◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 掛け率は取引先別に1件ずつ持つだけでなく、掛率グループ・商品区分・数量帯と例外の上書きを組み合わせて持てる
- 個別管理をやめる件数の目安はなく、改定の負担・一覧の外の例外・請求での単価差という兆候で判断する
- 複数の設定が重なったときの適用の順序や階層の引き継ぎはシステムごとに違うため、書面で確かめる
- 改定は適用時期付きで登録して旧単価を履歴に残し、発注残の扱いを決めたうえで最初の請求で照合する
- 移行は5観点で1行1価格に棚卸しし、金額の一致だけでなく取引先×品目の単価を新旧で直接照合する
目次

掛け率の一覧が膨らんだとき、まず何を確かめるか
取引先ごとに掛け率を決めてきた結果、一覧が膨らんでいく。
受注や請求のたびに「この取引先のこの商品はいくらだったか」を見に行き、定価改定のたびに全件を開き直す負担も重くなります。
掛け率は、取引先別に1件ずつ持つ方法だけではありません。
掛率グループ・商品区分・数量帯に、例外の上書きを組み合わせて持つ方法があります。
何件で限界という目安は見当たらないため、改定の負担、一覧の外にある例外の多さ、請求での単価差といった兆候で見直します。
そのうえで、適用時期付きの登録と履歴、例外の記録、新旧の照合によって更新漏れを防ぎます。
掛け率の定義と「6掛け」「6割引き」の違い
掛け率は、商品の小売価格(上代)に対して卸価格が占める割合です6。
卸価格は上代に掛け率を乗じて求め、上代12,000円の商品を6掛けで出せば7,200円になります6。
取引先別の一覧に並んでいる「0.7」「65」といった数字は、本来この掛ける率を表しているはずです。
ところが、一覧が膨らむうちに、この前提が崩れていることがあります。
6掛けと6割引きは別物で、上代10,000円の商品なら6掛けは6,000円、6割引きは4,000円です6。
ある取引先の行には掛ける率が入り、別の行には割り引く率が入っていると、同じ「0.6」が2,000円違う卸価格を指してしまいます。
件数が少ないうちは、登録した担当者がどちらの意味で書いたかを覚えているので問題になりにくいものです。
しかし担当の交代や取引先の追加が重なると、欄の意味が人の記憶にしか残っていない状態になります。
取引先ごとに、掛け率と割引率のどちらで持つかを選んで登録できるシステムの例もあります6。
どちらの形でも運用はできますが、一覧の上で両者の区別がつかないことが問題です。
見直しの最初の作業として、各行が掛ける率なのか割り引く率なのかを列で明示し、混在している行を洗い出しておきます。
そうしておけば、以降の整理で数字を読み違えずに済みます。
同じ商品に複数の卸価格がある理由
同じ商品でも、取引先や取引条件によって掛け率は異なります。
1つの商品に複数の卸価格を設定して管理することも一般的だと解説されています6。
つまり「誰にいくらで出しているか」は取引先だけでは決まらず、取引先と商品と条件の組み合わせで決まります。
取引先ごとに1つの掛け率を書いた一覧で困るのは、この組み合わせのうち一覧に載らない部分です。
たとえば、一覧では全商品7掛けとなっている取引先に、特定の商品だけ以前の商談で6.5掛けを約束していたとします。
その約束が見積書やメールにしか残っていなければ、受注を入力する担当者は一覧どおり7掛けで単価を入れます。
そして請求書を受け取った取引先が自社の控えと照合したときに、初めて食い違いが表に出ます。
一覧そのものは正しくても、一覧の外にある決まりが答えを変えてしまう状態です。
一覧に自信が持てないと感じたら、行の数を数えるより先に、一覧の外にある価格の決まりがどこに散らばっているかを確かめるほうが、状況をつかみやすくなります。
見積書、商談メモ、受注画面での手修正など、単価が書き換わりうる場所を挙げていくと、管理の単位をどう変えるべきかの手掛かりも見えてきます。
端数処理を取引先と決めておく
もう一つ、件数が増えるほど影響が大きくなるのが端数です。
上代に掛け率をかけると1円未満の端数が出ることがあり、切り捨て・四捨五入・切り上げのどれにするかを取引先とあらかじめ決めておく必要があります6。
たとえば上代1,238円の商品を6掛けにすると742.8円です。
切り捨てなら742円、四捨五入や切り上げなら743円になります。
1個あたり1円の差でも、数量の多い注文や月の請求の合計では、照合に手間がかかる差になります。
取引先ごとに処理が違えば、どの行がどの規則なのかも覚えておく対象に加わります。
端数の扱いを掛け率と同じ行に記録しておけば、請求で差が出たときに、率の誤りなのか端数の規則の違いなのかをすぐに切り分けられます。
ここまでを確かめると、困りごとの中心は件数の多さそのものではありません。
価格の決まりがどの単位で、どこに持たれているかにあると見えてきます。
次は、その単位をどう選ぶかです。
掛け率は取引先別・グループ別・商品区分別・数量別のどの単位で持つか
資料に出てくる管理単位の比較表
掛け率を持つ単位は、取引先ごとの1件ずつに限りません。
卸・商社向けの価格管理の解説では、販売管理システムで「メーカー別」「商品グループ別」「得意先別」「数量別」に異なる掛け率を設定できる仕組みが理想とされています。
納品先ごとの特価の管理が求められる場合もあると述べられています5。
販売管理システムの提供会社の解説には、取引先ごとに掛け率や割引率を設定したうえで、カタログや製品単位で上書きする例が示されています6。
受発注システムの機能説明には、代理店や掛率グループといった商売上の便宜的な商流を管理できるとあります2。
いずれも提供元の異なる解説や仕様の説明で、業界全体の標準を示すものではありません。
それでも、単位を一つに決めるのではなく、束ねる単位と例外の上書きを組み合わせる構成が共通して出てきます。
資料に出てくる単位を同じ観点で並べると、次のようになります。
| 管理単位 | 設定する単位 | 向きやすい条件 | 増えたときの負担 | 例外の扱い |
|---|---|---|---|---|
| 取引先別 | 取引先ごとに1つの掛け率 | 取引先が少なく、商品ごとの条件差が小さい | 取引先が増えるたびに行が増え、改定時は全行を見直す | 商品ごとの差が別の表やメモへ逃げやすい |
| グループ(掛率グループ)別 | 同じ条件の取引先をまとめた単位 | 同じ掛け率で取引する取引先が多い | グループの数と所属の管理が要り、所属替えの漏れが起きうる | グループ内の個社差は上書きで持つ |
| 商品区分別(メーカー別・商品グループ別) | メーカーや商品のまとまりごと | メーカーや商品群ごとに率が違う | 改定がメーカー・商品群単位なら見直す範囲を絞れる | 特定品目だけの特価は製品単位の上書きで持つ |
| 数量別 | 数量帯ごと | まとめ買いで単価が変わる | 帯の区切りが増えるほど境界の確認が要る | 帯に収まらない特別な数量 |
| 例外の上書き(製品単位・納品先の特価) | 特定の取引先×品目 | 一部の取引先・品目だけ条件が違う | 数が増えると、どれがまだ有効か分かりにくくなる | 理由と有効期限を記録して持つ |
向きやすい条件と負担の欄は、資料の仕様をもとにした整理です。
どの単位でミスが何割減るといった実測ではありません。
表から読み取ってほしいのは、どの単位にも「増えたときに新たに管理が必要になるもの」があり、負担は消えるのではなく別の場所へ移るという点です。
取引先別の行が減っても、グループの所属や上書きの有効期限という新しい管理対象が生まれます。
取引先別で足りる場合と、グループ化が要る場合の判断条件
何件を超えたら取引先別の個別管理をやめるべきか、という目安を示した資料は見つかっていません。
取引先の数が同じでも、商品数や改定の回数、条件の違い方で負担は大きく変わります。
件数だけで線を引くと、判断を誤りやすくなります。
代わりに、日々の作業に出ている兆候で判断します。
- 改定の頻度:上代や原価が動くたびに、全取引先の行を一つずつ開いて直している
- 例外の多さ:一覧の外にある特価や手修正が増え、一覧だけでは単価に答えられない
- 誤請求の兆候:請求の照合で単価の差が繰り返し見つかり、原因をたどると登録漏れや反映漏れに行き着く
- 取引先の分かれ方:同じ掛け率で取引している取引先がいくつかの塊になっている
最初の三つは、個別管理の負担が限界に近づいているかを示します。
四つ目は、束ねた場合に効果が出るかを示します。
改定のたびに全行を直していても、取引先ごとに条件が本当にばらばらなら、グループにまとめても行の数はほとんど減りません。
反対に、同じ率の取引先が塊になっているなら、その塊を一つのグループにすれば、改定ではグループの率を一度直すだけで済む形に近づけられます。
ただし、グループ化には所属の管理という別の作業がついてきます。
取引条件が変わった取引先を別のグループへ移し忘れると、一覧の上では正しく見えたまま、古い率で請求が続きます。
グループを細かく分けすぎると、グループの数だけ個別管理をしているのと変わらなくなります。
そのため、まとまりが見えたところから少数のグループで始め、合わない取引先は上書きで持つほうが扱いやすくなります。
例外の上書きと適用順序で確認すべきこと
束ねる単位と上書きを組み合わせると、1件の受注に複数の設定が同時に当てはまる場面が出てきます。
たとえば、ある取引先が掛率グループに属しながら取引先個別の率も持ち、さらに特定商品に上書きがあり、注文数量が数量帯の区切りをまたぐ、という場合です。
このときどの設定が優先されるかは、システムの仕様によって決まります。
一般的な順番として決まったものはありません。
優先順位を推測で運用すると、システムが実際に計算した単価と、担当者が頭の中で想定した単価がずれます。
そして、そのずれに照合の段階で初めて気づくことになります。
導入済みのシステムでも検討中のシステムでも、設定が重なったときにどれが適用されるかをベンダーから書面で回答してもらいます。
そのうえで、実際の取引先・品目の組み合わせで単価を出して確かめておくと、運用中の思い込みを減らせます。
上書きが掛け率で入るのか金額で入るのかも合わせて確かめておくと、改定の影響を読むときに役立ちます。
商流が違う取引先を組織階層で束ねる例
取引先の中に、代理店とその先の販売店、チェーン本部と各店舗のような上下関係があると、束ね方はさらに具体的になります。
EC-Rider B2Bの機能説明では、個店・代理店・チェーン店・暖簾など、バイヤーごとの卸価格や商流を組織階層で設定できるとされています。
あわせて「代理店や掛率グループなど、商売上の便宜的な商流を管理できます」と記載されています2。
同じページには、商品Aを代理店Cには1,100円、代理店Fには1,200円で販売するといった、取引先ごとに価格を変える設定例も示されています2。
ただし、上位の階層に設定した価格が下位の取引先へ引き継がれるのか、掛け率がどう計算されるのかといった適用の規則は、公開ページには書かれていません。
階層で束ねる構成を検討する場合も、引き継ぎの規則は書面で確かめておく事項になります。
階層で束ねるときに混ぜないでおきたいのが、自社が決める卸価格と、取引先が決める販売価格です。
約3,000社の販売店が製品を取り扱っている日東電工CSシステム株式会社の事例を見てみます。
販売加盟店は卸価格にマージンを上乗せして販売するため、同社は卸価格と販売価格を別々に管理し、加盟店が製品ごとに販売価格を決められるようにしています1。
ここでの約3,000社は販売店の数で、掛け率の設定件数を示すものではありません。
それでも、取引先が増えたときに、自社の掛け率の一覧と取引先側の売価を同じ列で扱わないという持ち方の参考になります。
▼ 図の内容を文字で読む
- 束ねる設定
- 掛率グループの率(所属する取引先すべて)
- 取引先別の率(その取引先の品目全体)
- 例外の上書き
- 商品単位の上書き(特定の取引先×品目)
- 数量帯の率(数量の区切りで切り替わる)
- 受注の1行
- 上の設定が同時に当てはまりうる
- どれが適用されるかはベンダーの書面回答で確かめる
件数が増えたときに起きる不具合と、運用・設定での防ぎ方
誤請求・粗利低下はどこから入るか
持ち方を決めても、価格のミスがなくなるわけではありません。
価格のミスは誤請求や粗利低下、取引先との信頼毀損につながると指摘されています。
メーカーの価格改定を反映できず、販売価格が古いまま運用されることも少なくないそうです5。
季節や需要、顧客との関係で変動する掛け率を人の手で管理するのは煩雑で、ミスが起きやすいという解説もあります6。
1件の注文を追うと、ミスの入口が見えてきます。
受注担当が一覧を見て単価を入力し、その単価が請求書に載り、取引先が自社の発注控えと照合する、という流れです。
一覧から受注入力への転記の誤り、一覧に載っていない特価の見落とし、改定やグループ変更の反映漏れは、いずれもこの流れのどこかで入り込みます。
単価が高い側にずれれば、取引先からの問い合わせで気づけます。
しかし安い側にずれた場合は指摘されないまま請求が続き、粗利の低下として後から表に出ます。
誤請求と粗利低下は同じ入口から入り、気づかれ方だけが違うと考えると整理しやすくなります。
原価+利益と上代×掛け率の両方を見る
掛け率だけで卸価格を決めると、利益が残らない場合があります。
そのため、製造原価に利益を乗せた額と、上代に掛け率をかけた額の両方を確認することが勧められています6。
掛け率で出す卸価格は上代に連動します。
原価が上がっても上代を据え置いていれば卸価格は動かず、低い掛け率で取引している取引先ほど、利益の余地が先に薄くなります。
件数が少ないうちは、この取引先は利益が厳しいと担当者が感覚でつかめます。
しかし行が増えると、どの組み合わせが原価を下回りそうかを感覚で追うのは難しくなります。
新しい掛け率や上書きを登録するとき、そして原価が動いたときに、原価+利益の額と上代×掛け率の額を並べて見る手順を決めておきます。
そうすれば、利益の残らない設定に登録の時点で気づけます。
グループで束ねている場合は、グループの率と、そのグループで取引の多い商品の原価を並べるだけでも、確認の範囲を絞れます。
単価マスタの一本化と別担当者の照合
転記によるミスには、転記そのものを減らす仕組みで対処します。
買い手が仕入先へ指定単価を示す運用について、次のような進め方が示されています4。
単価マスタと発注書を一本化して発注書の単価はマスタから引き、登録内容は合意書面と別の人が照合する、というものです。
立場は逆ですが、販売側の掛け率の管理にも置き換えて使える考え方です。
販売側に置き換えると、見積書、受注入力、請求の単価を掛け率のマスタから引き、担当者が一覧を見て手で打たない形にします。
これで減るのは、一覧から各画面への写し間違いと、古い一覧を見て入力してしまう取り違えです。
一方で、マスタに登録された率そのものが誤っていれば、誤りはそのまますべての書類へ広がります。
だからこそ、登録した人とは別の人が、取引先と合意した書面とマスタの内容を突き合わせる工程を残しておく意味があります。
一本化と照合はどちらか一方を選ぶものではなく、転記の誤りと登録の誤りという別々の入口をそれぞれ塞ぐ組み合わせです。
例外発注の記録と、見直しの合図
マスタどおりに出せない注文は、どうしても出てきます。
先ほどの指定単価の運用では、マスタと異なる単価で急ぎ発注するときに理由と承認者を記録するとしています。
そして、例外が積み上がる品目は単価そのものを見直す合図と考える、とされています4。
販売側に置き換えるなら、マスタと違う単価で見積や受注を出すときに、理由と承認者、その単価をいつまで使うかを残しておく運用です。
記録があると、例外はただの手間ではなく、管理の単位が合っていない場所を示す材料に変わります。
同じ商品で同じ理由の例外が何度も出ているなら、その商品には商品単位の上書きが必要なのかもしれません。
同じグループの複数の取引先で例外が続くなら、グループの率そのものが実態とずれている可能性があります。
記録がなければ、例外は手修正として受注画面に埋もれ、冒頭で見た一覧の外の決まりがまた増えていきます。
対象を広げる順番にも注意が要ります。
指定単価の運用の記事によれば、取引先が増えると、合意書面、マスタ登録、改定協議、請求照合がそれぞれ取引先ごとに発生します。
改定を回せる体制がないまま対象を広げると、確認作業がかえって増えるとも述べています4。
同じ記事では、主要な品目に絞って一巡し、差異の件数や協議の負担を見てから対象を広げる進め方が示されています4。
新しい持ち方や照合の手順も、まず取引の多い取引先と品目で一度回してみます。
どこで差が出るか、照合にどれだけ手が掛かるかを見てから広げれば、体制に見合った速さで進められます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 見積・受注・請求の単価をマスタから引く
- マスタと違う単価は理由・承認者・期限を記録
- 例外が積み上がる商品・グループを見つける
- 掛け率・グループ・上書きを見直す
- 合意書面と別の担当者が照合して登録
定価改定・原価変動のとき、全取引先の掛け率を誰がどう見直すか
一括反映とシミュレーション
改定は、ここまでの持ち方と防ぎ方が試される場面です。
価格管理の解説では、価格改定を一括で反映し、事前にシミュレーションできることが重要とされています。
改定対応を誰がどの権限で行えるかを確かめておくことも挙げられています5。
一括反映が効くかどうかは、掛け率をどう持っているかで変わります。
卸価格を上代×掛け率で計算して持っていれば、上代を改定したときに卸価格も追随します。
一方、特価を金額で上書きしている行は、上代が変わっても元の金額のまま残ります。
上代を上げたのに一部の取引先だけ旧価格のまま請求が続く、という反映漏れは、この金額で持った上書きから起きやすくなります。
改定の前に、上書きのうち金額で持っている行を抜き出しておけば、手で見直すべき範囲が分かります。
シミュレーションでは、新しい上代や掛け率を当てたときの取引先別・商品別の卸価格を、改定前と並べて見ます。
前の節で見た原価+利益の額も一緒に並べると、改定後も利益が残らない組み合わせや、値上げ幅が取引先ごとに偏っている箇所が見えてきます。
シミュレーションの機能があるかどうかは製品ごとに違います。
機能がない場合は、改定前後の単価を一覧に書き出して比べることになります。
適用時期付きの登録と旧単価の履歴
改定でいちばん避けたいのは、マスタの率を新しい値で上書きして、古い値が消えてしまうことです。
価格履歴や契約条件を履歴として管理できることの重要性は、価格管理の解説でも指摘されています5。
旧単価が残っていないと、改定日より前の注文に旧単価が正しく使われたかを取引先に聞かれたとき、説明できません。
指定単価の運用の記事では、改定を次の順で行うとしています4。
まず協議と経過を記録し、合意を書面にし、適用時期付きでマスタに登録して旧単価は履歴に残します。
続いて改定前の発注残の扱いを取り決め、適用時期以降の注文を確認し、最初の請求で照合します。
買い手側の手順として書かれたものですが、販売側の改定でも、取引先への申し入れから最初の請求までを同じ順で並べると、どこで何を記録するかが決まります。
適用時期を付けて登録するのは、改定日の前後で注文を正しく分けるためです。
新しい率ですぐに上書きしてしまうと、改定日前の注文を後から修正入力したときにも新しい率が入ってしまいます。
旧の率と新の率を有効期間付きで並べて持っておけば、どの日付の注文にどちらの率が当たるかを後からたどれます。
過去の請求の単価も履歴から説明できます。
改定前の発注残の扱いと最初の請求での照合
改定日より前に受けた注文が、改定日のあとに納品・請求されることがあります。
たとえば、改定日の前週に受注し、納品が改定日の翌週になる注文です。
この注文に旧の率と新の率のどちらを使うかを決めていないと、受注担当は旧、請求担当は新と判断が割れ、取引先からも問い合わせを受けます。
受注日で決めるのか、納品日で決めるのかを改定の合意と一緒に取引先と取り決めておけば、発注残の一件ごとに迷わずに済みます。
最初の請求での照合は、改定がマスタに正しく入ったかを確かめる最初の機会です。
適用時期以降の注文について、取引先×品目ごとに請求の単価を新しい合意と突き合わせます。
改定の対象が多いと全件を一度に見るのは難しいものです。
取引の多い取引先と金額で上書きしている行を優先して見れば、反映漏れの起きやすい場所から確かめられます。
承認者と権限の決め方
改定対応を誰がどの権限で行えるかを確かめておくことは重要とされていますが5、承認の流れそのものは会社ごとに決める部分です。
ここでは、前の節までの防ぎ方を改定に当てはめた実務上の提案として考えます。
まず、マスタに登録する人と、合意書面と照合する人を分けます。
単価マスタの照合で見た考え方を、改定にもそのまま当てはめる形です。
次に、一括反映を実行できる人を限ります。
一括反映は一度の操作で多くの取引先の単価が変わるため、誤った率を反映したときの影響も大きくなります。
誰でも実行できる状態にしておくより、実行する人と、シミュレーションの結果を見て承認する人を決めておくほうが、誤りに気づく機会が増えます。

例外の承認者も決めておきます。
改定の直後は、旧の単価のまま出してほしいという依頼が出やすい時期です。
その場で営業担当が手修正で応じると、例外の記録が残らず、改定したはずの単価が一部の取引先でそのまま使われ続けます。
例外を誰が承認し、いつまで有効とするかを決めておけば、改定がどこまで反映されたかを記録の上で確かめられます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 協議と経過の記録
- 取引先とのやり取りを残す
- 合意の書面化
- 新しい率・単価と適用時期
- 適用時期付きでマスタに登録
- 旧単価は履歴に残す
- 登録者と照合者を分ける
- 改定前の発注残の扱いを取り決め
- 受注日で決めるか納品日で決めるか
- 適用時期以降の注文を確認
- 金額で上書きした行を優先して見る
- 最初の請求で照合
- 取引先×品目で新しい合意と突き合わせる
棚卸しから移行まで:現状の掛け率をどの順で整理するか
5観点で1行1価格に並べ直す
持ち方と改定の手順が見えたら、現状の掛け率を新しい形へ移します。
取引先別単価の移行についての記事では、単価を取引先・品目・数量帯・有効期間・例外の5観点で分け、1行に1つの価格が来るように並べ直す手順が示されています3。
この記事は取引先ごとの指定単価を扱っていますが、掛け率で持つ場合にも使えます。
掛け率と商品単位の上書きを含めて同じ観点で書き出せば、漏れなく洗い出せます。
1行1価格に並べ直すと、取引先ごとの一覧ではまとめて書かれていた条件が分解されます。
たとえば「この取引先は7掛け、ただし商品Xは6.5掛け、一定数量以上はさらに別の率」という書き方は、3行に分かれます。
見積書やメールにしかなかった特価も、例外の列を付けた行として表に出てきます。
冒頭で見た一覧の外の決まりが、ここで初めて一つの表に集まります。
並べ直した表を掛け率で並べ替えると、同じ率で取引している取引先の塊が見えます。
前に挙げたグループ化の判断条件のうち、取引先の分かれ方は、この表があって初めて確かめられます。
例外の列が多い品目は商品単位の上書きの候補、同じ率の塊は掛率グループの候補、というように、表から新しい持ち方の下書きを作れます。
新システムの制約を書面で確認する
棚卸しの表ができたら、新しいシステムの取込項目と1対1で対応させます3。
旧の表の列が新側のどの項目に入るのか、入らない列はないかを1列ずつ確かめる作業です。
新側の制約は、ベンダーから書面で回答を得ることが勧められています3。
口頭での確認だと、移行作業の途中で「できると聞いていた」「その条件では無理」という食い違いが起きても、どちらの理解が正しいかを確かめる手段がありません。
書面で確かめておきたい事項は三つあります。
前の節で見た複数の設定が重なったときの適用の順序、上位の階層に設定した価格が下位へ引き継がれるかの規則、そして取込の件数上限と分割の要否です。
件数上限と分割の要否をベンダーに確かめることは、移行の記事でも挙げられています3。
上限を超える場合は分割して取り込むことになるため、どの単位で分けるかも移行の計画に関わってきます。
対応できない単価の振り分け
1対1で対応させると、新しいシステムではそのまま持てない単価が見つかることがあります。
移行の記事では、対応できない単価を追加開発・運用での吸収・移行対象外のいずれかに振り分けるとしています。
振り分けの基準は、件数、取引額への影響、手作業の負担です3。
毎日の注文の多くに関わる単価は、追加開発を検討する対象とされています3。
振り分けで迷うのは、件数は少ないが取引額が大きい単価や、件数は多いが一件ごとの影響は小さい単価です。
運用で吸収すると決めた単価は、受注のたびに人が判断して手で入力することになります。
これは、先に見た例外の手修正と同じ入口です。
運用で吸収する単価には例外として記録する運用をセットにしておくと、件数が増えたときに追加開発へ切り替える判断材料が残ります。
移行対象外とした単価も、取引先との合意がまだ生きているかを確かめ、終了の扱いを決めてから外します。
そうしておけば、移行後に旧単価での注文が来て慌てずに済みます。
並行稼働での照合と段階移行
切り替えの正しさは、金額が合うかどうかだけでは確かめきれません。
移行の記事では、金額の一致に加えて、取引先×品目の単価を新旧で直接照合するとしています。
数量帯の区切りや期間の初日・最終日も試し、月次締めを2回またいで確認します3。
並行稼働の期間に注文がなかった単価は、金額の一致からは正しさを確かめられないためです3。
掛け率で持つ場合に、とくに試しておきたいのは境界です。
数量帯の区切りちょうどの数量、改定の適用開始日とその前日、グループの率と商品単位の上書きが重なる組み合わせは、計算規則の違いが表に出やすい場所です。
棚卸しの表からこうした境界にあたる行を抜き出し、照合の対象に加えておくと、月次締めで差が出たときに原因を探しやすくなります。
件数が多く例外も多い場合は、取引先のまとまりごとに段階的に移す方法があります。
移すまとまりを小さくすれば、差が出たときに原因を絞りやすくなります。
ただし並行稼働の期間が長くなり、新旧への二重入力が増えます3。
掛率グループで束ねる計画なら、グループを移行のまとまりにすると、グループの率が正しく入ったかをまとめて確かめられます。
一括で移すか段階で移すかは、例外の多さと、二重入力を担える人手との釣り合いで決めることになります。
| 振り分け先 | 向く単価 | 振り分け後に残る作業 |
|---|---|---|
| 追加開発 | 毎日の注文の多くに関わる単価 | 開発内容の合意と取込後の照合 |
| 運用での吸収 | 件数が少なく手作業で回せる単価 | 受注のたびの手入力と例外の記録 |
| 移行対象外 | 合意が終わっている単価や使われていない単価 | 合意の終了の扱いを取引先と決める |
▼ 図の内容を文字で読む
- 追加開発
- 向く単価:毎日の注文の多くに関わる単価
- 残る作業:開発内容の合意と取込後の照合
- 運用での吸収
- 向く単価:件数が少なく手作業で回せる単価
- 残る作業:受注のたびの手入力と例外の記録
- 移行対象外
- 向く単価:合意が終わっている単価や使われていない単価
- 残る作業:合意の終了の扱いを取引先と決める
掛率グループや組織階層でどこまで束ねられるか、設定が重なったときにどれが適用されるかは、自社の取引先の構成とシステムの仕様を突き合わせないと判断しにくいところです。
現状の取引先と掛け率の分かれ方をもとに、組織階層や掛率グループで束ねられる範囲と、書面で確かめておくべき適用の規則を整理できます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 管理の単位 | 取引先別に加え、掛率グループ・商品区分・数量帯と例外の上書きを組み合わせる |
| 見直しの時期 | 件数ではなく、改定の負担・一覧外の例外・請求での単価差で判断する |
| 重なりと階層 | 適用の順序と上位階層からの引き継ぎは、ベンダーの書面回答で確かめる |
| 日々のミス | 単価はマスタから引き、登録内容は別の人が合意書面と照合する |
| 改定 | 適用時期付きで登録して旧単価を履歴に残し、発注残の扱いを取り決める |
| 移行 | 5観点で1行1価格に並べ、単価を新旧で直接照合し、月次締めを2回またぐ |

棚卸しの表を新しいシステムへ移す段階では、取込項目との対応や件数上限、持てない単価の扱いを、仕様を知る相手と一緒に確かめる必要があります。 1行1価格に並べた表をもとに、取込項目との対応、取込の件数上限と分割の要否、追加開発と運用での吸収の分かれ目を確認できます。
よくある質問
掛け率の設定が何件を超えたら、個別管理をやめるべきですか。
件数の目安を示した資料はなく、件数だけでは決まりません。
改定のたびに全行を直している、一覧の外の特価や手修正が増えている、請求の照合で単価の差が繰り返し出る、といった兆候が出ているかを見ます。
そのうえで同じ率の取引先が塊になっているなら、掛率グループと例外の上書きを組み合わせる形へ移すことを検討する時期です。
取引先別の掛け率とグループ別の掛け率が重なったとき、どちらが適用されますか。
どちらが優先されるかに共通の決まりはなく、使っているシステムの仕様によります。
ベンダーに書面で回答を求め、実際の取引先×品目の組み合わせで単価を出して確かめてください。
上書きが掛け率で入るのか金額で入るのかも、あわせて確認しておくと改定時に役立ちます。
掛け率を変えたあと、過去の見積や請求の単価はどう扱いますか。
新しい率で上書きせず、適用時期付きで登録して旧単価を履歴に残します4。
改定日前に受けて改定日後に納品する発注残をどちらの率で扱うかは、受注日基準か納品日基準かを取引先と取り決めておきます。
旧単価が履歴に残っていれば、過去の請求にどの率が使われたかを後から説明できます。
取引先が自ら販売価格を決める場合、卸価格と販売価格をどう分けて持てばよいですか。
日東電工CSシステム株式会社の事例では、販売加盟店が卸価格にマージンを上乗せして販売するため、卸価格と販売価格を別々に管理し、加盟店が製品ごとに販売価格を決められるようにしています1。
自社が決める卸価格と取引先が決める販売価格を同じ欄で持たなければ、改定時にどちらを直すべきかで迷わずに済みます。
買い手側が仕入先ごとの掛け率や指定単価を管理する場合、販売側の運用と何が違いますか。
単価マスタと発注書の一本化、別の人による照合、例外発注の理由と承認者の記録は、もともと買い手側の運用として示されたものです4。
買い手は単価を提示する立場になり、提示すること自体は商談の一部です。
ただし、仕入先が協議を求めたときは応じて理由を説明することが前提で、確認前に自社の計算額で差し引くといった対応は避けるとされています4。
棚卸しで例外単価が多く見つかったとき、どれをシステムで持ち、どれを運用で吸収すればよいですか。
件数、取引額への影響、手作業の負担で、追加開発・運用での吸収・移行対象外に振り分けます。
毎日の注文の多くに関わる単価は追加開発を検討する対象です3。
運用で吸収する単価は、理由と承認者を記録する運用をセットにしておくと、後から追加開発へ切り替えるかどうかを判断しやすくなります。
- 1 出典:株式会社フライトソリューションズ(EC-Rider)「EC-Rider B2B 導入事例(日東電工CSシステム株式会社様)」(事例掲載時点)
- 2 出典:株式会社フライトソリューションズ(EC-Rider)「EC-Rider B2B 販売組織・法人・アカウント管理」(2026年閲覧)
- 3 出典:株式会社フライトソリューションズ(EC-Rider)「取引先別単価(指値)のデータ移行の確認手順」(2026年閲覧)
- 4 出典:株式会社フライトソリューションズ(EC-Rider)「指値発注・取引先別の指定単価と仕入条件の差別化」(2026年閲覧)
- 5 出典:monolyst株式会社「<商社・卸> 価格管理の重要性と、管理システム選定における注意点」(2026年閲覧)
- 6 出典:One’d Technologies, Inc.(DEXTRE)「掛け率とは?計算方法と早見表、卸価格(卸値)・上代・下代との関係」(2026年閲覧)
画像の出典元
- Businesswoman calculates expenses using receipts and calculator at desk. Ideal for finance, accounting themes./Photo by https://kaboompics.com/ on Pexels