6月29日事務総長通達第9号、改正 平成23年6月23日)
  7. *7 出典:手形・小切手機能の「全面的な電子化」に関する検討会(事務局:一般社団法人全国銀行協会)「手形・小切手機能の全面的な電子化に向けた自主行動計画」(2021年7月19日制定/直近改定 2026年3月27日)

画像の出典元

  1. 取適法のイメージ/Photo by 2H Media on Unsplash
  2. 卸売のイメージ/Photo by Alberto Rodríguez on Unsplash
  3. 発注のイメージ/Photo by Jesus Hilario H. on Unsplash
  4. 根のイメージ/Photo by Ana Jovanovski on Unsplash

◆この記事について

独自調査以外の一次情報は、省庁・公的機関を中心とした信頼性の高い情報源から引用し、出典を明記しています。
年次更新される統計については、引用元の最新版を確認したうえで掲載しています。

※この記事は上記の監修・編集責任者がAIの協力を得て制作しています。

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